国際機関就職支援 インタビュー 相澤 和美 会員

世界銀行グループMIGA法務部でのインターン・短期コンサルタントとしての経験

私は、さいたま市の一般的な国内事件を扱う法律事務所で3年間弁護士としての経験を積んだ後、2002年からワシントンDCにあるジョージタウン大学のロースクールに留学しました。卒業後、ニューヨーク州の司法試験に合格し、2003年10月から2004年6月まで世界銀行グループの一機関であるMIGA(Multilateral Investment Guarantee Agency。多数国間投資保証機関。在ワシントンDC)の法務部にてインターンおよび短期コンサルタントとして執務しました。


私がMIGAに勤めたきっかけは、ロースクールの教授の紹介です。ロースクールの卒業を控えて、実務研修先探しについて、教授に相談しました。彼は、元大手ローファームのパートナーだった人で、以前の部下がMIGAの法務部で働いており、人を探しているようなので、紹介してくれることになりました。教授からは、MIGAのHPを事前によくリサーチして、2、3本は関連論文なども読みMIGAのかかえるlegal issueについて一応の議論ができる程度の準備をした上で面接に臨むようにとのアドバイスを受けました。このアドバイスがきいたのか、教授の元部下がなかなか政治力のある人だったためか、何とか採用してもらうことができました。


MIGAは、海外直接投資を推進することによって発展途上国の経済発展および人々の生活の向上を図ることを目的とする国際機関で、主な業務は、発展途上国に投資をする企業等に対して海外投資保険を販売することです。具体的には、投資先の国で戦争や内乱あるいは法の恣意的な改正等により正義にかなった裁判による救済が図られないなどのpolitical riskが生じた場合に保険金を支払うという仕組みです。スタッフの数は130人程度で、法務部は、当時はGeneral Counselを筆頭に7人の弁護士(国籍は、スペイン、スリランカ、インド、アメリカ、アルゼンチン、フランスなどさまざまでした。)で構成されていました。これに、加えて私のほか3人の短期コンサルタント(全員LL.M取得者)や秘書などで業務を行っていました。


私は、主に、保険契約の締結および保険金請求事案の処理を行う弁護士のサポートをしました。特に保険契約のリスクを審査するために、投資先の国の法制度や投資関連の法律および条約の調査に多く関わりました。日本法を扱うことはほとんどなく、MIGAの設立条約その他の条約および投資先の国の法律等を対象に仕事をしました。また、契約上の問題(たとえば契約の成立の有無、契約締結上の過失の有無あるいは保険金支払義務の存否)などが争点になる場合には、ニューヨーク法の判例が問題になりました。このように日本法の知識は直接的には役立ちませんでしたが、弁護士としての法律解釈および紛争解決の経験は、非常に役立ちました。もちろん、各国でプラクティスする際には、local lawの知識が必須ですが、それを超えた法律家としての資質は万国共通であると実感しました。この意味において、日本の弁護士は法律家として素晴らしいスキルがあり、全体的に大変優秀であると私は信じており、国際機関においても大きな力を発揮できると感じています。


私は、現在外資系の会社の法務部でインハウス・カウンセルとして執務していますが、MIGAで得た、multiculturalな環境の下で外国人の同僚と仕事をするという経験が日々の業務に役立っていると思います。


事後談なのですが、アメリカから帰国した後、IMF(国際通貨基金)の法務部で弁護士の募集があり、日本人の友人が同法務部で私と同時期にインターンをしていた関係で、私に声をかけてくれたことがありました。応募したところ、ショートリストに残り、ワシントンDCまで面接に行きましたが、採用の決定を待っている間に現在の職場からオファーがあったために、現在の職場に就職を決めました。国際機関での就職にあたっては、こういった紹介(いわゆるコネ)がとても重要だと感じます。日本人で、官庁や銀行などから出向している職員の方や現地採用の職員の方、外国人の弁護士などとネットワーキングして、こういったコネを作っていくと、就職活動に役立つと思います。


国際機関において、日本は、国の拠出金等プレゼンスの割合に比べて日本人職員の数が少ない状態が続いており、常に日本人職員採用の動機は存在しています。ただし、この動機が個々の採用に必ずしも結びついていないのが現状のようにも見えます。もっと多くの日本人弁護士が国際機関で活躍することを願っています。