いつかの未来のために - 法教育コラム
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第71回 この10年を振り返って


日弁連「市民のための法教育委員会」委員
中弁連「法教育委員会」委員
金沢弁護士会「法教育委員会」委員長
北 村 勇 樹



■ 全国高校生模擬裁判選手権との出会い

私と全国高校生模擬裁判選手権との出会いは、約10年前に遡る。そのとき、私は、法科大学院の大学院生であった。当時、中部北陸大会はまだ開催されておらず、関西大会に出場する高校を決める福井県予選が福井地方裁判所で行われていた。その後、司法修習の修習地が福井に決まり、修習中にも同じく福井県予選を見学する機会に恵まれた。


高校生の気迫溢れる質問、工夫を凝らしたプレゼンテーション・・・他方で、高校生と支援弁護士とが和気あいあいと触れ合っている姿がその会場にはあった。


■ 最初で最後の支援弁護士

司法修習を経て弁護士登録をした後、金沢弁護士会にも法教育委員会が設置され、私はその委員会の委員になった。それまで石川県内から本選手権に出場する高校はなかったが、その年、はじめて中部北陸大会が開催されることとなり、それに合わせて、私の母校も本選手権への参加を表明した。私は、支援弁護士として、母校に出向くことになった。


初出場とはいえ母校の後輩たちに恥ずかしい思いはさせたくない。でも、支援弁護士が介入しすぎて彼ら彼女らの主体性を損なわせては意味がない。そんな葛藤を抱えながらの支援であった。


残り1週間を切り、いよいよ切羽詰まってきた。リハーサルをしても、何年か前に福井の地で見た高校生の姿には遠く及ばない母校の後輩たち。本番は大丈夫だろうかという焦り。ただ、一方で、土壇場で力を発揮するのが母校の校風だという思いもどこかにはあった。


本番当日、裁判所の前で待ち合わせをした。みんな笑顔で焦燥感はない。大丈夫。これまで準備してきたことを存分に発揮してくれるだろうという期待も持てた。


結果的に入賞することは叶わなかったが、福井県予選を勝ち抜いてきた高校にも臆することなく立ち向かい、素晴らしい姿を法廷で披露してくれた。鋭い質問。想定外の返答が返ってきても、その場で冷静に考え、再度組み立てなおす対応力。論理的なプレゼンテーション。かつて見たのと同様の、あるいはそれを上回る高校生の姿がそこにはあった。また、閉会式後の交流会では、他校の生徒と楽しそうに交流していた。


私が支援弁護士として活動できたのはこの年の1回限りであった。それでも、彼ら彼女らと過ごした数か月間は、非常に濃いものであり、貴重な経験となった。支援弁護士としての悩み、もどかしさ、期待、感動その他色々な感情がその時々に生じていたが、それらも含めて、彼ら彼女らと一緒に紡いだ一つのストーリーとして思い出に残るのが支援弁護士の醍醐味だと思う。


■ いまの役割

中部北陸大会の開催は今年で7年目を迎え、金沢での開催は昨年に引き続き4度目となった。現在、私は、本選手権の運営側を担っており、高校生にとって本選手権がより良い機会になるよう万全の設えをしていきたいと考えている。というのも、数か月という短い期間ではあっても、チーム一丸となって同じ目標を目指して過ごした熱い夏の思い出は、きっと忘れ去られることなく、彼ら彼女らの人生の糧になっていくと信じているからである。


また、今年は、教材(セレクトショップにおける万引き(窃盗)の事案)の作成にも携わる機会を頂いた。店舗の写真を撮影しに行ったり(石川県内にあるお店にご協力いただきました)、被害品のコーヒー粉を特注したり(大阪府内にある業者にご協力いただきました)、産みの苦しみを味わいながらも、個人的には楽しみながら作業を進めることができた。


あとしていない役割といえば、証人役あるいは被告人役といったところか。15年目を迎えるまでに一度経験してもよいかもしれない。


いずれにせよ、私個人の立場・役割は変われども、この素晴らしい大会が今後も継続していけるよう、微力ながら今後も貢献していきたい。