エセックス大学ロースクール留学体験記

目次

エセックス大学ロースクールLLM国際人権法コース卒業  芝池俊輝 会員

私は、2007年10月から1年間、エセックス大学LLM(国際人権法専攻)に留学しました。2002年に弁護士登録した後、日弁連国際人権問題委員会の委員や、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウの事務局スタッフとして国内外の様々な人権課題に取り組む中で、国際人権法に関する専門的な知識とスキルを身につけたいと考えたのが留学の動機です。

 

エセックス大学は、世界で最も古くに国際人権法のコースが設立された大学として知られており、現在では、世界各国から、研究者だけでなく、弁護士、NGO関係者、国際機関の職員といった多くの実務家が最先端の国際人権法を学ぶために集まって来ています。教授陣は、バリスター(法廷弁護士)としてヨーロッパ人権裁判所で活躍するほか、国連の自由権規約委員会委員、社会権規約委員会委員、拷問禁止や健康に対する権利などの国連特別報告者、国際NGOの法律顧問などを務めた経験を持つ方ばかりで構成されています。そのため、国際人権のコミュニティにおいて、エセックスの人脈は圧倒的な力を持っています(「エセックスマフィア」と呼ばれています。)。

 

LLMの国際人権法コースでは、国際人権法の基礎理論を習得することを目的とした必修のジェネラルセミナー(通年)と選択科目4つを履修し、修士論文を提出することによって学位を取得することができます。ジェネラルセミナーでは、差別の禁止、表現の自由、労働者の権利などの身近なものから、拷問、恣意的拘禁および強制的失踪、非合法的殺害と生命に対する権利といった日本人には比較的馴染みの薄いテーマまで広く扱われます。クラスメートの多くが人権水準の低い国で活動する弁護士や活動家ということもあって、(国家による組織的な)拷問・失踪・殺害といった話になると、それぞれの国の状況をめぐって白熱した議論が繰り広げられていました(私は蚊帳の外)。選択科目には、国際人道法、国際刑事法、国際平和協力法、経済的・社会的及び文化的権利(社会権)、難民法、子どもの権利(国際家族法)、女性の権利、ヨーロッパ人権条約、マイノリティの保護、開発と人権、ビジネスと人権、環境法、移行期司法などといった国際人権法に関係するテーマが網羅的に取り揃えられており、よりどりみどりです。私は、発展途上国の人権問題、平和構築、国際家族法の分野に関心があったことから、開発と人権、社会権、国際刑事法、子どもの権利を選択しました。選択科目の授業は少人数のゼミ形式で行われ、膨大なリーディングリストとヨーロッパ人権裁判所の判決や規約人権委員会の見解を予習して臨みます。授業の中で頻繁に取り上げられるヨーロッパ人権裁判所の判決の人権水準の高さは目を見張るものがあり、中でも、家族法と子どもの権利に関する判例の動きについては、日本の実務とのギャップを感じざるを得ませんでした。

 

また、国際人権法コースでは、理論と実務の融合を目指していることもあって、月に1回、ロールプレー演習が行われます。模擬裁判の国際会議版のようなイメージで、たとえば、「ある国において、分離・独立紛争にともない、政府軍によって独立支持者に対する拷問や殺害が行われ、多数の難民が発生した」というシナリオの下、国連人権理事会の特別会合で、政府関係者、NGO、国連人権高等弁務官、国連難民高等弁務官といった役割に分かれて決議案の採択に向けて議論をしたことがありました。演習の中では、国際法上の論点だけでなく、国際会議におけるプレゼンテーション・ネゴシエーションの方法から国連文書の作成方法まで学ぶことができ、極めて実践的なものでした。

 

アメリカのLLMとは違って履修科目が少なく、また、司法試験を受験するわけでもないため(イギリスでは、LLMの単位を取得しても受験資格は与えられません。)、比較的時間に余裕があります。もちろん、基本的には週のほとんどを図書館で過ごすわけですが、それでも、家族連れ留学であった私にとっては、毎日、夕方には自宅に戻って子どもとたっぷり時間を過ごすことができる夢のような生活でした。また、休みのたびにロンドンまで買い物に出かけ、長期休暇には、ドイツやデンマークに足を運んでリ

フレッシュをすることもできました。

 

最後に、これからエセックスに留学される方にアドバイスを一つだけ。授業についていくためには(留学生活を楽しむためには)、相当の語学力が必要です。アメリカ英語

に慣れた日本人にとって、(訛った)イギリス英語のリスニングは大変苦労します。ようやく慣れたと思ったら、教授とクラスメートがフランス語やスペイン語で話し始めたりもします(そうなると、もはやお手上げです。)。日本を離れる前に、ポッドキャストでBBCの番組を聴くなどして、最低限、イギリス英語に耳を慣らしておくことをおすすめします。

 

日本の弁護士にエセックスマフィアが増えることを心から期待しています。

 

エセックス大学ロースクール人権センター研究員  藤田早苗 さん

私は2001年にエセックス大学でLLMを卒業した後、同大学ロースクールの博士課程に進み研究を中心とした生活を送りましたが、それは客員研究員の経験と共通部分は多いと思います。私は弁護士ではありませんが、エセックス大学人権センターに身を置くものとして、同大学の魅力について簡単にご紹介したいと思います。

 

エセックス大学は138カ国からの留学生が学ぶ非常に国際色豊かな大学です。また、その人権センターは1983年に当時の法学部に設立され、世界でも最も歴史のある人権センターの一つとして知られています。以来、そのプログラムにより指導を受けた卒業生は1500人以上にのぼり(出身は100カ国以上)、多くが国連や欧州議会などの国際機関やアムネスティ・インターナショナルやHuman Rights Watchなどの国際NGOまた、ボスニア、コソボ、ネパール、スーダンなど内戦後の地域で活躍しています。そのためエセックス大学人権センターは、2009年にはその国際人権の法的かつより広範な実践を推進する先駆的な役割を評価され、人権分野で初めてクイーンズ・アニバーサリー・プライズを授与されました。また研究にも力を入れており、健康への権利、拷問の禁止、宗教の自由、紛争における子ども、少数民族、人権と海外投資の関係、などに関して幅広い分野のプロジェクトがニーズ応じて作られ、実務と研究の融合を行ってきました。また、学外から専門家を招待してさまざまなシンポジウムや講演会も企画してきました。

 

センターは人権の教育・研究について、法学に限らず政治学、社会学、哲学など、人権にかかわる幅広い分野から学際的に取り組んでいます。そしてそれらの分野で人権に関する研究を進める博士課程の院生のために、学部間の枠を超えて意見交換し議論する場として、Doctoral Affiliates Networkが設けられています。客員研究員の方もそこで自分の研究を発表し議論をすることで、さらに理解を深める機会があります。さらにセンターが出版するEssex Human Rights Reviewに投稿する機会もあります。

