2020年国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)に向けた取り組み

 

日弁連は、2020年に京都で開催予定の国連犯罪防止刑事司法会議(Congress on Crime Prevention and Criminal Justice・コングレス)に向け、日本のよりよい刑事司法の実現を目指して活動を行っています。コングレスは、5年に1度開かれる刑事関係では国連で一番大きな会議で、世界中から数千人の刑事司法関係者が集まります。
2016年10月には、「2020年コングレス日本会議対応ワーキンググループ」を会内に発足させ、毎年5月に開催される国連犯罪防止刑事司法委員会(コミッション)にも委員を派遣し、サイドイベントの実施や日弁連の意見を表明するなど、コングレスの日本開催を成功させるための取り組みを行っています。


第1 コングレスとコミッションとは
第2 コングレス・コミッションと日弁連
1 日本の弁護士にとっての重要性
2 コングレス・コミッションで取り上げられているテーマ
3 過去のコングレス・コミッションでの日弁連の活動
4 2020年日本コングレスに向けた活動
5 参考情報

 
  

第1 コングレスとコミッションとは

コングレスは、国連における刑事関係で一番大きな会議で、正式名称は、「国連犯罪防止刑事司法会議」といいます。犯罪防止と刑事司法に関する国連の課題と基準を設定するものとして、1955年から5年ごとに開催されてきました。次回、第14回コングレスは、2020年4月20日から27日まで、日本の京都で開催されます。


なお、日本開催は、1970年の第4回以来50年ぶりです。


コングレスでは、刑事司法に関わる数多くの基準や規範が採択されてきました。その中には、犯罪防止や刑事司法の運営という枠組みの中ではあっても、受刑者の処遇や被疑者・被告人の権利、司法関係者の独立や保護など、人権に関わるものも少なくありません。


他方でコングレスが新たな基準や規範を採択する機能は、1990年の第8回コングレスの後に変化しました。国連機関の組織体制が変わり、新たに「犯罪防止・刑事司法委員会」(Commission on Crime Prevention and Criminal Justice:コミッション)が創設されたのです。


コミッションは、毎年5月頃にウィーンで開かます。それまで、コングレスで行われていた政府間会議として国連の犯罪防止・刑事司法政策の決定はコミッションで行われるようになりました。


その一方でコングレスは、国連の犯罪防止司法プログラムの諮問機関として位置づけられることになりました。第9回以降のコングレスでは、新たな基準や規範が採択されることはなく、第10回コングレスからはすべての課題を網羅した宣言のみが採択されるようになりました。



第2 コングレス・コミッションと日弁連

コングレス・コミッションは、世界の犯罪防止や刑事司法のあり方を世界中の刑事司法関係者が集まって議論するという意味で、日本の弁護士にとっても重要な国連の国際会議です。日弁連は、これまでもコングレスやコミッションに会員を派遣してきました。


コングレスやコミッションで採択される基準や規範、宣言は、日本の刑事司法に影響を与えます。特に、2020年日本でコングレスが開催されることにより、日本の刑事司法は大きく変わる可能性があります。


日弁連は、よりよい刑事司法を実現すべく様々な活動を行っていきます。



1 日本の弁護士にとっての重要性  

コングレスでは、これまで弁護士活動や訴訟で引用されることの多い、重要な国連文書が採択されてきました。「被拘禁者処遇最低基準規則」(第1回)、「司法の独立に関する基本原則」(第7回)、「弁護士の役割に関する基本原則」(第8回)などがその例です。新たな基準や規範の採択がコミッションで行われるようになってからも、コングレスで行われた議論がコミッションでの新しい基準や規範の採択につながっていくことがあります。2015年に採択された新しい「被拘禁者処遇最低基準規則」(マンデラ・ルール)がその例です。
  

他方で、犯罪防止に関する議題は、政府を中心に議論されますが、人々の人権が見過ごされることのないように、弁護士や市民社会が議論に参加してチェック機能を果たしていくことが求められます。
  

