法教育コラム

いつかの未来のために(法教育コラム)

第77回 ラグビーと法教育


日弁連「市民のための法教育委員会」委員
高知弁護士会「法教育委員会」委員長
山本 尚吾




昨年は、ラグビーワールドカップ2019が日本で開催され、大きな盛り上がりをみせました。ラグビーに長年携わってきた者として、非常に嬉しく思っています。そこで、これに無理やり乗っかって、法教育の話をしてみたいと思います。

ラグビーワールドカップ日本大会が盛り上がった理由について、ラグビーの持つ規律や組織のために尽くす自己犠牲の精神が日本人好みだったのではないかと語られることがあります。

ラグビーは激しいコンタクトスポーツであるため、けがの危険が常に伴う中、体を張って味方の勝利に尽くすプレーが観る人を感動させたのではないでしょうか。一方で、そのプレーは相手にけがを負わせる危険のある行為であり、ルールの中でこそ許容される行為であるため、ラグビーではより規律が重視されます。また、ラグビーは敵味方合わせると30人ものプレーヤーがおり、審判の目の届く範囲に限りがあることから、プレーヤーそれぞれが自律してルールを守ることや、審判の権限を尊重することがより重視されます。


このようなラグビーは、ルールが人の行動を規制し社会の秩序を維持する機能があることを学ぶ場となり、勝利を追求するだけでなく、他者を尊重する態度やルールを吟味して守る態度等を身につけさせ、他者と調和を図りながらともに生きていく力を育むこととなるため、法教育の絶好の場となっているのではないでしょうか。


また、ラグビーは、ルールが複雑だと言われることもありますが、それが魅力の一つでもあります。ラグビーでは、力が強いこと、足が速いことなどと同様に、ルールに対する理解が高いことも味方を勝利に導く大きな能力の一つです。


ワールドカップを通じて、テレビで「ジャッカル」というプレーが多く取り上げられました。ラグビーでは、ボールを持つプレーヤーが倒れてしまった場合にはボールを放す必要があり、これに反すると「ノットリリースザボール」という重大な反則となります。ジャッカルは、このルールを利用して、倒れてボールを放そうとする相手プレーヤーからボールを奪取することを狙ったプレーです(語源は、そのプレーが猛獣の食べ残しをあさるジャッカルに似ているとか…)。一方で、倒れたプレーヤーはワンプレーまでは許されるとされていますが、何秒ボールを持っていれば反則となるかは規定されておらず、どの範囲がワンプレーに当たるのかはその状況に応じて判断する必要があります。ここでは、ボールを仲間に繋げたいとの利益とプレーの進行を妨げてはいけないとの利益を調整する必要があり、プレーヤーは状況に応じて瞬時にルールを解釈し、反則にならないようにベストプレーを選択する必要があります。


このようにラグビーでは、ルールを理解することやルールを上手く利用することも大きな能力の一つであり、これを育む場となっています。ここでも、法を理解しこれを活用する力を育みながら、法が自分を守るとともに、自主的な活動の指針となって人の活動を促進する機能があることを学ぶ実践の場となってのではないでしょうか。


さて、私が所属する高知弁護士会では、平成30年度より、日弁連の学校派遣パイロット事業の実施地となっています。パイロット事業実施以前は弁護士会による出前授業の件数は年間0~2件程度というような状況でしたが、事業実施後は、明らかに件数が増加しています。


取り扱う授業も、選挙権に関する授業、いじめの予防授業、インターネットトラブル、刑事模擬裁判、模擬調停を利用したハラスメントに関する授業、よさこい祭りのルールを考える(ルール作り)など様々です。活動の主体を高校においていましたが、最近では、小学校、中学校や大学からも要請が来ており、その範囲も広がってきています。


もっとも、まだまだ弁護士会による出前授業の認知度は高くない状況ですので、今後も教育委員会や学校に働きかけを行い、高知における法教育の普及・実践に努めていきたいと思います。


そして、ラグビーもまだまだ競技人口が少なくマイナーなスポーツですので、個人的にはラグビーの普及にも努めていき、法教育の普及・実践の場にもしていければと思います。