法教育コラム

いつかの未来のために(法教育コラム)

第74回 こども六法


日弁連「市民のための法教育委員会」委員
仙台弁護士会「法教育検討特別委員会」委員
神坪浩喜




「こども六法」(山崎聡一郎著 弘文堂)という素敵な本に出会いました。ベストセラーになっておりますので、読んだ方もいるでしょう。本の帯には、「きみを強くする法律の本」「いじめ、虐待に悩んでいるきみへ」「法律はみんなを守るためにある。知っていれば大人に悩みを伝えて解決してもらうのに役立つよ!」と書かれてあります。

刑法や民法、憲法といった条文を前提にしていますが、わかりやすく言葉を置き換えていますし、漢字にはすべてフリガナがつけられて小学生でも読めるようになっています。

例えば、刑法208条暴行罪は「人に乱暴な行いをしたけれども、相手にケガをさせなかった場合は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金か拘留、科料とします。」としています(実際の条文は「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」です)。

動物のイラストがたくさん載せられていて、楽しくページをめくることができます。子ども向けではありますが、立憲主義や罪刑法定主義、契約自由の原則といった原則についても触れられていて、大人が読んでも読み応えのあるものになっています。そして、この本の特徴は、帯の言葉にあるように、いじめられている子どもに、特に読んでもらいたいというメッセージが込められています。

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いじめれらているキミ
いじめに悩んでいるキミ
実は、法律が、キミのことを守ってくれているんだよ。
今、キミが受けているいじめは、刑法で暴行罪という犯罪になるし、民法で不法行為となって、損害賠償が請求できるよ。
いじめは、法律でいけないことと決められているんだ。
そしてキミは悪くない。一人で悩まないで、大人に相談してみよう。
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こんなメッセージが込められています。

著者の山崎さんは、「法教育を通じたいじめ問題解決」をテーマに研究をしている方です。山崎さんは、小学5年から6年にかけて、左手首を骨折するほどの暴力を伴ういじめを受けたのですが、学校内の処理では、加害者生徒の形だけの謝罪であいまいにされ、心にひっかかるものを抱え、でも仕方がないのかなと思っていました。

中学生になってから、学校の図書室にあった六法全書をみて、いじめ加害者がしていたことは、暴行罪や傷害罪にあたると知って、衝撃をうけたそうです。そして、いじめられたときに、法が守ってくれていることを知っていればと思ったそうです。

そこで、過去の自分と同じように、いじめで悩んでいる子どもに、法が守ってくれているということを、伝えたくて、子どもが読める六法の作成を思い立ちました。
「法律はみんなのためのルールなのに、みんなにわかるように書かれていない」 そして、子どもにわかるように書き直された本もない。ならば、自分で子どもが読める法律の本を作ろう!という熱い思いから、この本が作られました。いじめ問題の解決、法律の条文の書き直しという視点からの「法教育」です。「おお!なるほど!」と思いました。

私がやってきた法教育は、法の背景にある価値(正義や公正、個人の尊重、立憲主義、無罪推定原則、適正手続の保障等)を軸に、他者との対話を通じて、多面的なものの見方、考え方を身につけ、自分らしく生きていくことを育むものを目的とするものですが、「法を知り、活用して、自分を守る」という山崎さんの視点も大切なことだと思いました。

それに、現在法教育は、弁護士による出前授業やジュニアロースクール、教員による法教育授業を中心に展開されていますが、この「こども六法」のように、子ども自らが、楽しんで読むことができる法についての本も必要かと思います。

「こども六法」

ぜひ、多くの子ども達に読んでもらいたい本です。