コングレス自体は、各国の政府が中心となる会議です。しかし弁護士や市民社会は、①各国の政府代表を通じて、採択される宣言に市民社会の意見を反映させる、②コングレス期間中に多数開催されるイベントを自分たちで、あるいは政府、国連機関や他のNGOとともに準備する、③世界中から集まる刑事司法関係者・専門家と将来に向けたネットワークを作る、という形などで関わることができます。
  

また、コングレスの準備は、コミッションで積み上げられていくので、毎年開催されるコミッションへの関与も重要な活動のひとつです。



2 近年コングレス・コミッションで取り上げられているテーマ

近年のコングレスやコミッションでの議論の状況を踏まえると、取り上げられている課題の内容は次のとおりです。


・ 犯罪防止と司法協力:テロや薬物犯罪への取り組みなどは政府が頻繁に議論しています。日弁連が直接取り組む課題ではないですが、人権の観点からの監視は必要です。


・ 刑事司法分野:代替拘禁や脆弱な人々の処遇、修復的司法、司法アクセスなどが議論されています。特にSDGs(持続可能な開発のための 2030 アジェンダ)の目標16「平等な司法アクセス」は、高い関心の対象となっており、すべての議論において意識されています。逆に、刑事手続や弁護権についての議論は低調です。


・ 行刑制度:拘禁施設の「マンデラ・ルール」の実施については関心が高いです。死刑制度の是非についての議論は、日本政府側からは低調です。


・ 被害者の保護:女性、子ども、高齢者、人身取引などへの関心は高いです。


・ 司法や弁護士の独立:最近はほとんど議論されていませんが、問題は世界中で続いており、国連の「弁護士の役割に関する基本原則」採択30周年に向けて関心を高めたいところです。



3 過去のコングレス・コミッションでの日弁連の活動 

コングレスおよびコミッションは、刑事司法分野の国際的政策形成において重要な役割を果たしているため、日弁連は、長年にわたって代表団をこれらの会議に派遣してきました。


コングレスについては、日弁連は1985年の第7回ミラノ会議から2015年の第13回ドーハ会議まで、継続して毎回代表団を派遣してきました。2010年の第12回サルバドール(ブラジル)会議では、日弁連として、意見書提出、会場スピーチ、サイドイベントの開催などを行い、2015年の第13回ドーハ会議でも、日弁連はサイドイベントを開催しました。


コミッションについても、日弁連は1994年の第3回会議からほぼ毎年、継続して代表団を派遣しています。2017年の第26回コミッションでは、日弁連としてサイドイベントを2本開催するとともに、スピーチを行いました(詳細は下記4)。



4 2020年日本コングレスに向けた活動  

日弁連は、2020年に日本で開催されるコングレスに向けて、日弁連の関連する委員会委員が参加するワーキンググループを2016年10月に設置しました。


(1) 2017年の活動
2017年5月22日から26日まで開催された第26回コミッションに当ワーキンググループから代表団を派遣しました。日弁連代表団は、コングレスに向けての情報収集やネットワーク作りに加えて、コミッションにおいて次のような活動を行いました。
① 本会議において、2020年コングレス開催国のNGOとして、歓迎の意思を表明しました。
② 「SDGs実施のための弁護士の役割」「アジアの刑罰制度」と題した2つのサイドイベントを主催しました。
③ UNODC事務局とNGOとで開催された意見交換に参加しました。


(2) 2018年の活動

2018年5月14日から18日まで開催された第27回コミッションに当ワーキンググループから代表団を派遣しました。前回同様に、情報収集に加えて、次のような活動を行いました。
① 本会議において、刑罰制度改革や司法アクセスの重要性に触れ、2020年コングレスに向けた日弁連の取組について表明しました。
② 「SDG16実施のための法教育の必要性―自白と拷問に関する法意識」と題した1つのサイドイベントを主催しました。



5 参考情報  

(1) コングレスとコミッションについての詳しい情報


法務省 第14回国際連合犯罪防止刑事司法会議(コングレス)
  
