刑事拘禁制度改革実現本部の活動経過

刑事拘禁制度改革実現本部の活動経過

1.拘禁二法案の国会提出と拘禁二法案対策本部の設置(1982年~2003年)

1982年に、政府は、自白強要・冤罪の温床との批判も強い代用監獄(警察留置場を監獄として代用することを恒久化しようとするなど、極めて問題の多い「拘禁二法案」(刑事施設法案・留置施設法案及びその関連法案)を国会に提出しました。
これに対し、日弁連は同年、「拘禁二法案対策本部」を設置し、全国の弁護士会などとともに、強力な反対運動を展開しました。その結果、同法案は、三度国会に上程されたものの、1983年、1990年、1993年と、いずれも廃案に追い込まれました。

2003年、拘禁二法案対策本部は、刑事拘禁制度の全面的な改正を求めるため、刑事拘禁制度改革実現本部に体制を改めることとなりました。

 

2.名古屋刑務所事件から、行刑改革会議、受刑者処遇法成立まで(2003年~2005年)

2002年10月、名古屋刑務所において、職員の暴行により受刑者が死傷する事件が相次いで起きていたことが発覚しました。
この事件を契機として、翌2003年3月、法務大臣の下に諮問機関、行刑改革会議が設置され、同年12月22日、icon_pdf.gif行刑改革会議提言~国民に理解され、支えられる刑務所へ~(PDF形式160KB」)がまとめられました。

 

日弁連は、同提言を、日弁連の改革提言がかなりの程度反映されていると、高く評価し(arrow_blue_1.gif「行刑改革会議提言」についての会長声明)、その内容の法案化に尽力しました。

 

その結果、明治以来97年間続いてきた監獄法のうち、受刑者に関する部分を抜本的に改めた「受刑者処遇法」が、2005年5月18日参議院本会議で可決、成立しました。同法は、2006年5月24日に施行されました。

 

この法律は、罪を犯して服役した人たちが、人間としての誇りや自信を取り戻し、再犯に至ることなく健全な状態で社会復帰を遂げるという行刑改革会議の掲げた理念に基づき、刑事施設視察委員会の創設や、受刑者との面会、手紙の発受の拡大、電話による外部交通など、数々の具体的な改革内容を含んでいます。


 

3.刑事被収容者処遇法の成立(2006年)

日弁連は、行刑改革会議提言で触れられなかった、代用監獄の廃止、未決拘禁制度改革、死刑確定者の処遇などについても、行刑改革会議と同様、専門家や国民代表の意見も聞きながら、21世紀にふさわしい、国際人権基準に適合した改革を実現する必要があると考え、法務省・警察庁との三者協議を行うと同時に、審議機関の設置を早くから求め続けていました。しかし、審議機関の設置は大幅に遅れ、2005年12月にようやく「未決拘禁者の処遇等に関する有識者会議」として発足しましたが、死刑確定者の処遇についてはテーマからはずされました。そこでは、代用監獄問題や未決拘禁者の外部交通などについて審議されましたが、わずか2か月足らずの期間で、提言がまとめられました。結局、代用監獄問題をはじめとし、三者の対立が厳しかった多くの点について、問題が先送りされました(arrow_blue_1.gif未決拘禁者の処遇等に関する有識者会議提言)。

 

有識者会議の提言を受けて取りまとめられた刑事被収容者処遇法案(受刑者処遇法の一部改正案)は、代用監獄制度の存続など、多くの問題点を残していたので、日弁連はその修正を求めましたが、与党の賛成多数により、2006年6月2日、原案どおりに参議院本会議で可決・成立しました。

 

刑事被収容者処遇法では、警察留置場を対象とした留置施設視察委員会の設置や、弁護人から未決拘禁者に対する信書の検閲の廃止、拘置所での一般面会の裁量による立会い省略など、従来実務に比べると前進があります。また、法律には規定されませんでしたが、2007年から、未決拘禁者と弁護人等との電話(テレビ電話を含む)を利用した外部交通の試行や、刑事施設等に収容された未決拘禁者と弁護人とのファックスによる連絡が一部地域で開始しました。また、警察署の被留置者と弁護人等との電話による通信についても、一部地域で試行が開始されています。日弁連では、一部地域から全国的かつ本格的な運用となるよう、引き続き、法務省・警察庁と協議を重ねています。


