日本政府の市民的及び政治的権利に関する国際規約第40条1(b)に基づく第3回報告

第一部: 一般的コメント

憲法を最高法規とする我が国法体系における人権擁護の制度的側面については、第1回及び第2回報告で述べたとおりであるが、その主要点及び補足的説明は次のとおり。


1.憲法における基本的人権尊重の考え方

(a) 我が国憲法は、国民主権を基本原理とし、平和主義及び基本的人権の尊重を重要な柱とする。


(b) 憲法の保障する基本的人権は、「現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」(第97条)。基本的人権には、(1)身体の自由、思想・言論の自由、及び信教の自由等のいわゆる自由権、(2) 国民自らが国家権力の発動に参加する機能としての参政権、及び(3) 労働者が人間たるに値する生活を営むための勤労権並びに国民が健康で文化的な最低限度の生活を営むための生存権等のいわゆる社会・経済権等が含まれている。特に、我が国の憲法は、10箇条にわたり、刑事訴訟に関連した被告人及び被疑者の権利を保障しているが、このことは、憲法がいかに個人の人権を重視しているかを示す証左といえる。


(c) また、憲法が国民に対して保障する権利は、第14条から第40条までに列挙されているものに限られず、個人の尊重及び幸福追求に対する国民の権利として、第13条を根拠として判例上認められる権利がある。(名誉、プライバシー等)


(d) 憲法は、「公共の福祉」により人権が制限され得る旨定めている(第12条及び第13条)が、この「公共の福祉」という概念は、各個人の基本的人権が平等に尊重されることを可能ならしめるために、基本的人権相互間の調整を図る内在的な制約理念として厳格に解釈されており、人権に不合理な制限を加えるものではない。


国が人権に制約を加える場合は、法律又は法律に根拠を有する規則に基づいて行うことが必要であり、なおかつ、その形式を踏めば無制限に制約できるという訳でもなく、「合理的」な制約に限られ、その合理性如何を判断する基準が「公共の福祉」である。


たとえば、“表現の自由”という人権について、他人の名誉を侵害する内容の表現行為を制約する場合、法律という形式をとる必要があり、かつその制約目的が、他人の名誉の保護という他の人権との調整を理由とすることから「公共の福祉」概念に合致するのである。


「公共の福祉」の具体的内容について明確に取り上げた判例はないが、別添1に掲げるように、合憲性が争われた法律、規則、処分について、「公共の福祉」に基づく人権の制約であるとして合憲とされた判例がある。


2.人権保障と統治機構

(a) 我が国においては、立法、行政及び司法の三権は、国会、内閣及び裁判所に分属し、厳格な相互抑制の作用を通じ、人権擁護の面においても、遺漏なきを期している。


内閣(行政府)は、国会が制定した法律を誠実に執行することを通じ、国民の権利と自由の擁護をはかっている(特に、行政府にあって人権擁護を直接の目的としている人権擁護機関の仕組みは第2回報告書の別添1.の通り)。


人権擁護機関の活動状況について以下のとおり補足する。


(1) 民間のボランティアである人権擁護委員の人数は、1991年1月1日現在約1万3千名である。


(2) 法務局職員、人権擁護委員が取り扱った人権相談の件数は、1990年は約43万2千件である。


(3) 人権相談の内容をみると、最も多かったケースは、私人間の紛争に関するものであり、内容的には借地・借家・土地の境界等不動産に関するものや交通事故による慰謝料、不法行為による損害賠償に関するものなどである。


(4) 人権侵犯事件の多くのケースは、脅迫などによって、個人に対し義務のないことを行わせたり、あるいは、権利の行使を妨害したりする「強制圧迫」である。


なお、人権擁護機関は強制的な捜査権限や司法機関のように具体的権利の存否を確定する権限は有していない。人権侵犯の事実が認められれば、加害者を説得して、侵害を自主的に排除させ、既に侵害が行われてしまったときは、将来の再発を防止させるなどの加害者への指導を行っている。


(b) 国民の権利が侵害された場合には、裁判による救済を受け得るが(憲法第32条は、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と定めている)、憲法は、独立かつ公正な裁判を確保するため、裁判官に「その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」(第76条第3項)との立場を保障し、さらに裁判官の身分を保障している(第78条、第79条、第80条)。また、憲法が保障する国民の権利が問題となっている事件の対審及び判決は公開法廷で行うこととされている。(第82条)


憲法は、このような独立した地位を有する裁判所に一切の法律、命令、規則、処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を与えた。(第81条)


3.「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の実施振り

我が国が本規約を批准して13年が経過したが、この間、本規約は、国民の人権意識を一層高揚させるために重要な役割を果たしてきた。上記に概観した我が国の人権保障制度の下では、本規約の適用に当たり、制度上困難な問題はないと認められるが、もとより、いかなる国においても実態上人権擁護の面において全く問題がないということはあり得ない。国民が、「過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託された基本的人権を擁護するために不断の努力を払う」(憲法第12条及び第97条)との固い決意を有している我が国においては、今後とも政府及び国民が「人権擁護」の目的達成に向けて引き続いて努力する必要がある。


4.「市民的及び政治的権利に関する国際規約」と国内法規との関係

(a) 我が国の最高法規である憲法は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と定める。(憲法第98条第2項)


この趣旨から、一般に、我が国が締結した条約であってそのまま国内的に適用できるものは、国内法としての効力をもつと考えられている。


ただし、我が国の憲法第3章は、基本的人権が成文法以前の権利であり、すべての人間にとって固有のものであるとの認識に立ってこれを保護しようとするものであることについては本規約と同様であり、両者で保障される権利は、両者に文言の差異があってもその内容には差異がないというべきである。


国は、B規約第2条2に従って同規約で認める権利の実現のため立法その他の措置をとる義務を負う。


B規約の国内法的効力について、明示的に判示した裁判例は見当たらないが、法律・規則・処分がB規約に反しない旨判示した裁判例は少なくない。


B規約と国内法との関係を判示した主な裁判例として次のようなものがある。


○憲法第21条第1項は表現の自由を保障しており、情報等に接し、これを摂取する自由は、この規定の趣旨、目的から派生原理として当然に導かれるところで、B規約第19条2の規定も同様の趣旨である。


傍聴人が法廷においてメモを取ることは、裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないが、裁判所法及び刑事訴訟法の規定に基づく法廷警察権による傍聴人のメモを取る行為の制限は、表現の自由についての権利の行使に制限を課するには法律の定めを要するとするB規約第19条3に違反するものではない。(1989年3月8日最高裁)


(b) 法律、規則、処分が憲法の基本的人権の規定又はB規約に反する場合にそれを争う方法及び要件


法律、規則、処分が憲法の基本的人権の規定又はB規約に反する場合に、国民は、立法機関、行政機関及び司法機関のそれぞれに対して、これを主張して争う方法があるが、国民の権利が憲法又はB規約に反して侵害されたとき、あるいは侵害されようとしているときには、裁判所が、その救済について中心的な役割を果たすべき機関として位置付けられている。


裁判所は、司法権の行使として、法律、規則又は処分が憲法又はB規約に反するかどうかを判断する。国民は、具体的な法律関係について紛争が存するときに限って、裁判所にこの点の判断を求め得る。裁判所が具体的事件を離れて抽象的に法律等が憲法やB規約に合致するか否かを判断することはできない(1952年10月8日最高裁)


国民が法律、規則、処分等が憲法の基本的人権の規定又はB規約に反することを主張する場面の具体例として、例えば、国又は地方公共団体の行為によって自己の権利を侵害された者が、国等を被告として損害賠償請求訴訟を提起したり、行政処分の取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して、上記のように主張する場合が挙げられる。これらの訴訟を提起する要件や方法、当事者が主張をする方法等については民事訴訟法、行政事件訴訟法その他の法律によって定められている。


また、このほかに、刑事訴訟において被告人が、自己の無罪を理由付けるために法律等が憲法の基本的人権の規定やB規約に反するという主張をすることもできる。


これらの訴訟において、裁判所は当該事件を解決するために必要があれば、法律等が憲法の基本的人権の規定又はB規約に違反するかどうかについて判断することになる。


(c) 憲法は、憲法の最高法規性(第98条第1項)、公務員の憲法遵守義務(第99条)、条約及び国際法規の遵守(第98条第2項)等を定めており、国家及び地方公共団体の機関は憲法及び条約を尊重しなければならない。そして、国民は、国及び地方公共団体に対して、平穏に請願をする権利が認められている(第16条)ので、請願の方法により、法律、規則等が憲法又はB規約に反することを主張することができる。法令は、議院に対する請願(国会法、衆議院規則、参議院規則)、地方議会に対する請願(地方自治法)、在監者の請願(監獄法、監獄法施行規則)について方法、要件等に関する規定を置いている。また、行政機関の行為によって権利を侵害された者が、当該行政機関又はその上級行政機関に対して、憲法の基本的人権の規定又はB規約に違反する旨の不服を申し立てることもできる(行政不服審査法)。


5.人権侵害の場合の救済措置としての刑事訴訟手続の概要は第2回報告の別添2を参照。

なお、抗告制度に関する補足説明は以下のとおり。


抗告は、裁判所のした決定又は命令に対する不服申立であり、一般抗告と特別抗告とに区別され、一般抗告は、更に通常抗告と即時抗告とに区別される。一般抗告の管轄裁判所は、高等裁判所である(裁判所法第16条第2号)。


(1) (通常抗告) 通常抗告は、特に即時抗告をすることができる旨の規定がある場合のほか、裁判所の決定に対して行うことができる(刑訴法第419条)。但し、勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する決定及び鑑定留置に関する決定を除いて、裁判所の管轄又は訴訟手続に関し判決前にした決定に対しては、許されないという例外がある(刑訴法第420条第1項、第2項)。また、抗告提起期間の定めが決定されておらず(刑訴法第421条)、抗告を申し立てても原裁判の執行を停止する効力は原則としてない(刑訴法第424条第1項)。


(2) (即時抗告) 即時抗告は、刑事手続きの中で派生的に行われる裁判に対する不服申立手続きが早急に処理されないと本手続の進行に支障となる場合や、関係者の人権に重大な影響を与える場合に認められた不服申立手続である。法文上個別的に規定されるとともに、抗告提起期間は3日間とされ(刑訴法第 422条)、原裁判の執行停止効力がある(刑訴法第425条)。


 


(3) (準抗告) 準抗告は、裁判官がした一定の裁判(忌避申立却下、勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判、鑑定留置を命ずる裁判、証人等に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判)又は検察官、検察事務官若しくは司法警察職員がした一定の処分(接見交通の指定、押収又は押収物の還付に関する処分)に対して、裁判所に対してなされる取消又は変更の請求である(刑訴法第429条1項、第430条)。証人等に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判の取消又は変更の請求については、裁判のあった日から3日以内に請求をしなければならない。


(4) (特別抗告) 特別抗告は、刑事訴訟法により不服を申し立てることができない決定又は命令に対し、憲法違反があること、憲法解釈に誤りがあること、最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと等を理由として、最高裁判所に申し立てることができる抗告であり、抗告提起期間は5日間とされる(刑訴法第433条)。原裁判の執行を停止させる効力はない(刑訴法第434条、第424条)。


第二部: 規約の各条に対する逐条報告

第1条

1.人民が外部からのいかなる干渉も受けずに、自らの政治的将来を選択する権利は、国際社会により尊重されてきているところであるが、我が国が、国連憲章及び本条に基づく人民自決の権利を一貫して認めてきていることは、第1回及び第2回報告に述べたとおりである。我が国は、人民自決の権利の普遍的な実現と植民地の早期独立を支持するとともに、国際社会における人民自決の権利の完全な実現のために努力を払ってきている。


我が国においては、憲法上国民は主権者として認められ、憲法を改正し、政治的地位を決定し、経済的・社会的・文化的発展を追求する権利を有している。私有財産制及び国民の財産権は憲法で保障されている。


