学習モデル

自ら考え、自ら行動するチカラを

多くの教員の皆様にとって「法教育」に取り組む上で一番の悩みは、法的知識に自信がないなどの理由で、教材を自ら作ることに困難を覚えるという点にあるのではないでしょうか。

 

そこで、この「学習モデル」ページでは、教員の皆様がすぐに利用できる教材を紹介します。

 

私たちの目指す「法教育」は、単に法律の知識を習得するのではなく、自分たちの身の回りで起こるさまざまな問題について、法的なものの見方や考え方に基づき、主体的に考え、公正に判断し、自ら行動するチカラを身につける教育です。

 

どうぞ授業で積極的にご活用ください。

 

教材についてのお問い合わせ先

 

日本弁護士連合会 法制部法制第一課
住所 〒100-0013 東京都千代田区霞が関1-1-3
TEL 03-3580-9511 (月~金曜日 9時30分~17時30分)
FAX 03-3580-9920

 

小学生向け ルールってなんだろう?

 

みなさんは、ルールといえば「とにかく守らなければならない」ものと考えてはいないでしょうか。

 

「ルールがあるのだから、とにかく守りなさい」と言って、子どもたちがそれに従順に従ってくれれば大人にとっては楽でしょう。しかし、実際にはそうはならないでしょうし、法教育的に見ると、そうなってしまっては問題があるのです。

 

我々は、子どもたちに、問題があれば、それを自分たちの頭で考え、意見を交換しながら、みんなが一応納得できる結論を出してもらうことを願っています。そこでは、おかしなことをおかしいと思うこと、おかしいと思ったことを堂々と議論することが何よりも重要なのです。

 

この教材は、「ルールのない町」という架空の物語をベースにすることにより、子どもたちに興味や関心を持ってもらうよう工夫しました。そして、ルールがないとどんな困ったことになるのかを子どもたちに理解してもらった上で、ルールはどうやって作ったらいいのかを考えた後、最後に、問題のあるルールについて、そのルールが正しいかどうかをどうやって判断したらいいか考えてもらいます。

 

その際は、判断する「ものさし」を提示することにより、これから実際に起こるであろう様々な問題にも応用できるように工夫されています。

 

ともかくも一度この教材で授業をしてみませんか?

 

授業の目標

  1. ルールは、安全な社会生活を営む上で必要になものであり、それは慣習や道徳、合意に基づいていることを気づかせる。
  2. ルールは誰が・どのようにして作るのが一番いいか考えさせる。
  3. ルールに従うのは、それが「正しい」ものであることが前提であり、ルールが正しいかどうかを評価する知的ツールを会得するとともに、正しいルールに変更しようとする意欲・態度を身につける。

 

教材(3時間構成)

今回の目標

  1. 自分たちの周りにあるルールの存在について発見させ、そのルールがどのようにして 存在するようになったかを考えさせる。
  2. もしそのルールがなかったら社会はどうなるかを考えさせ、ルールの必要性を実感させる。

第1回 指導要領

段階 主な発問・学習活動
児童から予想される発言
指導上の留意点
導入
【10分】

みなさんが家庭や学校で自分たちが守っているルールについて教えて下さい

<予想される回答>
  • うちではお手伝いしたらお小遣いがもらえる
  • 学校へは集団で登校する
  • いじめをしない
  • うそはつかない

それはどのようにして決まったのですか

  • 道徳
  • 慣習
  • 合意
  • ルールとは何かという質問があれば、みんながまもらないといけない決まりごと、と説明する
  • 回答のうち道徳・慣習・合意に基づくと思われるものを1、2ピックアップして板書する
  • 答えが出にくいときは、どうして従っているのかを考えさせる
  • 先の事例に対応させて道徳、慣習、合意と板書する
展開(1)
【10分】

ルールのない町を読んでみましょう

ルールのない町ではどんなことが起こりましたか

  • 車がスピードを出しすぎている
  • 車が右側も左側も関係なく走っていて、交差点でも止まらない
  • もめごとが起きるとすぐケンカになる
  • 町中、ゴミだらけ
  • お菓子を買ってもお金を払わない
  • ルールのない町のプリントを配る
  • 児童に読ませてもよい
展開(2)
【10分】

