日本弁護士連合会 - 女性差別撤廃条約に基づく第4回日本政府報告書に対する日本弁護士連合会の報告書

  • はじめに
  • 第1部 日本女性の現状
  • 第2部 各 論
    • 1 第1条
    • 2 第2条
      • (1)女性に対する暴力
        • 1)性犯罪について
        • 2)セクシュアル・ハラスメントについて
      • (2)いわゆる従軍慰安婦問題
    • 第2条(c)
      • (1)オンブズパーソンの検討
    • 3 第3条
      • (1)国内本部機構の充実
      • (2)地方公共団体における施策の充実
      • (3)障害を持つ女性のための施策
      • (4)高齢者女性のための施策
    • 4 第4条
      • (1)男女の固定的役割分担意識是正のための広報・啓発活動
      • (2)女子差別撤廃条約の普及
      • (3)女性労働者の能力発揮を促進する取組
    • 5 第5条(a)
      • (1)男女の固定的役割分担意識是正のための広報・啓発活動
      • (2)女子差別撤廃条約の普及
      • (3)メディアにおける女性の人権の尊重
    • 第5条(b)
      • (1)家庭生活への男女の共同参画
    • 6 第6条
      • (1)売買春の現状
      • (2)売春をめぐる諸状況
    • 7 第7条(b)
      • (1)公的分野における女性の参画状況
    • 8 第8条
      • (1)国際分野における政策決定への参画状況
    • 9 第9条
      • (1)外務公務員法の改正
    • 10第10条
      • (1)男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実
      • (2)女性の多様化・高度化した学習需要に対応した教育・学習機会の充実
      • (3)進路・就職指導の充実について
      • (4)教育改革プログラム
    • 11第11条1(a)~(c)、(f)男女雇用機会均等確保対策の推進
      • (1)男女雇用機会均等法の実施状況
      • (2)男女雇用機会均等法等の改正
      • (3)男女雇用機会均等等確保のための取組
    • 第11条労働基準法の改正
      • (1)深夜業、休日労働、残業規制
    • 第11条1(c)
      • (1)女性の職業能力開発の推進
      • (2)女性の社会参加の支援のための事業の推進
    • 第11条1(d)
      • (1)男女間賃金格差解消のための取組
      • (2)無償労働(アンペイドワーク)
    • 第11条2(c)
      • (1)育児・介護期における条件整備の充実
      • (2)子育て支援対策の充実
      • (3)職業生活と家庭生活との両立支援事業
    • 第11条2(d)
      • (1)母性保護(妊産婦に対する保護)
    • 12第12条
      • (1)女性の生涯を通じた健康支援
      • (2)妊娠と出産に関するサービスの提供
      • (3)周産期医療の充実
      • (4)家族計画
      • (5)HIV/エイズ
      • (6)女性に特有な疾病に関する予防対策
    • 13第13条(a)
      • (2)児童扶養手当の支給
    • 第13条(b)
      • (1)未婚の母に対する各種サービス
    • 14第14条
      • (1)農村における政策方針決定過程への参画状況
    • 15第16条
      • (1)民法改正の検討
      • (2)家庭内暴力
    • 第16条
      • (2)外国人に対する夫婦間暴力

はじめに

国連経済社会理事会との協議資格を有する非政府組織である日本弁護士連合会は、「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約における実施状況に関する第4回日本政府報告書」に対する当連合会の報告を提出する。

当連合会は、1949年9月に設立され、わが国の全ての弁護士及び弁護士会を会員としている。

弁護士会は、52の単位弁護士会があり、単位弁護士会は全国に50の地方裁判所の管轄区域ごとに置かれ、東京のみ三つの単位会が置かれている。弁護士会は、行政官庁や裁判所の監督に服さず、自治権を持ち、独立の法人格を有している。

2002年3月31日現在の当連合会所属会員数は、18,838名である。

弁護士は弁護士法により、基本的人権の擁護と社会正義を実現することを使命とされている。

従って、これまで当連合会及び全ての弁護士会ならびに弁護士は、基本的人権を擁護し社会正義を実現のために活動してきた。

当連合会は、国際婦人年を契機に女性に対する差別の撤廃、女性の権利の擁護及び地位向上のために、一層活発な活動をするため1976年に女性の権利に関する委員会(現「両性の平等に関する委員会」)を設置し、女性の地位向上及び差別撤廃のために、女性差別撤廃条約の批准、これに伴う条約違反の法改正等法制度の整備、1994年1月、第13会期女性差別撤廃委員会の日本政府報告審議に当り、「女性差別撤廃条約の日本における実施状況に関する日本弁護士連合の報告」を提出し、第4回世界女性会議の参加資格を承認され、北京宣言及び行動綱領の内容作成に働きかけるために「『第4回世界女性会議のための国別報告』に関する日本弁護士連合会の報告」を提出し、同会議にNGOとして参加する等の活動をしてきた。

日本政府は、第13会期女性差別撤廃委員会による政府報告に対して、同委員会から懸念事項、助言及び勧告を含む最終意見が出された後、1999年6月に男女共同参画社会基本法を制定し、これに基づく男女共同参画社会基本計画を策定し、雇用の分野では雇用機会均等法を改正し、女性に対する暴力に関してはDV法を制定する等女性差別撤廃のための措置をとってきた。

しかし、同委員会から表明された懸念事項や助言及び勧告にもかかわらず、今なおわが国では男女賃金格差は是正されず、間接差別も殆んど改善されていない。また差別的な民法も改正されず、政策決定の場における女性の参画に大きな変化は見られない。

しかるに、このような現状にあるにもかかわらず、第4回政府報告は、わが国の女性が差別されていることを明確にしていないばかりか、差別撤廃の障碍が何かを分析することなく、差別撤廃のための措置もまだまだ不十分である。

当連合会は、本レポート作成に当たり、同委員会の最終見解がどのように生かされているかを考慮しながら、日本における外国人女性を含めた女性の差別的実情及びその原因ならびに差別解消のために政府がとるべき措置を同条約実施の観点から明らかにする。

なお、本レポートの作成にあたっては、下記の要領によった。



  1. 目次は、政府報告の目次を掲げた。
  2. 当連合会の報告は各目次に対応した女性差別撤廃条約の条項にに沿って、Aは当連合会の意見、Bは条約委員会の最終見解、Cは政府報告書の記載概要、DはAの意見に至る当連合会の検討内容を記載したものである。
  3. 従って、目次記載条文の下に記載された項目とA乃至Dの記載とは必ずしも一致しない。

第1部 日本女性の現状

1 人口及び人口動態

A 結論と提言


日本女性の現状を数値で示すだけでなく、日本政府はそのような現状を女性に対する差別が存在していると見ているのかどうか、差別が存在していると認識しているのであれば、それを具体的に示し、差別撤廃の障害となっているものは何かを分析し、その障害を取り除くために日本政府はどうしようとしているのかを提起すべきである。


B 女子差別撤廃委員会の懸念事項・勧告内容


(1)主要な問題点5


日本報告がデータは豊富であるが事実の記述に止まり、日本における条約の十分な実施に対する批判的な分析を欠いていることに懸念を表明する。


(2)提言と勧告8


次回の報告作成にあたっては、政府が日本の女性NGOと効果的な対話を行い、日本の女性の実態がもっとよくわかるようにすることを、委員会は求める。
日本の女性が、私生活及び職場で直面している法律上及び職務上の差別が指摘され、それらの障害を克服するための措置が示されるか、計画されなければならない。


C 第4回政府報告書の記述


日本女性の現状として、1.人口及び人口動態、2.教育、3.就業、4.農林漁業に従事する女性、5.男女共同参画に関する世論調査結果、6.NGO等の活動、7.男女共同参画推進本部機構、8.国内行動計画、9.地方公共団体等の活動例、10.主な法令改正(以上2~13頁)で現状の記載がなされている。


D 日弁連の意見


(1)「1 人口及び人口動態」について、1996年の合計特殊出生率が1.43となっている現状を記載しながら、その要因として、「特に女性の社会進出が進み育児の負担感、仕事との両立の負担感が増加していること、また男女共に結婚に対する価値観が変化してきたこと等があげられている。」として、「負担感」、「結婚に対する価値観」を挙げている。
しかしながら、1997年度(平成9年度)「国民生活白書」では、少子化の要因の1つとして、子どもを産み育てるための費用の増大、特に教育費の増大をあげ、女性が所得機会を逸する費用(機会費用、出産・育児期間中に就業が中断されることに伴う費用)をあげている。この機会費用について、パートとして再就職しても給料は低く昇給の可能性も低いため一層出産・育児のための機会費用は大きなものとなる、とし、「働く女性が子どもを産みやすく育てることが容易な環境をつくっていくことが必要である。」としている。更に、「私的な支援の体制や認可、認可外を問わぬ保育サービスの供給体制の整っている地域では、働く女性であっても子どもを生みやすく逆に子どもを持ちながらも継続的に働きやすいことを示している」としている(1997年度(平成9年度)「国民生活白書」93~100頁)。
実際には、このほか長時間労働、産前産後休暇や育児休業後の不利益取扱い、配転などのため、育児と仕事の両立が困難となっている実情がある。
負担感や価値観で問題をとらえるのではなく、少子化に対しては、教育費の軽減や育児と仕事との両立支援のための制度的、法的整備が必要である。


(2)「3 就業」についてにおいて、「男女間の賃金の差は、勤続年数、年齢、学歴、就業分野、職階、労働時間等の要因によってもたらされている」としている。そして「標準労働者では、最も差の大きい45~49歳においては男性を100とした場合女性は81.8である」としている。
 「標準労働者」がもちいれられるようになったのは、1982年(昭和57年)版「婦人労働の実情」(労働省)以降である。1981年(昭和56年)版「婦人労働の実情」では、パートタイム労働者も含む男女の賃金を比較しており、男子の賃金を100とした場合、女子の賃金は、1975年(昭和50年)には55.8%、1978年(昭和53年)には56.2%と賃金格差は縮小を続けてきたが、1979年(昭和54年)54.9%、1980年(昭和55年)53.8%と、ここ2年間格差は拡大した。「男女格差が生じる要因として、女子を短期的補助労働に固定化して考える傾向があり、採用、配置、教育訓練、昇進昇格等の範囲が男子に比べて制限されている場合が多いこと」(1981年(昭和56年)版「婦人労働の実情」24頁)としている。格差が拡大している状況(1981年)の下で、以後格差が生じる要因を抜きにした「標準労働者」による比較をすることは、男女差別のある実情を反映しないこととなる。
実際のところ、採用、配置、教育訓練、昇進昇格によって格差が生じていることから、例えばコース別人事管理が行われている企業における男女数を比較することなしに、ごく少数の総合職の女性をとってあまり差がないとすることは、何故差別があるのか、それをどうすればなくすことができるのかを解明することには役に立たない。
訴訟が提起されている賃金差別事件では、差別の存在が明らかとなっている。まず、必要なのは格差がある現状を明らかにして、その原因を究明し、政府としての対策をとることである。


(3)「5 男女共同参画に関する世論調査結果」については、結果をどのように評価するのか、政府として性別役割分担をなくすためにどのような施策をとっていくのかを明らかにすべきである。


第2部  各 論

1 第1条

A 結論と提言


女子差別撤廃条約1条に定める、女性に対する差別に適合する差別を定義する法律が定められねばならないが、男女共同参画社会基本法、男女雇用機会均等法(以下「均等法」という。)ともに、差別する目的、意図はなかったにもかかわらず、結果として差別となる場合についての規定がない。間接差別を含む差別を定義する法律が定められなければならない。また、婚姻上、家族上の地位を理由とする差別も女性に対する差別であるが、これを法律の差別の定義に明記すべきである。


B 女子差別撤廃委員会の懸念事項・勧告内容


(1)提言と勧告10


政府は、民間部門による均等法の遵守を確実にし、民間部門の女性が直面する昇進や賃金に関する間接差別に対処するための措置を報告すべきである。


C 第4回政府報告書の記述


なし。


D 日弁連の意見


(1)男女共同参画社会基本法制定に際して、及び均等法の改正に際して、差別の定義に間接差別を明記すべきであるとの意見が、NGOから出されたが、結局、差別する目的、意図はなかったにもかかわらず、結果として差別となる場合についての規定は設けられなかった。
均等法についての国家賠償請求訴訟において国は、結果として差別となる場合は均等法で規制される差別にはあたらないと主張している。しかし、女子差別撤廃条約1条は「効果または目的を有するもの」と規定して、差別の定義に結果として差別となる場合を明記している。従って、政府報告書には、差別の定義についての国の解釈を明らかとするとともに、間接差別の禁止を明記する法律がない理由も明らかにすべきである。


(2)「結婚したこと、子を有することを理由とする」昇給、昇格差別について国は、「同一採用区分内に比較する男性がいない」ことを理由に、均等法の対象外であるとした事案がある。女子差別撤廃条約1条の規定及び審議経過、11条の規定、女子差別撤廃宣言10条の規定から、婚姻上の地位に基づく差別を均等法違反としないのは条約の解釈適用を誤ったものであるとして、国賠請求訴訟を起こした。この会社は、均等法施行と同時に雇用区分をつくり、女性内勤職員を一般職員に、男性内勤職員を総合職員とした。一般職員は全員女性、総合職員の女性の割合は0.3%であった(この会社は、1994年にはじめて女性の総合職員を採用した。)。従って、この会社では、国の解釈によれば、婚姻上の地位に基づく差別について均等法の適用を受けるのは0.3%の女性職員だけであり99.7%は適用を排除される。国は、1条の「婚姻をしているか否かを問わない」との規定は、女性には未婚女性と既婚女性のいずれをも含むことを示したものであるとした。
また、「ありとあらゆる事象における差別を問題として、具体的措置をとることは事実上困難であり、女子差別撤廃条約も、このことを当然の前提としている」。2条は、「それぞれの締約国が自国の国情に応じて適当と判断する措置を採る」ことを定めており、「目的に向けて必要な時間はかけつつ漸進的に実現をはかっていくことが許容されている」とした。
政府報告書においても、国がどのように条約を解釈、適用しているかを報告すべきである。また、均等法に婚姻上、家族上の地位に基づく差別の禁止を明記すべきである。


2 第2条(a)

(1)女性に対する暴力


1)性犯罪について


A 結論と提言


政府の諮問機関である男女共同参画審議会は、2000年7月21日、女性に対する暴力に関する基本的方策についてという答申を行った。この内容は基本的に評価できるものである。政府は、この答申の具体化を早急に行うべきである。


【1】性犯罪については、強姦罪の成立につき、女性の強度の抵抗を要件とすることをあらためること。


【2】性犯罪被害者の捜査段階における二次被害を防ぐため、女性捜査官の大幅 増員と配置を行うこと。


【3】性犯罪が女性に対する暴力であり、人権侵害であることの認識を高めるため、あらゆる司法関係者に対し、政府の責任において研修を行うと同時に、広く国民に対する広報を行うこと。


【4】性犯罪の被害者に対するケアを専門的に行う諸機関を設立、または民間の機関を援助するなどして、被害者の自立、立ち直りを援助すること。


C 第4回政府報告書の記述(14頁から15頁)


D 日本政府の対応と日弁連の意見


日本政府は、性犯罪の処罰規定を列挙し、これが的確に運用されているとし、性犯罪被害者への対応や被害が潜在化しないための未然防止策が採られていると強調している。
確かに、性犯罪の告訴期間の撤廃や、裁判において、被害者が加害者の面前でなく証言できるような方式を取り入れた刑事訴訟法の改正、犯罪被害者対策法、ストーカー法の成立など、大きな前進が見られる。
しかし、強姦罪の成立要件としての「暴行、脅迫」の認定において、「ある程度の有形力の行使は、合意による性交の場合でも伴う」から、強姦といえるためには、「反抗を著しく困難にさせる程度」の暴行・脅迫が必要であるとの解釈が改められてはいない。更に、強姦事件の審理において、被害者である女性の過去の男性関係が問題にされたり、女性の側の落ち度が非難されることも変わっていない。
これらは、性犯罪に関わる司法関係者すべてについて、性犯罪が女性に対する暴力であり、人間の尊厳を冒す人権侵害であるという認識を深めるための研修が、早急に必要であることを示している。
また、性犯罪の被害者は、身体に怪我をしていたり、性病の罹患や妊娠などの危険もはらんでいる。更に、精神的打撃も大きく、心的外傷後ストレス症候群(PTSD)の症状が起こったり、あるいは住居を替えざるを得なくなるなど、経済的・社会的にも、大きな打撃を受ける。従って、被害直後の適切な医療的ケアが必要なことは勿論、その後の精神的ケアやサポート、生活の自立への援助も必要である。
しかし、わが国では、あらゆる意味で性犯罪被害者をケアする制度・施設が整っているとはいえない。政府の責任において、これらを充実させるための施策に早急に取り組む必要がある。


