子どもの権利条約 第1回政府報告書
序論
児童は、人として尊ばれる
児童は、社会の一員として重んぜられる
児童は、よい環境の中で育てられる
1. これは、我が国が、国民の世論と運動の盛り上がりを背景に、1951年に制定、宣言した児童憲章の基本綱領で謳われているものであり、今日に至るまで、児童の基本的人権を認め、その福祉の保障と増進を誓った重要な基本的理念として、多くの国民の間で認識されてきた。そして、1994年4月22日、児童の権利に関する条約を批准したことを契機に、児童の人権に対する関心は一層高まり、児童の人権の尊重と保護の精神は、従来にも増して、より多くの国民の間に理解されてきている。
2. 我が国の憲法は、基本的人権の尊重を重要な柱としており、第97条においては、基本的人権を「現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」としている。この基本的人権には、(i)身体の自由、表現の自由、思想・良心の自由、信教の自由等のいわゆる自由権的権利、(ii)教育を受ける権利、国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利等のいわゆる社会的権利等が含まれている。
3. 児童についても、その基本的人権は憲法の下で保障されているが、とりわけ、児童については、その心身にわたる福祉の増進を図るため、児童福祉法が1947年に制定された。同法第1条は、「すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない」と規定している。この規定は、親、保護者、教師も含めた社会の構成者たるすべての国民が、それぞれの立場において児童の最善の利益を考え、児童の健全育成に責任を負っていることを明らかにするとともに、児童も一人の人間として尊重され、かかる意味でいかなる差別もなく平等に基本的人権を享有することを確認しているものである。また、同法第2条では、「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」と定め、児童の福祉に対する国及び地方公共団体の責任を明らかにしている。更に、同法第3条では「前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたって、常に尊重されなければならない」と規定し、第1条及び第2条の児童福祉の原理が、児童福祉法だけでなく、児童に関するすべての法令の施行に際し、尊重されなければならないことを明らかにしている。このような、児童福祉法に定められている児童に対する施策の基本原則は、この条約の精神とも合致するものであり、我が国は、かかる原則の下に、福祉や教育等に関するさまざまな施策の充実を図っている。
4. 福祉の面では、児童福祉法に基づき、児童相談所や養護施設及び保育所等の児童福祉施設の充実が図られ、児童の保護、家庭への支援等が行われている他、母性、乳幼児の健康の保持、増進を図ることを目的とした母子保健法の下に、妊産婦、乳幼児の保健指導、三歳児などへの健康診査、栄養摂取の援助、未熟児の養育医療、母子健康手帳の交付など、母子の健康及び保健サービスが実施されている。また、児童の養育への支援として、児童手当法等に基づいた給付を行うことにより、児童の福祉の増進を図っている。なお、近年においては、少子化の進行や女性の社会進出など、児童を取り巻く環境が変化しており、これらの変化に対応した施策の充実が必要であるが、政府としては、いつの時代にあっても児童の最善の利益を考慮に入れ、児童の福祉の増進に努めている。
5. 教育は、児童の能力を伸長し、社会に適応する能力を持った人間を育てる大切な活動である。政府は、教育基本法及び学校教育法の下に、教育の普及に鋭意努めてきたところであり、義務教育課程での就学率はほぼ100%に達している。教育基本法では、個人の尊厳を重んじる教育の普及を謳っており、その理念に基づき、「個性重視の原則」を基本原則として掲げ、児童の人権に十分配慮し、一人一人の個性を大切にした教育、指導を行っている。
6. また、児童が自ら考え、主体的に判断し、行動することができる心身ともに健全な人間として育つためには、学校における教育のみならず、学校外において生活体験や活動体験を豊富に経験することが重要である。このため、我が国では、1992年度より、学校週5日制を導入した。これは、児童の生活リズムにゆとりを与え、家庭や地域で児童により豊かな生活体験や活動体験を提供する契機となっている。また、我が国の児童福祉法では、児童に健全な遊びを与え、その健康を増進し、又は情操を豊かにすることを目的とした児童厚生施設について規定(第40条)しており、その充実を図っている。
7. 児童は、心身ともに成長段階にあり、人権を享有するに当たっては、特別な保護が必要であり、特に、児童を有害な環境から保護することは極めて重要である。この点については、刑法、児童福祉法、労働基準法等により、あらゆる形態の搾取、虐待等から児童を保護するための適当な措置を講じているが、政府としては、これら関係法令による取り締まり等の他にも、家庭、学校、地域社会の緊密な連携の下に、広報啓発活動及び有害環境の浄化活動を推進するとともに、児童の補導活動、相談活動を行う等国民的課題として積極的に取り組んでいる。
8. また、非行のある児童に対しては、できるだけ早く保護し、適切な指導を行うとともに、そのための環境にも配慮することが必要である。このような考えに基づき、少年法及び児童福祉法等関連法令の下に、少年事件等の処理体制、矯正処遇、環境調整も含めた更生保護及び不良児童の教護の充実強化を図り、非行の再発を防ぐとともに、社会への円滑な復帰の実現を支援している。
9. 国際協力については、我が国は、政府開発援助大綱(ODA大綱)において、ODAの効果的実施のための方策の一つとして児童等社会的弱者にも十分配慮するよう掲げている。このような考えの下、二国間援助により学校の校舎建設や母子保健、小児病院プロジェクト等への協力を行っているほか、国連児童基金(UNICEF)、世界保健機関(WHO)、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)等の国際機関を通じた資金協力等も行い、世界の児童の人権の尊重と保護を目指した国際協力を積極的に実施している。
10. 児童の権利に関する条約は、すべての児童の権利保護を具体的に実現していくための重要な原則を謳ったものである。我が国は、この条約の批准以来、この条約の効果的実現のために現行法制の下、さまざまな施策の充実のため努力を払ってきた。しかし、実際には、家族等人間関係の希薄化、有害な情報の氾濫など現代社会の抱える荒廃した一面による影響を受けて、児童の虐待や少年非行、いじめ等の事態が深刻化するなど、児童を取り巻く環境には新たな課題も生じている。
11. すべての児童がその人格の完全なかつ調和のとれた環境の中で育つため、政府としては、その環境づくりに向けて引き続き効果的かつ総合的な施策の充実を図っていく必要がある。また、これまで、民間団体等も自主的にこの条約の効果的な実現に向けて取り組みを行っており、こうした活動も評価されるものである。したがって、この条約の効果的な実現のためには、政府のみならず、家庭、自治体、学校、警察、民間団体等社会全体が一体となって相互に連携を図りながら、児童の最善の利益を考慮しつつ、児童の人権の尊重及び保護に向けて取り組んでいくことが肝要であり、更には、国民一人一人がこの条約に対する理解を深め、その実現に向け努力していくことが不可欠である。
Ⅰ. 条約の諸規定の実施のための一般的措置
A. 国内法及び国内政策と条約の諸規定を調和させるためにとられた措置
12. 我が国は、条約の批准に当たっては、国内法制度との整合性を確保することとしている。児童の権利に関する条約は、条約上の「児童」を「18歳未満のすべての者」と定義した上で、児童の人権の尊重、確保を目的として、表現の自由、思想・良心の自由等の自由権的権利や社会保障、生活水準についての権利等社会的権利等を広範に規定している他、児童の養育と発達における父母又は保護者の第一義的責任等児童の保護に資する事項並びに麻薬、性的搾取及び虐待からの保護、難民の児童の保護等現代社会の問題に対応した事項をも規定しているが、これらの内容の多くは、我が国も既に1979年に締結している経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約に規定されていること、また、憲法を始めとする現行国内法制によって保障されていることから、この条約の批准に当たっては、現行国内法令の改正又は新たな国内立法措置は行っていない。
13. なお、我が国は、国内法との整合性を保つために、以下の留保を付している。
「日本国は、児童の権利に関する条約第三十七条(c)の適用に当たり、日本国においては、自由を奪われた者に関しては、国内法上原則として二十歳未満の者と二十歳以上の者とを分離することとされていることにかんがみ、この規定の第二文にいう「自由を奪われたすべての児童は、成人とは分離されないことがその最善の利益であると認められない限り成人とは分離される」に拘束されない権利を留保する。」
これは次の理由によるものである。
この条約第37条(c)は、「自由を奪われたすべての児童は、成人とは分離されないことがその最善の利益であると認められない限り成人とは分離されるもの」とする旨規定している。ところで、この条約上、「児童」については、18歳未満のすべての者、ただし、その者に適用される法律によりより早く成年に達した者を除くと定義されている(第1条)が、「成人」についての定義はなく、右規定が、「児童」という若年者をそれ以外の年長者から分離することにより有害な影響を受けることを防止し、かつ、保護しようという趣旨であることにかんがみれば、ここでいう「成人」とは「児童」以外の者、すなわち18歳以上の者をいうものと解される。我が国においては、少年法上、20歳未満の者を「少年」として取り扱うこととし(少年法第2条)、20歳以上の者から受ける悪影響から保護するとの観点から、自由を奪われた者については、基本的に20歳未満の者と20歳以上の者とを分離することとされている。したがって、条約の定める分離の基準の年齢とは明らかな差異が存在するため、同規定に関し、留保を付すこととした。
14. なお、上記のとおり、条約の批准に当たっては、国内法の改正は行っていないが、児童の人格の完全なかつ調和のとれた発達が確保され、社会の中で個人として生活できるようにするためには、国内法制の下に、実体面において児童の保護及び福祉をより一層充実させていくことが重要である。児童の権利に関する条約の批准は、その効果的な実現に向けた施策の充実を図る契機となっている。
児童の人権擁護
15. この条約に認められる権利を含めて、児童の人権を保障する行政上の措置の一つとして、1994年度より、「子どもの人権専門委員」制度が開始された。「子どもの人権専門委員」は、児童の人権が侵害されないように監視し、もし、人権が侵害された場合は、その救済のため速やかに適切な措置をとり、また、地域住民や親子を対象とした座談会を開催するなどの啓発活動を行い、この条約の意義、内容や趣旨についての適切な理解を得ること、並びに、児童の人権を尊重する意識の一層の高揚を図ることをその職務としている。「子どもの人権専門委員」は、児童をめぐる人権問題に適切に対処するため、弁護士、教育関係者等である人権擁護委員が指名されており、児童の人権問題を主体的、重点的に取り扱っている。1996年1月1日現在、「子どもの人権専門委員」は、全国で515名が指名されており、すべての都道府県に設置されている。また、「子どもの人権専門委員」が指名される母体である人権擁護委員は、一般から選ばれた市民のボランティアが法務大臣から委嘱されたものであり、法務局・地方法務局の人権相談室や自宅などで人権相談を受けるなどの活動を積極的に行っている。
16. 更に、法務省の人権擁護機関(法務省人権擁護局、法務局人権擁護部、地方法務局人権擁護課及び人権擁護委員)は、1994年度、95年度、96年度の啓発活動重点目標をそれぞれ、「子どもの人権を守ろう」と定めた。この目標の下で、人権擁護機関は、学校その他の関係各機関と協力し、児童、家庭、地域社会に対して、児童の権利を尊重する意識の一層の高揚を図るための広報活動を重点的に行っている。
児童の虐待対策等
(a) 都市家庭在宅支援事業
17. 都市部における家庭内の育児不安、虐待及び非行等の養育上の諸問題に対応するため、民間施設の専門性を活用して近隣地域の家庭から相談を受け、必要に応じて家庭訪問を行う等による即時的継続的な在宅支援を行い、児童の権利擁護、健全育成及び資質の向上に寄与することを目的として、1994年度より開始された。1995年度は20ヶ所の民間施設で実施されている。
(b) 児童虐待ケースマネージメントモデル事業
18. 1996年度より、児童虐待ケースマネージメントモデル事業を開始した。児童の虐待の早期発見と迅速な対応、継続的なフォローアップのために、地域虐待対応ネットワークを構築し、虐待の早期発見に努めるとともに、ケースマネージメントを実施し、福祉事務所、医師、弁護士、警察等の関係者を含めたチームとの連携により、困難な事例に対応することとしている。
子育ての総合支援等
(a) エンゼルプラン
19. 近年の少子化の進行や女性の社会進出等に対応して、1994年度に、今後10年間における施策の基本的方向と重点施策を盛り込んだ「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」を策定し、社会全体による子育て支援の機運を醸成するとともに、子育て支援のための施策を総合的に展開していくこととした。エンゼルプランは、子どもを持ちたい人が安心して出産や育児ができるような環境を整備するため、家庭における子育てを社会全体で支援し、その施策の促進において児童の最善の利益が最大限尊重されることを基本的視点としている。そして、重点施策として次の事項を掲げている。
(i) 仕事と育児との両立のための雇用環境の整備
(ii) 多様な保育サービスの充実
(iii) 安心して子どもを生み育てることができる母子保健医療体制の充実
(iv) 住居及び生活環境の整備
(v) ゆとりある学校教育の推進と学校外活動・家庭教育の推進
(vi) 子育てに伴う経済的負担の軽減
(vii) 子育て支援のための基礎整備
なお、エンゼルプランの具体化の一環として、保育対策の計画的整備を図っていくため、以下の「緊急保育対策等5カ年事業」が定められている。
1994年度 | 1999年度 | |
---|---|---|
(i) 低年齢保育 (0歳から2歳までの児童の保育) |
45万人 | 60万人 |
(ii) 延長保育 (概ね午後6時以降の保育) |
2,230ヶ所 | 7,000ヶ所 |
(iii) 一時的保育 (緊急・一時的な保育) |
450ヶ所 | 3,000ヶ所 |
(iv) 乳幼児健康支援デイサービス事業 (病気回復時の乳幼児の保育) |
30ヶ所 | 500ヶ所 |
(v) 放課後児童クラブ (主に小学校低学年児童に対する放課後の児童育成) |
4,520ヶ所 | 9,000ヶ所 |
(vi) 多機能化保育所の整備 (保育所の改築時に育児相談スペース等を整備) |
5ヵ年で1,500ヶ所 | |
(vii) 地域子育てセンター (育児相談、育児サークルの支援などを行う保育所等) |
236ヶ所 | 3,000ヶ所 |
また、文部省では、子育てや教育に係る経済的負担の軽減や家庭教育の充実に努めるとともに、受験競争の緩和を図り、学校内外を通じた「ゆとりある教育」を実現させるため、(i)子育てに伴う経済的負担の軽減、(ii)子育てに関する相談体制の整備等による家庭教育の充実、(iii)体験的活動機会の提供等による学校外活動の充実、(ivゆとりある学校教育の推進に係る施策を積極的にかつ総合的に推進している。
(b) 児童手当法の改正
20. 児童手当制度は、家庭における生活の安定と児童の健全な育成に資することを目的とし、現金給付である児童手当を支給することをその内容として1972年から実施されている制度である。他方、児童や家庭を取り巻く環境の変化に対応するため、きめ細やかな育児支援サービスや児童の健全育成のための事業の充実を図ることとする改正が1994年度に行われた。
(c) こども未来財団の設立
21. 1994年7月、育児支援事業や児童の健全育成事業を支援することを目的として民法に基づく財団法人である「こども未来財団」が設立された。同財団は、公的なサービスのみでは対応が容易でないサービスの実施を支援することとしている。
B. 国又は地方レベルにおいて、児童に関する政策を調整し、条約の実施を確保するための既存の又は計画されたメカニズム
26. 我が国は、児童を含めた青少年が、国の次代の担い手として心身ともに健やかに成長するよう、多種多様な施策を実施しており、関係する行政機関は多数に及んでいる。例えば、児童の健全育成、養護、保育に欠ける児童及び障害児の福祉、母子保健等に関する事務については厚生省が、少年非行の防止、少年の補導、犯罪等により被害を受けた少年の保護、少年の福祉を害する取締り等に関する事務は警察庁が、非行少年の裁判所への送致等に関する事務は検察庁が、非行少年の矯正、更生保護及び人権擁護に関する事務は法務省が、また、教育、スポーツ、文化等に関する事務は文部省が、更には、年少労働者の保護、職業訓練等に関する事務は労働省がそれぞれ所掌している。そして、これらの関係省庁の青少年に関する施策を政府全体として総合的かつ効果的に実施するために、総務庁が、青少年対策推進会議等を通じて関係省庁の施策の調整を行っている。
27. 地方との関係についても、総務庁において、都道府県、政令指定都市の青少年対策主管部局との連絡会議を開催し、国、地方相互の情報交換を行うなど、青少年に関する施策につき国と地方を通じた総合的推進に努めている。
28. また、児童の健全な育成、人権侵害の防止や早期発見等に努めるため、青少年に関する相談窓口を設け、専門員等が随時相談に応じている。例えば、法務局人権擁護部(課)、児童相談所、教育センター、少年補導センター、少年鑑別所、都道府県警察本部の少年課等や警察署など種々の機関に相談窓口が設けられている(資料1参照)。窓口への相談等に対し、迅速かつ適切な対応を図っていくには、これらの相談機関の充実強化と相談機関相互の連携が重要であるため、全国を6ブロックに分け、各ブロックごとに相談機関の担当者の参加による連絡会議を開催している。
29. この条約に規定された義務の実施については、法務省、外務省、文部省、厚生省をはじめとした各行政機関が、それぞれの立場から各種施策を展開している。これらの施策の実施に当たっては、関係行政機関相互間において緊密な連携を図りつつ行っているところであり、政府全体としての連携の確保にも努めている。
(1) 機関名(所轄官庁) | (2) 設置主体 | (3) 相談業務の内容(相談に応じている物) | (4)設置状況 | (5) 相談受理件数 |
---|---|---|---|---|
人権相談(法務省) | 国 | 人権問題についての相談を受け、これに対して相談者の問題解決に資するため、助言、官公署その他の機関への通報、法律扶助協会への紹介等の必要な措置を採る。(法務局、地方法務局) | 全国50ヶ所の法務局地方法務局及び全国279ヶ所に常設されている他、公民館デパート等で臨時解説 | 581,190件(1995年 |
児童相談所(厚生省) | 都道府県及び指定都市 | 一般家庭等から児童に関する各般の問題について相談を受け、必要に応じて専門的な調査判定を行った上、個々の児童や保護者の指導をし、かつ、児童福祉施設等の入所措置等を行う。(児童福祉司等) | 175ヶ所 | 290,970件(1994年) |
家庭児童相談室(厚生省) | 都道府県又は市町村が設置する福祉事務所 | 家庭児童相談室においては、福祉事務所が行う児童福祉に関する業務のうち、専門的技術を必要とする業務を行う。(家庭相談員) | 972ヶ所 | 646,941件 |
教育研究所・教育センター等(文部省) | 都道府県市町村(教育委員会が管理) | 教育、健康、家庭、非行等に関する相談(教育関係者、医学及び心理学の専門家等) | 1,353ヶ所 | 387,882件 |
家庭教育電話相談(文部省) | 都道府県 | 家庭教育全般にわたる相談(教育学、心理学、医師等の専門家等) | 41ヶ所 | 27,651件(1993年) |
少年補導センター(総務庁) | 都道府県・ 市町村・ 市町村の組合協議会等・ 関係機関・ 団体の協議会・ 民間 | 青少年問題に関する相談(少年相談担当者) | 695ヶ所 | 154,634件(1993年) |
都道府県警察本部警察署(警察庁) | 都道府県警察 | 非行、不良行為、その他の少年の健全育成に関する相談の受理(少年相談専門職員、少年担当警察官、婦人補導員) | 1,312ヶ所(このうち、155ヶ所にはヤングテレフォンコーナーが設置されている。) | 98,460件(1995年) |
少年鑑別所(法務省) | 国 | 少年非行の問題、知能や性格の問題、しつけや教育の問題についての相談(心理臨床の専門家や医師等) | 53ヶ所 | 154,634件(1993年) |
保護観察所(法務省) | 国 | 保護観察の実施、犯罪予防のための世論の啓発指導、社会環境の改善及び地域住民の犯罪予防活動の助長等(臨床専門家である保護観察官) | 50ヶ所 | (一般の相談の件数は集計していない。) |
国立精神・神経センター精神保健研究所 社会復帰相談部 精神保健相談研究所(厚生省) | 国 | 精神保健相談員及び精神保健に関する調査研究(医師等)」 | 1ヶ所 | 154,634件(1993年) |
精神保健福祉センター(厚生省) | 都道府県指定都市 | 精神保健福祉に関する複雑困難な事例に対する相談指導、特定相談として例えば、アルコール関連問題及び思春期精神保健に対する相談指導等(医師等) | 47ヶ所 | 203,676件(1994年) |
国立オリンピック記念青少年総合センター(文部省) | 国立オリンピック記念青少年総合センター | 青少年活動に関する相談と情報提供(青少年団体の指導者及び同センターの職員) | 1ヶ所 | 30件 |
C. 条約の広報 (第42条)
30. 条約の趣旨、内容、正しい理解等を周知徹底するための広報としては、以下のとおり多くの省庁がパンフレット等を作成し、児童を含め広く国民に対しこの条約の周知徹底を図っている。条約を効果的に実施していくためにも、条約の広報は極めて有益であり、これまでに行った広報活動の反響や条約の周知の程度を勘案の上、今後も引き続き条約の趣旨、内容、正しい理解等の普及に努めていく予定である。
31. 外務省では、政府の広報誌、テレビ・ラジオ等において、この条約の紹介・普及に努めている。また、ユニセフ駐日代表事務所と協力の上、条約の作成経緯及び全文を掲載したリーフレットを9万部作成し、福祉事務所、児童相談所、教育委員会、関心のある民間団体及び一般市民等に対し、配布している。更に、学校の各学級に1枚ずつ行き渡るよう、児童にもわかりやすく条約の内容を紹介したポスターを、文部省と協力の上、100万部作成し、各幼稚園、小、中、高等学校及び特殊教育諸学校の各学級、児童福祉施設並びに公立図書館等にも配布した。
32. 法務省人権擁護局でも、条約の趣旨、内容の理解の促進とともに児童の人権意識の一層の高揚を図ることを目的として、啓発冊子「児童の権利に関する条約と子どもの人権」を10万部作成し、全国の法務局・地方法務局を通じて、学校、教育委員会、地方自治体等の関係機関に配布した。
33. 厚生省においても、条約の内容を分かり易く解説したパンフレットを作成配布し、主に児童福祉に携わる者に対し周知を図っている。また、出産予定である妊婦に対し交付される母子健康手帳にもこの条約の主な内容を掲載するなど、広く国民に対しても条約の内容等の普及に努めている。
34. 更に、文部省では、条約の趣旨について、各学校段階に応じ適切な指導がなされるよう、教育関係機関に対し条約の趣旨を生かして一層指導を充実していくべき主要な点につき通知するとともに、各種の広報誌や教職員を対象とする会議、研修会等を通じて、周知に努めている。また、学校においては、この条約等人権に関する国際法の意義と役割、基本的人権の尊重、児童の成長や人間形成について指導することとなっている。