2.アパルトヘイト政策


(a) 我が国はこれまで一貫してアパルトヘイトの撤廃を求めてきたが、最近南アにおいては、アパルトヘイト撤廃に向けての国内改革が進展していることを評価している。特に、本年6月末をもって、アパルトヘイトの根幹をなす法律が廃止されたことを歓迎するものであり、今後は、新憲法制定に向けての当事者間の本格交渉が一日も早く開始されることを期待している。


(b) 我が国は、南アの好ましい方向への更なる進展を支援していくため、また、両国間の相互理解の増進を図るとの見地より、6月、人的交流規制を緩和した(スポーツ交流については、南アにおけるスポーツ団体が人種的に統合されない限り、当該団体との交流につき、規制解除は行わない)。


(c) 我が国としては、アパルトヘイト撤廃を促進し、新たな南アとの良好な関係を樹立するとともに南部アフリカ地域の国際的秩序作りに貢献するとの見地から、積極的施策を講じていく方針である。


(d) 南ア黒人支援


我が国は、アパルトヘイトの犠牲者である南ア黒人に対する経済的支援については拡充を図ってきている。南アの状況がアパルトヘイト後の新体制樹立に向かって変化する中で、対南ア黒人支援は、南アの平和プロセスを促進する観点、及び、新たな政治・経済体制の担い手を育成するとの観点からも重要となっている。かかる観点から、我が国は、「国連南部アフリカ教育訓練計画」、「国連南ア信託基金」、「反アパルトヘイト広報信託基金」、「南部アフリカ黒人支援日・EC共同計画(南ア国内の援助団体であるカギソ・ソラストに対する支援)」に対する拠出等の従来の援助に加え、1990年度より、「小規模無償資金協力」、「JICA研修員受入れ」の新たなスキームを開始している。また、南ア国外亡命者の帰還に対する支援についても、UNHCRを通じて、320万ドルの支援を行っている(これにより、1991年度の我が国の対南ア黒人援助総額は600万ドルとなり、これは前年度の約3.7倍となる)。


3.パレスチナの民族自決権


日本政府の基本的考え方は次のとおり。


(a) 武力による領土取得は認めないとの原則に基づき、イスラエルが67年戦争で獲得した全占領地からの撤退が早期に実施されるべきである。被占領地での入植地の建設、西岸及びガザの市長・市議会の解職・解散、エルサレム基本法採択(1967年、統一エルサレムをイスラエルの首都と宣言)、イスラエル国内法のゴラン高原への適用(1981年)等イスラエルが占領地において一方的にとった措置は違法であり、認められない。


(b) 我が国としては、1987年12月以来の西岸及びガザにおける蜂起(インティファーダ)の継続・湾岸危機を契機とする同地の情勢の悪化に強い懸念を有するとともに、イスラエルに対しては引き続き最大限の自制をもって占領地域内のパレスチナ人に対し、国際法と人道にもとづく配慮を払うことを強く求める。西岸及びガザには戦時における文民の保護に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約(第4条約)が適用、遵守されるべきである。イスラエルによるパレスチナ住民追放措置は右ジュネーヴ条約に反し、また、被占領地情勢を一層悪化させるとの観点から、強く非難されるべきである。


第2条

1.「個人の尊厳」を重視する憲法は、第14条第1項において、「すべて国民は、……人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、……差別されない」と規定し、法の下の平等を保障している。


2.「法の下の平等」は、立法府、行政府及び司法府のいずれをも拘束する原則であるが、それは、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」の一部としても、立法その他国政の上で最大の尊重を必要とする(憲法第13条)と解され、また、公務員等に対し憲法擁護義務を課す(同第99条)等によっても、最大限の配慮が施されている。


3.外国人の地位、権利


外国人の権利については、基本的人権尊重及び国際協調主義を基本理念とする憲法の精神に照らし、参政権等性質上日本国民のみを対象としている権利を除き、基本的人権の享有は保障され、内国民待遇は確保されている。


4.近年、我が国において外国人の人権との関係で問題とされる主要な事案は以下のとおりである。


(a) 在日韓国・朝鮮人


(1) 指紋押なつ、外国人登録証携帯義務、永住許可、再入国許可、退去強制


(i) これらの問題及び地方公務員への採用、国公立学校教員への採用、教育等の問題については、1991年1月、海部総理が韓国を訪問した際、在日韓国人の有する歴史的経緯及び定住性を考慮し、在日韓国人が日本においてより安定した生活を営むことができるようにすることが重要であるという認識に立ち、また、在日韓国人の法的地位協定第2条に基づき1988年12月以来日韓両政府間で行われてきた「在日韓国人三世以下の子孫」の日本における居住についての協議(三世協議)の結果を踏まえ、政府としての対処方針を盛り込んだ「覚書」が日韓両国外相間でまとめられ、これにより、右協議は決着を見た。


(ii) 外国人登録法による指紋押なつ制度は、人物の同一性を確認する上で極めて確実な手段として「在留外国人の居住関係及び身分関係を明確にする」という外国人登録制度の基本目的のために登録の正確性を維持するとともに登録証明書の不正使用や偽造を防止することとしたものであるが、日本政府は次のとおり改めることが上記「覚書」に盛り込まれている。


○指紋押なつについては、指紋押なつに代わる手段を出来る限り早期に開発し、これによって在日韓国人三世以下の子孫は(1965年在日韓国人の法的地位協定第2条で規定)もとより、在日韓国人一・二世についても指紋押なつを行わないこととする。


○このため、今後2年以内に指紋押なつに代わる措置を実施することができるよう所要の改正法案を次期通常国会(92年1月開会見込み)に提出することに最大限努力する。


○指紋押捺に代わる手段については、写真、署名及び外国人登録に家族関係事項を加味することを中心に検討する。


(iii) 外国人登録証携帯制度は、外国人の居住関係及び身分関係を現場において即時に確認する手段を確保するために採用されている。しかし、本制度についても運用の在り方も含め適切な解決策について引き続き検討することとした。


(iv) 永住許可については、これまで日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法(以下「日韓特別法」という)に基づく協定永住者及び出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)に基づく特例永住者の許可があるが、さらに入管法の特別法を定めこれらの永住者に特別永住者の資格を付与するとともに、今後出生する在日韓国、朝鮮人等に特別永住者の資格を簡素化した手続きで羈束(きそく)的に(申請があれば裁量の余地なく)許可することとした(同特別法は1991年5月成立)。なお、右特別永住者には、サンフランシスコ平和条約の発効により日本国籍を離脱した者及びその子孫(在日韓国人、朝鮮人及び台湾人)が含まれている。


(v) 再入国許可については、上述の特別永住者は一般外国人より有利に取扱われ、再入国許可の有効期間4年以内(入管法では1年以内)、再入国許可発効後1年以内に在外での延長を認め、再入国許可による出国期間を最大限5年(入管法では2年)とした。


(vi) 退去強制事由は、特別永住者の場合は、内乱、外患又は国交に関する罪により禁錮以上の刑に処せられた者、外国の元首等に対する犯罪行為により禁錮以上の刑に処せられた者でその犯罪行為により日本国の外交上の重大な利益を害したもの及び無期又は7年を超える懲役又は禁錮に処せられた者でその犯罪行為により日本国の重大な利益を害したものに限定するよう改めた(一般外国人の場合は、入管法に基づき、1年を超える懲役・禁錮に処せられた者等が対象とされている)。


(2) 公務員への採用


外国人の公務員への採用については、公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とするが、それ以外の公務員となるためには必ずしも日本国籍を必要としないものと解されている。


在日韓国・朝鮮人の公務員への採用についても、この範囲内で行われている。


(地方公務員への採用)


(i) 1991年1月の上記「覚書」においては、上記の公務員任用と国籍に関する見解を前提としつつ、採用機会の拡大が図られるよう地方公共団体を指導していく旨述べられている。


(ii) また、政府は、従来より公権力の行使又は公の意思形成への参画に携わる地方公務員であるかどうか及びこのような地方公務員以外の地方公務員に日本国籍を有しない者を採用するかどうかについては、それぞれの地方公共団体の実情に応じ、当該地方公共団体において判断されるべきものとの立場である。


(3) 公立学校教員への採用、公私立学校への就学、育英奨学金、韓国・朝鮮人学校の取扱い、課外における韓国・朝鮮語、韓国・朝鮮文化等の学習


(i) 公立学校教員への採用については、いわゆる「日韓三世協議」の決着内容(上述「覚書」)を踏まえ、1991年3月22日、各都道府県・指定都市教育委員会に対し通知を発出し、在日韓国人など日本国籍を有しない者についても教員採用への途を開き、日本人と同じ一般の教員採用試験の受験を認め、試験に合格した者については、任用の期限を付さない常勤講師として採用し、身分の安定を図るとともに待遇についても配慮するよう指導した。


(ii) 我が国の学校への就学については、在日韓国人などが我が国の学校教育を希望する場合には、義務教育の段階では入学を許可し、高等学校、大学の入学については、我が国又は外国における正規の学校の一定の年数の課程の修了を要件として入学資格を与える。この扱いは日本人と同一である。受け入れた後の取扱いについても、授業料の不徴収、教科書の無償給与、上級学校への入学資格の付与等の利益が与えられるか否かは日本人と同様に取り扱っている。また、育英奨学金についても、我が国への永住許可を受けている在日韓国・朝鮮人等の在日外国人子弟については、日本人の場合と同様に取り扱っている。なお、公立の義務教育諸学校への入学については、日韓三世協議の決着内容を踏まえ、1991年1月30日、各都道府県教育委員会に対し通知を発出し、市町村の教育委員会において、就学予定者に相当する年齢の在日韓国人の保護者に対し、入学に関する事項を記載した就学案内を発給すること、また、在日韓国人以外の日本国に居住する日本国籍を有しない者についてもこれに準じた取扱いをするよう指導した。


(iii) また、日韓三世協議における決着内容を踏まえ、現在、地方自治体の判断により学校の課外で行われている韓国語、韓国文化等の学習が今後も支障なく行われるよう日本国政府として配慮することとし、1991年1月30日、都道府県教育委員会に対し通知を発出し、指導を行った。


(iv) このほか、社会教育においても、公民館等の社会教育施設などにおける青少年、成人、婦人等を対象とした学級・講座等の中で、地域の実情に応じて韓国・朝鮮語、韓国・朝鮮文化等の国際理解に関する多様な学習活動が行われている。


(v) 在日韓国・朝鮮人が我が国の学校教育を希望しない場合、韓国・朝鮮人学校に通学することも可能である。韓国・朝鮮人学校については、そのほとんどが各種学校として都道府県知事の認可を受けているところであり、その自主性は尊重されている。なお、韓国・朝鮮人学校に限らず、各種学校の卒業者に対しては、一般的には、中学校又は高等学校卒業者と同等以上の学力があると認定することは困難であることから、高等学校、大学への入学資格は与えられていない。


(4) 労働条件、就職差別に関する対策


職業安定法の趣旨等に鑑み、企業への就職にあたっては、在日韓国・朝鮮人であるかどうかを問わず、応募者本人の適性及び能力を中心に採用選考を行うよう事業主への指導・啓発に努めている。


(b) 外国人労働者(不法就労のケースを含む)


(1) 外国人労働者の受入れ問題については、政府の基本方針として、1988年6月に閣議決定された「第6次雇用対策基本計画」においても示されているとおり、「専門、技術的な能力や外国人ならではの能力に着目した人材の登用は、我が国経済社会の活性化、国際化に資するものでもあるので、可能な限り受け入れる方向で対処する。いわゆる単純労働者の受入れについては、労働市場を始めとする我が国の経済や社会に及ぼす影響等に鑑み、十分慎重に対応する。」こととしている。


この方針に沿って、入管法を改正して、専門的な技術、技能、知識等をもって我が国で就労しようとする外国人については幅広く受け入れることができるように在留資格の整備を図った。


外国人単純労働者の受入れに関しては、我が国の社会全般に影響を及ぼすところが大であり、受入れに関する国内のコンセンサスも得られていないので、慎重に対応すべきものであり、引き続き検討を重ねることとしている。


(2) 外国人の入国・在留については、入管法によりその要件、手続等が明確に定められており、また、入管法に違反した者の退去強制については、同法において不服申出の手続が完備しており、また、同法による被収用者についても人権に配慮した適正な処遇が行われることが確保されている。


