未決拘禁者の処遇等に関する有識者会議提言についての日弁連の意見

2006年(平成18年)2月16日
日本弁護士連合会


(参考)「未決拘禁者の処遇等に関する有識者会議提言」はこちら


本意見書について

第1 提言がまとめられた経緯について

日弁連は、2005年5月の「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」の成立以前から、外部有識者による審議機関の設置を繰り返し求めてきた。しかし、有識者会議が発足したのは同年12月6日であり、わずか2か月足らず、全6回の会議で提言がとりまとめられる事態となった。本来であれば、刑事訴訟法学者から意見聴取し、海外の未決拘禁施設も直接調査するなどして、討議を尽くすべきであった。


第2 代用監獄の存廃について

被疑者の身体拘束が捜査に利用されてはならず、代用監獄は、捜査と拘禁の分離を求める国際人権基準に違反し、国際社会から非難を浴びてきた制度である。


提言は、昭和55(1980)年以降、警察の捜査部門と留置部門が組織上・運用上分離された点などを積極的に評価しているが、警察組織内部の分離では、捜査が留置に優先する実態に変わりはなく、代用監獄での自白強要などの弊害事例は後を絶たない。


1980年、法制審議会は、代用監獄に関するいわゆる漸減条項を全会一致で採択した。その後、死刑確定4事件で出された再審無罪判決は、虚偽自白による冤罪の恐怖と、それを生み出した代用監獄の問題を浮かび上がらせた。国際人権(自由権)規約委員会による2度にわたる代用監獄の廃止を含む改善勧告は、いずれも法制審答申後のことである。提言が、拘置所を増設せずに留置場を増設し続けた現状を無批判的に肯定し、代用監獄の漸減の方向性すら明示しなかったことは極めて遺憾である。


今回の未決拘禁法立法化に際しては、漸減条項を発展させる形で、直ちに、代用監獄の漸減に向けての検討を開始すべきことを宣明すべきである。


第3 未決拘禁者の地位について

未決拘禁者については、無罪推定を受ける者にふさわしい処遇がなされなければならないという国際的な原則が、提言では意見として示されるにとどまっている。


第4 外部交通の在り方について

日弁連が強く求めてきた夜間・休日における接見や、電話(テレビ電話を含む。)・ファックスによる外部交通について、提言が、現行実務を改善する方向を示している点は評価でき、今後の運用が課題である。他方、弁護人と未決拘禁者との秘密交通の一環である信書の不検閲や、接見時における書類等の授受、録音機等の使用については、両論併記にとどまっており、今後、国際水準をみたした外部交通を実現する必要がある。


第5 その他の未決拘禁者の処遇に関して

無罪の推定を受ける未決拘禁者に対しては、基本的には、懲罰が行われるべきでない。とりわけ、現に懲罰が行われていない警察留置場に新たに懲罰を導入することは、代用監獄での自白強要の危険性をさらに高めるものである。提言は、警察留置場での懲罰を否定するものとはなっていないが、日弁連は、警察留置場への懲罰導入には反対である。


冷暖房設備の設置は、現代日本社会において人間が生きていくための最低条件である。提言が、暖房設備については順次拡大していくべき、とした点は評価するが、設備ができても現状のように稼動しなければ意味がなく、最低限度の予算として、実行すべきである。


未決拘禁者への健康保険の適用について、提言は検討を避けている。しかし、これは、適切な医療水準を維持する上で有効であるのみならず、施設の高額な医療費の負担(10割負担)を相当軽減できる効果があり、積極的に検討されるべきであった。


また、未決拘禁者は、収監に伴い解雇されることが多いが、収監のため求職活動ができず、雇用保険の給付が受けられず、拘禁中に申請期間が徒過して受給できない実態がある。出所者に雇用保険の給付がなされれば、余裕をもって求職活動することができ、円滑な社会復帰、ひいては再犯の防止に資する。提言は、この検討も避けており、残念である。


第6 警察の留置場における処遇の在り方等について

1 警察留置場の透明化と不服申立て制度

提言が、留置場についても、刑事施設視察委員会と同様の留置施設視察委員会を設置するよう検討を求めたことは、評価できる。視察委員には、弁護士会推薦の弁護士委員を必ず選任するなど、適切な人選に配慮すべきであり、その旨を法律に明記すべきである。


また、提言が、留置場についても、刑事施設に導入される不服申立て制度と均衡のとれた制度を設けることを検討すべきとしたことは評価できるが、都道府県公安委員会を「第三者機関」として位置づけている点は疑問が残る。公安委員会に対する再審査申請の審理に当たっては、公安委員会とは別の、被拘禁者からの不服申立ての処理に特化した、公安委員会から独立した第三者機関を設置すべきである。


2 防声具の使用

防声具は、2004年に死亡事件も起きた危険な戒具であり、既に拘置所では廃止されている。また、防声具は取調べにおける自白強要のために拷問的に使用されるおそれもある。提言が、防声具の廃止を打ち出さなかった点は遺憾であるが、保護室の早急な整備や、防声具使用状況のビデオ録画、使用は保護室が整備されていない留置場に限るなど、防声具の抑制的な使用を求める多数意見としたことは、それなりに評価される。今後、提言にかかる措置をとった上で、防声具はすみやかに廃止されるべきである。


3 医療

提言が、「留置場における医療に関する責任が都道府県警察にあることを法律上明確化すべきとの指摘もあることから、この点について検討すべきである」とした点は、評価できるが、常勤医師のいない警察留置場の医療体制の整備は依然として大きな課題であるといわざるを得ない。


4 重大事件・否認事件等に係る勾留場所

勾留場所については、裁判官の裁量により決定されるべきものとしているが、重大事件、否認・黙秘事件など自白強要のおそれの高い事件等については、代用監獄の弊害が予想されるため、拘置所への収容を原則とすべきである。勾留場所の決定について裁判官の裁量を羈束することを法律上規定することは、可能であり望ましい。


第7 今後の未決拘禁制度改革の課題について

提言は、今後、代用監獄制度の存廃を含めた検討が必要であることを認めている。すでに、未決段階の身体拘束の在り方、保釈制度の在り方、未決拘禁の代替措置の在り方等に関して、刑事司法手続上の検討作業が法務省内部で始まっている。次なる課題として、代用監獄の存廃や取調べを含む捜査の在り方、過剰拘禁対策、勾留・保釈要件の見直し、起訴前保釈制度の導入、未決拘禁の代替手段の導入など、「刑事手続全体」の総合的改革に直ちに取り組むことを強く求めるものである。


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