法教育コラム

いつかの未来のために(法教育コラム)

第124回 紛争に巻き込まれないための秘訣

日弁連「市民のための法教育委員会」委員
秋田弁護士会市民のための法教育委員会 委員長
弁護士  高 橋 重 剛


突然ですが、最近、クルマを買いました。弁護士はいつも事務所にいて仕事していると思うかもしれませんが、実際は裁判に出かけたり、相談に出かけたりと、意外に外に出ていることが多いです。しかも、私は、自宅から事務所まで高速道路を往復1時間以上かけて通勤しているので、クルマは生活にも仕事にも必需品です。そんな私がクルマを選ぶのに重視したのは、とにかく安全性でした。


この点、私の選んだクルマは優秀で、高度運転支援システムというのがついています。フロントガラスには3つのカメラがついて、前はもちろん横も見てくれて、急な飛び出しがあっても察知し、勝手に止まってくれるようです。また、高速道路では、自分の走りたい速度を設定してボタンをポンと押せば、アクセルから足を放してもその速度で走っていき、前にクルマがいれば勝手に速度を落としてくれます。このクルマにしてから、事故を起こす気がしませんし、ストレスなく運転できています(もちろん過信はいけません)。


弁護士の仕事は紛争の解決ですが、紛争は交通事故に似ていると私は思います。こちらが注意しても巻き込まれることがありますし、一度、紛争に巻き込まれると、それはとてもしんどいです。


紛争に巻き込まれないようにするためどうするかを考えた時、私は、ふと、クルマについている高度運転支援システムが思い浮かびました。何を言っているんだと言われそうですが、目的地に向けて、常に周囲に気を配りながら、紛争になりそうな場面では、事前にそれを察知し回避してひた走り、目的地に到達する。自分の人生という長い道のりをストレスなく走りたいのは、クルマを運転するのといっしょです。


紛争の可能性を察知し未然に防ぐためには、常に、相手の立場に立って考えることが大事です。相手の立場に立つとは、もっと言えば、相手のことを尊重することだと思います。だれでも自分のことは大事ですし、できれば周りの人からも尊重されたいと思うはずです。このことは、日本国憲法第13条でも「すべて国民は、個人として尊重される。」と規定され、国民の重要な権利であると考えられています。


ただ、ここで重要なのは自分が尊重されなければならないのと同じように、ほかの人のことも、自分が尊重されるように尊重しなければならないということです。これこそ、人生における高度運転支援システムの根幹であり、この思いを胸に抱くことがストレスなく人生を走る秘訣であろうと思うのです。