 

博士課程の人も研究員の人も、LLMその他の授業は許可を得て自由に聴講することができますが、その選択科目は多岐にわたっており、それぞれの分野に実際に関わってきた先生方の話を聞くことができます。私は論文執筆の傍ら毎年授業を聴講することで、アップデートされた最新の情報を得ることができましたし、世界各国からきている修士課程の人たちとも知り合う機会がありました。彼らの中には国連などの国際機関やNGOで働いていた人も多く、興味深い経験を聞くことができました。

 

課題が決まっているLLMとは違い、研究員や博士課程においては、自主的に行動し研究を進めていくことが必要です。積極的に先生方にコンタクトし質問や議論をすることで、自分の研究テーマをより深めることができます。また、エセックスの先生方には国連やヨーロッパ人権裁判所に関わっておられる方も多く、彼らの学外での活動から学ぶ機会もあると思います。私の指導教官は6年間、健康への権利に関する国連特別報告者をされていましたが、私も国連人権理事会への報告やNGOまたは政府との議論の場に参加させてもらい、そこで人脈を広げ、自分の研究に必要な情報を得る機会に多く恵まれました。また、LLMやMAの院生のために人権センターが企画するものに、ジュネーブの国連機関やストラスブールのヨーロッパ人権裁判所などの国際人権機関をまわるツアーなどがありますが、希望すれば研究員の人も参加できます。

 

エセックス大学のあるコルチェスターはロンドンの通勤圏でもあるので、ロンドンでのセミナーや講演会などにも参加しやすいという利点があります。私は他大学の研究会や、実務家、学者、活動家などが一緒に意見交換する企画に何度か日帰りで参加し、刺激を受けて帰ってきました。一方キャンパスは自然が豊かで、二つの大きな池には白鳥や鴨がたくさんおり、いたるところでウサギも走り回っています。春先は水仙の花が咲き乱れ、赤ちゃんウサギがお目見えする、という感じです。また大学からは近くの村に続くfootpath(小道)もあり、気持ちのいい散歩道になっています。私は研究で思考が行き詰ったようなときに、よくこういうところを散歩してリフレッシュしていました。

 

私はエセックス大学で国際人権のパイオニア的な存在の先生方から学び、世界の人権問題に関わってきた留学生と交わる機会を通して、国際人権法は実際に使い、作っていくものである、ということを感じる研究生活を送ることができました。研究員で来られる方も、積極的にいろんな人と交流をし、企画にも参加して、資料からでは得られないものも感じて経験されることで国際人権問題を見る見方を深めることができるのでは、と思います。

 

2012年度派遣(客員研究員)  平尾 潔会員

エセックス大学ヒューマンライツセンター

私が留学したエセックス大学は、世界で最も古くに国際人権法のコースが設置されたことで知られており、多くの国から、弁護士、NGO関係者、研究者、政府関係者などが国際人権法を学びに来ています。現在は、ヒューマンライツセンターとして独立しています。授業だけでなく、学生主導で行うさまざまなプロジェクトもあり、国際人権の実務もあわせて学ぶことができます。卒業生は「エセックス・マフィア」と呼ばれ、多くの国際NGO、国際機関などで活躍しています。


客員研究員としての研究

客員研究員は、単位は取れませんが、授業の聴講は可能です(事前に、担当教授に連絡を取って了解を得ます)。聴講数に制限はありませんが、どの科目も事前に目を通しておかなければならないリーディングリストを渡されますので、しっかり準備しようとすると大変です。研究の忙しさとの兼ね合いを考えて聴講する授業を選ぶのがよいと思います。図書館その他、大学の施設も基本的には他の学生同様に使用することができます(ただし、学生寮は学生優先です)。私は、研究用のオフィスとパソコンを与えていただいたので(今後も必ずもらえるかは分かりません)、授業のないときはそこで文献を読んだり、論文を書いたりしていました。また、出張にもよく出かけました。基本的に、自分でアポイントをとって会いに行き、その人からの紹介でまた別の人に会う、という感じです。私の場合、学術論文を読むよりは、現場で実務をしている人の話を聞く機会の方が多くありましたが、これは研究課題にもよりますし、人それぞれでしょう。出張のついでに街を見て回るのも楽しみの一つでした。


客員研究員は、試験や宿題がありませんので、比較的自由にスケジュールを決めることができます。一方で、いつまでにこの原稿を仕上げる、といった、短期的な目標を自分で設定すると、研究をうまく進めることができるのではと思います。また、日本の動きがどうなっているかを把握しながら研究を進めることで、より効率的な研究ができるのではないかと思います(私は、自分の研究テーマで日本で新しい本が出ると、できるだけ取り寄せて読むようにしていました)。私の研究テーマは子どもの権利でしたので、弁護士会の子どもの権利委員会からの情報はとても貴重でした。また、子どもの権利委員会からは原稿執筆依頼や、プレゼンテーションの機会もいただき、よい発信ができたのではないかと思っています。その点からも、弁護士資格を持ったまま留学することには非常に大きな意味があるのではないかと思っています。


英語力

私は、夏の英語コースに10週間参加しました。ここでの経験は非常に役に立ちましたが、すぐに英語が聞き取れたりしゃべれるようにはなりません。日常の英会話意外にも、コツコツとBBCのラジオなどを聴き続ける必要があると思います。特に、イギリス英語、中でも地方の英語は、日本人にとっては聞き取りにくいものです。あせらず、少しずつ慣れていけばよいのではないでしょうか。


日常生活

エセックス大学のキャンパスは、広い公園の中にあり、キャンパス内でウサギ、リスや、多くの鳥を見かけることができ、動物好きの私は、気分転換にキャンパス内の池の周りを散歩したりもしていました。大学のあるコルチェスターという町は、人口10万人ほどの小さな落ち着いた町で、治安もよく、安心して暮らせます。ロンドンから電車で50分ほどですので、休日にはロンドンに出かけて、博物館めぐり(多くは無料です)や日本食の買出しなどをしていました。イギリスの食事は初めのうちは日本人の口には合いにくいかもしれませんが、周囲の日本人は、自炊をするなどして乗り切っていたようです。ちなみに、キャンパス内では、朝食も昼食もだいたい4ポンド弱でお腹一杯になります。


さいごに

留学生活は、多くの人に支えられて成り立っています。大学関係の方、友人はもちろんですが、日弁連、委員会、日本の所属事務所にもいろいろとお世話になりました。また、日本に残した家族には大きな負担をかけましたが、気持ちよく留学をさせてくれました。いろいろな方に対する感謝の気持ちを新たにすることができたことが、留学の一番の成果かもしれません。皆様の留学が、実りあるものになることを祈念しております。