こうして、約100年ぶりの監獄法改正は大きな節目を迎えましたが、日弁連の目指す刑事拘禁制度改革の抜本的改革に向けて、課題は多く残されています。

 

刑事拘禁制度改革実現本部は、これからも、代用監獄の廃止と拘禁制度を国際水準に見合ったものとするため、その改革に向けて、精力的に活動を展開していきます。




4.勾留・保釈制度改革に関する意見書(2007年)

2006年7月26日、法務大臣は法制審議会に対し、「保釈の在り方など」を含む被収容人員の適正化に関す
る諮問をし、同審議会は「被収容者人員適正化方策に関する部会」を設置して、同部会において審議が行われ
ることとなりました。


そこで、日弁連は、いわゆる「人質司法」の実態を解消することなどを目指して、法制審議会等における審議
に対する基本的な考え方を明らかにするため、意見書を取りまとめました。


本意見書の概要は以下のとおりです。
①憲法と国際人権法に依拠した原則論( 規範となるべき無罪推定の原則、身体不拘束の原則、比例原則、最終
手段としての拘禁の原則及び身体拘束の合理性を争う手段の保障の原則) の抽出・指摘( 第1 )
②およそ3分の2の被告人が身体拘束を受けたまま判決を受け、否認すれば保釈は認められず、被疑者は早期
の釈放のために、意に反する供述を強要されている「人質」司法の実態の指摘( 第2 )
③従来からの日弁連の取組経過のまとめ( 第3 )
④われわれが目指すべき改革の中長期的目標の整理( 第4 )




5.刑事被収容者処遇法「5年後見直し」に向けての改革提言(2010年)

刑事被収容者処遇法では、その附則41条に「政府は、施行日から5年以内に、この法律の施行の状況につい
て検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」と規定され
ています。日弁連は、2011年6月の施行5年目を前に、先の法改正で残されていた改革課題や新法の施行
状況を検討して判明した改善すべき事項をまとめ、法務大臣及び警察庁長官に提出しました。


6.刑事施設医療の抜本的改革のための提言(2013年)

法務省は、2012年4月1日現在、刑務所・拘置所等の刑事施設内での医療に携わる医師(矯正医官)が定員(332名)の
8割を切る状態となり、深刻な医師不足により十分な医療を提供できない可能性が否定できないとして、2013年7月に「矯
正医療の在り方に関する有識者検討会」を設置しました。
これに対し、日弁連では、刑事施設内での医療を充実させるためには、抜本的な改革が必要であるという立場から、同2013
年8月22日、「刑事施設医療の抜本的改革のための提言」を取りまとめ、法務大臣・厚生労働大臣に提出しました。


「矯正医療の在り方に関する有識者検討会」は、4回の検討会を開催して、2014年1月21日、「矯正施設の医療の在り方に
関する報告書~国民に理解され、地域社会と共生可能な矯正医療を目指して~」を法務大臣に提出しました。
日弁連では、同日付け、医師不足の解消のための方策が提案されたことを評価しながらも、同報告書が、医師不足の解消策の提
言にとどまり、医療が処遇のための手段として位置付けられ医師の独立性が保障されていないことなど、刑事施設医療が抱える
深刻な問題について、具体的な検討がなされていないことから、先に公表した「刑事施設医療の抜本的改革のための提言」に沿
った施策を求める会長声明を公表しました。


法務省は、「刑事施設医療の抜本的改革のための提言」を踏まえて、2015年3月24日、「矯正医官の兼業及び勤務時間
の特例等に関する法律」(案)を国会に提出しました。
そこで、日弁連は、同年4月9日、同法案に賛同しつつ、刑事施設医療の問題は、医師不足のみにとどまらず、
刑事施設医療の処遇からの独立性の確保や、外部医療機関との連携等、被収容者の患者としての権利の保障な
ど、医療の質の確保も問題であるとの認識から、引き続き、刑事施設医療の抜本的改革のための努力を続ける
ことを求める会長声明を公表しました。