外務省 第13回国際連合犯罪防止刑事司法会議(コングレス)

国連 第13回国際連合犯罪防止刑事司法会議(コングレス)(英文)


UNODC(国連薬物・犯罪事務所)(英文)
   コングレス

   コミッション


(2) これまでのコングレスの概要


開催年 

開催地(国)

概要および採択された基準や規範

1955

ジュネーブ(スイス)

「被拘禁者処遇最低基準規則」(Standard Minimum Rules for the Treatment of Prisoners: SMR)を採択した。

1960

ロンドン(イギリス)

少年司法のための特別の警察サービスを勧告した。

1965

ストックホルム(スウェーデン)

犯罪行為と社会変化との関係を分析した。

1970

京都(日本)

経済的・社会的発展のための犯罪防止計画の改善を要請。

1975

ジュネーブ(スイス)

「拷問及び他の残虐な、非人道的又は品位を傷つける取扱い又は刑罰を受けているすべての人の保護に関する宣言」の草案を審議し承認した。同宣言は、同年12月に国連総会が決議により採択した(A/RES/30/3542)。

1980

カラカス(ベネズエラ)

「犯罪防止と生活の質」というテーマの下、犯罪防止は各国の、社会的、文化的、政治的及び経済的状況を基礎にしなければならないことを確認した。

1985

ミラノ(イタリア)

「自由、正義、平和及び発展のための犯罪防止」のテーマの下、ミラノ行動計画及び以下の新しい国連基準と規範を採択した。

・「少年司法の運営に関する最低基準規則」(北京ルールズ:Standard Minimum Rules for the Administration Juvenile Justice)

・「犯罪及び権力の濫用の被害者のための司法の基本原則の宣言」(Declaration of Basic Principles of Justice for Victims of Crime and Abuse of Power)

・「外国人受刑者の処遇に関する勧告」(Recommendations on the treatment of foreign prisoners ならびに関連する決議)

・「司法の独立に関する基本原則」(Basic Principles on the Independence of the Judiciary)

1990

ハバナ(キューバ)

「21世紀の国際的な犯罪防止及び刑事司法」というテーマのもと、組織犯罪とテロリズムに対する行動を勧告した。また、以下の新しい規則等を採択した。
・「非拘束的措置のための最低基準規則」(東京ルールズ:Standard Minimum Rules for Non-custodial Measures)
・「受刑者処遇基本原則」(Basic Principles for the Treatment of Prisoners)
・「少年非行防止ガイドライン」(リヤド・ガイドライン:Guidelines for the Prevention of Juvenile Delinquency)
・「自由を剥奪された少年の保護規則」(Rules for the Protection of Juveniles Deprived of their Liberty)
・「法執行官による武力と武器の使用に関する基本原則」(Basic Principles on the Use of Force and Firearms by Law Enforcement Officials)
・「弁護士の役割に関する基本原則」(Basic Principles on the Role of Lawyers)
・「検察官の役割に関するガイドライン」(Guidelines on the Role of Prosecutors)

1995

カイロ(エジプト)

「すべての者のための安全と正義を求めて」というテーマの下、法の支配の強化のための国際協力及び実務的技術援助にフォーカスした。

10

2000

ウィーン(オーストリア)

加盟国が汚職に対して国際的行動を取ることを約束させるウィーン宣言を採択した。

11

2005

バンコク(タイ)

犯罪について防止と闘いのための国際的な協調と協力の努力について、そのための基礎を築き、またそれに向けた方向性を示すバンコク宣言を採択した。

12

2010

サルバドル(ブラジル)

特にサイバー犯罪への新しい国内的・国際的対応に関する討議へのドアを開いたサルバドル宣言を採択した。

13

2015

ドーハ(カタール)

「犯罪防止・刑事司法のより広い国連アジェンダへの統合」というテーマの下、今後5年間に国際社会が取り組むべき犯罪防止・刑事司法分野の対策や協力の方向性を示すドーハ宣言を採択した。また、次回コングレスの京都開催を決定した。