第一回報告書審査 子どもの権利委員会からの質問に対する回答

1.世界人権会議の宣言及び行動計画で採択された勧告に照らし、政府は児童の権利に関する条約の留保及び解釈宣言撤回の可能性につき、検討を行ったか。


(回答)


 1993年6月に開催された世界人権会議の約1年後の1994年4月に、我が国はこの条約を批准した。その際、第37条(C)に関し留保を付し、第9条1及び第10条1に関し解釈宣言を行った。1996年5月の本件報告書提出にあたり、政府部内において留保及び解釈宣言の見直しの可能性について検討したが、現在のところ以下の通り撤回することは考えていない。


1.我が国は、報告書パラ13のとおり、「児童の権利に関する条約第37条(c)の適用に当たり、日本国においては、自由を奪われた者に関しては、国内法上原則として20歳未満の者と20歳以上の者とを分離することとされていることにかんがみ、この規定の第2文にいう『自由を奪われたすべての児童は、成人とは分離されないことがその最善の利益であると認められない限り成人とは分離させる』に拘束されない権利を留保」している。


 我が国の少年法においては、20歳未満の者を「少年」として取り扱うこととし(少年法第2条)、自由を奪われた者は基本的に20歳未満の者と20歳以上の者を分離することとされている(同法第49条及び第56条)。これはこの条約が18歳未満の者を「児童」として手厚い保護を加えることとしているのをさらに一歩進めて、20歳未満の者までも広く保護の対象とする制度であり、「児童」という若年者をそれ以外の年長者から分離することにより有害な影響から保護するという条約第37条(C)の規定の趣旨及び目的とも合致するものである


2.また、この条約第9条1に関し、当該規定は、締約国に対し、父母による児童の虐待又は父母の別居等の特定の場合において、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として児童の最善の利益のために必要であると決定する場合を除き、児童がその父母の意思に反して父母から分離されないことを確保するよう義務づけるものであり、児童又は父母の退去強制、抑留及び拘禁等この条約第9条4において国がとり得る措置として認められている措置により、結果的に親子の分離が生ずることを妨げるものではないと解される。


 更に、この条約第10条1に関しても、当該規定にいう「積極的」とは、出入国の申請を原則的に拒否するような消極的な取扱いを禁ずる趣旨であり、「人道的」とは、出入国に関する申請の受理から申請を通じた手続きの中で人道的配慮が必要と認める場合は、かかる配慮を行うべきものとの趣旨であり、また、「迅速」とは右手続がいたずらに遅延しないよう取扱いを適正に行うべきことを各々意味すると考えられる。よって「積極的、人道的かつ迅速な方法で取り扱う。」とは、出入国の申請の審査の結果を予断し拘束するものではないと解される。


 しかし、これらの解釈が文言上必ずしも一義的に明確ではないため、以下の解釈宣言を行っている。


 「日本国政府は、児童の権利に関する条約第9条1は、出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではないと解釈するものであることを宣言する。


 日本国政府は、更に、児童の権利に関する条約第10条1に規定される家族の再統合を目的とする締約国への入国または締約国からの出国の申請を「積極的、人道的かつ迅速な方法」で取り扱うとの義務はそのような申請の結果に影響を与えるものではないと解釈するものであることを宣言する。」


2.報告書のパラ12に示されている情報に関し、国内法に対する本条約の位置づけについて敷衍されたい。また、本条約が裁判で取り上げられうるか否か。もし取り上げられうる場合は例を示されたい。


(回答)


我が国の憲法第98条第2項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定しており、我が国が締結し、公布された条約等は国内法としての効力を持つ。我が国の憲法には、我が国が締結した条約と法律との関係についての明文の規定はないが、条約が法律に優位するものと考えられている。


 なお、条約の規定を直接適用し得るか否かについては、当該規定の目的、内容及び文言等を勘案し、具体的場合に応じて判断すべきものとされている。


 法令等について児童の権利条約違反が当事者から主張された裁判例は幾つかあるが、我が国の法令等について、児童の権利条約に違反する旨の判断を示した判例はこれまでのところ無い。


3.国内法の見直し及び国内法と児童の権利に関する条約の条項及び原則との整合性の見直しのための調査が実施されたか否かにつき示されたい。


(回答)


我が国では、条約の批准に当たり、国内法との整合性を確保することとしており、本条約についても、各規定毎にそれに相当する国内法との整合性につき慎重に検討を行った。その結果、報告書のパラ12に記載してあるとおり、本条約の各規定は、第37条(c)を除いては、憲法を始めとする現行国内法によって保障されており国内法との整合性は確保されているとの結論に達した上で、本条約を批准をした(本条約の各規定を確保する国内法の規定については、報告書の各規定の実施に関する記載を参照。)。


 ただし、それは、条約の効果的履行に資する新たな立法措置を妨げるものではなく、例えば、平成9年6月に児童福祉法等の一部を改正する法律が成立したが、その起草の過程においては、本条約の規定との整合性を確保するとともに、児童の最善の利益の確保、児童の意見表明権等本条約の趣旨がより一層効果的に反映されるよう十分に考慮が払われたところである。