2)セクシュアル・ハラスメントについて


A 結論と提言


上記の女性に対する暴力に関する基本的方策においても、セクシュアル・ハラスメントの問題が言及されているが、特に雇用の場におけるセクシュアル・ハラスメントは、女性に対する暴力というだけでなく、女性の基本的な労働権の侵害という側面もあり、いまだ対策は不十分である。


【1】均等法において、セクシュアル・ハラスメントについては、雇用管理上の配慮義務が創設され、労働省(現厚生労働省)がその内容、苦情、相談への対応に関する指針を出している。しかし、セクシュアル・ハラスメントを明確に違法として禁止する規定にするべきである。


【2】セクシュアル・ハラスメントの被害者の救済機関を明確にし、迅速、適正な救済が図れるようにするべきである。


【3】大学をはじめ、教育現場におけるセクシュアル・ハラスメントを防止する 対策を早急に実現すべきである。


C 第4回政府報告の記述(15頁から16頁)


D 日本政府の対応と日弁連の意見


政府は、セクシュアル・ハラスメントについて、女性に対する性的暴力に関する処罰規定を的確に運用しており、警察でも、性犯罪相談窓口等において被害者のニーズに応えているとし、教育機関におけるセクシュアル・ハラスメントについても、取り組みが進んでいるとしている。また、職場におけるセクシュアル・ハラスメントについては、11条において、均等法で雇用管理上の配慮義務が創設されたと簡単に述べるにとどまる。
しかし、セクシュアル・ハラスメントの被害は深刻であるにもかかわらず、多くは表面に現れず、職場、教育現場など、社会のあらゆる分野で蔓延している。それは社会のあらゆる場における男女の不平等と力関係の差を背景に起こりうるものであるから、その除去のためのプログラムが必要である。
教育現場におけるセクシュアル・ハラスメントの全国的な実態把握を早急にするとともに、国または地方公共団体において、各学校に対して、苦情処理窓口の設置及び教職員を対象とした研修などの対策を講じるよう指導していくとともに、教育内容のジェンダー・フリー化が進められなければならない。
職場においては、使用者の配慮義務にとどまらず、明確な禁止規定と被害者の迅速、適正な救済のための機関の創立、制度の整備が必要である。


(2)いわゆる従軍慰安婦問題


A 結論と提言


日本政府は、いわゆる「従軍慰安婦問題」の被害者に対する法的責任に基づき、ただちに徹底した真相の究明、公式謝罪、法的賠償等の必要な被害回復措置をとるべきである。


B 女子差別撤廃委員会の懸念事項・勧告内容


女子差別撤廃委員会は、日本政府報告に対する最終コメントにおいて、第二次大戦中のアジア諸国の女性に対する性的搾取の問題がとりあげられていないことに対する失望を表明し、この問題に対する対応も、女子差別撤廃条約に対する日本政府の責任に含まれることを指摘した。


C 第4回政府報告書の記述


第4回政府報告書では、日本政府が、この問題について政府としての調査を行い、2度にわたって調査結果を発表し、機会あるごとに元慰安婦の方々に対するお詫びと反省の気持ちを表明している、また、この問題についての道義的責任をはたすという観点から1995年7月のアジア女性基金の創設を支援するとともに、基金の運営経費の全額負担、募金活動の協力等を通じ基金事業を全面的に支援している、と述べられている(仮訳18~20頁)。


D 日本政府の対応と日弁連の意見


名乗り出た被害者らは、日本政府に対して、正式な謝罪と法的な損害賠償を求めてきた。日弁連も、「従軍慰安婦」問題については、真相の徹底した究明とその開示、被害者に対する謝罪と名誉の回復措置と賠償、ならびに日本国内でのこの問題に関する歴史教育を行うことを求めてきた(日本弁護士連合会「『従軍慰安婦問題』に関する提言」1995年1月)。また、国連機関により指名された特別報告者らも、日本が被害者らに対する法的責任を認めて、真相の究明、公式謝罪、法的賠償、責任者の処罰を行うべきことを繰り返し勧告してきた(国連人権委員会特別報告者ラディカ・クマラスワミの「戦時における軍事的性奴隷問題に関する朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国及び日本への訪問調査に基づく報告書」E/CN.4/1996/53/Add.1、国連差別防止少数者保護小委員会特別報告者ゲイ・J・マクドゥーガルの「武力紛争下の組織的強姦、性奴隷制及び奴隷制類似慣行に関する最終報告書E/CN.4/Sub.2/1998/13)。
それに対し、日本政府が行っているアジア女性基金による「償いの事業」は、被害者の求める日本政府による公式謝罪や法的賠償ではなく、当連合会が上記「提言」において求めている措置を満足させるものでもない。そのため、多数の被害者が、総理の手紙や一時金の受け取りを拒否し、あるいは日本政府に対する日本国内での民事訴訟を継続している。
元「従軍慰安婦」及びその他の戦時性奴隷の被害者らは、旧日本軍による深刻な被害を受け、いまだに救済されないまま高齢となり、死亡している状況にある。日本政府は、これらの被害者に対し、その法的責任を認めて、直ちに被害者の被害回復を実現する措置をとるべきである。


第2条(c)

(1)オンブズパーソンの検討


A 結論と提言


国内本部機構がその役割を十分に果たすためには、苦情処理・救済機関が必要不可欠であり、オンブズパーソン設置にむけて早急に取り組むべきである。


C 政府の対応と第4回報告書の記述


男女共同参画ビジョンを受けた国内行動計画「男女共同参画2000年プラン」では、「男女平等に係わる問題の解決に当たるオンブズパーソンについて、諸外国における活動実態、関連法制、我が国への導入可能性等に関する調査研究を行う。」こととしている。(20頁)


D 日弁連の意見


政府の具体的取り組みは、上記2000年プランにおいてさえ調査・研究を行うとするに止まっており、著しく立ち遅れている言わざるを得ない。
日弁連では、1993年12月7日付「婦人問題企画推進本部機構(ナショナル・マシーナリー)の在り方についての意見書」で、政府等に対し男女平等オンブズパーソンの設置を要請している。
それ以後も、継続して苦情処理・救済機関の必要性とオンブズパーソンの設置を要請している。しかし、政府の具体的取り組みは立ち遅れていると言わざるを得ず、早急に、設置を前提とする具体的検討に移るべきである。


3 第3条

(1)国内本部機構の充実


(2)地方公共団体における施策の充実


A 結論と提言


【1】ジェンダーの視点から、北京行動綱領に照らし、政策及び施策を見直す権限を、すべての省庁に付与して、その権限の実施責任は可能な限り最高のレベルにおくことが必要である。そして男女共同参画会議と男女共同参画推進本部の組織の権限を整理し、法律上の権限を有している男女共同参画会議と、各省庁の主管課との連携を明確にして、関連機構とのネットワークづくりのための省庁間との調整機構が強化される必要がある。


【2】 女性団体及び市民社会のその他の行為者全てとの協力関係を促進し確立するために、男女共同参画推進連携会議に新規の加入が認められる必要がある。


【3】全国の市町村段階では、基本法の実施は極めて遅れており、男女共同参画基本計画の策定をNGO団体との協力で進めるための方策を早急に確立する必要がある。


C 政府の対応と第4回報告書の記述 第4回報告書では、国内本部機構に関しては、1994年に内閣総理大臣を本部長、内閣官房長官(男女共同参画担当大臣)を副本部長とする男女共同参画推進本部を設置したと記載されている。そして男女共同参画審議会が男女共同参画設置法に基づき設置され、基本部会と女性に対する暴力部会が設置され、基本問題部会では、男女共同参画社会の実現を促進する基本的な法律について調査審議中であると記載されている。
その後、1999年に男女共同参画社会の実現を促進する基本的な法律である男女共同参画社会基本法が成立し、2001年1月から、男女共同参画基本法が改正され、新しい男女共同参画社会形成の促進に関する推進体制が発足し、内閣府の中に、これまでの男女共同参画審議会から、内閣官房長官を議長とする男女共同参画会議が設置された。
この男女共同参画会議は、基本的な方針・政策、重要事項等についての調査審議、政府の施策の実施状況の監視、政府の施策の及ぼす影響の調査を実施する権限を有することとなった。
また、第4回報告書では、民間団体との連携のために広く各界各層との情報及び意見交換並びにその他必要な連携を図るために開催されるものとして、男女共同参画推進連携会議が発足していると記載されている。


D 日弁連の意見 今回の第4回報告書では、既存の法律、慣行及び政府の政策が、女性の完全な能力開発及び向上を確保するものとなるための、国内本部機構、行動計画、社会政策など、女性の地位向上のための施策の展開について触れられるものとなっている。


【1】男女共同参画推進本部の体制 -男女共同参画審議会


男女共同参画基本法により、内閣府の中に内閣官房長官を議長とする男女共同参画会議が設置されたが、内閣総理大臣を本部長として全閣僚を本部員とし、本部構成省庁関係局長等の男女共同参画担当官により構成される男女共同参画担当官会議が設置されている男女共同参画推進本部も存続している。この男女共同参画推進本部の役割は、施策の円滑かつ効果的な推進となっているが、男女共同参画会議と男女共同参画推進本部の組織の権限の配分並びに関係がはっきりしていない。
男女共同参画推進本部における男女共同参画担当官のほとんどは、いわゆる責任ある担当官(フォーカルポイント)の役割をほとんど果たしていない。北京行動綱領は、「ジェンダーの視点から、行動綱領に照らし、政策及び施策を見直す権限を、すべての省庁に付与すること。その権限の実施責任は可能な限り最高のレベルにおくこと。この権限を遂行し、進展を監視し、かつ、関連の機構とのネットワークづくりのための省庁間の調整機構を設置及びまたは強化すること。」と規定している。この視点から、行動綱領に照らし、各省庁における政策及び施策を見直す権限を有する男女共同参画担当官に付与し、その権限の実施責任を可能な限り最高のレベルにおくことが必要である。そして男女共同参画会議と男女共同参画推進本部との関係では、法律上の権限を有している男女共同参画会議と、男女共同参画担当官により構成される男女共同参画担当官会議が設置されている男女共同参画推進本部との関係を明確にして、関連機構とのネットワークづくりのための省庁間との調整機構が明確にされる必要がある。


【2】男女共同参画推進連携会議


民間団体との連携のために広く各界各層との情報及び意見交換並びにその他必要な連携を図るために男女共同参画推進連携会議が存在する。しかしそのメンバーが固定化しており、新たな分野での女性の問題を取り上げている団体メンバーが入れない状況となっている。北京行動綱領では、「女性団体及び市民社会のその他のNGO全てとの協力関係を促進し確立する」ことと規定されているが、男女共同参画推進連携会議への新規の加入が認められる必要がある。


【3】地方公共団体における施策の充実


地方公共団体では、男女共同参画社会基本法が制定公布された直後から、男女共同参画に関する条例が制定されている。その動きは、都道府県段階では、2000年には、埼玉県(3月24日)、東京都(3月31日)、山口県(7月1日)、三重県(10月13日)、鳥取県(12月26日)で条例が公布されている。
この地方公共団体における条例においては、性差別の禁止、女性に対する暴力の禁止やセクシャアル・ハラスメントの禁止、雇用の場における男女共同参画の促進や、教育の場における男女共同参画を促進するための措置などが規定されている。そして地方公共団体の施策についての苦情処理や人権が侵害された場合の救済の制度などが規定されている条例もあり、地方からの男女共同参画が積極的に推進されようとしている。
しかし、2000年6月の総理府男女共同参画室の状況報告書でも、全国の市町村段階となると基本法の実施は極めて遅れており、男女共同参画基本計画が策定されているのは、3252市町村中571で、全体の17.6%に過ぎない。男女共同参画計画が、各市町村においてNGOの参画のもとに策定されることを進めるための方策を早急に確立することが必要である。


(3)障害を持つ女性のための施策


A 結論と提言


日本政府、地方自治体は、障害者施策における女性特有の問題につき調査した上、女性障害者に対する施策の充実を図るべきである。
特に、日本政府は、優生保護法の下で強制的な不妊手術を受けた女性に対して、補償する措置を講じるべきである。


B 女子差別撤廃委員会の懸念事項・勧告内容


特になし。
ただし、国際人権(自由権)規約委員会「最終見解」第31項に「委員会は、障害を有する女性に対する強制的な不妊手術措置が廃止されたことは認識しつつも、このようにして強制的な不妊手術がなされた人が補償を受ける権利を規定した法律がないことを残念に思う。必要な法的手段が講じられるよう勧告する」としている。


C 第4回政府報告書の記述


政府報告書には、障害者プランの作成(22頁)、障害者週間(23頁)の2項目が挙げられているが、それぞれ女性に関しては、「女性に対しても男性に対してと同様に」(22頁)、「女性も男性も共に」(23頁)の形容句があるだけである。
「優生保護法の一部を改正する法律」(1996年6月26日公布)に関しては、「不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基づく部分が障害者の差別となっていること等にかんがみ、人工妊娠中絶等に関する諸規定のうち優生思想に基づく諸規定を削除し、母体保護法と改名し、1996年9月26日施行された」とあるのみである。


D 日弁連の意見


障害者施策において、女性であることを理由に差別されてはならないことは当然であるが、それに加えて女性特有の問題に対する配慮(ジェンダーの視点)が求められる。
障害者、特に知的障害のある女性に関して男性の介助者がつくことから、施設内での性暴力が発生している。施設内の女性障害者に対して、月経介助が大変であるという理由で正常な子宮の摘出手術が行われていた。
第4回世界女性会議行動綱領では障害を持つ女性は、特に暴力を受けやすいと指摘している(第Ⅳ章 戦略目標及び行動 D女性に対する暴力 116項)。そして、「女性に対する暴力を防止し根絶するために、総合的な対策を取ること」(戦略目標D.1)を求めている。
日本政府、地方公共団体は、障害者施策の中で女性の人権、特に性的自己決定権に配慮すべきである。指摘されている問題点については、調査し、人権侵害を起こさないよう施策の充実を図るべきである。
特に、政府は、規約人権委員会から勧告を受けている優生保護法下の強制不妊手術の被害救済に取り組むべきである。


(4)高齢者女性のための施策


A 結論と提言


日本政府、地方自治体は、介護保険制度を利用する住民、特に女性のニーズ(必要)に応える形で、運用の見直し、制度の改善を図るべきである。


C 第4回政府報告書の記述


政府報告書では、「高齢者においては、女性の占める割合が高く、高齢者が直面する問題は女性により大きな影響を与える。」(23頁)とし、主たる施策として、「介護保険制度の創設について」(24頁)を挙げて解説している。女性に関しては、家族介護に対する現金給付について当面実施しない理由の1つとして、「特に女性が家族介護に拘束されるおそれ」が挙げられているのみである。


D 日弁連の意見


日弁連は、
「(1)日本政府は、高齢者の基本的権利を保障する高齢者基本法を制定すべきである。
 (2)日本政府は、高齢者の十分な生活水準に対する権利を保障し、高齢者の家族を支えるための政策を実施すべきである。
 (3)日本政府は、高齢者が必要とする適切な介護サービスを提供できる体制を早急に確立すべきである。」
 という意見を表明している。
「北京宣言及び行動綱領実施のための更なる行動とイニシアティブ(いわゆる「成果文書」)」では、各国政府等が取るべき行動として、「高齢女性が、生活のあらゆる局面に積極的に関わり、地域や公的生活、意思決定レベルで多様な役割を引き受けることができるような施策を講じる。また、高齢女性が、人権や質の高い生活を全面的に享受できるようにすると同時に、これら女性のニーズに対応する政策や計画を策定・実施し、あらゆる年齢層の人々のための社会の実現を目指す」(83.(c))ことを挙げている。
日本政府は、2000年4月から公的介護保険制度を実施しているが、基盤整備がいまだ不十分で、必要な介護が給付できる体制にない。
また、費用の1割の自己負担に耐えられない低所得の高齢者は、適切なサービスを受けられない。高齢女性は、男性以上に職に就きにくく、アパートをみつけにくく、年金受給額も低い等の実態があり、低所得者が多いので、女性にとってより深刻な問題であると言える。
高齢女性に関する人権問題としては、痴呆や寝たきりなどの高齢女性に対して、施設等での介護者や、在宅介護している家族などによる虐待(言葉や暴力、性的暴力、介護の放棄等)の問題もある。在宅介護においては、介護を担当する者の多くが女性、中でも「嫁」であり、家族介護の負担に耐えかね、虐待の加害者となっている実態もある。逆に、女性のホームヘルパーなどが、被介護者やその家族からのセクシュアル・ハラスメントなどの被害を受けるという場面もある。
介護保険制度が創設されて1年を経過し、運用の問題点が指摘されつつあるが、日本政府、地方公共団体は、今後、利用者、特に高齢女性や多くが女性である介護者の意見を聴き、その必要に応えて柔軟に運用の見直し、制度の改善を行い、高齢者福祉を充実させていくべきである。


