女性差別撤廃条約に基づく第5回日本政府報告書に対する日本弁護士連合会の報告書

  • はじめに
  • 第1.配偶者からの暴力(質問8項、政府報告書第2条-4(1)エ、第16条-2(2)
  • 第2.セクシュアル・ハラスメント(質問10項、政府報告書第2条-4(6)) -セクシュアル・ハラスメントの防止-
    • 1.現行法制
    • 2.職場における防止
    • 3.セクシュアル・ハラスメントの被害者の救済
  • 第3.外国人女性の権利(質問12項、政府報告書第6条-1(2)) -外国人女性の売買、性的搾取-
    • 1.被害者数の把握
    • 2.人身売買の実情
    • 3.被害者の救済
    • 4.処 罰
  • 第4.雇用における女性差別(質問18項、政府報告書第11条1-1(1))
    • 1.女子学生の就職
    • 2.退職、解雇における女性差別
  • 第5.パートタイム労働者(質問19項、政府報告書総論2(3)、第11条1-2(1) )
    • 1.多様な雇用形態で働く日本の女性
    • 2.女性パートタイム労働者の現状
  • 第6.派遣労働(質問20項、政府報告書第11条1-2(2) )
    • 1.労働者派遣とは
    • 2.派遣労働の法規制の変遷
    • 3.派遣労働の実態
    • 4.労働者保護の必要性
  • 第7.司法分野でのジェンダー教育、研修(政府報告書第2条-3(3))
    • 1.政府報告書第2条-3(3) の記載と現実
    • 2.問題点
  • 第8.日本における貧困の実情 (質問項目、政府報告書にはない。)
    • 1.失業率の増加等
    • 2.社会保険料の負担増
    • 3.路上生活者(ホームレス)
    • 4.家計の困窮
    • 5.女性差別撤廃条約の実施状況について

はじめに

女性差別撤廃条約の日本における実施状況に関する第4回日本政府報告書が1998年7月、第5回日本政府報告書が2002年9月、国連事務総長に提出されました。
2003年2月には、女性差別撤廃委員会の会期前作業部会による第4回、第5回日本政府報告書に対する31項目の質問事項が日本政府宛出され、本年6月30日から7月18日に開催される女性差別撤廃委員会第29会期において、第4回、第5回日本政府報告書が審議されることになっています。
当連合会は、2001年11月に第4回日本政府報告書に対する報告書を作成し、2002年7月、女性差別撤廃委員会等に提出しました。
当連合会は、既に提出した第4回日本政府報告書に対する報告書と重複しない範囲で、会期前作業部会による質問事項にも対応するものとして、第5回政府報告書に対する日本弁護士連合会の報告書を作成しました。
この報告書が、第4回日本政府報告書に対する当連合会の報告書とともに、女性差別撤廃委員会の日本政府報告書の審議に役立つことを願っています。


第1 配偶者からの暴力(質問8項、政府報告書第2条-4(1)エ、第16条-2(2) )
-「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下「DV防止法」という。)の施行と現状、問題点-

内閣府が2003年4月11日に発表した「配偶者からの暴力に関する調査」では、過去に「身体的暴力」、「性的暴力」、「心理的暴力」の3つのうちいずれかを受けたことのある女性は、19.1%、このうち4.4%は「生命に危険を感じた」と回答している。
DV防止法が、2001年10月13日(但し、一部については2002年4月1日から)施行された。施行後2002年12月までの保護命令申立事件の既済件数は1、550件で、そのうち1、250件について保護命令が発令された(内訳:接近禁止のみ888件、退去のみ4件、退去・接近禁止358件。最高裁判所事務総局民事局)。


1993年12月に国連総会で採択された「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」によれば、ドメスティック・バイオレンスをはじめとする「女性に対する暴力」は、身体的暴力だけではなく、精神的暴力、性的暴力などあらゆる形態の暴力を含む。精神的暴力、性的暴力も、被害者(女性が多い)の人権侵害であり、これらの暴力からも被害者は救済されなければならない。そのため、当連合会は、女性に対する身体的暴力のみならず、精神的暴力、性的暴力をドメスティック・バイオレンスととらえ、これらを根絶し、被害者への援助を求めて立法運動をしてきた。
しかしながら、DV防止法が、保護命令を申し立てることができる「暴力」を「身体に対する不法な攻撃であって、生命または身体に危害を及ぼすもの」と定義し、「暴力」を狭めて身体的暴力に限定したため、保護の必要があっても、保護命令の申立ができない事例が多い。例えば、妻が夫から身体的暴力は受けなかったものの、ひどい性的暴力、精神的暴力などで大きな被害を受け、離婚を決意して夫のもとを去り、居所を隠しながら(大抵の場合、夫は妻を執拗に追いかけ、連れ戻そうとする。)離婚調停を申し立てている妻は、保護命令を申し立てることはできない。また、少なくとも一度は身体的暴力を受けていなければ、保護命令の申立をすることができないとされているため、それまでは精神的暴力や性的暴力だけであっても、逃げようとしたら「殺してやる」と脅迫されても、保護命令の申立をすることができない。
これらは、前記宣言と異なり、暴力の範囲をDV防止法が限定的なものとした結果であり、DV防止法の「暴力」の定義を広げ、精神的暴力、性的暴力においても保護命令が発令されるように改正すべきである。