なお、入管法においては、送還先国には難民条約第33条1に規定する領域に属する国を含まないものとするノン・ルフールマンの原則も国内法化されており、迫害を受ける国又は地域への外国人の送還は原則としてこれを行わないことが明文化されている(同法第53条第3項)。


(3) 日本人労働者と同様外国人労働者に関しても、リクルーターやブローカーの活動については職業安定法及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律の規定が適用される。


職業安定法においては、職業紹介、職業指導等について国籍を理由とする差別的取扱いを受けないことが規定されている(職業安定法第3条)ので、我が国で就労可能な外国人についても、日本人と同様に職業紹介等を行うこととしている。ただし、求人・求職の内容が法令に違反するときは、その申込を受理しないこととしており(同法第16条、第17条)、入管法上不法就労に当たるような職業紹介は行っていない。


また、外国人に対する職業紹介体制を強化するため、1989年度から、主要公共職業安定所に外国人労働者専門官を配置したところである。


我が国政府は、不法就労活動を行う外国人のいわば吸引力・推進力となっているリクルーター、ブローカー等が、これら外国人の我が国への導入に止まらず、しばしば、外国人の不法就労活動に関し賃金の中間搾取や売春の強要を行うなど当該外国人に対する人権侵害事件を引き起こしていること等に重大な関心を有している。


警察では、以下の諸法令を活用して、悪質なブローカー、事業主等を積極的に取り締まっている。


○職業安定法


a.有料職業紹介


有料職業紹介とは、求人及び求職の申込を受け、求人者と求職者の間における雇用関係の成立を斡旋し、その職業紹介に関し、手数料又は報酬を受けることであり(第5条第1項及び第3項)、労働大臣の許可を得て特別の技術を必要とする職業について行う場合を除き、有料職業紹介事業を行うと処罰される(第32条第1項、第64条第1号)。


b.労働者供給


労働者供給とは、供給契約に基づいて、労働者を受給者の指揮命令の下に労働に従事させるものであって、労働者派遣に該当しないものをいい(第5条第6項)、労働大臣の許可を得て労働組合等が行う場合を除き、労働者供給事業を行うと処罰される。供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させた者も罰せられる(第44条、第64条第4号)。


c.不当拘束職業紹介・労働者供給及び有害業務職業紹介・労働者供給等


暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者(第63条第1項)、公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者(第63条第2項)、その他職業安定法に定める罪を犯した者は処罰される。


○労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労派法)


a.適用対象業務外労働者派遣


労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させるものであって、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約して行うものでないものをいい(第2条第1項)、政令で定められた一定の業務(適用対象業務)に関して、労働大臣の許可又は労働大臣への届出を条件として行うものを除き、労働者派遣事業を行うと処罰される(第4条第3項、第5条第1項、第16条第1項、第59条第1号及び第2号、第60条第3号)。


b.有害業務労働派遣等


公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者(第58条)その他労派法に定める罪を犯した者は処罰される。


○労働基準法


a.均等待遇


第3条は「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない。」と定めており、これに違反すると処罰される(第119条第1号)。


b.強制労働の禁止及び中間搾取の排除


第5条は「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。」と定め、また、第6条は「何人も法律に基いて許される場合の他、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」と定めており、これらに違反すると処罰される(第117条、第118条第1項)。


c.賃金の支払、労働時間等


賃金については、第24条以下で通貨支払の原則、直接支払の原則などが定められ、これらに違反した使用者は処罰される(第120条第1項)。


労働時間、休日については、第32条以下で様々な義務が使用者に課されており、これらに違反した使用者は処罰される(第119条第1項及び第2項、第120条第1号)。


以上の他、年少者の使用制限(第56条から第64条)、女子の使用制限(第64条の2から第68条)その他労働基準法の規定に違反した者も処罰される。


○最低賃金法


第5条第1項は「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を払わなければならない。」と定めており、これに違反すると処罰される(第44条)。


○労働安全衛生法


この法律は、労働災害の防止を通じて労働者の安全と健康を確保するため、危険の防止、健康診断の実施等様々な義務を事業者等に課しており、これらに違反した事業者等は処罰される。


不法就労外国人の就労に介入して暴利を貪っているブローカー等に関しては、1990年6月に施行された改正入管法で新設されたこれらリクルーター、ブローカー等を直接の処罰対象とする不法就労助長罪及び上で述べたもののほか、以下の諸法令を適用して取締りを推進している。


○刑法


a.公正証書原本不実記載、同行使(第157条、第158条)


外国人を日本国内で就労させるための偽装結婚については、公正証書原本不実記載、同行使の罪で検挙している。


b.私文書偽造、同行使(第159条、第161条)及び公文書偽造、同行使(第155条、第158条)


外国人を日本国内で就労させるためのパスポートの偽造に関しては、私文書偽造、同行使罪で、在留資格変更のための国立大学等の入学許可証、在学証明書等の偽造に関しては、公文書偽造、同行使の罪で検挙している。


a.b.ともに、ブローカー等が関与している場合は、直接実行行為を行っていなくても、第60条(共同正犯)又は第61条(教唆犯)を適用して積極的に検挙している。


○売春防止法


外国人に売春させている場合には、第6条(斡旋等)、第7条(困惑、暴行、脅迫等による売春)、第10条(売春をさせる契約)、第11条(場所の提供)、第12条(売春をさせる業)等を適用して、暴利を貪るブローカーや暴力団関係者を検挙している。


また、関係行政機関との間で連絡会儀を定期的に開催するなどして、ブローカー等に関する情報交換を行い、政府関係機関が密接に連携してその取締り等を行っている。他方、関係外国政府に対しても情報を提供するなどして取締りを求めている。


(4) 労働関係法規は、外国人労働者に対しても適用されている。


例えば、労働基準法、労災保険法等の労働基準関係法令については、国内の適用事業に使用される労働者である限り、外国人労働者についても適用される。このため、労働基準監督機関は、外国人労働者に対する労働基準関係法令の履行確保を図るため、外国人労働者についてもこれらの法令が適用されることについての事業主に対する周知、法令違反がある場合の事業主に対する是正のための措置等を行うとともに、全国の主要な労働基準局に外国人労働者相談コーナーを設置し、専門の相談員による相談を行っている。


また、労働組合法及び労働関係調整法についても、外国人であるか否かは適用の際の要件となっていない。


(5) 我が国で単純労働に従事する意図を有する外国人については、原則として入国を認めていない。なお、すでに入国し入管法に違反して不法に就労している者については、その人権に配慮しつつ、原則として国外に強制退去することとしている。


外国人不法就労者の問題については、国内の労働市場や賃金などの労働条件に影響を与えるなど、労働行政としても放置できない問題であり、政府としては、不法就労を防止するために、事業主に対する周知啓発、指導などを行っている。


しかし、不法就労者の数は急激に増加しており、特にここ数年間は外国人男性の不法就労者の激増が目だっている。その多くは就労あっせんブローカー等を介して就労しているものとみられるが、以前から外国人女性を売春婦等として招致あっせんしていた暴力団関係者等が、工場、建設現場等における人手不足に目を付け、これら業種への外国人男性のあっせん等に乗り出した事情がある。


このため、外国人不法就労者の背後にあって、その弱みにつけ込み、暴利を貪っている暴力団関係者やブローカー等に対しては、多くの関連する現行諸法令を適用して強力に取り締まっている(適用される法令の内容、関係国政府との協力等については上記③のとおり)。


(6) 法務省の人権擁護機関が外国人の人権擁護のために講じている措置


外国人の基本的人権尊重の啓発、及び外国人差別をなくすため、広く啓発活動を行っている。1988年度以来啓発活動重点目標として「社会の国際化と人権」(1991年度は「国際化時代にふさわしい人権意識を育てよう」)を定め、全国的にこの問題の啓発に取り組んでいる。


また、基本的人権の侵害が具体的に起こった場合には、人権侵犯事件の調査及び人権相談を通じて在日外国人の人権の擁護を図るとともに、そのような事例の再発防止に努力している。


外国人に対する人権相談については、1988年にまず東京法務局に相談所が開設され、その後、大阪法務局等にも順次拡大している。


今後も、外国人に対する相談体制の充実を図り、外国人の人権擁護に努める方針である。


(7) 在留資格、外国人登録、家族の呼び寄せの手続等について相談できる機関の概要


1990年7月、東京入国管理局内に、外国人及びその在日関係者のために、外国人の入国・在留に関する諸手続等についての相談に応ずる「外国人在留総合インフォメーション・センター(Immigration Information Center)」を開設し、外国語を解する専従の専門相談員が、日曜・祝日等を除く毎日、面接又は電話による問合わせに応じている。


相談案内の内容は、外国人社員や研修生の招聘、配偶者等の呼び寄せなど入国関係諸手続、在留資格の取得及び変更、在留期間の更新、永住許可など在留関係諸手続、外国人登録手続、外国人の入国・在留に関する各種申請書類の記載要領、その他入管関係の各種案内といったものである。


さらに、1991年より、大阪にも同様のインフォメーション・センターが開設された。


そのほか、地方自治体等において外国人のため種々の相談機関が設けられている。


5.本条3で言及されている救済措置は、第1回及び第2回報告の第1部で述べられているとおりである。


6.障害者対策の現状と課題


(1) 概要


a.我が国の障害者対策については、1981年の国際障害者年のテーマである「完全参加と平等」の実現を図るため、1982年に「障害者対策推進本部」を設置、「障害者対策に関する長期計画」を策定するとともに、1987年には、「国連障害者の十年(1983年~1992年)」の後半期において重点的に取り組むべき施策(「後期重点施策」)を策定し、現在、最終年である1992年に向け施策の推進に努めている。


「後期重点施策」においては、「啓発広報」、「保健・医療」、「教育・育成」、「雇用・就業」、「福祉」、「生活環境」、「スポーツ、レクリェーション及び文化施策の推進」、「国際協力の推進」の八つの部門に分けて、基本的方向と今後の重点施策を掲げている。


b.また、障害者関係施策の政府の調査審議機関である「中央心身障害者対策協議会」においては、この十年の取組みを評価しつつ、十年の最終年である1992年に向けて特に重点的に取り組むべき事項について意見書をまとめた(1991年7月)。


意見書においては「リハビリテーション」及び「ノーマライゼーション」の理念を基調とし、障害者の「完全参加と平等」という目標を国民の間に一層定着させるとともに、住宅、建築物、公共交通機関における障害者のアクセスに配慮した施策や障害者に住よいまちづくりの推進等についての具体的提言を行っている。


7.その他追加報告は次のとおり。


(1) B規約の国内的効力及び判例については第1部参照。


(2) 法律、規則、処分が憲法の基本的人権の規定またはB規約に反する場合にそれを争う方法・要件及び判例については第1部参照。


(3) 憲法第12条、第13条にいう「公共の福祉」及び判例については第1部参照。


(4) B規約選択議定書未締結問題


本議定書は、人権の国際的保障のための制度として注目すべき制度であると認識している。しかし、締結に関しては、我が国司法制度との関係や制度の濫用のおそれも否定しえないこと等の懸念もあり、検討すべき多くの問題点が残されている。関係省庁間で検討中である。


(5) 人種差別撤廃条約未締結問題


日本政府は、人種等を理由とする差別撤廃を目的とする本条約の理念を支持する。しかし、本条約には例えば人種差別の思想の流布や人種差別の扇動を処罰することを求めている条項があるところ、右は表現の自由との関係或いは我が国の法体系との関係で現在慎重な検討が続けられている。


(6) アパルトヘイト処罰条約未締結問題


この条約は、アパルトヘイト(南部アフリカにおけるものを含むが、これに限らない)を人類に対する犯罪と断定(第1条、第2条)し、この犯罪を禁止し、処罰し、司法手続きに従って裁判にかけるための立法その他の措置をとる(第4条)ことを義務付けている。