4 第4条

(1)国の審議会等委員への女性の登用


(2)地方公共団体の審議会等委員への女性の登用に関する協力要請


A 結論と提言


国の審議会等委員の女性の割合は、2005年度末までに30%に達することは困難な状況である。今後は、女性の割合が極端に少ない審議会等に対し、ポジティブ・アクションを行うべきである。
地方公共団体については、国がまずポジティブ・アクションを行うことでその重要性について各自治体の理解を深め、取り組みを促すべきである。


B 女子差別撤廃委員会の懸念事項・勧告内容


〔おもな関心事項〕


4.日本は、国家全体の開発では第2位なのに、女性の地位を考慮すると第14位になる。このことは、女性を含めた経済開発を進めることに、国家が無関心であることを示している。


C 政府の対応と第4回政府報告書の記述(24-25頁)


(1)について


1996年5月に、男女共同参画推進本部は、国際的な目標である30%を10年間で達成するよう努力し、2000年度末までに20%を達成するよう努めるとする目標を設定した。1997年9月末現在の女性割合は、17.4%である。


(2)について


都道府県・指定都市も審議会等における女性の登用について、目標値及び達成年を設定しながら努力している。法律により設置されている審議会等における女性委員の割合は、1996年6月1日現在で12.8%となっている。


D 日弁連の意見


総理府の2000年9月30日の調査によれば、審議会等の女性委員の割合は、1998年9月30日からの1年間は、前年より1.5%増加したが、1999年9月30日からの1年間は、前年より1.1%増加したに過ぎない。増加率が低い上、しかも一部の審議会では減少している状況では、2005年度末までに女性委員の割合を30%にするという日本政府の目標が実現できる可能性は低い。
しかも、審議会ごとによる差が大きい。日本共産党の2000年9月30日時点の調査によると、日本において固定的役割分担を助長している税制度に関わる財政制度審議会は、女性委員の割合が7.4%に過ぎない。また、同様の問題を含む年金審議会は、女性委員の割合が15.8%と低い。
委員の種類別女性の参画状況では、職務指定委員5.2%と団体推薦委員12.0%が特に低いが、これは、日本社会の中の各推薦団体等の意識の中に、根強い固定的役割分担意識があることの反映である。
日本政府は、これらの社会の中の意識に任せることなく、団体推薦委員等においても、国及び地方公共団体の審議会等の女性委員を増加させるため、ポジティブ・アクションを行うべきである。


(3)


女性労働者の能力発揮を促進する取組


1)ボジティブ・アクションの促進


A 結論と提言


政府において、ポジティブ・アクションにつき男女比率の目標を設定し、実施状況を政府に対して報告することを義務づける。


C 政府報告書の記述


「女性労働者の能力発揮促進のための企業の自主的取組のためのガイドライン」を活用して、ボジティブ・アクションの重要性、手法について事業主の理解を深める」


D 日弁連の意見


1997年6月に成立した改正均等法に、はじめてポジティブ・アクション促進の規定が導入された。しかし、雇用する女性労働者の状況を分析し、均等待遇の障害となっている事情を改善するための計画の作成と実施、そのための体制整備を行う場合に、国が相談・助言・情報提供等の援助するというに過ぎない。
企業の全くの任意にまかされており、努力義務さえなく、実効性はなく、今後どの程度進かは全くの未知数である。1999年6月に成立した男女共同参画社会基本法においても、男女共同参画社会の形成の促進に関する国、地方公共団体の施策としてボジティブ・アクションが含まれることが明記された。しかし、これも具体性に欠けている。本報告書にも上記のとおりポジティブ・アクションの何らの具体的内容は示されていない。
基本法を受けて2000年12月に出された「男女共同参画基本計画」においても、女性の国家公務員の採用や登用を促進するため、各府省で計画をまとめることが盛り込まれたが、「積極的な採用、登用に向けた中長期的な努力目標を設定する必要がある」とするのみで、積極的差別是正の具体化までは示していない。地方公共団体に対しても、「女性の採用・登用等の促進のための積極的な取組が行われることを期待する」「(研修に)女性職員の受講に配慮することも望まれる」などの内容に止まっている。
労働の分野での積極的差別是正を促進するためには、国が積極的役割を果たす必要がある。1998年においても、企業規模100人以上で見ると、部長職2.2%、課長職3.7%、係長職7.8%と極端に少ない現状の下では、各雇用分野ごとの男女の割合について達成すべき目標の設定をし、目標達成のために、社会基盤の整備や啓蒙の強化が必要である。その上で、企業の目標達成のために男女比の調査・目標設定・実施状況・目標達成状況等についての報告義務を課することが必要である。更に、結果の公表と指導・監督、そのための監視システムが必要である。
更に、ボジティブ・アクションが機能するためには、その前提として女性が働き続けられるための社会基盤の整備が不可欠である。家族的責任の過重な負担を軽減し、国、自治体、企業が、男性が家族的責任を共に担っていけるような社会のシステムづくりが必要である。しかし、この間の政府の施策は、女子保護規定の撤廃等の労働時間の規制を緩和し、労働時間の短縮は先送りとなっている。女性の就業面での実質的平等実現のためには、育児介護をしながら働き続けられる環境整備が必要であり、労働時間の男女共通の適正な規制、均等法の整備と差別救済制度の確立、保育所と学童保育の整備、深夜業に従事せざるを得ない場合のために延長保育、夜間保育等の質的な充実と公的負担の拡大が必要である。


2)女性起業家に対する支援


A 結論と提言


女性起業家に対して事業資金調達、事業経営に必要な知識や技術、家庭責任との両立等総合的かつ具体的施策が必要である。


C 政府報告書の内容


1996年に、起業を希望する女性のための支援事業を実施するための研究会を開催、施策を検討した、1997年に、女性起業マニュアルを作成した。


D 日弁連の意見


女性企業家への支援については、事業資金調達(自己資金、担保力、信用力不足)、事業経営に役立つ知識、技術、ノウハウ獲得の機会の不足、家事・育児・介護等家庭責任との両立の問題、根幹にある性による差別や偏見、起業家同士の経験・情報交流不足などについて、総合的施策を打ち出す必要がある。
しかし、現在まで国としての総合的施策は打ち出されておらず、女性起業家に対して、具体的にどのような支援をどのように進めていくのか示されていない。最も深刻な資金調達、経営者としての訓練、女性に対する偏見等に対する具体的取り組みが必要である。
ILOでは、1996年には「新規開業の促進や女性事業家の促進に関するILO起業フォーラム96」、1999年には「自営業促進に関する決議」が採択されている。女性起業家の進出がめざましいアメリカで1997年に成立した「中小起業法」には、女性起業家の支援が盛りこまれた。これに比較して、わが国の取り組みは格段に遅れている。


5 第5条(a)

(1)男女の固定的役割分担意識是正のための広報・啓発活動


(2)女子差別撤廃条約の普及


(3)メディアにおける女性の人権の尊重


A 結論と提言


日本社会の中に根強く存在する男女の固定的役割分担など、不平等に作用する意識を変えるためには、法や社会制度の改正を伴う下記施策を早急に実施すべきである。


1)民法を改正し、選択的夫婦別姓制度を採用する。現行の同姓制度は、98%の女性が改姓しており、中立的に作用していない。


2)非嫡出子に対する差別的法制度を撤廃する。


【1】民法を改正し、非嫡出子の相続分差別を撤廃する。


【2】戸籍の続柄欄につき、嫡出子と非嫡出子の相続分差別を撤廃する。
家族のあり方は多様化し、非嫡出子は増加しており、等しく次代を担う子どもに対し、不当な差別であり、憲法や諸条約に反する。


3)離婚に伴う養育費支払い確保のための措置を創設する。


4)配偶者控除など世帯単位の社会保障、税制等のシステムを個人単位のシステムへと切り替えていく。


5)家庭内暴力について、公的シェルター等を整備し、民間シェルターに対する公的補助を図るべきである。


6)メディアが女性管理職を増やす努力をするよう、政府は支援すべきである。


C 政府の対応と第4回政府報告書の記述 政府報告書は、「男女の固定的役割分担意識是正」については、政府等による広報・啓発活動の例しか上げておらず、制度改革、法改正によって、意識是正を行った例を上げていない。
「女子差別撤廃条約の普及」については、同条約に関するリーフレット、ポスター、ホームページでの掲載しか記載していない。
また、「メディアにおける女性の人権尊重」については、放送メディアが実施している番組適正化策を記載するのみで、政府の施策について何ら記載していない。


D 日弁連の意見


上記A1)ないし5)については、別稿にゆずる。本稿では、女性とメディアについて論じる。


1)


性差別的表現の氾濫


【1】1994年の東京都生活文化局の調査によれば、「マスメディアにおける性表現の制限は必要である」と答えたのは、女性74.9%、男性66.1%である。
この様に多くの国民が、マスメディアにおける性表現の制限が必要であると述べる背景のひとつに、「性表現の氾濫」があげられる。


【2】新聞協会審査室は、新聞倫理綱領、新聞広告倫理綱領の精神に基づき、協会会員の紙面に掲載するのが不適当と判断した記事、ないし広告を毎年取り上げている。1998年に審査室が不適当であると指摘した記事・写真などの大部分は「女性紹介記事」であった。「女性紹介記事」とは、性風俗営業に従事する女性をサービス料金、電話番号を入れて、顔写真つきで紹介するものであり、これは、1996年から増加に転じ、1998年は366件が審査室より「不適切」と指摘され、全体の6割を占めている。
その他、スポーツ紙は、成人向けビデオを取り上げた記事や性風俗営業の紹介記事に添えられた写真のほか、「性風俗体験ルポ」のイラストなどに露骨な性描写が目立っている。
スポーツ紙は、駅で販売され、通勤途上の交通機関内で男性が閲覧している状態は多く散見される。多くの女性が見たくない情報にさらされていると同時に、子供の目にも容易に触れることができる状態になっている。


【3】また、多くの週刊誌には、ヘアヌードが掲載されるだけでなく、「女体がグングン濡れて飛び出す『名器』」、「飛び出す名器で絶頂の全てがわかった」など、女性を性的対象として見る記事が多数掲載されている。
週刊誌も駅の売店で売られおり、また、通勤途上の交通機関内に週刊誌の中吊り広告があり、上記見だしに女性や子供がさらされている。男性の中にもこれらの情報に対して嫌悪感を示す者もいる。


【4】更に、毎朝、各家庭に配達される全国紙も、週刊誌の広告を掲載している。1999年7月NIE(教育に新聞を)全国大会で、会場から、学校にNIE教材に使うのにかなりわいせつな広告が出ており、学校に持ち込めないとの意見も出てきている。


【5】こういう状況に対して、新聞協会や一部の交通機関では、広告審査基準の見直し作業を進めている。しかし、スポーツ新聞や週刊誌が内容を改めるような大きな改革の動きとはなっていない。


【6】このように、性差別・性表現に女性たちは家庭の中、通勤途上にて常にさらされている。このような表現を望まない者の保護に欠けているのが、わが国の現状である。


2)マスメディアの自主規制の不十分さ


【1】倫理綱領


メディア各社の定めている「性表現」に関する倫理綱領のほとんどが、「わいせつ規制」であって、「女性の人権侵害、性差別」の視点が欠如している。


【2】そもそも活字メディアにはプレスカウンセルがない。


【3】また、放送メディアは、2000年4月に青少年と放送の問題を扱う放送 と青少年に関する委員会を設置した。しかし、性表現などの問題について、 意見は述べることができるが、視聴者からの苦情について、審査、勧告など の権限を有する機関ではなく、なお、不十分な状況である。


3)少ないメディアの女性


このような問題状況の原因の一つに、マスメディアで女性の参画が少ないことがあげられる。1998年度の全国紙編集部門における女性の比率は、朝日新聞が9.9%、読売新聞が9.6%、毎日新聞東京本社が10.8%であり(東京女性財団調査)、日本放送協会は全職員中、女性は8.5%にすぎない。国際連合の調査によれば、日本はヨーロッパ各国だけでなく、マレーシア、インドなどアジア諸国と比べても低くなっている。
女性管理職においては、更に割合は低い。


4)メディアの職員募集・採用についても、改正均等法が1999年4月施行になり、男女差別が禁止されることになった。それに反した場合は、厚生労働省により企業名を公表することになったが、政府は、均等法の視点からメディアの募集・採用についても、他の企業と同様注視することが必要であろう。
また、メディアの政策方針決定において、ジェンダーの視点が不可欠であり、メディアが女性管理職を増やす努力をするよう政府は支援をすべきである。


第5条(b)

(1)家庭生活への男女の共同参画


A 結論と提言


1)介護については、圧倒的に女性に負担がかかっている事態から、男女が共に介護にあたるということを大前提とする施策を確立し、その意識改革を図る必要がある。


2)男女ともに仕事と家族的責任の両立が可能な勤務体制とともに、保育所の質的充実及びその公的負担の拡大が必要である。


D 日弁連の意見


1)実質的平等を実現する措置の必要性


均等法の制定などにより、制度上は直接女性であることを理由とする不利益扱いは、ほぼ解消してきている。しかし、実際には女性が家庭や育児の大部分の責任を担わせられており、間接的な口実による男女格差は温存されている。また、すなわち、有職女性の60%は「有配偶者」、すなわち共働きということになるが、その「家事時間」は平日で3時間18分、日曜日では4時間10分になる。他方有職男性の場合は、平日は24分、日曜日はやや増えて1時間19分である。そもそも有職男性の場合は、家事を行う人の割合(行為者率)が平日は26%、日曜日でも48%と少ない(以上、NHK「国民生活時間調査」1995年)。平日、日曜日ともに90%近くの人が家事に携わっている有職女性に比べると、かなり少ないと言わざるを得ない。このように女性に重い家族的責任がかかっていることが、男女を区別する理由とされているのである。
それゆえ日本政府は、男女間の実質的平等を実現するため、労働時間の短縮や保育制度の充実など、職業と家庭生活の両立を保障する政策、制度保障、不公正な労働慣行の是正、そして格差是正のための実効ある救済制度を整備する必要がある。


6 第6条

(1)売買春の現状


(2)売春をめぐる諸状況


A 結論と提言


1)売買春及び、いわゆる「風俗産業」に関する実態調査がなされる必要がある。その際、少女及び外国人女性に対する人権侵害の実情に留意すべきである。


2)女性に対する暴力撤廃のための支援体制の中に、性産業に従事する女性、とりわけ国際的人身売買被害女性の実情に照らし、早急に以下のとおりの措置を取る必要がある。


【1】関係官庁(警察、入国管理局、厚生労働省、都道府県)は、人身売買・売 買春、強姦等の人権侵害を受ける可能性のある外国人女性のために、十分な 緊急避難施設を設け、女性の自国語で、その施設の連絡先を知らせること。


【2】警察、入国管理局等の摘発官庁は、背景の暴力団やブローカー等の組織を 解明し、摘発を急ぐこと。


【3】NGOとの協力を行い、これに対する財政的支援をすること。


【4】国際的人身売買の被害者を含む非定住外国人の緊急医療について、生活保護法に基づく医療費の支給扶助を実現すること。


B 女性差別撤廃委員会の懸念事項・勧告内容


〔おもな関心事項〕


アジア諸国からの女性に対する性的搾取の問題が取りあげられていないことに失望した。


〔助言と勧告〕


勧告9
委員会が、日本における性的な搾取や移民女性の売春について、もっと良く理解できるよう、日本の性産業に関するさらなる詳細な情報が提供されなければならない。委員会は、政府が日本の性産業を研究し、その結果を次回の報告の中で提供することを要請する。また、これらの今日的問題及び戦争関連犯罪に対処するため、具体的で効果的な措置を取り、その措置を次回に報告することを奨励する。
なお、規約人権委員会による最終見解勧告29によれば、「風俗営業法が改正されたとは言え、いまだ女性の不正取引が行われ、また、不正取引や隷属状態に晒されている女性に対する保護が不十分であることは、規約8条に照らすと重大な懸念事項である」としている。(注2CCPR/C/79/Add.102)


