死刑廃止を考えるQ&A

はじめに

ご存じでしょうか。国際社会からは、日本に対して死刑廃止が強く求められています。しかし、国内では、死刑を容認する世論が8割を超えるとされ、死刑判決数・執行数も激増しているのが現状です。


このような中、裁判員制度が2009年5月に施行され、市民の皆さんが裁判員として刑事事件に関わるようになりました。事案によっては、被告人を死刑にするか否かという究極の量刑判断を行うこともあるでしょう。


しかし、死刑に関する情報は極端に制限され、そもそもどのような刑罰なのか、あまり知られていません。裁判員になったとき、死刑制度の実態を知らずに、皆さんは死刑判決を言い渡せるのでしょうか。


そこで日弁連では、この「死刑廃止を考える」というコンテンツを通じて、死刑制度に関する様々な情報をご提供することとしました。死刑とはどのようなものか、皆さんとともに改めて考えてみたいと思います。(裁判員制度についての詳細は、arrow_blue_1.gifこちら



Q1 「凶悪犯罪」は増えているのですか?

Answer

殺人の件数は横ばい傾向です。


死刑を必要とする理由としてしばしば挙げられるのが、「凶悪犯罪」の増加です。

しかし、平成22年版犯罪白書は「殺人では、認知件数は、おおむね横ばい傾向にあるが、平成16年から19年までわずかずつ減少し続け、20年はやや増加したものの、21年は1,094件(前年比203件(15.7%)減)と減少した。検挙率は、安定して高い水準(21年は98.2%)を維持している。」と分析しています。

また、平成22年(2010年)に発生した殺人事件(未遂を含む)は、前年比で2.5%減の1,067件であり、2年連続で戦後最少を更新しています。


なぜ、「凶悪犯罪が増えた」と言われるのでしょうか。

どのような情報に基づいて、私たちは治安が悪いと感じるのでしょうか。

Q2 死刑判決は増えているのですか?

Answer

近年、死刑判決が著しく増大する傾向にあります。


2008年の死刑判決数は2007年よりも減少していますが、1991年から1997年までの7年間と、2001年から2007年までとを比較すると、第一審で約3倍、控訴審で約4.5倍、上告審で約2.3倍になっています。

また、無期刑判決も同様に、第一審で約2.9倍、控訴審で約3.5倍、上告審で約5.4倍に増えています。


死刑・無期刑の増加は、犯罪の発生状況と相関関係があるのでしょうか。

死刑・無期刑の判決数がこれほど増加しているのはなぜでしょうか。

Q3 死刑の執行は増えているのですか?

Answer

判決の増加により、死刑・無期刑の確定人員数も急激に伸びています。


2007年2月には、戦後初めて収監中の死刑確定者が100名を超えました。他方で死刑の執行も頻繁に行われ、2007年には3回(計9名)、2008年は5回(計15名)、2009年は2回(計7名)に死刑が執行されるなど、死刑大国になりつつあるといえます。被執行者の中には、70歳を超える高齢者や身体に障がいをもつ者、再審請求の準備中であった者も含まれています。


執行される者はどのように選ばれているのでしょうか。
死刑が確定した者は、執行までどのように過ごしているのでしょうか。

Q4 どのような犯罪をすると死刑になるのですか?

Answer
法令 条文 罪名
刑法 77条1項1号 内乱罪
81条 外患誘致罪
82条 外患援助罪
108条 現住建造物等放火罪
117条1項 激発物破裂罪
119条 現住建造物等浸害罪
126条3項 汽車転覆等致死罪
127条 往来危険による汽車転覆等罪
146条後段 水道毒物等混入致死罪
199条 殺人罪
240条 強盗致死罪
241条後段 強盗強姦致死罪
人質による強要行為等の処罰に関する法律 4条1項 人質殺害罪
航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律 2条3項 航空機墜落等致死罪
航空機の強取等の処罰に関する法律 2条 航空機強取等致死罪
爆発物取締罰則 1条 爆発物使用罪
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律 3条1項3号 組織的な殺人罪
明治22年法律第34号(決闘罪ニ関スル件) 3条 決闘罪

Q5 死刑場はどのようなところですか?

Answer
刑場イラスト,太政官布告第65号「絞罪器械図式」

(視察者の話に基づいて作成したため、実際の刑場とは異なる点がある可能性があります。)


刑場イラスト,太政官布告第65号「絞罪器械図式」

太政官布告第六十五号「絞罪器械図式」

Q6 死刑はどのように執行されるのですか?