我が国は、条約の採択に際して、条約の目的は理解できるが、犯罪構成要件の概念があいまいである等の理由で棄権した経緯があり、依然同問題が残されている。


(7) 拷問被害者のための国連自発的基金への拠出


我が国は本基金を支持すべく、1986年度より毎年50,000ドルを拠出している。予算の成立を条件に今後も拠出を継続する予定。


第3条

1(a) 我が国においては、内閣総理大臣を本部長として、全省庁の事務次官等を構成員とする婦人問題企画推進本部が、我が国における国内本部機構(ナショナル・マシーナリー)として婦人の地位向上のための行動計画を策定し、それに沿って婦人関係施策が推進されている。また、同本部は、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(1985年批准)の実施に伴う施策の総合的かつ効果的な推進もその任務としている。


これまでに策定された婦人の地位向上のための国内行動計画は、1977年の「国内行動計画」及び1987年の「西暦2000年に向けての新国内行動計画」(1987年度から2000年度までの長期計画及び1987年度から1990年度までの中期計画を盛り込む)の二つである。


(b) 1991年5月、婦人問題企画推進本部は、1987年に策定された「西暦2000年に向けての新国内行動計画」の成果及び1990年国連で採択された「ナイロビ将来戦略の実施状況の見直し及び評価に伴う勧告及び結論」の趣旨をも踏まえ、1991年度から1995年度までの5年間に取り組むべき具体的施策(中期計画)の策定を中心に上記行動計画の第一次改定を行った。その概要は次のとおりである。


○男女平等をめぐる意識変革


制度上だけでなく実際上の女性の地位向上を図るため、男女の役割を固定的に考える意識を是正する。また、母性の重要性と性の尊重についての認識の浸透を図り、母性保護を充実する。


○平等を基礎とした男女の共同参画


女性が男性とともにあらゆる分野に参画する機会を確保するとともに、政策・方針決定の過程への女性の参画や雇用の分野での男女平等を進める。一方、家庭、地域社会での男女共同参画を更に推進する。また、農山漁村婦人対策を推進する。


○多様な選択を可能にする条件整備


女性の多様な生き方についての主体的な選択をより容易にするため、その選択の自由を保護する条件整備を一層充実する。


○老後生活等をめぐる女性の福祉の確保


老後生活をめぐる福祉の確保に努めるとともに、高齢女性の活力と意欲が発揮できる高齢化社会に向けての環境作りを進める。また、母子家庭の母等特別の配慮を必要とする女性に対し、配慮する。


○国際協力及び平和への貢献


国内での女子差別撤廃条約やナイロビ将来戦略及び同勧告の要請に応えるとともに、世界の女性の地位向上に貢献するよう、国連の諸活動に協力するとともに「開発と女性」を踏まえ、国際協力を推進する。また、他国への理解と尊敬の徹底や難民女性への配慮等女性の平和への貢献を進める。


2(a) 我が国では、男女雇用機会均等法が1986年に施行されて以来、法内容の周知徹底を図るとともに、女子に差別的な事業主の措置に関する労働者と事業主の間の紛争の解決の援助や事業主に対する積極的な指導を展開している。


男女雇用機会均等法の施行を契機に、募集・採用、教育訓練、定年・退職などの雇用管理制度を法の要請に沿ったものに改善した企業が多く見受けられ、女子を積極的に活用していこうという気運が高まってきており、法の趣旨は着実に浸透している。


まず、女子を採用する企業が増加してきている。特に、男女雇用機会均等法施行以前はほとんど見られなかった女子幹部候補生として、4年制大卒を中心に女子を採用する企業が増えてきている。


また、女子の就業分野が拡大している。1990年に労働省が実施した調査によれば、女子が配置される職務は増えており、今後の方針として女子を増やそうとする企業は多い。さらに、女子管理職も増加しており、女子の管理職登用のために職歴開発のための配置転換や男子社員の意識啓発等種々の環境整備を実施している企業も2割を超えている。教育訓練における男女同一取扱いも進んでいる。


さらに、男女別定年制の解消のための積極的な対事業主指導の結果、男女別定年制はほとんどの企業で見られなくなった。また、労働省の調査によれば、男女雇用機会均等法の施行の時点で、既に「結婚・妊娠・出産退職制はなく、対応する必要はなかった」とする企業がほとんどであり、法施行後に制度を改善した企業を加えると、ほとんどすべての企業で結婚・妊娠・出産退職制はなくなったといえる。


(b) 女性の職場進出が進むのと同時に、労働力不足基調が続く中で、労働者が仕事と育児の両立を図るための中核的施策である育児休業制度のニーズが高まってきた。このため、近年、労使の自主的な話し合いにより育児休業制度を導入する企業が相次ぎ、制度への社会的関心が急速に高まるとともに、全労働者のための制度の法制化を期待する声が広がってきたところである。


このような中で、政府は、同制度の法制化を図ることとし、1991年5月、1歳に満たない子を養育するため、男女労働者が育児休業を取得することを認めるとともに、育児休業をしないで1歳に満たない子を養育する労働者について、勤務時間の短縮等の措置を事業主に義務付けること等を内容とする「育児休業等に関する法律」が成立し、1992年4月1日より施行される


3.準拠法の指定の場面においても男女の平等を徹底するため、1989年、法例の改正を行った。


法例は、国際的な法律関係についていかなる国の法律を適用するかを定めるものであるが、今回改正されたのは主に婚姻及び親子の法律関係に関する部分である。その目的は、従前の法例が離婚及び親子関係等の準拠法の指定について男子(父、夫)の本国法を優先していたところ、本条約等の趣旨に照らし、準拠法の指定の場面においても両性平等の理念の徹底を図ること、また、近時諸外国において国際私法、国籍法等の改正が相次いでおり、これらとの国際的調和を目指すこと、更に最近の我が国の国際化の進展に伴い渉外婚姻をはじめとする渉外的身分関係事件が増加している実情を背景として、婚姻関係及び親子関係等における準拠法の指定をより適切にし、子の福祉の理念にも則したものとすること等にある。


4.国家公務員の採用に係る男女平等の実現に関しては、従来より、人事院規則の改正により女子の国家公務員採用試験に係る受験資格の制限を撤廃してきており、現在、我が国の国家公務員採用試験(一般職)の受験、採用その他について、女子に対する制限、差別はない。


5.国会議員、公務員及び民間企業の管理職等における女性の数及び割合。


婦人議員の推移 衆議院・参議院各事務局調べ (表省略)


国会において婦人が就いている役職 (表省略)


国家公務員の課長級以上への女子の登用状況 (表省略)


 資料出所:人事院「国家公務員任用状況調査報告」(各年3月31日現在)


  (注) (  )は総数に対する女子の割合である。


管理職区分別女子管理職の状況 (表省略)


 資料出所 労働省「平成元年度女子雇用管理基本調査」


  (注) 該当役職がある企業についてのみ集計。


第4条

緊急事態を想定した法令には、基本的人権を制約する規定は何らおかれていない。わが国においては、緊急事態が発生した場合には、必要に応じ、憲法及び本規約に従った措置が講ぜられることとなろう。


第5条

(1)わが国は、いかなる意味においても、本規約において認められる権利及び自由を破壊し、又は、本規約に規定する範囲を越えてこれらを制限するように本規約の規定を解釈することはなく、また、(2)我が国において、本規約が言及していない権利につき、右に言及されていないことを口実としてその権利を侵すことはできないことは、第2回報告で述べた通りである。


第6条

1.我が国は、憲法前文において、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」し、第9条において「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とともに、国の交戦権を認めないとしている。その他生命に対する権利に関する法的枠組については、第1回報告で述べた通りである。なお、乳児死亡率の減少、伝染病の予防については経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第10条~第12条に関する報告(E/1986/3/Add.4)参照。


2.我が国における死刑の適用は、極めて厳格かつ慎重に行われている。1986年から1990年までの5年間に死刑が適用され判決が確定した者は、合計30名(年平均6名)であり、しかも、いずれも残虐な殺人事件や強盗殺人事件に限られている(法定刑中に死刑の定めのある罪は17罪。表参照)。現状においては、極度に凶悪な犯罪を侵した者に対し、死刑の適用を存置すべきであるとするのが現在の我が国民の大多数の意見であり、これは、世論調査(最近の調査は1989年6月実施)によって裏付けられている。


   表 死刑の定めのある罪(17罪)


  • (1) 内乱主魁(刑法第77条第1項第1号)
  • (2) 外患誘致(刑法第81条)
  • (3) 外患援助(刑法第82条)
  • (4) 現住建造物等放火(刑法第108条)
  • (5) 激発物破裂(刑法第117条第1項、第108条)
  • (6) 現住建造物等侵害(刑法第119条)
  • (7) 船車覆没致死(刑法第126条)
  • (8) 往来危険による船車覆没致死(刑法第127条、第126条第3項)
  • (9) 水道毒物混入致死(刑法第146条後段)
  • (10) 殺人(刑法第199条)
  • (11) 強盗致死(強盗殺人を含む)(刑法第240条後段)
  • (12) 強盗強姦致死(刑法第241条後段)
  • (13) 爆発物不法使用(爆発物取締罰則第1条)
  • (14) 決闘殺人(決闘罪に関する法第3条、刑法第199条)
  • (15) 航空機墜落等致死(航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律第2条第3項)
  • (16) 航空機強取等致死(航空機の強取等の処罰に関する法律第2条)
  • (17) 人質殺害(人質による強要行為等の処罰に関する法律第4条第1項)

3.死刑廃止の問題は、国民感情及びそれに基づく国内法制に直接関わるものであるので、B規約第2選択議定書の締結の問題は慎重に検討することが必要である。


4.我が国の法制上、独立の裁判所による公平な審理、無罪の推定、弁護の保障及び上級の裁判所による再審理など手続き上の保障が十分に確保されていることは、前2回の報告において、本規約第14条に関連して述べたとおりであり、右保障が死刑を言い渡す裁判にも当然適用があることも前回報告のとおりである。


5.死刑確定者の処遇


(a) 我が国の刑法第11条第2項は、死刑の言渡しを受けた者はその執行に至るまでこれを監獄に拘置する旨規定している。この拘置は、死刑の執行のために法律で定められた身体の拘束であって、死刑判決という裁判の執行としてなされるものである。この拘置がなされている間は、刑の時効は進行しない。


(b) 死刑の判決が確定した者は、死刑の執行に至るまで、拘置所又は刑務所の拘置区に、他の被収容者とは分離した特別の区域に収容される。死刑確定者は、おおむね未決拘禁者に準じた処遇を受けている。また、その心情の安定に資するため、希望により宗教教誨及び篤志面接委員による助言・指導も行われている。


(c) 恩赦の適用について死刑確定囚が除外されてはいない。過去に「減刑」により無期懲役に減刑された例がある。


(d) 死刑確定者の面会については、その拘禁目的に照らして、拘禁施設の長が個々具体的に面会の許可・不許可を決するとするのが監獄法の趣旨であり(監獄法第45条第1項)、実務運用上は、死刑確定者本人が身柄の確保を阻害するおそれがある場合等、死刑確定者の拘禁の目的を害することとなる一定の場合を除き、職員の立会いの下に、家族・弁護士等との面会を許可する扱いとしている。また、裁判所による再審開始決定が確立した死刑確定者については、未決拘禁者の場合と同様、職員の立会いなしに、弁護人又は弁護人となろうとする者と面会することを認めている。


6.警察官は、警察法第67条により「小型武器」の所持が認められており、さらに、警察官職務執行法第7条において、「武器」の使用の要件が定められている。そのほか部内の規程により、例えば拳銃については、その使用のみならず、その携帯、保管についてまで細かく定められている。


これらにより警察官は、武器の使用を厳しく制限されるとともに、人に危害を加えることができるのは、正当防衛等極めて必要性の高い場合に限られている。そしてこれらに反して武器を使用した場合には、懲戒事由になり得ることはもとより、刑事的にも責任を追及されることがある。


なお、警察官が所持できるのは、拳銃、ライフル銃等警察官が個人装備として携帯できる程度の小型武器である。


警察官の拳銃使用状況は、下記のとおりである。


(1)わが国は、いかなる意味においても、本規約において認められる権利及び自由を破壊し、又は、本規約に規定する範囲を越えてこれらを制限するように本規約の規定を解釈することはなく、また、(2)我が国において、本規約が言及していない権利につき、右に言及されていないことを口実としてその権利を侵すことはできないことは、第2回報告で述べた通りである。


