国際機関就職支援 インタビュー 山本 晋平 会員

国連人権高等弁務官事務所 (ニューヨーク) でのインターン

私は、 2006年10月から国連・人権高等弁務官事務所 (OHCHR) のニューヨーク事務所で4カ月間のインターン経験を得た。 「国際関係が目に見える」 貴重な機会であった。


OHCHR ニューヨーク事務所とは?

国際連合の本部はニューヨークにある一方、 その事務局に属するOHCHRは、 本部をジュネーブに有する。 OHCHRのニューヨーク事務所は、 国連本部ビルの29階にあり、 OHCHRジュネーブ本部から見てニューヨークでの窓口・出先の性格を持つ。 ただし、 近時、 国連の各文書で 「人権の主流化」 がうたわれ (1) 、 2005年世界サミットで 「平和・安全保障、 開発、 人権」 が国連システムの3本の柱であることが確認される (2) といった流れの中、 ニューヨークの他の国連部局・諸機関 (いわゆる国連ファミリー) とOHCHRの連携局面が増え、 同ニューヨーク事務所の役割は年を追って重要なものとなっている。


インターンの仕事 その1 

ここでのインターンの仕事を二つに分けて述べてみたい。 一つは、 インターンの通常業務というべき、 電話受けと郵便の仕分けである。 日本の各弁護士会の人権救済申立ての窓口を想像していただければ、 イメージを持っていただきやすいと思う。


例えば、 カナダ滞在中で幼い子がいるというウガンダ人女性の電話。 翌日に入管当局が退去強制に来る、 夫が帰国後に殺害され、 女性も帰国すれば危ないという。 私は、 その問題は難民高等弁務官事務所 (UNHCR) が担当である旨伝えて連絡先を教え、 難民問題の有力NGOの連絡先も伝えた。 念のため、 OHCHRのウガンダ担当とカナダ担当の各専門官に情報提供として経緯を伝えた。 ニューヨーク事務所にできるのはここまでである。


インターンの仕事 その2

その2は、 いわば 「季節もの」 である。 通常ニューヨーク事務所は、 インターンを常時1人受け入れるが、 繁忙期、 すなわち、 国連総会が会期中で、 人権問題を扱う第三委員会が開かれる10月から12月の間は、 2人受け入れるのを通例としている。


私がかかわった事柄はおおむね5つ。 ①第三委員会と特別報告者、 ②世界人権週間、③OHCHRの予算、④アジア各国の人権状況のフォロー、⑤障害者の権利条約交渉会合、 である。 紙幅の関係で、 ①②⑤に絞って述べる。


①第三委員会の会期中には、 特別報告者 (Special Rapporteur) の多くが同委員会での報告を行うためニューヨークを訪れるが、 滞在中、 各国の大使やNGOと会うこともあり、 シンポジウムのパネラーにもなる。 私は、 健康の権利の特別報告者ハント氏、 北朝鮮の人権特別報告者ムンタボン氏、 人種差別等の特別報告者ディエン氏の付添いをして、 外交の一こまを垣間見る機会に恵まれた。 3人は専門的知識に優れるだけでなく、 人格的にも高潔で、 また親切であった。 専門家としてインパクトある仕事をするため独立性・中立性に細心の注意を払いながら活動する姿に敬意を抱かざるを得なかった。


②毎年12月の世界人権週間にあわせてOHCHRは企画やキャンペーンを行うが、 この年には、 人権高等弁務官ルイス・アルブール氏が、 以前に旧ユーゴスラビア国際刑事法廷の検察官を務めた姿をドキュメンタリーにした映画の上映があり、 私は準備を手伝った。 また、高等弁務官は、 この年の週間メインテーマとして 「拷問」 を選び、 記者会見で、 グアンタナモ等での米国による収容者の処遇を暗に厳しく批判した。 国際法廷の検察官も、 高等弁務官も、 国際政治の荒波の中での職務だが、 カナダ最高裁判事の経歴をもつ彼女は、 政治的文脈をおそらく十分に理解しつつ、 あくまで中立的・法律的な議論を貫くことで職務を全うせんとしていると見え、 感銘を受けた。


⑤障害者の権利条約の交渉会合は、 個別の論点の議論も興味深かったが、 それ以上に、 複雑な多国間交渉の展開が印象的であった。 議長を務めたニュージーランドの大使のリーダーシップ、EU議長国だったオーストリア代表団の活発な役割 (EU内部の意見を調整しつつ、NGOの意見も聞きながら、 積極的に発言し交渉を引っ張ろうとする)、 そして、出席していた多数のNGOが果たした重要な役割、 いずれも大変に印象的であった。


インターンになって

OHCHRウェブサイトに情報があるが、 そのインターン採用過程は、 他の国連ファミリーとは基本的に独立している。 掲載された要件に文字通りとらわれる必要はないが、 むしろ競争は厳しい。 私の場合、 紹介の労をとっていただいた大谷美紀子弁護士、 私が所属する古賀総合法律事務所の鈴木五十三弁護士、 ニューヨーク事務所の小野島吾郎氏など人の縁に恵まれたことを抜きに語れない。 紙面をお借りして感謝申し上げる。 加えて、 申込みのカバーレターの出来と熱意とが採用につながった要因だと思う。 あの場での貴重な経験は書き尽くせないが、 最後にあえて触れたいのは、 国連でのインターンは即戦力に準ずる形で、 ある程度システムに組み込まれ、 また、 国連や他の国際機関の正式職員への1ルートとしても機能している点である。 多くの若手弁護士が、 今後、国際機関でのインターンを一つのステップとして経験を積むことを希望して、 筆をおく。