C 第4回政府報告書の記述


1)売買春の現状


売春関係事犯に適用される売春防止法、児童福祉法、刑法、青少年保護育成条例等の規定及び運用実態、外国人女性が不法残留等の違法な状態で売春関係事犯に関与し、背後には外国人女性の供給ブローカーとこれを受け入れる国内の暴力団や悪質雇用主の介在が認められること、いわゆる「援助交際」の拡大、少女の側の低年齢化の傾向、及び近年、日本人旅行者が東南アジア等の途上国において、児童買春のために逮捕されたり、帰国後告訴された例がみられる。


2)売春をめぐる諸状況


1984年に風俗営業取締法(現、風俗営業の規制及び業務の適正化等に関する法律)を改正して、性を売り物とする5種類の営業を風俗関連営業(風営適正化法改正後の性風俗特殊営業)と定義し、届出制を導入した。1998年4月、無店舗型性風俗特殊営業及び映像送信型性風俗営業に対する規制の新設を含む風営適正化法の一部改正が行われた(32頁)。
売春防止法の第4章では、性行または環境に照らして、売春を行うおそれのある女子(要保護女子)の保護更正に関する事項を規定している(33頁)。
1996年中退去強制を執った不法就労外国人女性のうち、売春に従事していた者の数は484人である。不法就労外国人問題については、厳正な入国審査の実施、関係機関との連携による悪質事案を中心とした摘発の強化等の対策を推進している(33頁)。
1997年4月施行の男女共同参画審議会設置法に基づき設置された男女共同参画審議会は、売春対策審議会を発展的に統合した(34頁)。


D 日本政府の対応と日弁連の意見


1)1999年5月、児童買春処罰法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律)が議員立法により成立し、同年11月施行された。同法によれば、18歳未満の児童に対し、対償を供与して、性交等をしたときは、3年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる。同法違反初の逮捕者が中学校教諭であったのをはじめとして、その後、警察官、高等裁判所裁判官などの同法違反による逮捕もあり、買春が社会に蔓延していることが窺われる。取締りの強化はもちろんのこと、売買春の実態調査がまずなされなければならない。


2)人身売買・売買春の被害者に対する来日アジア人女性の人権救済申立により、第二東京弁護士会が行った調査・研究の結果、リクルーターないし売買を仕切る組織が、タイをはじめとして主にアジア人女性たちを高額な利潤を生む性的な商品として売買の対象としており、日本国内の風俗営業店で被害女性らを管理して、「借金」ないし「借金返済」を名目に、売春を強要している実態が報告されている。被害女性の数は正確に把握できていないが、1994年頃でタイ人女性だけでも2万ないし2万数千にのぼったと推測される。なお、国際人権NGOである Human Rights Watch も、特にタイ人被害女性の実態について報告書を発表している。
国際的人身売買の被害女性は、逃亡阻止のためにパスポートや身分証明書を取り上げられ、外部との連絡を絶たれ、監禁されたり、風俗営業の店主や彼女らを管理している者から暴行、脅迫、強姦等の手段により逃亡を阻止されて、買春を強要されている。被害女性は、意識を鈍らせて売春させられるため、睡眠薬、ブロン(かぜ薬の一種)を飲まされたり、麻薬を無理に注射される例も多い。被害女性は、売春させられるほかに実際にはホステスとして働かされ、賃金が支払われなかったり、長時間拘束されて働かされている。被害女性は、生理の日まで売春を強要されることすら多くみられる。
被害女性たちは、言葉も地理もわからないので、逃亡や公的機関への申告が困難となっている。
しかるに日本政府は、こうした国際人身売買の実態が明らかにされても、不法在留者として、出入国管理法違反ないし売春防止法によって場当たり的に検挙する以上の対策をとっていない。
また、被害女性の中には、劣悪な労働・生活環境が原因となって、身体的または精神的疾患に罹患し、医療や公的扶助を緊急に必要としている者がいるにもかかわらず、厚生労働省は、不法在留者であることを理由に、一切の緊急医療扶助さえも否定している。
当連合会は、1995年に、厚生大臣に非定住外国人の緊急医療に関する要望を行ったほか、再度1999年に、前記タイ出身者人身売買の被害者の調査を行ったのを契機に厚生省(現厚生労働省)に同様の要望をなした。しかし未だに厚生省の方針は変更されていない。
被害女性らが置かれた状況は、女性差別撤廃条約6条に定める、あらゆる形態の女子の売買及び女子の売春からの搾取を禁止するための、すべての適当な措置を取っているとは言えない。また、外国人女性に対する性的搾取は、人種差別撤廃条約に違反する可能性もあり、intersectional discrimination(複合差別)として、重大な人権侵害となっている。既にわが国は、1958年に人身売買禁止条約に加入しており、条約上の義務として被害者の保護に努めなければならない。日本政府は、外国人被害者の平等な人権の享受のために、提言で述べたとおりの措置を講じる必要がある。


7 第7条(b)

(1)公的分野における女性の参画状況


A 結論と提言


政策決定への女性職員参画を推進し、政策決定における両性の平等を実現するため、クオーター制やボジティブ・アクションの導入など、法律その他実効性ある適切な手段により確保しなければならない。


C 第4回政府報告書の記述(34頁以下)


女性が、政策・方針の決定の場に参画することが民主主義の要請であるとし、公的な各分野における女性の参画の人数や割合を記載している。


D 日弁連の意見


政策決定への女性の参画は、民主主義の根本であり、各種政策に女性の意見が反映するための必要条件である。しかし、わが国においては、民間においてだけでなく、国及び地方自治体等の公的分野のいずれの場面でも、政策・方針決定過程への女性の参画は極めて遅れていることは、報告書記載のとおりである。
わが国において、公務の政策決定の分野で女性の参画が低い要因として、①性的役割分担意識が根強く残っていること、②労働時間等の労働条件や育児・介護における男性の分担と社会的支援体制が不十分なこと、③議会や各種団体の運営が伝統的に男性中心であることなどがある。従って、公務の分野における政策・方針決定への女性の参画を拡大していくには、ジェンダー・フリー教育による意識の改革のみならず、女性が参加しうる条件整備が不可欠である。
1999年6月に成立した男女共同参画社会基本法では、ポジティブ・アクションを規定したが、配慮義務に過ぎず、国がその措置を採ることになっているのに、具体的内容は書かれていない。更に、同法を受けて、2000年12月に作成された「男女共同参画基本計画」も「国会及び地方議会における女性の参画促進に向けて、政党をはじめ政治の各分野における団体等の取組が期待される」と宣言的内容に止まっている。
以下で述べるように、公的分野の意思決定過程への女性の参画の割合は、極端に低く、最近は増加しているとは言うものの大きな変化はない。従って、今後、クオーター制等のポジティブ・アクション等の積極的差別是正の導入を具体的に義務づけ、それらについて、国や公共団体としての目標値と期限を定め、達成度と評価と分析などの実効性を伴う積極的政策が必要である。


1)女性国会議員


わが国の国会議員の女性議員の割合は、報告書記載の1年後の1999年で衆議院25名、5.5%、参議院43名、17.1%とわずかに延びているが、国際的にも著しく低いことは、報告書のとおりである。女性の平等参画を実現するために、日本においても選挙制度におけるポジティブ・アクションを研究し、導入の可能性を積極的に検討する必要がある。
ポジテイブ・アクションの中で最も強いクオーター制を検討している政党もあると言うが、政党自身における政策決定への女性の参画を推進するためには、こうしたポジティブ・アクションを導入すべきである。
フランスでは、女性議員の割合が10.9%と低かったが、昨年5月に「候補者男女同数法」が制定され、積極的差別是正のための施策として注目されている。ドイツ、北欧諸国では30~40%、スペインでも28%という国際的な水準から見ても、格段の施策が必要である。


2)女性閣僚の就任


2001年では、5人の女性閣僚が誕生したが、報告書記載のとおり、女性閣僚も女性政務次官も未だ例外であり、従前はせいぜい1内閣に1、2名であり、例えば1995年7月成立の内閣にはゼロであった。


3)地方議会議員、首長等


地方議員の女性議員の割合は、地域活動や市民運動の経験を生かすなど増加し続けているが、その割合は、国会議員より更に低い状況にある。報告書記載の1年後の1997年に至っても4.6%に過ぎない。1992年は3.3%だったのであり、5年間の伸びがわずかに1・3%に過ぎないということは、女性の参画について、何らの実効ある施策がとられていないことを示している。
2000年、2001年に各1名の女性知事がようやく誕生するに至ったが、首長及び副知事、助役等の女性の割合は、いまだ例外的現象の域をでないほど少数であることは、報告書記載のとおりである。


4)司法における女性


司法の分野で最も女性の割合が高い裁判官でも、1998年で10.2%、弁護士7.9%、検察官で5.2%と著しく低い。1996年当時を見ても、女性最高裁判事は1人であり、地・高裁裁判所長ゼロ、家庭裁判所長2名である。最高検察庁検事はゼロ、高等検察庁検事3名、検事正ゼロであり、日弁連の意思決定機関である理事も71名中4人で、その前提としての各単位弁護士会の会長、副会長への女性の選任が極めて少ないなど、いずれもまだまだ例外的人事に止まっている。
更に、以下に指摘する問題のように、司法の分野においての女性排除が行われていることは極めて深刻である。


5)女性国家公務員


6)女性地方公務員


一般職の国家公務員の任用状況は、1989年にすべての職種につき女性の受験の制限が撤廃されたが、7年後の1996年の任用状況は、9348人中94名でわずか1%に過ぎない。
地方公務員について報告書は、増加しているとのみ記載しているが、1996年においても採用者のうち女性は26.6%に過ぎない。また、管理職における女性の割合は知事部局(本庁)及び市長部局(本庁)においては2.6%、教育委員会部局で2.5%と著しく低い。
1999年6月に制定された男女共同参画基本法には、ポジティブ・アクションが盛り込まれたが、配慮義務にすぎず、国がその措置をとることになっているが、具体的内容は記載されていない。「男女共同参画基本計画」(2)「積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の具体化」においても、国家公務員についても、「積極的な採用、登用に向けた中長期的な努力目標を設定する必要がある」とし、地方公務員についても、「女性の採用・登用等の促進のための積極的な取組が行われることを期待する」「(研修の)女性職員の受講に配慮することも望まれる」などに止まっており、実効性は期待できない。


7)女性修習生の就職差別


法律事務所の弁護士の採用にあたって女性差別が存在していることにつき、弁護士会の自治に十分配慮しつつ、必要な措置を講ずるべきである。
日本における女性の司法試験合格率は年々高まっており、2000年には合格者の28.72%を女性が占めるに至っている。司法試験合格者の約80%が弁護士となるが、弁護士事務所の採用にはいまだに女性差別が存在している。2000年10月に弁護士登録をした者608名に対して行ったアンケート(回答率19.2%)では、回答者の約3分の1が「女性は採用しないという方針の弁護士事務所があった」と回答している。これは男女雇用機会均等法が、弁護士事務所においても遵守されていない事実を示すとともに、司法という公的活動に女性が参加して活躍する機会が十分保障されていないことを意味する。
弁護士会は、女性に対する差別撤廃、条約の完全実施のために司法の果たすべき重要な役割に鑑み、自ら法律事務所の弁護士の採用にあたって女性差別が行われることのないよう、実情の調査や情報提供その他の必要な措置を講ずるべきである。


8)検察官任官における女性差別


検察官採用の基準を明確化して開示するとともに、検察官採用における女性差別を禁止すべきである。
また、ポジティブ・アクションを実施して、女性検察官の数を増やすよう努力すべきである。


【1】検察官採用において、女性が差別されていることが社会問題となった。検察官である司法研修所の教官らが、修習生に対し、検察庁が検察官として採用する女性について、人数制限を設けていることを示唆する発言を公然と行っていたことから問題が表面化した。当連合会の調査によれば、検察庁が司法研修所の卒業生を検察官に採用する際、女性は司法研修所のクラスで1人あるいは2人しか採用しないという「女性枠」(人数の限定)の存在が確認された。


【2】これは女子差別撤廃条約7条、11条及び憲法13条、14条1項及び22条、国家公務員法27条ならびに均等法5条に違反する差別的な取扱いである。
従って、国は、検察官の採用における男女差別を明確に禁止するとともに、男女差別のない公正な採用基準を確立し、これを公開すべきである。


【3】検察官全体に占める女性の割合が極端に低い(7.1%、1997年)にもかかわらず、過去8年間、研修所の卒業生で検察官に採用される女性の割合は、研修所の卒業生全体に占める女性の割合より低くなっており、検察庁において女性の参加が極端に低いことは懸念すべき問題である。
従って、ポジティブ・アクションを実施して、女性検察官の数を増やすよう努力すべきである。


9)最高裁判所裁判官


A 結論と提言


積極的に女性を最高裁判事に任命すべきである。


C 第4回政府報告書の記述


女性初の最高裁判事が1名誕生した(1994年2月から1997年9月)。(36頁)


D 日本政府の対応と日弁連の意見


1994年2月、わが国で初めて女性が最高裁判所判事に就任した。しかし、その判事が1997年9月に退官後、9人の最高裁判事が任命されているにもかかわらず、うち女性は1人もおらず、1994年2月以前及び1997年9月以降、15ある最高裁判事のポストはすべて男性で占められている。
男性判事が過半数を占める最高裁判所の判断は、ジェンダー・バイアスがかかる危険性が高いにもかかわらず、女性の裁判官が1人もいないということは、それが是正される機会が少ないことを意味する。最高裁判所の判決は、下級裁判所に対する法的拘束力を有するから、いったん、最高裁がジェンダー・バイアスのかかった判決を出してしまうと、その影響が日本国内のすべての裁判所に波及し、それにより多くの女性が不利益を受ける結果となる。
従って、司法におけるジェンダー・バイアスを排除し、もって女性の人権を十分に擁護するという観点からは、積極的に女性を採用することが急務であると考える。


8 第8条

(1)国際分野における政策決定への参画状況


A 結論と提言


国際分野における政策決定への女性の平等なアクセス及び完全な参加を保障するため、適切な措置をとるべきである。


C 第4回政府報告書の記述(37~40頁)


国際分野における政策決定への参画状況として、国際会議、第4回世界女性会議、国際機関等への女性の参加の状況、女性大使の状況が報告されている。


D 日本政府の対応と日弁連の意見


2001年4月成立の小泉内閣では、初の女性外務大臣が誕生したが、国際分野における政策決定過程への女性の参画状況は、国内の公的な分野における参画状況以上に遅れていると言わざるを得ない。
政府としては、国際分野における政策決定への女性の平等なアクセス及び完全な参加を保障するため、以下のような措置を講ずるべきである。


【1】政府機関において、あらゆる政府及び公的な管理的地位への女性及び男性の平等な参加の達成を目指す観点から、女性の数を実質的に増加するために、必要であれば、積極的措置(ポジティブ・アクション)を通じて、特定の目標を設定して施策を実施することを含む、女性及び男性の均衡達成の目標を設定する公約を行うこと。


【2】国連機関、専門機関及び国連システム、その他の自治機関、特に上級ポストへの選出または任命のために、推薦される国内候補者の名簿において、男女の均衡を目指すこと。


【3】国連の会議及びその準備過程への非政府機関の女性の参加を奨励し、支援すること。


【4】国連その他の国際フォーラムへ送る代表団の構成における男女の均衡を目指し、また、支援すること。


9 第9条

(1)外務公務員法の改正


D 日弁連の意見


1952年以来、国際結婚をした外交官は150人を超すが、外国人等を配偶者とする者は、外務公務員の欠格事由とされていたために、配偶者を日本に帰化させなければならず、中には国際結婚を理由に退職した外交官もいたという。
外務公務員法の改正により、この問題は法的には解消されたと言えるが、外国人の配偶者をもつ外務公務員が、処遇について事実上の差別的取り扱いがされないか、外務公務員が男性の場合と女性の場合で処遇において差別的取扱いがされていないか、注視していく必要がある。
この問題の背景には、「公権力の行使、公の意志の形成の参画に従事する公務員には、外国人はなれない」とする国の考えが存する。地方公務員法や学校教育法の中には、国籍制限条項がないにもかかわらず、地方自治体の一般事務職・技術職の公務員は日本国籍に限るとされ、日本国籍を有しない者、外国人は公立学校の教諭にはなれず、講師としてしか採用されていない。
一部の地方自治体において、一般事務職・技術職について国籍による制限をなくす動きがあるが、国が、公務員は日本国籍に限るのは、法律以前の当然の法理としていることにより全国的なものになってはいない。


10 第10条

(1)男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実


(2)女性の多様化・高度化した学習需要に対応した教育・学習機会の充実


(3)進路・就職指導の充実について


(4)教育改革プログラム


A 結論と提言


政府は、2000年12月12日、男女共同参画社会基本法に基づく男女共同参画基本計画を策定した。計画の方向性は是認できる。しかし、初等中等教育では、ジェンダーの視点での具体的施策の取組が不十分であり、高等教育では、専攻領域の男女のアンバランス、女性教官が少ないこと等が、固定的性別役割分業意識や職業での性別分離を生じさせている。