D. 報告書の公開措置 (第44条6)
35. この条約の報告書については、関係省庁に配布するとともに、右省庁を通じ、地方自治体、教育委員会、福祉事務所、児童相談所、法務局人権擁護部(課)、ユニセフ駐日代表事務所等に配布する予定。また、外務省において、NGOの他、一般市民も随時入手可能とする予定。
児童の人口
36. 我が国の総人口は、1994年10月1日現在、1億2,503万4千人であり、このうち児童(0歳~17歳)の人口は、2,551万6千人で、総人口の20.4%を占めている。
単位:千人
総人口 | 125,034(100.0%) |
0~17歳 | 25,516(20.4%) |
---|---|
0~4歳 | 6,048(4.8%) |
5~9歳 | 6,723(5.4%) |
10~14歳 | 7,643(6.1%) |
15~19歳 | 8,867(7.1%) |
(総務庁統計局調べ)
出生数
37. 出生数は近年概ね減少傾向にあったが、1994年は、約124万人で、前年に比し若干増加している。
単位:人
年度 | 出生数 |
---|---|
1980 | 1,576,889 |
1985 | 1,431,577 |
1990 | 1,221,585 |
1991 | 1,223,245 |
1992 | 1,208,989 |
1993 | 1,188,282 |
1994 | 1,238,328 |
(厚生省調べ)
Ⅱ. 児童の定義
成年
38. 我が国では、民法により、満20歳をもって、単独で法律行為を行うことができることとなっており、また、公法上も、例えば国会議員の選挙権は満20歳をもって与えられていることから、我が国では、成年とは、満20歳以上の者を意味する。
婚姻
39. 婚姻は民法の規定により、男は18歳、女は16歳以上であることが要件となっており、20歳未満の婚姻については、父母の同意が必要となっている。
なお、婚姻後は20歳未満の者でも単独で法律行為の当事者となり得る。
義務教育
40. 義務教育は、6歳に達した日の翌日以降における最初の学年の初めから、15歳に達した日の属する学年の終わりまでとなっている。なお、我が国の学年は、「4月1日から翌3月31日まで」である。
裁判所での任意陳述
41. 民事訴訟及び民事調停については、未成年者(20歳未満)は、訴訟能力を有しないので、法定代理人を通じて陳述することとなる。他方、人事訴訟、家事審判及び家事調停では、意思能力のある限り、訴訟能力を有することとなっているので、意思能力のある限り陳述できることとなっている。
刑事責任等
42. 我が国の刑法は、14歳未満の者の行為は罰しない旨規定している。他方、我が国の少年法では、「少年」は20歳未満の者を指し、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整を図るとの観点から、20歳未満の者は、すべて、保護手続を行う家庭裁判所において、保護処分が適当か否かを検討され、適当でないと判断された者のみ(ただし、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪を犯した少年で、かつ、16歳以上の者に限る。)が刑事手続へ移行することとなっている(詳細は、256(iii)参照)。
43. また、同様の観点から、拘禁等自由のはく奪の措置に際しても、20歳未満の者は、20歳以上の者と異なる手続をとられることとなっている(詳細は、277参照)。
労働
44. 労働基準法により、満18歳未満の者については、労働時間、休日労働についての制限、深夜業の原則禁止、危険有害業務の就業制限を規定している。また、満15歳に満たない児童を労働者として使用することは原則として禁止している。ただし、例外として、非工業的事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害でなく、労働が軽易であるものについては、行政官庁の許可により、満12歳以上の児童を使用することができ、また、映画の製作又は演劇の事業については、行政官庁の許可により、満12歳に満たない児童を使用することが可能である。
なお、労働基準法の規定は、パートタイムの雇用についても適用される。
性犯罪
45. 刑法においては、13歳未満の児童に対する性行為又は猥褻行為は、暴行又は脅迫を用いたか否かを問わず、処罰の対象となっている。このほか、児童福祉法が、18歳未満の者に淫行させる行為、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもってこれを自己の支配下に置く行為等を禁止しており、これに違反した者を処罰することとしている。
軍隊への入隊
46. 我が国では、徴兵は行っていない。自衛官の任意採用に当たっては、原則として18歳以上の者を採用している。ただし、例外として、15歳以上17歳未満の者を自衛隊生徒として採用している(詳細は、255参照)。
アルコール他
47. 未成年者飲酒禁止法、未成年者喫煙禁止法が、満20歳に至らざる者についての飲酒、喫煙を禁止するとともに、親権者の制止義務等を規定している。
また、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律では、風俗営業、風俗関連営業、飲食店営業の営業所で20歳未満の者に酒類やたばこを提供することを禁止している。
Ⅲ. 一般原則
A. 差別の禁止 (第2条)
48. 我が国の憲法は、その第14条第1項において、「すべて国民は・・・人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、・・・差別されない」と規定し、児童を含めたすべての国民に対し法の下の平等を保障している。この「法の下の平等」の原則により、国による児童に対するあらゆる形態の差別が禁じられている。
49. また、憲法の精神に則り、児童福祉法が、その第1条第2項において、「すべての児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護される」と規定しているほか、生活保護法第2条(保護の無差別平等)、障害者対策基本法第3条(すべての障害者の処遇保障)、教育基本法第3条第1項(教育の機会均等)等の国内法でも、国による児童に対するあらゆる形態の差別が禁じられている。
50. 我が国の憲法は、我が国に在住する外国籍又は無国籍の児童についても、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、基本的人権の享有を保障している。児童の保護のための措置を広範に規定している児童福祉法をはじめ、児童手当法、児童扶養手当法及び特別児童扶養手当等の支給に関する法律等には国籍要件はなく、国籍によって取扱いに差異は設けられていない。また、教育についても、憲法及び教育基本法の精神に則り、すべての児童の教育を受ける機会の実現を図っている。なお、外国人児童が福祉サービスや教育を受けるに当たっては、言語上の困難がある場合があるが、政府では、外国語のパンフレットの作成配布や外国人専用の相談窓口を設ける等の各地方公共団体による外国語での情報提供の促進を図るとともに、日本語指導や生活面・学習面での指導についての施策を実施している。
51. 仮に、私人間の関係において差別行為が生じた場合には、法務省の人権擁護機関において、その救済のため速やかに適切な措置がとられることとなっている。また、私法的関係については、民法により、不法行為が成立する場合は、このような行為を行った者に損害賠償責任が発生するほか、差別行為は、私的自治に対する一般的制限規定である民法第90条にいう公序良俗に反する場合には、無効とされる場合がある。更に、差別行為が刑罰法令に触れる場合は、当該刑罰法令に違反した者は処罰されることとなっている。
52. しかし、そもそも、児童に対する差別行為は、児童の人格形成に多大な影響を及ぼすものであり、すべての児童の人格の完全なかつ調和のとれた発達を確保するためには、いかなる差別もあってはならない。このため、学校教育においては、小学校、中学校及び高等学校の教育活動全体、特に社会科や道徳などにおいて、児童の発達段階に即しながら、人権を尊重し、誰に対しても差別や偏見を抱くことのないようにするとともに、同和問題などの諸課題について正しく理解するよう教育が行われている。また、大学又は短期大学においても、授業科目のうち特に人文科学・社会科学等の分野において、人権に関する学生の知識と理解が深められている。更に、社会教育においても、生涯学習審議会などの答申により現代社会の重要な学習課題として人権が挙げられていることなどを踏まえ、公民館等において人権に関する各種の学級、講座など多様な学習活動が行われている。このように、すべての
B. 児童の最善の利益 (第3条)
児童の最善の利益
54. 憲法第13条は、「すべて国民は、個人として尊重される」と規定している。また、児童福祉法第1条が「すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、かつ、育成されるよう努めなければならない」と規定しているほか、同法第2条及び第3条並びに少年法第1条、母子保健法第3条等の法律において各々児童の最善の利益を考慮することが前提とされている。
保護・援助の提供
55. 我が国では、家族が、家族の構成員、特に児童の成長及び福祉のための自然な環境であり、また、父母又は法的保護者が児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有するという認識に基づき、父母等の権利義務を阻害しないよう配慮し、また、場合によっては、これらが全うできるよう側面的支援を行うことにより、児童の福祉に必要な保護及び養護を確保している。
安全及び健康の分野、職員の数及び適格性の基準
56. 我が国には、資料4のような児童福祉施設が存在するが、安全及び健康の分野、職員の数及び適格性の基準については、厚生大臣が定める「児童福祉施設の設備及び運営についての児童福祉施設最低基準」(省令)により規定されており、児童福祉法に基づき、児童福祉施設の設置者はこれを遵守しなければならないこととなっている。
57. 右最低基準は、第1章総則で、児童福祉施設の構造設備の一般原則、非常災害、職員の一般的要件、衛生管理、給食、入所した者及び職員の健康診断等を規定するとともに、第2章から第10章までのそれぞれの児童福祉施設ごとに、設備の基準、職員の数及び適格性(資格)等につき詳細に規定している。例えば、保育所では、転落防止設備や警報設備の設置などを義務づけるとともに、3歳未満児には、最低で児童6人に1人以上の保母が配置されていなければならないこととされているほか、保育所が保育サービスを提供する上での指針となる「保育所保育指針」においては、保育原理として、生命の保持や情緒の安定、心身の健康の基礎の安定、人権の尊重と自立と協調等の目標を掲げ、これらに適した保育方法及び環境を提供することが求められている。
58.更に、施設設置につき認可を求める際には、経営の責任者、幹部責任者を明らかにすることとなっており、行政庁は、前記の最低基準を維持するため児童福祉施設の長に対して必要な報告を求め、定期的に施設に立ち入り、設備・運営等を検査でき、必要な改善を勧告し及び命令することができ、また、事業の停止を命令することができることとなっている。
1965 | 1975 | 1985 | 1990 | 1993 | 1994 | |
---|---|---|---|---|---|---|
児童福祉施設 | 14,020 | 24,546 | 33,309 | 33,176 | 33,242 | 33,234 |
助産施設 | 479 | 1,032 | 780 | 635 | 588 | 574 |
乳児院 | 127 | 129 | 122 | 118 | 117 | 117 |
母子寮 | 621 | 424 | 348 | 327 | 315 | 312 |
保育所 | 1,199 | 18,238 | 22,899 | 22,703 | 22,584 | 22,526 |
養護施設 | 546 | 525 | 538 | 533 | 530 | 529 |
精神薄弱児施設 | 219 | 349 | 321 | 307 | 300 | 297 |
自閉症児施設 | - | - | 8 | 8 | 7 | 7 |
精神薄弱児通園施設 | 56 | 175 | 218 | 215 | 217 | 222 |
育児施設 | 32 | 32 | 28 | 21 | 21 | 20 |
ろうあ児施設 | 38 | 34 | 24 | 24 | 17 | 17 |
難聴幼児通園施設 | - | - | 23 | 23 | 26 | 26 |
虚弱児施設 | 32 | 34 | 34 | 34 | 33 | 33 |
肢体不自由児施設 | 62 | 77 | 77 | 74 | 72 | 70 |
肢体不自由児通園施設 | - | 39 | 70 | 70 | 77 | 79 |
肢体不自由児療護施設 | - | - | 8 | 8 | 9 | 8 |
重症心身障害児施設 | 3 | 39 | 56 | 56 | 73 | 76 |
情緒障害児短期治療施設 | 4 | 10 | 11 | 11 | 14 | 16 |
教護院 | 58 | 58 | 57 | 57 | 57 | 57 |
児童館 | 544 | 2,117 | 3,840 | 3,840 | 4,028 | 4,081 |
児童遊園 | - | 3,234 | 4,173 | 4,103 | 4,157 | 4,167 |
(厚生省調べ)
C. 生命、生存及び発達に対する権利 (第6条)
D. 意見表明の機会 (第12条)
61. 憲法第13条が個人の尊厳の尊重について、また、同第19条が思想及び良心の自由、更に同第21条が表現の自由について定めており、児童に対しても自己に影響を及ぼす事項について自由に意見を表明する権利が保障されている。
62. 自己に影響を及ぼす司法上及び行政上の決定又は措置に関する手続のうち一般に意見聴取の機会が設けられている事項については、以下のとおり、児童に対しても意見表明の機会が保障されており、また、そのような事項の決定又は措置に当たっては、児童の最善の利益が主として考慮されている。
司法上の手続
63. 我が国では、一般的に、自らが裁判の当事者又は利害関係人となる場合には、自己の意見を述べる機会が保障されている。
(a) 民事訴訟及び民事調停
64. 未成年者は、民事訴訟においては、訴訟能力を有しないので、訴訟行為をするには、法定代理人の代理を要する(民事訴訟法第49条)。よって、児童が訴訟の当事者となる場合には、法定代理人を通じ、当事者として訴訟行為をし、意見を表明することができる。また、児童が訴訟の当事者とならない場合でも、児童が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有するときは、補助参加人として訴訟に参加することが可能であり、参加人である児童は、法定代理人を通じて訴訟行為をし、意見を表明することができる。更に、民事調停においても、未成年者は、当事者又は参加人として、法定代理人を通じ、意見を表明することができる。
(b) 人事訴訟並びに家事審判及び家事調停
65. 未成年者は、人事訴訟においては、意思能力のある限り、訴訟能力を有するので、児童は、当事者又は補助参加人として、自ら又は法定代理人を通じて意見を表明することができる。
家事審判及び家事調停においても、未成年者は、同様に意思能力のある限り当事者又は参加人として、自ら又は法定代理人を通じて意見を表明することができる。なお、家事審判においては、父母の離婚又は認知等の際の子の監護に関する審判、親権者指定事件、親権者変更事件等に関する審判を行う際には、子が満15歳以上である場合には子の陳述を聴取しなければならないとされている。また、満15歳未満の場合や、その他の事件についても、家庭裁判所は職権で子の意見を聴取することができるほか、子が自発的に意見を述べたいという場合には、これを妨げるものではない。
(c) 刑事訴訟及び少年審判
66. 少年審判については、審判期日には、少年、保護者及び附添人を呼び出さなければならないとされ(少年審判規則第25条第2項)、保護者及び附添人は、審判の席において、裁判官の許可を得て、意見を述べることができるほか(同規則第30条)、審判の席には、少年の親族、教員その他相当と認める者に在席を許すことができるとされ(同規則第29条)、審判は懇切を旨としてなごやかに行うこととされている(少年法第22条第1項)ことから、少年、保護者等が自由な雰囲気の中で意見を陳述することができるような配慮がなされている。また、少年等に意見を陳述する機会が与えられていることを前提として、少年等の陳述要旨の審判調書への記載に関する規定(同規則第12条、第33条)等が置かれており、児童の意見聴取の機会は与えられている。なお、我が国では、少年が罪を犯した場合には、少年法等により、すべての事件について、保護手続を行う家庭裁判所により保護処分が適当か否か検討されるが、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件を犯した者で、かつ、16歳以上の少年のうち、刑事処分に付するのが相当と判断された場合に限り、刑事手続に移行する。そして、刑事手続においても、刑事訴訟法に基づき、冒頭手続で被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならないとされ、証拠調べが終わった後、被告人及び弁護人は、意見を陳述することができるとされている。また、被告人が任意に供述する場合には、裁判長はいつでも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができるとされている。
行政上の手続
67. 我が国は、行政処分に至る事前の段階において、不利益処分につき、行政手続法により、原則として聴聞又は弁明の機会を与えており、また、行政処分が行われた後の段階において、行政不服審査法により、不服申立ての手段が認められており(聴聞を経てされた不利益処分についての異議申立ては不可)、意見陳述の機会が保障されている。また、その他にも、個々の行政処分又は措置の手続において、意見聴取の機会を保障している。
(a) 教育
68. 障害のある児童生徒の教育措置の決定に当たっては、就学指導委員会において、教育的、心理的、医学的な観点から検討が行われ、その結果を踏まえ、教育委員会により、就学相談等を通じ保護者等の意向も聞いた上で判断がなされている。
69. 学校において児童に対し懲戒処分を行う際には、当該児童生徒等から事情や意見をよく聞く機会を持つなど児童生徒等の個々の状況に十分留意し、その措置が単なる制裁にとどまることなく真に教育的効果を持つものとなるよう配慮することについて、教育関係機関に通知したところである。
(b) 福祉
70. 都道府県による児童福祉施設への入所措置は、原則として親権者又は後見人の意に反して行うことはできないこととされているとともに(児童福祉法第27条第4項)、児童相談所は児童、保護者との面談等により、児童の状況を調査し、また、診断、判定を行うこととされており、具体的な処遇を決定する際には、児童や保護者の意向を十分尊重するよう児童相談所運営指針に定められている。また、都道府県知事、市町村長、福祉事務所長又は児童相談所長は、児童の保育所、精神薄弱児施設等への入所措置の解除の際には、あらかじめ、児童の保護者に対し、措置解除の理由を説明するとともに、その意見を聞かなければならないこととなっている(児童福祉法第33条の4)。
(c) 矯正
71. 矯正施設においては、児童に影響を与える手続を行う際に、当該児童の意見を聴取する運用を行っている。例えば、実際、懲罰又は懲戒を行う際には、あらかじめ、本人に規律違反行為の容疑事実を告げた上、弁解の機会を与えている。
Ⅳ. 市民的権利及び自由
A. 氏名及び国籍 (第7条)
登録される権利
72. 我が国では、戸籍法において出生後14日以内に出生の届出が義務づけられているほか、父母の氏を称する子は父母の戸籍に、父の氏を称する子は父の戸籍に、母の氏を称する子は母の戸籍に入ることが規定されており、更に、住民基本台帳法第8条において住民票の記載を行うことが規定されている。
73. また、我が国において出生した外国人についても、戸籍法において同様に出生の届出が義務づけられている。更に、棄児については、棄児を発見した者又は棄児発見の申告を受けた警察官は、24時間以内にその旨を市長村に申し出る義務があり、申し出を受けた市町村長は、氏名をつけ、本籍を定め、これらとともに男女の別、出生の推定年月日等を調書に記載し、これに基づいて棄児について新戸籍が編製されることとなっている。
氏名を有する権利
74. 民法第790条において、嫡出子は父母の氏を非嫡出子は母の氏を称する旨定められている。また、名については、戸籍法により、出生後に届出が義務づけられている出生届書には出生した子の名を記載することとなっている。
国籍を取得する権利
75. 我が国の国籍法は、原則として父母両系血統主義を採用しており、出生の時に父又は母が日本国民であるときは日本国民となると規定している(国籍法第2条1号)。しかし、この主義を貫くと、我が国で出生した子が無国籍となる場合も生じうることから、これを防止するため、出生地主義を加味するという配慮をしている。すなわち、子が日本で生まれ、父母がともに知れないとき、又は父母が国籍を有しないときは日本国民となるとされている(国籍法第2条第3号)。
この措置によっても、限られた範囲で、なお、無国籍が生ずる場合があり得るが、国籍法第8条第4号により、日本で生まれ、かつ、出生の時から3年以上日本に住所を有するものについては、帰化によって日本国籍を取得することが可能であり、しかもこの場合は、帰化許可条件のうち、能力条件及び生計条件を要していないほか、住所条件も緩和されているので、日本国籍の取得が極めて容易になっている。
父母を知る権利
76. 我が国において出生した者は、戸籍法に基づき、出生届書に父母の氏名を記載しなければならず、また、日本人については戸籍に実父母の氏名を記載しなければならないので、本人は戸籍の謄抄本等により、父母を知ることができる。非嫡出子についても、父については、戸籍法施行規則第35条により、父の認知の届出がされた後、認知された子の戸籍に父の氏名及び認知された事実が記載されることとなっており、認知された非嫡出子は、戸籍の謄抄本等により父を知ることができる。
77. 特別養子縁組(145.参照)においては、養子縁組の審判が確定し、養親が届出をすると、実親の本籍地に特別養子を筆頭者とする単身戸籍が編製され、更に、特別養子は、この戸籍から養親の戸籍に入籍し、単身戸籍は除籍となるが、自らの実親を知りたい特別養子は、自らの除籍となった戸籍から実親の戸籍を検索し、実親につき調査することはできるものとされていることから、特別養子制度においても、児童が自らの実父母を知る権利は確保されている。
78. なお、外国人についても、我が国で出生した場合は、出生届出が義務づけられており、出生届書は届出後10年間は保存されることとなっているので、10年間は出生届書の閲覧又は記載事項証明により父母を知ることができる。
父母によって養育される権利
79. 民法の定めにより、成年に達しない子は、父母の親権に服し、親権者は子の監護義務を負うとされていることから、父母を有する児童は、父母の婚姻中は、原則として父母によって養育されることとなっている。
B. 身元関係事項の保持 (第8条)
80. 身元関係事項に当たる児童の国籍、氏名、家族関係等を保持する権利を保障するため、我が国では国籍については、日本国籍の喪失、国籍の選択についての要件を定め、国籍喪失の場合等には届出を義務づけ、国籍が不法に奪われることのないようにしている。
81. 氏名については、氏名の変更の場合家裁の許可を得てその旨の届出を義務づけている。家族関係については、親族の範囲を定め、氏名、実父母との続柄、本籍、出生年月日については戸籍に記載しなければならないこととなっている。
