国際機関就職支援 インタビュー 神木 篤 会員(岩手)

外国で働く途を模索して
~カンボジアでユニセフ・プロジェクトのアドバイザーとして勤務

はじめに

私は2000年7月~12月まで、カンボジア弁護士会とUNICEFのLRCNSP(Legal Representation for Children in Need of Special Protection) に、アドバイザーとして勤務した経験がありますので、これについて報告をします。なお、私のポジションは、UNICEFの職員ではなく、プロジェクトのアドバイザーという形であり、この点で国際機関勤務という形ではありませんが、このような方法でも日本の弁護士の活動の余地があるという意味での情報提供にはなるかと考えています。しかも、このような形での勤務は日本の弁護士活動とも両立しやすいという点でも参考になるのではないでしょうか。


プロジェクトの概要

プロジェクトの概要としては、カンボジアの恵まれない子どもに法的な保護を与えることを目的とするものであり、この中には子どもが事件の被害者となった場合も加害者となった場合も含まれます。そのカンボジアの子どもたちの状況を把握するために、カンボジアの法廷に刑事事件の傍聴に行く、カンボジアの各地の孤児院・少年院・刑務所の見学、地方の弁護士事務所の活動状況の見学と意見交換などを行っていました。また、これらの活動を通して、カンボジア人弁護士がどのような活動を行うべきか、またはできるかについて意見交換を行い、弁護士の役割の拡大を図ることも行っていました。


ポスト探し

私の場合は、外国で働きたいという希望を持っていましたが、具体的にはどのようにしたらよいか解りませんでした。知人からJICAの関係者を紹介してもらい、初めは青年海外協力隊調整員の試験を受けたり、またJICAで当時おこなっていた法整備支援専門家養成研修に参加したりし、また協力隊調整員としての派遣待ちの期間中に、北京に語学留学をしたりしていました。そうしてこの北京での語学留学中に法整備支援専門家養成研修で一緒に研修をしていた友人の弁護士から、このプロジェクトの情報を聞き応募したところ採用されたのです。このように私がカンボジア弁護士会で働くまではいろいろな紆余曲折があり、必ずしも順調に希望が叶えられたわけではありません。弁護士が海外で働くことには、今でも確立した方法があるわけでもないでしょうから、本当に外国で仕事をしたいと考えているならば、多少長期間のスパンで探し、とにかくアンテナを張っておくことにつきるのではないかと思います。ただ、今日では、日弁連では国際司法支援活動登録制度があり、国際協力を希望している弁護士に対して情報提供を行っています。この登録をしておくと日弁連から案件が送られてきますので、これに応募することができます。この点で外国で働くための条件は、ずいぶん改善されたのではないかと思います。


また、当然のことですが、自分の専門性を磨いておくことはポストを得る上でとても大切なことです。私がこのポストを得た理由は、私が所属していた沖縄弁護士会で子どもの権利委員会の委員長をしていたということもありました。


待遇

待遇は日本の弁護士活動と比較して、決して好待遇とはいえません。私は月給2000ドルでしたから現地での生活費や日本での弁護士会費を支払えば明らかに赤字です。とはいえ、カンボジア人スタッフ弁護士は月給が300ドルでしたから、私の給料はカンボジア人から比べると破格の好待遇だったのでしょう。


興味を持つということの重要性

多くの場合、私がカンボジア弁護士会で働いていたような形での勤務経験による収入は、日本国内での弁護士活動による収入とは比べものにならないくらい低いものでしょう。従って、日本の弁護士は経済的な目的から私のような道を選ぶことはないでしょうから、その仕事に対する興味を持つということが一番重要なことだと思います。私が国際的な活動を具体的に考えたのは、司法修習前のバックパッカーとしての経験が元になっています。この旅行で、本当に当たり前のことですがいろいろな人生があること、どのような人生を送るのがもっともよいかということは誰にもいえないことが実感できました。ですから、私が弁護士をするとしても、たとえば40年間日本で弁護士をするのであれば、35年間日本国内で弁護士をやって、5年間を外国で働いてみた方がおもしろいのではないかと考えました。このように好きなことをするのであれは、多少収入は低くても満足できるものです。


このような経験の弁護士としてのキャリアに対する影響

このような経験が日本の弁護士活動になんかの役に立つのかと考える方はたくさんおいでになると思います。この点については、ひとえに自分がどのような弁護士となることを考えているかによるのではないでしょうか。当たり前ですが、私のような経験が日本国内の通常の弁護士活動を行う場合に何か役に立つかといえば、基本的には役には立たないでしょう。しかし、私が現在カンボジアの法整備支援専門家として働いていますが、カンボジア弁護士会勤務経験は私のこの現在の仕事に大きな影響を及ぼしています。もしカンボジア弁護士会勤務経験がなければ、きっと私が今でもカンボジアに関わっていることはなかったでしょう。その意味では、ある仕事がその後のキャリアに生かせるかどうかということはその人がどのような進路を選ぶかによります。日本の国内の弁護士活動以外にもいろいろな道があり、それは、私がそうであるように、あなたにとっても自分の弁護士としての道を大きく左右するような意義深い経験ができるということだけでもお伝えできればと思います。