ルールのない町で起きた問題をなくすために、私たちの社会にある実際のルールはなんでしょうか

  • 車は左側通行しなければならない、赤信号で止まらなければならないというルールがある
  • けんかはしてはいけない、争いごとは話し合って解決しなければならないというルールがある
  • 決められた日や場所以外でゴミを捨ててはいけないというルールがある
  • ものを買ったらお金を払わなければならないというルールがある
  • 「~してはいけない」「~しなければならない」という形で、ルール自体を発表させる
展開(3)
【10分】

そのようなルールはどのようにして決まっているのでしょうか

  • 道路交通法という法律で基準が決められている
  • ケンカをしない、話し合いで解決する」という道徳がある
  • 決められた場所以外にゴミを捨てないというルールは、町を汚すのはよくないという道徳から生まれたもの
  • ものを買ったらお金を払うというールは、慣習や合意から生まれたものだけど、民法という法律にも定められている

    慣習、道徳、合意と法律との関係について説明する

  • 今度はそのルールの源泉について考えさせる
  • 法律とは合意の一種で、国が決めたルールである。法律の中には習慣や道徳から生まれたルールを改めてはっきりさせたものや(民法)、一律に決めておいた方が便利なことを取り決めたもの(道交法)などがある
まとめ
【5分】

わたしたちの社会でルールはなぜ必要なのでしょうか

  • もしルールがなかったら、命の安全も危ないし、街や社会で安心して生きていくことが難しくなる

このようなルールがあって初めて一人一人の自由や財産が守られるし、紛争が起きたときにもルールに従って平和的に解決することができる

  • ルールがない町で起きた問題を思い出させる

 

第2回 今回の目標

  1. 社会にあるルールは誰が作っているのかを考えさせる。
  2. 2.ルールに関する仕事にどのようなものがあるかを理解させ、その仕事を分担する理由について考えさせる。

第2回 指導要領

段階 主な発問・学習活動
児童から予想される発言
指導上の留意点
導入
【5分】

クラスのルールはどうやって決めていますか

<予想される回答>

  • 自分たちで話し合って決める
  • 前の時間では、街や社会で安心して生きていくためにルールがあること、ルールは、習慣や道徳や合意から生まれるものであることを思い出させる
  • 習慣や道徳からルールがうまれるためには長い年月が必要であり、またその範囲もはっきりしないことが多いので、合意でルールを決めるようになってきたことを指摘する
展開(1)
【10分】

ルールのない町を読んでみましょう

町の全員で話し合ってルールを決めようとしたらどうなりましたか

  • いろいろな意見が出てまとまらなかった

ルールを一人の人に作らせないのはなぜでしょうか

  • いじわるな人だと困る
  • 一人だと自分の趣味嗜好に走る
  • 大勢で考えた方がいいものができる
  • ルールのない町のプリントを配る
  • 児童に読ませてもよい
  • クラスのルールなら全員で決めることができるが、町全体だと難しくなることを理解させる
  • お話に出てくる理由だけでなく様々な理由を考えさせる
展開(2)
【10分】

ルールに関係する仕事にはどのような仕事があるでしょうか

  • 立法府(議会・国会)
  • 行政府(内閣・町役場・警察)
  • 司法(裁判所)

適宜、裁判所と警察の役割の違いを説明する

  • 回答がでにくいときは、交通ルールを例にとって、赤信号では渡れないというルールを作るのは誰か、赤信号は誰が設置するのか、赤信号に違反したらどうするのかと具体的に質問する
展開(3)
【10分】

あなたらならルールのない町にどのような制度を作りますか

  • 議院内閣制
  • 大統領制
  • 自由に考えさせる
  • 国と地方の政治制度の違いに触れる
  • ルールのない町では、議員5人からなる町議会(ルールを作るグループ)、町長1人(ルールに従い町の仕事をする代表者)、裁判官1人(争いを解決する人)を決めることになる
まとめ
【10分】