82. 児童の身元関係事項が不法に奪われた場合、すなわち、仮に何らかの理由で、戸籍の記載が不適法なものであること、又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることが発覚した場合には、利害関係人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができるとされている。
C. 表現の自由 (第13条)
83. 我が国においては、児童も含めすべての国民に対し、憲法第21条により表現の自由が保障されており、民主主義の維持に不可欠のものとして最大限尊重されている。他方、表現の自由は、内心の自由とは異なり本質的に社会性を帯びていることから、例えば、公然わいせつ、わいせつ物頒布等の禁止(刑法第174条、第175条)、他人の名誉の毀損、侮辱、信用の毀損の禁止(刑法第230条、第231条、第233条)、騒乱の禁止(刑法第106条)等「公共の福祉」を理由として一定の制限が課されているが、これらの制限は、いずれもこの条約第13条2の規定に合致する必要最小限のものである。
84. 学校においては、児童生徒が心身の発達過程にあること、学校が集団生活の場であること等から校則が必要である。校則は、日々の教育指導に関わるものであり、児童生徒等の実態、保護者の考え方、地域の実情、社会の変化、時代の進展等を踏まえ、より適切なものとなるよう絶えず見直しを行うことについて、教育関係機関に通知したところである。
D. 適当な情報の利用 (第17条)
85. 児童福祉法、放送法、学校図書館法及び図書館法等があり、児童が国の内外の多様な情報源からの情報及び資料を利用することができるよう、これらの法令に基づく措置により、具体的には次のようなことが実施されている。
(a) 図書館の設置
86. 図書、記録その他の資料を利用し得る公共の図書館が、1993年度現在、全国に2,138館あり、政府は、地方公共団体に対する図書館の施設、設備に要する経費等につき一部の補助を行っている。また、学校には、学校図書館が設けられている。
(b) 児童文化財の推薦
87. 中央児童福祉審議会及び都道府県児童福祉審議会が設置されており、これら審議会は、児童及び精神薄弱者の福祉を図るため、児童文化財の推薦を行うことができるとされている。中央児童福祉審議会では、1951年から専門家、学識経験者から成る文化財部会を設け、児童が楽しく利用し、情操を高め、諸能力を発達させる優良児童文化財の推薦を行っている。1995年における推薦件数は、出版物89点、音響・映像等49点、舞台芸術29点であった。なお、これまでに推薦された児童文化財の中から幼児、小学生を対象とした優れた作品を選び、それぞれ全国の児童館を巡回し、上演・上映する事業を実施している。
(c) 映画
88. 文部省では、児童向けの優れた映画等の制作を促進し、その利用普及を図るため、制作者からの申請に基づき、生涯学習審議会教育映画等審査部会における審査を経て、教育上価値が高い作品を「文部省選定」として、更にその中で特に価値の高いと考えられるものを「文部省特別選定」として決定し、それらの作品の概要を広報し、その利用普及に努めている。1995年は、「文部省選定」作品として264本、「文部省特別選定」作品として3本が選定となった。また、社会教育及び学校教育に役立つ教材映画のうち、文部省特別選定となった作品等を買い上げ、各都道府県及び政令指定都市教育委員会に配布している。
(d) 放送番組
89. 放送法では、教育番組の編集及び放送に当たっては、その放送の対象となるものが明確であるようにすること、内容がその者に有益適切であり、組織的、継続的であるようにすること、その放送の計画及び内容をあらかじめ公衆が知ることができるようすることのほか、当該番組が学校向けのものであるときは、その内容が教育課程の基準に準拠するようにしなければならないことと規定している。
90. 政府でも、民間放送局による教育番組の充実向上と放送を通じた家庭教育の充実、青少年の健全育成に資するため、(財)民間放送教育協会にテレビ家庭教育番組の企画、制作、放送及び調査研究の事業を委託している。
国際協力
91. 我が国の放送法は、日本放送協会による国際放送等の放送番組の編集及び放送又は外国放送事業者等に提供する放送番組の編集に当たって我が国の文化等を紹介して我が国に対する正しい認識を培い及び普及することを規定している。
政府では、1991年4月より、日本の教育番組等を開発途上国向けに翻訳する事業を支援するため、年間約2億円を「(財)放送番組国際交流センター」(外務省と郵政省の共管法人)を通じて補助している。1996年3月末までの実績としては、日本語から英語等へ吹き替えた番組が478本、提供された番組は19ヶ国、368本となっている。
92. また、アジア・太平洋地域の子供たちに廉価で良質の本を提供するために、各国の児童書出版の専門家と協力して、児童図書の共同出版等を実施しているユネスコ・アジア文化センターに対し、助成を行っている。
93. 更に、国際文化協力の一環として、文化無償協力により、教育・文化放送番組の供与を行っている。文化無償協力における教育文化放送分野(教育・文化番組、ソフト)での1995年度の協力実績(予算ベース)は、2件(61.1百万円)であった。
有害な情報からの保護
94. 児童を取り巻く社会環境は、発達途上にある青少年の人格形成に強い影響を及ぼしている。特に、性的感情を著しく刺激し、又は粗暴性、残虐性を助長するおそれがあるといった児童の福祉に有害であると認められる情報、書籍等は、しばしば非行の誘因ともなっており、児童の健全育成の観点から憂慮すべき問題となっている。このような認識に基づき、有害な情報等からの保護については、次のような施策を実施している。
95. 児童福祉法が中央児童福祉審議会及び都道府県児童福祉審議会による出版物を販売する者等に対する勧告(児童福祉法第8条第7項)を定めているほか、放送法では、放送事業者は、国内放送番組の編集に当たって公安及び善良な風俗を害しないことのほか、自ら番組基準を定め、これに従って放送番組を編集すること、放送番組の適正を図るために放送番組審議機関を設置することを規定している。
96. また、都道府県では、青少年に有害な図書、ビデオ、映画、広告物等を規制するために、それぞれの地域の実情に基づき、青少年保護育成条例を制定しており、1994年度においては、条例による有害指定件数は、71,828件にも上った(資料5参照)。政府としては、これらの条例の適正な運用、整備等による規制措置の徹底を推進している。
1990 | 1991 | 1992 | 1993 | 1994 | |
---|---|---|---|---|---|
総数 | 55,858 | 73,547 | 64,332 | 68,468 | 71,828 |
映画 | 4,264 | 3,632 | 3,201 | 3,289 | 2,470 |
雑誌等 | 20,974 | 22,068 | 22,608 | 20,949 | 18,304 |
広告物 | 11 | 4 | 3 | 0 | 0 |
ビデオ | 30,609 | 46,843 | 38,520 | 44,230 | 51,054 |
(総務庁調べ)
97. 更に、政府は、社会環境の変化に応じて、関係業界に対し、有害な情報の提供の自粛・自制の要請等を行い、関係業界の支援を得て、児童の有害な情報からの保護を推進している。例えば、映画については、映画関係業界の独立機関である映倫管理委員会により、成人映画を指定し、これにつき18歳未満の者の入場を事実上制限する映画倫理規程の管理、適用が行われている。
98. また、近年、メディアの多様化が著しく、社会に与える影響も増大し、児童の心身への影響が憂慮されていることにより、次のような措置がとられている。
(i) コンピュータソフトウェアについては、コンピュータソフトウェア倫理機構が、18歳未満の青少年への販売を禁止すべきソフトにシールを貼付し、明確に区別するなどし、また、1994年7月より、15歳未満の者への販売を禁止するR指定制度も導入した。
(ii) インターネットについては、1996年2月、パソコン通信サービスを提供する事業者を会員とする電子ネットワーク協議会が、電子ネットワークを活用する上での倫理的観点からガイドラインである「電子ネットワーク運営における倫理綱領」及び「パソコン通信を利用する方へのルール&マナー集」を作成した。また、警察では、パソコン通信を利用してわいせつ情報を提供する事犯について、1996年1月、インターネットを利用したわいせつ図画公然陳列事件を検挙する等、この種事犯の取締りを強化している。
(iii) 更に、政府では、1996年5月より衣服を脱いだ人の姿態の映像を主たる内容とするCD-ROM等の販売等を風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の規制対象である風俗関連営業の要件に加えた。
99. なお、有害な情報等からの児童の保護の促進に当たっては、住民の活発な地域活動も重要であり、政府では、地域の団体、住民等による地域活動の促進も図っている。
E. 思想、良心及び宗教の自由 (第14条)
100. 我が国では、憲法第19条が、児童を含めたすべての国民に対し、思想及び良心の自由について保障している。また、宗教の自由については、憲法第20条第1項が信教の自由は何人に対してもこれを保障する旨規定しているほか、同条第3項においては、国及びその機関が宗教教育その他いかなる宗教的活動を行うことも禁止している。また、教育基本法第9条第1項において、宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない旨規定されている。
F. 集会、結社の自由 (第15条)
101. 児童を含めすべての国民に対し、憲法第21条において、集会及び結社の自由が保障されている。他方、これらの権利は、表現の自由と同様、「公共の福祉」を理由として一定の制限を受けるが、これらの制限は、この条約第15条2の規定に合致する最低限度のものである。
G. 私生活の保護 (第16条)
102. 我が国は、憲法や最高裁判所の判例により、児童を含めすべての者について、公的機関だけでなく、私人・私的団体からも、その私生活をみだりに公開されないことが、法的保護の対象とされている。
103. 憲法第35条第1項は、「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、・・・正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない」と規定しており、児童も含めすべての人の住居、所持品等について公権力による侵入等から保護する趣旨の規定が置かれている。これを受けて、刑事訴訟法においても、身体、物又は住居その他の場所に対する捜索、差押は、原則として裁判官による審査を経なければ行うことができない旨規定されている。また、刑法では、故なく住居等に侵入する行為を処罰することとし(刑法第130条)、軽犯罪法では正当な理由なしに他人の住居等をのぞき見る行為を処罰することとしている(軽犯罪法第1条23号)。更に、医師、弁護士等、業務上他人の秘密を知り得る職にあるものについては、刑法をはじめ各種法律において、秘密保持等の義務を課せられ、また、刑法では、故なく封緘した信書を開抜した行為も処罰することとしており(刑法第133条)、個人の私生活の平穏に対する配慮が払われている。
104. 通信に対する干渉を禁止するためには、憲法において、通信の秘密を保護している(憲法第21条第2項)ほか、郵便法で信書の秘密を確保するとともに、郵便の業務に従事する者は、郵便物に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない旨規定している(郵便法第9条)。また、電気通信事業法で、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密を保護するとともに、電気通信事業に従事する者は、その取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない旨規定している(電気通信事業法第4条)。
105.名誉及び信用の保護に関しては、刑法が名誉毀損、侮辱及び信用毀損に関する罪を規定し、民法も、個人の名誉、信用を毀損された者の救済に関し規定している。この他、警察の捜査・調査活動における少年の呼出しが、当該少年の信用、名誉の失墜とならないよう、少年警察活動要綱により、学校、職場からの直接の呼出しを避けるなど、呼出しの時間、方法等について留意することとしている。
106. また、文部省では、児童生徒に対し教育を行うに当たり、児童生徒の私生活等に関与する場合には、児童の人権に十分配慮するよう教育関係機関に対し指導を行っている。
H. 拷問又は他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない権利(第37条(a))
107. 児童の人間としての尊厳や人格を無視し、又はこれを著しく傷つけるような方法で児童が取扱われないことを確保するため、我が国憲法第13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他国政の上で、最大の尊重を必要とする」と規定しており、また、同法第36条は「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」とし、同法第38条第1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と定めている。
108. この憲法の下にあって、公務員が、その職権を濫用して、他人に義務のないことを行わせたり、又は、権利の行使を妨害した場合には、公務員職権濫用罪が適用される。また、裁判、検察もしくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職権を濫用して、人を逮捕又は監禁した場合には、特別公務員職権濫用罪が適用される。更に、これらの者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して、暴行、陵虐等の行為を行えば、特別公務員暴行陵虐罪が適用される。この他、法令により拘禁された者を看守し、又は護送する者がその拘禁された者に対して、暴行、陵虐等の行為を行った場合、これらの者にも特別公務員暴行陵虐罪が適用される。
109. また、刑事手続においては、憲法第38条第2項により、「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」とし、また、刑事訴訟法第319条第1項は、右のような証拠はもとより、その他任意にされたものではない疑いのある自白は証拠とすることができないとして、拷問等の行為が行われることのないように証拠法の面からも保障している。なお、少年審判手続についても、家庭裁判所の裁判官、調査官ともに、特別公務員職権濫用罪及び特別公務員暴行陵虐罪の主体となると考えられている。また、少年には黙秘権があること及び非行事実の認定に当たっては任意性に疑いのある自白は排除されることが少年審判の実務上定着している。
110. この他、矯正施設の被収容者に対しては、公務員による拷問及び残虐な刑罰を禁じている憲法第36条並びに監獄法、少年院法等の法令に基づき、居住環境、衣類及び寝具等の清潔を保つこと、被収容者の体質、健康、年齢等を考慮して必要な食事を給与すること、適正な医療を実施すること等の種々の配慮を行い、人道的な取扱いを実施している。また、矯正施設における被収容者が非人道的な若しくは品位を傷つける取扱いを受けないことを確保するため、矯正職員に対しては、矯正研修所及び各矯正管区の所在地に設置されているその支所における研修プログラムの中で、被収容者の人道的な取扱いに関する研修を実施している。更に、矯正施設に対する巡閲官等による査察制度が設けられているほか、矯正施設における取扱いに関して、施設の長等との面接、法務大臣への請願制度等を利用し、その是正を求める機会が与えられており、裁判所に対し、施設の長が行った処分の取り消しを請求する司法的な救済を求めることもできることとされている。
V. 家庭環境及び代替的な監護
A. 父母の指導等 (第5条、第18条1)
111. 民法第818条第1項にて、成年に達しない子は、父母の親権に服するとされ、また、同法第820条及び第857条において、親権者及び未成年者の後見人は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負うとされている。
112. また、我が国憲法第24条は、家族に関する事項に関して両性の本質的平等を規定しているほか、民法第818条は、親権は父母が共同してこれを行う旨定めており、児童の養育及び発達については、父母が共同の責任を有することを原則としている。
113. 更に、児童福祉法第1条は「すべての国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない」と規定していることから、父母又は法定保護者は、児童の最善の利益を基本的な関心事項とすることとなっている。
B. 父母の責任 (第18条1、2)
114. 政府は、1991年5月に、「男女共同参画社会の形成」を目指し、「西暦2000年に向けての新国内行動計画(第1次改定)」を策定し、男女平等の理念に基づき、男女が家庭や社会のあらゆる分野に共同参画するための諸施策を推進している。この行動計画の重点目標の主なものとして、「男女の固定的な役割分担意識の是正」、「地域社会及び家庭生活における男女共同参画の促進」を掲げている。前者については、「男は仕事、女は家庭」といった男女の役割を固定的に考える意識の是正、家庭、職場、地域など社会のあらゆる分野での制度や慣習・慣行の見直しを促すための広報、啓発活動を実施している。また、後者については、家事、育児、介護等は、男女の共同責任であり、相互に協力するという認識を浸透させるための広報啓発を行っている。
115. 親又は法定保護者が子供に対して行う家庭教育は、子供の人間形成の基礎を培うに当たり重要な役割を担っており、親等が、各家庭において、児童の最善の利益を尊重しつつ、児童の発達段階に応じた適切な対応ができるよう、家庭教育に関する学習を行うことが重要である。このため、政府では、親等の家庭教育に関する学習活動を成人教育の一環として扱い、これらの学習活動を促進・援助するための条件整備を行っている。
(a) 家庭教育学級等
116. 親及び家庭教育に関心を持つ人々を対象に家庭教育に関する学習機会を提供する事業を行う市町村に、1964年度から助成を行っている。主な学習内容としては、親の態度・役割、家族の人間関係など家庭環境、子供の心身の発達、学校教育との連携など子供を取り巻く社会環境に関することなどが取り上げられている。
(b) 父親の家庭教育参加支援事業
117. 父親の家庭教育への参加を支援するため、企業等職場内で家庭教育講座を開設する事業を行う市町村に対し、1994年度より助成を行っている。1994年度には全国で41講座が開設された。
(c) 家庭教育に関する情報提供等
(i) 家庭教育充実事業
118. 親の子育てに関する不安や悩みの増加、いじめ等の児童の問題行動といった今日の家庭教育の様々な課題に対処するため、総合的な視点から家庭教育の充実方針を推進するもので、家庭教育指導者の養成・確保、家庭教育に関する学習機会のほか、テレビ放送等による情報の提供、電話相談体制の整備等を行う都道府県に対し、1991年度より助成を行っている。1994年度には46都道府県で実施された。
(ii) 家庭児童相談
119. また、児童福祉行政の一環として、児童相談所、家庭児童相談室及び児童委員により、児童のいる家庭に対する相談援助活動を行っている。また、「すこやかテレホン事業」、児童センターにおける「子ども家庭相談事業」、保育所における「乳幼児健全育成相談事業」を行っており、1994年度からは、「子どもと家庭の相談事業」として組み替えを行い、家庭児童相談の一層の充実を図っている。
(iii) 家庭教育に関する資料の作成・配布等
120. 都道府県、市町村等の社会教育関係者が家庭教育学級等の規格・運営をする際の参考に資するため、児童の発達段階別に編集した「現代の家庭教育シリーズ」を作成・配布しているほか、児童を持つ親、これから家庭を築く人々等の参考となる資料として「明日の家庭教育シリーズ」を1994年度以来定期的に刊行している。また、家庭教育について国民各層により幅広い意見の交換を行い、男女の協力による新しい時代の子育てについて考える「フォーラム家庭教育」を1992年度以来毎年開催し、家庭教育機能の活性化に資している。
(iv) 家庭教育に関する国際比較調査
121. 1994年度の国際家族年を記念して、諸外国の家庭・家族の変化、家庭教育の実態、親の意識等を調査し、現代日本の家庭教育の特色や課題を明らかにするため、日本を含む6ヶ国の比較調査を行った。
122. 児童の養育に関しては、児童福祉法、社会福祉事業法、児童手当法、児童扶養手当法、特別児童扶養手当等の支給に関する法律、母子保健法、地域保健法、医療法及び学校教育法により、福祉、医療・保健、教育等の分野でさまざまな援助の提供を行っている(福祉、医療・保健の分野での援助はⅥ.及び教育の分野での援助はⅦ.A.参照。)。
C. 父母からの分離 (第9条)
123. 我が国においては、民法第818条第1項により「成年に達しない子は、父母の親権に服する」とともに、同法第821条により「子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない」と規定されていることにより、児童にその父母の意思に従ってその指定した場所に居住する義務が課され、更に法律上根拠がない限り第三者が児童と父母とを分離することはできないこととなっており、児童が父母から分離されないよう確保されている。
124. この条約第9条1にいう「権限のある当局が・・・ 分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合」に関し、我が国においては、保護者の児童虐待等の場合の措置(児童福祉法第28条)として、都道府県により児童の里親、若しくは保護受託者への委託又は児童福祉施設への入所を行う場合(児童福祉法第27条第1項第3号)等があるほか、父母の協議上の離婚及び裁判上の離婚における家庭裁判所による子の親権者又は監護者の指定(民法第819条等)、子の監護者の変更(民法第766号第2項)、親権者の変更(民法第819条第6項)、父母の親権喪失の宣告(民法第834条)がある。
125. 父母の意思に反して児童を里親若しくは保護受託者へ委託し、又は児童福祉施設に入所させることについては、児童福祉法に基づき、都道府県が家庭裁判所の承認を得ることが必要であり、その際の手続は、家事審判法及び特別家事審判規則に従って、家庭裁判所によって行われる。その際、現に監護する者及び親権者(親権のないときは後見人)、被保護者の親権者又は後見人の陳述を、それぞれ聴かなければならないとされている(特別家事審判規則第19条第1項)ほか、満15歳以上の子の陳述も聴かなければならないとされている(同規則第19条第2項)。
126. また、子の親権者又は監護者の指定・変更及び親権喪失宣告についても、民法、家事審判法及び家事審判規則に従って、家庭裁判所で行われる。その際、家事審判規則では、利害関係人からの任意の参加を規定しており(家事審判規則第14条及び第131条)、事件に関して利害関係を有すると認められた者は、家庭裁判所の許可を受けて各手続に参加することができることとなっている。更に、家庭裁判所が親権者の指定・変更や子の監護者の指定等の審判を行う場合に、子が満15歳以上であるときは、家事審判規則により、その子の陳述を聴かなければならないとされている(家事審判規則第54条及び第70条)。
127.なお、上記の場合の15歳未満の児童の陳述聴取については、いずれの場合も明文の規定はないが、家庭裁判所は、職権により(家事審判規則第7条)、家裁調査官に調査を命じるなど適切な方法により児童の意見を聴取しており、また、児童が任意に意見表明する場合はこれを妨げることはない。
父母の一方又は双方から分離されている児童の父母との人的な関係等の維持の権利