また、DV防止法は、「配偶者(事実婚を含む。)」だけが保護命令の申立ができることとしているため、恋人からの暴力、同棲相手からの暴力に対しては、保護命令を申し立てることができない。保護命令を申し立てることができるのが配偶者(事実婚も含む。)だけでは狭すぎる。同棲中の場合や、恋人、あるいは離婚後も申し立てできるとすべきである(「暴力」は、妻が逃げようとしたり、逃げたりしたときにひどくなるということが言われているが、DV防止法によれば、離婚後は、元夫からの暴力に対して保護命令の申立ができない。)。
さらに、DV防止法では、暴力を受けている被害者の親族や子どもは、保護命令の申立ができない。暴力をふるう夫が妻の居所を探し歩き、子どもや親族に接触してきて、その際に、親族や子どもに対し脅迫したり暴力をふるうことも多い。2002年、日本では、DV加害夫が、逃げている妻を探し出そうと親族を人質にたてこもり、人質にした幼い少女を殺害したという事件も起こっている。保護命令を申し立てることができる人の範囲を広くすべきである。


保護命令のうち、退去命令が2週間だけで、再度の申立ができないとされている点も問題である。暴力をふるう夫を2週間だけ退去させても、せいぜい妻が自分の荷物を取りにいくことしかできないのが現状である。
また、接近禁止命令についても、期間が6カ月というのも短すぎる。DV事案の場合、妻が、離婚調停を申し立てても、夫は離婚を拒否して裁判になることがほとんどであるが、裁判の現状では、6カ月内に判決を得ることは極めて困難である。再度の申立はできることにはなっているが、再度の申立をしたところ、6カ月間夫が接近してこなかったのだから(これは保護命令の効果であると思われるが)、もう保護命令の必要はないとして申立が却下された例もあるという。裁判官のDVに対する認識の問題もあるが、仮に「6カ月」とした場合でも、再度の申立ではなく、保護命令期間の延長として簡便な手続で行えるようにすべきである。


保護命令の内容は、現状は、退去命令と接近禁止命令(つきまとい、徘徊の禁止)であるが、特に禁止すべき事項を、つきまといや徘徊だけとするのは狭すぎる。つきまとい、徘徊に限ってしまったのは、「暴力」を身体的暴力に限定してしまったこととも関連すると思われるが、電話、メールなどによる脅迫により、精神的に大きなダメージを受けていることが多いことに留意すべきである。禁止行為に「ストーカー行為等の規制等に関する法律」2条、3条に該当する行為を含めるべきである。


認容された保護命令事件の平均審理期間は、11.0日であるという(最高裁判所事務総局民事局)。従来の裁判の現状に比すれば、審理期間は短くなってきているともいえるが、11.0日とはいえ、その間、被害者が不安な毎日をおくっていることを考えると、もう少し早く処理すべきであろう。


DVの場合の公的シェルターでの保護について、DV防止法により法的根拠が与えられたことは評価できるところではある。しかし、さらに人的、物的設備を充実すべきである。
なお、従前は、特に男児については小学校低学年までしか母と一緒に保護してもらえず、母とは別に児童相談所に預けられていた。法施行後、年齢制限を取り払った公的シェルターもでているが、施設が充実していないために、今度は、保護された男児が、周囲の女性たちに気兼ねし、部屋から一歩も出られないという状況もみられる。子どもが安心して母と一緒に保護されるような施設の充実が必要である。


DV被害者については、心身の健康の回復を図ることができるよう支援することが必要である。また、被害者の多くは、全ての生活を捨てて暴力環境から逃れてきていることからして、被害者の自立支援策にも重点をおいていくべきである。この点についての法制度が不足している。


第2 セクシュアル・ハラスメント(質問10項、政府報告書第2条-4(6))
    -セクシュアル・ハラスメントの防止-

1 現行法制


第5回日本政府報告書に記載されているように、その行為が刑法犯に該当する場合には刑事罰が科される。また、強姦罪、強制猥褻罪に該当する場合にも刑法犯として刑事罰が科される。しかし、セクシュアル・ハラスメントを規制する法律はなく、刑法犯に該当しないかぎり、セクシュアル・ハラスメントそれ自体で処罰されることはない。


2 職場における防止


1999年の改正男女雇用機会均等法は、21条で事業主は、セクシュアル・ハラスメントを防止するため、雇用管理上配慮しなければならないと定めた。しかし、事業主の配慮義務を定めたものであって、セクシュアル・ハラスメントを違法として禁止する規定ではない。事業主が、この配慮を行わない場合には、厚生労働大臣は、報告を求め、助言、指導及び勧告ができるとされているが、これに従わない場合であっても、事業主に対する制裁はなく、企業名が公表されることもない。
政府報告書に記載されているように、1999年の調査では、企業内の相談、苦情処理機関が設けられているものが34.3%にすぎず、設けられていても支配従属関係の下でのものであるため、実質的には機能しにくい状況にある。
また、加害行為者に対する規定はなく、労働者がセクシュアル・ハラスメントを受けずに働く権利を保障する規定もない。
明確にセクシュアル・ハラスメントを違法として禁止し、セクシュアル・ハラスメントを受けずに働く権利を規定し、迅速で実効性のある救済機関を設けるべきである。