C 第4回政府報告書の記述(41頁~45頁)


【1】 初等中等教育の充実として、中学校は1993年度から、高校は1994年度から家庭科教育が男女必修となった。


【2】 1996年に、国立お茶の水女子大学にジェンダー研究センターが設けられ、ジェンダーに関する学術研究及び調査、教育研修、情報の提供などを行っている。


【3】 社会教育の推進のため、文部省(現文部科学省)では、市町村が行う家庭教育学級等に対し助成をしている。


【4】 生涯学習の推進のため、地域における生涯学習推進体制の整備、リカレント教育の推進、放送大学等の整備を行っている。


【5】 女性の社会参加促進のための学習・実践のモデル事業を、1990年より婦人教育団体等に委嘱し、1994年度からは「女性の生涯学習促進総合事業」を実施する各都道府県の事業に助成している。


【6】 進路・就職指導の充実のため、1995年度から全国就職指導ガイダンスを実施し、また、労働省(現厚生労働省)では、同年度から女性が固定的な考え方にとらわれない進路決定を行うよう、高校の女子生徒やその親、学校の進路指導担当者に対する意識啓発セミナーを実施している。


【7】 1997年に、政府の教育改革に具体的かつ積極的に取り組むため、文部省において「教育改革プログラム」を策定した。


D 日弁連の意見


小学校・中学校の教科書のあり方及びジェンダー・フリー教育についてのみ意見を述べる。


1)当連合会は、1989年2月、「教科書における男女平等」についての意見書を発表した。その中で当連合会は、小学校・中学校の教科書に関し、「固定的性別役割分担意識と『男らしさ』『女らしさ』の固定化された概念を子どもにうえつけ、助長する記述、写真及び挿絵を改善し、男女平等の理念に立ち、男性も女性も共に、人間として自立した豊かで多様な生き方を学ぶことができる教科書とすること」を提言した。
以上の当連合会の提言後も、教科書の記載が提言に従って改善されたとは言えない。
従って、具体的取組として、次のような点を盛り込むべきである。


【1】家庭科の共修が実現したと言ってもまだ完全ではないので、必修かつ共修とすべきである。


【2】ジェンダーの視点に配慮した教科書づくり、特に家族の多様化と個人の自立に配慮した家庭科の教科書づくりが必要である。


【3】男女別教育の慣行、教員の男女数の偏り、教員の性差別を助長する言動等という、いわゆる隠れたカリキュラムをなくすための積極的な取り組みが必要である。


【4】ジェンダー・フリー教育のガイドラインを作成し、実施することを検討すべきである。


【5】生涯教育、職業教育においても、ジェンダーの視点に配慮すべきであり、「女性のエンパワーメント」につながる内容となるようにすること。


2)社会・学校・家庭のあらゆる場面において、現実には両性の平等が実現されていないことを認識すると共に、個人が自由で個性的な選択ができる真の両性の平等を実現するためのジェンダー・フリー教育の徹底を図るべきである。


11 第11条 1(a)~(c)、(f)男女雇用機会均等確保対策の推進

(1)男女雇用機会均等法の実施状況


(2)男女雇用機会均等法等の改正


(3)男女雇用機会均等等確保のための取組


A 結論と提言


均等法に、以下の点を盛り込むべきである。


【1】間接差別の禁止条項


【2】差別についての立証責任の転換


【3】均等法の違反に対する罰則規定


【4】セクシュアル・ハラスメント禁止規定と適切な救済機関の設置


【5】ポジティブ・アクションの義務化


【6】差別是正の実効性を確保するための救済制度


雇用の場における女性の差別を実効的に救済するために、均等法のもとで 厚生労働省が行う調停制度や、裁判制度の改善を図るべきである。


B 女子差別撤廃委員会の懸念事項・勧告内容


最終コメント


〔おもな関心事項〕


●均等法が導入されているのに、差別が続いていることに注目する。


〔助言と勧告〕


●次回の報告は、日本の女性の実態がもっとよくわかるように、NGOとの対話を行って作成されたい。個々の、また職場での法的・実質的差別の存在を認め、差別をなくす手だてをとるか、計画をもつこと。


●政府は、民間企業に均等法を守らせ、間接差別をなくすための措置をとり、報告すること。


C 政府報告書の記述


1)均等法の強化


【1】募集・採用、配置・昇進における女性に対する差別の禁止規定化


【2】法の実効性を確保するための措置の強化


・行政指導に従わない企業の企業名公表制度の導入


・調停制度の改善


【3】ポジティブ・アクション促進規定の創設


【4】セクシュアル・ハラスメント防止規定の創設


2)男女雇用機会均等確保のための取り組み


【1】行攻指導と個別紛争解決の援助


・企業に対する行政指導を事業所訪問により計画的に実施


・都道府県女性少年室長の適切な助言・指導・勧告、機会均等調停委員会の円滑な運営等により、女性労働者と事業主の間の均等取扱いに関する個別紛争の迅速かつ円滑な解決を図る。


【2】女性労働者の能力発揮促進のための企業の積極的取組(ポジティブ・アクション)の促進


【3】コース別雇用管理制度の適正な運用のための行政指導


D 日弁連の意見


1)間接差別の禁止について


賃金に連動する昇進・昇格の男女格差は、依然として著しく解消していない。部長職、課長職相当の管理職に占める女性の割合は、1999年で係長職8.2%、課長職3.4%、部長職2.1%と低く、女性が昇進・昇格するのは、まだまだ例外という実態にある。
また、以下述べる「コース別人事制度」等の「間接差別」の存在が、女性の低賃金の大きな要因であると考えられる。現在、多くの昇格・貸金差別是正を求める裁判が係属している。
均等法が制定され、制度上の男女別賃金体系等あからさまな女性差別は、ほとんど姿を消した。しかし、表面上は平等に扱っているように見えても、結果的に一方の性を排除し、不利益をもたらす、いわゆる「間接差別」が行われている実態が少なくない。例えば、賃金(特に各種手当)については、従来から行われている「世帯主」、あるいは「主たる生計の維持者」を基準として支給がなされている場合などである。これらを基準とすることによって、世帯主は90%以上が男性という社会的実態の下で、圧倒的多数の女性は、「世帯主でない」「主たる生計の維持者でない」という理由で不利益を強いられる結果になる。こうした間接差別が根強く残っている。
また、均等法施行以後、女性が転勤を基準とする不利益扱いを受けている実態も見逃せない。例えば、金融、保険、商社を中心に採用されている「コース別人事制度」は、「総合職」と「一般職」などとコースを分け、コースによって昇進や昇格、賃金などその後の処遇が大きく異なる制度であるが、コース分けの基準として「転勤」をあげているところが多い。しかし、ほとんどの女性が家庭責任を負っている現状の下で「転勤」が条件とされていては、女性が、「総合職」を選択することは事実上困難である。現に、女性は、ほとんど低い賃金で昇進・昇格もしない「一般職」にとどまっていること、男性の「一般職」はごく少数であることを見ても、「転勤」という基準を設定すること自体、女性を不利益に扱う間接差別にほかならない。また、コース別人事制度を採用していない企業や、更には官庁においても、転勤が昇進・昇格についての事実上の基準とされている場合が多い。なお、総合職に占める女性の割合は、3.5%と非常に低い(2000年21世紀産業調査「大卒者の採用状況及び総合職女性の就業実態調査」より)。
更に、最近の企業の人事政策においては、能力主義の名の下に職能資格制度が導入され、昇進・昇格に関し、査定制度、試験制度等をとっている企業が増えている。しかしその実態は、例えば男性は基幹的業務、女性は補助的定型的業務に配置し、査定基準や試験問題が女性を不利な状態に置いている例が、これらの制度の中にも間接差別と言わざるを得ないケースが少なくない。
裁判例では、三陽物産賃金女性差別事件判決が、会社が年齢給の基準として「世帯主」「転勤」をあげていることについて、「その基準の適用の結果生じる効果が、女子従業員に一方的に著しく不利益となることを容認して右基準を制定したもの」と認定し、実質的に間接差別は許されないことを明らかにした。


2)差別についての立証責任の転換について


賃金等差別事件で最も困難であるのは、賃金格差の実態とそれが性別に起因する証明である。
賃金格差の実態を知るため、使用者に対し賃金台帳等を提出するよう求めることとなるが、裁判所の文書提出命令にもかかわらず、使用者が提出を拒否する場合には、罰則による制裁規定をおくべきである。そして、男女間格差があれば、使用者側の合理性についての反証がなければ、その格差が性別に起因するものと推定する旨の規定を新設する必要がある。


3)均等法の違反に対する罰則規定について


均等法が、旧来から定年や退職について禁止規定にしているにもかかわらず、結婚退職や若年退職の強要が依然として行われており、単なる禁止規定のみでは不十分であることは明白である。
その措置の内容としては、女性少年室長の勧告に従わない場合、及び資料提出命令などに従わないときは、その旨の公表及び職業紹介の拒否等行政上の制裁に加え、女性少年室長の勧告に従わない場合は、室長の告発に基づき、罰則を付与することができる旨の規定を盛り込むべきである。


4)ポジティブ・アクションについて


政府報告書は、均等法の改正で、ポジティブ・アクション(積極的差別是正策)促進規定が導入されたとしている。しかし、その内容は、事業主が、雇用する女性労働者の状況についての分析、均等の機会及び待遇確保に支障となっている事情を改善するための計画の作成と実施、そのための体制の整備を行う揚合には、国が相談または援助を行うというものである。
上記規定は、ポジティブ・アクションを行うか否かは、全く事業主の任意であり、努力義務すら課せられていない。
国家公務員(一般職)への女性に対する受験の制限は撤廃されたが、管理職の割合は依然として低く、行政職(一)の俸給表適用者については、本省庁の課長・準課長相当級である9扱から11級に占める女性の割合は、およそ1%でしかない(1998年度末)。その割合を高めるための積極的措置は執られていない。
また、新たに採用される職員においても、中枢省庁での任用が予想されるⅠ種合格者・採用者の状況では、女性は申込者の割合に比し、合格者・採用者の割合が明らかに少ない(「女性の政策決定参画状況調べ」より)。合格者の割合も、1994年をピークに2年連続減少し、1998年で14.2%、1999年で14.4%まで回復したに過ぎない。
従って、各雇用分野毎の男女の割合について、達成すべき目標を掲げて公表し、その目標達成のために事業主を指導・監督する社会基盤の整備や啓蒙活動などの必要な援助を行い、かつ、目標達成状況について報告する事業主について、労働大臣に対する男女の比率に関する状況の調査と目標設定及び実施状況の報告を義務付け、差別是正のための積極的措置は、現状分析、目標の設定、その達成のための義務付け及び指導監督、結果の公表が重要であり、具体的措置の義務化や監視システム、これに伴う予算措置などが規定されるべきである。


5)差別是正の実効性を確保するための救済制度について


男女差別を解消するには、迅速・適正な救済を実現する制度が必要である。しかし、均等法が定める調停制度等は、差別是正のための救済制度としては機能していない。
均等法改正以前は、調停制度が相手方の同意がないかぎり開始されなかったため、調停開始件数は10年に1企業についてのみであった。法改正により、相手方の同意は開始条件ではなくなったが、「女性少年室長が必要と認めた場合」という要件はそのままである。これまでも、例えば前述したコース別人事については「男女」という基準で分けていないという、女性少年室長の形式論だけで調停不開始とされている。
また、均等法改正後の調停申立事件である日本航空の男女昇格差別事件を見ても、申立後4カ月間も調停が開始されるか否かも判明せず、開始することが決定された後も、代理人申請等の手続面のことで実際の調停開始は大幅に遅れた。結果的に、調停委員会からの調停案は何らの解決をもたらさなかった。このように、いまだ調停制度が機能していない以上、調停制度の整備だけでなく、強制力をもち、迅速に是正命令を出すことができる独立行政委員会の設置が必要である。
このような事情から、差別されている女性が是正を求めるには裁判を提起せざるを得ない。
しかし、女性が賃金・昇進・昇格差別是正を求める裁判は、労働の質と量が男性と同一の場合は、格別、定型的・補助的業務に差別的配置をされてきた場合は、救済が困難な状況にある。特に、昭和30~40年当時採用され、30~40年間勤続の女性たちが著しい男女格差があることを理由に是正を求めている裁判で、最近の判決の特徴は、後に述べる住友電工事件判決のように、いわゆる「時代制約論」を理由に男女差別ではないとする判決が相次いでいる。
住友電工男女差別事件大阪地裁判決(2000年7月31日)は、女性のみを「定型的・補助的業務」と位置づけて低い処遇をすることは、憲法14条に違反するとしながら、男女平等と企業の営業の自由、財産権の調和を図る必要があり、昭知40年当時は、女性は勤続年数も短く、転勤もしない、男性のように残業や休日出勤もしないという役割分担意識が強い時代であって、企業が、女性のみ「定型的・補助的業務」の社員と位置づけて採用し、現在にも男性よりも低い処遇をし続けることも社会通念上違法ではない、とした。
更に、差別が認定されても昇進・昇格した地位確認の判決は、いまだ高裁段階の判決で1件のみで、過去の損害賠償の救済にとどまっている。また、第1審判決までに約10年もかかることも少なくない現状にある。その結果、差別されていても、結局法的に争うまでは至らず泣き寝入りしている女性が少なくないという実情にある(後掲「最近の主な賃金・昇格男女差別事件判決」一覧表 参照)。


6)セクシュアル・ハラスメント


セクシュアル・ハラスメントを受けずに働く権利を明確にし、これを禁止する規定が必要である。また、紛争解決のための、迅速で、適切な救済機関を設置すべきである。
わが国では、職場は勿論、教育現場その他におけるセクシュアル・ハラスメントが蔓延していると言っても過言ではない。雇用におけるセクシュアル・ハラスメントについては、1999年4月1日から、均等法に雇用管理上の配慮義務が創設されたが、この規定は使用者の配慮義務に止まり、セクシュアル・ハラスメントを明確に違法として禁止する規定ではない。
1989年以降、セクシュアル・ハラスメントについての訴訟が多数提起され、そのほとんどにおいて被害者側が勝訴している。しかし、わが国においては、裁判所に訴えが提起される紛争は、全体の中でごく僅かであることを考えると、セクシュアル・ハラスメントの実態は深刻であると考えられる。加えて、被害者に対する損害賠償の額が非常に低い。「セクシュアル・ハラスメントの実態と法理」(水谷英夫著)には、裁判例一覧として58件が掲載されているが、そのうち損害賠償請求事件の52件(同一事件でも審級ごとに1件とする。)において、退職を余儀なくされるなど、仕事を失う結果に対する慰謝料を含む損害賠償として裁判所が認めた金額は、金150万円以下が半数を占める。1999年には、慰謝料として700万円から900万円を認める判決が出され注目を浴びたが、それまでの低額の慰謝料に比して高額であるに過ぎない。現時点では、司法救済は、被害女性の被害を償うに足りないばかりか、加害者及び雇用主に対して、抑止的効果を期待することは難しい状況である。
雇用においては、セクシュアル・ハラスメントに対する使用者の配慮義務にとどまらず、セクシュアル・ハラスメントを受けずに働く権利を明確にし、これを禁止する規定が必要である。また、解決の手段として、企業内紛争処理機関を創設することを求めているが、いまだその整備は十分でなく、また、均等法に定めた紛争処理機関としての労働局長の権限が弱く、調査権限や行為をやめさせるための強制的権限は付与されていない。上記のとおり、司法救済も予防・救済の制度としては不十分である。従って、明文をもって、セクシュアル・ハラスメントの禁止規定を設けるべきである。


事件名


判決日


判決結果概要


社会保険診療報酬支払基金昇格賃金差別事件


1990.7.4(東京地裁)


組合間の差別是正を男子は勤続年数を唯一の基準としながら、女性には同様の昇格措置を取らなかったことは合理性のない男女差別に当たるとして、不法行為による差別賃金相当の損害賠償等を命じた。


岩手銀行賃金差別事件


1992.1.10(仙台高裁)


家族手当等の支給対象となる世帯主を「夫たる行員」に限定した銀行の給与規定を根拠にした取り扱いは、男女の性別のみによる賃金の差別取り扱いで、労基法4条に違反し、民法90条により無効とした。


日ソ図書賃金差別事件


1992.8.27(東京地裁)


業務が同時期に入社した男性に劣らないのに、初任給格差を是正せず放置したのは労基法4条に違反する。


三陽物産賃金差別事件


1994.6.16(東京地裁)