128. この条約第9条3に関し、父母の一方又は双方から分離されている児童とは、具体的には父母の一方若しくは双方又は児童自身が少年院、少年鑑別所、監獄、入国者収容所、精神病院等に収容され又は入所している児童を指すと考えられる。各施設については、各関係法令により次のように規定されており、これらの規定に基づいた措置がとられている。
(i)少年院においては、面会、通信、小包の発受は矯正教育に害があると認める場合を除き、許可しなければならないとされている(少年院処遇規則第52条、第55条)。
(ii) 少年鑑別所における面会については近親者、保護者の他、附添人その他必要と認める者につき許すとされ、また、通信の発受も規律に反しない限り許すとされている(少年鑑別所処遇規則第38条、第40条)。
(iii) 監獄においては、在監者とその親族との接見及び信書の発受を許すとされている(監獄法第45条、第46条)。
(iv) 入国者収容所においては、収容所(又は収容場)の保安上支障がない範囲内においてできる限りの自由が与えられており(出入国管理及び難民認定法第61条7)、面会、信書の発受等も基本的に認められている(被収容者処遇規則第34条、第37条)。
(v) 精神病院においては通信、面会ともに原則自由である(精神保健法及び精神障害者福祉に関する法律第37条、1988年厚生省告示第130号)。
129.この条約第9条4に規定する家族の不在になっている者の所在に関する重要な情報の提供については、次のような措置をとっている。
(i) 矯正施設に収容されている者の所在については、本人から親族あてに信書を発送させることにより、その所在について親族に連絡させており、字が書けない者については、職員が代筆する等の配慮をしているほか、少年院及び少年鑑別所においては、入所(院)通知及び移送通知を送付することにより、その所在を遅滞なく親族に連絡している。
(ii) 矯正施設に収容されている者が死亡した場合には、電話等適当な方法で病名、死因及び死亡日等をその近親者に速やかに通知している。
(iii) 入管法上の収容施設における特定の外国人の収容事実について、その家族から照会があったときは、調査の上、その事実の有無について回答している。
(iv) 外国人が入管法上の収容施設に収容されている間に死亡したときは、死亡の日時、病名、死因等を速やかにその親族又は同居者等に通知することとしている。
(v) 外国人の退去強制に関しては、特定の外国人について、その家族から退去強制事実について照会があった時は、調査の結果該当者が確認された場合、送還先、送還日時、航空機便名などを回答している。
D. 家族の再統合 (第10条)
130. 我が国では、憲法第22条第2項が外国移住の自由を規定していることから、日本人の出国の自由は保障されている。自国に戻る権利は、憲法に明文の規定はないが、当然に保障されていると解されている。なお、出入国管理及び難民認定法では、日本人の出国及び帰国について、出国及び帰国に際しての確認の手続を規定しているにとどまり(同法第60条、第61条)、出国及び帰国を制限している規定は存しない。また、外国人の我が国からの出国については、出入国管理及び難民認定法に従って、入国審査官から出国の確認を受けることを条件としているにとどまっており(同法第25条)、外国人児童及びその父母についても日本から出国する権利は尊重されている。
131. 出入国の申請についても、出入国管理及び難民認定法に基づき、この条約第10条1の規定に従った適切な方法で取り扱っている。
132. ただし、我が国では、旅券法第13条第1項各号において、犯罪にかかわっている者、日本の利益又は公安を害するおそれがある者など一般旅券の発給を制限する場合が定められているほか、出入国管理及び難民認定法第25条の2には、重大な犯罪について訴追され又は逮捕状等が発せられている外国人の出国の確認を一時留保することができる旨定められているが、これらは必要最小限のものであり、この条約10条2の規定に合致するものである。
133. なお、政府では、東京、大阪及び名古屋の入国管理局並びに横浜の入国管理局支局内に、外国人及びその在日関係者のために、「外国人在留総合インフォメーションセンター(Immigration Information Center)」を開設し、外国語を解する専従の専門相談員が、土曜・日曜・祝日等を除く毎日、外国人の入国や在留等に関する面接又は電話による問い合わせに応じており、また、インフォメーションセンターが開設されていない他の入国管理局においても外国人の入国在留等に関する相談窓口を設けている。このように、家族の再統合のための情報提供等にも努めている。
E. 児童の扶養料の回収 (第27条4)
134. 我が国においては、次のような制度が保障されている。
(a) 児童の父母又は金銭上の責任を有する者が我が国にいて、児童が我が国において扶養料を回収する場合
135. 児童の扶養料は、(i)婚姻中における婚姻費用の分担、(ii)離婚時の子の監護費用の分担、(iii)親の子に対する扶養義務の履行として請求することができる。
具体的な回収の方法としては、家事審判法に基づく(i)これらに関する調停と、(ii)婚姻費用分担に関する審判事件における請求、(iii)子の監護に関する審判事件における扶養料請求、(iv)扶養に関する審判事件における扶養料請求のほか、(v)人事訴訟手続法第15条1項による離婚訴訟の際の付帯申立てが用意されている。前記(v)の離婚訴訟における付帯申立てを認容する判決はもとより、これらの給付を命ずる調停調書及び審判書は、執行力ある債務名義と同一の効力を有しているので、義務者が任意に履行しない場合は、強制執行をして扶養料を回収することが可能である。家事審判法は、上記の強制執行の方法に加え、家事債務の履行を確保するための履行確保の制度を設けており、家庭裁判所は、調停又は審判で定められた義務につき、履行勧告又は履行命令をすることができる。なお、1994年の1年間に終局した家事に関する金銭債務の履行勧告事件は、9,610件であり、このうち、全部又は一部が履行されたものは、6,411件である。更に、扶養料の支払いにつき合意が成立している場合には、この扶養契約の履行を訴訟により求めることができる。
(b) 児童の父母又は金銭上の責任を有する者が児童と異なる国に居住しており、児童が我が国において扶養料を回収する場合
136. 扶養に関する審判事件は、相手方の住所地の家庭裁判所の管轄とすることとなっている(家事審判規則第94条第1項)ので、児童は、扶養に関する調停・審判を、父母等の我が国における最後の住所地に申し立てることができる。また、最後の住所がないか又は知れないときは、我が国における財産の所在地又は最高裁判所の指定した地を管轄する家庭裁判所に申し立てることができる。更に、扶養料の支払いにつき、父母等との間で合意がある場合においては、父母等の我が国における最後の住所地、我が国における扶養契約の義務履行地、我が国における父母等の差し押さえることのできる財産がある場合には、その財産の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に扶養契約の履行を求めて訴えを提起することができる。
児童は、我が国の裁判所において、扶養料の支払いに関する判決又は決定を得た後は、我が国に父母等の財産がある場合には、判決又は決定に基づき、その財産に対し強制執行をすることができる。
137. なお、我が国は、扶養義務に関して、1977年7月22日、子に対する扶養義務の準拠法に関する条約を、更に、1986年6月5日、扶養義務の準拠法に関する条約を締結している。
F. 家庭環境を奪われた児童 (第20条)
138. 児童福祉法に基づき、保護者のない児童、又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童については、児童相談所において一時保護を行うとともに、必要に応じて、乳児院、養護施設へ入所させる等の措置をとることができる。また、この他に、児童福祉法に基づき、里親への委託の制度も設けている。
(a) 乳児院
139.乳児院は、保護を要する乳児(1歳未満)を入院させて養育することを目的とする施設である。乳児院では、乳児が、一般に疾病に対する抵抗力が弱いため、施設の運営面で、医学的管理が十分なされるように配慮されている。また、職員についても、医師及び看護婦が配置され、その健康管理に特に配慮がなされている。1995年3月1日現在における乳児院は、施設数117ヶ所、入所定員3,831人、在籍乳児数2,752人となっている。
(b) 養護施設
140.養護施設は、乳児を除いて保護者のない児童、虐待されている児童、その他環境上養護を要する児童を入所させて養護することを目的とする施設である。最近の傾向としては、保護者があっても適切な監護が受けられない児童の入所が増加しており、父母の行方不明、父母の離別、父母の長期疾病、父母からの放任、虐待等による入所が目立っている(資料6参照)。
(単位:%)
1987年度調査結果 | 1992年度調査結果 | |
総数 | 100.0 | 100.0 |
---|---|---|
両親の死亡 | 7.5 | 4.7 |
両親の行方不明 | 26.3 | 18.5 |
両親の離別 | 20.1 | 13.0 |
棄児 | 1.3 | 1.0 |
父(母)の長期拘禁 | 4.7 | 4.1 |
父(母)の長期入院 | 11.5 | 11.3 |
虐待 ・ 酷使 | 2.9 | 3.5 |
放任・怠惰・父(母)の性格異常 | 11.5 | 9.7 |
その他 | 14.3 | 34.2 |
(注)両親とは、父母いずれか一方の場合も含む
(厚生省調べ)
施設数 | 529ヶ所(公営69ヶ所、私営460ヶ所) |
---|---|
入所定員 | 33,406人(公営4,492人、私営28,914人) |
在籍人員 | 26,929人(公営2,954人、私営23,975人) |
(c) 里親
141. 里親とは、保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童を自分の家庭に預かって養育することを希望する者であって、都道府県知事が認めた者をいう。毎年、里親を求める全国的な運動等が実施され、その普及推進に努力が払われているが、養子縁組との混同から、児童の保護者が里親委託を望まないこと、里親となることが特別の篤志家のように考えられ、社会全般の関心が低いことなどにより、里親数、委託児童数とも漸減傾向にある(資料8参照)。
(単位 : 人)
登録里親数 | 児童が委託されている里親数 | 委託児童数 | |
---|---|---|---|
1970 | 13,621 | 4,075 | 4,729 |
1975 | 10,230 | 3,225 | 3,851 |
1980 | 8,933 | 2,646 | 3,188 |
1985 | 8,659 | 2,627 | 3,322 |
1990 | 8,046 | 2,312 | 3,006 |
1991 | 8,163 | 2,183 | 2,671 |
1992 | 8,122 | 2,159 | 2,614 |
1993 | 8,164 | 2,206 | 2,579 |
1994 | 8,044 | 2,029 | 2,475 |
このような現状を踏まえ、1987年度以降、従来の特別な篤志家に里親になってもらうという理念から、広く里親を求め、普通の人を立派な里親に育てていくという新しい理念に改め、里親制度の発展を図っているところである。
G. 養子縁組 (第21条)
142. 我が国の養子縁組としては、民法において普通養子縁組と特別養子縁組の双方が定められている。
(a) 普通養子縁組
143. 普通養子縁組は、養親と養子との間に嫡出子としての法定親子関係を生ぜしめる行為であるが、養子となるべき者が未成年者であるときは、後述の例外に当たる場合を除き、原則として家庭裁判所の許可が縁組成立の要件となっており、また、養子縁組は、届出の受理により効力が発生する。なお、普通養子縁組については、協議による離縁(民法第811条)、裁判による離縁(同法第814条)及び親権喪失の宣告(同法第834条)に基づく事後救済が可能となっている。家庭裁判所は、養子縁組が未成年者の福祉に合致するかどうかという基準により判断している。
144. なお、普通養子縁組において、自己又は配偶者の直系卑属である未成年者を養子とする場合は、家庭裁判所の許可が必要とされていないが、この場合は定型的に児童の福祉が害されるおそれがないため、家庭裁判所による判断は必要としないこととされている。ただし、この場合であっても、養子縁組の届出を受理する際に戸籍事務管掌者が、例えば15歳未満の子を養子とする場合には、法定代理人の承諾があるか、他の法令に違反していないか、当該縁組が自己又は配偶者の未成年の直系卑属の養子縁組に当たるかどうか等の要件の存在をすべて審査した上で認定することとなっている。
(b) 特別養子縁組
145. 特別養子縁組は、養親と養子の合意ではなく、養親となる者の請求に基づき、家庭裁判所の審判によって成立することとされており、子となる者は原則として請求時に6歳未満の者に限り、特別養子縁組によって、養子と実方の父母及びその血族との親族関係が終了する。このことから、特別養子縁組の成立には、実父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であること等の事情があって、子の利益のために特に必要あると認められることを要し、また、父母が意思を表示することができない場合又は父母による虐待等、養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合を除いては、実父母の同意が要件とされる。なお、特別養子縁組についても、親権喪失の宣告(民法第834条)に基づく事後救済は可能であるが、離縁は原則としてすることができず、養親による虐待その他養子の利益を著しく害する事由があり、かつ、実父母が相当の監護をすることができる場合で、養子の利益のために特に必要があると認めるときに、家庭裁判所が、養子、実父母又は検察官の請求により、縁組の当事者を離縁させる審判を行うことができるのみである(同法第817条の10)。(c) 国際養子縁組
146. 我が国は、日本人が外国人を養子とすること及び外国人が日本人を養子とすることのいずれもが認められている。
(i) 日本人が外国人を養子とする場合
147. 養子縁組の実質的成立要件については、我が国の法律(民法)が準拠法となり、外国人養子の本国法が養子を保護するための要件(養子若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公の機関の許可その他の処分)を定めているときは、その要件も満たす必要がある(法例第20条第1項)。形式的成立要件(方式)については、我が国の法律が準拠法(法例第22条)になるので、普通養子の場合は、戸籍法所定の手続により、実質的成立要件が満たされることを証明する書面を添付して届出をし、受理されることにより縁組が成立し、特別養子の場合は、家庭裁判所の審判により縁組が成立した後これを届け出ることになる。
(ii) 外国人が日本人を養子とする場合
148. 養子縁組の実質的成立要件については、外国人の養親の本国法が準拠法になるが、我が国の民法の規定する養子保護のための要件をも満たす必要がある(法例第20条第1項)。形式的成立要件(方式)については、養子縁組の成立を定める法律又は我が国の法律(行為地法)が準拠法になるが(法例第22条)、我が国の法律によるときは、上記(i)と同様、戸籍法所定の手続をとることになる。
149. 我が国は、刑法が、営利目的の略取・誘拐、国外へ移送することを目的とする略取・誘拐又は人身売買、被拐取者の国外への移送、更にこれらの未遂を処罰する旨規定し、日本国民が国外においてこのような罪を犯した場合も処罰の対象として、国際的な養子縁組において関係者に不当な金銭上の利益をもたらすことのないようにしている。また、児童福祉法は、成人及び児童のための正当な職業紹介の機関以外の者が、営利を目的として児童の養育を斡旋する行為を禁止し、これに違反した者を処罰する旨規定している。このほか、家庭裁判所が、未成年者の養子縁組が人身売買であることを確認した場合には、子の福祉に反することが明らかなので、当該養子縁組の許可をしないこととなる。
(単位:件)
事件名/年度 | 1991 | 1992 | 1993 | 1994 | 1995 | |
---|---|---|---|---|---|---|
普通養子縁組 | 新受 | 2,006 | 1,761 | 1,839 | 1,646 | 1,603 |
容認 | 1,529 | 1,310 | 1,258 | 1,205 | 1,111 | |
特別養子縁組 | 新受 | 852 | 700 | 680 | 722 | 558 |
容認 | 619 | 509 | 520 | 491 | 521 | |
国際養子縁組 | 新受 | 512 | 437 | 484 | 451 | 452 |
容認 | 381 | 359 | 337 | 339 | 299 |
(最高裁調べ)
H. 不法な移送及び不帰還 (第11条)
150. 刑法において、未成年者の略取・誘拐、国外へ移送することを目的とする略取・誘拐又は人身売買、被拐取者の国外移送並びにこれらの未遂を処罰することとしている(刑法第224条、第226条第1項、第2項)ほか、児童福祉法第34条第1項第7号は、児童に対し、刑罰法令に触れる行為をなす虞がある者に、情を知って、児童を引き渡す行為及び当該引き渡し行為のなされる虞があるの情を知って、他人に児童を引き渡す行為を禁止し、これに違反した者を処罰することとしている。
I. 虐待及び放置 (第19条)
虐待等からの児童の保護
151. 児童を虐待等から保護するために、次のような措置がとられている。
児童福祉法に基づき、児童虐待の場合等、保護者に監護させることが不適当であると認める児童を発見した者は、児童相談所へ通告しなければならないこととなっている。児童相談所では、児童福祉法に基づき、保護者たる親権者又は後見人が児童を虐待し、著しく監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しくその児童の福祉を害する場合において、その児童を乳児院、養護施設に入所させる等の措置をとることができる。また、都道府県知事は、事後措置として施設長等に対し、児童の保護について、必要な指示をし、又は必要な報告をさせることができることとされている。なお、施設への入所措置等をとることが保護者の意に反する場合は、家庭裁判所の承認を得た上でかかる措置をとることができるとされている。我が国は、民法の規定により、親権の濫用等があった場合には家庭裁判所が親権の喪失を宣告することができ(児童相談所長も親権喪失の宣告の請求を行うことができる)、また、後見人に不正な行為等があった場合には家庭裁判所が後見人を解任することができることとなっている。
152. 法務省の人権擁護機関では、児童が暴力、虐待等を受け、その人権を侵害されている疑いを認知した場合、人権侵犯事件として調査を開始する。そして、人権侵犯の事実が認められた場合は、関係者に対する説得活動によって、自ら人権侵犯の非を悟らせ、それによって、現存する人権侵犯を排除するとともに、将来の再発を防いでいる。また、必要な場合には、児童相談所等関係機関へ通報し、連携して児童の保護に取り組んでいる。1995年における人権侵犯事件数16,296件のうち、親の子に対する酷使虐待は615件、強制圧迫は356件であった。
153. 警察では、少年の非行防止又は少年の福祉を図るための活動の一つとして、少年又は保護者その他関係者から少年相談を受けている。1995年中は、児童虐待に関し178件の少年相談を受理している。この少年相談又は他の警察活動により把握した児童虐待については、事件化による解決を図っているほか、事件化できない場合においても、その児童を保護者に監護させることが不適当であると認められる場合には、速やかに児童相談所に通告し、その委託を受けて一時保護を行うなど、関係機関との連携による虐待児童等の保護に努めている。
児童の虐待等の防止
154. 近年、我が国においては、都市化、核家族化の進行等によって、家庭をとりまく環境が変化し、その結果、家庭の養育機能の弱化など複雑な問題が生じている。児童相談所に相談のあった父母等による児童の虐待等の事例も、1990年には1,001件であったのが、1994年度は1,961件と急激に増加している。児童の虐待の発生要因の1つとして、家庭を取り巻く環境の変化に伴い家庭における子育てが孤立化し、子育てに当たる親が不安感なりストレスを持つということがあげられる。このような状況に鑑み、児童の虐待の防止のための効果的な手続として、主なものとして以下のような措置がとられている。
(a) 児童相談所 (1995年度現在、175ヶ所)
155. 都道府県に児童相談所の設置が義務づけられており、児童相談所は、児童に関する各般の問題につき、家庭その他からの相談に応じているほか、実際に児童相談所に訪問できない場合でも、電話相談、児童家庭専門家チームによる高度な援助活動の展開を中心とする「子ども・家庭100番」等を実施し、巡回相談、家庭支援電話相談等を行っている。
(b) 家庭児童相談室 (1994年度現在、1,044ヶ所)
156. 住民にとって身近な福祉行政機関である福祉事務所に設置されたもので、家庭相談員及び社会福祉主事が配置され、一般家庭における児童の育成上の種々の問題について相談指導を行い、問題を持つ児童等の早期発見、早期指導に努めている。
(c) 児童委員 (1994年度現在約21万人)
157. 市町村の区域に置かれており、児童について、常にその生活及び環境の状態を把握し、その保護、保健その他福祉に関し援助活動を行っている。
158. しかし、上記のとおり、虐待の件数は増加傾向にあり、従来、むしろ家庭の私的な領域の問題という形でとらえられてきた児童の虐待は、昨今、一般の家庭の問題として社会問題化し始めている。政府では、一層の強化策として、都市家庭在宅支援事業(17.参照)や児童虐待ケースマネージメント事業(18.参照)を新たに導入した。今後は、虐待等の防止に向け、このような各種措置の充実を図っていくとともに、虐待防止の啓発活動についても一層促進させていくことが重要である。
虐待等を受けた児童の回復及び社会復帰
159. 我が国は、児童福祉法に基づき、児童相談所において、児童福祉施設や家庭復帰に至るまでの間一時保護等の対応を行っている。児童相談所には、一時保護に携わる児童相談所長、児童福祉司、心理判定員等が置かれている。これらの者が、個々の児童及び家庭の状況に応じて、乳児院、養護施設への入所措置等をとり、虐待等からの保護を図っている。
J. 収容に対する定期的な審査 (第25条)
160. 児童の身体又は精神の養護、保護又は治療を目的として児童を収容する主な施設としては、乳児院、養護施設、精神薄弱児施設、盲ろうあ児施設、虚弱児施設、肢体不自由児施設、重症心身障害児施設、情緒障害児短期治療施設、教護院といった児童福祉施設がある。これらの児童福祉施設については、児童福祉法第46条により、最低基準を維持するための行政庁の質問検査権が定められており、この規定に基づき、児童福祉施設施行令第12条の2により、都道府県知事が概ね6ヶ月に1回実地検査することとされている。
Ⅵ.基礎的な保健及び福祉
A. 生存及び発達 (第6条2)
161. 我が国は、乳幼児は心身ともに健全な人として成長してゆくために、その健康が保持され、増進されるべきであるとの基本理念の下に、母子保健法等に基づき、以下のような施策が行われている(この他にもさまざまな母子保健対策が実施されており、詳細はⅥ.C.参照。)。これにより、乳幼死亡率及び新生児死亡率は、著しく低下している。
乳児死亡率(出生 1,000対) | 新生児死亡率(出生 1,000対) | |
---|---|---|
1960年 | 30.7 | 17.0 |
1970年 | 13.1 | 8.7 |
1980年 | 7.5 | 4.9 |
1990年 | 4.6 | 2.6 |
1994年 | 4.2 | 2.3 |
(厚生省調べ)
(a) 低体重児のための施策
162. 体重2,500グラム未満の乳児が出生したときは、保健所に届出をすることとされており、必要に応じて、未熟児の訪問指導、養育医療の給付等の措置がとられている。
(b) 未熟児対策