 

 

2012年度派遣(LL.M.)  北川 靖之会員

自己紹介

弁護士の北川靖之と申します。修習は、58期大阪一班です。2007年11月から2010年3月まで、つがるひまわり基金法律事務所(青森県五所川原市)の初代所長を務めました。2012~2013年度、イギリスのエセックス大学LLMコースに留学しています。


青森県で執務していた頃から、弁護士として、海外で活動したいと考えるようになりました。留学を希望した動機は、大風呂敷を広げることを許していただければ、五所川原市での活動を通じて、貧困問題や司法アクセスの問題に興味を持ったということです。でも正直なところ、何でもいいから海外で活動してみたい、さらに言えば、外国に住んでみたいというのが、私の長年の夢でした。


エセックス大学について

現在の私の立場は、エセックス大学法学部の大学院生ということになります。無職ですが、かろうじてニートではありません。エセックス大学には、もう一人、平尾潔弁護士が日弁連の支援を受けて、留学されています。私たち二人は、日弁連からの支援を受けて、イギリスの大学に留学した第一号と第二号です。平尾弁護士(イギリスでは、郷に従って「潔さん」と呼んでいます)とは、キャンパス内のバーでビールをよく飲みます。


エセックス大学のキャンパスは、ロンドンのリバプールストリート駅から電車とバスを乗り継いで、約1時間30分かかります。お金も時間も結構かかるので、10月から3月までの半年間、ロンドンに遊びに行ったのは1回だけです。


学内にはヒューマンライツセンターという機関があり、人権の分野ではイギリスで一二を争う知名度と実績を誇ります。エセックス大学で人権を学び、実務に巣立っていった人材は、俗に「エセックス・マフィア」という異名で呼ばれているようです。かなり微妙な異名だと思うのですが、それだけ影響力と結束力が強いのでしょう。


LLM国際人権コースで受けることができる授業は、エセックス大学のウェブサイトなどで確認していただけます。ちなみに、私が選択した授業は、
Ÿ International Child Law(国際子ども法)
Ÿ Detention under International Law(国際法の下での拘留)
Ÿ Minority under International Law(国際法の下での少数者)
Ÿ Human Right and Development(開発と人権)
Ÿ Human Rights in Asia and Pacific Region(アジア太平洋地域の人権)
などです。その他、必修の単位として、以下のものがあります。
Ÿ International Human Rights Law(国際人権法)
Ÿ Foundation Essay(基礎論文)
Ÿ Research Essay(研究論文)
Ÿ Dissertation Essay(修士論文)


これらの単位を取得するのが、大学院生の至上命題です。この点、客員研究員としての留学とは大きく異なります。いわゆる「研究」に割くことができるのは、修士論文に集中できる6~9月だけだと思います。


各クラスの講師は、国際機関の第一線で活躍する方々です。例えば、ナイジェル・ロドリー教授は、上記Detention under International Lawを担当していますが、元国連人権委員会拷問特別報告者です。日本の代用監獄制度を取り上げ、ワールドワイドに知らしめた立役者でもあります。ちなみに「Daiyokangoku」は、tsunamiやsamuraiと同様、そのまま英単語としてご使用いただけます。また、自由と正義2001年9月号には、彼の論文が掲載されていますので、関心のある方は目を通してみてください。


学生寮での生活

私は、大学キャンパス内の学生寮、14階建ての塔の4階に住んでいます。塔の各階には、10人弱の学生が住んでいて、キッチンルーム一部屋、トイレ二つ、シャワー二つを共有しています。留学生で一番多いのは中国人で、私と同じ階に住む学生の過半数が同国出身です。彼らはほぼ全員、経済ないし会計を学んでいます。ちなみに、国際人権のクラスには、中国人は一人もいません。彼らの食に対する情熱はすさまじく、毎夜、4000年の伝統の技を駆使して食事を作っています。


これに対して、日本人である私の食生活は、きわめて貧しいものです。エセックス大学の周辺には、店も人家も、まったくなんにもありません。最寄りのスーパーまでのバス代が300円以上、時間も約30分かかるため、買い出しが億劫になっています。キャンパス内のショップで買うことができるスパゲッティと缶詰、そして出前一丁(英国名Demae Ramen)が主食です。中国で生まれ、日本で発明され、世界に広まったインスタント食品は、国際化の象徴といえるでしょう。ただし、健康にはよくないかもしれません。


このようにキャンパス内の寮に住むのは、いいことばかりとは言えないのですが、勉強する環境は整っています。24時間、コンピューターラボや図書館内のリーディングルームが使えます。学食で食事ができますし、生協で食料品も買えます。郵便局も銀行も、不動産屋も床屋もあります。


イギリス留学を希望する皆さんへ

以上、私のエセックス・ライフを、簡単にご紹介いたしました。反面教師として、参考にしてください。リアルに充実した大学生活を目指して、多くの皆様がエセックス大学に関心を持たれることを期待しています。

 

 

2013年度派遣(客員研究員) 浦城知子 会員

2013年8月からエセックス大学ヒューマンライツセンターの客員研究員として留学していました。


私はこれまで海外には旅行でしか行ったことがなく、今回が初めての長期滞在でした。


大学生活について

エセックス大学はイギリス国内でも留学生が特に多い大学と聞きましたが、ヒューマンライツセンターと国際人権法コースは本当に国際色豊かで、学生の数=出身国の数と言っても過言ではありません。


大学生活のメインの一つは授業の聴講です。私は法学部(Department of Law)の下のヒューマンライツセンターに籍を置いていましたが、客員研究員はどの学部のどの授業でも、講師の許可を得れば聴講することができます。秋学期は国際人権法(International Human Rights Law)のLLMコースの授業(国際法総論、経済社会及び文化的権利、ヨーロッパ人権法など)を中心に聴講していましたが、春学期からは自分の研究テーマにより深くかかわる授業を聞こうと、イギリス人権コースや他学部の聴講もしました。


もう一つのメインは大学あるいはヒューマンライツセンターが主催する様々な公開講座への参加です。大学内メーリングリストでイベントの案内が随時送られてきますので、できる限り参加するようにしていました。現役の国連関係者の講演が聞けるのはエセックスならではだと思います。


客員研究員は大学側からすると特殊な立場で、大学スタッフの一員でありながら授業の聴講をしたり個々の研究をしているという存在です。ともすると周囲との接点が希薄になりかねないので、学生の集まりやキャンパスのイベントには積極的に参加していました。また、研究室を共有する他の客員研究員とのコミュニケーションは研究を進める上でのよい刺激となりました。私と同時期に中国の教授とモルドバの大学講師が客員研究員として滞在していましたが、互いの国の情報を交換したり、意見を聞いたりしたことは貴重な経験でした。