本人給の「世帯主・非世帯主」「勤務地限定・無限定」の基準は、女性が一方的に不利益になることを容認して算定したものであり、労基法4条に違反する。


石﨑本店賃金差別事件


1996.8.7(広島地裁)


同じ仕事をしながら男女で初任給その後の賃金が異なる合理的理由はないとして、女性であることを理由とした差別であると認めて、不法行為による損害賠償を命じた。


芝信用金庫昇格賃金差別事件


1996.11.27(東京地裁)


昇格について試験制度を取りながら、男性については年功で上げている労使慣習が確立していたのにもかかわらず、その慣習を女性には適用
しないことは、就業規則に反するだけでなく現行法秩序からも許されない、として「課長職」
への昇格を認め、過去及び将来の差額賃金の支払いを命じ、昇格した地位の確認をした。


2000.12.22(東京高裁)


合格率が極めて低い昇格試験に男性は全員が合格していることから、男性の人事考課等の優遇措置を推認し、原告らも男性と同様の配慮を受けていれば合格していたとして、地位確認を認め、差額賃金、慰藉料、弁護士費用の支払いを認めた。


塩野義製薬賃金差別事件


1999.7.28(大阪地裁)


入社当時補助職で採用された大卒の女性が、その後男性と同じ職種に変更されたにもかかわらず、男性と能力給に格差があるのは労基法4条違反であるとして、男性の能力給平均の9割との差額及び慰藉料を命じた。


住友電工賃金差別事件


2000.7.31(大阪地裁)


高卒男子は幹部候補要員、高卒女子は定型的補助的業務として採用され、男女間に著しい格差がある男女別採用と男女別労務管理は、憲法14条の趣旨に反するが、昭和40年代当時は性的役割分担意識が強く、女性は結婚、出産までに退職する傾向があったから公序良俗違反とはいえず、その後の是正義務もないとして請求棄却。


商工中金賃金差別事件


2000.11.20 (大阪地裁)


コース別人事制度導入に際し、総合職を選択したが、一般職に配置され、男性総合職と著しい格差が生じたのは男女差別に基づくとしたが、
慰藉料のみ認め、差額賃金の請求は棄却した。


住友化学賃金差別事件


2001.3.28(大阪地裁)


高卒男子は専門職従事要員、高卒女子は一般職という採用区分によって著しい男女格差があるが、男女別採用区分は、昭和40年代当時は、性別役割分担意識が強く、女性は短期間で退職する傾向にあったことなどから公序良俗に違反しないとして、請求を棄却した。


住友生命ミセス賃金差別事件


2001.6.27(大阪地裁)


産前産後休業などの取得を理由に既婚女性を低く査定し、昇格や昇給で顕著な格差があることを認め、労基法で定められた権利の行使を制限し、違法として損害賠償を命じた。


第11条1 労働基準法の改正

(1)深夜業、休日労働、残業規制


A 結論と提言


1)時間外労働については、1日2時間、1週6時間、年間120時間(当面の措置として年間150時間)を上限とし、休日労働については原則禁止とすべきである。


2)深夜業は、公益上必要性が認められる業務以外は、男女ともに原則禁止とし、例外的に認める場合については、1日の労働時間、深夜勤回数、深夜勤の間隔及び連続勤務日数等の上限を設けるべきである。


C 第4回政府報告書の記述


1)労働基準法の改正(47頁)


1)


【1】 女性に対する時間外・休日労働、深夜業の規制の解消


満18歳以上の女性労働者にかかる時間外及び休日労働並びに深夜業の規 制を解消することとした。


【2】 育児・介護を行う労働者に対する深夜業制限の措置の創設(育児・介護休 業法の改正)(48頁) 労働基準法の女性の深夜業規制が解消されたことで、子を養育する両親がともに深夜業に従事するケースや、深夜に介護を要する家族の世話をする者がいなくなるケースも生じうることから、育児または介護を行う一定の範囲の労働者が請求した場合、事業の正常な運営を妨げる場合を除いて、深夜業を行わせてはならないこととした。


D 日弁連の意見


1)政府は、女性に対する時間外労働等の規制の撤廃は、「男女の均等な機会と待遇の確保のため」と説明している。しかし、わが国においては、労働時間の規制そのものが極めて不十分であり、長時間労働、時間外・休日労働が蔓延している 。このような事態を放置したまま、女性労働者の時間外労働等を規制していた労働基準法の規定を撤廃したことは、男女平等の実現のための法律改正ではなく、逆に男女差別を助長する改悪であった。


2)わが国では、もともと時間外・休日労働に対する上限規制がなく、36協定(労働基準法36条に定める時間外労働等についての上限を定める協定)さえ結べば1日何時間でも、休日も無制限に働かせることができる。
更に、1987年以降、変形労働制、裁量労働制を導入、拡大したことによって、労働時間の規制はますます緩やかなものになった。変形労働時間制では、1日、1週間、1カ月ごとの労働時間規制が緩和されるとともに、労働時間が不規則になった。裁量労働制では、実際の労働時間とは無関係に、いくら働いても予め定められた労働時間とみなすとされた。その結果、長時間労働は依然として解消されないままである。
総務庁の2000年(平成12年)労働力調査結果によれば、2000年の男女雇用者の平均週間就業時間は43.1時間(年間にすれば2241.2時間)、男性雇用者の平均週間就業時間は47.6時間(年間にすれば2475.2時間)である。女性についても、1985年以降、専門職等を中心に時間外労働等の規制が緩和されたことにより、多くの女性が長時間・深夜労働に従事している。出版や放送業界では、月に100時間を超える時間外労働をしている女性も少なくない。更に、わが国では時間外労働としてサービス残業が蔓延している。膨大な業務量とノルマに追われる形で長時間の時間外労働が行われ、労働者の実際の労働時間を把握さえしていない使用者が少なくないのが実情である。
なお、わが国はILOの労働時間に関する条約を、現在に至るまで1つも批准していない。
このような長時間労働によって、男性労働者においては過労死に象徴されるような健康破壊が進んでいるが、男性と同様に長時間・深夜労働に従事している女性労働者の健康破壊の実態も深刻である。そして、生む性である母性も脅かされている。
また、長時間・深夜労働が家庭生活をないがしろにし、特に、子どもたちが放置されている現状の弊害は、つとに指摘されているところである。出産についていえば、1999年の合計特殊出生率が1.34という少子化の実態は、わが国の将来にも大きな影響をおよぼす問題である。
男女ともの家庭責任が叫ばれながら、男性が長時間労働を強いられる中で、現在でも家庭責任の大部分は女性が担っているのが実情である。かかる現状から、女性に対する規制緩和によって男性並みの長時間労働に従事できない女性は、働き続けることが困難になり、職場から排除される。変形労働制が導入・拡大されて、長時間労働に加えて労働時間が不規則となったことにより、家庭生活、特に育児との両立が困難になり、この点でも女性は働き続けることが困難になった。現に、わが国では、賃金も低く昇進もしない、劣悪な労働条件のパートタイマー等の不正規雇用者が急増している。
従って、女性に対する時間外労働等の規制の撤廃は、他の労働時間の規制緩和と相まって、わが国の著しい長時間労働に拍車をかけ、更に家庭生活と社会生活に支障をきたすものである。家庭責任を負っている女性の働く機会を狭め、逆に男女差別を拡大するものである。我が国においては、男女ともの労働時間規制を厳しくすることこそが必要であり、わが国の長時間労働の実態からすれば、時間外労働については1日2時間、1週6時間、年間120時間(当面の措置として年間150時間)の制限が必要である。


3)深夜業が健康に悪影響を及ぼすものであることは男女共通である。特に、妊娠・出産に関する影響は大きく、切迫流産、異常出産、未熟児の割合等が日勤者に比較して格段に高い。さらに、過労死の事例は例外なく深夜に及ぶ長時間労働の結果である。加えて、深夜業が家庭に及ぼす影響も非常に大きい。
そのため、深夜業については、原則禁止し、例外は公共上必要性が認められるものに限定すべきである。例外的に深夜業を認める場合も、1日当たりの労働時間の規制が不可欠である。その上限は昼間労働とのバランス、ILOの勧告などから考えても6時間以内とすべきである。更に、労働者の健康及び家庭生活との調和のためにも深夜勤務回数(月6回を限度とする)、深夜労働の間隔(最低16時間)、連続勤務日数の上限等を設けることが必要である。更に、家庭責任を有する労働者及び健康上理由のある者、妊娠中及び産後1年以内の女性については、希望した場合には昼間の労働に配置すべきである。
深夜業は、家族的責任の軽い労働者にとっても、健康や家庭生活・社会生活に与える影響は重大である。早急に一般的に深夜業の規制を図った上で、更に家族的責任を有する労働者の特別措置をとるべきである。
しかし、深夜業を原則禁止として一般的規制を実現するまでの間でも、深夜業の免除請求権の要件を緩和することは可能である。政府は、育児・介護を行う労働者に対する深夜業制限の措置を創設したと言うが、現行の育児・介護休業法では、たとえば、父母が深夜業に従事し、小学生の子どもが家庭で一人という事態になっても、父母は事業主に深夜業の免除を請求できない。最低限、小学校卒業前の子どもがいる親に深夜業の免除を認めるなど、深夜業の免除請求権行使の要件を緩和すべきである。


4)女子差別撤廃条約の前文及び11条からすれば、母性に対する保護は社会的権利であり、必要な保護の範囲は、その国の労働条件全体の水準に対応するものである。また、ILO156号条約、165号勧告は、仕事と家庭責任との両立を図り、男女の平等を実現するために一般的労働条件の向上、具体的には1日の労働時間の短縮と時間外の制限を求めている。従って、この間の労働時間や深夜業の規制緩和や裁量労働や変形労働などは、政府が時間短縮を積極的に進めているどころか長時間労働のための政策で、女性の働き続ける権利を奪い、昇進・昇格差別をもたらすものであり、これらの条約の趣旨に反する。


第11条1(c)

(1)女性の職業能力開発の推進


A 結論と提言


職業能力の開発について、具体的施策を示すべきである。女性が能力開発のための時間を確保できるよう労働時間の短縮を進めるために法的規制が必要である。


C 第4回政府報告書の記述


労働省において、[1]ホワイトカラーの段階的、体系的な能力開発を支援する「職業能力習得制度」の実施、[2]自主的な能力開発の取り組みを促進する労働時間面での配慮等の環境を整備する事業主に対する助成等の支援策の充実等の施策を、男女を差別することなく推進する。


D 日弁連の意見


女性の能力開発のための「職業能力習得制度」は、労働者に一般的に周知されておらず、実施の具体的状況が不明である。更に、能力開発のためには、時間的余裕が不可欠であるが、報告書では事業主にその時間確保の環境整備を促す助成金等の支援をあげている。しかし、労働時間の短縮は、事業主の環境整備に任せて実現できるものではなく、国の法的規制なしには不可能である。わが国の長時間労働の問題点については別項で述べるが、能力開発の観点からも重要である。


(2)女性の社会参加の支援のための事業の推進


A 結論と提言


女性の能力発揮を促すための具体的施策を施設の開館以外に示すべきである。


C 第4回政府報告書の記述


女性職員の能力発揮を促す研修、セミナー、相談、展示及び情報提供等の事業を総合的に実施することとし、これらの事業を行う施設を1999年度開館を目途として建設中である。


D 日弁連の意見


報告書に記載されている施設の開館が、どこまで進んだかは明らかでない。しかも、東京都では、この間女性の研修や集会等に広く利用されてきたウイメンズプラザの閉館をはじめとして、働く女性の社会参加を支援するための施設の閉鎖や予算が削減されている。教育、学習の機会を広く提供できるような具体的な施策が必要である。


第11条1(d)

(1)男女間賃金格差解消のための取組


A 結論と提言


1)


日本政府は、女子差別撤廃条約11条(1)d同一価値労働同一賃金の原則に違反する男女間の賃金の著しい格差並びに昇進・昇格における著しい格差を解消するための実効的な措置を直ちにとるべきである。


2)


日本政府は、パートタイム労働者、派遣労働者、有期雇用労働者の雇用機会の確保と賃金の改善のために、ILO175号条約及び181号条約等を批准し、国際基準に基づく国内法の整備をするべきである。


B 女子差別撤廃委員会の懸念事項・勧告内容 日本政府は、民間部門が均等法を遵守することを確保するべきであり、民間部門において女性が直面している昇進や賃金についての間接的な差別を取り扱うためにとった措置について報告すべきである。


C 第4回政府報告書の記述 男女賃金格差が解消されていないことを指摘し、原因として「職務(職種、職位、職階)、勤続年数、学歴構成等のちがいによるところが大きいと考えられる」とする。


D 日弁連の意見


政府報告は、女子差別撤廃委員会が懸念しているとおり、女子差別撤廃条約の十分な実施に対する障害についての批判的分析に欠けている。


1)男女間の賃金格差


政府報告は、パートタイマーを除いて男女の平均賃金を比較しているが、それを含めて比較すべきである。なぜなら後述するとおり、近時女性のパートタイム労働者、派遣労働者は急増しており、このような非正規労働者の賃金は、一般的に正規労働者に比較して低いため、男女賃金格差が解消せず、女性が低賃金におかれている原因となっているからである。ILO条約勧告専門委員会も、1993年に低賃金雇用に女性が集中していること、女性労働者に対して均等な雇用機会が不足していることが、日本における賃金格差の主要な原因と指摘している。政府報告が、この点の分析を欠いており、それを含めた実態を明らかにするべきである。


2)男女格差の実情


実際に支払われている平均賃金(所定内給与額)の格差は次のとおりである。


1985年


51.8% (パートタイム労働者を除くと59.6%)


1990年


データなし(パートタイム労働者を除くと49.6%)


1995年


データなし(パートタイム労働者を除くと62.5%)


1998年


データなし(パートタイム労働者を除くと63.9%)


1999年


データなし(パートタイム労働者を除くと64.6%)


政府の調査によっても、以下のことが指摘され(1999年版、2000年版「女性労働白書」等)、さらに女性が低賃金の雇用形態(パートタイム労働者等)に集中しているという問題がある。これらの実態を踏まえた分析が必要である。


【1】一般労働者の賃金の男女間格差は、年々縮小傾向にあるが、産業により違いがあり、たとえば金融・保険業では男女賃金格差が最大で、かつ近年拡大 傾向にある。


【2】企業規模により違いがあり、中小企業では格差が大きく縮小しているのに比べ、大企業では格差が拡大傾向にある。


【3】高学歴程格差は小さい。


【4】年齢階級別にみると、高齢層では格差が拡大している。女性一般労働者の賃金を年齢階層別にみると、女性は35~39歳でピークであるのに、男性 は50~54歳まで年齢とともに賃金の上昇が続く。


3)男女格差の原因


男女の賃金格差の原因について、政府報告は、職務、勤続年数、学歴等の違いを挙げているが、更にそれが合理的な格差であるのか分析が必要である。
政府報告書が述べているとおり、法律上は、労働基準法4条に男女同一賃金の原則が定められ、また、女子差別撤廃条約を批准するはるか前の1967年に、日本はILO100号条約を批准している。ILO100号条約は、女子差別撤廃条約と同様に、同一価値労働同一賃金の原則を定めている。
このILO条約及び女子差別撤廃条約の批准にあたっては、国内法の整備をしなくても批准できるというのが政府の見解であった。つまり、1960年代より、日本政府は、同一価値労働同一賃金の原則の実施を要請されていたのであるが、実効的な措置をとってこなかったと言える。政府報告書は、賃金での男女格差を認めているが、それが女性に対する差別的取扱いに起因するのか否かについて分析が十分ではない。


【1】職務の違いと昇格・昇進格差


日本では、職務を客観的に評価する基準が確立していない。女性の従事する割合が多い仕事は低く、男性の従事する割合が多い仕事は高く評価されがちである。
政府報告は、女子差別撤廃条約が定める労働の質の評価に関する差別的取扱いの禁止の視点から分析されていない。
前述のとおり、大企業を中心に導入されたコース別人事管理制度は、女性を低賃金に固定化する原因となっている。
更に、昇格・昇進について、役職別に管理職に占める女性の割合は、部長相当職では全体の2.1%、課長相当職では3.7%、係長相当職では8. 2%となっている(1999年度労働省「女性雇用管理基本調査」)。
このように女性管理職が少ないことも、男女賃金格差の一因である。