163. 未熟児は、正常な新生児に比べて生理的に未熟であり、疾病にもかかりやすく、死亡率も高い。したがって、未熟児は医療機関において十分な医療を受ける必要があり、その医療費の公費負担を行うとともに、必要に応じて訪問指導を行っている。
(c) 小児医療援護
164. 身体に障害のある児童に対し、育成医療の給付及び補装具の交付並びに結核児童に対し療育の給付を行っている。また、心身の虚弱な児童に対しては、適正な医学的管理を行うため、全国33ヵ所に虚弱児施設が設けられている。さらに、小児がん等小児慢性特定疾患にり患している児童に対し、医療費の援助を行っている。
(d) 周産期医療体制の充実
165. 妊娠、分娩時の突発的な緊急状態に対応した周産期医療を確保するため、新生児集中治療管理室(NICU)、母体・胎児集中治療管理室の整備や医療機関からNICUへの新生児の搬送をスムーズに行うため、医師及び看護婦が同乗できるドクターカーの整備補助が行われている。
また、1996年度より周産期にある妊婦のうち特に危険度の高い者を対象として、出産前後の母体及び胎児、新生児の一貫した健康管理を行うため、総合周産期母子医療センターに対し運営費を補助することとし、周産期、医療体制の充実を図ることとしている。
B. 障害を有する児童 (第23条)
166. 我が国の障害者基本法では、すべて障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有し、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるとともに、障害者は、その有する能力を活用することにより、進んで社会経済活動に参与するよう努めなければならない、また、その家庭にあっては自立の促進に努めなければならない旨規定している。更に、児童福祉法は、すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない旨規定している。
167. 我が国では、身体障害児は、1987年には92,500人であったのが、1991年には、81,000人であり、毎年減少傾向にあり、また、精神薄弱児は、1990年に100,000人となっている。身体障害児又は精神薄弱児を以下「障害児」という。
(単位:人)
総数 | 0~4歳 | 5~9歳 | 10~14歳 | 15~17歳 | |
---|---|---|---|---|---|
身体障害児(1991年) | 81,000 | 12,100 | 23,300 | 24,700 | 18,900 |
精神薄弱児(1990年) | 100,000 | 10,300 | 25,300 | 36,500 | 27,800 |
(厚生省調べ)
168. 政府は、上記に述べた国内法等に基づき、ハンディキャップをできる限り軽減し、一般の児童と同様の生活が営めるようにすることを基本とし、福祉、保健・医療、教育、雇用等の広範な分野にわたり、主に以下のような各種施策を行っている。他方、我が国における障害児(者)を取り巻く社会環境として、未だ、交通機関、建築物等における物理的な障壁、点字、手話サービスの欠如による文化・情報面の障壁等があるところ、これらの障壁を除去し、障害児(者)の自立を促進し社会活動を自由にできるような平等な社会づくりをめざしていくことが必要である。このため、政府においては、1995年12月に障害者プランを策定し、具体的な施策目標を明記し、保健福祉施策を強力かつ計画的に推進していくこととしている。
福祉、医療
(a) 健康、保健施策
169. 身体や精神の発達遅滞や障害を早期に発見し、早期に適切な措置を講ずるために、乳幼児に対する健康診査を行っているほか、新生児を対象にフェニールケトン尿症等の先天性代謝異常やクレチン症のマススクリーニング検査を行っている。
(b) 在宅福祉サービス
170. 障害児やその保護者からの相談に応ずるため、保健所等により母親(両親)学級等の集団指導や家庭訪問等の個別指導による保健指導が行われているほか、身体の機能に障害のある児童や機能障害を将来起こすおそれのある児童に対して、早期に適切な治療や福祉の措置が受けられるように療育の指導が行われている。また、障害児に対して、児童福祉法に基づく援助として児童居宅介護等事業、児童デイサービス事業、児童短期入所事業の実施や日常生活用具の給付等が行われている。
(i) 日常生活用具の給付等
日常生活を営むのに支障がある障害児に対し、日常生活の便宜を図るための日常生活用具の給付又は貸与を行っている。
(ii) 児童居宅介護等事業(心身障害児(者)ホームヘルパー事業)
重度の心身障害のため独立して日常生活を営むのに著しく障害のある心身障害児(者)を抱えている家庭に対し、ホームヘルパーを派遣して適切な家事、介護等の日常生活の世話を行い、もって重度の心身障害児(者)の生活の安定に寄与する等その援護を図っている。
単位:人
1994年度 | 1995年度 |
---|---|
59,005 | 92,482 |
(厚生省調べ)
(iii) 児童デイサービス事業(心身障害児通園事業)の実施
障害児に対し、家庭から通わせて、日常生活における基本的な動作の指導、集団生活への適応訓練を実施している。
単位:ヶ所
1994年度 | 1995年度 |
---|---|
292 | 297 |
(厚生省調べ)
171. また、家庭の経済的負担の軽減を図るため、特別児童扶養手当や障害児福祉手当を支給しているほか、1996年度には、国営の郵便貯金事業において、寝たきりの児童をかかえた世帯の自助努力による経済的負担の軽減を支援するため、定期郵便貯金の金利の優遇等を行うこととしている。
(c) 施設福祉サービス
172. 児童に対して積極的な治療訓練を行う場として、また、障害の重度化に対応した生活の場として、あるいは就労支援、社会参加促進を図る場として、精神薄弱児施設、肢体不自由児施設、育児施設、ろうあ児施設及び難聴幼児通園施設及び重症心身障害児施設等が設けられている。なお、これら児童福祉施設への入所等についても父母等の所得が一定水準を下回る場合には、無償で行われることとなっている。
施設数(ヶ所) | 定員(人) | 現員(人) | |
---|---|---|---|
精神薄弱児施設 | 296 | 18,182 | 14,943 |
自閉症児施設 | 7 | 336 | 227 |
精神薄弱児通園施設 | 222 | 8,202 | 6,769 |
肢体不自由児施設 | 70 | 7,938 | 5,202 |
肢体不自由児通園施設 | 79 | 3,260 | 2,358 |
肢体不自由児療護施設 | 8 | 245 | 287 |
盲児施設 | 20 | 707 | 242 |
ろうあ児施設 | 17 | 643 | 269 |
難聴幼児通園施設 | 26 | 860 | 642 |
重症心身障害児施設 | 76 | 7,778 | 7,559 |
国立療養所筋萎縮児委託施設 | 27 | 1,772 | 997 |
国立療養所重症児委託病床 | 80 | 8,080 | 7,717 |
精神薄弱者更正施設 | 1,040 | 68,592 | 68,901 |
精神薄弱者更正施設(通所) | 224 | 9,431 | 8,614 |
精神薄弱者授産施設 | 205 | 12,138 | 11,793 |
精神薄弱者授産施設(通所) | 1,562 | 21,766 | 21,224 |
精神薄弱者通勤療 | 111 | 2,635 | 2,475 |
精神薄弱者福祉ホーム | 55 | 632 | 522 |
教育
173. 障害により、通常の学級において指導を受けることが困難な、又は通常の学級における指導のみによっては十分な教育効果が期待できない児童生徒については、その能力を最大限に引き出し、社会的自立及び参加を可能な限り実現することを目的として、障害の種類、程度等に応じ、特別な配慮の下に、より手厚く、さめ細やかな教育を行っている。具体的には、盲学校、聾学校若しくは養護学校、小・中学校の特殊学級又は通級指導教室において、障害に応じた特別な教育課程、小人数の学級編制、専門的な知識・経験のある教職員、障害に配慮した施設設備等により教育を行っている。
盲学校 | 聾学校 | 養護学校 | |
---|---|---|---|
70 | 107 | 791 | 単位:校 |
4,696 | 7,557 | 74,966 | 単位:人 |
(文部省調べ)
小学校 | 中学校 | |
14,835 | 7,014 | 単位:学級 |
44,319 | 22,632 | 単位:人 |
小学校 | 中学校 | |
13,628 | 441 | 単位:人 |
(文部省調べ)
174. 政府では、このような特殊教育を更に充実するため、各種施策を行っており、例えば、1993年度からは、特殊教育の新しい形態として、通級による指導を制度的に実施し、比較的軽度の障害のある児童生徒は、授業の大部分は通常の学級で受け、障害に応じた特別の指導を特別の指導の場で受けている。
175. また、教育の機会均等の趣旨及び盲・聾・養護学校等への就学の特殊事情に鑑み、保護者の経済的負担を軽減し、その就学を奨励するため、保護者の負担能力に応じて、就学のため必要な諸経費の全部又は一部を助成する特殊教育就学奨励費が支給されている。1994年度においては、諸単価の引き上げ及び帰省費の支給対象回数の増等その他支給対象の拡充を図っている。
雇用
176. 障害者の雇用の促進等に関する法律、障害者対策に関する新長期計画、障害者雇用対策基本方針及び障害者プランに基づき、公共職業安定所、障害者職業センター等において、児童を含め、すべての障害者に対し、職業指導、職業訓練、職業紹介等の職業リハビリテーンョンを実施している。
レクリエーション
177. 児童も含め障害者が障害のない者と同じように、スポーツや文化活動を楽しむことができる機会を提供するために、全国身体障害者スポーツ大会や精神薄弱者の全国規模のスポーツ大会(ゆうあいピック)の開催等スポーツの振興に努めるとともに、障害者による各種文化活動の支援、障害者にも配慮した劇場やコンサートホールの設置等を推進している。
障害児の治療の分野における国際協力
178. これらの分野で蓄積してきた技術、経験などを政府開発援助(ODA)や民間援助団体などを通じて開発途上国の障害児対策に役立たせることは、国際協力上極めて有効であり、かつ重要である。我が国の政府開発援助大綱は、「子ども、障害者、高齢者等社会的弱者に十分配慮する」ことを掲げており、例えば、国際協力事業団を通じて、開発途上国に対して障害者との関係でリハビリテーション指導員養成等のための研修員受け入れや専門家及び青年海外協力隊の派遣等の技術協力を行っている。この他、障害児も含めた障害者対策に関する新長期計画、障害者雇用対策基本方針及び障害者プランに基づき、国際セミナー、アジア諸国における職業リハビリテーンョン専門家研修等を実施している。
179. また、障害の予防及び効果的リハビリテーンョン等「障害者に関する世界行動計画」(1982年の第37回国連総会において採択)の目的を実現するために開発途上国や障害者組織からの要請に応えることを目的とする「国連障害者基金」に、1994年までに累計90万ドル(世界第3位)の資金拠出等を行っているほか、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)に対し、1994年度は約20万ドル相当のプロジェクト支援を行っている。
180. 更に、開発途上国における民間援助団体の活動も近年活発化していることから、障害児の保護に携わるNGOに対し、NGO事業補助金及び草の根無償を通じて、障害の予防、リハビリテーンョン等の領域における諸国間の情報交換、技術及び専門的知識の移転の促進のための国際協力を行っている。
C. 健康及び保健サービス (第24条)
181. 我が国の母子保健については、母性が児童の健全な出生と育成の基盤として、尊重され、保護されるべきであり、乳幼児は心身ともに健全な人として成長してゆくために、その健康が保持され、増進されるべきであるとの基本理念の下に、母子保健法に基づき、思春期から妊娠、出産、育児に至る一貫した体系の下に、以下のような保健指導、健康診査、医療対策等の母子保健対策が行われている。しかしながら、近年、我が国においては、少子化、核家族化等の進展により、母子を取り巻く社会的環境は大きく変化し、育児不安など様々な問題が生じてきている。このような状況を受け、新たな国民のニーズに的確に対応し、安心して生み育てることができる環境をつくるため、市町村を中心とした母子保健事業の充実により、一層きめ細かな対策の推進が求められている。
保健対策
(a) 妊娠の届出をした者に対する母子健康手帳の交付
182. 妊娠した者は、速やかに届出をすることとされており、これに対し市町村 から母子健康手帳が交付される。この母子健康手帳は、妊娠、出産から育児に関する一貫した健康記録である。また、予防接種を受けた場合には、母子健康手帳に必要な事項を記入することによって予防接種済証に代えられる。
(b) 妊産婦や乳幼児に対する保健指導
183. 保健所や市町村において、母子保健に関する一般的な知識の普及を行うとともに、必要に応じて妊産婦や乳幼児に対しては、保健婦等による個別指導が行われている。
(c) 市町村活動の基盤整備等
184. 市町村における各種母子保健活動の拠点施設として母子健康センター及び市町村保健センターが設置されており、1995年末でそれぞれ410ケ所、1,503ケ所ある。また、市町村において、講習会等の方法により育児学級等を開催したり、妊産婦乳幼児の保護者等に対し、個々のケースに応じた相談指導を行う母子保健相談指導事業等を行っている。
(d) 妊産婦及び乳幼児を対象とする健康診査
185. 妊娠中の健康診査は、安全な分娩と健康な子供の出生のために極めて重要であり、妊婦は、一般健康診査を2回、必要に応じて1回の精密健康診査を医療機関において無料で受けることができる。また、乳児についても、一般健康診査を2回、必要に応じて2回の精密健康診査を医療機関において無料で受けることができるほか、すべての新生児に対し、フェニールケトン尿症等の先天性代謝異常やクレチン症のマススクリーニング検査を行っている。更に、3歳児の健康診査及び1歳6ヶ月児の健康診査並びに妊産婦及び乳幼児の健康診査が随時行われている。
(e) 予防接種
186. 予防接種法に基づき、ジフテリア、百日せき等の発生防止のための予防措置を行っている。
学校における健康診断
187. 学校保健法に基づき、就学時の健康診断並びに学校における健康診断及び健康相談が行われている。
栄養の改善
188. 地域保健法等に基づき、公衆衛生の向上及び増進を目的とした栄養の改善、乳幼児等に関する指導その他の事業を行っている。また、栄養改善法に基づき、国民の健康状態、栄養摂取量等を把握するために国民栄養調査を行い、保健所の栄養士は、児童を含む住民や児童福祉施設等の集団給食施設に対して必要な栄養指導を行っている。
国際協力
189. 政府開発援助大綱に基づき、国際協力事業団を通じて保健医療分野、特に母子保健分野において、国立病院等の医師等医療関係者の協力を得つつ、各種の技術協力を実施するとともに、医療施設、上下水道施設及び廃棄物の処理施設などの改善等、保健医療分野における無償資金協力を実施する等の国際協力を行っている。また、母子保健分野における開発途上国の専門家を我が国に招聘し、研修を行うなどの事業も行っている。
190. また、世界保健機関(WHO)に対し、約4,899万ドル(1995年度)の分担金を負担しているほか、約2,305万ドル(1995年度)を任意拠出するなどを通じ、児童の保健向上等のための情報交換、技術援助、専門家の養成の国際協力を行っている。
191. 我が国では、特にワクチンに関する協力を重視し、WHOによる「ポリオ(小児マヒ)根絶」(2000年までに世界中からポリオを根絶する計画)及び「子供ワクチン構想」(既存ワクチンの改良、新ワクチンの開発、ワクチンの供給体制の改善等)への協力を重要な2つの柱として、アジア諸国を中心に全国一斉投与用ポリオ・ワクチン、通常投与用ワクチン(ポリオ、破傷風、BCG、三種混合等のワクチン)やコールドチェーン(ワクチンを低温で保存・運搬する一連の機材)等の供与を行う等積極的に協力を進めている。また、これらの協力の実施に際しては、WHO及びUNICEFとのマルチバイの協力も積極的に活用している。
D. 社会保障及び児童の養護のための役務の提供(第26条、第18条3)
社会保障
192. 我が国では、条約第26条1に規定する社会保障として、医療保障の面においては、各種医療保険制度及び養育医療、育成医療の公費負担制度があり、所得保障の面においては、児童手当、児童扶養手当、特別児童扶養手当、障害児福祉手当、遺族年金、生活保護等がある。
193. 児童に関する社会保障の給付のうち、医療保障の面においては、児童を含め国内に居住するすべての者が、公的医療保険制度に加入することとなっている。また、身体に障害のある児童に対して生活の能力を得るために行う育成医療の給付、身体障害者手帳の交付を受けた児童に対する補装具の交付、及び結核にかかっている児童に対して療養に併せて学習の援助を行うための療育の給付については、その給付に要した費用を支弁する都道府県は、本人又はその扶養義務者の負担能力を考慮してその費用の全部又は一部を負担することとなっている。
194.社会福祉の面における児童手当、児童扶養手当及び特別児童扶養手当の給付については、それぞれ適用対象となる児童を監護する者等受給資格者の扶養親族等の有無及び数に応じて政令で定める所得の制限限度額に従って支給されることとなっている。
(a) 児童手当制度
195. 児童手当制度は、児童の養育に伴う家計の負担を軽減し、家庭生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健全な育成と資質の向上に資することを目的として、1972年度から実施されている。
児童手当制度については、1994年、最近の出生率の低下など、児童や家庭を取り巻く環境の変化を踏まえ、就労と育児の両立支援などを目的とする改正が行われた。改正においては、各種育児支援サービスの充実を図るため、福祉施設を児童育成事業と改称し、新たに児童育成事業に充当するための事業主拠出金を徴収することとして安定的、継続的にこの事業が実施できるようにした。
支給対象児童 | 第1子以降の児童 | |
支給機関 | 3歳未満の期間 | |
手当額 | 第1子、第2子 | 5,000円 (月額) |
第3子以降 | 10,000円 (月額) | |
所得制限 | 239万6,000円(4人世帯・所得ベース)(1996年6月~) | |
所得制限により手当を受けられなくなる被用者又は公募員のうち、所得が一定額以上のものについて、事業主又は所属庁の全額負担による児童手当と同額の給付が行われる。所得制限は417万8,000円(4人世帯・所得ベース)(1995年6月) | ||
支給対象児童数 | 2,485,032人(1996年2月末日現在) |
(b) 児童扶養手当制度
196. 離婚による母子世帯等、父と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について手当を支給し、福祉の増進を図ることを目的として、児童扶養手当を支給している。
支給対象者 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある児童(障害児の場合は20歳未満)を監護、養育している生別の母子世帯等の母または養育者 | ||
手当額 | 児童1人の場合 | (全部支給) | 41,390円 |
(一部支給) | 27,690円(1995年4月~) | ||
児童2人の場合 | 5,000円加算 | ||
児童3人の場合 | 1人につき 3,000円加算 | ||
受給対象児童数 | 約88万人(1995年3月末日現在) |
(c) 特別児童扶養手当
197. 20歳末満で精神又は身体に中程度以上の障害を有している児童を家庭で監護、養育している父母等に特別児童扶養手当を支給している。
手当額(月額) | 1級 | 50,350円 | |
2級 | 33,530円(1995年4月~) | ||
所得制限 | 受給者本人 | 741万円 | (4人世帯) |
扶養義務者 | 904.1万円 | (6人世帯)(1995年8月~) | |
支給対象児童数 | 125,947人(1995年3月現在) |
198.更に、生活保護法は、児童についても適用される。ただし、同法においては、保護の基準を要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別、その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならないとされているほか、保護は、要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効かつ適切に行うものとすることとされている。
児童の養育のための役務の提供
199. 我が国では、次のような措置により、児童の養育のためのさまざまな役務の提供を行っている。
(a) 保育所
200.我が国においては、保護者たる父母のいずれもが昼間労働することを常態とするなど、当該児童を保育することができないと認められる場合であって、かつ、同居の親族その他の者が当該児童を保育することができないと認められる場合には、市町村が当該児童を保育所に入所させて保育する措置をとることが義務づけられている。保育所は、1994年4月現在、施設数は22,532ヵ所、入所児童数は1,593,161人となっている。
保育所数(ヶ所) | 保育所入所定員(人) | 保育諸措置人員(人) | |||
総数 | 公営 | 私営 | |||
1989 | 22,742 | 13,149 | 9,323 | 1,992,525 | 1,662,465 |
---|---|---|---|---|---|
1990 | 22,703 | 13,380 | 9,323 | 1,978,989 | 1,637,073 |
1991 | 22,669 | 13,347 | 9,322 | 1,968,666 | 1,622,326 |
1992 | 22,637 | 13,322 | 9,315 | 1,958,796 | 1,618,657 |
1993 | 22,583 | 13,227 | 9,306 | 1,945,915 | 1,604,770 |
1994 | 22,532 | 13,230 | 9,302 | 1,935,054 | 1,593,161 |
(厚生省調べ)
201. 保育所の運営費には、人件費、事業費、管理費等が計上され入所児童の年齢区分に応じて、それぞれの児童1人当たりの保育単価が設けられ、適切な保育が実施されるよう配慮されている。なお、保育所の整備については、保育ニーズに対応して、毎年積極的な整備が進められた結果、全国的にほぼ必要な水準に達しているものと思われるが、今後、大都市近郊の人口急増地域等に重点を置き、新設を図るとともに、災害や新しいニーズに対応できるように老朽施設の改築整備を促進していく必要がある。
(b) 事業所への助成
202. 児童手当の拠出金を拠出する一般事業主によって当該事業所の従業員の児 童を対象とした保育施設の設置がなされる場合には、これに対し助成を行っている。
203. この他、女性の社会進出等に伴う多様な保育ニーズに対応するため、乳児保育、延長保育等の特別保育対策を積極的に実施している。
(c) 乳児保育
204. 乳児(0歳児)については、安全を保持し、その心身の順調な発達を保障するため、設備や職員配置等の保育条件に配慮した保育を行う必要があり、このような観点から、所定の設備及び運営基準に適合する保育所に対し、保母の加配を行っている。1994年度実績は、7,645ヵ所。
(d) 時間延長型保育サービス事業
205. 従来からの延長保育と長時間保育を統合し、1994年度から時間延長型保育サービス事業を創設し、A型(2時間延長)、B型(4時間延長)、C型(6時間延長)の3類型による延長保育を実施している保育所に対し、補助を行っている。1994年度実績は、1,649ヵ所。
(e) 夜間保育
206. 概ね午後1時頃からおおよそ午後10時頃まで開所している夜間保育所に対し、補助を行っている。1994年度実績は37ケ所。