Answer

執行される死刑確定者


死刑の執行方法は刑法11条で「死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する。」とされ、具体的な方法は、明治6年太政官布告第65号が定めています。死刑囚は頚部に縄をかけられた状態で高所から落下しますが、この方法では身体に損傷が生じる可能性があり、日本国憲法が禁止する残虐な刑罰にあたるとの見解もあります。

Q7 世界で死刑はどうなっているのでしょうか?

Answer

廃止・停止が世界の潮流です。


1990年、死刑存置国は96か国・死刑廃止国は80か国でしたが、現在、死刑存置国は58か国・死刑廃止国は139か国となり、死刑の廃止または停止が世界の潮流となっていることは明らかです。

イギリス・フランス・ドイツなどヨーロッパはベラルーシを除き死刑を廃止しており、メキシコや南米も死刑を廃止し、 アフリカでも死刑廃止国が増えています。また、中国も国際社会からの批判を受け、死刑事件については必ず最高人民法院の審査を経ることとするなど、適用を厳格化しています。アメリカも実際に死刑を執行しているのは一部の州に限られ、しかも死刑判決・執行数ともに減り続けています。


なぜ、世界では死刑廃止・停止が進んでいるのでしょうか。

国際社会は、日本の死刑制度の現状をどのように見ているのでしょうか。

Q8 国際社会から日本は何を求められているのでしょうか?

Answer

国連の規約人権委員会は、日本の人権状況に関する第5回審査の総括所見(2008年10月28日付)において、世論調査の結果に関わりなく、死刑廃止を前向きに検討し、死刑廃止が望ましいことを国民に伝えるよう政府に求めました。その他、死刑制度に関しては、死刑執行の事前告知の欠如など非人道的処遇の廃止のほか、再審等による執行停止、必要的上訴を含む抜本的な制度改革も勧告されています。


いずれの勧告についても、日本政府は検討する姿勢さえ見せていませんが、まずは国際社会の声に真摯に耳を傾けることから始める必要があるといえるでしょう。


また、欧州地域の47か国により組織される欧州評議会も、オブザーバー国である日本に対して死刑廃止を求めています。欧州評議会人権理事会が2001年10月に発行したパンフレット「Death is not justice(死は正義ではない)」では、「The death penalty and democracy(死刑と民主主義)」と題する項目の中で、例えば以下のように述べています。


死刑はしばしば他の社会問題と切り離された別の問題として議論され、独立して評価される。これは誤解を招くものだ。死刑を廃止するか維持するかの選択は、私たちが住みたいと願う社会の種類とその社会を支えている価値の選択でもある。死刑の廃止は人権・民主主義・法の支配の理念によって特徴づけられる一まとまりの価値の一部である。


死刑を支持する国は、殺人や他の残忍な方法が社会の諸問題を解決するのに容認される手段であるというメッセージを送っている。そうした国は、冷血で計画的な殺人を正義として正当化する。そうすることによって、社会における人間的かつ市民的な関係と、そこに住む全ての人々の尊厳を傷つけている。明らかに、暴力は暴力を生むのである。


死刑の存廃については様々な論点がありますが、以下のパンフレットのQ&Aは、実際に死刑を廃止した国の視点で疑問に答えており、日本の死刑制度を考える上でも示唆に富んだ内容となっています。

blankパンフレット英文版(欧州評議会ウェブサイト)

icon_pdf.gifパンフレット仮訳(PDファイル;117kB)

Q9 凶悪犯罪に対して死刑以外に刑罰はないのでしょうか?

Answer

死刑を廃止したヨーロッパにおいても、廃止後の最高刑はさまざまです。


イギリス「終身刑」

最低拘禁期間(タリフ)が終身となる場合もあるが、25年経過時点で有期タリフへの変更が審査され、その後も5年ごとに審査される


フランス「無期刑」

仮釈放を許さない「保安期間」は最長で30年


ドイツ「終身刑」

15年の服役により残刑の執行停止(仮釈放)があり得る


オランダ「終身刑」

終身刑には仮釈放がなく、仮釈放のためには恩赦が必要

Q10 死刑がなければ犯罪は増えるのではないでしょうか?

