市民的及び政治的権利に関する国際規約第40条1(b)に基づく第4回報告 (仮訳)

I 一般的コメント

 憲法を最高法規とする我が国法体系における人権擁護の制度的側面、及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約」と国内法規との関係については、第1回、第2回及び第3回報告で述べたとおりであるが、補足的説明は次のとおり。


日本国憲法における「公共の福祉」の概念

 憲法第11条は、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」と規定している。しかし、同時に、第12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」と、第13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定している。


 これは人権保障も絶対的で一切の制約が認められないということではなく、主として、基本的人権相互間の調整を図る内在的な制約理念により一定の制限に服することがある旨を示すものである。例えば、他人の名誉を毀損する言論を犯罪として処罰することは、行為者の言論の自由を制限することにはなるが、この制限は、他人の名誉権を保護するためにはやむを得ないことであり、「公共の福祉」の考え方により説明することができる。


 したがって、そもそも他人の人権との衝突の可能性のない人権については、「公共の福祉」による制限の余地はないと考えられている。例えば、思想・良心の自由(憲法第19条)については、それが内心にとどまる限り、その保障は絶対的であり一切の制約は許されないものと解されている。


 さらに、人権を規制する法令等が合理的な制約であるとして公共の福祉により正当化されるか否かを判断するにあたって、判例は、営業の自由等の経済的自由を規制する法令については、立法府の裁量を比較的広く認めるのに対し、精神的自由を規制する法令等の解釈については、厳格な基準を用いている。


 このように、憲法には、「公共の福祉」の内容を示す明文の規定はないものの、「公共の福祉」の概念は、各権利毎に、その権利に内在する性質を根拠に判例等により具体化されているから、「公共の福祉」の概念の下、国家権力により恣意的に人権が制約されることはあり得ない。


 確かに、B規約においては権利を制限できる事由が権利毎に個別的に定められているのに比して、我が憲法においては、条文の文言上は、「公共の福祉」により一般的に人権を制約することができる規定振りとなっている。しかしながら、右は単にその規定振りが異なるに過ぎず、制限の内容は、上記のとおり、「公共の福祉」の概念の具体化が図られることにより、実質的には、B規約による人権の制限事由の内容とほぼ同様なものとなっている。


 人権の制約が公共の福祉に基づくものとして許されるかどうかを判断するのに当たっては、各種の利益衡量が要求されるところ、右を判示した判例は、資料1のとおり。


本規約と憲法を含む国内法との関係

 憲法第98条第2項の趣旨から、我が国が締結した条約は国内法としての効力を持つ。なお、条約の規定を直接適用し得るか否かについては、当該規定の目的、内容及び文言等を勘案し、具体的場合に応じて判断すべきものとされている。B規約についても以上の考えと同様である。


 訴訟において原告側がB規約の条項を引用して争っている場合に、裁判所が国内の法律・規則・処分等の当該条項違反の有無を判示している例は、資料2に掲げるとおりであり、最高裁判所において法律・規則・処分等が規約違反とされたものはない。


されたものはない。  なお、憲法は我が国の最高法規であり、その効力はB規約の国内法的効力に優位するものと解されるが、上記のとおり、憲法による人権保障の範囲はB規約のそれとは、実質的にはほぼ同様なものであるから、両者の抵触の問題は生じないものと考えられる。


我が国の人権保障メカニズムの実態

(a) 人権擁護機関による人権保障

 行政府にあって人権擁護を直接の目的としている人権擁護機関の仕組みは、第2回報告別添1.に記したとおりであるが、人権擁護機関による「人権相談」及び「人権侵犯事件の調査・処理」の具体的方法については、以下のとおり


 なお、民間のボランティアである人権擁護委員の人数は、1996年1月1日現在、13,735名である。


(i) 人権相談

 人権相談は、常設相談所(法務局、地方法務局において常時開設)や特別相談所(デパート等において臨時に開設)で行っている他、人権擁護委員が自宅においても行っている。相談を受けた法務局職員や人権擁護委員は、問題を解決するための適切な手続きを助言したり、人権侵犯事件の調査手続きに切り替えたり、その問題を取り扱う関係官公署を紹介するなど、相談内容に応じた援助を行っている


(ii) 人権侵犯事件の調査・処理

 人権侵犯事件の調査・処理にあたっては、まず、人権擁護機関が関係者からの申し出を受けたり、新聞等や官公署からの通報により人権侵害の疑いのある事実を知った時に、侵害事実の有無についての調査を行い、その結果、法令に違反した行為、または、それにとどまらず、広く憲法等の基本原則たる人権尊重の精神に反するような行為が認められた場合に


(a)人権侵害を行ったと認められる者やその者を指導、監督する立場にある者に対して、 刑事訴訟法の規定により告発する 文書で人権侵犯の事実を摘示して必要な勧告を行うその問題を取り扱う関係官公署に文書で人権侵犯の事実を通告する 反省を促し善処を求めるため、口頭または文書で事理を説示する


(b)被害者に対し、関係官公署へ連絡を取り、法律扶助機関へ斡旋し、法律上の助言をする等の援助を行う


(c)関係者に対し、勧奨、斡旋その他人権侵犯を排除するための適切な措置を採る、 など事案に応じた適切な措置を採る。


 この人権侵犯事件の調査・処理は、その過程において、関係者に人権尊重の意識を啓発することにより、人権侵害の状態を自主的に排除させたり、既に人権侵害行為が行われてしまっているような場合には、将来の再発を防止させることによって、被害者の救済を図っている。人権侵犯事件の調査・処理が、受け入れられるか否かについては、最終的には当該人の意思に係ることになるが、同処理措置は、そもそも具体的権利の存否を公権的に確定したり、強制力によって侵害を排除することを目的としているものではなく、関係者に人権意識を啓発することにより、人権侵害を自主的に排除させたり、将来の再発を防止することを目的としているものである。人権擁護機関は、関係者に対して粘り強く啓発を行い、侵害の排除や再発の防止に役立っており、更に、一般社会に対しても啓発を行い、相応の効果を挙げている。


(iii) 子どもの人権専門委員

 人権擁護機関では、従来から、「いじめ」、体罰、不登校児などの子どもの人権問題に積極的に取り組んできたところであるが、1994年度から、子どもをめぐる人権問題により適切に対処するため、人権擁護委員の中から子どもの人権問題を専門的に取り扱う「子どもの人権専門委員(子ども人権オンブズマン)」を指名する制度を設けた。1996年1月1日現在、全国で515名の「子どもの人権専門委員」が指名されており、次代を担う子どもの人権擁護をより一層積極的に推進していくため、子ども及びその保護者等を対象とした講演会、座談会等を開催するなど活発な活動を行っている


(b) 人権教育10年の取り組み

 1994年の第49回国連総会において、1995年から10年間を「人権教育のための国連10年」とする旨の決議が採択された。


 この「人権教育のための国連10年」に係る対策について、関係省庁が緊密に連携・協力し、政府一体となった取組を推進するため、1995年12月、閣議決定により「人権教育のための国連10年推進本部」を設置し、その後、関係省庁間で我が国としての取組について検討を行ってきた。1996年3月18日には、同推進本部の第1回会合を開催し、「人権教育のための国連10年」に係る取組を積極的に推進していくことを確認した。


 当面、人権についての教育・研修・啓発活動の推進などを内容とする国内行動計画を早急に策定し、「人権教育のための国連10年」に係る取組を積極的に推進することとしており、現在、関係省庁間で国内行動計画の内容等について検討中である。


II 規約の各条に関する逐条報告

 規約の各条に関する報告については、第1回、第2回及び第3回報告で述べたとおりであるが、その後の変更点及び補足的説明は次のとおり。


第1条

アパルトヘイト政策

 我が国は、これまで一貫してアパルトヘイトの撤廃を求めてきたが、南アフリカ共和国では1990年以降アパルトヘイトの完全撤廃に向けた国内改革が進展し、1994年4月に南アフリカの歴史上初めて黒人を含む全人種参加の下で総選挙が実施され、アパルトヘイト政策に終止符が打たれたことを歓迎するものである


 南アフリカ共和国の国内改革の進展を踏まえ、我が国は1991年6月に人的交流規制の緩和、同年10月に経済規制措置の緩和を実施。更に1992年1月外交関係を再開し、1994年1月には残存経済規制を撤廃した。


 我が国は、南アフリカ共和国が和解の精神と対話により平和的に新体制へ移行した成功例であり、また、その安定と発展はアフリカ全体の発展にとり重要であるとの観点から、責任ある国際社会の一員として同国に対する支援を強化することとし、1994年7月に2年間で総額13億ドル(政府開発援助3億ドル、日本輸出入銀行の融資5億ドル、貿易・海外投資保険のクレジットライン設定5億ドル)の対南ア支援策を発表した。右は現在執行中であるが、今後とも同国の国づくりを積極的に支援していく所存である。


第2条

外国人問題

(a) 在日韓国・朝鮮人
(i) 外国人登録法上の指紋押なつ

 外国人登録法による指紋押なつ制度は、人物の同一人性を確認する上で極めて確実な手段として 「在留外国人の居住関係及び身分関係を明確にする」という外国人登録制度の基本目的のために登録の正確性を維持するとともに登録証明書の不正使用や偽造を防止することとしたものであるが、「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定」に基づく日本政府と韓国政府との間の協議の決着の際に両国の外務大臣が署名した覚書において、指紋押なつに代わる手段をできるだけ早期に開発し、これによって在日韓国人三世以下の子孫(同協定第2条で規定)はもとより、在日韓国人のー・二世についても指紋押なつを行わないこととする旨が盛り込まれた。


 以上のような経緯を踏まえ、指紋押なつに代わる手段を中心に制度改正について検討を進めてきた結果、日本社会において長年にわたり生活し、日本への定住性を深めた永住者(出入国管理及び難民認定法に規定する「永住者」の在留資格をもって在留する者)及び特別永住者(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法に規定する「特別永住者」。いわゆる「在日韓国・朝鮮人」はこれに当たる。)については、鮮明な写真、署名及び一定の家族事項の登録という複合的手段をもって指紋押なつに代え得るとの結論に達したため、これらの外国人については指紋押なつを廃止し、上記手段によりこれに代えることを主な内容とする外国人登録法の一部改正が行われた。同改正法は、1992年6月1日に公布され、1993年1月8日から施行されている。


(ii) 外国人登録証明書の携帯義務

 外国人は、日本国民とは異なり、日本国内に在留するためには、日本国政府の許可を必要とし、かつ在留できる期間及び在留活動について制限を受ける立場にある。外国人登録証明書の携帯制度は、そのような日本国民とは基本的に異なる地位にある外国人の身分関係及び居住関係を現場において即時に確認する手段を確保するために設けられているものであり、また、その実効性を担保するために、義務違反に対しては罰則(20万円以下の罰金)が定められている。ただし、同罰則規定により司法警察員から検察官に事件送致された人員は過去3年間(1992年から1994年まで)は、いずれも20人未満で推移しており、外国人の在留状況を考慮した常識的かつ弾力的な運用がなされている。


 なお、外国人登録証明書の携帯制度の在り方も含めて、外国人登録制度の抜本的な見直しについて現在日本政府において検討が行われているところである。


(iii) 韓国・朝鮮人学校児童・生徒に対する各種定期乗車券の割引

 JR(旅客鉄道会社グループ、旧国有鉄道)の通学定期制度については、学校教育法の規定に基づく学校種別に従い、大学生に対する基本運賃を定めるとともに、小・中・高校生については、更に割引を行っていたが、教育法上の専修学校・各種学校については、JRが指定した学校の生徒について大学生と同額の運賃が適用されてきた。


 この適用に関し、将来的には、他の民間鉄道と同様の大人と小児の区分だけの通学定期制度に改めることを基本としているが、その時期が明確でないことから、これまでの要望を踏まえ、専修学校・各種学校について暫定的な措置を検討するようJRに対して要請を行った。


 これを受け、1994年4月からは、専修学校・各種学校の小・中・高校生に相当するとJRが判断した課程の生徒等について、それぞれ小・中・高校生を対象とした通学定期運賃の割引適用が行われることとなり、その結果、各種学校としてJRが指定した韓国・朝鮮人学校の通学定期制度についても改善がなされたところである。