研究について

私の研究テーマは外国人の刑事・行政手続というもので、外国人の権利保障にあたって国際人権法の視点や国際機関の取組を日本の中でも生かしたいという目的がありました。具体的には、イギリスの司法通訳制度を調査するべく、通訳人団体や通訳人登録団体などにインタビューを申し込み、訪問をするなどしました。日本から来た一弁護士にすぎないにもかかわらず、インタビューを快く引き受けていただけたことは大変有難く、取材先には心から感謝しています。


ロンドンの刑事法院、移民難民審判所、コルチェスターの治安裁判所(刑事第一審を扱う裁判所)にはイギリスの裁判所の雰囲気をつかむために早い時期から傍聴に行きました。


またロンドンからヨーロッパ各国へのアクセスは良好なので、ヨーロッパにある国際機関へ見学に行くことも比較的容易にできます。私はストラスブールにあるヨーロッパ人権裁判所へ行きましたが、せっかくの機会ですので日本からはなかなか行きにくい場所へ足を伸ばすのも良いと思います。


イギリスの生活について

エセックス大学のあるコルチェスターはロンドン北東に位置する市で、「イギリスで最も古い記録のある町」とされていますが、現在は町中心部に商店が並ぶ他は閑静な住宅地、あるいは牧場が広がっています。郊外での暮らしが物足りないという人もいますが、私は元々自然豊かな土地で暮らしたいと思っていたので、環境はとても気に入っていました。


ロンドンへ行くのに片道1時間半かかるのが若干不便なところですが、日帰りができますので、ロンドンの大学や研究機関で行われるセミナーに参加することも可能です。


さいごに

毎年12月10日は、1948年のこの日に世界人権宣言が採択されたことを記念して、国連によって世界人権デー(Human Rights Day)と定められました。写真は世界人権デーのイベントで、学生がキャンパスの階段にチョークで世界人権宣言の条文を、英語と世界の言葉で書いたものです。ここでは「Human Rights」という言葉を聞かない日はありません。一年間じっくり人権に向き合い、学びたい方にはエセックス大学への留学をおすすめします。

 

 

2014年度派遣(客員研究員) 水島俊彦 会員

大学の環境

客員研究員は、どの学部のどの講義でも、講師の許可を得れば聴講することができます。私はこれまで国際法をあまり勉強したことがなかったため、修士レベルのLLMの講義よりはむしろ、学部レベルの人権センターの講義の方がとっつき易く感じました。特に、「人権の基礎(Foundation of Human Rights)」という講義では、表現の自由、宗教の自由、社会権、拷問禁止等、毎回1テーマを設定し、その分野に詳しい講師がその全体像について1時間程度の講義をしてくれるため、国際法、ヨーロッパ人権法の基本を理解するにはちょうど良いように感じました。なお、客員研究員には、2人1組の広めの研究室(デスクトップパソコン、プリンター、冷蔵庫付)が割り当てられており、他の学内の施設が閉まっていても、一部期間を除き滞在時間無制限で研究に勤しむことが可能です。


研究テーマ

「英国及び諸外国における意思決定支援・成年後見制度の実務」を研究しています。近年の日弁連留学における研究テーマをみても「高齢者・障がい者」関連のテーマが見当たらなかったこと、また、法テラスのスタッフ弁護士として、司法過疎地である新潟県佐渡市において成年後見関係事件を多数取り扱うとともに同制度拡充のための活動を行っていた経緯もあって、このテーマを設定しました。エセックス大学を希望したのは、同大学内に英国の成年後見制度と障害者権利条約に詳しい教授がおられ、前年度に、同教授率いるEAPチームが主催するサマースクールに参加したこともあって、英国における研究活動の具体的なイメージを持てたことが大きかったように思います。


学外調査活動

英国の意思決定能力法(MCA)及び関連する諸制度は、日本の成年後見法制と比べると、判断能力が不十分な本人の好みや信条、希望により配慮した制度設計(意思決定支援型制度)になっているため、2014年に日本が批准した国連障害者権利条約を適切に国内実施していくうえで大変参考になると考えていました。もっとも、いざ研究を始めてみると、MCAのみの理解では全く追いつかず、英国内の権利擁護、医療、福祉等に関する諸制度も十分に把握しておく必要性があると感じました。この点、エセックス大学の講義のみではすべてをフォローすることは難しかったため、現地の方からアドバイスも受けて、英国内での意思決定支援実務に携わるソーシャルワーカーやアドボケート、サービス提供事業所職員等が参加するMCA研修及び自由の拘束に関する濫用防止措置研修(DoLS)、並びに高齢者・障がい者虐待・DV対応研修などに参加し、マネジャーレベルまで修了しました。また、コミュニケーション技術等を駆使して判断能力に不安のある本人の意思決定をサポートし、本人と共に(又は本人に代わって)その意思が反映されるよう行動を起こす役割を担う「第三者意向代弁人(Independent Advocate)」の英国内資格を取得すべく、同研修プログラムにも現在参加しています。加えて、英国各地のMCA関連のセミナーへの参加、自治体、研究機関、個人等への訪問も並行して行っており、留学10か月目(研究開始から約半年)を迎えた現段階では、約50回の学外調査活動の結果、約70名の関係者との繋がりを構築することができました。さらに、研修等で出会った方々からの紹介・推薦により、障害者権利条約に即した意思決定支援活動(SDM)を実践し、世界的にも注目されているサウスオーストラリア州・アデレード市のSDMモデルについて、トレーナーからマンツーマンで1か月間の集中トレーニングを受けるという機会にも恵まれました。他方、日本からの視察団(報道機関、研究グループ、日弁連高齢者障害者委員会等)のためのアポイント取得・現地同行、並びにSkypeなどを利用した日本の各種会議への出席等、日本の動きを把握しつつ、現地の最新情報等を届けることも怠らないようにしています。


家族同伴での英国生活

妻と当時2歳の息子を連れての渡英は、出発当時は不安だらけでしたが、今では本当に良かったと思っています。妻が参加しているエセックス大学公認のチャリティーグループを通じて、大学周辺の地域住民の皆さんとの繋がりができ、地域のイベント参加やホームパーティへの参加の機会も多々ありました。最も印象深い出来事は、2015年3月29日に英国内で妻が第二子(男の子)を出産したことでした。妊娠時の診察から出産後に至るまで一貫してNHS(英国における国民医療制度)を利用しましたが、俗に言われているほど悪い、遅いといったサービスではありませんでした。逆に、出産にかかる選択肢の豊富さ(出産場所、姿勢、ペインコントロール等)と自己決定の尊重に関しては、日本のそれを上回っているようにも感じました。