Answer

多くの研究が、死刑の犯罪抑止効果に疑問を示しています。


例えばアメリカでは、死刑廃止地域より存置地域のほうが、殺人発生率が著しく高いとのデータも示されています。

詳しくはblankこちら(Death Penalty Information Centerのページ(英文)へ)


2008年に行われた規約人権委員会の審査でも、死刑適用を増加させている日本に対して、犯罪抑止効果への疑問が示されました。

Q11 日弁連は死刑問題にどのように取り組んでいるのですか?

Answer
死刑執行の停止を求めて

日弁連は、2002年11月22日に「arrow_blue_1.gif死刑制度問題に関する提言」を発表しました。同提言を受けて、「死刑制度問題に関する提言実行委員会」を設置。2004年10月8日に開催された第47回人権擁護大会では、「arrow_blue_1.gif死刑執行停止法の制定、死刑制度に関する情報の公開及び死刑問題調査会の設置を求める決議」を採択しました(それに伴い、「死刑制度問題に関する提言実行委員会」を「日弁連死刑執行停止法制定等提言・決議実現委員会」に改組。)。さらに、2008年3月13日には、「arrow_blue_1.gif死刑制度調査会の設置及び死刑執行の停止に関する法律案(通称「日弁連死刑執行停止法案」)」を取りまとめました。


死刑廃止についての全社会的議論の呼びかけ

日弁連は、2011年10月7日に開催された第54回人権擁護大会において、「arrow_blue_1.gif罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を採択しました。同宣言を受けて、「死刑廃止検討委員会」を設置(「日弁連死刑執行停止法制定等提言・決議実現委員会」を改組。)。死刑の執行停止に加え、死刑のない社会が望ましいことを見据えて、死刑廃止について全社会的議論を呼びかける活動を開始しました。


死刑廃止検討委員会の活動
  • 死刑廃止についての全社会的議論の呼びかけに向けた活動
  • 犯罪時少年に対する死刑の速やかな廃止に向けた活動
  • 死刑執行停止に向けた活動
  • 死刑に関する刑事司法制度の改革に向けた活動
  • 重大犯罪の発生原因と背景及びその抑止に向けた施策の調査研究
  • 死刑に関する情報開示の実現に向けた活動
  • 死刑に代わる最高刑についての提言の策定
  • 過去の死刑確定事件についての実証的な検証
  • 死刑に直面する者の刑事弁護実務の在り方についての検討
  • 死刑確定者の処遇の改善に向けた活動
  • 犯罪被害者及び遺族に対する支援、被害回復、権利の確立等に向けた活動


Q12 死刑事件にえん罪はないのでしょうか?

Answer

「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜を罰するなかれ」という法格言は、刑事手続において最も重視されなければならない言葉です。


現代の刑事裁判では、えん罪(罪がないのに罰せられること)が発生しないように、慎重に捜査・審理がなされることを目的として様々な制度(例えば、三審制、再審制度など)が用意されていますが、それでも次の事件のように、えん罪の発生を防ぐことはできませんでした。


死刑判決が確定したえん罪事件の例

これらの事件がえん罪事件として有名であるのは、えん罪であることが裁判所に認められ、世間に広く認知されたからですが、これ以外にも、死刑事件である名張毒ぶどう酒事件(arrow_blue_1.gif名張毒ぶどう酒事件の詳細な説明へ)、袴田事件(arrow_blue_1.gif袴田事件の詳細な説明へ)は、えん罪である疑いが強く、日弁連が再審を支援しています。


また、えん罪により死刑判決を受け、死刑執行までされてしまった例がこれまでに一度もなかったと断言できるでしょうか? 最近では、飯塚事件(arrow_blue_1.gif飯塚事件の詳細な説明へ)が、えん罪であるにもかかわらず死刑執行された事件であるとして、遺族が再審請求を行っています。


無期懲役刑判決についても、梅田事件、足利事件、布川事件、東京電力女性社員殺害事件、東住吉事件などが再審無罪となり、世間の注目を浴びました。


ところで、諸外国に目を向けますと、多くの国でえん罪の存在が問題となり、死刑制度が廃止されるに至った例があります(例えば、イギリスなど)。


死刑存置国として有名なアメリカ合衆国においても、イリノイ州では、死刑判決が出された事件が、後にえん罪であることが判明したことをきっかけとして、全ての死刑囚を終身刑に減刑し、死刑制度も廃止されました。