3 セクシュアル・ハラスメントの被害者の救済


セクシュアル・ハラスメントの被害者は、加害行為者に対しては民法709条による不法行為としての損害賠償請求を、使用者に対しては民法715条の使用者責任及び契約不履行責任として損害賠償請求をすることになる。均等法は、事業主に配慮義務を定めているのみであるので、均等法21条を根拠に損害賠償請求をすることはできない。
退職をして損害賠償請求訴訟を提起した事件においても、1999年までは認容される慰謝料は平均約150万円であったが、1999年以降600万円を超える慰謝料が認容される判決も出てきた。
しかし、職場の上司によって強姦されたとして損害賠償請求をした事件について1999年5月、仙台地方裁判所は600万円の慰謝料を認容したが、2001年3月29日に仙台高等裁判所は、「警戒心が足りなかった」、「必死の抵抗があったとすれば(下着の)破損状態は右程度に止まらないとも考えられる」として、「暴行または脅迫を用いて」なされたとは言えないとし、「従わざるを得ない立場にあるのを不当に利用して本件行為に及んだ」としながらも、慰謝料を200万円に減額した(東北生活文化大学セクシュアル・ハラスメント事件判決)。
セクシュアル・ハラスメントの慰謝料が低額であるため、被害者の救済にならないばかりか、加害行為者への制裁にもなっていない。


第3 外国人女性の権利(質問12項、政府報告書第6条-1(2))
   -外国人女性の売買、性的搾取-

1 被害者数の把握

第5回政府報告書では、売春事犯に関与した外国人女性の状況を報告し、2001年中の性的搾取の被害女性は5カ国65人であり、タイ女性の39人が最も多く、フィリピン、台湾、インドネシア、コロンビアの順になっているとしている。この統計は、警察庁の売春事犯に関与した女性の中での人数であるが、例えば、近年増加しているコロンビア女性についてみると、駐日コロンビア大使館領事部の統計によれば、2001年の口頭による被害者の通報は375件であるとされている。
NGOによれば、シェルターに2001年で44%が人身売買で避難してきており、コロンビア人が増加してきているが、2003年1月からはタイ人が1日に3人、翌日4人と逃げてきており、13歳や16歳の少女も含まれているとされている。
1994年頃で、タイ女性の被害者は約20、000人と言われており、その後、減少したが、法務省入国管理局による在留資格のないタイ女性数は、1994年5月1日現在で27、381人であったものが、2001年1月1日現在で、10、219人と減少しているものの、性的搾取の被害女性が数十人ということはない。
人身売買の被害者の状況を把握するには、実際に摘発された事案のみでなく、関係大使館、領事館、NGOなどとも連携をとりながら、現状を把握する必要がある。


2 人身売買の実情

(1)タイ女性のケース
タイ女性のケースでは、リクルーターから、日本へ行ってレストランのウエイトレスの仕事をしないかなどと言われ、来日するが、パスポートを取り上げられ、店に350万円~400万円(NGOの調査では45%がこの金額である。)で売られ、これが彼女の借金となる。日本人と結婚した台湾女性など、彼女達を管理する外国人女性と一緒に数人のタイ女性と住み、外へ出ることや、互いにタイ語で話すことを禁止され、食事も制限される。家から店へ車で送られ、ホステスの仕事をしながら、客の求めに応じて店が提携しているホテルへ行って売春をさせられる。店が休みでも客が売春を求めてくれば、ホテルに行かざるを得ず、風邪で熱があっても、生理中でも休むことはできない。家に帰ると身体検査をされ、客からのチップを取り上げられる。ホステスとして働き、売春をさせられても借金があるため金が渡されることはなく、食費などを差し引かれ、また様々な理由で罰金を課され、差し引かれるため借金は減らない。店が休みの時には掃除などの家事もさせられ、内緒で家にある食べ物を食べると罰金を引かれるだけでなく殴られる。
山の中の飯場の近くの売春宿に15人のタイ女性が連れてこられており、2人で1室を与えられているが、客が来ると1人が食堂で待ち、客との性行為が終わると交代する。家の外へはガードマンがいるので出られない。店を管理している女性が食材を買って来るので、食事を自分達でつくって1日2食は食べることができる。売春代からの配分金は決まっているが、食費、家賃、シャンプー代など支給される日用品費が差し引かれ、タイ語を話したなど様々な理由で罰金として差し引かれるため、借金は減らない。
シェルターに逃げてきた女性たちがいた場所が特定できても、他の女性たちは既に他へ移されており、他の女性たちを救出することは困難である。また、日本語が分からないことや転売されるため場所を特定することができず、他の女性たちを救出することができない。
しかし、売られる金額(借金の額)や売春の形態、罰金制度などは共通しており、裏に組織があってマニュアルが作られていると考えられる。


(2)コロンビア女性のケース
コロンビアから日本への直行便がなく、アメリカ経由の飛行機にも搭乗できないことや、日本への入国管理が厳しいため、ヨーロッパの国々の偽造パスポートで入国するなど、ブローカーの手引きも複雑なため、被害女性の負う借金は500万円~800万円とタイ人女性より高額である。レストランのウエイトレスの仕事があると言われて来日、売春を拒否すると暴力をふるわれ、逃げると親兄弟を殺すと脅されている。妊娠中に来日し、臨月まで売春をさせられていた女性、10日単位でストリップ劇場を転々とさせられた女性もいる。
コロンビア女性の人身売買には、複数の国のブローカーが関与していると考えられる。