【2】勤続年数


女性の勤続年数は、近年長くなっている。問題は、女性は男性より勤続年数が短いから賃金が低いのではなく、実際に男性と同様に長い年数働いても、男性と同じ賃金が実現されていない点にある。
すなわち、これまで多くの企業は年功賃金制度を採ってきたが、女性の多くは男性に比較して年功による賃金の上昇額が低い賃金カーブを描いている。
更に、女性が退職した場合に、再就職にあたり、正社員の雇用機会は少なく、パートまたは派遣労働者等、身分が不安定で賃金の低い労働者として働くしかない状況におかれている。出産しても働き続けることが可能な労働条件、パート・派遣労働者の賃金の引上げが、男女賃金格差の解消のためには必要である。


【3】学歴等


学歴別の男女賃金格差をみると、高学歴ほど格差は小さいことが指摘され る。しかし、他方で、大学卒や大学院卒の高学歴の女性は高い就職率を示すが、結婚・出産・育児期で低下し、子育てが一段落した年齢層でもあまり上昇しないという、「きりん型」(一般には女性は「M型」)であるという特徴がある。しかし、非労働力化している女性でも、再就業の希望をもつものは多い。就業を継続しない最大の原因は、「仕事のやり甲斐がなかった」で あり、再就職しない理由は、30代は、「家事・育児のために時間を使いたい」であり、40代は「趣味や勉強のために時間を使いたい」が一番多い。また、就職できない最大の原因は求人の年齢制限である。
これらの実情から、高い潜在的な能力をもつ高学歴労働者が、自己の能力と適性に合致した就業機会を確保し、働き続けることが可能な労働環境と、再就職の際の年齢制限を除去し、再就職希望者の能力開発を支援する制度の整備等が求められる。


【4】雇用形態の違い


雇用形態で見ると、女性の非正社員数・比率が大きく増加している。労働 省統計局「労働力調査特別調査(1985年、2000年)」によれば、雇用者のうち非正規従業員(勤め先の呼び方による「パート、アルバイト、派遣・嘱託・その他」)は、1985年には645万人だったのが、2000年には1257万人となった。女性増加数は458万人と増加数全体の4分の3(75%)を占めている。特にパートの増加が著しい。2000年では、2089万人の非農林業女性雇用者(休業中を除く。)のうち、中短時間労働者は754万人(36.1%)となっており、その他、契約社員、嘱託、派遣労働者等非正規の不安定雇用労働者が増え続け、全体の42.9%を占める。男性の非正規労働者の割合が10.3%に対し、圧倒的に女性の割合が高い。
わが国の場合、パートタイマーといっても、平均勤続年数4.9年、1日の実労働時間5.5時間と正規雇用者に近づいている(1999年)。また、雇用形態のみがパートタイマー等の非正規雇用とされながら、労働時間も実際の仕事も正規雇用者と同様である例も少なくない。にもかかわらず、女性の賃金は、正規労働者でも男性の64.6%と格差が著しいが、女性パートタイマーの賃金は、正規女性労働者の67.3%にすぎない。その上、その格差が下表「女性パートタイム労働者と一般労働者の賃金格差の推移」のとおり年々拡大しており、解雇の濫用による身分の不安定性に加え、低賃金化が進行している。
1993年に制定された「パートタイム労働法」は、均等待遇原則や賃金比例原則を定めて、パートタイム労働者を直接保護しようとするものではなく、使用者の雇用管理の努力で労働条件を改善することを期待したものに過ぎず、パートタイム労働者の賃金是正の上では、実効性が乏しく不備である。
労働者派遣法も、賃金の基準については規定していない。賃金については、日本の法制度は、労働基準法4条の男女同一賃金の原則が定められているが、それを実効あるものにするための具体的な措置が取られていないのが現状である。


【5】コース別人事管理制度


均等法制定・施行前後から大企業を中心に導入された「コース別人事管理制度」は、その後導入する企業が増加し、1998年には、従業員5000人以上の規模の企業で約50%、1000人~4999人の規模の企業で約40%が、この制度を導入している(1998年度「女性雇用管理基本調査」)。しかし、女性の総合職に占める割合は、3.5%と非常に低く、女性は、賃金も低く、昇格などの労働条件も低いコース(一般職)に配置されているのが実態である。このコースを導入した企業では、はじめから男性は 総合職、女性は一般職に配置したり、あるいは総合職へ女性を配置したものの、その数はごく少数という企業も少なくない。このような差別的な取り扱いは、男女賃金格差の要因になっている。
この「コース別人事管理制度」については、国際的にも関心が持たれている。ILOの条約勧告適用専門委員会は、100号条約に関し、一貫して日本の男女賃金格差の問題を取り上げ、差別の是正を日本政府に対して要請してきている。委員会は、日本の男女賃金格差が、他の高度先進国より大きいこと、総合的な施策がなければ相当数の女性労働者が低賃金経済部門にとどまらされている状況を改善できるものではないと指摘している(1993年委員会報告)。
2000年には、委員会は「日本政府が、一部の企業が総合職として男性のみ、あるいは大部分に男性を採用することによって、女性を差別するようなやり方でコース別人事管理制度を運用していることを認めていること」(1999年の委員会で確認されたこと)を再確認し、日本政府が同委員会に「コース別人事を通じた男女差別に対処するため」に作られたと報告した 2000年6月制定の「コース等で区分した雇用管理についての留意事項」という指針に対し、「本委員会は、各都道府県労働局および均等雇用室が、今後これらの指針に基づいて指示や指導を行うことになったことに注目し」、日本政府に対し、各企業でのこの指針の実施状況、男女賃金格差軽減に対す る効果、また行政及び司法手続きでどのように利用しているかについて情報を提供するように要望しているのである。委員会は、情報の提供という方法を通じて、コース別人事管理制度での女性差別を是正するように求めているのである。
しかし、実際のところ、指針は法律でないから、男女間の賃金格差の解消に対する効果は弱い。やはり、間接差別の禁止が法律に明記されるべきである。


(2)無償労働(アンペイドワーク)


A 結論と提言


1)政府(経済企画庁)が、「無償労働の貨幣的評価」を行ったことは、ナイロビ将来戦略(120項)、「西暦2000年に向けての婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略の実現に関する第1回見直しと評価に伴う勧告及び結論」(勧告5項)、北京行動綱領(156項、165項(g))等の無償労働の経済的・数量的評価の取り組みの一環であるもので、評価できる。
すなわち、家庭や地域において欠くことのできない労働を、女性が無償で担ってきたことを貨幣数量的に把握しようとしたのである。


2)しかしながら、この評価は、算定対象となった労働項目が、炊事、洗濯などの家事、介護・看護、育児、買い物、ボランティア活動の5項目のみに限定しており、女性が担っている数多くの労働項目を網羅するものではない。すなわち、労働、農・漁村における自営業世帯の女性の労働などが、全く捉えられていない。
今後は、このような分野の女性の有償、無償労働の実態の貨幣評価調査を実施すべきである。


3)政府は、無償労働の貨幣評価を把握するのみではなく、その結果を今後の女性の経済的、社会的地位の向上のための政策に反映させるべきである。


C 第4回政府報告書の記述


1996年における無償労働の貨幣評価額は、総額116兆円であり、国内総生産比23%となった。このうち女性が行った無償労働の評価額は、98兆円で総額の85%を占めている。
無償労働の一人当り年間評価額は、女性は180万円で、男性の35万円の5倍になっている。


D 日本政府の対応と日弁連の意見


前述のように、政府は、無償労働の数量的把握を家事、育児、介護、看護等に限定しているが、それは国際的な動向からかけ離れている。北京行動綱領では、「無償労働、殊に扶養家族の世話における労働及び自営農業または家業のための無償労働のタイプ、程度及び配分を調べ、よりよく理解するための取り組みを通じて、労働と雇用に関する、より包括的な知識の開発に努めること」(165項(g))とされている。


第11条2(c)

(1)育児・介護期における条件整備の充実


(2)子育て支援対策の充実


(3)職業生活と家庭生活との両立支援事業


A  結論と提言


(1)育児休業・介護休業に関して、


【1】休業者の所得保障を60%以上とする(現状25%)。


【2】休業者の代替要員の確保を使用者に義務づける。


【3】休業後の原職復帰を原則とする。


【4】休業後の職場復帰に向けた職業能力の維持・向上の為の措置の義務付け


【5】一切の不利益取扱の禁止規定の明定(現状は解雇禁止のみ)


【6】実効性を確保する手段(制裁等)の明定


【7】育児・介護を援助する公的施設の拡充


【8】労働時間短縮型休暇制度の義務付けと労働者の選択権の保障


【9】必要に応じての断続的介護休業の取得


(2)家庭責任を有する労働者に対する労働免除制度に関して、


【1】免除対象労働に深夜業のほか、時間外・休日労働の追加


【2】対象期間を小学校卒業まで


【3】適用除外規定・免除の申し出期限の撤廃


【4】子どもの傷病看護休暇の法制化


C 政府の対応と第4回政府報告書の記述


(1)育児・介護期における条件整備の充実


(2)子育て支援対策の充実


(3)職業生活と家庭生活の両立支援事業


D 日弁連の意見


(1)育児・介護期における条件整備の充実


育児休業中の所得保障が25%と低額であり、男女の賃金格差の著しい現状では、夫婦の収入合計に多大な影響があるため、女性のみが育児休業を取得している。これは男女役割分担を経済面から固定・助長させている(1999年10月の調査で、男性は0.42%しか取得していないのに対し、女性は100人以上の規模では70%以上が取得している。)。現在、国は、男性の育児休業の取得を40%まで増加させる方針(法案審議中)であるが、現状の賃金格差を前提とする限り、男性の収入の60%以上が確保されてはじめて、夫婦の収入合計が休業前の75%程度を確保できることになり、所得保障を60%以上とすれば、経済面からも男性の休業が現実の選択肢としてなり得る。
勤務時間短縮型の休業は、仕事を中断せずに継続できるため、職場復帰の困難な問題がなく、所得への影響も少なく、夫婦が交代して取得するなど男女の家庭責任の分担もしやすいため、全日休業型のみでなく、勤務時間短縮型の措置をも使用者に義務づけ、労働者の選択権を保障すべきである。
介護休業に関して、現状の規定では、期間は連続する3カ月に限られ、同一理由では一回しか取得できない。しかし終末期での介護は、3カ月で足ることはむしろ稀であり、期限の見通しが困難であることが多く、介護休業期間終了時に要介護状態が続くため、職場復帰をあきらめて退職せざるを得なかったり、復帰の結果、一番必要な最後の看取りができなくなることも少なくない。これでは、雇用の継続と家庭責任の調和という介護休業の趣旨が達成できない。介護休業は、必要に応じて断続的に取得し、また、労働時間短縮型も選べることを使用者に義務づけして、被介護者の症状や周囲の条件に応じた弾力的な活用ができるようにし、少なくとも合計1年間に相当する労働時間分を取れるようにすべきである。
小学校就学前の子を養育する家庭責任を有する労働者に対する労働免除制度は、現状は深夜業のみである。しかし、時間外・休日も、本来児童が家庭にいる時間であり、家庭責任との調和のため、範囲を拡大すべきである。養育児童の年齢についても、ひとりで留守番をさせても問題の少ない時期まで拡大すべきであり、少なくとも、小学校卒業までとすべきである。また、労働の免除制度は、子の監護の必要に対応するものなので、子の福祉を第一とし、適用除外規定や免除の申し出期限(1カ月前)は、原則として廃止し、臨機に対応できるものとすべきである。
養育する子が熱を出した時などの、家族の傷病看護は、特に子育期の夫婦にとって深刻な問題である。緊急の病児保育等がほとんど期待できない現状において、女性労働者は、子育て期の「子どもを理由によく休む」ことがあり、それを理由に採用を敬遠され、休みのとりやすいパート・アルバイトなど、低賃金・不安定雇用を選択せざるを得なく、家族看護は、女性の労働権に多大な影響を与えてきた。このため、家族看護休暇は、育児休業・介護休業と並んで三本目の柱として法制化すべきである。
なお、育児・介護について、これを労働者の個人の負担とせず、社会全体で負担するため、保育園・学童保育所・特別養護老人ホームその他の養護施設などの公的施設・サービスの一層の充実を図るべきである。


(2)子育て支援対策の充実


厚生労働省の2000年4月統計調査では、保育所利用児童数は1、736、000人(前年より53、000人増)、待機児童数は33、000人(前年より700人増)となっており、潜在需要を考えると推定待機児童10万人とも言われており、この解消が緊急の課題である。
政府は、男女共同参画会議の「仕事と子育ての両立支援策に関する意見」(2001.6.19)を受けて、2004年(平成16年)までに15万人の受け入れ児童数の増大を目標としているが、新設保育所については、学校の空き教室等既存の公的施設や民間施設を活用し、運営は企業・NPO等民営で行うことを基本とし、最小コストで最大の受け入れの実現を図るとしている。
しかし、急激な増加計画と、最小コストで最大の受け入れの実現という目標は、保育所の定員の弾力化や設置基準の規制緩和、公立保育所の運営の民間委託などとセットで計画されている。民間ベビーホテルにおける多数の園児死亡事件が発生しており、民間委託は、利益優先の経営による保育の質の低下のおそれがある。
保育は、児童の精神・身体に直接かかわるものであるだけに、公的保育が基本であり、安易な基準の緩和や公的責任を不明確にする民間委託によるべきでない。


第11条2(d)

(1)「母性保護」(妊産婦に対する保護)


A 結論と提言


1)法律上に規定されている妊産婦に対する危険有害業務の就業制限の規定については、技術革新に応じ見直すべきである。


2)現行法上の規定は、条約上不備である。


【1】産前休暇は、強制休暇とすべきである。


【2】産前8週、産後10週とすべきである。


【3】産前・産後の休暇、及び妊娠障害休暇については、健康保険により100 %の所得保障とすべきである。


C 日本政府の報告


均等法上の保健指導または健康診査を受けるための必要な時間の確保は、1997年の改正で、事業主の努力義務規定から義務規定とした。また、多胎妊娠の産前休暇を産前10週から14週に改めた。


D 日弁連の意見


1)従来、女性及び妊産婦に対して、禁止されていた危険有害業務は、産婦について大幅に規制を緩和した。たとえば、「高さ5メ-トル以上の場所で墜落により危害を受けるおそれある業務について」などの場合も、産婦は拒むことができない。少なくとも産婦の場合は、妊娠中の女性が禁じられている危険有害のおそれある業務について、本人の意思を確かめるべきである。
また、技術の進歩や有害物質の発生に伴い、危険・有害業務の就業制限について、絶えず研究していかねばならないが、国は、このような機関を設けていない。


2)ILOでは、2000年6月、1952年母性保護条約(改正)に関する改正条約(183号)と改正勧告(191号)を採択した。これによれば、出産休暇は、条約では、14週を下回らないこと、勧告では、最低18週とある。日本の場合は産前6週、産後8週である。女性の健康上、産前8週、産後10週とすべきである。
条約は、「金銭給付は、本人及びその生児が、適切な健康状態及び妥当な生活水準を確実に維持できる水準としなければならない。」「従前の所得の3分の2を下回らないこと」、勧告は、「満額」としている。またその他の条約、勧告ともに、医療給付を給付されねばならないとする。日本は健康保険で、60%の金銭給付がされているだけである。十分な金銭、医療保障がなければ、女性は安心して出産できない。金銭給付の満額、医療給付の無償を確立すべきである。


12 第12条

A 結論と提言


1)女性の性的自己決定権確立のための法制度の整備を図るべきである。特に、堕胎罪を刑法から削除すること、強姦罪成立のために、女性の強度な抵抗を要件とすることを改めるべきである。また、司法における男性のパートナーに対する性交要求権という概念を廃止すべきである。


2)女性が子どもを産み、育てる意識を持つことを奨励する方向での法律の制定をやめるべきである。それよりも、子どもを産み、育てやすい社会基盤の充実を図る方向での法律を制定すべきである。


3)生殖補助医療・出生前診断等、いまだ国民の間の議論がまとまらない事項については、十分な議論を経て法制化がなされるべきである。その際、医師のインフォームド・コンセントを十分確保するとともに、国民全体への知識の普及に努めるべきである。


B 国際人権(自由権)規約委員会「最終見解」(1998年11月5日)


委員会は、日本の裁判所が性関係の強要を含む家庭内暴力を結婚生活における通常のでき事だと考えているように思われることについて心配する。


C 政府の対応と第4回政府報告書の記述


現在の問題点が示されておらず、今後行うべき課題とそれに対する取り組みの姿勢にかける。政府の対応は、新たな制度等について述べられているだけで、それらの制度がどの程度実効的で利用しやすいものであるか、一部の国民のみならず全国民を対象にしているか、適切な規模の予算が講じられているか等、制度の実態が記載されていない。