(iv) 朝鮮人学校児童・生徒に対する暴行事件に対する対応

 1994年の春から夏にかけて、我が国において発生した、在日朝鮮人児童・生徒に対する嫌がらせや暴行事件等の事象に関し、法務省の人権擁護機関においては、在日朝鮮人児童・生徒が多数利用する通学路、利用交通機関等において、このような事件の防止を呼びかけるリーフレットの配布やポスターの掲示、外国人に対する差別や嫌がらせをなくすためのスローガンを掲げた街頭啓発活動を積極的に実施するとともに、これらの活動を通じて、在日朝鮮人児童・生徒に対し、嫌がらせ等を受けたときには、法務省の人権擁護機関に相談するよう呼びかけを行った。


 法務省の人権擁護機関においては、このような事象の発生を根絶するために、在日外国人の人権尊重の意識を国民の間に根付かせ、差別や偏見をなくすための取組を展開することとしている。


(b) 外国人労働者(不法就労のケースを含む)
(i) 外国人労働者の受入れ

 外国人労働者の受入れ問題については、第3回報告記載の政府の基本方針たる「第6次雇用対策基本計画」に従い、1989年に出入国管理及び難民認定法を改正して、専門的な技術、技能、知識等をもって我が国で就労しようとしている外国人については幅広く受け入れることができるように在留資格の整備を図った


 また、その後の政府の基本方針として、1995年12月に閣議決定された「第8次雇用対策基本計画」においても示されているとおり、「我が国の経済社会の活性化や、国際化を図る観点から、専門的、技術的分野の労働者については可能な限り受け入れることとし、我が国経済、社会等の状況の変化に応じて在留資格に関する審査基準を見直す。一方、いわゆる単純労働者の受入れについては、雇用機会が不足している高年齢者等への圧迫、労働市場における新たな二重構造の発生、景気変動に伴う失業問題の発生、新たな社会的費用の負担等我が国経済社会に広範な影響が懸念されるとともに、送り出し国や外国人労働者本人にとっての影響も極めて大きいと予想されることから、国民のコンセンサスを踏まえつつ、十分慎重に対応する。」としている。


(ii) 職業紹介体制等

 職業安定法においては、職業紹介、職業指導等について国籍を理由とする差別的取扱いを受けないことが規定されている(同法第3条)ので、我が国で就労可能な外国人についても、日本人と同様に職業紹介等を行うこととしている。ただし、求人・求職の内容が法令に違反するときは、その申込みを受理しないこととしており(同法第16条、第17条)、入管法上不法就労に当たるような職業紹介は行っていない。


 外国人労働者に対する職業紹介体制を強化するため、主要な公共職業安定所に1989年度から外国人労働者専門官を配置するとともに、1992年度から外国人雇用サービスコーナーを順次開設している。また、東京都に1993年度から外国人雇用サービスセンターを設置したところである。


 事業主に対する取組みとしては、1993年度に策定された外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針に基づき、外国人労働者の雇用管理の改善指導を進めている。


(iii) 警察による取締り

 警察では、第3回報告記載の諸法令を適用して、ブローカー、暴力団関係者、悪質な事業主等を積極的に取り締まっている。また、関係行政機関との間で連絡会議を定期的に開催するなどして情報交換を行い、政府関係機関が密接に連携してその取締り等を行っている。他方、関係外国政府に対しても、情報を提供するなどして取締りを求めている。


 なお、出入国管理及び難民認定法に関する補足説明は以下のとおり。


 事業活動に関し外国人に不法就労活動をさせた者(第73条の2第1項第1号)、外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者(同項第2号)、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあっせんした者(同項第3号)は処罰される。


(iv) 我が国で単純労働に従事する意図を有する外国人

 第3回報告で述べたとおり、我が国で単純労働に従事する意図を有する外国人については、原則として入国を認めていない。なお、既に入国し入管法に違反して不法に就労している者については、その人権に配慮しつつ、原則として国外に強制退去することとしている。


 外国人不法就労者の問題については、国内の労働市場や賃金などの労働条件に影響を与えるなど、労働行政としても放置できない問題であり、政府としては、不法就労を防止するために、事業主に対する周知啓発、指導などを行っている。


 しかし、不法就労者数は、依然として高い水準で推移しており、特にここ数年間は外国人女性の不法就労者が増加している。就労内容別では、建設作業員及び工員等の第二次産業の業種が徐々に低下し、他の産業に不法就労者が流れ込んでいるものと思われるとともに、その就労期間が以前は1年未満であったものが全体の半数以上を占めていたが、近年では1年を超えるものが全体の70%を超え、不法就労の拡散化及び長期化という新たな問題が顕在化しつつある。また、これら不法就労者の入国・就労に関して、暴力団関係者及びブローカーの存在が依然として認められている。


(v) 法務省の人権擁護機関が外国人の人権擁護のために講じている措置

 法務省の人権擁護機関では、外国人の基本的人権を尊重し、外国人に対する差別をなくすため、積極的に啓発活動を展開している。啓発活動重点目標として、1988年度から1990年度にかけては「社会の国際化と人権」、1991年度から1993年度にかけては「国際化時代にふさわしい人権意識を育てよう」を定めたほか、毎年人権デーを最終日とする一週間(12月4日から12月10日まで)に実施している「人権週間」の強調事項の一つとして、1988年以来「国際化時代にふさわしい人権意識を育てよう」を掲げ、全国的にこの問題に関する啓発活動に取り組んでいる。


 また、基本的人権の侵害が具体的に起こった場合には、人権相談及び人権侵犯事件の調査・処理を通じて在日外国人の人権の擁護を図るとともに、そのような事例の再発防止に努力している(人権相談及び人権侵犯事件の調査・処理の概要については、第Ⅰ部参照。)。


 外国人に対する人権相談については、1988年にまず東京法務局に相談所を開設し、その後、大阪法務局、名古屋法務局、広島法務局、福岡法務局、高松法務局及び神戸地方法務局においても開設している。


(vi) 在留資格、外国人登録、家族の呼び寄せの手続きについて相談できる機関の概要

 第3回報告で述べたとおり、1990年7月に東京入国管理局内に、外国人及びその在日関係者のために、外国語を解する専従の専門相談員が、土曜・日曜・祝祭日を除く毎日、面接又は電話による入国・在留に関する諸手続等にいての問い合わせに応じる「外国人在留総合インフォメーション・センター」を開設した。


 同インフォメーション・センターは、現在東京入国管理局のほか、大阪入国管理局、名古屋入国管理局、福岡入国管理局及び東京入国管理局横浜支局にも開設している。


 また、このようなインフォメーション・センターが開設されていない地方入国管理局・支局・出張所においても、相談窓口が設けられており、同様の案内を行っている。


(c) 社会保障

 我が国の社会保障制度は、1981年に「難民の地位に関する条約」に加入したこともあり、我が国に適法に滞在する外国人については、基本的には内外人平等の原則に立って適用されることとしている。


(i) 公的医療保険、公的年金

 我が国において、一定の事業所で常用的雇用関係にある外国人については、我が国の国民同様、健康保険・厚生年金保険などの公的な職域医療保険・年金に加入することになる。また、それ以外の者であって我が国に住所を有すると認められる者については、国民健康保険・国民年金の適用対象となる。


(ii) 生活保護

 生活保護は、生活に困窮する日本国民に対し、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長する制度である。但し、永住者等については予算措置として法を準用し、日本国民と同様の要件の下で同様の給付が行われている。


障害者施策

 我が国の障害者施策については、1981年の国際障害者年のテーマである「完全参加と平等」の実現を図るため、1982年に策定した「障害者対策に関する長期計画」を通じ近年その着実な推進を図ってきた。さらに、「国連・障害者の十年」以降の障害者施策の在り方について検討が行われ、1993年3月、リハビリテーションとノーマライゼーションの理念の下、2002年までの障害者施策の基本方針として「障害者対策に関する新長期計画」を策定した。さらに、このような障害者を取り巻く社会情勢の変化等に対応し、障害者の自立と社会参加を一層促進するため、1993年12月に「障害者基本法」が成立し、1994年より「障害者のために講じた施策の概況に関する報告書(障害者白書)」を国会に報告することとなった。


 1995年12月には、「障害者対策に関する新長期計画」の具体化を図るための重点施策実施計画として、「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~」(1996年~2002年)を策定した。同プランは、数値目標を明記し、以下の7つの視点からその推進を図ることとしている。


(a)地域で共に生活するために


(b)社会的自立を促進するために


(c)バリアフリー化を促進するために


(d)生活の質の向上を目指して


(e)安全な暮らしを確保するために


(f)心のバリアを取り除くために


(g)我が国にふさわしい国際協力・国際交流を


人権諸条約の締結

(a) あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の締結

 本条約における人種差別の扇動や同思想の流布に関する処罰義務と表現の自由等憲法の保障する基本的人権との関係を如何に調整するかなどの困難な問題につき慎重に検討した結果、我が国は、1995年12月15日に、人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布等の処罰に関する規定(第4条(a)及び(b))の定める義務について留保を付した上で、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約に加入した。


(b) 市民的及び政治的権利に関する国際規約選択議定書

 第3回報告のとおり、本議定書は、人権の国際的保障のための制度として注目すべき制度であると認識している。しかし、締結に関し、特に司法権の独立を侵すおそれがないかとの点も含め我が国司法制度との関係等慎重に検討すべき問題があるところ、引き続き関係省庁間で検討を行っているところである。


(c) 拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の禁止に関する条約

 本条約については、我が国の法制上、拷問が厳に禁止されていることは周知のところであり、政府として残虐かつ非人道的な拷問を世界的に禁圧するとの本条約の趣旨は十分理解している。


 他方、現在、本条約の内容につき検討しているところであるが、その実効性等についてさらに慎重に検討する必要があると考えている。


第3条 男女平等のための国内組織

(a) 「婦人問題企画推進本部」から「男女共同参画推進本部」への組織変更

 我が国においては、第3回報告のとおり、女性に関する施策について総合的かつ効果的な対策を推進するため、国内本部機構として、1975年に内閣総理大臣を本部長に、各省庁の事務次官等を構成員とする「婦人問題企画推進本部」を設置し、女性の地位向上のための国内行動計画を策定する等の取組みを行ってきた。


 その後、国内本部機構の強化についての国内外各方面の要請を受け、検討した結果、1994年7月12日、閣議決定により「婦人問題企画推進本部」に代え、本部長を内閣総理大臣に、副本部長を内閣官房長官に、本部員をこれまでの事務次官から全大臣とする「男女共同参画推進本部」を内閣に設置し、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の円滑かつ効果的な促進を図っていくことにし、1991年に策定した「西暦2000年に向けての新国内行動計画(第1次改定)」(内容については、前回報告参照)を継承、引き続き推進している。


 また、上記検討結果を受けて、1994年6月24日、総理府に男女共同参画審議会が、総理府の大臣官房の中に、男女共同参画室が新規に設置された。同審議会は、同年8月22日、内閣総理大臣から「男女共同参画社会の形成に向けて、21世紀を展望した総合的ビジョン」について諮問を受け、国民各層からの意見・展望や第4回世界女性会議で採択された行動綱領等国際的な動向も踏まえつつ審議を進め、1996年7月30日、内閣総理大臣に「男女共同参画ビジョン」と題する答申を提出した。この答申では、概ね2010年までを念頭に、我が国の経済・社会の変化を踏まえ、男女共同参画社会の実現に向けて、目指すべき方向とそれにいたる道筋が提示されている。右答申に示されている主な取組は、以下のとおり。


性別による偏りのない社会システムの構築


職場・家庭・地域における男女共同参画の確立


政策・方針決定過程への男女共同参画の促進


性別にとらわれずに生きる権利を推進・擁護する取組の強化


地域社会の「平等・開発・平和」への貢献


取組体制の明確化と国内本部機構の組織・機能等の拡充強化


国、地方公共団体、NGO間の連携・協力の強化


(b) 女性問題担当大臣の設置

 我が国では、1992年12月の宮澤内閣の改造に際し、内閣官房長官が「婦人問題担当」に任命され、次いで、1993年8月には「女性問題担当」に名称を変え、以後歴代内閣官房長官が任命されており、女性問題を総合的に推進するため行政各部の所管する事務の調整を任務とし、これまで様々な活動を行っている。