3 被害者の救済

第5回政府報告書に検討をしているとされている「人身売買に関する議定書」では、被害者に対するカウンセリング、居住場所、教育、医療及び適当な場合には短期あるいは長期の在留資格の付与を規定している。
しかし、被害者は監禁されている場所からNGOのシェルターに逃げて来るのがやっとであり、在留資格のない外国人には生活保護法の適用もないため、食べることもNGOのシェルターに頼らざるを得ない。病気になっている場合でも、在留資格のない外国人には、健康保険の適用はなく、医療扶助も受けられないため、実費の医療費を自分で支払う以外に医療を受ける手段はない。精神障害を持つに至った女性やHIV陽性の被害者もおり、NGOの援助には限界がある。しかし、公的な医療へのアクセスの方法は行き倒れの場合の行旅病人及び行旅死亡人取扱法(1899年制定)によるしかない。
DV防止法により、配偶者からの暴力については民間のシェルターに対して、国や地方自治体の財政的援助についての努力義務が定められているが、在留資格のない外国人女性の救援をしているシェルターは、慢性的な財政上の窮乏状態にある。
コロンビア女性の場合には帰国旅費を捻出する困難が加わっている。
公的な被害者の救済への手だて、NGOへの援助が必要である。
また、人身売買の被害者に対しては、少なくとも短期の在留資格が与えられることがなければ、被害者が心身に加えられた傷を癒して帰国することはできない。


4 処 罰

(1)被害者
偽造パスポートで入国したり、在留資格のない外国人の場合は、人身売買の被害者であっても入管法違反による処罰の対象となる。他方、売春防止法は街娼に対する公然勧誘罪のみを処罰の対象としている。


(2)ブローカー、雇用主
売春防止法は、売春を管理、斡旋、場所の提供をする者を処罰し、斡旋については職業安定法違反、労働者派遣法違反による処罰も行われており、入管法の不法就労助長罪が適用される。
しかし、背後のブローカーや国際的な人身売買組織にまで捜査がおよぶことにはなっていない。被害者を救済しても、新たな被害者が出ることを防ぐことはできず、人身売買を根絶することはできない。
前記の議定書は、国際的な協力による人身売買犯罪の捜査、処罰及び出入国管理について定めており、国内法の整備が必要である。


第4 雇用における女性差別(質問18項、政府報告書第11条1-1(1))

1 女子学生の就職

経済不況のもとで、女子の就職率は悪化している。就職率は、2002年4月大卒男子92.5%、女子91.5%であり、2003年2月1日現在の就職内定状況は、大卒男子85.4%、女子は80.9%、短大は女子70.6%(男子の統計はない。)で、女子の方が男子より悪い。


2 退職、解雇における女性差別

退職、解雇で女性を差別的に取り扱うことは、男女雇用機会均等法で禁じている。しかし、実態としては、2000年の調査(財団法人21世紀職業財団「新規大卒者の就職活動等実態調査」)によると、「結婚・出産退職の慣行」があると回答した新規大卒就職者の割合は、全産業で18.1%、「妊娠・出産後も働き続けている女性がいない」と回答した割合は、18.2%にも上る。結婚あるいは出産退職の慣行が根強く残っている事実を示している。
厚生労働省によると、2001年度に都道府県労働局へ寄せられた退職や解雇に関する女性労働者からの支援要請は、前年比の約20%増しの84件で、この内70件が結婚や出産を理由とするものであった。
裁判の事例としては、妊娠した幼稚園教員に対する解雇の事案がある(2002年3月13日大阪地裁堺支部判決)。使用者は、妊娠した女性教員に対し、妊娠の時期は自ら調整可能な私事であるのに、調整せず妊娠したことによって教員としての重責を途中放棄することは、学校の信用を失墜させるものであり、教員の資格に欠けるとして、中絶を迫り、さらに退職を強要し、ついに解雇した事案である(原告は流産の危険があり入院し、結局流産した。)。判決は、園長が原告の妊娠を理由として、中絶の勧告、退職の強要及び解雇を行ったもので、解雇は無効であるとして、原告の雇用契約上の地位を認めると同時に幼稚園と園長に慰謝料の支払いを命じた。
均等法は、女性の結婚・出産退職制を女性差別として禁止しているので、この制度を企業が定めることは、現在ではほとんど無い。しかし、慣行は根強く残っており、それを解消するには、固定的な性別役割分業意識を解消し、育児を男女と社会の責任とする女性差別撤廃条約の趣旨に則って、女性も男性も家族的責 任と仕事上の責任を両立しうるような職場及び社会での条件を整備していかなければならない。


第5 パートタイム労働者(質問19項、政府報告書総論2(3) 、第11条1-2(1) )

1 多様な雇用形態で働く日本の女性

2002年の女性雇用者は2、161万人、男性雇用者数は3、170万人で、雇用者総数に占める女性の割合は40.5%となった。
雇用形態別にみると、常雇が1、669万人と前年にくらべ27万人減少したが、臨時雇が412万人と前年に比べ23万人と引き続き大幅な増加となっている。
近年、パートタイム労働者をはじめ派遣労働者、契約社員等の非正規雇用が拡大しているが、女性の割合をみるとパートタイム労働者は69.0%、派遣労働者は77.8%、在宅就業者は70.1%であり、女性の割合が高い。
女性正社員の割合は、45.2%であり、男性は81.7%で(1999年政府統計)、女性の方が男性に比べ正社員の低下の度合いが大きく、その分パートタイム労働者等非正規社員の占める割合が上昇している。就業形態の多様化は、女性を中心に進展している。非正社員の雇用は不安定で、労働条件も正社員に比べると悪い。したがって、それぞれの労働条件の改善は、働く女性の労働権及び地位向上のために重要な課題である。