さいごに

残りの期間も予定がほぼ詰まっており、あっという間に帰国の時期になると思われます。国際人権の実務を学べるエセックス大学を拠点としつつ、設定したテーマに基づく英国内外の制度や実務を自由に研究できるという現在の環境は、本当に理想的で、皆様にも強くお勧めします。

 

 

2014年度派遣(LL.M.) 大野鉄平 会員

弁護士になってからずっと、LLM留学は私の夢でした。人権の概念が古くから根付いているイギリスで、国際人権法の観点から法律扶助を学びたいと願っていた私にとってエセックス大学のLLM国際人権法専攻コースは、すべての希望を満たしてくれるまさに理想的な留学先でした。授業に出席し、試験を受け、単位を重ね、学位を取得することがLLM生の本分です。そのため学期中は食事と睡眠を除いたほとんどの時間を勉強に充て、まとまった自由な時間は残念ながらあまり持てていません。ハードな毎日ですが、人権の分野をライフワークとして真剣に捉え、国際的に活躍したいという明確なキャリア意識をもって世界中の国から集うクラスメイトと机を並べ、多角的な視座から物事を深く学べる環境に身をおけたことをとても光栄に感じています。


LLM留学の意義

留学が決まってから、留学を志している会員の先生方よりたくさんのお問い合わせを頂戴しています。なかでも一番多く寄せられるのは「弁護士にとってLLM留学はやはり有用なのか?」という質問です。せっかく留学に興味を持っていても長期間職務を離れることへの不安や、クライアントを手放さなければならない状況への罪悪感などマイナス要素ばかり先立ってしまいなかなか留学に踏み切れない心理的葛藤は、留学を志す弁護士なら誰もが抱く至情なのではないでしょうか。斯く言う私も、留学を目指してから実行にうつすまでかなり悩み5年の歳月を費やしてしまいました。すべての弁護士にLLM留学が有用であると一概に申し上げることは大変難しいのですが、留学を契機に有意義なキャリアを展開されている先輩弁護士の英姿は、留学に対する意義を見いだす上で大きな指標となりました。


留学は、語学力の向上や、外国での暮らしを体験し異文化適応能力を培うためだけの手段では決してないと思います。国際機関等の第一線でご活躍されている著名な教授に指導していただきながら、様々なバックグラウンドを持つクラスメイトたちとそれぞれの自国で問題となっている国際人権法上の課題について語り合い、認識を共有できる喜び。ともに過ごす時間の中で彼らの思考のベースになっている国籍や宗教、文化や伝統など価値観の違いに触れ、また自らも発信していくことで劇的に広がる世界観。自分の知見がいかに狭く偏っていたかを自覚し、独学の限界を知る強烈な衝撃。そうしたかけがえのないひとつひとつの経験に留学の重要な意義があり、たとえ目には見えなくても、今後の人生で大きな糧になるものと私は信じています。


学校生活

学校生活において大半の割合を占めるのが授業時間と課題に取り組む時間です。履修科目ごとに毎回100~300ページ程の課題図書があり、徹底的に読み込み授業に備えます。並行してグループワークも頻繁に課されるため、空き時間や休日にはみんなで集まりミーティングを設け、クラス発表に向けて準備をすすめていきます。授業では傍観が許されず、自分の意見や日本における見解について発言を求められる機会が多いので、常に自分の立場を明確にしてクラスへ臨む必要があります。複数の課題をかかえ焦燥に駆られる日々を送っていますが、諸外国の判例や最先端の解釈を体得できるチャンスに学べる喜びも感じています。


勉強がハードであればあるほど友人たちとの結びつきは日ましに強くなっていきます。授業から解放される金曜日の午後はクラスのみんなで街に繰り出し食事をしたり、夜遅くまでビールを飲んではしゃいだり、つかの間の息抜きを学生らしく楽しんでリフレッシュしています。ここでの友人たちとの出会いは、私の一生の財産になりました。気が付けばいつも彼らの存在に支えられ、苦しい時には幾度となく励まされてきました。エセックス大学に留学して彼らと同じ年に学べたことを心から誇りに思っています。


さいごに

日弁連海外ロースクール推薦留学制度にあたたかいご理解とご協力を賜りましたすべてのみなさまへ、お礼申しあげます。研究は孤独な作業ゆえ、ともすれば独り善がりに陥りがちです。研究に客観性とアカデミックな根拠をもたせるうえでも、指導教官のもとで自分の研究にアプローチできたことの意味合いは大きく、私にとってLLMはベストな選択であったと自負しています。エセックス大学で学んだ研究成果を持ち帰り、卒業後は日本の法律扶助を国際水準まで引き上げるべく腐心していきたいと考えています。


熱心でやさしい教授陣や、おもしろくて親切なクラスメイトとの出会いに恵まれ、刺激的で充実した留学生活を享受できたことは、紙筆に尽くせぬ喜びです。この感動をひとりでも多くの先生方に体験していただきたいと切に願っています。

 

 

2015年度派遣(客員研究員) 児玉洋子 会員

留学の契機

2015年度にイギリスのエセックス大学に客員研究員として留学をしました児玉洋子です。留学をする以前は島根県の石西ひまわり基金法律事務所で勤務をしておりました。私が留学をしようと思い立ったのには、二つ理由があります。まず一つ目ですが、高齢化が進んでいる島根県では、成年後見に関する事件を多く担当しました。その過程でいろいろな勉強会に参加し、イギリスの意思決定能力法という法律を知りました。この法律は、高齢者・障害者に対する社会モデルという考え方を基礎として作られています。社会モデルというのは、高齢者・障害者も社会の一員として、他の人と同じように意思決定ができるようサポートをするという考え方を基本としています。しかし、この社会モデルの考え方は、日本ではまだまだ根付いていないように感じられました。このような高齢者・障害者に対する新しい考え方を学びたいと思ったのが一つ目のきっかけです。したがって、留学先はイギリスを選択しました。二つ目は、「百聞は一見に如かず」という故事成語がありますが、やはり島根県での業務において、過疎地が抱える問題は、実際に現地で生活をしてみないと分からないと痛感したことが理由です。海外でも、現地で生活をしながら、多くの経験を積みたいと考えました。


大学での生活

エセックス大学では、人権に関する授業の聴講及び日本の成年後見制度と障害者権利条約に関する英語のエッセイ執筆という二つを軸として研究を進めました。また、その他にも、障害者の権利に関する会議や勉強会への参加、イギリスの意思決定能力法の実務に携わっておられるバリスターの方との面会といった機会を通じて、法実務が抱える問題についても認識できたように思います。