D 日弁連の意見


1)はじめに


【1】政府報告書は、女性の性の自己決定権について、何ら記述されていない。日本は、いまだ女性の性の自己決定権が確立されていないと言える。特に、男女が婚姻関係にある場合には、夫には「性交要求権」があり、妻はこれに応じる義務があり、任意の合意がなくとも性交渉ができるとするのが一般的な裁判例である。婚姻が破綻して、夫婦である実質を失った場合に、ようやく性交渉を要求する権利と受け入れる義務がなくなることになる。このような考え方が、裁判はもちろん、法律の解釈としても広く認められているので ある。
従って、当連合会は、国際人権(自由権)規約委員会が最終意見において、「日本の裁判所が性関係の強要を含む家庭内暴力を結婚生活における通常のでき事だと考えているように思われることについて心配する」と述べたことに同調する。
強姦の成立要件としての「暴行・脅迫」の認定においても、「ある程度の有形力の行使は、合意による性交の場合でも伴う」から、強姦と言えるためには「反抗を著しく困難にさせる程度」の暴行・脅迫が必要であるとして、強姦の解釈を非常に狭くしている。
更に、強姦及び強制わいせつ事件を審理する場合には、被害者である女性の過去の男性関係が問題にされたり、女性の側の落ち度が非難されることも多く、女性の性的自由よりも「貞操」に重きがおかれていると言わざるを得ない状況にある。


【2】他方では、刑法上はいまだに堕胎罪が存在しており、母体保護法が合法的 中絶の範囲を定め、中絶はいまだ構成要件に該当する行為なのである。しかも、母体保護法を改正して、中絶可能な範囲を縮小しようとする動きがある。更に、少子化に歯止めをかけるため、「子育てに夢を持つことを国民の責務とする」などと規定される少子化対策基本法の制定の動きもあり、女性に子どもを産ませる意識を持つことを奨励する方向での法制度づくりが進んでいる。これは、子供を産む・産まない、いつ、何人産むかを女性の自主的な選択に委ねようとするカイロ会議での合意に逆行するものと言える。


2)妊娠と出産に関するサービスの提供


【1】出産は、正常な場合健康保険が適用されず、費用は自己負担となっている。その費用は、おおよそ30万円から50万円程度であり、非常に高額である。
広く健康保険制度が発達している日本において、正常出産のみを病気ではないとして保険制度から排除することの是非が検討される必要がある。


【2】生殖補助医療は、法的規制のないまま行われてきたが、昨年12月に「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が成立した。しかし、この法律は、主としてクローン技術についてのものであり、直接生殖補助医療を規定するものではない。現在、生殖医療技術の利用に対する法の制定準備作業が進められているが、いまだ国民の間で十分な議論がなされないままである。生殖補助医療は、不妊原因が男性にあっても女性が治療の対象になり、女性に対するインフォームド・コンセントやカウンセリングは欠くことのできないものである。特に、日本の女性に子どもを産むことを求める家族・親族・社会の圧力の存在が否定できない社会においては、生殖補助医療の選択の幅を広げることが、逆に女性に産むことを強制する風潮になりかねない。また、卵子提供やシェアリングにおいては、女性が「卵子の提供者」の地位におとしめられることのないよう、十分な配慮が求められる。


【3】出生前診断


女性の妊娠・出産に関し、出生前診断は重要な問題であるにも関わらず、全国的な調査は何らなされていない。


a.出生前診断の拡大


1960年代後半頃から羊水診断が導入されたが、急速な診断技術の開発 により、診断治療できる疾患の種類は増加の一途をたどり、染色体異常や外 見的な障害はもとより、内部疾患、遺伝子レベルまで診断可能になっている。 当初、診断対象は高齢者や既に障害児を出産したことがある妊婦等に限られ ていたが、超音波診断や母体血マーカーテスト等比較的負担のかからない診 断方法の普及により、対象が不特定多数の全妊婦に拡大されようとしている。


b.新たな診断法-受精卵診断


更に、受精卵の段階で障害の有無を選別する着床前診断も承認されるに至った。これは、中絶を避けようと1990年にイギリスで開発され、体外受精における卵または初期胚の遺伝情報を子宮に戻す前に検査する方法である。日本では、1998年6月、産科・婦人科学会理事会で承認された。体外受精・胚移植を受けることが前提となっているので、そこで多量の排卵誘発剤が投与され、その副作用等から女性の心身への影響、過重な負担が問題とされている。


c.出生前診断の問題点 …… 障害児の排除・差別


出生前診断は、障害児を排除・差別し、優生思想につながるものである(女性は「健康児」を産むものであるとの女性差別にもつながる。)との批判に対しては、「女性の自己決定権を尊重すべきである。出生前診断を受けるか否か、障害があった場合どうするかは、当の女性(カップル)の選択である」等の反論がある。
しかし、自己決定等と個人責任に転化する前に、国は、障害者が生きやすい環境を作っていないこと、障害者に対する偏見を問題とすべきである。そのような環境で中絶という「自己決定」に追い込まれる女性も存在するのが現状である。


3)周産期医療の充実 現在、小児科医療は、「小児医療体制の崩壊につながりかねない」と厚生労働省の「健やか親子21検討会」の報告書でも指摘されるとおり、危機的状況に直面しようとしている。1990年には全国で4118カ所あった小児科病院の数が、1999年には3528カ所に減っており、小児科医の不足が深刻となっている。更に乳幼児用の入院施設のある病院の不足も目立ってきている。
これらは、乳幼児の診療には手間がかかること、薬の使用が多いほど医師の収入が増えるような制度になっていることから、薬を使う回数・量が少ない小児科医療は採算に合わないためである。このような薬や検査を偏重している診療報酬制度の改正が検討されるべきである。


4)家族計画


【1】リプロダクツ・ヘルス/ライツに関する教育について


すべての女性は、生涯を通じて、生殖系とその機能及びプロセスに関連したすべての事柄について、身体的・精神的健康を享受する権利を有している。
安全な母性、家族計画、HIV/エイズ及びその他の性感染症の予防・感染者のケア、妊娠中絶、避妊等、女性の健康にとって重要なことに関し、あらかじめ、女性自身が具体的で十分な情報提供を受けた上で、女性自身が自己の意思で決定することが重要であり、子どものころから、かかる観点からリプロダクツヘルス/ライツに関する教育を行うことが不可欠である。
日本においても、性教育の重要性が認識されるようになり、1999年(平成11年)に、文部省が「学校における性教育の進め方」を発表する等をしているが、一部の教育関係者が実践しているのみで、リプロダクツヘルス/ライツに関する教育は、極めて不十分な状況にある。


【2】1999年になり、日本でようやく低容量ピルの使用が認められるようになったが、医師によっては、さまざまな検査を受けなければ処方しない場合があり、費用も、これまでの中容量ピルよりも高く、女性が期待していたよりも使いづらい。そのため、女性が主体的かつ簡便にできる避妊手段とはなっていない。低容量ピルの安全性等使用に関する十分な情報が提供されていない。女性の選択の自由を実効あらしめるための情報提供が望まれる。


5)HIV/エイズ


政府報告書は、エイズの正しい知識の啓発・普及等に力を入れているとしているが、現実には前総理大臣自らが、2001年3月13日の地方での講演の際、過去の選挙で農村で選挙運動をしていると人が家に戻ってしまったことを表現して、「エイズが来たように思われた」と発言をしていることからわかるとおり、人々の偏見をなくし正しい知識を普及させるのには、まだまだ政府の認識は不十分である。


6)女性に特有な疾病に関する予防対策


実際に国、都道府県、市町村が実施している健康診断を利用している者が受診対象者にくらべ、少ない。従って、当該健康診断について広報の充実が必要である。企業の従業員に対する健康診断において、働く女性の増加に考慮して、婦人科健診を対象とするよう、政府が何らかの施策を講ずることも求められる。


13 第13条(a)

(2)児童扶養手当の支給


第13条(b)

(1)未婚の母に対する各種サービス


A 結論と提言


国及び地方公共団体は、未婚・既婚を問わず、すべての母親が安心して子どもを育てることができるために、必要にして十分なサービスの提供を検討すべきである。


C 第4回政府報告書の記述


62頁において、政府報告書の未婚の母に対する各種サービスの内容は、「事業開始資金等の低利または無利子での母子福祉資金貸付け」と「弁護士等の専門家による特別相談」を列挙するにとどまる。


D 日弁連の意見


政府の掲げる母子福祉資金貸付けは、低額であり、かつ、返済しなければならない。そのため、この制度は母子の経済的安定のために十分とは言えない。
相談事業についても、福祉事務所、母子相談員や民生委員が窓口となっているが、どのような手続きで専門相談を受けることができるのか明らかではない。
子どもを持つすべての母親が、経済的、精神的、身体的問題について総合的に相談し援助を受けることのできる仕組みについて検討されるべきである。


14 第14条1

A 結論と提言


性差別意識と慣行は改善されつつあり、政策決定への女性参画も進みつつある。しかしながら、なお農村における男女平等には、ほど遠い現状にある。
よって、農村女性の権利を守り平等を実現するには、個人の尊重と労働者の権利保障の視点から、自営業をめぐる税・社会保障・労働条件・労働環境等あらゆる問題を検討し、制度改革を含む抜本的施策を構じるべきである。


C 政府の対応と第4回政府報告書


食糧・農業・農村基本法の制定など
政府は、1999年7月、食糧・農業・農村基本法を制定し、「女性の参画の促進」条項を設け、女性の役割の適正評価と女性が活動できるための環境整備をうたっている。


D 日弁連の意見


政府の積極的取組みにより、多くの成果をあげているものの、農村女性の現状は、いまなお男女平等にはほど遠い。
農村女性の多くは、農業労働に従事しながら、労働基準法の適用を受けないなど、労働者としての権利が保障されていない。また、共同経営者として農業労働に従事していても、税制における「一世帯一事業主の原則」により、共同経営者として処遇されず、国民健康保健においても個として権利が確立されていない。
これらは、農村女性に限らず自営業に従事する女性に共通する問題である。
よって、自営業に従事する女性の問題を個人の尊重と労働者の権利保障の視点から、税、社会保障、労働条件、労働環境など総合的に検討し、抜本的対策を構じるべきである。


15 第16条

(1)民法改正の検討


A 結論と提言


身分法における男女平等を実現するために、早急に次のとおり民法を改正すべきである。


1)婚姻年齢に男女の差を設けず、男女とも18歳とする。


2)再婚禁止期間の規定を廃止する。


3)財産分与につき、原則として2分の1という基準を明記する。


4)養育費につき、非親権者も未成年子に対し養育費負担義務あることを明示し、養育費の履行を確保する制度を創設する。


5)嫡出否認権は、妻および子本人にも認める。


6)非嫡出子の相続分差別を撤廃する。


7)夫婦の氏につき、同氏の強制を廃し、選択的夫婦別姓制度に改める。


C 政府の対応と第4回政府報告書の記述


法制審議会は、1996年2月に法務大臣に対し、男女平等に関連する『民法の一部を改正する法律案要綱』を答申したが、いまだ国会において審議されていない。


D 日弁連の意見


現行民法には、男女の性別役割分担思想、封建的思想が根深く残されており、それが女性差別意識を温存させ、個人の尊重と両性の実質的平等の実現の妨げの原因となっている。
条約16条1項に則り、すみやかに現行民法を次のように改正すべきである。


1)婚姻年齢


婚姻年齢は男女とも18歳とする。
男女とも等しく働く権利・教育を受ける権利を保障していく観点から、男女の婚姻年齢に差を設ける合理的根拠はない。また、我が国の平均初婚年齢や高校進学率・就職率に鑑み、社会的・経済的に自立可能な年齢として男女とも18歳が妥当。


2)再婚禁止期間


女性のみ再婚の自由を制限する「再婚禁止期間」は廃止すべきである。
父性推定の重複を避けるという観点からは、出生した子は後夫の子と推定する方が再婚の実態にかなう。


3)財産分与


離婚における実質的な男女平等の実現を図り、離婚給付の充実と履行の確保をするため、財産分与は原則として2分の1という分与基準を明記する。
対象財産に年金・退職金などの将来財産も含ませるべきである。
補充的に一定期間離婚後補償(扶養)を認めるべきである。


4)養育費の支払い


現行民法・人事訴訟法等には、離婚にあたり非親権者の未成年子に対する養育費負担義務を明示した規定や、養育費の履行確保に適した特別の措置は定められていない。
離婚において、未成年子の80%が親権者を母としていること、母子世帯の収入が極めて低いこと、父からの養育費の支払いがあてにならないこと等から民法等の諸規定を、次のように見直すべきである。


【1】 非親権者も未成年子に対し、養育費負担義務のあることを明文で規定する。


【2】 協議離婚及び離婚判決に際して、養育費の額及び支払方法の定めをする。


【3】 「養育費支払命令制度」「給与天引制度」「養育費立替払制度」を新設し て、養育費の履行を確保する。


5)嫡出否認


嫡出否認権は、妻にも、子本人にも認めるべきである。
現行民法は、夫にのみ子の嫡出否認権を定めているが、これは条約16条1項(d)の子に関する事項についての親としての同一の権利及び責任に違反する。


6)非嫡出子差別


民法900条4号但書の非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定は、すみやかに廃止すべきである。
わが国の非嫡出子に対する法制度は、国際人権(自由権)規約24条1項にいう「出生による差別」に該当し、早急に改められるべきである。


7)夫婦の氏


民法750条による婚姻の際の同氏の強制を、同氏または別氏選択制に改めるべきである。
氏は、個人の呼称であり、個人の人格権の一内容をなす権利であるが、同氏の強制は婚姻に伴う改氏の強制に他ならず、人格権侵害である。
わが国では、婚姻夫婦の97.7%が夫の氏を称している実状にあり、婚姻による同氏の強制は、女性に対する改氏の強制になっている。
改氏の強制により、婚姻した女性は様々な社会生活上の不利益をも蒙っている。
また、改氏の強制は、婚姻の自由の障害にもなっている。
従って、同氏の強制は条約16条1項(g)に違反する。


(2)家庭内暴力


A 結論と提言


日本政府は、家庭内暴力(妻への暴力、子供への虐待等)について、実態調査を実施し、これが人権侵害であるとの意識喚起をし、人権教育等に取り組む。
被害者たる妻や子どもの救出、安全の確保を図るための公的緊急一時避難所の設置・完備をし、民間各種シェルターの財政的援助を実施する。また、自立援助やケア・システムを確立し、整備する。
DV法(2001年4月6日制定、同年10月から施行)を、被害者にとって使いやすい、また実効性あるものとするため、諸規定を整備し実施する。
虐待された子どもの早期発見・保護・リハビリテーション及び虐待する親へのケアについて、実効ある措置を講じるべきである。


C 政府の対応と第4回政府報告書の記述


夫婦間暴力については、警察で対応している。児童虐待については、警察が事件化を含め適切な対処を行い、関係機関と連携を図りながら被害少女の救出に努めている(65頁・66頁)。


D 日弁連の意見


当連合会は、家族の中での夫から妻への暴力、父母から子どもへの虐待などをなくすために1998年9月に、国及び地方公共団体に対する次のような決議を行った。


1)実態調査を実施し、人権侵害であるとの意識換気を図るべきである。


2)緊急暫定措置として、一時保護制度の対象者の範囲を広げ、被害者の安全確保に努め、民間シェルターの公的援助を実施すべきである。


3)被害者の救出を容易にし、ケアするための制度、妻への自立援助対策、父母の再教育制度を整備すべきである。
更に、当連合会(両性平等委員会)は、DV防止法案をまとめ、2001年3月3日に発表した。
日本政府は、2001年4月6日にDV防止法を制定したが、その内容は、肉体的暴力しか含まず、心理的暴力や性的暴力が含まれていないなど、当連合会提案のDV防止法案と比べ、必ずしも十分なものではない。
しかし、DV防止法として陽の目をみた以上、これを夫から妻への暴力の根絶、妻への救済のために実効的に活用させていくべきである。
また、3年後見直しされる予定であるが、その際には、より充実したDV防止法に改正すべきである。


第16条(2)

1)外国人に対する夫婦間暴力


A 結論と提言


外国人に対して入管法上付与される在留資格について、運用では、「配偶者としての活動」をしていなければならないと追加要求されているが、そのような形で在留資格を制限すべきでない


D 日弁連の意見


日本人の配偶者として在留資格を付与するに際して、法律で必要とされる以上に、運用では、「配偶者としての活動」を要求し、夫婦の同居などを求めている。こうした解釈により、外国人である妻は、夫の暴力を逃れたい思っても在留資格を保持するために別居をすることが困難な状況におかれ、生命の危険すら余儀なくされることがある。
外国人に対して、入管法上付与される在留資格について、運用に「配偶者としての活動」を追加的に要求することにより、在留資格を制限すべきでない。


以 上