2 女性パートタイム労働者の現状

(1)日本では、「パートタイマー」、「パートタイム労働者」という言葉は、一義的に使われていないので注意しなければならない。
政府統計では、「短時間雇用者」という言葉を用い、1週35時間未満働く労働者を指す。1993年に制定された「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パートタイム労働法」という。)では、「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」をいう。また、「パートと呼ばれる人」を全てパートタイム労働者という場合もある。


(2)政府統計によると、女性短時間雇用者(労働時間が週35時間未満)は2002年には835万人で、男性短時間雇用者は376万人で、男女計1、211万人となっている。女性雇用者のうち短時間雇用者の占める割合は39.7%と非常に高い。
さらに、日本では「パートと呼ばれる人」のなかには、「フルタイムパート」または「疑似パート」と呼ばれる、通常の労働者と同じ、またはそれ以上の労働時間働く労働者がいることが特徴である。ここ数年、疑似パートタイム労働者は増え続けており、週40時間(法定労働時間)以上働くパートも増えている。これらの労働者は、パートと呼ばれるだけで、賃金等において通常の労働者より賃金等が安い状態に置かれているのである。


(3)パートタイム労働者の身分は不安定である。
パートタイム労働者の約40%が有期雇用である。わが国では有期雇用について、期間について1年を超えてはならないこと(高度の専門職については3年)の定めがあるのみで、臨時的必要などに限るという制限はない。そのため恒常的な業務に就いているのに契約期限で雇用を打ち切られたり(「雇い止め」という。)、また期間途中の使用者の一方的解約の事例も数多く見られ、パートタイム労働者の身分は、不安定である。


(4)賃金等労働条件も劣悪である。
賃金については、女性の平均時給は891円(2002年所定内給与額)で、正規の女性一般労働者の賃金水準の64.9%である(2002年の一般女性労働者の所定内給与額を時給換算したものを100とした。)。日本の一般労働者の男女賃金格差は、66.5%(2002年)であるから、一般の男性労働者の賃金水準に比較するならば、パート女性労働者の賃金水準は、一般男性労働者の43%台に止まるという低い水準となっている。
さらに、賞与・退職金制度の適用を受ける正社員は90%を超えるのに対して、パートに賞与制度の適用があるのは40%強、退職金制度は10%弱に止まるなど、正社員とパートの状況には大きな差がある。同一価値労働同一賃金原則からみると、女性パートタイム労働者の賃金等は、その働きに見合っていない。


(5)使用者側は、パートタイム労働者を使用する理由として、第1に、「コストが安いから」、第2に、「雇用調整しやすいから」ということを挙げており、パート労働者を安価な、雇用調整しやすい労働力と位置づけている。しかし、仕事そのものは、基幹的業務が増えてきている。企業側は、総人件費を抑制するために、今後も正社員をパートタイム労働者に置き換えていくことは必至である。
一方労働者側がパート労働で働く理由としては、勤務時間帯、勤務時間・回数と時間的要素を考慮するものが多いが、最近は、正社員として働く機会が得られなかったという理由で、パート労働を選ばざるを得ない労働者も増えてきている。特に、新学卒のうち、女性で20%、男性で16.3%がはじめからパートで働いており、不安定雇用労働者が若い層に広がっていることは、重大な問題である。このような状況で、今後もパート労働者が増えていくことは必至である。


(6)前述のとおり、パート労働者のうち、女性が占める割合は70%を超え、この10年で280万人も増えている。女性が、結婚あるいは出産後再就職する場合には、パートでしか就職できないのが現状である。
パートの身分は不安定で、労働条件も劣悪であるから、パート労働者の労働条件の改善なくして女性労働者の地位向上はないと言っても過言ではない。
女性差別撤廃条約が定める同一価値労働・同一賃金原則に基づき、日本のパートタイム労働者の低い賃金水準を是正しなければならない。ところが、日本ではこれらパートタイム労働者に対する差別的処遇を是正する有効な法的規制はない。1993年に制定されたパートタイム労働法は、通常労働者との均衡(注:ILO175号条約が定める均等待遇原則ではない。)を考慮して雇用管理を改善する努力をしなければならないと規定するのみで、均等待遇の原則を定めていない。また、日本では、間接差別の禁止は、法律上規定されていないし、社会的法規範としても確立していない。現在のパートタイム労働者の差別処遇を改善するための有効な法的規制が存しない状況にあるのである。
このため、司法救済も困難である。パートタイム労働者の差別的処遇について、訴訟提起し、判決に至ったのは、丸子警報器事件(自動車部品メーカーで働く女性労働者28名が提訴)のケースが1件あるのみである。この訴訟の地裁判決(長野地裁上田支部1996年3月15日)は、正社員の80%の賃金が払われなければ、使用者による不法行為であると判断し、高裁では90%の水準で和解が成立している。しかし、この事案は、労働時間も仕事も全く正社員と変わらず働いていた前述の疑似パートの事例であり、パートの差別的処遇について、司法救済はされていないというのが、現状である。
また、パートタイム労働者の労働組合組織率は3%弱に留まっており、使用者との交渉力も乏しい。
日本は、ILO156号条約を批准しているにもかかわらず、同条約と165号勧告に沿った改善が進んでいない。
しかし、政府は立法化には、消極的である。厚生労働省は、パートタイム労働研究会に「パートタイム労働の課題と対応の方向性」について研究を委託し、2002年7月にその最終報告が出された。その報告を受け、政府は労働政策審議会で今後のパートタイム労働対策のあり方について検討していたが、正社員は転勤や残業などで拘束性が高く、パートとの均等待遇は困難であるとして、均等処遇原則を法制化するのではなく、「日本型均衡処遇原則」を行政指導していく方向で進んでいる。