(f) 障害児保育
207. 保育所での集団保育が可能で日々通所できる障害児(特別児童扶養手当の支給対象児童)を受け入れている保育所に対し、保母の加配を行っている。
1994年度実績は、4,381ケ所。
(g) 一時的保育事業
208. パート就労など女性の就労形態の多様化に対応するため、週3日程度の弾力的な保育サービスや、保護者の傷病等に対応した緊急保育サービスを実施している保育所に対し、補助を行っている。1994年度実績は、387ケ所。
209. 放課後児童対策事業として、昼間保護者のいない家庭の小学校低学年児童(放課後児童)の育成・指導、遊びによる発達の助長を行い、児童の健全育成の推進を図っている。
210. 更に、近年の少子化の一層の進行や女性の社会進出など児童を取り巻く環境の変化に対応し、1994年12月16日、文部、厚生、労働及び建設の4大臣の合意により、「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(エンゼルプラン)が策定され、子育て支援のための施策について総合的、計画的に推進されることとなった。このエンゼルプランの一環として、1994年12月18日、大蔵、厚生及び自治の3大臣の合意により、「緊急保育対策等5カ年事業」が策定され、低年齢児(0歳から2歳までの児童)保育や延長保育等について計画的に推進されている(詳細は、19.参照)。
211. また、家庭環境を奪われた児童や虐待からの保護を図るため、児童福祉施設入所等を実施している(詳細は、V.F.参照)。
212. 更に、乳幼児の健康保持のために各種母子保健対策が実施されるとともに、障害を持つ児童のために各種福祉サービスの提供の推進が図られている。(詳細は、Ⅵ.A.,B.及びC.参照)。
児童委員
213. 児童委員とは、児童福祉法第12条に基づき、市町村の区域に置かれている民間奉仕者であり、担当区域内の児童及び妊産婦について、常にその生活及び環境の状態を把握し、その保護、保健その他福祉に関し、援助や指導を行う一方、児童相談所、福祉事務所等の行政機関の業務(児童・母子・精神薄弱者の福祉)の遂行に協力することを職務としている。児童委員は、厚生大臣から民生委員・児童委員として、全国の市町村で約21万人が委嘱されている。また、1994年1月からは、地域において児童や妊産婦の福祉に関する相談・援助活動等を専門に担当する者として約1万4千人の主任児童委員が委嘱されている。
児童委員活動 | 計 | |||
児童福祉 | 母子福祉 | 母子保険 | ||
1994 実数(件) | 916,441 | 526,931 | 918,822 | 1,642,194 |
(厚生省調べ)
E. 生活水準 (第27条)
214. 我が国は、憲法第25条により、児童も含めすべて国民は最低限度の生活を営む権利が保障されている。我が国では、相当な生活水準についての児童の権利の実現のため、父母及び児童について責任を有する他の者を援助するために、次のような措置をとっている。
(a) 児童手当の支給(195.参照)
(b) 児童扶養手当の支給(196.参照)
(c) 特別児童扶養手当及び障害児福祉手当の支給(197.参照)
(d) 母子保険法による乳児または幼児に対する栄養の摂取に関する援助
乳児または幼児の健康保持及び増進のための健康づくりや栄養管理について、グループワークや栄養食品の支給等が行われている。
(e) 生活保護法による生活扶助、住宅扶助
困窮のための最低限度の生活を維持することのできない者に対する一般法として生活保護法があり、衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの、及び住居、補修その他住宅の維持のために必要なものの範囲内において金銭給付又は必要があるときは現物給付によって行われている。
(f) 住宅金融公庫による住宅資金の供給
長期・固定・低利の住宅資金を安定的に供給している。
(g) 公営住宅の建設
国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を建設し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸している。
Ⅶ. 教育、余暇及び文化的活動
区分 | 学校数(校) | 在学者数(人) |
---|---|---|
総数 | 58,369 | 22,662,246 |
小学校 | 24,548 | 8,370,246 |
中学校 | 11,274 | 4,570,390 |
高等学校 | 5,501 | 4,724,945 |
大学 | 565 | 2,546,649 |
短期大学 | 596 | 498,516 |
高等専門学校 | 62 | 56,234 |
盲・聾・養護学校 | 967 | 86,834 |
幼稚園 | 14,856 | 1,808,432 |
専修学校 | 3,476 | 813,347 |
各種学校 | 2,821 | 321,150 |
(文部省調べ)
(注)1.総数には専修学校及び各種学校を含まない。2.高等学校の在学者数には、専攻科・別科の在学者数を含む。大学及び短期大学の在学者数には、大学院・専攻科・別科の在学者数及び聴講生・研究生等の数を含む。高等専門学校の在学者数には、専攻科の在学者数を含む。
A. 教育 (含む職業指導) (第28条)
(a) 幼稚園教育(就学前教育)
215. 幼稚園は、幼児(3歳~5歳児)を保育し、適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とした学校である。幼稚園は、就学前の幼児を保育することを目的としているため、義務教育ではないが、1994年現在、約6割の5歳児が幼稚園に入園している(保育所も含めれば全体の約9割の5歳児が幼稚園又は保育所のいずれかに通っている)。幼児期における教育の重要性を考慮すれば、希望するすべての3歳~5歳児が幼稚園教育の機会を与えられることが望ましく、このため、公立及び私立を通じて適切な幼稚園の整備に努めるとともに、幼稚園に就園する幼児の保護者に対して、その経済的負担の軽減を図ることを目的とした幼稚園就園奨励費を支給する事業を実施しており、幼稚園教育の一層の普及に努めている。
(b) 義務教育 (初等教育及び前期中等教育)
216. 我が国では、満6歳から満15歳までの児童は、小学校及び中学校に就学することとされている。なお、我が国に在住する外国籍又は無国籍の児童には就学義務はないが希望すれば、同様の機会が与えられている。小学校は満6歳から満12歳までの児童に対し、心身の発達に応じて6年間の初等普通教育を施すことを目的としている。中学校は、満12歳から満15歳までの児童に対し、小学校における教育の基礎の上に心身の発達に応じて、3年間の中等教育を施すことを目的としている。
217. 国公立の学校における義務教育は無償であり、義務教育において使用される教科書は、国公立のみならず、私立の小・中学校の児童生徒に対しても、国が無償で給与している。また、市町村においては、経済的理由によって、就学困難と認められる学齢児童生徒の保護者に対し、必要な援助を与えなければならないと定め(学校教育法第25条、第40条)、義務教育の円滑な実施を図ることとしている。国としては、「就学困難な児童及び生徒に係る就学奨励についての国の援助に関する法律」により、経済的理由によって就学困難な児童及び生徒について学用品を給与する等就学奨励を行う市町村に対し、国が必要な援助を与えることによって、義務教育の円滑な実施に資することとしている。これらの義務教育の無償などの措置については、外国児童に対しても同様にとられている。
なお、我が国においては、初等中等教育について、全国的に一定の教育水準を維持し、憲法で保障している教育の機会均等を実質的に確保するため、学校で編成する教育課程の基準を定めている。教科等の種類とそれに充てる年間の標準時間数等については、学校教育法施行規則(文部省令)で定めている。また、各教科等の教育内容については、学習指導要領(文部大臣告示)で大綱的な基準を定めている。
(c) 後期中等教育
218. 高等学校は、高等普通教育及び専門教育を施す後期中等教育機関である。高等学校へは、学校教育法の下、中学校若しくはこれに準ずる学校を卒業した者又は監督庁の定めるところによりこれと同等以上の学力があると認められた者は、すべて性、人種、国籍等によるいかなる差別もなく、入学資格が認められている。
また、我が国では、必要な場合における財政的援助の提供として、育英奨学等これらに対する経済的な援助を行う等、後期中等教育の機会の確保のための適切な措置をとっているところであり、1995年現在、高等学校への進学率は約97%に達している。
(d) 高等教育
219. 高等教育機関である大学への入学資格は、学校教育法により、高等学校を卒業した者若しくは通常の課程による12年の学校教育を終了した者又は監督庁の定めるところによりこれと同等以上の学力があると認められた者に対して、性、人種、国籍等いかなる差別もなく認められている。また、放送等を効果的に活用した新しい教育システムの大学教育を推進することによって、レベルの高い教育・学習の機会を広く国民に提供することを目的として、1983年に設立された放送大学では、テレビ・ラジオを中心とした多様なメディアを効果的に利用した高等教育を実施している。更に、優れた学生及び生徒であって、経済的理由により就学困難がある者に対し、日本育英会は、日本育英会法に基づき、学資の貸与を行っている。また、日本育英会のほか、地方公共団体、公益法人等においても奨学事業を行っている。更に、国公私立大学では、学生の経済状況等により、授業料の減免が行われている。
(e) 教育及び職業に関する情報の利用
220. 学校においては、生徒が自らの生き方、将来に対する目的意識を持ち、自分の意思と責任で進路を決定する能力・態度を身につけることができるよう、指導援助、すなわち、進路指導を行っている。進路指導を行うに当たっては、教育活動の全体を通じて生徒の能力・適性等について的確に把握するとともに、進路に関する情報の収集・活用や啓発的活動の実施などを組織的・計画的に行うことが重要であり、各種研修の実施、進路指導資料の作成等の施策を実施している。
221. また、公共職業安定所は、学校と協力し、学校の行う進路指導との有機的関連を保ちつつ、新規学校卒業者が、適性と能力に応じた職業選択ができるよう計画的な職業指導を行っている。その内容は、適性能力の把握と自己理解の促進のための一般職業適性検査、職業レディネス・テスト(中学校を除く)の実施、各種職業情報の提供、職業講話、職業相談の実施である。
(f) 定期的な登校の奨励
222. 我が国では、義務教育の不就学をなくすため、市町村教育委員会は義務教育相当年齢の児童生徒を学齢簿に記載し、その入学時に保護者に対し就学すべき学校を指定して通知している。また、校長が在学児童生徒の出席状況を把握し、適切な指導を行うとともに、正当な理由がなく、出席状況が良好でない場合には、市町村教育委員会から児童生徒の保護者に出席の督促を行うこととなっている。
223. 一方、主として心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しない、あるいはしたくともできない(病気や経済的な理由によるものを除く)状況にある、いわゆる登校拒否の児童生徒数が年々増加している。政府では、この問題の解決のため、学校においては、一人一人の児童に対する理解を深め、個性を尊重し、指導を行うよう教育委員会を指導している。また、教員の資質能力の向上、教育相談体制の整備、家庭・学校・地域社会の連携の推進という観点から、各種の施策を推進している。
224. 高等学校の中途退学については、政府としては、(i)生徒選択中心の教育課 程を編成するなど高等学校教育の多様化、弾力化、個性化の推進、(ii)「参加する授業」「分かる授業」の徹底等個に応じた手厚い指導を行うこと、(iii)積極的な進路変更を可能とするため転編入学の積極的受入れ、転校・転科許可の弾力化など開かれた高等学校教育の仕組みを整えること等の総合的、積極的な取組を行うよう教育委員会等を指導しているところである。また、生徒一人一人を大切にし、個性を生かす教育の推進、教員の資質能力の向上、教育相談体制の整備という観点から、各種施策を推進している。
(g) いじめ問題への対応
225. 我が国では、昨今、児童生徒のいじめ問題が深刻化しており、いじめが関係したと考えられる自殺が発生するなど憂慮すべき状況にある。この問題は、児童生徒の人権にも関わる重大な問題であり、文部省では、「弱い者をいじめることは人間として絶対に許されない」との強い認識に立ち、学校においてその解決のため真剣に取り組むよう教育委員会等を指導している。また、児童一人一人を大切にし、個性を生かす教育の推進、教員の資質能力の向上、学校外の高度な専門家の学校への配置を進めるなど、教育相談体制の整備、家庭、学校、地域社会の連携の推進という観点から各種施策を推進しているほか、教育活動の全体を通じて、生命及び人権尊重の精神の指導の徹底を図っている。
また、この問題に対しては、他の関係省庁も連携して相談体制の充実や広報活動の強化を図るなどの施策を行っているところである。例えば、法務省の人権擁護機関においては、1996年度啓発活動重点目標を「子どもの人権を守ろうー「いじめ」/しない、させない、見逃さないー」と定め、学校、家庭及び地域社会とも連携を図り、全国的な啓発活動を展開している。更に、警察においても、いじめ事案の早期把握に努め、事案の真相究明の徹底による加害少年に対する適切な処遇を図るとともに、被害少年の性格、環境、精神的打撃の程度等に応じたきめ細かいフォローアップの実施等により、いじめ事案の早期解決と再発防止に努めている。
(h) 学校の規律
226. 政府は、校則に関し、児童生徒等の実態、保護者の考え方、地域の実情等を踏まえ、より適切なものとなるよう引き続き配慮することについて、教育関係機関に通知したところである。また、我が国においては、学校において、教育上必要があると認められるときには、児童生徒に対し懲戒を加えることができるものとされているが、政府としては、懲戒を行うに当たっては、教育上必要かどうかの観点から慎重に検討して行うとともに、当該児童生徒から事情や意見を十分聴取する聴く機会をもつなど児童生徒の個々の状況に十分に留意し、その措置が単なる制裁にとどまることなく真に教育的効果を持つものとなるよう配慮することについて、教育関係機関に通知したところである。
227. 我が国では、体罰は学校教育法第11条により厳に禁止されているところであり、文部省では、この法律の趣旨が実現されるようにあらゆる機会を通じて教育関係機関を指導している。
また、法務省の人権擁護機関でも、体罰に関する情報を得た場合には、児童の基本的人権を擁護するという立場から、関係者から事情聴取する等して事実の調査を行い、その結果に基づいて、体罰を加えた教師及び学校長等に対し、人権思想の啓発(「説示」又は「勧告」)や再発防止の方策を要望する等の措置をとっている。更に、学校、地域社会等とも連携を図り、啓発活動を行っている。1994年、95年における人権侵犯事件数(それぞれ16,035件、16,296件)のうち、体罰事件の件数は、それぞれ89件、111件であった。
(i) 国際協力
228. 我が国は、教育の完全普及に関するアジア・太平洋地域事業計画(APPEAL)に協力して、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)に対して識字教育信託基金を拠出し(1995年度においては、70万ドル)、また、アジア・太平洋地域教育開発計画(APEID)の下で研修セミナーを開催するなど国際連合教育科学文化機関(UNESCO)事業への協力を行っているほか、ユネスコ・アジア文化センターの識字教材開発事業等への助成を行っている。これらの事業等により、開発途上国への我が国専門家の派遣、途上国からの専門家の受入れを積極的に行っている。更に、開発途上国における教育の普及のために(社)日本ユネスコ協会連盟が行う民間の国際協力事業に対し、種々の支援を行っている。
229. また、教育の分野では、開発途上国に対し、主として無償資金協力により小中学校・社会教育施設の建設、放送教育の拡充、教員の養成等をすすめ、また、教育機材供与等の文化無償協力を行っている。更に、1995年度には、国連児童基金(UNICEF)のアジア諸国に対する女児教育プロジェクトに対し、約100万ドルを拠出した。
B. 教育の目的 (第29条)
230. 教育基本法第1条は、「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値を尊び、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない」と規定している。このような教育の目的は、幼児期からの教育全体の課題として「あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない」ものであり、学校教育はもとより家庭教育、社会教育にも通ずべき教育の理念となっている。
外国人児童への教育
231. 我が国の場合、学校教育法に規定する「学校」で学ぶ外国人児童は、基本的に日本人子弟と同様の教育が施されている。その際、外国人の我が国の学校への実際の受入れに当たっては、それぞれの出身国の言語や習慣等を踏まえ、学校に適応できるよう各学校で、外国人子女の能力・適性に合わせて外国人子女を一般の学級から個別に取り出して指導を行ったり、一般の学校では複数の教員が協力してティームティーチングで指導を行う等の工夫がなされているところである。また、政府としても、日本語指導教材や外国人子女の指導資料の作成・配布、外国人子女を担当する教員の研修、外国人子女の母語ができる者を学校へ協力者として派遣する事業及び外国人子女を受入れている学校への教員の加配を行っているほか、外国人子女の学校への受入れの在り方等について調査研究するため研究協力校の指定を行っている。この他、課外において、外国人児童に対し、当該国の言葉や文化を学習する機会を提供することは従来から差し支えないこととされており、実際にも幾つかの地方共団体においてそのような学習機会が提供されている。
C. 余暇、レクリエーション及び文化的活動 (第31条)
文化及びレクリエーション施設等の整備
232. 我が国においては、児童福祉法に基づき、児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、又は情操を豊かにすることを目的とする児童厚生施設が設置されている。社会教育の分野では、社会教育法等関連法令に基づき、学校外において、児童に豊かな生活体験や活動体験の機会を提供するさまざまな事業の充実を図るとともに、公立の公民館等社会教育施設に対する補助を行い、学習活動の場の整備に努める等、総合的な取組みを推進している。
主なレクリエーション施設は以下のとおり。
(a) 国立オリンピック記念青少年総合センター
233. 同センターは、青少年及び青少年教育指導者その他青少年教育関係者に対する研修、青少年教育に関する施設及び団体との連絡・協力並びに青少年教育に関する専門的な調査研究を行うことにより、健全な青少年の育成及び青少年教育の振興を図る目的で文部省直轄の青少年教育施設として設置。1994年度の利用者数は延べ68万人。
(b) 青年の家・少年自然の家
234. 団体宿泊活動を通じて健全な青年の育成を図ることを目的とする社会教育施設。1993年10月現在、全国に732施設。1992年度の利用者数は延べ1,613万人。
(c) 児童文化センター
235. 同センターは、少年に対し、科学知識の普及、文化活動を通じて情操のかん養、生活指導等を行う等、青少年の興味関心に基づく自発的な活動を促進するための社会教育施設であり、図書室、音楽室、プラネタリウム等が設けられており、団体やグループの各種活動や展示会等、少年の日常的な活動の拠点としての役割を果たしている。1992年に同センターの利用した少年の数は述べ282万人。
(d) 国立南蔵王青少年野営場
236. 同野営場は、1979年の国際児童年を記念して構想されたもので、雄大な大自然の下でのキャンプ生活を通じて、自然の厳しさや美しさを体験する中から自立心や忍耐心を培い、青少年の豊かな心とたくましい体をはぐくむことを目的に開場。面積159haであり、最高3,000人が野営可能。
(e) 公民館
237. 公民館は、身近な日常生活圏における社会教育活動の中心的な施設として重要な役割を果たしている。1993年10月現在、全国の公民館数は17,562館。
(f) 博物館
238. 博物館は、実物資料を通して人々の学習活動を支援する社会教育施設として重要な役割を果たしている。1993年10月現在、全国の博物館数は861館。
(g) 図書館
239. 全国の公共図書館数は、1993年10月現在、2,138館。
(h) スポーツ施設
240. 全国のスポーツ施設数は約30万ヶ所。その約半数は学校体育施設であり、残りは公共スポーツ施設が約20%、職場スポーツ施設を含めた民間スポーツ施設が約25%。
(i) 児童館・児童センター
241. 児童に健全な遊びの場を与え、その健康を増進し、情操を豊かにするとともに、母親クラブ、子ども会等の地域組織活動の育成助長を図る等、児童の健全育成に関する総合的な機能を有するもの。1995年1月現在全国に4,102ヶ所。
(j) 児童遊園
242. 児童館、児童センターと同様の目的を有する屋外の施設である。1995年1月現在4,189ヶ所。
243. なお、政府は、1994年度より新たに、「子どもにやさしい街づくり事業」を実施し、子どもの遊び場確保のために、児童館、児童センター、児童遊園、公園等の整備計画の策定や、駐車場、道路の一部、企業のグランド、遊休地等の開放及び遊びの指導等の促進を図ることとしている。
文化、芸術及びレクリエーション活動の奨励
244. また、政府では、児童に、文化、芸術及びレクリエーション活動の機会を提供するため、次のような事業を実施している。
(a) 芸術鑑賞機会の提供
245. 児童の芸術文化に関する鑑賞機会の充実、参加拡大に資するため、全国各地に優れた舞台芸術を派遣するこども芸術劇場・中学校芸術鑑賞教室・青少年芸術劇場等の巡回公演を行っているほか、国立美術館所蔵の内外美術名品の展示及び現代秀作美術の展示を行う巡回美術展等を実施している。
また、伝統文化の分野においては、優れた美術品に親しむ機会を提供するために、東京・京都・奈良の各国立博物館において、わかりやすい解説等により児童向けの文化財の鑑賞の集いなどを行っている。また、伝統芸能にふれる機会を増やすために、歌舞伎・能楽・文楽について解説つきの鑑賞教室を国立劇場などで低廉な料金で行っているほか、能楽や文楽においては、夏休み期間に、特に児童が親しみをもてるようなわかりやすい演目を並べた公演も行っている。更に、地方公共団体や私立博物館・美術館においては、ワークショップや芸術鑑賞教室などにより、児童の文化活動のための機会の提供が積極的に行われている。芸術文化振興基金においても、芸術文化団体が実施するこども・青少年を対象とした各種の芸術文化活動に対し支援している。
(b) 文化活動の奨励
246. 全国の高等学校の生徒による芸術文化活動の発表会を総合的に開催し、創造活動の向上を図るとともに相互の交流を深めることを目的として、全国高等学校総合文化祭を開催している。
(c) スポーツ活動の振興
247. 児童にとって、体育・スポーツ活動は、体力を養い、生涯にわたってスポーツを楽しむための基礎を培うとともに、広く人間形成に役立つものとして重要である。我が国においては、教科としての体育や教科外の運動部活動など学校における体育・スポーツ活動の充実を図るとともに、中学校及び高等学校の全国的な体育大会の開催費及び派遣費について助成措置を講じている。また、児童を含めた青少年のスポーツ活動を推進するための市町村事業に対して補助を行うとともに、誰もが気軽に参加し、楽しめる全国的な祭典として1988年度から全国スポーツ・レクリエーション祭を開催しており、地域におけるスポーツ活動の推進を図っている。更に、諸外国との青少年とのスポーツ交流を促進するための事業に対しても補助を行うなど、スポーツを通じた国際交流の機会の充実を図る施策を実施している。なお、スポーツ振興基金においても、少年を対象とするスポーツ大会の開催等を重点的に支援している。