女性の政策・方針決定参画状況

 我が国における国政の分野への女性の参画状況に関し、女性国会議員数については別表1、国会において女性が就いている役職は、別表2のとおり。  我が国では、女性の政策・方針決定への参画を促進するため、上記「西暦2000年に向けての新国内行動計画(第1次改定)」において、ナイロビ将来戦略勧告を踏まえ、国の審議会等における女性委員の割合の飛躍的上昇を目指すこととし、その具体的施策として、1996年3月までに、同割合を総体として15%とすることを目標としてきたが、1996年3月末現在15.5%となり、その目標を達成した(国の審議会等における女性委員の登用状況については、別表5及び6参照)。さらに、目標達成を踏まえ、1996年5月21日、「今後は、国際的な目標である30%をおよそ10年程度の間に達成するよう引き続き努力を傾注するものとし、当面、西暦2000年末までのできるだけ早い時期に20%を達成するよう鋭意努めるものとする」ことを男女共同参画推進本部において決定した。


女性雇用対策
(a) 女性の雇用状況

 男女雇用機会均等法の施行後10年を経過し、この間企業における雇用管理の改善が進み、法の趣旨は着実に浸透してきている。例えば、女性が配置される職務が増えるとともに、女性の配置の基本的な考え方として能力や適性に応じて男性と同様の職務に配置するという考え方の企業が5割近くとなっている。また、女性の管理職も増加しており、女性が係長相当職以上の管理職となっている企業の割合は約6割となっている(別表3参照)。女性の管理職が少ない企業が、その理由としてあげているのは、「必要な知識や経験、判断力等を有する女性がいない」というのが約5割で最も多い。また、男女別定年制及び結婚・妊娠・出産退職制については、制度上は解消している。


 また、国家公務員の採用に係る男女平等の実現に関しては、人事院規則の改正により女子の国家公務員採用試験に係る受験資格制限を撤廃してきたところであり、現在、我が国の国家公務員採用試験(一般職)の受験、採用その他について、女子に対する制限、差別はない(国家公務員の管理職等における女性の割合については、別表4参照)。


(b) 男女雇用機会均等法の遵守措置

 募集・採用、配置・昇進など女子の雇用管理の問題については、各都道府県の婦人少年室において、男女雇用機会均等法のより一層の遵守とその趣旨に沿った雇用管理の実現に向けて、啓発や相談、制度改善指導、個別紛争の解決のための援助業務を行っている。具体的には、婦人少年室には、女子労働者、事業主等から年間2万件にのぼる相談が寄せられており、男女雇用機会均等法上問題がある企業に対しては厳正な指導を行っている。また、一方では、定期的に企業の女子の雇用管理に関する事情聴取を行い、問題を把握した場合は厳しく是正を求めるなど積極的な指導にも努めている。さらに、男女雇用機会均等法の趣旨に沿った雇用管理の改善を促進するため、企業における自主的取組を促進している。


(c) 育児・介護

 家族的責任を有する男女労働者にとって職業生活と家庭生活との両立が可能となるような支援策を推進することが必要であり、特に、我が国においては、少子・高齢化、核家族化が進む中で、育児と家族の介護の問題が、労働者が仕事を継続するための重要な課題となっている。このため、1991年に育児休業法が成立し、1歳未満の子を有する労働者に育児休業の権利が認められた。1993年に実施された調査(労働省「平成5年度女子雇用管理基本調査」:全国の8,000事業所対象)によると、育児休業制度が導入されている事業所において、1992年4月1日から1993年3月31日までの間に出産した女子労働者に占める育児休業取得者の割合は48.1%(配偶者が出産した男子労働者に占める育児休業取得者の割合は0.02%)である。1995年の育児休業法の改正により、介護休業制度が法制化されるとともに、育児や家族の介護を行う男女労働者のために国等の行う支援措置も盛り込まれた。我が国では、これら両休業制度の定着を図る他、育児休業・介護休業を取得しやすく、かつ職場復帰しやすい環境の整備、育児・介護を行う労働者が働きつづけやすい環境の整備等、労働者の職業生活と家庭生活との両立を支援するための施策を総合的、体系的に推進しているところである。また、1995年6月9日には、「家族的責任を有する男女労働者の機会及び待遇の均等に関する条約(ILO第156号条約)」を批准したところである


国際協力
(a) WIDイニシアティブ

 1995年の第4回世界女性会議において、我が国は、女性のエンパワーメント、女性の人権の尊重、男女間、政府とNGO、及び国境を越えたパートーナーシップの促進の3点を強調する演説を行い、同時に、女性のエンパワーメントのための我が国の国際貢献として「途上国の女性支援(WID)イニシアティブ」を発表し、特に、女性の「教育」、「健康」、「経済・社会活動への参加」の3つの分野を中心に、今後とも開発援助の拡充に努力していくことを表明した。


 このイニシアティブは、我が国が開発援助の実施にあたり、就学、就業、出産、経済・社会活動といった女性の一生のすべての段階を通じて、女性のエンパワーメントなどに配慮するものである。


(b) 女性に対する暴力撤廃におけるUNIFEMへの貢献

 女性に対する暴力の問題は、第4回世界女性会議においても、現代社会における深刻な問題として取り上げられたように、現代社会における深刻な問題とされている。我が国は、国際社会が一致協力して取り組むべきこの問題に積極的に貢献していきたいとの考えの下、また、第4回世界女性会議で採択された行動綱領のフォローアップの一環として、女性に対する暴力に関する基金をUNIFEM内に設置するための決議を1995年の第50回総会に提出した。この決議は、コンセンサスにて採択されたところ、我が国は、この基金に応分の資金拠出を行う考えである


第4条

 (a) 緊急事態を想定した法令には、基本的人権を制約する規定は何らおかれていない、また、(b) 我が国においては、緊急事態が発生した場合には、必要に応じ、憲法及び本規約に従った措置が講ぜられることになるであろうことは、第3回報告で述べたとおりである。


第5条

(a) 我が国は、いかなる意味においても、本規約において認められる権利及び自由を破壊し、又は、本規約に規定する範囲を越えてこれらを制限するように本規約の規定を解釈することはなく、また、(b) 我が国において、本規約が言及していないことを口実としてその権利を侵すことはできないことは、第3回報告で述べたとおりである


第6条

死刑問題

(a) 死刑の適用の状況

 我が国においては、死刑の定めのある罪を第3回報告で述べた17罪に限定し(資料3参照。但し、刑法改正による条文の記述平易化に伴い、「船車覆没致死罪」は「汽車転覆等致死罪」と、「往来危険による船車覆没致死罪」は「往来危険による汽車転覆等致死罪」と呼ばれるようになったが、構成要件は変更していない。)、うち外患誘致を除く他のすべての罪については死刑以外に無期又は有期の懲役刑又は禁錮刑を選択刑として規定し、重大な犯罪の罪種の中でも特に重大なもの(殺人又は人の生命を害する重大な危険のある故意の行為)についてのみ死刑が適用されるような法制が採られている上、具体的な事件に対する適用においても「犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には死刑の選択も許される」との最高裁第2小法廷判決(1983年7月8日)の趣旨等を踏まえて、死刑の適用は極めて厳格かつ慎重に行われている。現に、1991年から1995年までの5年間に死刑が適用され判決が確定した者は、合計23名であり、いずれも残虐な殺人事件や強盗殺人事件に限られ、人の殺害を伴わない事案はない。また、現状においては、極度に凶悪な犯罪を犯した者に対し、死刑の適用を存置すべきであるとするのが現在の我が国国民の大多数の意見であり、これは、世論調査(最近の調査は1994年9月実施)によって裏付けられている。


(b) 死刑確定者の処遇
(i) 死刑確定者の収容の根拠、処遇一般、恩赦の適用

 第3回報告で述べたとおり。


(ii) 死刑確定者の外部交通

 死刑確定者の接見及び通信については、その拘禁目的に照らして、拘禁施設の長が個々具体的に許可・不許可を決するとするのが監獄法の趣旨であるところ (監獄法第45条1項及び第46条1項)、死刑確定者は来るべき死刑の執行を待つという言わば極限的な立場に置かれている被収容者であって、その身柄の確実な保全が強く要請されており、また、拘禁の性質上、極めて大きな精神的不安と苦悩のうちにあるであろうことは言うまでもなく、拘禁施設としては、できる限り死刑確定者の心情の安定が得られるよう配慮する必要があり、したがって、このような観点からの制限を受けることはやむを得ないところであるが、このような場合を除き、実務運用上、家族、弁護士等との接見及び通信を許可する取扱いとしている。 なお、以上のような死刑確定者の外部交通の取扱いについては、我が国の民事裁判においても、合理的で適法なものであるとされており(例えば、東京地裁1996年3月15日判決等。)、他方、一般的取扱いとしては、これを違法なものとする裁判例は見当たらないところである。


(c) 死刑執行の家族に対する告知

 監獄法第74条及び同施行規則第178条は、死刑の執行後、死刑の執行を受けた者の親族に対し、その死亡の事実を通報し、その親族等が死体又は遺骨の引渡しを求める場合はこれを交付するものと定めているが、それ以外には、死刑確定者の家族等に対する通知に関し法令上の規定は何ら存しないところ、死刑の執行日については、事前に家族を始めとして外部の者には知らせない取扱いとしている。これは、死刑確定者の家族等に対し、死刑執行の日時を事前に通知することにより、通知を受けた家族に対し無用な精神的苦痛を与えること、仮に通知を受けた家族との面会が行われた場合、当該死刑確定者の心情に及ぼす影響が大きく平穏な心情を保ち難いと考えられること等の理由によるものである。


 なお、家族との間において事前の調整が必要になると思われる遺産相続、献体等については、あらかじめ平素から死刑確定者本人の意思確認を行うとともに、家族との事前の面会等の機会において十分調整するよう指導しており、この点からも、執行直前に家族に知らせる必要は特段生じないものである。


(d) B規約第2選択議定書

 第3回報告書で述べたとおり、死刑廃止の問題は、国民感情及びそれに基づく国内法制に直接関わるものであるので、本選択議定書の締結問題は慎重に検討することが必要である。


第7条

法執行機関による違法な暴行事件に対する厳正な対処状況及び再発防止策

 拷問等の禁止に関する法的枠組については、第3回報告で述べたとおりであり、捜査活動に関わる法執行官による被疑者等に対する暴行・陵虐行為等については、刑法第194条及び195条により刑事罰の対象となるほか、厳重な懲戒処分の対象となる。


 このような事件の発生は極めて稀ではある(1990年から1995年までに起訴された人員数は、1992年に2名、1993年に8名あったほかは、各年とも0である。)が、法執行官に対しては、任官後、その経験に応じて各種の研修を行い、法執行官としての識見を身につけさせ、人権感覚の一層のかん養を図るとともに、職務の遂行過程においても、上司の指導・監督により、若手職員の育成の充実を図ることによって、その発生防止に厳重な注意を払っている。


第8条

 奴隷的拘束及び犯罪による処罰を除いた苦役からの自由並びに児童の酷使の禁止等の法的枠組については、第3回報告で述べたとおり。  なお、第3回報告書で述べた刑務作業の実施状況については、第10条に関する記述を参照されたい。


第9条

法的側面

(a) 前回からの変更点
(i) 精神保健法の改正

 精神病院に入院中の者については、第3回報告書で述べたとおり、1987年の法律改正により、都道府県知事は、精神病院の管理者から定期的に措置入院者及び医療保護入院者の病状等の報告を受け、それらの者の入院継続の適否について各都道府県に設置される精神保健審査会に審査を求め、その審査結果に基づいて退院を命じる等の措置を講じること、また、入院中の者やその保護者等から退院や処遇改善の請求が出された場合、当該請求について精神医療審査会に審査を求め、その審査結果に基づいて退院等必要な措置を採ることを命じることとされている。


 1994年において、本制度により退院した人数は以下のとおりである。


(a) 定期報告 措置入院で入院継続が不要な者 1人
医療保護入院で入院継続が不適当な者 2人
(b) 退院請求 退院が適当な者 34人

 また、1995年には、「精神保健法」を「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に改め、精神障害者の社会復帰等のための保健福祉施策を充実するための措置を講ずるとともに、精神保健指定医が5年ごとの研修を受けなかった場合には、当該研修を受けなかったことについてやむを得ない理由が存すると厚生大臣が認めたときを除き、その指定は効力を失うものとすること、措置入院、医療保護入院等を行う精神病院には、常勤の精神保健指定医を置かなければならないものとすること、医療保護入院の際の入院者に対する告知義務について、精神障害者の症状に照らして告知を延期できる旨の例外規定に、4週間の期間制限を設けること等、適正な精神医療の確保等のための措置を講じたところである。