(7)しかし、日本はすでに1995年に、ILO156号条約を批准している。未批准のILO175号条約の批准と、同条約、ILO156号条約及び165号勧告の趣旨にそって、均等待遇原則を明記したパートタイム労働法の改正あるいは制定を、早期に実現しなければならない。


第6 派遣労働(質問20項、政府報告書第11条1-2(2) )

1 労働者派遣とは

従前、労働者の権利保障が不十分になるということで禁止されていた労働者派遣が、1985年に労働者派遣法の制定によって一部認められるようになって以降、雇用形態の一つとして派遣労働が増加している。
日本での「派遣労働」のシステムは、以下のとおりである。
人材派遣会社(「派遣元」という。)が労働者を雇い入れ、労働者を必要とする会社・団体(「派遣先」という。)から要請があれば、自己が雇い入れた労働者を派遣先に派遣して働かせるシステムである。派遣労働者の雇い主は派遣元の人材派遣会社であるが、労働者に指揮命令して労務の提供を受けるのは派遣先である。
雇用主と使用者とが異なるところに、このシステムの問題点がある。派遣元は、派遣先と労働者派遣契約を結んで派遣料を受け取る。派遣元は、その中から雇っている派遣労働者の賃金を支払う。派遣元が派遣先から支払いを受ける派遣料から得る差額(労働者に対する賃金及び労働者派遣に要する費用を除いたものが、利益となる)について、現行の労働者派遣法では、規制はない。したがって、労働者に対する賃金の額が下がるほど、派遣元が利益を上げるシステムである。
派遣労働には、2つのタイプのシステムがある。「常用型」派遣というのは、派遣元に常用されているもので、労働者を派遣する派遣先がない場合でも、派遣元は、労働者に賃金を支払わなければならない。「登録型」派遣とは、派遣元に名前や希望職種、技能等を登録しておく。登録しておくだけでは、派遣元とは雇用関係がなく、派遣先が決まってから、派遣期間だけ派遣元との雇用関係が成立し、その間だけ賃金が支払われるというシステムである。労働者の権利保障の点で、最も問題が多いのは、「登録型」派遣である。「登録型」派遣の場合、いつ派遣されるかわからず、短期の派遣が小刻みに繰り返されることも多く、雇用機会が非常に不安定である。


2 派遣労働の法規制の変遷

労働者派遣法が制定された当初は、労働者派遣は、専門性が高い26業務に限定して認められていた。しかし、その後、1999年に、対象業務を原則自由とする「改正」が行われて以降、派遣労働は急速に広がった。現行法では製造業や、医療等では、派遣労働が禁止されているが、現在さらに規制を緩和する労働者派遣法の改正案が国会で審議中である。法案は、派遣期間の制限を緩和し、「物の製造業務」及び一部の社会福祉施設の医師及び看護師に派遣労働を認めることなどを内容とするものである。製造業で働く労働者は約800万人にも上り、派遣労働が認められると、派遣元が大量の労働者を派遣して(レンタルして)、利益を上げる事が可能となる。職業安定法が、労働者の派遣を禁止していたのは、派遣元が中間搾取をして、労働者が保護されず、また正規従業員の雇用が浸食されないようにという観点からであったが、これまでの労働者派遣法の改定では、労働者の保護が不十分なまま、派遣労働に対する制限を緩和してきている。さらなる規制緩和は労働者保護の上で深刻な問題を提起している。


3 派遣労働の実態

派遣労働者は急速に増え、厚生労働省の調査によると、2002年度の派遣労働者数は、約175万人で、前年比26.1%増しとなっている。1996年度の派遣労働者数は約72万人であったから、6年で約2.5倍となった。
派遣労働者のなかでも、常用でない雇用が不安定な登録型の派遣労働者が増えている。登録型派遣労働者に占める女性の割合は、政府統計でも、1997年度で85.9%、2002年の東京都の調査でも、86.6%を占め、女性が圧倒的に多い。
派遣先が派遣労働者を使用する理由は、常用正規労働者を削減し、賃金の安いパート、派遣労働者等の非正規労働者へ切り替えていくことにある。一方、労働者の側は、「ライフスタイルに合わせた働き方として、評価されている」という意見もあるが、調査によると、近時「正社員になれなかったから」派遣を選んだという労働者が増えている。
前記東京都の調査によると、派遣労働者に対する「なぜ派遣という働き方を選んだか」という質問では(二つまで選択可能)、「自分の都合で働けるから」という回答と、「正社員になれなかったから」という回答がともに4割を超えている。「専門的な技術や資格を生かせるから」という回答は、98年度の調査では22.9%であったのが、2002年度の調査では、13.4%へと大きく低下しており、派遣労働を積極的に評価する労働者が減少し、正社員指向が強まっていることがわかる。また、約70%の派遣労働者が「雇用不安を感じる」と回答している。
労働者の保護が不十分なこの雇用形態に、女性が集中していることがわかる。そして、この雇用形態においても、男女間で賃金格差があるのである。
その他、契約期間中の契約打ち切り、派遣労働者の個人情報の派遣元からの流出等、労働者保護の上で、問題が多い。