第7条

1.拷問等の禁止に関する法的枠組の詳細については、第2回報告で述べたとおりであるが、概要は次のとおり。


憲法第13条は、すべての国民は、個人として尊重される、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利は尊重される旨定めている。同第36条は、「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」とし、また、同第38条第1項は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と定めている。


憲法の要請を受けて刑法は第195条で裁判・検察・警察・行刑等の職員による刑事被告人その他の者(法令により拘禁されている者に限らない)に対する暴行・陵虐行為を禁止し、違反者には懲役又は禁固に処する旨定めている。この「陵虐」(cruelty)は、暴行以外の方法によって、肉体的あるいは精神的な苦痛を加える行為を意味する。また刑法は第194条で裁判・検察・警察職員の職権濫用による逮捕又は監禁の処罰を規定している。更に、刑法第193条は、公務員がその手段を問わず、職権を濫用して国民に対し、義務なきことを行わしめ、又は行うべき権利を妨害することを禁じ、違反者を処罰する旨定めている。このように、日本では、拷問又は残虐な取扱い若しくは刑罰に限らず、公務員による非人道的な取扱いも禁止されている。


また、これらの罪については検察官の不起訴処分に不服のある一定の者が、裁判所にその審判に付することを請求し、裁判所がこの請求を認めて審判に付する決定をしたときは、公訴の提起があったものとみなされるとの特別刑事手続(準起訴手続)をもうけて、検察官が不当な不起訴処分をしたために処罰を免れる者がないようにしている(刑事訴訟法第262条以下)。


更に、憲法第38条第2項は、「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることはできない」とし、また、刑事訴訟法は、右のような証拠はもとより、その他任意にされたものではない疑いのある自白は証拠とすることができないこととし、このような行為が行われることのないように証拠法の面からも保障している(同法第319条第1項)。


2.拷問の禁止については、上述のとおり憲法第36条に規定されており、検察官警察職員等捜査活動に携わる公務員は、その研修において、憲法に関する講義等を受講することとされており、その中で十分に、教育が行われている。


3.刑事拘禁施設における人権侵害の防止及び救済については、第10条についての本報告及び第1回、第2回報告のとおり。


第8条

1.奴隷的拘束及び犯罪による処罰を除いた苦役からの自由並びに児童の酷使の禁止等の法的枠組については、第2回報告で述べたとおりであるが、詳述すると以下のとおりである。


(a) 憲法第18条は、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」と規定し、奴隷的拘束からの自由を明文により認め、人を奴隷的拘束の状態に置くことを禁止している。また、同第27条第3項は、「児童は、これを酷使してはならない」と規定し、児童の酷使を禁止している。


(b) そして、憲法のこれらの各条項の趣旨を受けて、刑法は人身売買又は被売者等の国外移送を行った者及び脅迫、暴行を用いて人に義務なきことを行わせるいわゆる強要行為を行った者をそれぞれ懲役に処する旨定めている(同法第226条第2項、第223条)。


(c) また、労働基準法は、強制労働を禁止し、労働者の酷使を禁止している(同法第5条、第69条第1項)。


(d)更に、売春防止法は、誘惑、脅迫等による売春、売春をさせる契約、及びいわゆる管理売春を禁止、それぞれ懲役刑ないし罰金刑を定めている(同法第7条、第10条、第12条)。


(e) また、職業安定法は、監禁等を手段とする職業紹介、労働者の募集・供給を禁止し、懲役刑ないし罰金刑を定めている(同法第63条)。児童福祉法は、児童の人身売買事件などを防止する趣旨から、他人の児童を一定期間同居させる場合は、届出を要することとされている(同法第30条)。


(f) また、児童福祉法は、児童に対する禁止行為を定め深夜の労働等の行為をさせた者に対しては、罰金または懲役に処する旨定めている(同法第34条、第60条)。


(g) そして違法に身体の自由を拘束されている者は、人身保護法により救済を求めることができ、また、人を奴隷とするような私人間の法律行為は、民法第90条により公序良俗に反するものとして無効とされる。


2.我が国には、本規約第8条3(b)に規定されている「強制労働」を伴った拘禁刑に相当する刑罰として、刑法第12条に規定する懲役及び同法第18条に規定する労役場留置がある。


(a) 懲役受刑者は、監獄に拘置され、「強制労働」に服することとされており、この「強制労働」は刑務作業として実施されている。作業時間等の就業条件は一般の労働者に準じて決められており、また、作業賞与金が支給される。


(b) 労役場は、罰金又は科料を完納しない者を判決に基づいて留置する場所であり、監獄に付設されている。労役場留置者は、自衣の着用、寝具の自弁が原則として許されている以外は、作業その他の処遇は概ね懲役受刑者に準じて行われている。


第9条

身体の自由及び安全に関する法的枠組については、第1回及び第2回報告で述べたとおりであるが、以下のとおりである。


1.本条1については、憲法第31条は、「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」、同第33条は、「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない」、同第34条は、「何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」とそれぞれ規定しており、これを受けて刑事訴訟法等の法律が、逮捕、勾引、勾留等の要件・手続きを定めている。


 このほか、自由剥奪の措置として、入管法に基づく退去強制令書又は収容令書による外国人の収容、少年法による観護措置、逃亡犯罪人引渡法による拘禁、売春防止法による補導処分、犯罪者予防更生法による引致又は留置、執行猶予者保護観察法による引致又は留置、伝染病予防法による伝染病患者の強制収容・隔離、麻薬取締法による麻薬中毒患者の入院措置、精神保健法による自傷他害のおそれのある精神障害者の入院措置等身柄の拘束を伴う行政措置及び精神保健法上の任意入院等があるが、これらはすべて、理由及び手続きを定めた法律に基づくものである。


2(a) 1987年に精神保健法を改正し、精神障害者等に対する適正な精神医療及び保護を行うに当たって人権に一層の配慮を加えるとの観点から、次のように定めた。


精神科医療に関し一定以上の知識・経験を有する医師を厚生大臣が精神保健指定医として指定し、本人の意思によらない入院を行う場合や入院中の患者に対し一定の行動制限を行う場合には、その診断を必要とする。また、入院患者等は、都道府県知事に対し退院及び処遇の改善請求を行うことができ、当該請求は、精神医療審査会(各都道府県に設置され、医師、法律家及び学識経験者の3者から構成される独立した第3者機関)において審査を受け、都道府県知事は必ずその審査結果に従って必要な措置を講じなければならない。更に、定期的に患者の病状を報告させ、精神医療審査会で入院継続の適否等について審査する。又、信書の発受の制限等の禁止、入院時の告知等患者の人権を擁護するための規定がある。なお、精神保健法では、新たに本人の同意に基づく入院に関する規定を盛り込むとともに、これを原則的な入院形態とすることとした。この形態による入院患者は、原則として自由に退院することができるとともに、上記処遇の改善請求等の人権擁護のための規定の適用を受ける。


精神病院に入院中の者の数は、1990年6月末現在で約34万9千人となっている。


(b) また、精神医療審査会による審査に加えて、精神保健法第29条第1項に基づき都道府県知事の措置により入院させられた者は、当該措置の取消を求める行政訴訟を提起することができる。又、人身保護法による救済を請求することもできる。親権者又は監護者がいる場合には、親権又は監護権に基づき引渡を請求することも可能である。


さらに、拘束者を監禁罪(刑法第220条)に当たるとして告訴することも可能である。


3.本条3の権利については、


(a) 司法警察員は、被疑者を逮捕した場合は、逮捕の理由とされた事実の要旨及び弁護人選任権を被疑者に告知するとともに、弁解の機会を与えなければならず、それにより留置の必要がないと判断したときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。留置の必要があると判断したときは、逮捕から48時間以内に検察官に被疑者を送致しなければならない(刑事訴訟法第203条)。


被疑者を受け取った検察官は、被疑者に弁解の機会を与え、留置の必要がないと判断したときは直ちに被疑者を釈放する。更に留置の必要があると判断するときは、被疑者を受け取ったときから24時間以内、逮捕から72時間以内に、裁判官に対し勾留を請求しなければならない。ただし、この時間内に公訴が提起されたときはこの限りではない。勾留の請求又は公訴の提訴を行わないときは、検察官は被疑者を直ちに釈放しなければならない(同法第205条)。


勾留の請求を受けた裁判官は、被疑者に質問を行い、理由があると認めるときは勾留に付する(同法第207条)。勾留期間は、勾留請求のときから10日間であるが、やむを得ない理由があれば、検察官の請求により10日を超えない範囲で延長が認められる。検察官は、勾留期間内に公訴を提起しない場合は、直ちに被疑者を釈放しなければならない(同法第208条)。


このように、被疑者の身柄拘束期間は、司法のチェックの下で厳格に守られている。


(b) それぞれ勾留請求前の留置が認められている結果、通常の事件においては、逮捕・勾留を通じて、起訴前に、最長22日間ないし23日間の被疑者の身柄拘束が認められていることは事実であるが、勾留の期間はもとより逮捕後の留置期間も上記のとおり刑事訴訟法(刑訴法)に明記され、かつ、厳格に運用されている。


また、逮捕・勾留中に逮捕・勾留の基礎となっている被疑事実以外の事実についても取調べができることは事実であるが、逮捕・勾留の要件及び必要性は、いずれも一定の被疑事実について判断されるものであり、当該被疑事実について逮捕・勾留の要件及び必要性がないのに、他の被疑事実の捜査のために逮捕・勾留が行われるということはあり得ない。従って専らある被疑事実Aの捜査のために他の被疑事実Bについて被疑者を逮捕・勾留するといういわゆる別件逮捕・勾留も容認されておらず、仮に違法な別件逮捕・勾留が行われた場合には、その間に得られた自白を含む証拠を排除する等の方法によって、違法な別件逮捕・勾留を防止する制度的保障がなされているところである。


4(a) 本条5の権利については、憲法第17条は、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」と規定し、これを受けて国家賠償法が制定されている。同法は、「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」(同法第1条第1項)と規定し、公権力の行使に当たる公務員の職務執行の際の故意又は過失により違法に逮捕・勾留されたものは、同規定に基づき国又は公共団体に対しその損害の賠償を請求できる。


(b) また、抑留又は拘禁が違法でなかった場合についても、憲法第40条は、「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる」と規定し、その補償の範囲を拡げている。この規定を受けて刑事補償法が制定され、無罪の裁判を受けた者につき、未決の抑留又は拘禁による補償(同法第1条第1項)と刑の執行及び拘置による補償(同法第2項)が認められており、その場合における補償金額が、同法の定める制限内で裁判所が決定することとされている(同法第4条)。


また、不起訴処分になった場合であっても、結果的に無実のものが抑留・拘禁されたため被った財産的、身体的、精神的不利益の重大さにかんがみるときは、これに対する補償を行うことが憲法第40条の趣旨に沿い、かつ、正義と衡平の観念に合致すると考えられるところから、被疑者補償規程(1957年4月12日法務省訓令第1号)が設けられ、不起訴処分になったものにつき、そのものが罪を犯さなかったと認めるにたりる十分な理由がある場合に、抑留又は拘禁による補償を行う事とされている(同規程第2条)ことは、第2回報告で述べたとおりである。


第10条

本条に関連する法的枠組みは、第1回及び第2回報告で述べたとおりであり、被拘禁者は、人道的に、かつ、人間固有の尊厳を尊重して扱われている。


1.刑事拘禁施設における被拘禁者の人権侵害の防止及び救済の制度については、次のとおり。


A.監督・査察制度  第2回報告参照。


B.不服申立制度  第2回報告参照。


C.法令・B規約等の周知徹底


(1) 被留置者の権利は、留置を開始する際に、留置担当官によって告知される。また、留置担当官に対する研修においても、B規約等の国連規則の主旨に則った処遇を行うよう指導している。


