刑事法制の改革(刑事法制委員会)

活動の概要

日弁連は、改正刑法草案に基づく刑法改正に反対するために日弁連に設置された刑法「改正」阻止実行委員会の活動を原点とする刑事法制委員会を設置し、刑事法をめぐる改革や人権擁護活動の一端を担ってきました。その目的・任務は、刑法その他刑事法及び刑事政策に関連する諸課題について、調査・研究するとともにその対応方策を立案し、実行することです。


(1)心神喪失者等医療観察法に関する活動

2002年3月、政府が国会に上程した「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下「医療観察法」という)案に対して、日弁連は心神喪失者等「医療」観察法案対策本部を設置し、日弁連全体として「法案」に対する反対運動に取り組みました。2003年7月10日に「再犯のおそれ」を処遇要件から削除し、「医療の必要」を要件とする修正を行った上、医療観察法が成立したため、2003年度末に同対策本部は解散し、刑事法制委員会に設置された「心神喪失者等医療観察法対策部会」に活動が引き継がれました。


この部会では、全国の付添人から申立事例を収集し、きめ細かい分析を行い、医療観察法が抱える問題点や日弁連として今後取り組むべき課題について検証しています。また、必要に応じて指定医療機関の見学や関係者との懇談、意見交換会等を実施し、医療現場の状況を調査するとともに、毎年、「心神喪失者等医療観察法付添人全国経験交流集会」を開催し、全国の付添人経験者等を招いて付添人活動の報告及び意見交換を行っています。


一方、医療観察法附則第4条が規定する施行後5年の「見直し」の時期を迎えるに当たり、この間の付添人活動の実践と施行実績等を踏まえて検討し、2010年3月18日付けで、一般精神医療の抜本的改善を強く求め、医療観察法の必然的な解消を目指しつつ、同法の当面不可欠な改善策を提案する「arrow_blue_1.gif精神医療の改善と医療観察法の見直しに関する意見書」を取りまとめ公表するとともに、法務省及び厚生労働省等の関係諸機関等に提出し、趣旨実現方を要請しました。


引き続き、医療観察法対策部会で医療観察法に関する実態調査を行い、あるべき法制度や運用について検討していきます。


(2)弁護人立会権についての検討

法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会では、「時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため、取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや、被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など、刑事の実体法及び手続法の整備の在り方」が議論されました。


冤罪防止のためには、刑事司法が、取調べ及び供述調書の危険性を正しく認識して、取調べ及び供述調書への依存から脱却するため、取調べを適正化するための方策の一つとして、取調べ受忍義務がないことを明確にした上で、被疑者に弁護人を取調べに立ち会わせる権利を認めるべきです。


刑事法制委員会では、取調室で直ちに援助できるようにするため、弁護人の取調べ立会権の法制化を目指して、調査・研究を行って検討しています。


(3)法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会における「少年法における少年の年齢及び犯罪者処遇を充実させるための刑事法の整備に関する諮問」に関する検討

法務大臣が、2017年2月9日に開催された法制審議会総会に、「少年法における少年の年齢及び犯罪者処遇を充実させるための刑事法の整備に関する諮問(諮問第103号)を行い、現在、少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会において審議が行われています。


この諮問については、少年法の少年年齢を18歳未満に引き下げるか否かという問題だけでなく、若年者に対する刑事法制の在り方(起訴猶予処分に伴う新たな措置の導入、若年者に対する処遇原則の明確化や新たな処分の導入)が議論されているところであり、今後の刑事法制に大きな影響を及ぼすと考えられることから、調査・研究を行って検討していきます。


(4)犯罪捜査及び令状審査に関する裁判所の手続の記録化に関する検討

近時、警察官ないし検察官による犯罪捜査に関する記録の管理に問題がある事例が明るみとなっています。こうした捜査機関による犯罪捜査の記録の管理の問題は、全国にその事例が及んでおり、組織的な問題によるところといえ、犯罪捜査の記録化の重要性が痛感されるところです。また、裁判所による令状事務が適正になされることを担保するため、裁判所において令状に関して記録を作成・保存することが必要であるにもかかわらず、令状審査に関する一切の資料を捜査機関に返却してしまっている実情にあります。


刑事法制委員会では、犯罪捜査及び令状審査に関する裁判所の手続が記録化されるよう、調査・研究を行い、日弁連が2014年5月8日付けで「arrow_blue_1.gif犯罪捜査の記録に関する法律の制定を求める意見書」および「arrow_blue_1.gif捜査段階で裁判所が関与する手続の記録の整備に関する意見書」を公表しました。


(5)GPSを利用した捜査への規制に関する検討

近時、警察庁は、GPS捜査を任意捜査として実施していたところ、GPS捜査の実態が明らかになっていませんでした。しかし、GPS捜査の違法性が刑事裁判で争われ、その実態や問題性が明らかになってきています。


刑事法制委員会では、GPS捜査が対象者のプライバシーといった憲法上の権利を侵害する危険があるものであることから、GPS捜査の規制についての調査・研究を行い、日弁連が2017年1月19日付けで「arrow_blue_1.gifGPS移動追跡装置を用いた位置情報探索捜査に関する意見書」を公表しました。


なお、GPS捜査に関しては、最高裁判所が2017年3月15日に判断を示し、GPS捜査についての立法が今後予測されるところであることから、GPS捜査の問題点や規制方法について更に調査・研究し、検討していきます。


(6)性犯罪の罰則の在り方に関する検討

法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会において、女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けた施策の一環として、近年における性犯罪の実情等に鑑みて、性犯罪の罰則の整備について議論がされてきました。2016年9月12日、法制審議会総会において要綱が採択され、法務大臣に答申されました。


その答申に対して、日弁連は、2016年9月15日付けで「arrow_blue_1.gif性犯罪の罰則整備に関する意見書」を公表しました。


なお、性犯罪に関する刑法の一部を改正する法律は、第193回国会(常会)において、2017年6月16日に成立し、同月23日に公布され、同年7月13日に施行されています。