死刑廃止を考えるQ&A

はじめに

日本は、国際社会から、死刑制度を廃止するよう強く求められています。けれども、日本政府は、死刑を容認する世論が8割を超えるとして、死刑制度の廃止に消極的です。


死刑に関する情報は極端に制限されており、制度の是非を議論する材料すら十分に提供されていません。世論調査はそのような情報不足の中で行われているものです。このほか、世論調査には多くの問題点があり、単純に「世論の8割が死刑制度の存置を支持している」とは言えない状況にあります(arrow_blue_1.gifQ8参照)。


日弁連では、この「死刑廃止を考える」というコンテンツを通じて、死刑制度に関する様々な情報をご提供することとしました。死刑とはどのようなものか、皆さんとともに改めて考えてみたいと思います。



Q1 なぜ、死刑廃止について考えなければならないのでしょうか?

Answer


死刑制度には、看過できない重大な問題がいくつもあるためです。


日本は、国連および国連関連機関から死刑制度の廃止について何度も勧告を受けています。国際的な人権水準に照らして、もはや死刑制度の廃止を先送りすることは許されません。


誤判えん罪により生命を奪うことは許されません。戦後、免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件の4つの死刑確定事件で再審無罪が言い渡され、2024年9月26日に、袴田事件についても再審無罪が言い渡されました。名張毒ぶどう酒事件についてもえん罪の可能性が指摘されています。飯塚事件についてはすでに死刑が執行されていますが、証拠関係が脆弱であるとして、現在再審手続が進められています。


icon_pdf.gif 自由権規約委員会総括所見 (PDFファイル;774KB)

→ 国際人権(自由権)規約委員会の総括所見に対する会長声明


各事件については、→ Q3をご参照ください。


Q2 なぜ、国連および国連関連機関は死刑廃止を求めているのですか?日本の刑罰制度は、他国や国連などから干渉されるべきではないのでは?

Answer


国際的には人権侵害であると考えられていることが、国内的には合法とされることがあります。例えば、ナチス政権下でのユダヤ人の迫害は明らかに重大な人権侵害ですが、当時のドイツの国内法的には合法だったのです。こうしたことから、第二次世界大戦後、人権は世界的に普遍的なものであると考えられるようになりました。死刑廃止を宣言する国連の「市民的及び政治的権利に関する国際規約の第2選択議定書」は、「死刑の廃止が人間の尊厳の高揚と人権の漸進的な発展に貢献することを信じ」「すべての死刑廃止措置は生命権の享有の上で発展とみなされるべきことを確信」すると述べています。


国際的に共通の価値観から離れて独善的な法体系に固執することは、人権の普遍性に背を向けることです。死刑制度を維持することによって、国際的な孤立を招く恐れがあるだけでなく、犯罪人の引渡が受けにくくなるなど、具体的な不利益も発生する恐れもあります。


Q3 日本の裁判で誤判えん罪により無実の者が死刑判決を受けたことがあるのですか?

Answer


戦後、免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件、袴田事件の5つの死刑確定事件で再審無罪が言い渡されています。名張毒ぶどう酒事件についてもえん罪の可能性が指摘されています。飯塚事件についてはすでに死刑が執行されていますが、証拠関係が脆弱であるとして、現在、再審手続が進められています。


arrow_blue_1.gif 免田事件(1983年無罪確定)

arrow_blue_1.gif 財田川事件(1984年無罪確定)

arrow_blue_1.gif 松山事件(1984年無罪確定)

arrow_blue_1.gif 島田事件(1989年無罪確定)

arrow_blue_1.gif 袴田事件(2024年無罪確定)

arrow_blue_1.gif 名張毒ぶどう酒事件

arrow_blue_1.gif 飯塚事件


Q4 誤判えん罪の危険は死刑判決に限らず、すべての犯罪の判決にあるのではないでしょうか?

Answer


刑事裁判も人が行う制度である以上、誤判えん罪のおそれが常につきまといます。これは、死刑事件であるか否かに関わりません。しかしながら、死刑は人の生命を奪う刑罰であり、誤判による執行があった場合の影響は、自由刑や罰金刑の場合と比べ物になりません。イギリスでは、死刑が執行された後に無実であったことが判明し(エヴァンス事件)、これがイギリスにおける死刑制度廃止の発端となりました。


また、犯人の取り違えという典型的なえん罪事件だけではなく、責任能力の有無、計画性の有無、共犯者間の主従関係、動機などの認定の如何により、無期刑にとどめるべき事件に死刑を言い渡すといった量刑の揺れの問題もあります。裁判員や裁判官の構成、弁護活動の内容などによって死刑になったり無期刑になったりするという不安定な要素がある中で、人の生命を奪う刑罰を続けてよいかという問題もあります。


Q5 現在の日本の死刑判決・死刑執行の状況はどうなっているのでしょうか?

Answer


直近の死刑判決数・死刑執行数は、以下のとおりです。


2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
死刑判決確定数
死刑執行数 15

出典:法務省「検察統計年報」

詳細な数値は、パンフレット「icon_pdf.gif死刑制度いる?いらない?」をご参照ください。


Q6 死刑を廃止すると犯罪が増えるのではないでしょうか?