(2) 矯正施設の被収容者は、B規約の登載された法令集を自己の負担において入手することができ、また、施設に備えつけられている法令集を、閲覧できる。


(3) すべての矯正職員に対し、B規約や被拘禁者処遇最低基準規則等の国連の関連規則をも視野に入れた内容の研修を行っている。


D.家族、弁護人との接見交通


(1) 憲法第34条前段は、「何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない」とし、刑事訴訟法第39条第1項は、未決拘禁者について、職員の立会なしに弁護人又は弁護人になろうとするものに面会することを認めている。この接見交通権は、現実の捜査においても被疑者・弁護人(及び弁護人になろうとするもの)の権利として十分に尊重されている。


しかしながら、この接見交通の権利といえども、絶対的なものではなく、憲法の精神と抵触しない限りにおいては、制限を受ける。


弁護人との接見が拒否される場合には、①刑訴法第39条第3項に基づく接見指定権の行使によるものと、②被疑者を勾留している監獄の施設管理上の必要に基づくものとがある。


(a)前者は、「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第1項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる」とする刑訴法第39条第3項の規定に基づき、捜査のために必要がある場合に、検察官等が、接見の申出に対し、接見の日時等を指定するものである。ただし、その指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならないと定めている。


この規定は、被疑者の防御権と捜査の必要とのバランスを考えて設けられたものであり、被疑者の防御権を不当に制限しないよう実際の運用において十分の配慮がなされている。


すなわち、検察官による接見指定の実務においては、検察官は、接見指定を行う可能性のある事件について、あらかじめ監獄の長に対し、接見指定を行うことがある旨の通知を発することとしている。当該通知のあった事件について、弁護人が直接監獄に赴いて被疑者との接見を求めたときには、監獄の係官は検察官に連絡を取り、検察官が接見指定の要否を判断し、接見指定を行わないか、あるいは接見時間のみについて指定を行う場合には、弁護人と被疑者を直ちに接見させる取扱いとしている。従って、あらかじめ監獄の長に対する通知がない場合だけでなく、通知があった場合でも、弁護士は被疑者と接見するためには直接監獄に赴けばよく、前もって検察官から入手した指定書を持参しなければ接見できないということはない。


なお、検察官等による接見日時等の指定については、その処分の適法性について、被疑者側から裁判所に対する不服申立てが可能である。


最高裁は、1978年7月10日の判決において、捜査機関による接見等の日時等の指定は、必要やむを得ない例外的措置であり、弁護人等から被疑者との接見の申出があったときは、原則として何時でも接見の機会を与えなければならず、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防御のため弁護人等と打ち合わせることのできるような措置を取るべきである旨判示した。接見指定の実務は同判決の趣旨を十分尊重して行われている。


なお、最高裁は、1991年5月10日及び同月31日の両判決において、上記にいう捜査の中断による支障が顕著な場合には、捜査機関が、弁護人等の接見等の申出を受けた時に、現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち合わせているというような場合だけでなく、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合も含むものと解すべきである旨判示している。


(b)後者の施設管理上の必要については、例えば、監獄が、緊急の必要性のない深夜の接見を拒否するような場合であり、施設の人的及び物的条件が有限である以上、当然に認められる制約で、やむを得ないものである。


(2) 弁護人以外の者との面会については、職員が立ち会うが、刑事訴訟法の規定に基づいて面会等が禁止される場合を除けば、面会の相手方に制限はない。


(3) 受刑者については、面会の相手方は、原則として、親族に限られ、その他の者との間では、特に必要が認められる場合にのみ許されることとなっている(監獄法第45条第2項)しかし、実際上、本人の処遇上有益と判断される場合には、積極的に許可する等弾力的に運用されている。面会には、原則として、職員が立ち会うが、処遇上その他必要があると認められる場合には、立合いを行わない措置もとられている。


(4) 平成3年7月9日、最高裁第3小法廷において、監獄法施行規則が、在監者と14才未満の者との接見を原則として許さず、施設の長が必要あると認めたときに例外的にこれを許すとしていること(同規則第120条及び第124条)について、同規定は、未決拘禁者に適用される限度において無効である旨判示されたため、これを受けて、同規則の関係規定について所要の修正がなされた。


2.いわゆる「代用監獄」について


(a) 警察留置場制度


(1) 日本においては、ほとんどの警察署に警察留置場が設置されている。警察留置場には、刑事訴訟法に基づき逮捕された被疑者、刑事訴訟法の規定に基づき裁判官の発する勾留状に基づき勾留された未決拘禁者等が留置されている。警察に逮捕された者のうち年間約11万人が、警察留置場に留置されている。逮捕された者は、釈放される場合を除いて、裁判官の面前に連れて行かれ、裁判官は、勾留するか否かを決定する。警察留置場に勾留される被疑者は、年間約8万人である。警察留置場に留置される期間は、平均15日間である。


(2) 被疑者の勾留の場所


日本では、刑事訴訟法によれば、被疑者の勾留の場所は、監獄とされている(同法第64条第1項等)。そして監獄法は、被疑者を勾留する場所として、監獄(未決の者を収容する施設は拘置所といわれている)の他に警察留置場とすることが出来ると定めている(同法第1条第3項)。この監獄に代えて警察の留置場に被疑者を勾留する制度がいわゆる「代用監獄制度」と呼ばれている。被疑者の勾留の場所は、検察官の請求に基づき裁判所が決定する(刑事訴訟法第64条第1項)。この勾留の場所は、施設の収容能力、捜査機関との近接性、被疑者の利益等を考慮して裁判官の裁量により決定される。警察留置場の管理は、地方の機関たる都道府県警察が行い、国の機関たる警察庁が行うわけではない。


(b) 警察留置場における生活


(1)留置場の構造及び設置


○居室は、被留置者のプライバシー保護に留意している。居室の前面を不透明な板で遮蔽し看守が居室内にいる被留置者の姿を見ることはできない構造になっている。


○居室内にはじゅうたん又は畳が敷かれている。そして、畳等の上に直接座るという日本の生活習慣を勘案し、居室においてもこれと同様の生活習慣が保たれるようにしている。


○被留置者は、単独収容することを原則としており、その適切な処遇を行うのに必要な面積が確保されるように基準が定められている。


(2)留置中の行動


他の被留置者の平穏に支障を及ぼしたり、拘禁目的に反しない限り、居室内での被留置者の行動は自由である。


(3)被留置者の健康保持


○被留置者の健康保持のために、1日30分間、被留置者が希望する場合には1時間を超えて、戸外にも設けられた運動場で自由に運動できる時間が設けられている。


○睡眠時間帯は居室の明りを減光して睡眠に支障がないように配慮している。


○取調べの時間については、執務時間(通常8時30分から午後5時15分まで)中に行うよう努めており、執務時間外に取り調べなければならない事情がある場合でも、留置場の日課時限において就寝時刻が定められている趣旨にもとることのないようにしている。


(4)日用品等の自費購入等


食料品、衣類等の自費購入及び差入れも認められる。


(5)面会、信書の発受等


弁護人等との面会及び信書の発受は、原則として保障されている。家族等との面会及び信書の発受についても、裁判所が拘禁目的を達成するために行う制限を除き、原則として保障されている。


(6) 以上に述べた被留置者の処遇は、捜査官とは身分的に別の留置業務担当の職員が当たっており、捜査官が被留置者の処遇を行うことは、禁止されている。また、留置業務担当職員が、被留置者の処遇に関し、捜査の進展状況や捜査官の取調べ状況に応じて差別することは禁止されている。


(7) 結論


以上のように、日本の留置場において行われている被留置者の処遇は、被留置者の人権を十分に保障したものであり、国連の被拘禁者処遇最低基準規則の趣旨を満たしている。


(c) 留置施設法案について


政府は、都道府県警察が管理運営する留置施設における被留置者の処遇に関する規定を整備する等を目的として、留置施設法案にも取り組んでいる。留置施設法案は、被勾留者の人権に関し、次のような規定を置いている。


○被勾留者の処遇と刑事施設における被勾留者の処遇について、法律上均衡を図り、平等処遇を保障する。


○留置業務と捜査の分離を法律上明確にする。


○日常生活に必要な物品の貸与又は支給に関する規定を設け、被勾留者の処遇の改善を図る。


3.本条2(b)の少年被告人の処遇については第2回報告書で述べたとおり。


4.本条3についての我が国における法的枠組・制度・現状については、第2回報告で述べたとおり。


第11条

 契約上の義務の不履行は、民事上の責任を生ずるにとどまり、第2回報告で述べたとおり、右不履行が犯罪とされることはなく、従って何人もこれを理由として拘禁されない。


第12条

1.第2回報告で述べたとおり、憲法第22条により居住・移転の自由及び外国移住の自由を保障されている。自国に戻る権利については、憲法に明文の規定はないが、当然に保障されていると解されている。


2.入管法は、日本人の出国及び帰国について、出国、帰国に際しての確認の手続を規定しているにとどまり(同法第60条、第61条)、出国及び帰国を制限している規定は存しない。


外国人の入国・在留については、入管法により、入国しようとする当該外国人が、日本国政府が承認した外国政府等の発行した有効な旅券を所持していること、同法に定める在留資格に該当すること、さらに上陸審査基準が定められている在留資格にあっては当該基準に適合すること等の条件を充足すれば上陸を認められる。外国人の在留期間については、各在留資格ごとに法務省令で定められている(外交、公用及び永住者以外の在留資格を伴う在留期間は3年を超えることができない〈同法第2条の2第3項〉とされている)。


外国人の日本国内における居住及び移転については、内外人の間で何ら差異はない。


同法は、外国人の出国については、重大な犯罪を犯し、訴追され又は逮捕状が発せられている者などの場合において出国が一時留保されるときを除き、出国の確認の手続を規定しているにとどまり(同法第25条、第25条の2)、外国人の出国を制限する規定は他に存しない。


3.本条の権利に対する制限としては、以下の制限があるが、いずれも本条3の規定に合致する必要最少限のものである。


(a) 保釈又は勾留執行停止された場合の刑事被告人の住居制限(刑事訴訟法第93条、第95条)


(b) 仮上陸、特例上陸等の許可を受けた者の居住及び行動範囲の制限(入管法第13条第3項、第14条3項、第15条第4項、第16条第4項、第18条第4項、第18条の2第3項)


仮上陸の許可は、上陸手続中において、主任審査官が特に必要があると認める場合に、同手続が完了するときまでの間行うことができる(入管法第13条第1項)。主任審査官が仮上陸許可を行う場合、逃亡防止等の目的から、当該外国人の住居及び行動範囲を制限、呼出しに対する出頭義務その他必要と認める条件を付し、かつ、保証金を納付させることができる(同法第3項)。


(c) 刑事事件で訴追を受けている者等の旅券発給制限(旅券法第13条)


(d) 伝染病患者の収容・隔離(伝染病予防法第7条、第8条)


4.我が国の難民政策


(a) 難民条約上の難民


我が国は、1981年10月の難民条約の締結に伴い、個々の外国人が同条約及び難民議定書にいう難民か否かを判断する難民認定事務を1982年1月から開始しており、1991年8月末までの処理状況は、以下のとおりとなっている。


  • 受理-922人
  • 審査結果   取下げ-142人、認定-197人、不認定-525人、未処理-58人

(b) インドシナ難民


(1) インドシナ三国(ヴィエトナム、ラオス、カンボディア)からの難民の我が国への定住受入については、1978年以来その推進に努め、1991年8月末までの定住総数は7,680人となっている。


(2) いわゆるボート・ピープルについては、1975年5月以来その上陸を認めており、1991年8月末までの上陸総数は12,989人である。


(3) ボート・ピープルの急増に対応するため、1989年6月に開催されたインドシナ難民国際会議の合意を踏まえての一時庇護のための上陸の審査を、いわゆるスクリーニング制度(迫害から脱出した本来の難民と豊かな生活を求める経済難民とを区分するもの)として同年9月13日から実施している。同制度実施以降1991年8月末までに入国したヴィエトナム人ボート・ピープルは474人。うち、スクリーニングを了した者は27人である。


(c) その他


(1) 本邦で難民条約上の難民として認定された者については、その定着を図る観点から、永住許可の要件を緩和し得るものとしている(入管法第61条の2の5)。


(2) 我が国では難民条約上の難民として認定された者に限らず、定住を認められたインドシナ難民についても、難民条約の趣旨を踏まえ、職業、教育、社会保障、住宅等で十分に人道的配慮を行っている。


