いつかの未来のために - 法教育コラム
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第46回 「裁判傍聴のススメ」

日弁連「市民のための法教育委員会」委員

鳥取県弁護士会「法教育委員会」委員長

 中永 淳也



鳥取県弁護士会・法教育委員会の法教育のメニューのひとつに、「裁判傍聴会」がある。
もちろん裁判は基本的に誰でも傍聴可能だが、いきなり裁判所に行って法廷の傍聴席に座るというのは結構ハードルが高いし、その手続で何をやっているのかもよく分からない。
そこで、「裁判傍聴会」では、傍聴に適した一回結審の刑事事件をピックアップした上で、参加者が傍聴に入る前に必要な解説をしたり、さらに、傍聴後にも質疑応答の機会を設けるなどして、初心者も裁判手続を理解しやすいような工夫をしている。
ただ、一定の知識やスキルを持ち帰ってもらう出前授業とは異なり、裁判の現場を、そのまま肌で感じ取ってもらうことにこそ大きな意義があるのだと思う。


先日、当会が毎年開催している「夏休み法廷傍聴会」があり、私も、法教育委員の一人として様子を見てきた。


当日集まったのは、子どもたち(小・中学生)と、その保護者たち十数名。


傍聴の対象になった刑事事件は、コンビニでの万引きで、追起訴なしの自白事件である。
裁判手続は滞りなく進み、情状証人の尋問や被告人質問を経て、感極まった(?)被告人が土下座して謝ろうとして裁判長に制止させられるなど、ちょっとした出来事はあったものの、無事に結審した。

傍聴後、子どもたちと話す機会があったので、以下のような話をした。


裁判傍聴

「―今日の裁判を見て、どうでしたか。

テレビや映画でやっている派手な法廷ドラマとは違った様子でしたか。
でもね、ちょっと地味かもしれないけど、こっちが本物なのです。


被告人は、砂を噛むような孤独の中で、どんな生活をしてきたのでしょうか。
万引きをして捕まった瞬間、どんな気持ちだったのでしょう。
今日の裁判で知人の証言を聞きながら、何を感じたのでしょうか。
いろいろ想像すると、法廷ドラマよりも、もっとリアルだと思いませんか。


今日、皆さんに見ていただいたのは、紛れもなく一人の人生です。
ここから、皆さんが、何かひとつでも感じ取ってくれたのであれば、
参加してもらってとても良かったと思います―。」


法廷傍聴会が終わって、蝉の声を聞きながら、事務所への帰り道。
今日の法廷傍聴会で何を学ぶかは、子どもたちの自由。でも、きっと何かを感じとって、ひとつ成長してくれたのだろうと思う。
それとともに、私は弁護士としていくつもの裁判を経てきたけれど、それからどれだけ学び、成長しているのかなと、ふと思った。