(b) 少年の保護事件に係る補償

 本条5の権利に関し、1992年9月1日に少年の保護事件に係る補償に関する法律が施行され、少年鑑別所や少年院に収容されるなど身体の自由を拘束された少年が、審判に付すべき事由が認められず不処分決定や保護処分取消決定等を受けたときには、その拘束が違法でなかった場合であっても、その拘束の日数に応じて1日当たり1万2,500円を限度として補償金が交付されることとされた(同法第4条第1項、刑事補償法第4条第1項)。


被疑者の身柄拘束

(a) 身柄拘束期間

 我が国においては、被疑者の身柄拘束期間中に、勾留の基礎となっている当該被疑事実のみにとどまらず、これに関連する情状に関する事実についても捜査を遂げ、その結果、有罪の確信を持つことができ、かつ、公訴提起が相当と思料する者に対してのみ公訴を提起するという厳格な起訴基準に基づく運用がなされている。それ故、被疑者の身柄拘束中に行われる捜査は極めて綿密なものとならざるを得ず、してみると、第3回報告で述べた最大22日間ないし23日間という被疑者の身柄拘束期間は、捜査すなわち公益上の必要と被疑者の人権保障との適正なバランスを図ったものであり、合理的なものである。


(b) 在宅による捜査及び公訴提起、並びに保釈の状況

 検察官及び司法警察員は、捜査及び公訴の提起にあたり、身柄拘束の要否等を慎重に検討し、犯罪の軽重や罪証隠滅・逃亡のおそれの有無・程度等を考慮して、身柄拘束の必要がないと認めるときには、被疑者の身柄を拘束することなく、在宅のまま捜査を行い、あるいは、一旦逮捕・勾留した被疑者であっても、その後勾留の必要ないし勾留継続の必要がなくなったと認める場合には、被疑者を釈放し、公訴を提起している。


 1990年から1995年における自動車等による業務上(重)過失致死傷及び道路交通法等違反事件を除く既済となった被疑事件のうち、逮捕された者の占める割合は、約23から30パーセントにすぎない。また、上記既済被疑事件のうち、勾留中公判請求された者の占める割合は約10から14パーセントにとどまっている。


 勾留されている被告人については、保証金の納付等を条件として、被告人を現実の拘束状態から解放する保釈が認められている。保釈については、被告人、その弁護人、法定代理人、保佐人、又は一定の親族にその請求が認められているが、当該請求があったときは、被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき等一定の事由に該当する場合を除いては、保釈を許さなければならない(刑事訴訟法第89条)。また、保釈を許さなければならない場合に当たらないときでも、裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる(同法第90条)。1990年から1995年における第一審(地方裁判所)の公判事件終局総人員における身柄状況をみると、勾留率(終局総人員中に占める勾留総人員の割合)は約71から79パーセント、保釈率(勾留総人員中に占める保釈人員の割合)は約19から27パーセントの間をそれぞれ推移している。


(c) 勾留執行停止制度・勾留理由開示制度

 本条4の権利に関し、勾留されている被疑者・被告人等からの請求がある場合には、裁判官は、公開の法廷で、勾留の理由を開示しなければならないとされているほか、裁判所は、適当と認めるときは、勾留の執行を停止することができ、勾留の理由又は必要がなくなったときは、被疑者・被告人等の請求により、又は職権で、勾留を取り消さなければならないものとされている。


(d) いわゆる別件逮捕・勾留

 同一被疑者に複数の犯罪容疑がある場合、逮捕・勾留中に逮捕・勾留の基礎となっている被疑事実以外の事実について被疑者をその任意に基づいて取り調べることは、一般に禁止されるところではなく、例えば、事件の全容を明らかにするために関連する他の事実の取調べが必要な場合や、余罪があって、その一事実ごとに新たに逮捕・勾留を繰り返すよりも逮捕・勾留の基礎となっている被疑事実と併せて余罪の数事実についても捜査を行うことの方がむしろ被疑者にとって有利な場合などには、逮捕・勾留の基礎となっている被疑事実以外の事実についても取調べが行われることがある。


 しかしながら、第3回報告で述べたとおり、逮捕・勾留の理由及び必要性は、いずれも一定の被疑事実について判断されるものであり、当該被疑事実について逮捕・勾留の理由及び必要性がないのに、他の被疑事実の捜査のために逮捕・勾留が行われるということはあり得ない。したがって、「専らある被疑事実Aの捜査のために他の被疑事実Bについて被疑者を逮捕・勾留する」といういわゆる別件逮捕・勾留も容認されておらず、仮に違法な別件逮捕・勾留が行われた場合には、その間に得られた自白を含む証拠を排除する等の判例理論が確立しており、証拠の面からも違法な別件逮捕・勾留を防止する手当がなされている。


(e) 取調べの実態

 刑事訴訟法は、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができると規定しており(同法第198条第1項本文)、この規定に基づき被疑者に対する取調べが行われているが、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができることとされている(同項但書)。


 憲法は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」として、黙秘権を保障している(同法第38条第1項)が、この規定の精神をよりよく実現するため、刑事訴訟法は、被疑者に供述拒否権を与え、取調べに際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない(同法第198条第2項)と規定している。


 取調べを行った場合、被疑者の供述を調書に録取することができるが、この調書は、被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤りがないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない(同条第3、4項)。被疑者が調書に誤りのないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができるが、被疑者が、これを拒絶した場合はこの限りではない(同条第5項)。署名及び押印のいずれもがない調書は、当事者の同意がない限り、証拠能力を有しない(同法第322条第1項、第326条)。


 また、取調べの方法として、強制、拷問、脅迫等を用いることはむろん許されないし、その他被疑者の供述の任意性に疑いを抱かしめるような取調べも許されない。強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白、その他任意にされたものでない疑いのある自白(同法第319条第1項)、又は任意になされたものでない疑いのある被告人に不利益な事実の承認を内容とする供述調書若しくは供述書は証拠とすることができないこととされており(同法第322条第1項)、取調べに係る手続の適正や被疑者・被告人の権利が証拠法の面からも保障されている。


第10条

法的側面

 前回報告からの変更点として、警察留置場においても、本規約等の国際規則をも登載した六法全書の整備が進み、被留置者はいつでもそれを閲覧することができるようになった。


刑事拘禁施設における家族、弁護人との接見交通権

 第3回報告のとおり、接見交通権は、憲法第34条前段及び刑事訴訟法第39条第1項において認められているものであり、現実の捜査においても被疑者・弁護人(及び弁護人になろうとするもの)の権利として十分に尊重されている。しかしながら、この接見交通の権利といえども、絶対的なものではなく、憲法の精神と抵触しない限りにおいては、制限を受ける。 弁護人との接見が制限される場合としては、刑事訴訟法第39条第3項に基づく接見指定権の行使によるもの、及び被疑者を勾留している施設の管理上の必要に基づくものとがある。


(a) 刑事訴訟法第39条第3項に基づく接見指定権の行使

 「検察官、検察事務官及び司法警察職員は、捜査のため必要があるときは、 公訴の提起前に限り、第1項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。」とする同法第39条第3項の規定に基づき、捜査のために必要がある場合に、検察官等が、接見の申出に対し、接見の日時等を指定するものである。ただし、同項は、更に「その指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない。」とも定めている。


 この規定は、被疑者の防御権と捜査とのバランスを考えて設けられたものであり、最高裁判所は、1978年7月10日の判決において、捜査機関による接見等の日時等の指定は、必要やむを得ない例外的措置であり、弁護人等から被疑者との接見の申出があったときは、原則として何時でも接見の機会を与えなければならず、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防御のため弁護人等と打ち合わせることのできるような措置を取るべきである旨判示し、さらに、1991年5月10日及び同月31日の両判決において、上記にいう捜査の中断による支障が顕著な場合には、捜査機関が、弁護人等の接見等の申出を受けた時に、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせているというような場合だけでなく、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合も含むものと解すべきである旨判示している。


 さらに、実際の運用においては、被疑者の防御権を不当に制限しないよう十分配慮がなされている。


 すなわち、検察官による接見指定の実務においては、検察官は、接見指定を行う可能性のある事件について、あらかじめ施設の長に対し、接見指定を行うことがある旨の通知書を発することとしているが、多くの場合は、弁護人は電話等により検察官との間で接見の日時等の協議を行い、適正に接見が行われているほか、当該通知のあった事件について、弁護人が直接施設に赴いて被疑者との接見を求めたときでも、係官は検察官に連絡を取り、検察官が接見指定の要否を上記の最高裁判例の趣旨に従って判断し、接見指定を行わないか、あるいは接見時間のみについて指定を行う場合は、弁護人と被疑者を直ちに接見させる取扱いとしている。


 なお、検察官等による接見日時等の指定については、その処分の適法性について、被疑者側から裁判所に対する不服申立が可能である。


(b) 施設管理上の必要

 施設管理上の必要性について、前回報告で述べたとおり、例えば、監獄が、緊急の必要性のない深夜の接見を拒否するような場合であり、施設の人的及び物的条件が有限である以上、当然に認められる制約で、やむを得ないものである。


 なお、監獄法施行規則第122条は、接見は行刑施設の執務時間内に限るものとし、施設管理上の必要に基づく弁護人接見の制限を認めている。しかし、休日においても、緊急の必要性がある場合、弁護人接見の訴訟手続上果たす重要な役割にかんがみ、一定の条件で接見を認めることとしている。これは、前回の本報告書提出の後、法務省と日本弁護士連合会との間で協議を遂げて、このような取扱いをすることとなったものである。


 また、警察留置場においては、被留置人と弁護人等との接見交通権の重要性に鑑み、日曜日、休日その他留置場の執務時間外においても、できるだけこれに応じるようにしており、この問題についての弁護人等とのトラブルは最近ほとんどなくなっている。


矯正施設における処遇状況

(a)受刑者の処遇

 我が国の行刑は、受刑者の矯正及び社会復帰を目的としている。具体的には次のとおりの処遇が活発に行われており、受刑者が出所後一定期間内に再犯を犯し、処罰される割合は、徐々に低くなっている(出所後5年以内の間に再収容された者の割合は、1984年に出所した者の場合、50.6%であったのが、1986年、1988年に出所した者の場合は、それぞれ47.4%、45.3%と徐々に低くなっており、出所後3年以内の間に再収容された者の割合は、1984年に出所した者の場合、44.8%であったのが、1986年、1988年、1990年に出所した者の場合は、それぞれ41.9%、38.9%、38.0%と徐々に低くなっている。)。


(i) 刑務作業

 刑務作業は、受刑者の矯正及び社会復帰を図るための重要な矯正プログラムの一つである。これは、受刑者に規則正しい勤労生活を行わせることにより、その心身の健康を保持し、勤労精神を養成し、規律ある生活態度並びに共同生活における自己の役割及び責任の自覚を助長するとともに、職業的知識及び技能を付与することにより社会復帰を促進することを目的としている。特に刑務作業の一態様としての職業訓練は、受刑者に対し免許や資格を取得させることを目的としており、その種目は、溶接、建設機械、理容、美容、コンピュータープログラマー養成を目的とした情報処理等約40種目に及んでいる。


 この職業訓練の結果、労働省指定のガス溶接技能講習終了者、厚生大臣指定の理容師、通産省指定の情報処理技術者等の免許又は資格が取得されており、受刑者の社会復帰に大いに役立っている。ちなみに、1994年度の免許又は資格の取得者は2,339人に達している。


 刑務作業は一般の民間企業とほぼ同様の作業時間、作業環境、作業方法等で実施されており、「週休2日制度」をとるほか、その作業時間は1日8時間、週40時間と定められている。これは日本の中堅企業とほぼ同じ条件である。また、所内では、一般の民間企業を対象とした労働省の定める労働安全衛生法に準じた「刑務作業安全衛生管理要綱」により、各種の刑務作業上の事故防止策がとられており、災害率は民間工場に比べて低いものとなっている。受刑者は、作業時間中、雑談を禁止されるが、これも作業上の安全を確保するために必要な措置である。なお、作業上必要な会話は許可されているほか、休憩時間中は会話は禁止されていない。


 刑務作業が過酷な条件のもとで行われているものではないことは、所定の作業に服する義務のない禁錮刑を言い渡された受刑者の約90パーセントが、自らの希望で懲役受刑者と同様の作業を行っていることからも明らかである。


(ii) 生活指導

 受刑者に健全な心身を培い、遵法精神を養わせ、健全な社会生活を送るための知識や生活態度等を身につけさせるために、暴力団組織からの離脱指導、薬物関係受刑者に対する薬害教育等の生活指導を行っている。