248. この他、警察では、少年の健全育成等を図るためのスポーツ活動として、全国警察署の道場その他適当な施設を使用し、少年を対象として日本古来の武道である柔道、剣道の指導等を推進している。この少年柔道・剣道活動には、全国で約10万人の少年が参加しており、また、全国における柔道・剣道少年の相互の親睦を図るため、日頃の訓練の成果を発揮する場として、1988年から毎年8月に「全国警察少年柔道・剣道大会」を実施(1996年8月で9回目)している。
Ⅷ.特別な保護措置
A. 難民の児童 (第22条)
249. 我が国は、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権規約」という)、1951年の難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という)、1967年の難民の地位に関する議定書(以下「難民議定書」という)等を締結している。我が国は、1981年に難民条約及び難民議定書を締結したが、これに伴い出入国管理令を改正して難民認定制度を新設し、難民条約及び難民議定書が我が国について効力を生じた1982年1月から実施している。難民認定申請の処理に当たっては、同申請及びその処分結果について、その都度国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)に通報するなど、UNHCRとの連絡・協調に努めている。1996年1月末現在、難民認定申請を行っている児童は6名、難民と認定された児童は、76名である。
250. 難民の地位を求めている児童については、児童の権利に関する条約、国際人権規約等に定める権利で適用のあるものの享受に当たり、各種の保護及び人道的援助が与えられている。例えば、政府としては、児童も含め難民認定申請を行っている者であって生活困難な状況にある者に対する保護実施を(財)アジア福祉教育財団難民事業本部に委嘱し保護費を支給しているほか、難民認定申請を行っている児童に対しても児童福祉法等が児童の在留状況等に応じて適用される。
251. 難民と認定された児童についても、児童の権利に関する条約、難民条約及び難民議定書等に定める権利であって適用あるものの享受に当たり、職業、教育、社会保障、住宅等で各種の保護及び人道的援助が与えられており、例えば、児童福祉法、児童手当法等が適用される。
252. 我が国は、児童の権利に関する条約に規定する児童を保護し及び援助するため、難民問題の恒久的な解決のため法的側面の支援を含む難民の保護・援助括動を行っている国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)へ各国中第2位の資金協力(1995年度は120,715千ドル)を行っているほか、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、世界食糧計画(WFP)、国際移住機関(IOM)、赤十字国際委員会(ICRC)等の国際機関を通じた資金協力により、これらの児童に対する支援を行ってきている。
253. また、難民の父母等を探すため、国連難民高等弁務官事務所からの照会に応じ、同事務所に対し、難民の児童の家族との再統合に必要な知り得る限りの情報の提供を行う等の協力を行っている。
B. 武力紛争における児童 (第38条)
254. 戦争の犠牲者となる文民の中で最弱者層に属し、かつ、若年層である児童については、紛争が彼らに与える影響や戦闘地域に徴用されやすい事実(特に児童の戦闘への参加は、当該児童の生命のみならず、その無分別な行動のために犠牲となる者の生命をも危険にさらす)に鑑み、特別な保護が必要であるとの観点から、戦時における文民の保護に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約(ジュネーヴ第4条約)等の国際人道法においても、児童の保護につき詳細に規定されているところ、我が国も右趣旨に賛同し、右ジュネーヴ条約を締結している。
255. 我が国は、自国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とする自衛隊を有している。自衛隊法施行規則に基づき、自衛官の採用に当たっては原則として18歳以上の者を採用している。唯一の例外として、専門技術者としての陸・海・空曹を養成するために、15歳以上17歳未満の者を自衛隊生徒として採用しているが、教育課程期間中の4年間のうち、入隊後3年間は一般の高校と同等のカリキュラムの教育及び自衛官として必要な各種の基礎的事項の教育を受けていることから、直ちに第一線部隊に配置されることはない。また、有事においても18歳未満の自衛隊生徒を敵対行為に直接参加させることは想定していない。
C. 少年司法の運用 (第40条)
少年司法
256. 我が国においては、少年法上、20歳末満の者を「少年」として取り扱っている。少年が罪を犯した場合については、以下のとおり少年法等により成人(20歳以上の者)とは異なる手続を定め又は措置を講ずることにより、その年齢を考慮し、将来社会において建設的な役割を担うことを促進するものとしている。なお、我が国の刑法は、14歳末満の者の行為は罰しない旨定めており、14歳末満の者は、原則として、児童福祉法に基づき、教護院や養護施設への入所等の措置がとられることとなっている。
(i) 一般に、少年は、人格が未熟である反面、可塑性に富んでいるので、罪を犯した少年に対しては、刑罰による非難を加えるよりも、保護、教育を行うことが少年の健全育成に役立つと考えられている。そのため、我が国では、少年が罪を犯した場合等には、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整を図るとの観点から、これらの少年事件は、すべて家庭裁判所に送致、通告される。
(ii) 家庭裁判所は、非行事実の有無について判断する司法的機能を有するとともに、再非行防止の観点から、人間関係諸科学の専門職である調査官の補助を得ながら、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について医学、心理学、教育学、社会学等の専門知識を活用して調査を行い、非行の原因、再非行予防のための諸要素に関する要保護性の判断を適切に行う福祉的機能を有している。そして、この二つの機能を十分に生かすためには、検察官が被告人を弾劾し、その刑事責任を追及するという刑事手続のような対立構造は好ましくなく、関係者の協力を得て、裁判官が直接少年に対し語りかけ、教育的な働きかけを行うことのできる非形式的な審問構造の方がふさわしいことから、少年審判手続では、家庭裁判所が自ら事件を調査し、審問を行い、少年にとって最も適切、妥当な措置をとり又は処遇を決定する職権主義的審問構造を採用している。
(iii) 上記のように、すべての事件を家庭裁判所に集中させるため、まず第一に家庭裁判所が、保護処分に適するか否かを判定することになる。その結果、少年の過去の保護処分歴等にかんがみて、保護処分によってはもはや矯正される見込みがない場合や、犯罪の内容が重大で、社会に与える影響等を考慮すれば、刑事責任を問い、その罪責を明らかにするのが相当な場合のみ(ただし、いずれも死刑、懲役又は禁錮に当たる罪に限る。)、成人と同様の刑事手続に移行させる。しかし、16歳末満の者については、刑事手続に移行できないこととし、低年齢の少年に対して特に配慮がされている。
また、刑事手続に移行し、刑に処せられる場合でも、少年の特性を考慮し、18歳末満の児童に対する死刑・無期刑の緩和、収容時の成人との分離、仮出獄を許可するまでの期間の短縮等種々の特例が認められている(詳細は、277.及び281.参照)ほか、少年に対し、罰金が言渡された場合、換刑処分としての労役場留置は禁止されている。
更に、一般に、刑に処せられた者は、その刑の執行を受け終わり、あるいは執行の免除を受けてから一定期間経過するか、執行猶予の判決であれば、その期間が経過した時点で、その刑の言渡しは効力を失うこととされる。他方、少年の場合には、刑の執行を受け終わり、あるいは執行の免除を受けた場合には、人の資格に関する法令の適用について、その時点から将来に向かって刑の言渡しを受けなかったものとみなされ、また、執行猶予の判決であれば、猶予が取り消されない限り、猶予期間中であっても、同様に取り扱われるなど、資格の制限が小さくなるように配慮されている。このほか、選挙権、被選挙権についても、公民権停止の効果が生じない場合があるなど有利な扱いがなされている。
257. 我が国には、非行少年の鑑別機関としての少年鑑別所と犯罪を犯した少年のための矯正機関としての少年院及び少年刑務所がある。これらの少年を収容している矯正施設においては、少年の健全な育成を期するとする少年法の目的に沿って、人の尊厳及び価値を尊重する意識の促進も、少年の健全な育成の内容として十分考慮に入れ、収容されている者の処遇を実施している。
少年鑑別所
258. 少年鑑別所は、家庭裁判所の観護措置の決定により送致された少年を収容するとともに、家庭裁判所の行う少年に対する調査及び審判並びに保護処分の執行に資するため、医学、心理学、教育学、社会学等の専門的知識に基づいて少年の資質の鑑別を行う施設である。
少年院
259. 少年院は、家庭裁判所において少年院送致の保護処分に付された少年を収容し、これに矯正教育を行う施設であり、初等、中等、特別及び医療と異なる少年院が設けられ、短期(一般及び特修)及び長期の処遇課程に分かれている。少年院では、在院者を社会生活に適応させるため、その自覚に訴え、規律ある生活の下に、矯正教育として教科並びに職業の補導、適当な訓練及び医療を授けるものとされており、形式的な年齢と共に、それぞれの対象者の実質的な心身の発達の状況等を考慮しながら、その者が社会生活に適応し、社会において建設的な役割を担うことを促進するために必要な生活指導、教科教育、職業補導、医療措置等の処遇を実施している。更に、集団生活を通じて、他の者の人権及び基本的自由を尊重しながら、社会生活における対人関係を調整していくことや社会生活における自己の役割を洞察させる指導等も併せて実施されており、人の尊厳及び価値についての意識の促進に資する取扱いをしている。なお、少年院の長は、在院者に対する矯正教育のうち、各教科を修了した者に対し、修了の事実を証する証明書を発行することができ、右証明書は学校教育法により設置された各学校と対応する教科課程について、各学校の長が授与する卒業証書その他の証書と同一の効力を有する。
少年刑務所
260. 刑事裁判において懲役又は禁錮の実刑の言渡しを受けた少年は、刑の執行のため、原則として少年刑務所に収容される。
これらに収容された者に対しても、少年院と同様に、それぞれの対象者の年齢、実質的な心身の発達の状況、資質等を考慮に入れて、その対象者が社会生活に適応するために必要な生活指導、教科教育、職業訓練、医療措置等の処遇を行い、人の尊厳及び価値についての意識の促進に資する取扱いをしている。
保護観察
261. また、少年に対する保護観察としては、家庭裁判所の決定により保護観察に付された者、少年院からの仮退院を許可された者、少年刑務所からの仮出獄を許された少年及び少年の保護観察付執行猶予者に対する保護観察がある。これらの保護観察は、保護観察所の保護観察官及び保護司によって、少年が遵守事項を遵守するよう指導監督するとともに、必要な援助をすることにより実施され、非行の傾向等を考慮し、例えば家庭裁判所の決定により保護観察に付された少年に対しては、標準的に実施される保護観察のほか、短期保護観察、交通事犯関係者に対する保護観察及び交通短期保護観察といった複数のメニューを設けるといった配慮がなされている。また、遵守事項の設定や保護観察の実施(生活指導、交友関係指導、就職指導、家庭環境調整、学校関係調整等)に当たっては、対象少年の年齢、経歴、心身の状況、家庭、交友その他の環境等を十分斟酌しつつ、対象少年が社会の順良な一員となり、社会において建設的な役割を担うことを促進するために最もふさわしい方法が採られている。また、少年の健全な育成を期するとする少年法の目的に沿って、人の尊厳及び価値を尊重する意識の促進も少年の健全な育成の内容として十分に考慮に入れ、保護観察対象者の処遇を行っている。
遡及処罰の禁止
262. 憲法は、何人も、実行の時に適法であった行為については、刑事上の責任を問われない旨規定し、遡及処罰の禁止を定めている。少年審判手続においては、少年審判の対象となる少年のうち犯罪少年(14歳以上20歳末満で罪を犯した少年)及び触法少年(14歳末満で刑罰法令に触れる行為をした少年)については、その前提となる行為は、その実行の時に犯罪構成要件に該当する違法な行為である。
無罪推定
263. 我が国の憲法、刑事訴訟法等の現行法令上明文の規定は存しないが、無罪推定は刑事裁判の基本原理とされており、検察官が公訴事実について挙証責任を負い、裁判官は、合理的な疑いを入れない程度に証明された、と認める場合にのみ有罪の判決をしている。
少年審判手続においては、職権主義的審問構造(256.(ii)参照)を採用している。したがって、非行事実について挙証責任を負う検察官は存在しないが、少年が、非行事実の不存在について挙証責任を負う訳ではなく、裁判官が、その取調べた証拠により、非行事実の存在の心証を得た場合に限り、保護処分に付することができることとされており、その心証の程度は、合理的な疑いを入れない程度に達することを必要とするのが一般的理解であって、刑事手続における無罪推定と同様の原則を採っている。
罪の告知及び法的その他の援助
264. 罪の告知については、刑事訴訟法が、公訴の提起は公訴事実及び罪名等を記載した起訴状を提出してこれをしなければならない旨規定している(同法第256条)ほか、裁判所は公訴の提起があったときは、遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならないと規定している(同法第271条第1頃)ことから、被告人は起訴状の送達を受けることにより、いかなる犯罪事実により訴追されているのかを知ることができる。
少年審判手続においては、審判開始前の家庭裁判所調査官による調査の段階でも罪の告知を行い、また、少年審判開始決定があった場合には、第1回審判期日に家庭裁判所の裁判官から告知する運用が定着している。
法的その他適当な援助としては、刑事訴訟法が、被疑者又は被告人の弁護人選任権を認めている。また、少年法は、児童及びその保護者に附添人選任権を認めているほか、少年審判については、保護者の立会いの下に審判が行われることとなっている。
公平な審理
265. 我が国憲法は、独立かつ公正な裁判を確保するため、「すべて裁判官はその良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」(憲法第76条第3項)と規定し、更に、裁判官の身分を保障している(憲法第78条、第79条、第80条)。また、刑事訴訟法は、被告人、被害者と一定の身分関係を有するなど、審理の公平につき疑いを生ずべき事由のある裁判官等が職務の執行から除斥される旨定めている。
少年審判に関しては、少年審判規則により、「裁判官は、審判の公平について疑を生ずべき事由があると思料するときは、職務の執行を避けなければならない。」(第32条)とされており、また、運用上、少年及びその附添人は裁判官の回避を求める申立てをなしうる。更に、審判の公平につき、疑いを生ずべき事由のある裁判官が関与してなされた保護処分決定に対しては、少年法に基づく抗告が認められている。
供述又は有罪の自白の強要
266. 憲法は、公務員による拷問及び不利益供述の強要を禁止し、強制、拷問、脅迫等による自白の証拠能力が否定される旨規定するとともに、刑事訴訟法は、被疑者、被告人の供述拒否権を明記し、取調べを行う警察官、検察官、審理を行う裁判官に、被疑者、被告人に対する供述拒否権の告知を義務づけ、強制、拷問、脅迫等による自白その他任意にされたものでない疑いのある自白の証拠能力を否定している。上記の憲法の規定は、少年審判手続においても尊重されている。
警察における取調べについては、犯罪捜査規範により強制、拷問、脅迫など任意性について疑念をいだかれるような方法を禁止するとともに、特に、少年の場合は、少年の健全な育成を期する精神を基本に、他人の耳目に触れないようにし、取調べの言動に注意する等温情と理解をもって当たり、その心情を傷つけないように努めなければならないことを規定し、少年の特性が考慮されている。
反対尋問、証人出席及び証人尋問
267. 刑事訴訟手続については、憲法第37条第2項が「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する」と規定しており、これを受けて刑事訴訟法は、被告人又は弁護人の証人尋問請求権、証人尋問の立会権及び証人尋問権を保障するとともに、反対尋問を経ない供述調書の証拠能力を制限している。
少年法は、刑事訴訟法中の証人尋問に関する規定は保護事件の性質に反しない限り、少年審判にも準用される旨定めており、少年審判においても少年の証人尋問権及び反対尋問権は十分保障されている。
また、証人出席を求めること等について、少年法は職権主義的審問構造(256.(ii)参照)をとっていることから、少年及び附添人からの直接的な証人尋問請求権に関する規定はないが、少年及び附添人は、証人尋問に関し、裁判官の職権発動を求めることができる上、一定の場合には家庭裁判所に職権証拠調義務が生じ、裁判官が合理的な理由なく証人を尋問せず、それが保護処分の決定に影響を及ぼす場合には抗告理由となる。
上訴
268. 刑事訴訟法は、被告人の上訴権を保障し、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認、法令の適用の誤り、訴訟手続の法令違反や量刑不当等の事由がある場合には、第一審の判決について高等裁判所に控訴することができると定めるとともに、憲法違反、最高裁判所の判例違反等の事由がある場合には、高等裁判所がした第一審又は第二審の判決について最高裁判所に上告することができる旨定めている。
少年法は、保護処分の決定に対し、法令の違反、重大な事実の誤認、処分の著しい不当を理由とする抗告を認めており、また、憲法違反、最高裁の判例違反等を理由とする再抗告をも認めている。
通訳の援助
269. 我が国裁判所においては、日本語を用いることとされており、刑事訴訟法上、刑事裁判において、国語に通じない者に陳述させる場合には、通訳人に通訳させなければならないとされ、その場合、通訳人は、裁判所に対し、旅費、日当、通訳料等の請求ができ、その支払いは国庫からなされる。また、少年法上、少年の保護事件については、家庭裁判所は通訳を命ずることができるとされ、刑事訴訟法の通訳に関する規定が準用されるとしている。なお、最高裁判所の判例は、公判廷で被告人に供述を求め、また、証人等を尋問する場合のほか、被告人に対し裁判等の趣旨を了解させるためにも通訳人を用いなければならないとしており、実務では、国語に通じない被告人のいる法廷ではすべて通訳人が用いられている。
プライバシーの尊重
270. 刑事訴訟法は、基本的人権の保障を全うしつつ、公共の福祉の維持と事案の真相を明らかにすることを目的とする旨規定し、また、少年審判手続については、手続は非公開とされ、記録の閲覧・謄写について一定の制限が課されている。更に、少年法は、家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならないと規定している。実際にも、家庭裁判所では、情報開示という社会的要請に配慮しつつも、少年事件の秘密性の保持を図るよう努めている。例えば、少年及び被害者が特定してしまうような表現は避ける、少年の情操を保護し、その更生の妨げにならないようにするために、動機や犯行経緯、態様などは簡潔で抽象的な表現にとどめる等の配慮をしており、これらの措置を通じて、少年のプライバシーの尊重に努めているところである。
271. 観護措置として少年鑑別所に収容された者については、明るく静かな環境に置くように努め、入所当初はなるべく単独室に収容することとしている。共同室に収容する場合には、その者の性格、経歴、入所度数、年齢等を斟酌して同一室に収容する者を決定し、トイレを区画して遮蔽する等の配慮をしている。また、衣類、寝具及び日常生活に必要な物品は貸与又は給与されるが、規律及び秩序の維持上又は衛生上問題がないものについては、自弁の物品の使用が認められる等、居室を生活の場所としてふさわしいものとする種々の配慮をし、収容されている者のプライバシーを十分に尊重した取扱いに努めている。
272. また、拘置監に勾留された者に対しても、少年鑑別所と同様な種々の配慮をし、収容されている者のプライバシーを十分に尊重した取扱いに努めている。
司法上の手続に代わる措置
273. 少年審判手続開始後の措置としては、少年法に基づき、児童福祉法の規定による措置を相当と認める場合に事件を都道府県知事又は児童相談所長に送致した上で、児童を指導し、又は施設に入所させる等の措置をとっている。
D. あらゆる形態の抑留、拘禁又は保護の下における収容を含む自由を奪われた児童(第37条(b),(c),(d))
274. 我が国は、憲法第31条が、法律の定める手続によらなければ生命、自由を奪われない旨、適正手続の保障一般について規定しているほか、同第33条は、現行犯逮捕の場合を除き、令状によらなければ逮捕されない旨、また、同第34条は、正当な理由を直ちに告げられなければ拘禁されない旨、それぞれ規定している。これを受けて刑事訴訟法は、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある場合に、裁判官があらかじめ発した逮捕状により行う通常逮捕、現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者を逮捕する現行犯逮捕、一定の重罪事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、急速を要し事前に逮捕状を求めることができない場合に認められる緊急逮捕の手続を規定している。
275. 特に、少年(刑事責任を認められる14~19歳)の逮捕権の運用に関しては、犯罪捜査規範や少年警察活動要綱上、なるべく身柄拘束を避け、やむを得ず逮捕、連行又は護送する場合には、その時期及び方法について特に慎重な注意をしなければならない旨を規定し、罪を犯した少年の年齢、性格、非行歴、犯罪の態様等に配慮して、逮捕権を運用している。
276. また、捜査段階の少年の身柄の拘束については、やむを得ない場合でなければ勾留することはできず、勾留する場合には少年鑑別所を勾留場所とすることができ、勾留に代えて観護措置をとることができるなど、少年の特質が考慮されている。また、少年の保護手続において、少年を少年鑑別所に送致する場合は、家庭裁判所の決定によることとされ、その収容期間は通じて4週間を越えることはできず、また、その間の変更・取消が可能となっている。
277. 我が国では、少年の身体の自由が奪われる場合については、例えば少年法上、少年の被疑者又は被告人は、他の被疑者又は被告人と分離して、なるべく、その接触を避けなければならない。また、拘置監においては、20歳末満の少年を成人(20歳以上)と分離しなければならないこととなっており、懲役又は禁錮の言渡しを受けた少年に対しては、特に設けた監獄又は監獄内の特に分界を設けた場所において刑を執行することとされている。
また、警察が逮捕等した少年の留置については、少年警察活動要綱において、成人被疑者との分離収容を規定し、構造上も少年と成人の留置室を隔壁等で分離して設けることとしているほか、留置場内の処遇についても、入浴、運動、出し入れ等の時間を別にするなど、少年と成人が互いに接触しないように配慮している。
278. 自由を奪われた児童の家族との接触する権利については、128.参照。
279. 刑事訴訟法は、被疑者又は被告人の弁護人選任権と、身体を拘束されている被疑者又は被告人の弁護人との面会の権利を保障している。また、少年法第10条第1項は、児童及びその保護者に附添人選任権を認めており、少年審判手続の過程で児童の自由がはく奪される場合においても、附添人を選任し、附添人と連絡をとることが認められている。少年鑑別所においては、父母との接見が保障されているのみならず、附添人又は附添人となろうとする弁護士と立会人なくして接見することができる。