同じ人たちが、ずーっと権力を握っているとどうなるでしょうか

  • 自分たちの都合でルールを作ってしまう
  • 少数者の利益を考えなくなる

ルールを作るのも守らせるのも同じ人たちだったらどうなるでしょうか

  • 自分たちに都合のいいようにルールを運用する危険がある

これらのことから、日本の政治では、立法・行政・司法の三権をそれぞれ別の人たちに担わせるとともに、特に立法府の議員は選挙によって選ばれていることを説明する

  • 最初に、ルールは、わたしたちの行動に影響を与えるものであり、ルールを作る人・守らせる人には私たちに影響を与える力、すなわち権力があることを説明する

 

第3回 今回の目標

  1. ルールが正しいかどうかを評価する知的ツールを理解する
  2. おかしなルールがあれば、無視するのではなく、正しいルールに変更しようとする意欲・態度を身につける

第3回 指導要領

段階 主な発問・学習活動
児童から予想される発言
指導上の留意点
導入
【5分】

みなさんの身の回りにあるルールでなんか変だなと思うルールはありますか

おかしなルールには従いますか

  • 従う
  • 従わない
  • 裁判所へ訴える
  • 一応従うが改正する
  • 自由に回答させる
  • 利用可能な変なルールの例があれば、最後のまとめのときに使うよう覚えておく
展開(1)
【15分】

ルールが正しいものかどうかワークシートに従って判断してみましょう

  • ワークシートを配る
  • ルールが正しいものかどうかは内容の他に作られ方も問題になるが、ここでは先生が作ったということで作られ方に問題はない
  • ルールには作られた目的があり、ルールが正しいかどうかを判断するには、まず目的と内容を正確に理解することが前提である

<例題 1>
給食時間中に大声で話す生徒がいるので、先生は「行儀よくしなければなりません」というルールを作りました。

  • 意外と肯定的な意見がでるかもしれない
行儀よくするというのはどういう意味か考えさせ、みんなが同じように理解できるものでなければならないと説明する

<例題 2>
生徒たちが健康になるように先生が「1日100キロのマラソンをしなさい」というルールを作りました

  • ほとんどの人は無理
みんなが守れるルールでなければならない

<例題 3>
虫歯の子が増えたので先生が「虫歯にならないようマスクをしなさい」というルールを作りました

  • 関係ない
目的を達成できない内容ではいけない
展開(2)
【15分】

ルールのない町を読んでみましょう

お菓子を食べてはいけないというルールについてどう思いますか

  • お菓子が食べられないのはおかしい

ワークシートに従って判断していきましょう

お菓子を作ったり売ったりしてはいけないというルールはどうやって作られたのでしょうか

  • 町議会で決まった

ルールの作り方に問題はなかったでしょうか

  • 代表者が決めたのだから問題ない
  • リエたちが知らない間に決まったのはおかしい

目的はなんですか

  • 虫歯をふせぐ

その目的は正しいですか

  • 正しい

ルールの内容はなんですか

  • お菓子を作ったり売ったりしてはいけない

誰にでも理解できますか、平等ですか

  • 理解できるし、平等は平等

この内容で目的を果たせますか

  • お菓子を食べなくても虫歯になる人はなる
  • お菓子を食べなければ虫歯になる率は低くなるかもしれない

このルールは必要ですか

  • お菓子を作ったり売ったりする人が困る
  • お菓子を食べる自由がある
  • お菓子を食べても歯磨きをすれば虫歯にはならない
  • 回答がでにくいときは、交通ルールを例にとって、赤信号では渡れないというルールを作るのは誰か、赤信号は誰が設置するのか、赤信号に違反したらどうするのかと具体的に質問する
  • ルールのない町のプリントを配る
  • 児童に読ませてもよい
  • 代表者が作ったもので基本的には問題はないはずだが、リエたちが知らない間にできた点に気づかせる
  • 内容とセットにして正しくないと答える可能性もあるので、その場合は、目的だけを考えてもらう
  • 目的を達成できない内容かどうかは微妙なところがあることを気づかせる
まとめ
【5分】