(a) 暴力団組織からの離脱指導


 暴力団関係受刑者を更生させるためには、暴力団組織から離脱させることが不可欠である。施設では、入所時から出所時に至るまでの全期間を通じて、関係組織から離脱するための個別相談及び指導並びにこれに伴う就職あっ旋援助を積極的に行っている。


(b) 薬物関係受刑者に対する薬害教育


 覚せい剤等の薬物関係受刑者に対して、薬物が及ぼす身体的・社会的害悪を認識させ、遵法意識を喚起させる指導を行っている。例えば、密売事犯者と自己使用者に区分したグループを編成し、講話、集団討議、カウンセリング等の処遇技法を用い、指導効果を高めるようにしている。


(iii) 教科教育

 受刑者の中には、義務教育を修了していない者あるいは修了していても学力が不十分な者も少なくない。これらの者に対しては基礎的な教科の補修教育を行っている。


(iv) その他の教育的活動

 その他、各施設において通信教育、部外協力者による指導、釈放前指導等を行っている。


(a) 部外協力者による指導


 篤志面接委員等の民間の部外協力者が、受刑者各自が更生する上での問題点とその解決方法等について個別に助言・指導を行い、以後、必要に応じ継続して出所時まで指導に当たる方策である。これは人生経験が豊かで熱意ある民間の篤志家によって実施されるため、受刑者に感銘を与え、更生への意欲を高めるなど実効がある場合が多い。


(b) 釈放前指導等


 受刑者の円滑な社会復帰のためには、施設内の生活と出所後の社会生活とのギャップをできるだけ少なくする必要がある。


 それ故、釈放が近づいた受刑者に対し、ー定の期間、釈放準備のための集中的な処遇を行っている。具体的には、社会復帰後の就職に関する知識及び情報の付与、ー般社会における生活及び勤労の体験、保護観察制度その他更生保護に関する知識の付与、帰住及び生計の方途に関し必要な調整などを行っている。


 この釈放前指導の内容の一部は、従前から、施設ごとにそれぞれの方法で行われていたものであるが、前回の本報告書審査の後、受刑者の社会復帰を目的とした処遇の重要性に鑑み、指導の期間を延長するとともに内容を一層充実させ、全国的に統一した基準で行うこととしたものである。


(b) 被収容者の生活
(i) 衣類・寝具

 衣類・寝具は、受刑者には居室衣、作業衣、下着、蒲団、毛布、敷布等が貸与され、未決拘禁者は原則として自弁とされている。ただし、自弁できない場合には貸与されている


(ii) 食事

 食事については、すべての被収容者に、国から給与することを原則としているが、未決拘禁者については、本人が希望すれば外部から自費で食料を入手することができる。


 給与される食事は、被収容者の性別、年齢、作業の内容等に応じ、健康及び体力を保つのに必要な熱量が確保されている。


 被収容者の食料給与については、被収容者の健康保持のため重要なものであるので、従来からその内容の充実に努めて来たところであるが、食事内容の更なる改善を図るため、前回の本報告書審査以降、1995年に見直しを行い、肥満防止及び成人病予防の観点から、今後、段階的に主食の熱量を減ずる一方、副食の熱量を増加するとともに、栄養素(たんぱく質、ビタミン等)の標準量を改善して、食事内容の充実を図っている。


(iii) 居室

 被収容者が収容される居室には、個室と共同室がある。共同室には通常6~8人が収容される。各居室には、生活に必要な食卓、学習用の小机、清掃用具等が備えられている。居室の窓は、被収容者が自然の光線によって本を読むことができるだけの大きさのものであり、かつ新鮮な空気を取り入れることができるようになっている


(iv) 保健衛生及び医療

(a) 入浴


 入浴は、1週間に2回(夏期は3回)実施されている。入浴の時間は、平均15分(女子は平均20分)である。夏期は、毎日の作業終了後、身体を拭く時間を設けている施設もある。


(b) 運動


 運動は、健康保持上必要なものであるので、入浴日以外は最大限の保障がされている。天候が許す限り戸外運動が実施されるが、雨天時には室内運動も実施される。


(c) 健康診断


 健康診断については、ー般社会と同様、定期健康診断、成人病対策等を積極的に実施している。


(d) 医療


 医療について、行刑施設では、医師等医療専門職員が配置され、被収容者の医療に当たっている。一般の行刑施設において治療困難で専門的医療を施す必要がある者及び病状から長期的な療養が必要な者については、高度な医療機器や医療専門職員を集中的に整備、配置した医療重点施設又は医療刑務所(支所)に収容して十分な医療措置が受けられる体制をとっている。この医療刑務所の中には、医療法の規定により病院の指定を受けている施設もある。さらに、人的・物的に施設内で適切な医療を施すことが困難な場合には、外部の専門医の診療を受けさせたり、外部の病院に入院させるなど被収容者に対する適切な医療に努めている。


 なお、行刑施設における医師の数は、被収容者137人当たり1人となっており、十分な医師が確保されている。


(v) 規律及び秩序

 被収容者の処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持するために、行刑施設の規律及び秩序は厳正に維持されなければならない。国連の「被拘禁者処遇最低基準規則」も「規律及び秩序は厳正に維持されなければならない。」と規定している。もっとも、行刑施設の規律及び秩序は、無意味に厳しく維持するものであってはならないが、「確固として」、「揺るぎなく」維持しなければならないものと考えている。


(a) 身体検査


 被収容者が出廷等で施設から出入りする際、受刑者が工場に出役又は工場から還房する際など、原則として、被収容者の身体及び衣類の検査が行われる。これは、過去に発生した数々の事例に照らして、被収容者の逃走、危険又は不正な物品の持ち込み・持出しなどの保安事故を未然に防止するために必要不可欠な措置であり、必要合理的な範囲で行われている。


 一般的に、身体検査は、衣類の上から触手によって行われるが、受刑者が工場に出役又は工場から還房する際は、通常、居室衣と作業衣の着替えの際に、多くの場合、下着を着けさせたまま視認する形で行われる。


(b) 昼夜独居拘禁


 昼夜独居拘禁は、他の受刑者と隔離する必要がある者の居室収容の一形態であり、監獄法令の定めるところに従い、受刑者の刑期、犯歴、所内における行状、性格、他の受刑者との関係、集団生活の適応の可否、施設内の保安状況等を総合的に勘案して必要性が認められる場合に採られる拘禁形態である。


 昼夜独居拘禁者の居室は、通常の夜間独居拘禁者の居室と同じ構造である。その構造は、具体的には(b)被収容者の生活(iii) 居室で述べたとおりであり、前者の居室の構造が後者のそれに比べて、窓が小さい、机がないなど制限的なものになっていることはない。


 昼夜独居拘禁に付された者は、運動、入浴、接見、診察その他やむを得ない理由がある場合を除いて、原則として一房の内で独居処遇を受ける。受刑者を昼夜独居拘禁に付す場合としては、具体的には、当該受刑者が著しく自己中心的で協調性がなく、他の受刑者と接触させておけば、当該受刑者に対する不快の念や恨みを持つ他の受刑者から危害を加えられる等して身体の安全の保護に困難を来たすおそれがある場合などである。


いわゆる代用監獄について

(a) 警察留置場制度

 日本においては、ほとんどの警察署に警察留置場が設置されている。警察留置場には、刑事訴訟法に基づき逮捕された被疑者、刑事訴訟法の規定に基づき裁判官の発する勾留状に基づき勾留された未決拘禁者等が留置されている。警察に逮捕された年間約12万人の者が、警察留置場に留置されている。逮捕された者は、釈放される場合を除いて、検察官の勾留請求により裁判官の面前に連れていかれ、裁判官は、勾留するか否かを決定する。警察留置場に勾留される被疑者は、年間約9万人である。警察留置場に留置される期間は、平均約20日間である。


 被疑者の勾留場所につき、日本では、刑事訴訟法によれば、被疑者の勾留の場所は、監獄とされている(同法第64条第1項等)。そして監獄法は、警察留置場を監獄(一般に未決の者を収容する施設は拘置所といわれている。)に代用することができると定めている(同法第1条第3項)。この警察の留置場を監獄に代えて用いることができる制度がいわゆる「代用監獄制度」と呼ばれている。被疑者の勾留の場所については、刑事訴訟法上、拘置所又は警察留置場のいずれを選択するかを定めている規定はなく、検察官の請求を受けて、裁判官が、個々の事件ごとに、諸般の事情を総合考慮して勾留場所を決定している(同法第64条第1項)。


 本制度につき種々の意見があることは承知しているが、下記(b)及び(c)のとおり、本制度は極めて適切に運用されており、被留置者の人権は十全に保障されている。



(b) 警察留置場における生活

 被留置者の警察留置場における生活については、以下に具体的に述べるとおりであるが、留置場の施設・設備についてはより快適な生活環境となるよう常に改善整備に努めているほか、被留置者の人権保障を一層充実させるため、食事の改善や外国人・女子等の特性に配慮した処遇を推進するなどの努力を続けている。また、留置場勤務員が被留置者の人権に十分配慮して職務を遂行するよう、勤務員の指導教養にも力を入れている。


(i) 留置場の構造及び設備

 居室の構造は、被留置者のプライバシー保護に留意したものとなっている。居室の前面に不透明な仕切を設け、被留置者が看守席から常時監視されることのないようにしている。


 居室内にはじゅうたん又は畳が敷かれている。旧設の留置場の床も全て畳かじゅうたんに取り替えられた。そして、畳等の上に直接座るという日本の生活習慣を勘案し、居室においてもこれと同様の生活習慣が保たれるようにしている。


 被留置者は、単独収容することを原則としており、その適切な処遇を行うのに必要な面積が確保されるように基準が定められている。


 被留置者の健康保持及び処遇向上のため、全国の留置場で、全自動洗濯機、洗濯物乾燥機、布団乾燥機、シャワー装置、冷蔵庫、エイズ等の感染症防止のためのガス滅菌器、手指消毒器等の整備を推進している。


(ii) 留置中の行動

 他の被留置者の平穏に支障を及ぼしたり、拘禁目的に反しない限り、居室内での被留置者の行動は自由であり、就寝時間以外に自由に寝そべることも広く許されている。


(iii) 被留置者の健康保持

 被留置者の健康保持のために、1日30分間、被留置者が希望する場合には1時間を超えて、広さ10平方メートル以上で日照及び通風のよい戸外に設けられた運動場で自由に運動できる時間が設けられている。 睡眠時間帯は居室の明りを減光して睡眠に支障がないように配慮している。


 取調べの時間については、執務時間(通常午前8時30分から午後5時15分)中に行うよう努めており、執務時間外に取り調べなければならない事情がある場合でも、留置場の日課時限において定めた就寝時刻(通常午後9時頃)を過ぎてもなお取調べが続いている際には、留置部門から捜査部門に取調べの打ち切り要請を行うとともに、万一就寝時刻が遅れた場合には翌朝の起床時間を遅らせる等の補完措置をとり、十分な睡眠時間が確保されるようにしている。


 月に2回、警察の嘱託医が被留置者の健康診断を行う。被留置者が負傷、病気の場合には、薬を投与したり、公費により速やかに医師の診療を受けさせる。特別な治療が必要な病人は、場外の病院に運ばれる。また、被留置者が医師を指定して自費による診療を希望すれば、通院することも可能である。警察留置場への勾留のために被留置者の健康が損なわれないように、全ての可能な措置が取られている。


 食事は、1日3回出され、国民生活の実情等を勘案して十分なものであるように資格のある栄養士が定期的にチェックし、栄養のバランスのとれたものとなっており、拘置所での食事内容の改善に合わせ、さらなる栄養の充実に努めている。被留置者は、官給の食事以外の食事、パン、果物、菓子、乳製品等を外部から自己の負担で購入したり、差し入れを受けることもできる。


 留置場内の通風、採光に配慮するとともに、冷暖房装置などにより24時間快適な温度が保たれるように配慮している。


(iv) 日用品等の自費購入等

 食料品、衣類等の自費購入及び差し入れも認められる。


(v) 面会、信書の発受等

 弁護人等との面会及び信書の発受は、原則として保障されている。家族等との面会及び信書の発受についても、裁判所が拘禁目的を達成するために行う制限を除き、原則として保障されている。