また、イギリスにおける研究を通じて感じたことが何点かあります。まずは、自由権規約や社会権規約をはじめとする国際人権法を尊重し、それに従った国内法を整備しようとする強い意欲です。日本でも数多くの人権に関連する条約を批准していますが、普段の法律実務において、このような条約を意識することはほとんどなかったように思います。しかし、条約を意識した法律の制定や運用は、今後日本が国際的な評価を高めるためには必要不可欠です。次に、イギリスは、世界中から様々なバックグラウンドを持つ人が集まり、多様な文化、宗教、価値観が混在しています。いわば、地球全体の縮図的な一面も持ち合わせています。このような社会において、一つの問題を、世界規模で多面的により深く議論していくという姿勢がとても大切にされています。私自身も、教官や他のクラスメートとの議論を通じて、日本にいる際には意識すらしなかった多くの視点に気付かされましたし、異なる考え方を持つ人々を説得させるにはどうすればよいのかという議論の大切さをあらためて学びました。


異文化体験

イギリスでの日常生活は、特に最初は、日本との違いに戸惑うことがたくさんありました。日本と比べると何をするにしても時間がかかります。例えば、聞きたいことがありオフィスに行くと、今日は担当者がいないのでメールで問い合わせをしてほしいと指示されます。そこで、メールをするのですが、待てども暮らせども返事が来ません。何度か催促をしてやっと返事がくるのですが、私が聞きたかったこととは回答の内容が微妙に違っていたりします。そして、再度メールを送るのですが、やはり返事が来ません。このようなことばかりです(笑)。このようにいろいろなことに時間がかかる反面、交通機関のキャンセルや工事による道路閉鎖などは、あまりに突然に起こります。このような異なる文化や考え方を身をもって体験し、ときには戸惑うことも、留学の醍醐味であると考えます。


さいごに

最後に、留学生活のもっとも素晴らしいところを述べたいと思います。言うまでもありませんが、世界中の人々との交友関係です。私の場合は、特にギリシャ人とスペイン人のハウスメイト2人にとても助けられました。いろいろなことを語り合ったり、料理を一緒に作ったり、パブに飲みに行ったりという経験は、一生の宝物です。留学が終わったあとも、お互いに連絡を取り合っています。留学を少しでも考えておられる皆さん、是非、日弁連の留学制度に応募することをお勧めします!


 

 

2015年度派遣(LL.M.) 天野麻依子 会員

はじめに

弁護士登録(64期)から4年目の2015年に、日弁連留学制度によって、イギリス・エセックス大学国際人権法LL.M.コースに留学させていただくことになりました。日本では、埼玉弁護士会に所属し、日弁連国際交流委員会において、国際司法支援活動に取り組んでいます。


学業

日弁連留学制度を利用する場合、本大学及びシンガポール国立大学のLL.M.コースのみが、学位取得を目的とした“学生”としての留学になります。学生であるため、授業に参加して課題をこなすことが日々の最優先課題となり、自身の研究(修士論文)に時間を割けるのは、夏学期終了以降となります。


私が在籍した国際人権法コースでは、国際人権法概論、エッセイ2本と修士論文が必修科目であるほか、数あるモジュール(講座)の中から6科目を選択して履修することが必要でした。授業のスタイルは先生によって大きく異なり、生徒からのプレゼン・グループワーク中心で進める授業もあれば、講義だけの授業、各回にゲストスピーカーを招いてくださる授業など、様々です。期末試験の多くは、持ち帰り試験のため、各ターム後の休暇で仕上げて、休暇後に提出します。日本の大学で一般的な時間制試験と異なり、時間と気持ちにほんの少し余裕を持てるかもしれません。リサーチエッセイ(上記エッセイ2本のうちの1本)及び修士論文の執筆においては、自身で選んだテーマに応じ、指導教官から直接指導をしていただけます。


課外活動

授業以外にも、たくさんのセミナーやプロジェクト活動が、毎日のように行われています。たとえば毎週火曜日には人権センター主催のランチタイムセミナーがあり、学内の先生はもちろん、学外から招いた著名な研究者、NGOスタッフの方からお話を聞くことができます。人権センターだけではなく、他学部との共催セミナーも多く、例えば私が在学した年には、EU領域内における難民政策、薬物犯罪へのアプローチ、マススポーツイベント開催に伴う人権侵害、ビッグデータとテクノロジー、忘れられる権利、死ぬ権利など、多種多様なセミナーが開かれていました。また、“修学旅行”があるのも、本大学国際人権法コースの一つの大きな魅力ではないでしょうか。例年、人権センター主催で、スイス・ジュネーブ(3月)とコソボ・プリシュティナ(6月)へのStudents tripが企画されており、希望者はどちらかに参加することができます。人権分野では最先端の研究機関と評されるエセックス大学ならではのコネクションで、個人では入ることのできない国連施設や人権関連機関への訪問、各担当官や現地専門家との懇談の場をアレンジしてもらえます。


日常生活

エセックス大学では、在籍1年目の学生は、キャンパス内にある学生寮に入れることが保障されていますので、LL.M.生は、期限までに申し込めば必ず入寮できます。寮は部屋のタイプにいくつかバリエーションがありますので、きっと気に入る部屋が見つかると思います。キャンパスの近くには大型スーパーのTESCOがあるほか、バスで10分ほどのタウンセンターがあり、生活に必要なものはほぼ何でも入手できます。また、毎週木曜日にはキャンパス内でマーケットが開かれ、新鮮な魚、野菜、チーズやケーキを買うこともできます。


キャンパスのあるコルチェスターからロンドンまでは、電車で1時間強のため、授業のない日には気軽に出かけることができます。ロンドンでは、ローソサエティやチャタムハウス、ロンドン大学等の他大学主催のセミナーなどが数多く開かれており、大変刺激的です。私は、セミナー参加や裁判傍聴などで、月に1回程度ロンドンに行っていました。


イギリス以外の各国へのアクセスですが、当然ながらロンドン・ヒースロー空港からであればたいていのところに行けるほか、キャンパスに一番近いスタンステッド空港には、LCCが就航しているので、格安で気軽に欧州旅行ができるのが大きな利点です。私は、タームが始まる直前にフランス・ストラスブールを訪問して欧州議会や欧州人権裁判所の見学をしたほか、休暇中にポーランド・クラクフのアウシュビッツ収容所を訪問しました。小旅行は、良い気晴らしになる上、もちろん勉強の励みにもなります。


さいごに

仕事(事件の受任)の継続性が大切な弁護士にとって、それらをすべて引き継いでもらい、1年間日本を離れるのは、容易でない選択だと思います。しかしながら、弁護士の活動範囲が日本だけにとどまらず海外での活躍の場も広がっている昨今、海外留学は、新しいチャンスをつかむきっかけにもなるのではないでしょうか。LL.M.留学は、授業の予習と提出課題に追われるハードなものですが、授業やコースメイト、海外生活それ自体から多くのことを吸収できる、とても貴重な機会になります。留学を迷っていらっしゃる会員の皆様には、ぜひ、日弁連制度を利用して、エセックス大学LL.M.コースで素晴らしい時間を過ごしていただけたら幸いです。