自分たちの周りにあるルールで変だなと思っているルールがあれば、今日のワークシートに従って本当に必要かどうか考えてみよう

必要がないルールであれば廃止したり、改正したりしよう

  • 冒頭の質問で使えるルールがあればあてはめてみる



中学生向け 体育館争奪戦 ルール作り~「対立と合意、効率と公正」を踏まえた紛争の上手な解決

授業の目標

1.紛争解決手続としての「対立と合意」および「公正」、ならびに、紛争解決基準としての「効率と公正」という考え方を理解する。


2.状況の変化に応じてルールを作る(または作り変える)という柔軟な思考を身に付けた上で、紛争解決技能としての「問題の整理」「よく聴き、よく伝える」という技能を使いこなしながら、自分とは意見を異にする他者とコミュニケーションをとって望ましいルールについての合意を形成する。


3.ルール作りの体験を通じてルールを身近なものと感じることで、ルールに対する肯定的・動態的・主体的な認識を形成し、公共的な事柄に参加する民主主義の精神と、自分たちが作ったルールを積極的に守ろうとする規範意識を育む。


学習指導要領における位置づけ

2017年(平成29年)告示 中学校学習指導要領社会科公民的分野(2)内容


A 「私たちと現代社会」


「(2)現代社会をとらえる枠組み」は、「対立と合意、効率と公正などに着目して、課題を解決したりする活動を通じて」、ア知識に関して、「(ア)現代社会の見方・考え方の基礎となる枠組みとして、対立と合意、効率と公正などについて理解すること、(イ)人間は本来社会的動物であることを基に、個人の尊厳について理解すること」を、イ思考力・判断力・表現力に関して、「(ア)社会生活における物事の決定の仕方、きまりの役割について多面的・多角的に考察し、表現すること」を求めている。


教材(1時間構成)

第1回 指導要領

段階 学習活動 指導上の留意点
導入
【5分】

・5人組の班を作る。


・生徒会、バレー部、バスケ部、卓球部、フットサル部の役割分担を決める。


【ワークシートを配布】

・クラスの人数によっては、生徒会役を抜いて、4人組の班にしてもよい。


・解説中では、文章の流れの便宜上、授業の途中で役割分担を行っているが、実際の授業では、グループ分けと同時に役割分担も行ってしまうのがよいであろう。


展開(1)
【10分】

・物語・登場人物を朗読する


・フットサル部の新設により、体育館の使い方を巡ってクラブ間で紛争が起きたことを理解する(WS1①)。


・紛争解決の手続としてのルール作り=手続を尽くした話し合いの結果、合意がまとまれば、対立が解消されて、紛争が解決することを理解する(WS1②)。


・関係者全員が手続に参加して、十分に話し合うことが重要であることに気づく。

・体育館の見取り図もよく頭にいれさせること。


・紛争解決手続としての「対立と合意」である。


・このとき、法がなかったらどうなるかを具体的に考えさせることで、「法」に対する否定的認識を肯定的認識(「法」があることで、幸福・豊かに暮らせること)へと転換させる。


・また、「作る」という点を強調して、「法」に対する静態的・受動的認識を動態的・主体的認識(「法」は自ら作り、作り変えることができること)へと転換させる。


・紛争解決手続における「公正」=手続的正義。


展開(2)
【10分】

・紛争解決の技能として、問題の状況を整理する(WS1③)。


・自分の担当するクラブがどの時間、どの場所を使いたいか、理由とともに考える(WS2)。

・いきなりロールプレイを行うと、うまく参加できない生徒が出てくるので、一人で考えを整理するための時間をとることは重要。


・その上で、2時間授業で実施する等時間が許すのであれば、この段階で一度、例えば、バレー部ならバレー部役の生徒全員が集まるというように、同じ役割同士で集まって作戦会議をする時間をとるとよい。ロールプレイ時の発言が苦手な生徒へのフォローになる。


・最低限、自分の担当するクラブについては強く出られる点と出られない点をまとめさせる。そのうえで、時間に余裕があれば、他のクラブについてもまとめさせる。


・生徒は各クラブの代表者だから、十分な練習時間がとれないと他の部員が残念に思うことを強調して、ロールプレイでしっかり主張するように仕向ける。


展開(3)
【20分】

・各役割を持つ生徒を1名ずつ集めた班を作って、どのクラブが、どの時間、どの場所を使うか、紛争解決の技能としての「よく聴き、よく伝える」という技能を使いこなしながら、話し合う(WS3)。