 また、複数の弁護人や家族がゆったり被留置人と面会ができるよう面会室を拡張したり、弁護人の秘密交通権をより保障するために室外へ面会中の会話が漏れないための措置を施すなどの施設改善にも努めている。


(vi) 新聞、図書の閲覧等

 被留置者は、無料で日刊新聞や備え付けの図書を閲覧することができるほか、食事時間等毎日一定の時間に、ニュース、音楽等のラジオ番組を聴取することができる。


(vii) 身体検査及び傷病等の調査

 被留置者の留置開始時及び出入場時には、被留置者の安全確保と留置場の秩序維持を図るために必要な限度において、留置担当者が身体検査を実施し、被留置者が凶器や危険物を所持していないことを確認するとともに、被留置者の健康状態の聴取・確認を行い、疾病、傷病の申立があったとき、又は疾病、傷病の可能性があるときには、医師の診察を受けさせるなどの必要な措置を採る。


(viii) 外国人被留置者の処遇

 外国人被留置者に対しても適切な処遇を行うため、文字、音声の両方により豊富な文例を提示できる「CD-ROMを使った最新式の翻訳機(14か国語(英語、北京語、広東語、タイ語、タガログ語、ウルドゥー語、スペイン語、ペルシャ語、ハングル、マレー語、ベンガル語、ロシア語、ベトナム語、ミャンマー語に対応)」の整備を進めている。また、食事、宗教活動等の面において、可能な限りそれぞれの習慣に従って処遇するように配慮している。


(ix) 女子被留置者の処遇

 警察留置場における基本的な処遇条件に男女の差別はないが、女子被留置者の取り扱いに当たっては、その特性にも十分な配慮を行っている。


 女子被留置者は、男子被留置者とは別の区画に収容され、互いに見えることがなく、かつ、運動や入出場の際も顔を合わせることのないように処遇している。女性の被留置者の身体検査及び入浴時の監視は、婦人警察官又は婦人職員によってのみ行われる。また、女子被留置者の処遇に当たっては、その身だしなみを整えるために必要な、化粧水、クリーム、整髪料等の化粧品やくし、ヘアーブラシを洗面所等で使用できるよう配意しているほか、使用済み生理用品を本人が直接廃棄するための屑かご等を設置することとしている。


 さらに、女子被留置者の処遇全般について、できるだけ婦人警察官が行うことが望ましいため、女子専用留置場の設置を推進している。


(xx) 結論

 以上のように、日本の留置場において行われている被留置者の処遇は、留置者の人権を十分に保障したものであり、国連の被拘禁者処遇最低基準規則の趣旨を満たしている。


(c) 捜査と留置の分離

 被留置者の人権を保障するため、警察においては、被留置者の処遇を担当する部門と犯罪の捜査を担当する部門は厳格に分離されている。被留置者の処遇は、留置部門の職員の責任と判断によってのみ行われ、捜査官が警察留置場内に収容されている被疑者の処遇をコントロールしたり、これに影響力を行使することは不可能である。すなわち、被疑者の取調べは、留置場の外にある「取調室」、場合によっては、法務省の管轄下にある「取調室」で行われる。また、捜査員が留置場に入ることは禁止されている。 被留置者の処遇を担当する部門は、捜査を担当しない管理部門の課長の指揮下にあり、警察本部の留置管理課及び警察庁の留置管理官の監督を受ける。 以下は、捜査と留置を分離するために取られている具体的措置であるが、警察庁の留置管理官以下の職員が定期的に全国の留置場を巡回し、その徹底を図っている。また、万が一、警察官が以下の方針に反し不適正な取扱いを行った場合には、厳しい処分が科される。


(i) 留置開始時の告知

 新たに収容した被留置者に対し、被留置者の処遇は、全て留置業務担当者が行う旨を留置開始時に告知する


(ii) 留置場入出場のチェック等

 捜査上の必要から被留置者を留置場から出場させる際には、捜査主任官がその必要性について個別に実質的なチェックを行った上で文書により留置主任官に要請し、留置主任官の承認により行うこととされており、捜査員が被留置者の処遇に関与するなどの不適切な取扱いがなされないよう、捜査と留置の両方の責任者がチェックを行う。出入場の時刻は、留置係が全ての被留置者について作成している出入簿に記録され、留置部門による厳格なチェックがなされている。この記録は、裁判官等の要求があれば公判廷に提出されうる。


(iii) 日課時限の確保

 取調べ等の捜査活動によって、食事、睡眠等の日課時限に支障を及ぼすことのないよう、必要な場合には留置担当者から捜査主任官に対し取調べ等の打ち切り又は中断を要請し、日課時限の確保に努めている。


(iv) 食事の提供

 食事は、被留置者の処遇の最も重要なものの一つであり、捜査員が取調室等で食事を摂らせることはない。


(v) 接見、差入れの取扱い

 接見、差入れは留置業務であり、捜査員にその申し出がなされた場合にも、必ず留置担当者に引き継ぐこととされている。


(vi) 被留置者の身体検査、所持品検査及び所持品の保管

 被留置者の身体検査、所持品検査及び所持品の保管は、留置主任官の責任においてなされることとされており、捜査員が検査に立ち会ったり、所持品を保管したりすることは許されない


(vii) 検事調べ、医療等のための被留置者の護送

 検事調べのために留置場から法務省の管轄下にある取調室へ被留置者の身柄を移したり、医療等のために留置場から医療施設へ被留置者の身柄を移したりする際の被留置者の護送は留置主任官の責任においてなされており、被留置者の戒護員には、原則として管理部門の者、少なくとも当該捜査に関係していない者を当てることとしている。


第11条

 契約上の義務の不履行は、民事上の責任を生ずるにとどまり、第3回報告で述べたとおり、右不履行が犯罪とされることはなく、従って何人もこれを理由として拘禁されない。


第12条

我が国の難民政策

(a) 難民の取扱い及び手続

 1982年に我が国について難民条約及び難民議定書の効力が生じて以来、我が国はこれらの条約等に定める諸規定を誠実かつ厳正に履行しており、出入国管理及び難民認定法に規定する難民認定制度及び一時庇護のための上陸の許可制度並びにその運用は同条約等の内容に合致するものとなっている。


(b) 難民条約上の難民

1996年9月末までの難民認定事務の処理状況は以下の通り。


受理 1259人
審査結果 取下げ 201人
認定 208人
不認定 702人
未処理 148人

(c) インドシナ難民

(i)インドシナ三国からの難民の我が国への定住受入れについては、1996年9月末までの定住総数は10,085人となっている。


(ii) ボート ・ ピープル

 いわゆるボート・ピーブルについては、1975年5月以来その上陸を認めてきたが、ボート・ピープルの急増に対応するため、1989年6月に開催されたインドシナ難民国際会議の合意を踏まえ、同年9月13日からいわゆるスクリーニング制度(迫害から脱出した本来の難民と豊かな生活を求める経済難民とを区分するもの) として一時庇護のための上陸許可の審査を実施してきた。


 しかし、近年のインドシナを巡る政治経済情勢等の変化を背景とし、1994年2月に開催された同会議運営委員会の合意を踏まえ、同年3月5日から一時庇護のための上陸許可の審査を実施せず、一般の外国人と同様不法入国者として退去強制手続を執っている。ただし、これらのボート・ピープルから難民である旨の申出があった場合には、難民認定手続を開始することとしている。


 なお、1994年3月4日までに入国したボート・ピープルは、13,768人、同年3月5日以降1996年6月末までに到着したボート・ピープルは151人となっている。


第13条

退去強制

(a) 外国人の退去強制の決定手続き

 外国人の退去強制については、その事由及び手続が、出入国管理及び難民認定法に規定されており、同法に基づき行われている。


 同法に定める退去強制手続は、予め退去強制事由を明確に定めておき、これに該当する者につき、その該当事実を確認するための手続であると同時に、退去強制事由に該当すると認定された者の異議申出制度をも組み込んだ制度となっている。詳述すれば、入国審査官によって退去強制事由に該当すると認定された者であっても、これに異議がある場合には、特別審理官に対して口頭審理を請求することができ、この口頭審理の結果やはり退去強制事由に該当すると判定された場合でも、これに異議があれば、さらに法務大臣に対して異議の申出を行い、法務大臣の最終判断を求めることができる仕組みとなっている。


 これらの手続は、いわゆる事前手続として、退去強制の決定に先立って行われるものであり、この間に退去強制が執行されることはない。このような三段階の手厚い事前手続の保障があることに加え、我が国の司法制度上、行政の決定についての訴訟を提起し、その適否を争うことができることになっており、上記のような退去強制手続を経て退去強制が決定されても、司法の救済を求めて争うこともできる仕組みになっている。


 なお、上記の口頭審理においては、容疑者に対して意見・弁解を述べ反論・反証する機会が与えられる。また、容疑者は代理人を選任することができ、代理人の助けを受けることができる。


(b) 退去強制において例外的に自らが迫害を受ける可能性がある国に送還される場合

 入管法第53条第3項においては、被退去強制者の送還先国について、いわゆるノン・ルフールマンの原則(迫害を受ける国又は地域への外国人の送還は原則として行わない)が明文化されている。


 ただし、法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合、具体的には、法務大臣が日本国の安全にとって危険であると認める者及び1年を超える実刑に処せられた犯罪者等で社会にとって危険であると認める者については、ノン・ルフールマンの原則の例外が適用される。


第14条

 本条に関する我が国における法的枠組は、第3回報告で述べたとおりであるが、以下につき追加する。


必要的弁護事件制度

 被告人の権利を保護し、公判審理の公正を確保するため、一定の重大事件(死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件)については、弁護人がなければ、開廷及び審理の続行をすることができないこととされている。このような事件において、弁護人が出廷しないとき又は弁護人がないときは、被告人には国選弁護人が付される。


公判準備のための弁護側への証拠開示

 公判において検察官が証拠調べの請求をするときは、被告人又は弁護人は、あらかじめ、証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人についてはその氏名及び住居を知る機会、証拠書類や証拠物についてはこれを閲覧する機会がそれぞれ与えられており、検察官は、証拠調べの請求をする予定の証拠書類又は証拠物があるときは、第1回公判期日前に、なるべく速やかに閲覧する機会を与えることとされている。また、以上に加えて、裁判所は、証拠調べの段階において、一定の場合、個別的に検察官手持ちの証拠についての開示命令を発することができる。このように、被告人及び弁護人には、公判の準備をするために必要な証拠の開示を受ける十分な機会が保障されている。


民事訴訟法の改正

 民事訴訟手続に関し、我が国は、民事訴訟法を有しており、同法は、本条に適合した内容を有しているものである。


 しかしながら、同法のうち民事訴訟の手続を規律する部分は、1925年に全面的に改正された後は、数回にわたって部分的な改正が行われたのみであり、基本的には、1926年当時の民事訴訟手続の構造を維持したままになっている。同法制定当時から現在に至るまでの間の社会の変化や経済の発展等には著しいものがあり、これに伴って民事紛争も複雑、多様化していること等から、民事訴訟の手続についての現行法の規律が現在の社会の状況に適合するかどうかについては、種々の観点から疑問が提起されている。また、このことに関連して、裁判に時間がかかりすぎるなどの民事訴訟に関する様々な問題点や不満も国の内外から指摘されている。


 こうした状況の下で、法務大臣の諮問機関である法制審議会の民事訴訟法部会は、1990年7月、民事訴訟を利用しやすく、分かりやすいものとすることを目標として、民事訴訟手続に関する規定の全面的な見直しのための調査審議を開始した。同部会は二回にわたって法曹界、大学、経済団体、労働団体等関係団体に幅広く意見を照会するなど、慎重な作業を経て改正要綱案をとりまとめ、これに基づき、1996年2月26日、「民事訴訟手続に関する改正要綱」が法務大臣に答申された。同答申に基づき、同年3月12日に「民事訴訟法案」が国会に提出され、一部修正の上、同年6月18日成立した。同法は、公布の日である同年6月26日から起算して2年を超えない範囲において、政令で定める日から施行されることとなっている。


 新しい民事訴訟法における主な改正点は、以下のとおり。


(a)争点及び証拠の整理手続の整備

 争点及び証拠の整理を集中的に行うことを目的とする口頭弁論である「準備的口頭弁論」、現行の準備手続をより充実させた「弁論準備手続」、当事者の出頭なしに準備書面の提出等により争点及び証拠の整理をする手続である「書面による準備手続」という3種類の手続を設け、事案の性質、内容等に応じて適切な争点整理手続を選択して、早期に適切な争点等の整理をすることができるようにしている