 

 

2017年度派遣 藤本圭子 会員

はじめに

2017年夏から、イギリスにおける女性に対する暴力根絶への取組およびジェンダーギャップ解消政策を研究テーマに、エセックス大学人権センターへ留学しました。


これまでDVやセクハラ、性暴力等女性の人権に関する事案にかかわることが多くあったことから、古くより人権の概念が根付いているイギリスで、国際人権法の観点も含めて研究したいと考えました。イギリスで女性たちの運動により選挙権が認められるようになってからちょうど100年となる記念すべき年に、女性の人権について研究する機会を与えられたことは大変幸運であったと思います。


大学の環境

エセックス大学は世界百数十か国からの留学生や指導者が集う、非常に国際色豊かな大学です。


人権センターは世界で初めて創設され、国際人権法コースには各国から研究者、法律家、NGO関係者、国際機関の職員等が最先端の国際人権法を学びにきています。教員には、人権条約機関の委員や国連の特別報告者、国際NGOの法律顧問等の経歴をもつ方もおられ、卒業生は国際NGO、国際機関等で活躍しており、国際人権の分野では非常に強いネットワークをもっています。


客員研究員には、相部屋ではありますが研究室が割り当てられ、専用のパソコンやプリンターを使用することができます。図書館やデータベースも自由に使うことができ、様々な文献をオンラインで閲覧できます。また、法律分野専門の司書の方が図書館に常駐し、文献調査の方法について個別にアドバイスしてくださいますし、必要な文献は申請すれば大学で購入していただけます。


大学構内には銀行、郵便局、診療所、保育園、美容院、書店、売店等があり、木曜日にはマーケットが開かれ新鮮な野菜や魚、パンやチーズ等が売られています。また大学の施設は充実しており、私はスポーツセンターのジムをよく利用しました。


キャンパスは、広い公園の中にあり、敷地内でリスやカモの群れ等を見かけることができる大変自然豊かな環境です。


研究生活

私は8月中旬に渡英し、最初の1か月半は、大学の英語コースに通いました。10月からの学期がはじまると、客員研究員は、各教科の担当教員の方の了解を得て、 自分の興味のある講義を聴講することができます。私の場合は、家族法、労働法、人権法、女性と国際人権法の講義を聴講しました。その他には、文献を調べたり、関心分野を専門とされる教員の方と意見交換をしたり、NGOを訪問して実務のお話をうかがったりしました。また、人権センターや法学部主催の様々なイベントが頻繁にあり、他大学の教授や国連関係者、NGOからゲストスピーカーを招いてほぼ毎週セミナーを開催していて、興味のあるテーマに参加することができました。戦時下における女性に対する性暴力、男女の賃金格差、メンタルヘルス、デジタル倫理、武力紛争と法、国連平和維持活動、ビッグデータと人権、LGBTQ、薬物犯罪等様々なテーマのものがありました。


3月末に春学期が終了した後は、NGOのほか政府機関、法律実務家へのインタビューを実施しました。また、3月下旬にニューヨークの国連本部であるCSW(国連女性の地位委員会)にも数日間ですが参加することができました。


日常生活

エセックス大学のあるコルチェスターはロンドンから列車で1時間程度の北東に位置する自然豊かな土地です。人口10万人ほどの小さな落ち着いた町で、治安もよく、安心して暮らすことができます。大学の近くには大型スーパーや日本の食材を売っているアジア系の食料品店もあり、生活に困ることはありません。


ロンドンへは日帰りができるので、ロンドンの大学や研究機関、NGO主催のセミナーに参加することも可能ですし、充実したミュージアムやミュージカルを楽しむこともできます。また、ヨーロッパ各国を気軽に訪問することができることもイギリスの大学の利点かと思います。


コルチェスターの気候は夏は涼しく、冬はあまり雪も降らず気温も零下になることはほとんどありません。イギリス特有の曇りやにわか雨のこともありますが、私が留学した年は割と天気の良い日が多かったようです。


現地の人はのんびりしていて親切な方が多く、何かと親切にしていただき助かりました。


おわりに

日本を離れ、また違った視点から自身が関心を持つ法律分野についてじっくりと取り組むことは、大変貴重な経験だと思います。日々の事件の対応に追われることなく、集中して非常に重要なインプットができたことは、私にとっては至福の時間でした。また留学生活を通じて様々な国の方々と出会えたことは一生の財産です。


留学にあたり温かいご支援をいただきました皆様に、この場をかりて心より感謝を申し上げます。



2018年度派遣 吉川賀恵 会員

生活環境

2018年9月から、国際人権法LL.Mコースに留学をしました。エセックス大学は、イギリス東部に位置するコルチェスターという都市にあります。


大学から徒歩圏内には24時間営業のスーパーがありますし、図書館も24時間開いていますので、勉強に取り組むには最適の環境です。


また、ロンドンまでは1時間ほどで行くことができますので、週末には気軽に出かけることができ、美術館やミュージカル巡りを楽しむことができます。このほか、学校出発の日帰りツアーが多く主催されていますので、オックスフォード、ケンブリッジ、ストーンヘンジなど、少し離れた場所にも割安で行くことができます。


授業関係

学校の授業は、1週間に4科目が基本です。これを聞くと少なく感じるかもしれませんが、1科目ごとに100ページを超える予習が出されますので、実際は時間が足りないと感じるほどです。授業では国連の特別報告者を務められた方など、実務経験豊富な教授陣が、熱心に指導してくださいます。


LL.Mでの留学の場合、授業を受けるだけで、幅広い分野を勉強できることが魅力の一つです。例えば、フェミニストの観点から、人権や既存の法概念自体を批判的にとらえなおす授業が行われた際は、授業後もクラスメイトと議論をするほど盛り上がりました。また、人道法関連の授業も多く行われていますので、日本では学ぶ機会が少ないジュネーブ条約や、PKOの内容をじっくりと学ぶことができます。


授業によっては、講義形式の授業に加えてディスカッションがあることがあります。積極的に発言することを求められますので、自身の考えを整理することもできますし、クラスメイトの意見を聞く中で、授業内容の理解を深めることができます。そのほか、授業内でプレゼンテーションを求められることもあります。私は、アイヌの歴史や現在の課題について授業内で発表を行いました。発表後には、クラスメイトから多くの質問を受け、彼らの学びに対する真摯な姿にとても刺激を受けました。


