刑事弁護に関する取り組み
日弁連刑事弁護センター
1:発足の経過
日弁連刑事弁護センターは、1990年、絶望的とまで評された日本の刑事手続を抜本的に改革するために設立されました。刑事弁護人の現場での力を結集して当番弁護士制度の全国実施を推進し、その実績を裏付けとして、被疑者国選弁護制度を実現し、現在、各地の弁護士会と連繋して、これを担っています。
また、被疑者国選弁護制度の対象外となっている領域において、刑事被疑者援助制度を実施しています。
2:活動の概要
日弁連刑事弁護センター(以下「センター」といいます)は、被疑者・被告人の権利保障のために、前記のような刑事手続の改革・改善、刑事弁護態勢の人的・物的充実および刑事弁護技術の向上を目指して、情報の提供、調査研究、さまざまな研修を行うほか、改革のための運動を展開しています。
1 重点課題
センターの現在の重点課題は次のとおりです。また、日弁連としての長期的全体的な活動として、えん罪を防止するための刑事司法改革グランドデザインを作成しており、センターもこれにのっとって活動しています。
① 人質司法の打破と身体拘束をめぐる諸問題への取り組み
従前から人質司法と批判されてきた日本の刑事司法の現状を打破するための取り組みを更に進めることが最重要課題です。
② IT化等への対応
刑事手続のIT化の議論が進められる中、弁護活動に支障がない刑事手続のIT化を目指して活動しています。会内でも、情報セキュリティへの配慮等に関する情報発信などをしていくことを考えています。
③ センターの機能強化
日本の刑事司法が抱える多くの課題に取り組むために、必要な情報を迅速かつ十分に収集していきます。それを的確に分析・検証し、その結果を踏まえた情報発信にも力を入れていきます。
2 組織体制および活動内容の紹介
センター内には、恒常的な課題を取り扱う小委員会と、個別的・専門的課題を取り扱うプロジェクトチーム等が設置されています。各小委員会とプロジェクトチーム等では、定期的に会議を開催し、情報収集や意見交換等を行っています。センターの全体会議では、各小委員会やプロジェクトチーム等の活動報告・情報共有を行うほか、センター全体として取り組むべき課題について意見交換するなどの活動をしています。センターで議論された内容が、所属委員を通して各弁護士会に還元されることで、全国の刑事弁護活動の発展にもつながっています。
以下、小委員会とプロジェクトチーム等の活動内容を紹介します。
(1)小委員会
① 制度改革小委員会
現行刑事手続制度(身体拘束・証拠開示・公判など)の問題点を調査・検討するほか、充実した通訳制度の確立や、国際人権法を反映した刑事弁護活動の実現を目指し、制度改革に向けた活動を行っています。
要通訳事件における捜査弁護の手引き―通訳人と弁護人のより良い協働のための留意点― (PDFファイル;240KB)
② 弁護実務小委員会
身体拘束からの解放、公判前整理手続、情状弁護、被害者参加、供述の信用性等、捜査・公判を通じた刑事弁護実務の諸課題を分析・検討するほか、各種研修・勉強会を企画・運営しています。
(2)PT(プロジェクトチーム)
① 法廷技術PT
刑事裁判における法廷弁護技術の発展のため、法廷弁護技術の研究や各地での研修の講師派遣に取り組んでいます。また、記録用教材の作成や改訂のほか、法廷弁護技術の講師養成のための研修等も定期的に開催しています。
② 死刑弁護PT
死刑事件の弁護の在り方を検討するため、死刑求刑事件の判決を収集・分析し、『手引き「死刑事件の弁護のために」』の作成をしています。死刑弁護に関するセミナーや、具体的事案へのバックアップも実施しています。
③ 責任能力PT
責任能力が争われる裁判の判決書の収集・分析(裁判員裁判を中心に)、日本司法精神医学会との協議会の開催、『責任能力弁護の手引き』などの書籍出版などを行っています。
④ 刑事手続IT化PT
刑事手続のIT化に関する法務省検討会や、関係機関との協議に対応するためのバックアップの他、ビデオリンク方式による証人尋問などの実情調査、諸外国調査等の調査研究にも取り組んでいます。
⑤ 改正性犯罪問題検討PT
法制審議会の答申を経た改正刑法および改正刑訴法が2023年6月16日に成立したことを踏まえ、改正に伴い留意すべき弁護活動等に関し、会員への情報提供を行うための取り組みを行っています。
⑥ 研修PT
会内での研修メニューの作成を各小委員会やPTと連携して行っています。また、各弁護士会の刑事弁護委員会担当者との協議や研修担当者会議の企画・実施なども行っています。
⑦ 情報戦略PT
当センターに求められている情報の収集・分析・発信などを効率的かつ実効的にすべく、Webアンケートの実施やウェブサイトの改訂作業などをしています。
(3)その他チーム等
① SBS仮説に基づく虐待訴追研究・対策チーム
近時、揺さぶられっ子症候群(SBS)・虐待による頭部損傷(AHT)が疑われた案件で無罪判決が相次いでいます。この判決内容を踏まえた検討を行う等の活動をしています。
揺さぶられっ子症候群(SBS)をめぐる セミナー・シンポジウムの記録 (PDFファイル;2.9MB)
SBS/AHTが疑われた事案における相次ぐ無罪判決を踏まえた報告書 (PDFファイル;281KB)
② 罪に問われた障がい者の刑事弁護に関する連絡会議
障がいのある人が無辜の罪で処罰されないよう、偏見等により必要以上に厳罰に処されないよう、そして、繰り返し罪に問われないよう、適切な弁護活動ができる仕組みを目指して活動しています。
2023年8月3日現在
国選弁護本部
1:発足の経過
被疑者国選弁護及び裁判員裁判を担う弁護士の確保などの対応態勢の確立方策等を検討するため、2007年に「国選弁護対応態勢確立推進本部」が設置され、2009年5月21日の被疑者国選弁護の対象拡大に向けた対応態勢の検討を中心に、国選弁護に関わる様々な検討を行ってきました。その後も被疑者国選の対応態勢の整備が概ね順調に進んでいることから、2011年4月からは、名称を「国選弁護本部」と改め、すべての身体拘束事件を対象とする国費による被疑者弁護制度の実現に向けた活動等を行っていきます。
2:活動概要
国選弁護本部では、被疑者国選弁護制度の充実とさらなる拡大に向けて、対応態勢や手続等に関する検討を行っています。
(1)各地の被疑者国選弁護制度の対応態勢に関する検討
(2)国選弁護報酬の改善
・基本方針
国選弁護報酬改善の基本方針(2007年8月23日付け)
・重大案件に関する国選弁護報酬基準の改善
重大案件に関する国選弁護報酬基準の改善要望書(2008年6月20日付け)
・当事者による鑑定費用に関する検討
当事者による鑑定費用に関する要望書(2010年12月17日付け)
(3)国選弁護制度における手続き等の改革
・被疑者国選弁護人の複数選任制度に関する検討
被疑者国選弁護人の複数選任制度に関する意見書(2011年2月18日付け)
・検察官請求予定証拠、訴訟書類及び証拠物の写しの交付に関する検討
刑事訴訟法第299条第1項等の改正に関する提言(2009年2月20日付け)
訴訟に関する書類及び証拠物の写しの交付に関する意見書(2010年7月16日付け)
(4)すべての身体拘束事件を対象とする国費による被疑者弁護制度に向けた検討