・班ごとに討論の結果合意したルールと理由・ポイントを発表する。


・紛争解決の基準として、効率と公正(平等)について理解する。

・各班に各役割を1名ずつ配置することで、傍観者をなくして、生徒に積極的な参加をさせることができる。


・時間がなければ、机間巡回の結果を踏まえて、教員の側で発表する班を指名する。


・理由については、箇条書きで答えさせるとよい。


・生徒の発表の中から、教員の側で、「効率と公正」に関してポイントとなる回答を指摘し、よいルール、すなわち効率的なルールになっているか、本当に公正(平等)なルールになっているかを問い直す。


・適当な答えがない場合に備えて、教員の側で、あらかじめ、解説中の生徒会案を用意しておいて、先生が考えたこの生徒会案はどうだろうという形で生徒に問いかけするのも有用である。


・「効率」とは、時間や空間といった有限な資源についての配分が無駄のないようになっていることをいう。


・解説文にあるように、もし1時間ごとに使用するクラブが変わるようなルールを作っている班があれば、スムーズに「効率」の議論を展開できる。また、バレー部またはバスケ部が前半分・後半分ともに使用するようにルールを作っている班があれば、少なくとも試合形式の練習をする限りにおいては4面全部のコートを使用することはないという点で「効率」の議論を展開できると思われる。さらに、デッドスペースになり易い隅のスペースについても「効率」の議論は展開しやすいであろう。


・「平等」とは、同じものは同じように扱い、違うものはその違いの程度に応じて違うように扱うことをいう。具体的には、必要性、貢献度、能力の違いに応じて違う扱いをすることである。


・解説文にあるように、フットサルが競技の性質上試合を行うのに広いスペースを必要とする点をとっかかりにすれば、「平等」の議論をスムーズに展開できるはずである。


・2時間授業で実施する等時間が許すのであれば、この段階まで進んだ後に、再度、班ごとにわかれて「効率と公正(平等)」を意識したルールを作らせると学習効果が高まる。


まとめ
【5分】

・ワークシートまとめに本時の学習事項を記入してまとめる(WSまとめ)。

・ルールが必要なのは、幸福・豊かに暮らすため(①)。


・ルールは、関係者全員が参加して、十分に話し合うという手続で決めるとよい。「対立」状態は、「手続を尽くした公正な話し合いによる合意」が成立すれば解消されて、「紛争の解決」につながる(②)。


・紛争解決の基準(内容)としては、「効率」的かつ「公正(平等)」なルールがよい(③)


・「効率」とは、時間や空間という有限な資源についての配分が無駄のないようになっていること(④)。


・「平等」とは、同じものは同じように扱い、違うものはその違いの程度に応じて違うように扱うこと(⑤)。



icon_pdf.gif【指導案】体育館争奪戦 (PDFファイル;198KB)
icon_pdf.gif【解説】体育館争奪戦 (PDFファイル;800KB)
icon_pdf.gif【ワークシート】体育館争奪戦  (PDFファイル;613KB)



高校生向け みんなで決めるべきこと、決めてはならないこと-民主主義と基本的人権の尊重-

授業の目標

1.みんなのことはみんなで決めるべきこと(民主主義)、みんなのことは十分な話し合いを経た多数決により決めるのが原則であること、ならびに、日本国憲法がみんなのことをみんなで決めること(民主主義、国民主権)、みんなで決めてよいこと・決めてはならないこと(基本的人権の尊重)およびみんなで決める仕組み(統治機構)を定めたものであることを理解する。


2.みんなのことか・個人のことかという基準を活用してみんなで決めるべきこと・決めるべきではないことの区別を、また、個人の尊厳を害するような著しい不利益を科すか・不平等かという基準を活用してみんなで決めてよいこと・決めてはならないことの区別を、それぞれ適切に判断できるようになる。


3.身近な問題から導き出した民主主義と基本的人権の尊重の考え方が、国政(日本国憲法)でも同様に当てはまることの理解を通じて、社会的決定の在り方に広く関心を持ち、民主的な決め方を実践する態度を身に付ける。