なお、具体的にはインドシナ難民の定住を円滑に進めるため、専用施設に6カ月間収容して、日本語教育等を行い、かつ退所時には、就職及び住居のあっせん等の援助を行うなどの施策を行っている。


第13条

外国人の退去強制については、その事由及び手続は入管法に規定されており、同法に基づき行われている。詳細は第2回報告書記載のとおり。


第14条

本条に関する我が国における法的枠組は、第1回及び第2回報告で述べたとおりであるが、若干の事項について次のとおり追加する。


1.本条3(c)については、憲法第37条は、被告人は、裁判所の迅速な裁判を受けることを保障している。刑事訴訟規則は、訴訟関係人は、第1回公判期日前に、できる限り証拠の収集及び整理を行うとともに、打合せをして争点を明らかにし、裁判所に対して審理に要する見込み時間等を申し出なければならないと定めているほか、裁判所は、審理に2日以上要する事件については、できる限り連日開廷し継続して審理を行わなければならないとし、やむを得ない場合でなければ公判期日の変更ができないとするなど(同規則第178条の2、第181条等)、裁判の充実化・迅速化を図っている。


2.本条3(d)に関しては次のとおり。


(a) 弁護人を付される権利については、刑事訴訟法で、裁判所は、公訴提起があったときは、遅滞なく被告人に弁護人を選任することができること及び貧困等の理由により弁護人を選任できないときは弁護人の選任を要求することができる旨を知らせなければならず(同法第272条)、被告人が貧困等の理由により弁護人を選任することができないときは、裁判所が、被告人の請求により、弁護人を選任する国選弁護制度が確立している(同法第36条)。


(b) 弁護人は、原則として、弁護士でなければならないが、弁護士に対する法規制は弁護士法(1949年制定)に次のとおり定められ、職務の独立性の確保が図られている。


○弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする(第1条第1項)。その職務として、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行う(第3条)。


○弁護士となるための資格を有する者は、司法修習生の修習を終えた者とされており(第4条)、その資格は、裁判官、検察官となる資格と同一である。


○弁護士及び弁護士会は、国家機関の指揮監督を受けず、行政庁及び裁判所は、弁護士及び弁護士会に対する監督権を有していない。日本弁護士連合会は全国の弁護士及び地方裁判所の管轄区域ごとに設立される弁護士会をもって構成されており、弁護士及び各地弁護士会に対する指導・監督を行っている(第45条)。


第15条

第1回報告で述べたとおり、憲法第31条は、罪刑法定主義を定め、第39条において、遡及処罰の禁止を規定し、本条の権利を保障している。


第16条

第2回報告で述べたとおり、憲法は、個人の尊重(第13条)、基本的人権の享有(第11条)、生命、自由及び幸福追求に対する権利(第13条)を規定し、また裁判を受ける権利(第32条)を定めて、最終的には司法的救済手段による個人の権利を保障している。


第17条

1.本条に規定された権利の保護に関する法的枠組は、第1回及び第2回報告で述べたとおりであるが、主要点は次のとおりである。


憲法は、「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜査及び押収を受けることのない権利は、……、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収するものを明示する令状がなければ、侵されない」(同第35条第1項)と規定し、すべての人の住居等に対する公権力による不当な干渉を禁止している。また、刑法は、故なく住居等に侵入することを禁止し(同法第130条)、軽犯罪法は、正当な理由なしに他人の住居等をのぞき見ることを禁止(同法第1条第23号)している。更に、医師、弁護士、業務上他人の秘密を知りうる職にあるものについては、各種法律において秘密保持等の義務(刑法第134条、刑事訴訟法第149条、民事訴訟法第281条第1項2号)が課せられ、個人の私生活の平穏に対する配慮が払われているほか、国家公務員及び地方公務員にも守秘義務が課せられている(国家公務員法第100条、地方公務員法第34条)。


また、電波法、有線電気通信法、電気通信事業法により通信の秘密及び個人情報が保護されている。


2.行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律の概要


近年の個人情報の電子計算機による処理の進展に対応し、個人の権利利益を保護するため、「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」が施行された(1989年10月)。


行政機関は、各種の資格保有者、年金受給者等の様々な個人情報を記録した個人情報ファイルを保有している。同法の規定により、個人情報ファイルの保有目的、記録項目等は、各行政機関が作成する個人情報ファイル簿や総務庁の官報公示によって、国民に明らかにされている。個人情報ファイル簿に掲載されている個人情報ファイルについては、何人にも自己に関する情報の開示請求権が認められ、誤った個人情報について訂正等の申し出があったときには、行政機関は必要な調査を行い、その結果を本人に通知する。行政機関には、個人情報ファイルの保有制限、個人情報の安全・正確性確保の努力義務が課せられており、また、原則として、個人情報ファイルに記録されている個人情報を個人情報ファイルの保有目的以外の目的に利用又は提供することが禁止されている。


3.名誉・信用の保護については以下のとおり。


(a) 刑法は、人の名誉を毀損すること及び人を侮辱することを処罰の対象とし、死者の名誉についても、誣罔することを処罰の対象としている(同法第230条)。


(b) 人の信用を毀損することは、刑法で処罰の対象とされている(同法第233、第231条)。


(c) 更に、個人の名誉・信用が、毀損された場合、その損害については、精神的損害に対する賠償(民法第710条)として救済を受けうる他、原状回復を求めうる(同法第723条)。


4.なお、近時、「プライバシー権」の名において、肖像権、及び人の名誉・信用に係る過去をみだりに知られない権利等が法的保護の対象とされつつある。これらの権利は、判例上、憲法第13条により保障される人権として認められる。


(a) 「肖像権」を認めた初めての最高裁の判例(1969.12)


「憲法13条は……国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない」


(b) 近年の下級審裁判としては、写真週刊誌による個人の私生活・顔写真の無断掲載がプライバシー又は肖像権侵害に当るとして民事訴訟(損害賠償請求、謝罪広告請求)となった事例がある。


第18条

1.第1回及び第2回報告で述べたとおり、憲法第19条、第20条、及び第21条第1項が、思想・良心の自由、信教の自由及び表現の自由を規定し、また、同第14条が、思想・信条による差別を禁じており、本条の内容は確保されている。


2.特に、本条2については、憲法第20条第2項が、「何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない」と規定している他、同条第1項及び第3項等が国家の非宗教性を規定し、国及びその機関による宗教的活動を禁止している。


3.なお、教育基本法第9条第1項において、「宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない」と規定しており、私立学校による宗教教育や家庭における宗教教育が認められている。


第19条

本条については、第1回及び第2回報告で述べたとおり、意見を持つ権利、表現の自由は保障され、民主主義の維持に不可欠のものとして最大限尊重されている。表現の自由の制限は、第2回報告で述べたとおり限定される。


第20条

1.本条1については、我が国は、国民の間に戦争に対する極めて強い否定的感情が存在しており、戦争宣伝が実際に行われることがほとんど考えられないとの状況にあることは、第1回及び第2回報告の通りである。右事情は前回審査以降変っておらず、将来仮に、戦争宣伝行為による弊害の危険性が生じることとなれば、必要に応じ、表現の自由に十分配慮しつつ立法措置を検討することとなろう。


2.本条2についても、第1回及び第2回報告の通り、現行法制により規制しえない具体的な弊害が生じる場合には、公共の福祉を害しない限度において表現の自由に十分配慮しつつ、さらに立法措置を検討することとしている。


第21条

第1回及び第2回報告で述べたとおり、本条に規定された権利は、憲法第21条第1項により保障されており、また、右権利に対する制限(破壊活動防止法第5条及び伝染病予防法第19条第1項第3号等)も、本条に合致した必要最少限のものとなっている。


第22条

1.本条に規定する権利については、第1回報告で述べたとおり、憲法第21条第1項、第28条のほか、労働組合法、国営企業労働関係法等の国内法により保障されている。


2.なお、本条に規定する権利については、上記国内法令による保障に加え、我が国は、ILOの強制労働に関する条約(第29号)、団結権及び団体交渉権条約(第98号)及び結社の自由及び団結権の保護条約(第87号)をそれぞれ1932年、1953年及び1965年に締結し、誠実に遵守しているところであり、本規約第22条3に言及された義務の履行も確保されている。


3.政治資金規正法の概要


政党その他の政治団体は、その名称、代表者の氏名等一定の届出義務があり、その届出を行わない政治団体は、政治活動のために寄附を受け又は支出をしてはならないとして、政治資金規正法は、政治団体を設立した場合に届出をする義務を課しているが、政治活動を行う団体を設立又は組織すること自体を規制するものではなく、事後的に自治大臣又は都道府県選挙管理委員会(以下「行政機関」という)に届け出ることを規定しているものである。


届出を受けた行政機関は、届け出られた事項について公表しなければならないが、その内容は、政治団体の所在地、代表者の氏名等最小限の情報に限定されており、結社の自由に十分に配慮している。


政治資金規正法は、政治活動の態様について特段の規制をしていない。ただ、政治活動に関する寄附(政治団体に対してされる寄附又は政治家の政治活動に関する寄附)については、一寄附者が寄附することのできる金額についての制限及び特定の者からの寄附等に関する規制がある。


また、政党その他の政治団体及び一定の政治家個人は、その政治資金の収支について報告し、公開しなければならない。


これらの規制を課しているのは、政治資金の収支の状況を国民に公表することにより、その政治活動が国民の監視と批判の下に行われるようにするとともに、これらの規制により政治活動の公正と公明を確保し、もって民主政治の健全な発達に寄与することを目的としているものである。


4.労働組合員の数、及び組織率。


 1990年の日本における労働組合数(単位労働組合)は72,202組合、労働組合員数(単一労働組合)は12,265千人。雇用者に占める労働組合員数の割合(推定組織率)は25.2%である。


[参考]


労働組合数、労働組合員数及び推定組織率 (表省略)


資料出所 労働省「労働組合基礎調査」(1990年6月末日現在)



  (注)(1) 労働組合数、労働組合員数は、単一労働組合である。


       ( )内は、単位労働組合数及び組合員数である。


     (2) 雇用者数は、総務庁統計局「労働力調査」1990年6月分による。


第23条

婚姻及び家族については、国民生活の基本秩序に重要なかかわり合いを有するものとして、憲法(第24条)及び民法により、個人の尊厳と両性の本質的平等の原則に立脚して保護されている。婚姻中の財産制、財産分与及び子の監護・教育等に関しては民法が定めている。これらの詳細は第2回報告で述べたとおりである。


なお、婚姻が解消された後の母子家庭については、児童の健全育成の観点から児童扶養手当の支給等の措置がとられている(児童扶養手当法)。


また、夫婦別姓問題など各方面から種々の問題提起をされている民法の婚姻及び離婚に関する規定全般について、国の審議会においてその見直し作業に着手することになった。


第24条

1.本条1に言及されている権利については、憲法第14条の法の下の平等の定めにより、児童に限らず、すべて国民は、人種、信条、性別、社会的身分又は門地による差別なく、個人としてその人権をあまねく保障されている。特に、児童の権利については、同第27条第3項は児童の酷使を禁止し、また、同第26条は、すべて国民は、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負うとし、更に、義務教育の無償制度を保障している。


本条1に言及される家族、社会、国家を通じた児童の権利の保障に関し、第2回報告に対する補足説明も含め、我が国でとられている措置の概略は次の通り。


A.福祉面


(a) 児童福祉法は「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」(同法第2条)との基本的考え方をかかげている。


(b) 家族の保護、児童の養育のための諸手当の支給(児童手当法、児童扶養手当法、児童福祉法等)


(c) 母性の保護のための諸措置(母子保健法、児童福祉法、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律、労働基準法、健康保険法、母子及び寡婦福祉法等)


(d) 児童の監護のための特別措置(少年法:非行少年及び犯罪少年に対する特別措置、児童福祉法:児童の福祉措置、保障並びに関連施設の設置等)