このほか、クリニックと呼ばれる人権課外活動もさかんに行われており、自主的に学生が参加することができます。私は、アジア人権会議と呼ばれるクリニックに議長として参加し、学内、学外の著名な教授陣をコーディネートし、講演会を行う活動をしました。多様なバックグラウンドを持つ学生とチームを組み、一つのプロジェクトを進めていく過程自体、とても刺激的ですし、やりがいがありました。


英語

英語に関しては、ノンネイティブ向けに、週に2回、授業が展開されています。こちらは特に予習もありませんし、授業を受けることも任意ですので、気楽に受けることができます。


私はライティングの授業を受けましたが、エッセイの組み立て方、書くときの注意点、使うべき単語などを学ぶことができ、とても役立ちました。このほか、スピーキングの授業もあり、発音やプレゼンテーションの行い方を学ぶことができます。このように、ノンネイティブに対しても充実した支援体制が整えられています。
 

交友関係

留学の魅力の一つに、クラスメイトとの交流があげられると思います。私の場合、もともとの話好きの性格も相まってか、多くの友人に恵まれた生活を送ることができています。


一緒に勉強することはもとより、互いの料理を披露したり、ロンドンに行ってミュージカルを見たり、カフェやパブに行ったりと、楽しい時間を過ごしています。その中で、互いの国の状況、宗教と人権の関係、内戦の背景など多くを語り合い、いつも刺激を受けています。このほか、イギリス出身の友人の結婚式に招待をいただくことができ、出席することができたのも、とてもよい思い出の一つとなりました。


彼らと交友関係を築くことができたことは、今回の留学での、何よりの財産といえます。


終わりに

私の場合、当時2歳の息子を日本に残しての留学になりましたので、夫や両親の協力なくして、留学することはできませんでした。また、仕事面では、所長、同僚に多くのサポートをいただきましたし、留学準備にあたっては日弁連の国際室の方に多大なお力添えをいただきました。本留学にご理解、ご協力をいただいたすべての皆様に、この場を借りて深くお礼を申し上げます。


長期にわたって日本を離れることは、決して容易なことではないと思います。場合によっては多くの障壁があるかもしれません。しかし、留学は、それを超える一生の宝物を与えてくれるものと思います。少しでも留学に興味をお持ちの先生は、未来を信じて、ぜひチャレンジしてみてください。



2020年度派遣 阿讃坊 明孝 会員

はじめに

2020年から2021年にかけて、日弁連の推薦留学制度にてイギリスのエセックス大学(LL.M.)へ留学致しました。60期で弁護士登録後13年経過後の留学でしたので、時期としては他の方々より遅めかも知れません。しかし、人権問題を含む多数の事件に深く長く関わってきた経験があるからこそ、留学中に出会う知識を単なる知識としてではなく深く理解し、吸収することが出来たと感じています。


大学の環境

ロンドンから北東へ1時間ほどのリスやウサギの住む広大なエリアにキャンパスは位置しており、世界各国から集まった留学生と共に学生生活を送ります。学生寮から大学の中心エリアや図書館へ向かう道も気持ち良く散歩できます。国際人権の分野では有名な大学ということで、国際人権法をここで学びたいと強く考え留学して来ている人が多いように感じました。


学生の国籍の多様性は想像以上で、イギリスを含め欧米系が多いものの、ア フリカアジアを含め、各授業内に同じ国籍の人が2人といないのではないかと 思うほどでした。人権への熱い思いと優秀な頭脳を持った人達が、先進国・途 上国を問わず世界各地にいることを実感します。留学が決まったのを機に、こ れまで勉強していたアメリカ英語からイギリス英語に変えて勉強し始めました が、いざ留学してみると留学生の世界各国の英語の発音(訛り)が飛び交い、 唖然としたことが今では良い思い出です。


LL.M.留学

授業の内容は、社会の様々な問題を国際人権法及び人権の視点から分析検討するもので、弁護士として経験してきた事件の延長又は背後にあるものを人権という視点から改めて考察するものであり、刺激を受けることが出来ます。必修の授業を合わせて、秋学期と春学期に4つずつの授業(及び夏学期に修士論文執筆)を履修するのですが、刑事、難民、子供の権利などの人権問題から各種社会問題を人権の切り口から検討するものに至るまで、幅広い分野から選択することが出来ます。


ちなみに、私は下記の授業を受講しました。

 International Human Rights Law, Law and Practice
 International Human Rights Law, Theory and Institution
 Business and Human Rights
 International Economic law and Human Rights
 Public International Law
 AI and Human Rights
 International Criminal Law
 Dissertation: AI and Human Rights


履修の数を見ると少ないと感じるかもしれませんが、各授業前にリーディングリストに記載された膨大な英語文献が提示され、英語ネイティブの留学生たちでさえ予習の量に驚いていることにまず驚きます。次に1日たった24時間でどう処理すればよいのかと途方に暮れ、最後に諦めて机に向かいます。授業では単なる教授による講義というよりは、予習で得た情報を前提として発展的な議論が行われ、知的好奇心を刺激されます。世界の法的・政治的状況を突き付けられるだけではなく、現在進行形のジェノサイド事案や友人の母国での大 量の人々の失踪など、ショッキングな事実も目の当たりにします。


毎日予習と授業での議論への参加が続いた後、各科目のエッセイを執筆(中間期末試験に相当)するという多忙な学生生活が途切れなく1年間継続します。しかしながら、多様な文献や議論、留学生たちの母国の状況を知るにつれ、世界の裏側を知るような気持ちになり、自分がいかに自分中心の視野や立場で物事を見ていたかということに気が付かされるのは、とても稀有な経験だったと思います。


また、大学のHuman Rights Centre主催のHuman Rights in AsiaConferenceでは、学生主催での年次カンファレンスの企画運営に参加することが出来ます。学生同士で検討しながらテーマに関する問題意識を深め、世界 各国からスピーカーを自分たちで選び招致することが出来ます。


日常生活

勉強は確かにハードですが、その分友人たちとの仲間意識は強くなり、予習の量や過酷な課題に対する愚痴をテーマに盛り上がります。授業と予習の合間に友人と散歩や買い物に出かけたり、週末にパブや近くのコルチェスタータウン、時にはロンドンへ日帰りで出かけることも出来ました。予習やエッセイを精力的に終わらせるなどうまく時間をやりくりすれば、時には週末にイングランド内を旅行することも出来るでしょう。

 

さいごに

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LL.M.留学は単なる勉強の機会のみではなく自分の視野を広げることができたと感じており、留学中に出会う様々な知識や経験を通じての価値観の転換は 計り知れません。とても大変な留学生活ですが、そこでしかできない経験がありました。もし悩んでいる方がいれば、とりあえず留学してみることを強くお 勧めします。