学習指導要領における位置づけ

中学校:2017年(平成29年)告示社会科公民的分野「C私たちと政治」「(1)人間の尊重と日本国憲法の基本的原則」


高校:2018年(平成30年告示)公民科・公共「A(3)公共的な空間における基本的原理」「Bア(ア)憲法の下、適正な手続きに則り、法や規範に基づいて各人の意見や利害を公平・公正に調整し、個人や社会の紛争を調停、解決することなどを通して、権利や自由が保障、実現され、社会の秩序が形成、維持されていくことについて理解すること」、政治経済「A現代日本における政治・経済の諸課題」「(1) 現代日本の政治・経済」


教材(2時間構成)

第1回 今回の目標

1.みんなのことはみんなで決めるべきこと(民主主義)、みんなのことは十分な話し合いを経た多数決により決めるのが原則であることを理解する。


2.みんなのことか・個人のことかという基準を活用してみんなで決めるべきこと・決めるべきではないことの区別を適切に判断できるようになる。


第1回 指導要領

段階 学習活動 指導上の留意点
導入
【5分】

【WS1・2枚目を配布】
(WS1)
・クラスで何かを決めた経験と起きた問題を思い出す。


・一人ひとり違う人間が集まって一つに決めようとすると摩擦が起きるのが当然という問題の所在に気づき、WS1に「一人ひとり大切にしながら(個人を尊重しながら)一つに決める」と記入する。

・弁護士とともに授業をする場合、弁護士は自己紹介をする。


・一人ひとりみな違っていて誰一人として同じ人間はいない。その一方で、人間は社会的動物であり一人では生きていけない存在である。これは、法の持つ人間観である。


・本授業全体を貫くテーマなので、折に触れて、このテーマに戻ってくること。


展開(1)
【5分】

(WS2)
・一人ひとりを大切にしながら一つに決めるための一つ目の工夫として、みんなで決めることを理解する。


・みんなで決めることを民主主義と仮に定義づけ、WS2の後半分に「みんなで決める(=民主主義)」と記入する。

・理由付けとして、一人ひとりを大切にするためには、一人ひとりの集まりである構成員全員が決定に関わらなければならないという点に必ず触れること。


・民主主義の正確な定義は、展開(3)で明らかになるので、WS2の前半分は空けておく。


展開(2)
【20分】

(WS3)
・じゃんけん、話し合い(だけ)、多数決の長所・短所を整理し、WS3(1)に記入する。


・一人ひとりを大切にしながら一つに決めるための二つ目の工夫として、「よく話し合いをして、どうしてもまとまらなければ多数決を行う」ことを理解し、WS3(2)に記入する。


・話し合いというのは、話し合いだけで決めること=全員一致であることを示唆する。その上で、話し合いだけによる決定の問題点として、技術的困難のみならず、個人の尊重や平等に反する場合があることに触れること。


・解答例は、解説参照。


・熟議+多数決の理由付けについては、話し合いも多数決もともに万能ではないことを踏まえたうえで、一人ひとりを大切にすることと関連付けて理解させることが重要。すなわち、民主主義の根っ子には、個人の尊重と個人の平等という考え方があることまで遡って理解させることが重要である。解説参照。


展開(3)
【30分】

(WS4)
・WS4(1)の各問題について、まず、各自の考えを記入し、次に、グループで話し合う。


・一人ひとりを大切にしながら一つに決めるための三つ目の工夫として、みんなで決めるべきこと・決めるべきではないことの区別があること、及び、その区別はみんなのことか・個人のことかという基準で行われることに気づき、WS4(2)にその旨記入する。


・みんなのことをみんなで決めることを民主主義と正確に定義づけたうえで、WS2の前半分に「みんなのこと」と記入する。

・一人で考える時間をとることで、話し合いで傍観者になる生徒が生じるのを防ぐ。


・解答例は次のとおり。

①係の人選

みんなのこと
②図書室で借りる本 × 個人のこと
③旅行バスの座席 みんなのこと
④ダンスメンバー × 個人のこと
⑤クラス劇の演目 みんなのこと
⑥全員マスク着用 みんなのことor個人のこと