4 労働者保護の必要性

派遣労働には、以上のような問題が多いにもかかわらず、政府は、さらに製造業等へ派遣労働を拡げる法案を国会に上程した。当連合会は、これに対し、(1)派遣期間(原則1年)を延長すべきではない、(2)継続して1年以上同一業務に従事させた場合、派遣労働者が要望すれば直接雇用することを義務づける、(3)「物の製造」業務を派遣対象業務とすべきではない、等の意見を表明しているところである。


第7 司法分野でのジェンダー教育、研修(政府報告書第2条-3(3))

1 政府報告書第2条-3(3) の記載と現実

第5回政府報告書は、はじめて人権等に関する司法分野における研修について報告している。法曹に対するジェンダーを含む人権教育については、既に国際人権(自由権)規約委員会、国際人権(社会権)規約委員会で、繰り返し指摘されてきたことに対応するものであると考えられる。しかし、裁判所、法務省の対応は、特にジェンダー教育、研修の面で未だ不十分である。
このため、例えば、セクシュアル・ハラスメントのケースにおいて、加害者と被害者の支配従属関係を理解しないまま、抵抗しなかった被害者に非があるとして損害賠償が減額された判決が、2000年以降でも第2に記載した事例以外にも出されている。また、配偶者からの暴力によって傷害を被った場合の慰謝料の額が、夫婦間の損害賠償であることを理由に交通事故による傷害(これは過失による。)の慰謝料よりも低く認定された判決もある(1999年9月8日、神戸地裁判決。なお、控訴審では交通事故と同額の損害賠償が認められた。)
更に、当連合会の調査では、ドメスティック・バイオレンスが問題となっている事件における和解の席上で、裁判官が「私も女房を殴っていますよ」と発言した例をはじめ、調停委員が「夫が妻に暴力を振るうのは当然なので、我慢しなさい」などと暴力を容認する、「仕事を持っている女性の配偶者は大変である。専業主婦であれば、夫は随分楽ができる」、「妻が朝早く起きて夫の食事をつくらない。家事を怠っている」、「男は働いて家族を養うべきもの」といった性別役割分担を押しつける例が報告されている。これらは司法に携わる者が、ジェンダーバイアスにとらわれていることに起因する。
司法の場から、このようなジェンダー・バイアスをなくすには、司法の分野において裁判官、検察官、弁護士などに対して十分なジェンダー教育を行うことが急務である。
また、研修の内容も問題であり、ジェンダーバイアスを様々な女性に対する差別の背景にある構造的な問題として捉え、これを基軸においた教育、研修がなされなければならない。
報告されている司法の分野における人権等の研修が、このような意味でのジェンダー教育、研修となっているかどうかは疑問である。


2 問題点

(1)ジェンダー教育の実施に関するデータの不存在
現在、裁判所、法務省、弁護士会において、ジェンダー教育がどの程度行われているのかに関するデータは存在しないため、その実施状況は全くチェックされていない。関係機関がジェンダー教育の実施を確実に行うため、その実施状況に関する包括的な実態調査(研修回数のみならず、その内容に踏み込んだものまで)を行い、現状を把握した上で、教育体制が不十分である場合には、早急に改善策を講じる必要がある。


(2)教育内容・教育方法への配慮
ジェンダー教育に関しては、その実施の有無のみならず、教育内容もまた問題とされなければならない。
例えば、DV防止法24条では、「国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。」と規定され、裁判所では、同法の保護命令の手続を含めた同法の解釈・運用に関する研修がなされているという報告もある。しかし、同条後段は、「この場合において、配偶者からの心身に有害な影響を及ぼす言動が、配偶者からの暴力と同様に許されないものであることについても理解を深めるよう配慮するものとする。 」として、保護命令の対象となる身体的暴力のみならず、いわゆる精神的暴力、性的暴力、経済的暴力についての理解を深める教育が施されなければならないと謳われている。しかし、2002年に内閣府の発表した「配偶者からの暴力に関する有識者アンケート調査」によれば、「相手方が嫌がっているのにポルノビデオやポルノ雑誌を見せる」、「何を言っても長期間無視し続ける」、「相手の交友関係や電話を必要以上に監視する」といったことを暴力と考える司法関係者の割合は、有識者平均を大きく下回る結果となっている。精神的暴力、性的暴力、経済的暴力が、被害女性の尊厳を踏みにじり、いかに屈辱と苦痛を与えるものかという認識が、司法関係者に欠けているのが現状である。このようなデータを見ると、現在なされている研修において、これら身体的暴力以外の「配偶者からの心身に有害な影響を及ぼす言動」について、理解が深められているとは到底考えられない。
ジェンダー研修・教育の内容については、女性に対する暴力一般、セクシュアル・ハラスメント、職場における性差別、家庭内における性別役割分業の問題、及び男女共同参画社会のあり方等全てのジェンダーの問題が取りあげられるべきであり、また、各人がその根底にあるジェンダー・バイアスの存在を認識しうるような社会学的、心理学的考察にも及んだ研修・教育方法が採用されるべきである。


第8 日本における貧困の実情 (質問項目、政府報告書にはない。)

