法教育コラム
いつかの未来のために(法教育コラム)
第119回 13歳の自律教室
香川県弁護士会子どもの権利及び法教育に関する委員会 委員長
日弁連市民のための法教育委員会 委員
弁護士 二 川 伸 也
かなり以前の話にはなりますが、香川県弁護士会の子どもの権利及び法教育に関する委員会が関与した法教育の中でも語り草となっている出前授業について説明したいと思います。ちなみに、伝え聞いた話も含まれてはおりますが、当時の資料を見ながら本コラムは執筆しておりますので、正確な情報ではあると思います。
2015年度(平成27年度)、香川県教育委員会と香川県弁護士会の子どもの権利及び法教育に関する委員会が連携して、「13歳の自律教室」と題した弁護士による出前授業を実施しました。
「13歳の自律教室」自体は、香川県教育委員会主催で毎年行われ、年度毎で講師も変わっていたようですが、2015年度(平成27年度)は弁護士に白羽の矢が立ったようで、教育委員会から講師依頼がありました。
対象は県内の公立中学校全校で、テーマのとおり、13歳である中学一年生に向けて、トラブル防止や解決のための法的思考力、法的解決方法などを養うための出前授業を弁護士が行いました。
14歳で刑事責任年齢となることから、中学生であっても法は14歳から自律することを求めているとの観点で、刑事責任年齢を間近に控える13歳に「自律」に対する理解を深めてもらう、という理由により13歳をターゲットとしたものです。
授業内容は弁護士と教育委員会が連携して考えていたようです。弁護士が他機関と連携して法教育を実践する際のあるあるかもしれませんが、弁護士が行いたいことと教育委員会が弁護士に求めることとの対立があり、出前授業が行われる以前はもちろん、出前授業が行われ始めてからも、教育委員会の担当者の方と弁護士の間で相当な回数の打ち合わせが行われ、侃々諤々の議論が行われていたようです。教育委員会としては、「いじめ」「非行少年」といった点に力を入れた授業を期待していたところのようですが、弁護士側は「正義・公正・公平という基本原理からルール(法)が導かれ、そのルールの支えとなっている人権を知ること」というマクロな点に重きを置いた授業を行おうとしていたようです。いずれの点も重要でありますが、こうした議論も全て良い法教育を実践したいとの思いからだったでしょう。
こうした議論の末にできあがった、出前授業で使われていたパワーポイントや指導計画表を見る限り、刑事責任年齢について丁寧な説明がされるようになっていました。その上で、生徒たちに法律の無い世界を想像させる場面を作り、法律がどういった背景から必要とされ、人権擁護に資するものであることを説明していました。そうした説明をきっかけに、大人に決められた法律やルールは嫌々守るのではなく、自分や他人が傷つかないように自分の意思で自分をコントロールすること、すなわち「他律から自律」へという考えの転換を導いていました。
資料に残っている限りの議論経過を見ると、果たして授業案が固まるのかとも思いましたが、最終的には弁護士側も類い希なる調整力を遺憾なく発揮し、教育委員会と弁護士の双方が納得する授業教材ができあがったようです。その甲斐もあり、相当充実した出前授業が実践できたと思われます。資料を見ながら本コラムを書いている私自身もハッとさせられました。
県内の公立中学校全校に弁護士を派遣ともなると、委員会所属の弁護士の大半がかり出されることとなったようですが、上記のような充実した教材があったことからこそ、多くの弁護士が出前授業にやりがいを感じ、非常に有意義な時間を過ごすことができたようです。
先に説明しましたとおり「13歳の自律教室」は香川県弁護士会単独の事業ではなく、県の教育委員会からの話があって初めてできることですので、毎年行えるようなものではありません。そのため、機会が巡ってこないとそもそも実施もできないのですが、「13歳の自律教室」を実施したときのノウハウは残ってはおりますので、このときのノウハウを久しぶりに引っ張り出してきて、似たような出前授業を香川県弁護士会として実施するのも良いかもな、と本コラムを執筆していて思いました。