280. 自由のはく奪の合法性を争い、その決定を速やかに受ける権利については、268.で言及したほか、刑事訴訟法上、裁判官あるいは裁判所が勾留に関して行った裁判に対しては、不服申立手段がそれぞれ認められ、更に、その結果に対して不服がある者は、憲法違反、判例違反を理由として最高裁判所に対し特別抗告できる。
なお、観護措置には抗告が認められていないが、これは、刑事手続における勾留とは異なり、家庭裁判所において保護処分を行う前提としての少年の鑑別の必要性という側面を有する中間処分であることを理由とする。しかし、観護措置にあっても、職権による取消し、変更が規定され、実務上、観護措置を取り消すよう職権発動を促す申立てに対しては、速やかに決定がなされる取扱いであることから、実質的には、他の自由のはく奪に対するのと同様の権利が保障されている。
また、この他にも、人身保護法が、法律上正当な手続によらないで身体の自由を拘束されている者は、同法の定めるところによりその救済を請求することができる旨規定している。
E. 少年に対する判決、特に死刑及び終身刑の禁止 (第37条(a))
281. 我が国の少年法第51条は、「罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科し、無期刑をもつて処断すべきときは、10年以上15年以下において、懲役又は禁錮を科する。」と規定している。無期刑についても、言渡しのとき、20歳末満であれば7年の経過で、20歳以上であれば10年の経過により仮出獄が可能であり、我が国の少年司法上18歳末満の者について、死刑又は釈放の可能性がない終身刑が科されることはない。
F. 身体的及び心理的な回復及び社会復帰 (第39条)
282. 放置又は虐待等を受けた児童の身体的及び心理的回復のための措置としては、児童福祉法に基づき、保護者に看護させることが不適当であると認める児童を発見した者は児童相談所に通告をしなければならないとされているほか、児童相談所においては、児童福祉施設入所や家庭への復帰を行うまでの間一時保護等の対応を行うとともに、個々の児童や家庭の状況に応じて、乳児院・養護施設への入所措置等をとることとしている。
283. 警察では、1996年に被害少年の保護に関することを少年警察の重要な任務として少年課の所掌事務の中に明記し、強姦、強制わいせつその他の性犯罪やいじめなど、心身に与えるダメージの大きな犯罪等の被害少年を対象に、少年相談専門職員、婦人補導員による継続的なカウンセリング活動や保護者、関係者等と連携しての支援活動を推進することとしている。
284. 生命又は身体に対する危険や福祉犯罪の被害にあうおそれのある家出少年については、全国警察に手配して早期発見に努めているほか、児童が精神的に不安定となる進学・就職時期や解放感が強くなる夏休みなど家出の増加が予想される時期には、特に家出少年を重点として発見保護括動を強化している。
更に、家出人の迅速な手配と早期発見保護を図るため、現在「家出人・行方不明者発見支援システム」を構築中で、1997年度からの運用開始を目指しており、本システムの運用を開始した場合は、一層迅速な発見保護活動が可能となり、家出に起因する少年の被害等の早期防止と生活状態の早期回復措置を講じることができる。1993、94年において、警察が発見保護した家出少年は、資料27のとおり。
区分 | 1993年 | 1994年 |
---|---|---|
警察が発見した家出少年 | 28,302 | 27,377 |
G. 経済的な搾取 (含む児童の労働) (第32条)
285. 我が国においては、憲法第27条第3頃が「児童は、これを酷使してはならない。」と規定しているほか、以下の法令により、児童をその労働において保護している。
286. 労働基準法は、以下のとおり賃金、労働時間等の労働条件について規定しているほか、児童の安全、衛生及び福祉の見地から、危険有害と認められる業務等に児童を就かせることを禁止している。これら労働基準の規定については、労働基準監督機関の監督指導により法の履行確保を図るとともに、使用者に法令の周知義務が課されており、労働者への周知が図られている。また、労働省婦人少年室等により、広報、周知が行われているほか、通達により、児童の使用許可にかかる教職員、生徒及びその親権者に対する周知について、教育委員会は、中学校長を指導する者とされている。更に、学校長は、就労によって学業又は健康に悪い影響を及ぼす恐れがあると認められる者については、就労を差し控えるよう指導するものとされている。
(a) 最低年齢
44.参照
(b) 労働時間
労働基準法第60条では、変形労働時間制、時間外・休日労働、労働時間及び休憩の特例の規定は、満18歳に満たない者については適用を受けない旨規定している。また、行政官庁の許可を得て使用することのできる満15歳に満たない児童については、修学時間を通算して1週間につき40時間、1日につき7時間を超えて労働させてはならないこととなっている。
(c) 労働契約
労働基準法第58条では、労働契約が未成年者に不利であると認める場合、親権者、後見人又は行政官庁は、将来に向かって契約を解除できる旨規定している。
(d) 賃金
労働基準法第59条では、未成年者は、独立して賃金を請求することができ、親権者又は後見人は、未成年者の賃金を代わって受け取ってはならない旨規定している。
(e) 深夜業
労働基準法第61条では、満18歳に満たない者の深夜業(午後10時から午前5時まで)を原則として禁止している。
(f) 安全衛生
労働基準法第62条及び63条では、満18歳に満たない者を危険有害業務及び坑内労働に就かせることを禁止している。
287. また、児童福祉法は、満15歳に満たない児童に対し、道路その他の場所で歌謡、遊芸を業務としてさせる行為、酒席に侍する行為を業務としてさせる行為を禁ずることにより、児童を有害な行為から保護している。
288. このほか、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律は、風俗営業を営む者に対して「営業所で18歳未満の者に客の接待をさせ、又は客の相手となってダンスをさせること」及び「営業所で午後10時から翌日の日出時までの時間において18歳末満の者を客に接する業務に従事させること」を禁止するとともに、風俗関連営業を営む者に対して「営業所で18歳末満の者を客に接する業務に従事させること」を禁ずるなど少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止している。
289. 警察では、犯罪行為のうち、少年を虐待し、酷使し、その他少年の福祉を害する犯罪を福祉犯として捉え、これらに該当する禁止条項をもつ児童福祉法、労働基準法、職業安定法、売春防止法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等23法令を活用した取締りを行っている。特に、少年の有害な仕事からの保護については、上記に述べた労働基準法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律などを活用した継続的な取締りを行い、危険な業務や性を売り物とする営業に従事するなど有害な環境下に置かれた少年の保護活動を行うとともに、これらにより被害にあった少年に対し、心身の痛手を軽減し、早期立ち直りを図る為、婦人補導員等による相談活動を通じたアフターケアを実施するなどの措置を講じている。
区分 | 1993年 | 1994年 | 1995年 |
---|---|---|---|
労働基準法 | 496 | 411 | 330 |
風俗営業適正化法 | 953 | 1,100 | 1,068 |
(警察庁調べ)
規定 | 罰則 |
---|---|
最低年齢(労働基準法第56条)満18歳未満の者の坑内労働の禁止 (労働基準法第63条) | 1年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
労働時間(労働基準法第32条)休日(労働基準法第35条)満18歳未満の者の危険有害業務の就業制限 (労働基準法第62条) | 6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
未成年者の労働契約(労働基準法第58条) | 30万円以下の罰金 |
満15歳に満たない児童に対し、酒席に侍する行為を業務としてさせる行為の禁止(児童福祉法第1項第5号) | 1年以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
風俗営業の営業所において、18歳未満の者に客の接待をさせ、又は客の相手となって、ダンスをさせること、午後10時から翌日日出時までの時間において18歳未満の者を客に接する業務に従事させることを禁止(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第22条第2号及び「3号) | 6ヶ月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は併科 |
H. 薬物乱用 (第33条)
290. 我が国は、この分野における国際条約である1961年の麻薬に関する単一条約、1961年の麻薬に関する単一条約を改正する議定書、向精神薬に関する条約、麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約を締結しており、国際的なレベルにおける薬物の乱用、不正取引の防止に積極的に取り組んでいる。また、日米包括経済協議のひとつの柱として設立された地球的規模の課題に日米共同で対処するための枠組みである「コモン・アジェンダ」においても、麻薬問題に対する取組みが協力分野として取り上げられており、法執行、需要削減、薬品管理及び代替開発プログラムに関する協力を行っている。
291. 国内では、刑法にあへん煙に関する罪が規定されているほか、麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、覚せい剤取締法、あへん法及び国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例に関する法律(以下「麻薬特例法」という)の薬物五法により、医療や学術研究目的での正規の麻薬、向精神薬や原料物質の流通規制や不正取引等の規制が行われており、これに違反した者を罰することにより不正事犯を防止している。
麻薬特例法は、マネーローンダリング罪等の新たな処罰、不法収益の没収、国際共助、コントロールド・デリバリーの実施等のために1991年に新たに制定したものであり、また、麻薬、向精神薬原料の規制、既存の薬物犯罪の国外犯処罰等のために従前の薬物四法を改正し、いずれも1992年から施行している。これらの規定の適正な運用により、薬物犯罪に対して効果的な取締りを行い、児童への薬物の浸透を防いでいる。
292. しかしながら、現状としては、覚せい剤、大麻等の薬物乱用非行が多発しており、また、暴力団が活動資金獲得のため、これら乱用少年に対して薬物を密売するなど、非行を助長している状況にある。また、我が国においては、国際条約に定義された麻薬等のほか、特にシンナー等有機溶剤の乱用による非行が多発しており、これについても、暴力団の活動資金獲得を目的とした密売行為等が少年の乱用を助長している。1995年に覚せい剤事犯で補導された犯罪少年は1,079人、大麻事犯で補導された犯罪少年は189人、シンナー等の乱用で補導された犯罪少年は5,456人で、覚せい剤事犯による補導人員は、1989年以降で最高を記録した。
学識別/区分 | 総数(人) | 学生生徒 | 有職少年 | 無職少年 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
計 | 中学生 | 高校生 | その他 | ||||
覚せい剤事犯 | 1,079 | 148 | 19 | 92 | 37 | 360 | 571 |
大麻事犯 | 189 | 59 | 3 | 32 | 24 | 62 | 68 |
シンナー等の乱用 | 5,456 | 1,518 | 568 | 799 | 151 | 1,959 | 1,979 |
(警察庁調べ)
93. このため、警察では、薬物乱用少年の補導活動と密売事犯の取締りを徹底するとともに、(i)諸外国の薬物取締機関等と密接に連携した薬物密輸取締りによる供給ルートの遮断対策、(ii)シンナー等取扱業者に対する販売の自主規制等の要請による供給遮断対策、(iii)専門の相談担当職員による乱用少年への適切な指導・助言、(iv)補導した乱用少年に対する薬物乱用の有害性・危険性の教示等による再非行防止、(v)地域・学校での「薬物乱用防止教室」の実施やパンフレット、テレビ、ラジオ等の各種媒体を活用した広報啓発など、薬物乱用防止対策を積極的に推進している。
また、薬物の乱用を許さない社会づくりのために、各都道府県の覚せい剤乱用防止推進員や(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター、防犯協会等を通じた啓発活動の推進に取り組んでいる。特に青少年を中心に予防啓発の徹底を図るため、啓発用キャラバン・カーにより中学校等に出向き、積極的に啓発活動を行うこととしている。
294. 更に、中学校、高等学校においては、従来より、教科「保健体育」や特別活動において、麻薬・覚せい剤を含む薬物乱用の防止にかかる指導を行ってきているほか、1989年に改訂した学習指導要領においては、この問題の重要性にかんがみ、中学校及び高等学校の教科「保健体育」において、薬物乱用と健康に関する内容を項目として取り上げるなど指導の充実を図っている。この他にも、教師用指導資料を作成・配布するとともに、学校保健担当者に対する研修会等でこれらの問題について取り上げ、教職員の意識の啓発を通じて児童生徒への指導の徹底を図っている。
I. 性的搾取及び性的虐待 (第34条)
295. 我が国では、次のような法令に基づき、児童を性的搾取及び性的虐待から保護している。
(i) 不法な性的な行為への勧誘・強制の防止については、児童福祉法が児童に淫行をさせる行為を禁じているほか、刑法が強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ、準強姦、強制わいせつ等致死傷及び淫行勧誘等の各行為を処罰の対象としている。
(ii) 性的な業における搾取的使用の防止については、売春防止法が売春を禁止し、周旋等、困惑等による売春、売春をさせる契約、場所の提供、売春をさせる業、資金等の提供を処罰の対象としている。また、児童福祉法が児童に淫行させる行為及び児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもって、これを支配下に置く行為を処罰の対象としており、性的な業への使用を禁じている。
(iii) わいせつな演技及び物における搾取的使用の防止については、刑法が公然わいせつ、わいせつ物頒布等の行為を処罰しているほか、児童福祉法が児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもって、これを自己の支配下に置く行為を処罰している。例えば、児童をポルノ興行や出版物等に出演させる行為については、児童福祉法の同規定により、処罰の対象となっている。
(iv) 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律では、専ら、性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態を見せる興行等を経営する者がその営業所において18歳末満の者を客に接する業務に従事させることを禁止し、これに違反したものを処罰することとしている。
(v) また、各都道府県が定める青少年の保護育成に関する条例(いわゆる「青少年保護育成条例」)は、青少年に対する淫行又は猥褻行為等の禁止を規定しており、それぞれの地域の実情に基づき制定されている。政府としても、本件に関する適当な国内の措置として、都道府県が定める青少年保護育成条例の適正な運用、整備等による規制措置の徹底を促進している。
296. 警察では、児童の性的搾取及び性的虐待を含め、児童の福祉を害する犯罪を福祉犯として捉え、継続的な取締りを行っており、危険な業務や性を売り物とする営業に従事するなど有害な環境下に置かれた児童の保護活動を行うとともに、これらにより被害にあった児童に対し、心身の痛手を軽減し、早期立ち直りを図るため、婦人補導員等による相談活動を通じたアフターケアを実施するなどの措置を講じている。また、児童福祉分野において被害にあった児童に対しては、児童相談所において児童・家庭に対する相談、指導を実施している。
297. 近年、来日外国人の増加に伴い、東南アジア諸国等を中心とした外国人の児童がこの種有害業務などに不法就労させられている場合があるが、1996年より、新たに出入国管理及び難民認定法第73条の2に規定する不法就労助長罪を、少年を虐待し、酷使し、その他少年の福祉を害する犯罪である「福祉犯」の範疇に入れ、外国人児童に対する保護活動も強化している。
区分 | 1993年 | 1994年 | 1995年 |
---|---|---|---|
児童福祉法(淫行させる行為) | 274 | 290 | 368 |
売春防止法 | 255 | 381 | 241 |
青少年保護育成条例(淫行) | 2,174 | 2,453 | 2,761 |
(警察庁調べ)
298. なお、近年、電話回線を利用して不特定男女間の通信を媒介するテレホンクラブ、ツーショットダイヤル営業等が増加しており、女子児童が興味本位から安易に電話し淫行等の性的被害を受けるなどの事案が多発している。このため、(i)警察によるテレホンクラブ営業等に係る福祉犯及び広告物の違反掲示など営業に起因する各種違反行為の取締りの強化、(ii)条例によるテレホンクラブ等の営業所設置場所、利用カード自動販売機の設置場所、青少年に対する勧誘活動等に関する規制の実施、(iii)地域における環境浄化活動として、関係業界への営業自粛要請、関係機関・団体及び地域住民と連携した広告物及び利用カード販売機の撤去活動並びにテレホンクラブ営業等に係る性的被害についての広報啓発活動等の諸施策による対応がなされている。また、警察では、性的被害を受けた女子児童の保護にも取り組んでいる。
299. 我が国は、世界各地において児童が性産業等に送り込まれ性的被害に遭っているといった事態についても憂慮している。我が国は、人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約及び猥褻刊行物ノ流布及取引禁止ノ為ノ国際条約を締結しているほか、我が国刑法は、強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ、準強姦、強制わいせつ等致死傷及び淫行勧誘等の罪を日本国外で犯した日本国民に対しても適用できる旨規定しており、また、これらの違反行為と同様な犯罪についても、外国との間で捜査共助、司法共助、情報交換を行っているところである。
300. また、我が国では、海外における日本人旅行者によるいわゆるセックスツアーの防止のために、旅行業法において、旅行業者等又はその代理人、使用人その他の従業者は、旅行者に対し、旅行地において施行されている法令に違反する行為を行うことをあっせんし、又はその行為を行うことに関し便宜を供することを禁止(第13条第3項第1号)しており、日本人海外旅行者の不健全な行動に関与したことが明らかな旅行業者については、当該旅行業者名、関与の内容等の概要を公表することとしているほか、我が国の旅行業協会を通じ、日本人旅行者に対する海外旅行の健全化に向けて指導、啓発を行っている。
各法令の規定(条文) | 罰則 |
---|---|
強制わいせつ(刑法第176条)準強制わいせつ(刑法第178条) | 6月以上7年以下の懲役 |
強姦(刑法第177条)準強姦(刑法第178条) | 2年以上の有期懲役 |
公然わいせつ(刑法第174条) | 6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 |
わいせつ物頒布等(刑法第175条) | 2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料 |
児童に淫行させる行為(児童福祉法第34条第1項第6号) | 10年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
有害な影響を与える行為をさせる目的をもって、これを自己の支配下に置く行為(児童福祉法第34条第1項第9号) | 1年以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
売春の勧誘等(売春防止法第5条) | 6月以下の懲役又は1万円以下の罰金 |
売春の周旋等(売春防止法第6条) | 2年以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
困惑等による売春(売春防止法第7条)売春させる契約(売春防止法第10条)売春の場所の提供(売春防止法第11条) | 3年以下の懲役又は10万円以下の罰金 |
売春させる業(売春防止法第12条) | 10年以下の懲役及び30万円以下の罰金 |
J. 他の形態の搾取 (第36条)
301. 労働面又は性的な側面以外にも、例えば、児童を見せ物にする等、児童の福祉に有害と考えられる行為を児童福祉法により禁じており、右行為には、罰則が課せられている。また、児童の保護が必要な場合には、児童相談所が一時保護をすることになる。
302. 我が国では、1992年3月1日に施行された暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律において、都道府県公安委員会が指定した暴力団の構成員による少年に対する加入強要・離脱妨害・入れ墨を受けることの強要(1993年の一部改正で追加)等の行為を禁止するとともに、都道府県公安委員会がこれらの強要行為等に対し中止等を命ずることができる権限を規定している。これらの規定を適用して、16歳の少年2名に指定暴力団への加入を勧誘した指定暴力団員に対する中止命令(1995年10月:北海道)や指定暴力団からの脱退を申し入れた17歳の少年に妨害行為をした指定暴力団員に対する中止命令(1995年10月:神奈川県)などを実施しており、暴力団からの少年の保護を図っている。
K. 売買、取引及び誘拐 (第35条)
303. 刑法は、誘拐について、未成年者の略取・誘拐を処罰することとしているほか、売買・取引については、国外移送を目的とする人身売買及び被拐取者・被売者の国外移送を処罰することとしている。また、児童福祉法は、刑罰法令に触れる行為をなす虞のある者に、情を知って、児童を引き渡す行為及び当該引渡し行為のなされる虞れがあるの情を知って、他人に児童を引き渡す行為を禁じ(児童福祉法第34条1項第7号)、これに違反した者を処罰することとしている。この児童福祉法の規定に基づき、1984年から1994年までの10年間で有罪となった者は、計263人となっている。
304. 更に、出入国管管理及び難民認定法により、出入国の公正な管理を図ることにより、児童を不法な国外移送から保護している。
305. そのほか、我が国は人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約を締結しており、売春を目的とする人身売買に関し、同条約に掲げる違反行為について締結国間の司法共助、情報交換を行い得る体制をとっている。
L. 少数民族又は原住民集団に属する児童 (第30条)
306. 我が国憲法は、人種等に基づく差別を禁じているほか、すべての国民に対し表現、思想、良心及び宗教の自由を保障している。したがって、この条約第30条にいう少数民族又は原住民集団に属する児童についてもすべて、憲法の下での平等を保障された国民として、自己の文化を享有し、自己の宗教を実践し、又は自己の言語を使用する権利が保障されている。