1 失業率の増加等

(1)日本では、失業率は、1980年代までは2%台であったものが、1990年代に入ってから失業者は増加する一方で、2002年には遂に平均年間失業率が5.4%(男性5.5%、女性5.1%)となった。統計が取られている1953年以降で最悪である。
2002年12月の失業率は、5.5%と過去最悪であり、331万人で、定年等を含めた非自発的失業者は152万人、うちリストラなど会社都合で離職した人は114万人、自己都合の離職者は105万人である。
2002年の平均の有効求人倍率は0.54倍、同年12月のそれは、0.58倍と、就職状況は悪化している。
就業者数は、2002年12月には、6、291万人となり、前年12月より、71万人も減っている。正社員らフルタイム労働者が65万人減となる一方で、パート等短時間労働者(週の就業時間が35時間未満)が41万人増え、非正規労働者への置き換えが進んでいる。
女性の失業率は、概してわずかに男性より低いが、これは求職を諦めて主婦業に専念する道を選ぶ者がいるからである。2003年に入り家計が悪化するもとで、家計維持のため再び求職活動をせざるを得なくなっており、女性の失業率も男性とほとんど変わらなくなってきている。

(2)失業の実態はさらに深刻である。
日本の失業率の認定は甘く、実際に失業状態である労働者の数は、統計で現れる数字をはるかに超えている。
総務省労働力調査で「完全失業率」とは、労働力人口に占める完全失業者の割合をいう。完全失業者は、(1)仕事がなく、調査期間中に少しも仕事をしていない、(2)仕事があればすぐにつくことができる、(3)調査期間中に仕事を探す活動をした、という3つの条件を満たした人をいう。
実際の調査は、全国から無作為に抽出した約4万世帯を構成する15歳以上の人約10万人を対象に行われ、月末1週間の就業、不就業の状態を調べる。つまり、月末の1週に少しでも仕事をした人は、「就業者」となるのであり、失業者の認定は甘い。例えばアメリカ労働省で用いられている6つの失業指標(U1~U6)を用いて換算し、日本の失業者を把握するならば、「U2(非自発的離職失業者/労働人口)」でアメリカを下まわるのみで、他の5つの指標全てにおいて日本はアメリカを上回る。日本の失業情勢はより深刻である。


2 社会保険料の負担増

さらに社会保険料の負担増及び給付条件の制限が、労働者とその家族の生活を悪化させている。


(1)雇用保険
失業が深刻な問題となっているなかで、雇用保険による給付は、失業者の文字どおり命綱となっている。しかし、この間、雇用保険料の労働者負担が増大しているのにかかわらず、給付水準は低下するという状況にある。


(2)健康保険
70歳以上の国民に対しては2002年10月から、70歳未満の国民に対しては2003年4月から、健康保険による医療の患者負担が増える。
例えば、公務職場や民間の団体や企業で働く健康保険加入の労働者本人の場合、従前医療費の2割を自己負担していたが、2003年4月からは3割と1.5倍の負担増加となる。


(3)年 金
2000年3月に、年金支給開始年齢の65歳への段階的な引き上げが決まり、さらに、賃金スライドの凍結、報酬比例部分の5%カット等の大改悪が強行されている。これにより、30歳代のサラリーマン夫婦で、退職後死亡迄の年金受給額が合計で1000万円以上減額されることになるという試算もされている。老後の生活に対する不安は大きい。


3 路上生活者(ホームレス)

厚生労働省は、2003年3月26日、ホームレスに関する全国調査結果を発表した。国が全ての市区町村を対象に調査を実施したのは初めてであり、ホームレスは、581市区町村で2万5、296人であった。大阪府が最も多く、7、757人、東京都が6、361人で、全ての都道府県でホームレスが確認された。
調査は、目視によってホームレスと確認されており、うち女性とされたのは全体の3%であったが、外見だけでは性別が分からなかった人も15.4%であった。
このうち2、163人を対象に行った面接調査では、ホームレスとなった理由は仕事が減ったが35.6%、倒産・失業が32.9%、病気や怪我、高齢で仕事ができなくなったが18.8%であった。
また、ホームレスとなる直前の雇用形態について、正社員が38.6%と最も多く、日雇が35%であり、リストラなどにより職を失い正社員であった人がホームレスになっている状況も明らかになっている。
年齢は50~59歳が45.4%、60~69歳が30.8%であった。
健康状態について、「具合が悪いところがある。」と答えたのが47.4%であったものの、そのうち通院や売薬で何らかの対応をしているのは31.6%に過ぎず、8.9%が通行人の暴力を不安に感じていた。
長引く不況の下でホームレスが増え、健康状態が悪くても医療などの対応ができないでいる状況が明らかとなった。


4 家計の困窮

以上のような諸々の生活条件の悪化のもとで、長期に渡る収入の低下の結果、絶対的な低所得者層である年間所得200万円に達しない世帯数が742万世帯、総世帯の16.3%にも上っている。
この世帯は、生活保護基準をも下回る生活状況である。
ローン返済に行き詰まる等して、2002年に裁判所に自己破産の申立てを行った件数は22万3、561件に達し、10年前の1992年と比べると、約5倍に膨れている。
貧富の差は、いっそう拡大し、とりわけ、非正規労働者が急速に増えている女性労働者は、急速に低賃金労働者化が進んでいる。
母子家庭の場合、その生活を支える児童扶養手当の大幅な削減を内容とする母子寡婦福祉法「改正」案が、2002年に成立し、母子家庭の家計は一層苦しくなっている。母子家庭の母親の90%は就職しているにもかかわらず、平均年収は229万円に止まっている。2001年の調査でも、母子世帯では「生活が苦しい」が41%、「やや苦しい」が40%を占めている。


女性差別撤廃条約の実施状況については、男女全体のおかれている状況の下で女性が現実にどのような状況におかれているのかを報告するべきである。


以  上