Answer


死刑制度に犯罪抑止効果があるかどうかについては、統計的・科学的な結論をみるに至っていません。仮に死刑制度に犯罪抑止効果を認めるとしても、無期刑や終身刑に比較して有意な差を認めることは難しいと考えられます。


また、死刑になることを望んで行われる無差別大量殺人事件が少なからず存在しており、死刑制度が存在することが犯罪を抑止するどころか、逆に事件を誘発する側面があるとも考えられます。


Q7 死刑を廃止すると被害者遺族の処罰感情に報いることができないのでは?

Answer


2022年の殺人事件の認知件数は853件でした(令和5年版犯罪白書)。これに対し、実際に死刑が言い渡される事件は社会を震撼させた凶悪事件に限られており、年間数件程度です。殺人事件のほとんどは死刑判決の対象にはなっていません。


また、犯罪白書のデータによると、日本の殺人事件の約半数は親族間の殺人事件であり、被害者遺族は加害者の親族でもあります。

被害者遺族の心情はさまざまであり、「遺族は犯人の死刑を望むものだ」といった一様な決めつけは避けるべきです。加害者が死刑判決を受けること、死刑が執行されることで被害者遺族が報われると考えるのではなく、物心両面で被害者遺族を手厚く支援することに注力すべきです。


icon_page.png令和5年版犯罪白書


Q8 死刑の代替刑はあるのですか?

Answer


日本には無期懲役刑(2025年6月施行の改正刑法施行後は無期拘禁刑)があります。無期刑には仮釈放の制度がありますが、実際に認められるのはごく一部です。2022年末の無期刑受刑者数が1688人であるのに対し、同年中に仮釈放が認められたのは6名にとどまっています(法務省「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」)。このように、無期刑には仮釈放の制度はありますが、実質的には終身刑に近い運用になっています。


しかしながら、死刑と無期刑の間には制度上大きな差があることから、当連合会は、2019年10月に「→死刑制度の廃止並びにこれに伴う代替刑の導入及び減刑手続制度の創設に関する基本方針」を、2022年11月に「arrow_blue_1.gif死刑制度の廃止に伴う代替刑の制度設計に関する提言」をまとめ、死刑制度の代替刑として仮釈放のない終身刑の導入を提言しています。


Q9 世論はどうなっているのですか?

Answer


「日本の国民の世論というのは、やはり極めて悪質で凶悪な犯罪については、死刑もやむを得ないということが、世論の多数として考えられておりますので、やはり、まだこうした凶悪犯罪が後を絶たないということを考えますと、死刑を科すということについても、やむを得ないというものであり、これを廃止するのは適当ではない」というのが日本政府の見解です(2024年(令和6年)10月2日の牧原秀樹法務大臣就任記者会見)。


たしかに、直近の「基本的法制度に関する世論調査」(2019年(令和元年))では、「死刑制度に関して、『死刑は廃止すべきである』、『死刑もやむを得ない』という意見があるが、どちらの意見に賛成か」との問いに対し、「死刑もやむを得ない」と答えた人の割合は80.8%であったとされています。


しかし、この世論調査には問題があります。「死刑は廃止すべきである」に対する選択肢は「死刑は存置すべきである」とすべきであるのに、実際の選択肢は「死刑もやむを得ない」という誘導的なものです。また、「死刑もやむを得ない」と回答していても、その4割は「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と答えています。

この世論調査の結果を、将来の死刑廃止の当否という観点から集計すると、死刑廃止を許容する者が41.3%、死刑廃止を許容しない者が40.0%となります。つまり、将来の死刑制度存否に関する世論は拮抗していると評価できます。


「国民の8割が死刑制度を支持している」という評価が一人歩きし、死刑制度存置の根拠として用いられているのが現状です。


blank基本的法制度に関する世論調査

→死刑制度に関する政府世論調査に対する意見書



Q10 日弁連は死刑問題にどのように取り組んでいるのですか?

Answer


死刑執行の停止を求めて

日弁連は、2002年11月22日に「arrow_blue_1.gif死刑制度問題に関する提言」を発表しました。2004年10月8日に開催された第47回人権擁護大会では、「arrow_blue_1.gif死刑執行停止法の制定、死刑制度に関する情報の公開及び死刑問題調査会の設置を求める決議」を採択しました。さらに、2008年3月13日には、「arrow_blue_1.gif死刑制度調査会の設置及び死刑執行の停止に関する法律案(通称「日弁連死刑執行停止法案」)」を取りまとめました。



死刑廃止についての全社会的議論の呼びかけ

日弁連は、2011年10月7日に開催された第54回人権擁護大会において、「arrow_blue_1.gif罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を採択しました。死刑の執行停止に加え、死刑のない社会が望ましいことを見据えて、死刑廃止について全社会的議論を呼びかける活動を開始しました。



死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言

日弁連は、2016年10月7日に開催された福井での人権擁護大会において、「arrow_blue_1.gif死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」(福井宣言)を採択しました。 刑罰制度は、犯罪への応報であることにとどまらず、罪を犯した人を人間として尊重することを基本とし、その人間性の回復と、自由な社会への社会復帰と社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)の達成に資するものでなければなりません。

刑罰制度のあるべき姿がこのようなものであるとすれば、死刑制度はこれに反するものであることは明らかです。


日弁連はこの大会で、刑法を改正して刑罰制度を改革すること、死刑制度の廃止を目指すべきであること、受刑者の再犯防止・社会復帰のための法制度を整備することを宣言しました。 福井宣言を受けて、「死刑廃止検討委員会」は、2017年6月に「死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部」となりました。



死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部の活動