・みんなのことか・個人のことかという基準については、生徒の答えの中から「みんな」「個人」というキーワードを教員の側で指摘して誘導することが必要かもしれない。


・このような考え方を公私区分(二分)論という。


第2回 今回の目標

1.日本国憲法がみんなのことをみんなで決めること(民主主義、国民主権)、みんなで決めてよいこと・決めてはならないこと(基本的人権の尊重)及びみんなで決める仕組み(統治機構)を定めたものであることを理解する。


2.個人の尊厳を害するような著しい不利益を科すか・不平等かという基準を活用してみんなで決めてよいこと・決めてはならないことの区別を適切に判断できるようになる。



第2回 指導要領

段階 学習活動 指導上の留意点
展開(4)
【15分】

(WS5)
・WS5(1)の各問題について、まず、各自の考えを記入し、次に、グループで話し合う。


・一人ひとりを大切にしながら一つに決めるための四つ目の工夫として、みんなで決めてよいこと・決めてはならないことの区別があること、及び、その区別は個人の尊厳を害するような著しい不利益か・不平等かという基準で行われるにこと気づき、WS5(2)にその旨記入する。

・解答例は次のとおり。

①車酔いひどい人のバス座席後ろに × 著しい不利益
②嫌な係を特定人にだけ任せる × 著しい不利益+不平等
③劇への参加を嫌がる人に役を与える 嫌がる程度等著しい不利益・不平等かによる

・不平等という基準はともかく、個人の尊厳を害するような著しい不利益かという基準については、とても大きな不利益が生じる程度の回答が生徒から導ければ十分で、そこから先は教員の側で提示することになると思われる。難しい言葉にはなるが、一人ひとりを大切にする=個人の尊重と結びつけるキーフレーズなので、できるだけ誘導したい。


展開(5)
【20分】

【WS3・4枚目を配布】
(WS6)
・WS6の各問題について、まず、各自の考えを記入し、次に、グループで話し合う。


・国政レベルでも、みんなで決めてよいこと・決めてはならないことの区別があること、及び、その区別の基準が同様に妥当することに気づく。

・解答例は次のとおり。

①ギャンブル必勝法の出版禁止 × 個人のこと
②政府批判する新聞の報道禁止 × 個人のことorみんなのこと+著しい不利益あり
③宗教の信仰 × 個人のこと
④一人ひとりに適した結婚相手を決めること × 個人のこと
⑤傷害犯の処罰 みんなのこと
+犯罪者に著しい不利益なければ〇
⑥国民年金制度 × みんなのこと+保険料が著しく高額でなければ〇
展開(6)
【5分】

(WS7)
・WS7の図について、空欄を記入し、民主主義と基本的人権の尊重の関係について視覚的にも理解する。

・解答例は解説参照。

展開(7)
【10分】

(WS8)
・日本国憲法がみんなのことをみんなで決めること(民主主義、国民主権)、みんなで決めてよいこと・決めてはならないこと(基本的人権の尊重)及びみんなで決める仕組み(統治機構)を定めたものであることを理解する。


・日本国憲法における、民主主義・国民主権、基本的人権の尊重及び統治機構(立法権、行政権、司法権)の現れ(条文)をグループで探し、WS8に記入する。

・みんなで決める仕組み(統治機構)の説明:立法権=みんなで決める仕事、行政権=みんなで決めたことを実行する仕事、司法権=決めてよいことと決めてはならないことの区別が守られているか、決められたことが適切に実行されているかを判断する仕事。なお、司法権には、ここで書いている違憲立法審査権の他にも、通常の事件の裁判をするという仕事もある。


・憲法の条文を見ながら作業させるとよい。


・解答例は次のとおり。
 ・民主主義・国民主権:前文1段、1条
 ・基本的人権の尊重:3章
 ・統治機構:


-立法権4章 -行政権5章 -司法権6章


まとめ
【5分】

・本授業の学習内容を確認する。

・本授業を終えてから、憲法の各論の授業を行うと学習効果が高まる。


icon_pdf.gif指導案 (PDFファイル;275KB)
icon_pdf.gif解説 (PDFファイル;1.02MB)
icon_pdf.gifワークシート (PDFファイル;348KB)