規約第40条に基づき締約国から提出された報告の検討-自由権規約委員会の最終見解

自由権規約委員会 第49回会期 (仮訳)
配布 一般
1993年11月4日
原文:英語


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1.委員会は、1993年10月27日及び28日に開かれた第1277回から1280回の委員会で、日本の第3回定期報告書(CCPR/C/70/Add.1`and`Corr.1`and`2)を審査し、以下のコメントを採択した。


A.序論

2.締約国の報告書の提出に関する当委員会の指針にしたがって作成され、かつ期日に遅れることなく提出された秀れた報告書について、当委員会は日本政府に賛辞を呈するものである。特に、人権擁護に関するさまざまの分野の専門家から構成された日本政府の有能な代表団が報告書の審査に参加したことを、当委員会は、高く評価するものである。当委員会は、報告書の提出に際して、代表団が詳細な情報を提供し、また委員による質問に対して包括的な回答を提出したことが、実りある対話に大いに貢献したと考える。


3.日本政府がその報告書を広く公にし、それにより多くの非政府組織(NGO)が報告書の内容を知ることが可能とされ、それぞれの組織がその関心事を表明することができたことについて、当委員会は留意し、またこれを評価するものである。また、非政府組織(NGO)のいくつかは、当委員会による報告書審査に際して当地に来られていた。


B.規約の実施に影響を及ぼす要因と困難

4.性別による役割の相違に関する伝統的な考え方や、個人とその属する集団の特有な関係、また国民の均質性に関連する特殊性といった様々な社会的要因のため、日本政府が規約実施の措置を講ずる際に様々な困難を経験することが多々あることを、当委員会は留意するものである。


C.肯定的要素

5.当委員会は、市民的及び政治的諸権利に関する問題を取り扱ってきた際の日本政府の真剣な取り組みと、規約に基づく義務履行の取り組みを留意し、これに満足するものである。


6.当委員会は、1988年における日本の第2回定期報告書の審査以降、日本における人権状況が向上しており、また日本においては人権がおおむね尊重されている、と考える。


7.さらに、当委員会は、日本が国際的レベルにおける人権の促進に積極的に援助を行っていることを留意し、これを評価するものである。また、当委員会は、日本社会において規約の諸規定が周知されていることを留意するものである。当委員会が日本の第3回定期報告書を審査した際、多くの日本の非政府組織が関心を表明したことによっても、このことが確認されている。


C.主な懸念事項

8.当委員会は、規約が国内法と矛盾する場合に規約が優先するものであることが明瞭ではなく、また、規約の条項が日本国憲法のなかに十分に包含されていない、と考える。さらに、日本国憲法第12条及び第13条の「公共の福祉」による制限が、具体的な状況において規約に適合したかたちで適用されるものであるかどうか、も明瞭ではない。


9.当委員会は、在日韓国・朝鮮人、部落民及びアイヌ少数民族のような社会集団に対する差別的な取扱いが日本に存続していることについて懸念を表明するものである。永住的外国人であっても、証明書を常時携帯しなければならず、また刑罰の適用対象とされ、同様のことが、日本国籍を有する者には適用されないことは、規約に反するものである。さらに、旧日本軍において軍務についたが、もはや日本国籍を有していない韓国・朝鮮や台湾の出身者は、その恩給に関して差別されている。


10.さらに、当委員会は、雇用における報酬に関し、日本では、女性に対する差別的慣行が存続しているようであることについて懸念を表明するものであり、また、事実上の差別問題がより広範に存続していることに留意するものである。当委員会は、これらの慣行を禁止するために日本政府当局が法的措置を講じてきたこと、また機会均等を促進するための包括的なプログラムが存在するとの事実を認めるものである。しかし、日本においては、法律の制定と社会の一定のセクターの実際の行動との間に、ある種のギャップが存在すると思料される。当委員会は、労働組合活動家に対する差別の訴えに関する解決の手続が非常に長期化されていることに留意するものである。


11.当委員会は、婚外子に関する差別的な法規定に対して、特に懸念を有するものである。特に、出生届及び戸籍に関する法規定と実務慣行は、規約第17条及び第24条に違反するものである。婚外子の相続権上の差別は、規約第26条と矛盾するものである。


12.当委員会は、日本の刑法典の下で死刑が科せられる犯罪の数と質について当惑している。当委員会は、規約の文言が死刑廃止の方向へ向いていること、また死刑をまだ廃止していない国においては、最も重大な犯罪だけに死刑を適用しなければならないことを想起するものである。さらに、被拘禁者の状況に関して懸念すべき事柄が存在する。当委員会は、特に、面会や通信に対する不当な制限や、家族に対して処刑を通知しないことは、規約と相い入れない、と考えるものである。


13.当委員会は、規約第9条、第10条及び第14条に規定される保障が、次の点において完全には守られていないことに懸念を有している。すなわち、公判前の勾留が捜査活動上必要とされる場合以外においても行われていること、勾留が迅速かつ効果的に裁判所の管理下に置かれることがなく、警察の管理下に委ねられていること、取調べはほとんどの場合に被勾留者の弁護人の立会いの下でなされておらず、取調べの時間を制限する規定が存在しないこと、そして、代用監獄制度が警察と別個の官庁の管理下にないこと、である。さらに、弁護人は、弁護の準備を可能とする警察記録にあるすべての関係資料にアクセスする権利を有していない。


14.当委員会は、表現の自由の権利の尊重に関して、法律や判決の中には制限的なアプローチをしているものがあることを残念に思う。


15.当委員会は、在日韓国・朝鮮人が少数者に関する日本政府の概念から除外されていることを留意し、これを懸念するものである。少数者の概念を、締約国の国籍をもつ者に限定しない規約からみて、このことは正当化されない。


E.提言と勧告

16.当委員会は、日本が「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の両方の選択議定書と、「拷問及びその他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い又は刑罰を禁止する条約」を批准すること、を勧告する。


17.また、当委員会は、規約第2条、第24条及び第26条の規定に一致するように、婚外子に関する日本の法律が改正され、そこに規定されている差別的な条項が削除されるよう勧告する。日本に未だに存続しているすべての差別的な法律や取扱いは、規約第2条、第3条及び第26条に適合するように、廃止されなければならない。日本政府は、このことについて、世論に影響を及ぼすように努力しなければならない。


18.さらに、当委員会は、日本が死刑廃止への措置を講ずること、廃止までの間は死刑は最も重大な犯罪に限定されなければならないこと、死刑の執行を待っている被拘禁者の状況が再審査されること、また被拘禁者に対するいかなる形態での不当な取扱いも規制する予防的措置をさらに改善すること、を勧告する。


19.規約第9条、第10条及び第14条が完全に適用されることを保障する目的で、当委員会は、公判前の手続き及び代用監獄制度*が、規約のすべての要件に適合するようにされなければならないこと、また、特に、弁護の準備のための便宜に関するすべての保障が遵守されなければならないこと、を勧告する。


(日本弁護士連合会訳)

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