(e) 搾取、遺棄及び虐待等からの児童の保護(刑法、労働基準法、児童福祉法)


(f) 児童及び年少者の労働の規制(労働基準法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)


(g) 心身障害を有する児童に対する障害の状態に応じた適切な措置及び指導(心身障害者対策基本法、児童福祉法)。


(h) 児童売春を撲滅するための対策


我が国の現在の少年を取り巻く環境をみると、性に対する国民意識の変化による性倫理の低下と社会一般に見られる享楽的風潮を背景とした、性を売り物とする産業等の増加及び一部のマス・メディアにおける性に関する情報の氾濫が顕著であり、少年の性意識への影響が大いに憂慮されるところである。


また、暴力団がその勢力を維持、拡大のために、少年に対してさまざまな形態でアプローチをして巧妙に組織の活動へ取り込んでいるとともに、売春関係事犯に介入して有力な資金源としている実態が認められる。


このような情勢を背景として、少年の性非行及び少年の福祉を害する犯罪が横行するに至り、これが少女売春を惹起しているのである。


警察は、諸種の少年非行防止、健全育成のための活動を通じて、少女売春を撲滅するための対策を講じているところである。


(1) 警察では、日頃から少年係の警察官、婦人補導員等を中心に、盛り場、公園等非行の行われやすい場所で街頭補導を実施しており、そうした地域を徘徊する少年が売春事犯の被害者とならないよう努めているところである。平成2年に性の逸脱行為で補導した女子は4,902人である。


(2) 最近の少年の福祉を害する犯罪(以下「福祉犯」という)の傾向をみると、享楽的な社会風潮を背景として、風俗営業にかかる事犯が目立っているが、これらの犯罪は、少女に売春をさせたりする等により少年の心身に有害な影響を及ぼし、少年の健全な育成を著しく阻害するものであることから、警察では、その積極的な取締り、被害少年の発見保護に努めている。平成2年における福祉犯の検挙人員は10,653人で、うち売春事犯は7,021人にのぼり約66パーセントを占めている。


(3) 警察では、少年の非行、家出、自殺等の未然防止及びその兆候の早期発見に資するために、少年相談の窓口を設け、少年、保護者等からの相談に対して、心理学等に関する知識を有する専門職員や経験豊かな少年係の警察官、婦人補導員が必要な指導や助言を行っており、安易に売春に奔ることのないよう少年自身に教唆するとともに、保護者等にも協力を要請するなどして少女売春の防止を図っているところである。また、都道府県警察では、電話による相談業務を行っている。平成2年に警察が受理した少年自身からの少年相談の件数は31,328件で、うち性に関するものは6,286件である。


(4) 警察では、家庭、学校、地域社会等との連携の下、社会奉仕活動、生産体験活動等の少年の社会参加活動やスポーツ活動を行う他、非行防止のための教室や座談会を開催するなど、少年が自らを律して売春に身を投じることがないような規範意識の確立及び向上を図る活動を推進している。


また、警察では、関係機関と連携して、少年に対し性に関する誤った知識を植えつけ売春を誘発するおそれがある等の少年に有害な図書等について、少年が購入あるいは閲覧しないようにするための対策を講ずるとともに、出版関係業界に対し、販売方法や出版図書の内容の見直し等自主規制の徹底を要請する他、地域住民や民間ボランティアと協力して非行を誘発し売春の温床となる環境を除去するための活動を推進している。


(i) 我が国では、学校教育において教師が児童生徒に体罰を加えることは、法律により禁止されている(学校教育法第11条)。しかしながら、実際の学校現場では、教師による体罰が行われているケースがみられる。


このため、政府はこれまで体罰の禁止について都道府県教育委員会等に対し指導通知を発出するとともに、各種会議での指導や個別の事案に関する具体的な指導等、体罰禁止の趣旨の徹底について指導の充実に努めている。


法務省の人権擁護機関(第2回報告書別添1参照)は「体罰」について、関係者からの「申告」や新聞・雑誌等から「情報」を得た場合、その申告や情報の内容を検討し、人権侵犯の疑いのある事案を人権侵犯事件として受理し、受理した事件については体罰を加えた教師や監督者である校長等関係者から事情聴取する等して、事実の調査を行い、この調査結果に基づいて体罰を加えた教師や校長に対し、児童生徒の基本的人権を擁護するという立場から啓発を行い、再び体罰を繰り返さないよう説諭(「説示」)し、また、学校に体罰を容認する体質がある場合には、必要に応じ、校長や教育委員会に対して再発防止のための適切な方策をとるように「勧告」や「要望」をする等の措置をとっている。


人権擁護機関が受理した体罰事件の件数は1987年146件、1988年133件、1989年113件、1990年122件である。


B.教育面


教育基本法は、「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底」することを使命として(同法前文)おり、諸法令において次のような規定がおかれている。


(a) 教育の機会均等(教育基本法第3条)


(b) 9年間の普通教育の義務教育制及びその間の国公立学校での授業料免除(教育基本法第4条、学校教育法第6条、第22条、第39条)


(c) 社会教育の奨励(教育基本法第7条、社会教育法第3条)


(d) 経済的理由により就学困難な学齢児童の保護者への援助給付(学校教育法第25条、第40条等)


(e) 心身に障害を有する者に対する障害の状態に応じた教育(学校教育法第22条、第39条、第74条等)


2.本条2に関しては、全て子は、場合に応じ父母あるいは父または母の氏を称し(民法第790条)、出生届により命名の効力を生じ、父母あるいは父又は母の戸籍に入る(戸籍法第18条)。


3.本条3が規定する児童の国籍取得については、国籍法第2条に右に添った規定が設けられている。


第25条

1.我が国における本条関係の法的枠組の詳細については第2回報告で述べたとおりであるが、その概要は次のとおり。


憲法は、公務員の選定・罷免は、国民固有の権利である(第15条第1項)とし、国会両議院の議員の選挙(第43条)、地方公共団体の長及びその議会の議員等の選挙(第93条)につき規定し、かかる選挙の際の成年者による普通選挙・秘密投票の原則を定めている(第15条第3項、同条第4項)。


公職選挙法は、国会両議院の議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の選挙方法について具体的に定めており、また、国民の選挙権、被選挙権、投票の秘密を保障している。


2.国又は地方公共団体の公務に従事する職員に関し、国家公務員法(第33条)及び地方公務員法(第15条)は、能力の実証に基づいて職員の任命を行う旨を規制している。


第26条

1.憲法第14条第1項は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定し、法の下の平等を保障している。本条に関する法的枠組は、第1回及び第2回報告で述べたとおりであるが、補足的説明は次のとおり。


(a) 憲法第14条第1項は、「人格の価値がすべての人間について平等であり、人種、宗教、男女の性、職業、社会的身分等の差異に基づいて、あるいは特権を有し、あるいは特別に不利益な待遇を与えてはならないという大原則を示したものである」(1964年5月最高裁判例)。この平等原則及び個人の尊厳の尊重は、最も重要な原則として今日大部分の国民の間に広く認識されているが、日常生活・雇用等の面において私人間で依然差別が見られるのも事実である。かかる場合は、当事者は裁判による救済を求めることができるが、これ以前に差別・人権侵害が生じない社会を作るよう国民の努力と国民意識の啓発が必要であり、引続き官民一体の努力が肝要である。


(b) 憲法第14条第1項の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推適用される(1964年11月最高裁判例)。


(c) 労働面に関し、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由とする賃金、労働時間、その他の労働条件に関する差別的取扱は禁止されている(労働基準法第3条)。また、性を理由とする賃金に関する使用者による差別的取扱は禁止されている(労働基準法第4条)。


さらに、男女労働者の雇用における均等な機会及び待遇については、男女雇用機会均等法により確保が図られている。


2.同和問題の現状と課題


政府は、同和問題は日本国憲法に保障された基本的人権に係る重要な問題であるとの認識のもとに、1969年以来、20年余りの間に三度にわたる特別措置法を制定する等重要課題の一つとして関係諸施策の推進に努めてきた。その結果、生活環境の改善を始めとして、同和関係者の住む地区の生活実態の改善、向上が図られ、現在では、同和関係者の住む地区とそれ以外の地域との格差は、平均的に見れば、相当程度是正されてきている。一方、心理的差別についてもその解消が進み、その成果は、全体的には着実な進展を見せているものの、結婚、就職等についての差別事件は根絶されていない。


したがって、人権尊重の立場で粘り強く啓発活動を展開し、差別を生み出している心理的土壌を変えていくよう、今後とも創意工夫をこらし効果的かつ積極的な啓発を展開していく必要がある。


第27条

1.我が国において、自己の文化を享有し、自己の宗教を実践し、又は自己の言語を使用する何人の権利も否定されていない。


本条との関係で提起されたアイヌの人々の問題については、これらの人々は、独自の宗教及び言語を有し、また文化の独自性を保持していること等から本条にいう少数民族であるとして差し支えない。これらの人々は、憲法の下での平等を保障された国民として上記権利の享有を否定されていない。


2.北海道ウタリ対策


北海道庁は、1974年以来、3次にわたり「北海道ウタリ福祉対策」を策定し、教育、文化の振興、生活環境の整備、産業の振興等の施策を総合的に推進し、アイヌの人たちの生活水準の向上を図っている。


日本政府は、北海道庁が進めているウタリ福祉対策に協力し、これを円滑に推進するため、1974年政府部内に「北海道ウタリ対策関係省庁連絡会儀」を設置し、関係行政機関の緊密な連絡のもとにウタリ福祉対策事業関係予算の充実に努めている。


1986年に北海道庁が実施した「北海道ウタリ生活実態調査」によれば、アイヌの人たちの生活水準は着実に向上しつつあるが、なお一般道民との格差は是正されたとはいえない状況にある。このため、引続き、「第3次北海道ウタリ福祉対策」(1988~95年)を推進し、アイヌの人たちの生活水準の向上と一般道民との格差の是正を図っている。


(なお、「アイヌ」とはアイヌ語で「人間」を、「ウタリ」とは「同胞」を意味する)


別添1

(1) 最高裁判所昭和23・3・12大法廷判決


憲法第13条においては、すべての国民は個人として尊重され、生命に対する国民の権利については、立法その他の国政上最大の尊重を必要とする旨を規定しているが、公共の福祉という基本的原則に反する場合には、生命に対する国民の権利といえども立法上制限ないし剥奪されることを当然予想しているなどとした裁判例


(2) 最高裁判所昭和26・4・4大法廷判決


憲法第21条所定の言論、出版その他一切の表現の自由は、公共の福祉に反し得ないことは憲法第12条、第13条の規定上明白である等として、確たる証拠がなかったにもかかわらず会社が人員配置転換を行うに当たり不当不正な施策を行ったことを真実であるかのように宣伝したことを理由とする従業員の懲戒解雇を適法とした裁判例


(3) 最高裁判所昭和29・11・24大法廷判決


行列行進又は公衆の集団示威運動は、公共の福祉に反するような不当な目的又は方法によらない限り、本来国民の自由とするところであるが、これらの行動といえども公共の秩序を保持し、又は公共の福祉が著しく侵されることを防止するため、特定の場所又は方法につき、合理的かつ明確な基準の下に許可や届出をさせてこのような場合にはこれを禁止することができる旨の規定を条例に設けても、直ちに憲法の保護する国民の自由を不当に制限するものとは解されないとした裁判例


(4) 最高裁判所昭和37・4・4大法廷判決


風俗営業等取締法第3条に基づく東京都風俗営業等取締法施行条例第22条による営業時間の制限は、善良の風俗を害する行為を誘発する弊害を防止するために必要な措置であり、公共の福祉のために是認されるべきであるとした裁判例


(5) 最高裁判所昭和37・10・24大法廷判決


憲法第22条の保障する営業の自由は公共の福祉の要請がある限り制限され得るとした上で、宅地建物取引業法の一部を改正する法律(昭和32年法律第131号)附則7項、8項が宅地建物取引業者に対し新たに営業保証金の供託義務を課していることは、公共の福祉を維持するための必要な是正措置として是認され、この規制は憲法第22条に違反しないし、業者の人格を無視するものではないから憲法第13条に違反するものではないとした裁判例