(b)証拠収集手続の拡充

 弊害が生じないように配慮しつつ、訴訟に必要な証拠の収集をし易くし、もって当事者の争点等の整理に向けた十分な準備をすることができるようにするため、文書提出命令の対象となる文書を拡充したほか、文書提出命令の手続を整備し、また、当事者が主張立証を準備するために必要な情報を直接相手方から取得することができるようにする当事者照会の手続を設けている。


(c)少額訴訟手続の創設

 30万円以下の金銭の支払を求める事件について、原則として一回の期日で審理を遂げ、即日判決の言渡しをすること、被告による任意の履行がされるよう、被告の資力等を考慮して、分割払や支払期限の猶予を命ずる判決をすることができるようにすること等を内容とする特別の訴訟手続を創設し、一般市民が訴額に見合った経済的負担で紛争の適正・迅速な解決を受けられるようにしている。


(d)最高裁判所に対する上訴制度の整備

 最高裁判所に対する上告について、上告受理の制度を導入し、最高裁判所は、法令の解釈に関する重要な事項を含まない事件については、決定で、上告を受理しないことができるようにした一方、決定手続で処理される事件について、許可抗告の制度を導入し、法令の解釈に関する重要な事項を含むものについては、法令の解釈の統一を図る見地から、高等裁判所の許可により、最高裁判所に抗告することができるようにし、最高裁判所が憲法判断及び法令の解釈の統一という重大な責務を十分に果たすことができるようにしている。


法律扶助制度

 第2回報告別添1で述べたとおり、憲法第32条に定められている「裁判を受ける権利」を保障する制度の一つとして、法律扶助制度がある。これは、貧困により民事訴訟を遂行することができない人々(在日外国人を含む)のために、訴訟費用、弁護士報酬等を立て替えるものである。


 立替金は全額償還を原則としているが、相手方から金銭の支払いを得られないなど特別の事情がある場合には、償還を一時猶予し、又は免除している。法律扶助事業の主体となっているのは、1952年に日本弁護士連合会が設立した財団法人法律扶助協会であり、国は、同協会に補助金を支出し、業務を監督することにより、事業の適正な運営に努めている。


 法律扶助を行った件数は、年々増加する傾向にあり、1995年度における件数は、6,147件である(この他に、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災の被災者のための特別対策として1,373件の扶助を行っている。)。


第15条

 第3回報告で述べたとおり、憲法第31条は、罪刑法定主義を定め、同第39条において、遡及処罰の禁止を規定し、本条の権利を保障している。


第16条

 第3回報告で述べたとおり、憲法は、個人の尊重(第13条)、基本的人権の享有(第11条)、生命、自由及び幸福追求に対する権利(第13条)を規定し、また裁判を受ける権利(第32条)を定めて、最終的には司法的救済手段による個人の権利を保障している。


第17条

各種盗聴に対する規制及び現状

 第3回報告で述べたとおり、我が国では、電波法、有線電気事業法、電気通信事業法により通信の秘密及び個人情報が保護されている。警察では、通信の秘密及び個人情報の保護を侵害する犯罪の取締りに努めている。


 なお、電話盗聴については、電気通信事業法第104条及び有線電気通信法第14条により禁止されており、違反者は、刑事処罰を受けることになる。


行政機関の有する個人情報保護に関する実情

 第3回報告で述べたとおり、近時、「プライバシー権」の名において、肖像権、及び人の名誉・信用に係る過去の事実をみだりに知られない権利等が法的保護の対象とされつつある。これらの権利は、判例上、憲法第13条により認められる。


 右動き及び近年の個人情報の電子計算機による処理の進展に対応し、第3回報告で述べたとおり、行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律が制定され、電子計算機処理に係る個人情報の取扱いに関する基本ルールを定めるとともに、何人にも自己に関する情報の開示請求権が認められており、訂正等の申出ができる。


第18条

宗教法人法改正の報告

 宗教法人法は、憲法に定められている信教の自由の保障と政教分離の原則を基本とし、宗教団体に法人格を付与し、宗教法人が自由でかつ自主的な活動を行うための物的基礎を確保することを目的とする法律として、1951年に制定されたものであり、宗教団体の監督や宗教活動の規制を目的とするものではない。


 同法は、制定当時の社会事情に基づいて制定されたものであり、その後の社会状況や宗教法人の実態の変化に適切に対応できない面が生じたため、宗教法人の目的を維持しつつ、社会状況や宗教法人の実態の大きな変化に対応するために、1995年、必要最小限の改正を以下のとおり行った。なお、同改正は、宗教法人の宗教上の事項に干渉、介入したり、新たに所轄庁に宗教法人を管理監督する権限を与えるものではない。


(a) 広域的に活動する宗教法人に適切に対応するため、その主たる事務所の所在地以外の他の都道府県内に境内建物を備える宗教法人の所轄庁を文部大臣とした。


(b) 宗教法人がその目的に沿って活動していることを所轄庁が継続的に確認できるようにするため、宗教法人の事務所備付け書類を見直し、そのうち財務関係書類等の写しを所轄庁へ提出することを義務付けた。


(c) 宗教法人のより民主的な運営と透明性の向上に資するため、信者等に事務所備付け書類等の閲覧請求権を認めた。


(d) 所轄庁がその権限を適切に行使するための手続きを明らかにするため、裁判所に解散命令の請求をする等、所轄庁がその権限の行使の要件に該当すると認める場合、宗教法人に対して報告を求め、質問を行えるようにした。


 なお、宗教法人を設立しなくても、個人ないし団体が憲法で保障された信教の自由に基づき宗教活動を自由に行えることはいうまでもない。


労働者に対する思想信条に基づく差別の防止措置

 労働基準法第3条においては、使用者が、労働者の信条を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならないことを定めている。


第19条

表現の自由に対する規制

(a) 教科書検定

 我が国では、学校教育法により、小・中・高等学校において教科の主たる教材として使用される教科書については、民間で著作・編集された図書について、文部大臣が教科書として適切か否かを審査し、これに合格したものを教科書として使用することを認める教科書検定制度が採用されている。


 小・中・高等学校の教育については、国民の教育を受ける権利を実質的に報償するため、(i) 全国的な教育水準の維持向上、(ii) 教育の機会均等の保障、(iii) 適正な教育内容の維持、(iv) 教育の中立性の確保、などが要請されている。


 教科書の検定は、上記の要請を実現するために、これらの観点に照らして、不適切と認められる内容を含む図書のみについて、主たる教材である教科書として発行することを禁ずるものにすぎず、表現の自由の制限は合理的で必要やむを得ない限度のものであり、この考え方は、1993年3月16日最高裁判所判決においても示されているところである。


(b) マスメディア(報道の自由)に対する規制

 本条に規定する権利は、第3回報告で述べたとおり、憲法第21条第1項により保障されている。報道の自由も同条により保障されている。  報道の自由は、報道が放送による場合と新聞による場合とでは、異なった扱いを受けている。


(i) 報道が放送による場合

 放送法は、放送番組の編集にあたって、(a) 公安及び善良な風俗を害さないこと、(b) 政治的に公平であること、(c) 報道は事実をまげないですること、(d) 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすることという四つの番組準則によることを定め、更に「教養番組又は教育番組並びに報道番組及び娯楽番組を設け、放送番組の相互の間の調和を保つようにしなければならない」と規定して調和のとれた番組比率を要求している(同法第3条の2、1及び4項)。


(ii) 報道が新聞による場合

 新聞報道を規制する法令はなく、新聞は自らが定めた「新聞倫理綱領」を指導原理として、新聞に課された社会的使命を果たしている。


 報道が正確な内容を持つためには、報道のための情報を集める取材の自由を保障することが必要があるが、取材活動が第三者の権利や公共の利益に抵触する可能性もある。取材行為の許されない限界として、判例(1988年5月31日最高裁判決)は「報道機関といえども、取材に関し他人の権利・自由を不当に侵害することのできる特権を有するものではないことはいうまでもなく、取材の手段・方法も贈賄、脅迫・強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑事法令に触れないものであっても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない」ことを明らかにしている。


 取材活動の制限に関する法令としては、公判廷における写真の撮影、録音又は放送は、裁判所の許可を得なければ、これをすることが出来ない」とした刑事訴訟規則第215条がある。


第20条

 本条1については、我が国は、国民の間に戦争に対する極めて強い否定的感情が存在しており、戦争宣伝が実際に行われることがほとんど考えられないとの状況にあることは、第3回報告のとおりである。右事情は前回審査以降変わっておらず、将来仮に、戦争宣伝行為による弊害の危険性が生じることとなれば、必要に応じ、表現の自由に十分に配慮しつつ立法措置を検討することになるであろうことも第3回報告のとおりである。 本条2についても、第3回報告のとおり、現行法制により規制し得ない具体的な弊害が生じる場合には、公共の福祉を害しない限度において表現の自由に配慮しつつ、さらに立法措置を検討することとしている。 なお、第2条で述べたとおり、我が国は、1995年12月に、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約に加入したが、「人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布」及び「人種差別の扇動」の処罰義務を規定した同条約第4条を、憲法の下における集会、結社及び表現の自由等の保障の重要性に鑑み、右保障と抵触しない限度で第4条(a)及び(b)の義務を履行する旨の留保を行った


第21条

 第3回報告で述べたとおり、本条約に規定された権利は、憲法第21条第1項により保障されており、また、右権利に対する制限(破壊活動防止法第5条及び伝染病予防法第19条第1項第3号等)も、本条に合致した必要最小限のものとなっている。


第22条

法的枠組み

 本条に規定する権利については、第3回報告で述べたとおり、関係国内法令によって保障されている上に、関係ILO諸条約を締結し、これを誠実に遵守しているところである。


労働組合

(a) 概要

 特に、労働組合法は、「労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより、労働者の地位を向上させること」を目的として、「労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選任することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること」、「並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成すること」を規定している(労働組合法第1条第1項)。


 また、労働組合の組合員に対する使用者の不利益取扱いや使用者の労働組合に対する正当な理由のない団体交渉拒否及び使用者の労働組合に対する支配介入を不当労働行為として禁止し(同法第7条)、不当労働行為からの救済のため、公・労・使3者構成の独立行政委員会である労働委員会を設けている。


(b)労働組合員の数、及び組織率


 1995年の日本における労働組合数(単位労働組合)は、70,839組合、労働組合員数(単一労働組合)は、12,614千人。雇用者に占める労働組合員数の割合(推定組織率)は、23.8%である(労働組合数、労働組合員数及び推定組織率については、別表7)。


(c)労働委員会における救済


 労働者又は労働組合は、使用者の不当労働行為に対する救済を労働委員会に申し立てることができる。労働委員会は、審査の上、理由があると判断したときは、当該使用者に対して救済命令を発する。


 労働委員会による不当労働行為救済手続は、裁判所による救済に加えて、労働者保護を更に進めるため、労働者又は労働組合がその意思によって救済を求めることができるようにした制度である。


別表7 労働組合数、労働組合員数及び推定組織率
労働組合数 労働組合員数 雇用者数 推定組織率
1995年 32,065(70,839) 12,614千人(12,495千人) 5,309万人 23.8%

労働省「労働組合基礎調査」(1995年6月末日現在)


(注)


(1) 労働組合数、労働組合員数は、単一労働組合である。 ( )内は、単位労働組合数及び組合員数である。


(2) 雇用者数は、総務庁統計局「労働力調査」1995年6月分による。


宗教団体に対する破壊活動防止法の適用

 公安調査庁長官は、破壊活動防止法に基づき、1996年7月、宗教団体(オウム真理教)に対する解散指定の処分を公安審査委員会に請求した。  解散指定の処分は、暴力主義的破壊活動を行った団体が、継続又は反復して将来さらに団体の活動として暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれがある等の同法に規定する解散指定の要件を満たしていると認められる場合に行われるものであり、本規約第18条及び第22条にいう、「法律で定める制限であって、公共の安全、他の者の権利及び自由の保護のため民主的社会において必要な制限」である。


(なお、同請求は、将来の危険性に関する立証が不十分であるとの理由で1997年1月棄却された。)


第23条

民法の一部を改正する法律案要綱答申(選択的夫婦別氏制の導入、離婚原因の規定の整備)


 法務大臣の諮問機関である法制審議会は、1991年から5年間にわたり民法の婚姻及び離婚に関する規定等の見直し作業をしてきたが、1996年2月に「民法の一部を改正する法律案要綱」を決定し、同大臣に答申した。


