統計から見える日本の刑事司法
逮捕に関する統計
何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
刑事訴訟法第199条
第1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
第2項 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
憲法第33条は捜査過程における被疑者の人身の自由を保障する規定である。その趣旨は、逮捕の必要性をまず権限を有する司法官憲に判断させ、その令状によらなければ逮捕されないという令状主義の確立にある。
2022年、裁判官が発した逮捕状の総数は7万8554人(98.8%)であるのに対し、裁判官が逮捕状の請求を却下したのは46人(0.1%)(捜査機関が逮捕状の請求を取り下げたのが931人(1.2%))だった。
(司法統計年報令和4年刑事編第15表「令状事件の結果区分及び令状の種類別既済人員-全裁判所及び全高等・地方・簡易裁判所」)
勾留に関する統計
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
刑事訴訟法第60条
裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
第207条
第1項 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
第5項 裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
憲法第34条第二文は、国家が個人の人身の自由を長期間にわたって侵害する場合には「十分な理由」が必要であることを明示している。恣意的な人身の自由の侵害という重大な人権侵害を行わないよう憲法上の保障としたものである。
2022年、逮捕された被疑者のうち、検察官の請求を受けて裁判官が勾留状を発した人員は8万996人(96.2%)であるのに対し、裁判官が勾留請求を却下した人員は3165人(3.8%)だった(自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件を除く。)。
(検察統計年報2022年「39 最高検、高検及び地検管内別 既済となった事件の被疑者の逮捕及び逮捕後の措置別人員-自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件を除く-」)
勾留の延長に関する統計
第1項 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第2項 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
2022年、被疑者の勾留人員総数8万1017人のうち、検察官が勾留期間の延長を請求した人員は5万6493人(69.7%)だった(自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件を除く。)
(検察統計年報2022年「39 最高検、高検及び地検管内別 既済となった事件の被疑者の逮捕及び逮捕後の措置別人員-自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件を除く-」及び「40 最高検、高検及び地検管内別 既済となった事件の被疑者の勾留後の措置、勾留期間別及び勾留期間延長の許可、却下別人員」)
日本における勾留延長却下率 0.3%
2022年、被疑者の勾留期間延長の請求を受けて、裁判官が勾留期間延長を許可したのは5万6310人(99.7%)であるのに対し、却下したのは183人(0.3%)である。
(検察統計年報2022年「40 最高検、高検及び地検管内別 既済となった事件の被疑者の勾留後の措置、勾留期間別及び勾留期間延長の許可、却下別人員-自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件を除く-」)
身体不拘束原則に関する統計
刑事上の罪に問われて逮捕され又は抑留された者は、裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるものとし、妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される権利を有する。裁判に付される者を抑留することが原則であってはならず、釈放に当たっては、裁判その他の司法上の手続のすべての段階における出頭及び必要な場合における判決の執行のための出頭が保証されることを条件とすることができる。
国際人権規約自由規約第9条は、身体の自由及び安全についての権利を規定し、同条第3項では、身体を拘束することが原則であってはならないことを明らかにしている。
2022年、通常第一審事件の終局総人員数は4万4907人であるのに対し、勾留人員は3万2308人(71.9%)である。
(司法統計令和4年刑事編第32表 「通常第一審事件の終局総人員―罪名別処遇(勾留、保釈関係)別―地方裁判所管内全地方裁判所・全簡易裁判所別」)
勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。
第91条
勾留による拘禁が不当に長くなつたときは、裁判所は、第八十八条に規定する者の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消し、又は保釈を許さなければならない。
2022年、終局前に勾留状を発付された被告人員は3万8740人であるのに対し、刑事訴訟法87条により勾留を取り消された被告人員は、請求によるものと職権によるものを合わせて141人(0.4%)である。また、刑事訴訟法は、勾留による拘禁が不当に長くなったときについても、勾留を取り消すか、保釈を許さなければならないとしているが(91条)、2022年に裁判所が同条により勾留を取り消した人員は、1人である。
(司法統計令和4年刑事編第16表「勾留・保釈関係の手続及び終局前後別人員 全裁判所及び最高、全高等・地方・簡易裁判所」)
保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
第90条
裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
自白事件26.3%、否認事件12.2%
自白事件
否認事件
2021年の地方裁判所の通常第一審における保釈率は、自白事件で32.9%、否認事件で26.5%である。時期別の保釈率をみると、第1回公判期日の前の保釈率は、自白事件では26.3%であるのに対し、否認事件では12.2%である。
(「通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の保釈の時期(地裁)(令和3年)」「通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の勾留期間(地裁)(令和3年)」)
証拠開示制度を含む公判前整理手続に関する統計
裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第一回公判期日前に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を公判前整理手続に付することができる。
第316条の28
裁判所は、審理の経過に鑑み必要と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第一回公判期日後に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を期日間整理手続に付することができる。
公判前整理手続及び期日間整理手続は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことを目的とした制度である。争点整理に際しては十分に当事者が証拠の開示を受ける必要があることから、検察官及び弁護人に一定の証拠開示義務が定められ、裁判所による証拠開示に関する裁定制度が設けられている。
2022年の通常第一審事件の終局総人員4万4907人のうち、公判前整理手続に付されたのは931人(2.2%)、期日間整理手続に付されたのは163人(0.3%)である。
(司法統計年報令和4年刑事編第39表「通常第一審事件の終局総人員 公判前整理手続及び期日間整理手続の実施状況別合議・単独、自白の程度別 全地方・簡易裁判所」)
無罪推定原則に関する統計
刑事上の罪に問われているすべての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する。
憲法第31条
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
国際人権規約自由権規約第14条第2項は無罪の推定原則を定めている。
無罪推定原則は、刑事裁判の中で犯人と疑われている者であっても、有罪の判決が言い渡されるまでは、犯罪者として扱ってはならないという原則である。無罪推定原則は、犯罪事実を証明する責任が検察官にあることも示している。検察官が、十分にー被告人が罪を犯したことが間違いないといえる程度にー犯罪事実を証明できなければ、被告人を無罪にしなければならない。
2022年の通常第一審事件の終局総人員4万4907人のうち、有罪の総数は4万3211人(96.2%)、無罪は69人(0.2%)である。
(司法統計年報令和4年刑事編第21表「通常第一審事件の終局総人員 受理区分及び終局区分別 地方裁判所管内全地方裁判所別」及び第22表「通常第一審事件の終局総人員 受理区分及び終局区分別 地方裁判所管内全簡易裁判所別」)
再審に関する統計
第1項 再審の請求が理由のあるときは、再審開始の決定をしなければならない。
再審制度は、えん罪被害者を救済するための制度である。
2021年、再審請求事件で裁判所による決定がなされた253人のうち、再審開始決定がなされたのは1人(0.4%)である。
(最高裁判所事務総局刑事局「令和3年における刑事事件の概況(上)」法曹時報第75巻第2号182頁)