 この答申は、婚姻及び離婚に関する現在の民法の規定が1947年に全面的に改正されてから既に約半世紀が経過し、その間に、婚姻及び離婚に関する国民意識や社会情勢に変化が生じたことを踏まえたものであり、その中で提案されている婚姻及び離婚法制に関する主な改正項目は、次のとおりである。


(a)婚姻をすることができる年齢について、現行法では、男子は満18歳、女子は満16歳とされているのを改め、男女とも満18歳とする。


(b)女子の再婚が禁止される期間について、現行法では、前婚の解消又は取消しの日から6箇月とされているのを改め、嫡出推定の重複を回避するために必要な最低限の期間である100日に短縮する。


(c)夫婦が称する氏について、現行法では、夫婦は、婚姻の際の合意により夫又は妻の氏を称するものとされているのを改め、夫婦は、婚姻の際の合意により、夫若しくは妻の氏を称するか、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。


(d)離婚の際に子の監護について必要な事項として面会・交流及び監護費用の分担に関する事項を定めるべきことを明らかにする。


(e)離婚に伴う財産分与の目的及び考慮事情を明らかにする。


(f)婚姻関係の回復しがたい破綻が裁判上の離婚原因であることを明らかにする。


第24条

 本条に規定する権利の我が国における法的枠組み及びその享受の実態については、児童の権利に関する条約第1回報告のとおり。なお、本条約第3回報告審査に係る主要部分は、以下のとおり。


(a)国籍を取得する権利(児童の権利に関する条約第1回報告第7条部分)

 我が国の国籍法は、原則として父母両系血統主義を採用しており、出生の時に父又は母が日本国民であるときは日本国民となると規定している(国籍法第2条1号)。しかし、この主義を貫くと、我が国で出生した子が無国籍となる場合も生じうることから、これを防止するため、出生地主義を加味するという配慮をしている。すなわち、子が日本で生まれ、父母がともに知れないとき、又は父母が国籍を有しないときは日本国民となるとされている(国籍法第2条第3号)。


 この措置によっても、限られた範囲で、なお、無国籍が生ずる場合があり得るが、国籍法第8条第4号により、日本で生まれ、かつ、出生の時から3年以上日本に住所を有するものについては、帰化によって日本国籍を取得することが可能であり、しかもこの場合は、帰化許可条件のうち、能力条件及び生計条件を要していないほか、住所条件も緩和されているので、日本国籍の取得が極めて容易になっている。


(b)父母の一方又は双方から分離されている児童の父母との人的な関係等の維持の権利(児童の権利に関する条約第1回報告第9条部分)

 父母の一方又は双方から分離されている児童とは、具体的には父母の一方若しくは双方又は児童自身が入国者収容所等に収容され又は入所している児童を指すと考えられる。入国者収容所においては、収容所(又は収容場)の保安上支障がない範囲内においてできる限りの自由が与えられており(出入国管理及び難民認定法第61条7)、面会、信書の発受等も基本的に認められている(被収容者処遇規則第34条、第37条)。


(c)学校の規律(児童の権利に関する条約第1回報告第28条部分)

 我が国では、体罰は学校教育法第11条により厳に禁止されているところであり、文部省では、この法律の趣旨が実現されるようにあらゆる機会を通じて教育関係機関を指導している。


 また、法務省の人権擁護機関でも、体罰に関する情報を得た場合には、児童の基本的人権を擁護するという立場から、関係者から事情聴取する等して事実の調査を行い、その結果に基づいて、体罰を加えた教師及びその教師が所属する学校の長等に対し、人権思想の啓発(「説示」又は「勧告」)や再発防止の方策を要望する等の措置をとっている。更に、学校、地域社会等とも連携を図り、啓発活動を行っている。1994年、1995年における全人権侵犯事件数(それぞれ16,035件、16,296件)のうち、体罰事件の件数は、それぞれ89件、111件であった。


第25条

 本条に規定する権利の我が国における法的枠組みについては、第3回報告で述べたとおり。


第26条

嫡出でない子の相続分

(a) 政府の取組

 嫡出でない子の法定相続分を嫡出である子のそれの2分の1としている我が国の民法の規定(第900条第4号ただし書)については、第3回報告の審査を踏まえて出された人権委員会の意見において、本条に適合しない旨のコメントが出されたところであるが、我が国としては、嫡出である子と嫡出でない子との法定相続分に差異を設けることが、直ちに嫡出でない子を不合理に差別するものとは考えていない。


 しかし、相続制度の在り方は優れて立法政策上の問題であることから、相続をめぐる社会の状況の変化があれば、これに応じて、この制度を見直していく必要があることはいうまでもない。こうした観点から、我が国政府は、現在、嫡出である子と嫡出でない子の法定相続分を同等化する法改正を検討しているところであり、法務大臣の諮問機関である法制審議会が1996年2月に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」において、そのような改正方向が示されている。


 なお、我が国の戸籍制度は、民法等の実体法が規定している国民の身分関係を正確に登録・公証することを目的とするものであるから、民法が法律婚主義を採用して嫡出である子と嫡出でない子との区別を設け、子の氏及び親権者のみならず法定相続分についても差異を設けているので、戸籍には嫡出である子と嫡出でない子との区別をそのまま記載する必要がある。このように、嫡出である子と嫡出でない子とを区別した戸籍の記載は、民法上の区別に基づく合理的な理由によるものである。


(b) 国民の意識

 1996年に実施された世論調査の結果をみると、現行制度を維持すべきであるとする意見が全体の38.7%を占め、嫡出である子と嫡出でない子の相続分を同等化すべきであるとする意見は、25.0%とどまっている状況にあり、この制度の改正についての国民の意識が成熱しているとは言い難い。


同和問題

 政府は、同和問題は憲法に保障された基本的人権に関わる重要な問題であるとの認識のもとに、3度にわたる特別措置法に基づき、これまで関係諸施策の推進に努めてきた。


 この結果、1993年度に実施した同和地区実態把握等調査の結果からみても、物的な生活環境の改善をはじめ様々な面で存在していた較差は大きく改善された。一方、同和問題に関する国民の差別意識は、様々な創意工夫の下に教育及び啓発が推進されたきた結果、着実に解消に向けて進んでいるものの、結婚問題を中心に依然として根深く存在している。


 現行の地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律は、1997年3月で失効することとされているが、同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的な在り方については、1996年5月17日に、同和問題に関する国の審議機関である地域改善対策協議会から意見が具申されたところである。政府は、この意見具申と与党における合意をも踏まえ、同和問題の早期解決に向けた今後の方策について、同年7月26日に閣議決定を行ったところである。その概要は第一に、現行の地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律に基づいて実施している45種類の事業を一般対策に円滑に移行していくため、15事業について経過的な法的措置を講じ、その他の事業については、一般施策に工夫を加えるなどの措置を講じることとしている。第二に、差別意識の解消に向けた教育及び啓発の推進と人権侵害による被害の救済等の対応の充実強化については、「人権教育のための国連10年」に係る施策の積極的な推進、人権相談業務の活性化等を図ることとしている。第三に、行政の主体性の確立、同和関係者の自立向上、えせ同和行為の排除及び同和問題についての自由な意見交換のできる環境づくりに引き続き取り組むこととしている。


第27条

アイヌの人々に関する施策

(a)北海道ウタリ対策

 1993年に北海道庁が実施した「北海道ウタリ生活実態調査」によれば、アイヌの人々の生活水準は着実に向上しつつあるが、なお一般道民との格差は是正されたとはいえない状況にある。このため、第3回報告で述べた「第3次北海道ウタリ福祉対策」に引き続き、「第4次北海道ウタリ福祉対策」(1995年~2001年)を推進し、アイヌの人々の生活水準の向上と一般道民との格差の是正を図っている。


 日本政府は、引き続き第3回報告で述べたとおり、北海道庁が進めている右施策に協力し、これを円滑に推進するため、関係予算の充実に努めている。


(b)ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会

 内閣官房長官の要請に基づき1995年3月にスタートした「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」(伊藤座長)は、この4月に報告書を内閣官房長官に提出した。この報告書は、中世末期以降の歴史の中で、和人との関係で我が国固有の領土である北海道に先住していたと認められるアイヌの人々の固有の事情に立脚し、アイヌ語や伝統文化の保存振興等のため、今後可能な限り立法措置を含め特段の措置を講じること及びこれに伴い北海道旧土人保護法等を廃止することが望ましい旨述べている。政府は、この報告書を尊重し、その内容の詳細を検討の上、適切に対処する旨態度表明している。


資料1

1.最高裁判所1983年6月22日大法廷判決

 新聞紙等の閲読の自由に対する制限が絶対に許されないものではなく、それぞれの場面において、これに優越する公共の利益のための必要から、一定の合理的制限を受けることがあることもやむをえないとした上で、「未決勾留により監獄に拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由についても、逃亡及び罪証隠滅の防止という勾留の目的のためのほか、前記のような監獄内の規律及び秩序の維持のために必要とされる場合にも、一定の制限を加えられることはやむをえないものとして承認しなければならない。しかしながら、未決勾留は、前記刑事司法上の目的のために必要やむをえない措置として一定の範囲で個人の自由を拘束するものであり、他方、これにより拘禁される者は、当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障されるべき者であるから、監獄内の規律及び秩序の維持のためにこれら被拘禁者の新聞紙、図書等の閲読の自由を制限する場合においても、それは、右の目的を達するために真に必要と認められる限度にとどめられるべきものである。したがって、右の制限が許されるためには、当該閲読を許すことにより右の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該新聞紙、図書等の内容その他の具体的事情のもとにおいて、その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である」と判断した裁判例


2.最高裁判所1992年7月1日大法廷判決

 憲法第21条第1項が定める集会の自由といえどもあらゆる場合に無制限に保障されなければならないものではなく、公共の福祉による必要かつ合理的な制限を受けることがあるのはいうまでもないとした上で、「このような自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、制限が必要とされる程度と制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を衡量して決めるのが相当である」と判断した裁判例


3.最高裁判所1995年3月7日小法廷判決

 公の施設である市民会館の使用不許可事由を定める条例の解釈適用に当たっては、市民会館の使用を拒否することによって憲法の保障する集会の自由を実質的に否定することにならないかどうかを検討すべきであることした上で、「集会の用に供される公共施設の管理者は、当該公共施設の種類に応じ、また、その規模、構造設備等を勘案し、公共施設としての使命を十分に達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであって、これらの点からみて利用を不当とする事由が認められないにもかかわらずその利用を拒否し得るのは、利用の希望が競合する場合のほかは、施設をその集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる場合に限られるものというべきであり、このような場合には、その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受けることがあるといわなければならない。そして、右の制限が必要かつ合理的なものして是認されるかどうかは、基本的には、基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を衡量して決せられるべきものである」と判示した裁判例


資料2

1.最高裁判所1991年10月17日小法廷判決

 未認知の子等を扶養控除の対象外とする所得税法第84条、第2条第1項第34号の規定が本規約第26条、第23条1に違反するとの上告理由を排斥した裁判例


2.最高裁判所1992年11月16日小法廷判決

 再入国不許可処分が本規約第12条4に違反するものではないとした原判決を「正当として是認できる」とした裁判例


3.最高裁判所1996年2月22日小法廷判決

 指紋押捺制度を定める外国人登録法第14条は、本規約第7条、第26条に違反しないとした裁判例


資料3

死刑の定めのある罪

1.内乱首謀(刑法第77条第1項第1号)

2.外患誘致(刑法第81条)

3.外患援助(刑法第82条)

4.現住建造物等放火(刑法第108条)

5.激発物破裂(刑法第117条第1項、第108条)

6.現住建造物等浸害(刑法第119条)

7.汽車転覆等致死(刑法第126条第3項)

8.往来危険による汽車転覆等致死(刑法第127条、第126条第3項)

9.水道毒物等混入致死(刑法第146条後段)

10. 殺人(刑法第199条)

11. 強盗致死(強盗殺人を含む。) (刑法第240条後段)

12. 強盗強姦致死(刑法第241条後段)

13. 爆発物不法使用(爆発物取締罰則第1条)

14. 決闘殺人(決闘罪に関する件第3条、刑法第199条)

15. 航空機墜落等致死(航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律第2条第3項)

16. 航空機強取等致死(航空機の強取等の処罰に関する法律第2条)

17. 人質殺害(人質による強要行為等の処罰に関する法律第4条第1項)