裁判員になったら?-知っておきたいこと-
裁判員候補者に選ばれたら
「裁判員候補者名簿にのりました」と通知がきました
各地の裁判所では、毎年1回、地元の衆議院議員選挙の有権者の中から、‘くじ’で選んで「裁判員候補者名簿」を作ります。その名簿にのったあなたには、11月ころ、裁判所から「名簿にのりました」とお知らせがあります。その場合、その翌年の1年間、裁判員に選ばれる可能性があります。
「お知らせ」には、「調査票」が同封されます。裁判員になれない事由があるかどうか、1年を通じて辞退できる理由(70歳以上、学生、など)がある場合で辞退を希望するかどうかなどを書いて返送します。
この段階で、裁判員になれない事由や辞退事由があることが認められれば、1年間、裁判員候補者として裁判所に呼ばれることはありません。
「裁判所においでください」と通知がきました
名簿にのった方全員が、かならず「裁判員」になるわけではありません。この中から、事件ごとにさらに‘くじ’で「裁判員候補者」が選ばれます。候補者となった方には、「○月○日の裁判員等選任手続期日においでください」という呼出し通知が、裁判所から届きます。これは、おいでいただく日の6~8週間ほど前に送られます。
呼出し通知には、「質問票」が同封されますので、回答を記入して返送します。病気やけが、仕事上の理由などで裁判員となるのが困難な事情があるときは、辞退を希望する旨を書きこみます。
裁判所からこの通知が来たら、早めに仕事などの調整をして、裁判所に行くことができるよう予定を確保しましょう。
「裁判員候補者」から「裁判員」へ
裁判員等選任手続
裁判員候補者に選ばれたあなたは、呼出し通知に記載されている日時に、裁判所に出向きます。裁判所には、裁判員候補者のための控室(待合室)がありますので、建物内の案内にしたがってください。時間になると、裁判員等選任手続がはじまります。選任手続には、検察官・弁護人も出席します。
まず、裁判所の職員から、これからの手続の流れや事件の概要について説明があり、「質問票」が配布されます。この質問票は、事件となんらかの関係がないかどうかなどを尋ねるものです。質問票への記入が終わると、候補者は、裁判官から質問を受けます(質問手続)。その事件との関係の有無についての質問のほか、辞退を申し出ている場合には、その事情について尋ねられます。
みなさんへの質問が終わったら、裁判官は、候補者について、その事件で裁判員になれない理由がないかどうかを確認します。また、裁判官は、辞退を希望する候補者の辞退を認めるかどうかも決めます。
この後、検察官と弁護人は、一定の人数の候補者について理由を示さずに選任しないよう請求することができます。
こうして、裁判官は、その事件では裁判員としてご担当いただけない方や辞退を認める方を名簿から除きます。そして、最後に名簿に残った方の中から‘くじ’で、その事件を担当する裁判員6人が決まります。場合により、補充裁判員も決められます。
選ばれた裁判員と補充裁判員は、宣誓をして、引き続き始まる裁判に参加することになります。
裁判官がみなさんに尋ねる質問は、公正な第三者としてご担当いただけるかどうかを確認するためのもので、法律の知識をお聞きするものではありません。事件や被告人と関係があるかどうかなど、ありのままに答えてください。
仕事やふだんの生活はどうなる?
裁判所に行く日は仕事を休めます
裁判員の役割を果たすために必要な休みを取ることは、法律で認められています。また、仕事を休んだことを理由に解雇などの不利益な取り扱いをすることは法律で禁止されています。これは、裁判員候補者として裁判所にいく場合も同じです。裁判所から選任手続期日の連絡がきた場合には、職場で相談し、心配しないで裁判所に行きましょう。
氏名や住所は公表されません
裁判員候補者や裁判員の氏名や住所など、その人を特定できる情報を公開してはならないと、法律で定められています。裁判所などから公表されるようなことはありません。これは、事件関係者などが裁判員に接触することを防ぐ意味もあるので、あなた自身も公にしてはなりません。
もっとも、してはならないのは「公にする」ことなので、日常生活の中で家族に話したり、職場で休みを取ることについて相談することは、まったく問題ありません。また、裁判が終わった後に、あなたが裁判員あるいは裁判員候補者だったことを自ら公表することは禁止されていません。
日当が支払われます
裁判員になった方には1日あたり1万円以内の、裁判所に行ったけれど裁判員に選任されなかった方には1日あたり8000円以内の日当が支払われます。いずれも午前中で終了した場合には減額されることがあります。
宿泊が必要な場合は、地域によって、8000円前後の宿泊費が支払われます。
法廷で~公判審理の流れ
冒頭手続
最初に裁判長が被告人の氏名などを確認した後、検察官が起訴状(検察官が被告人を裁判所に訴えた際に提出した書面。事件の要点が書かれている)を朗読します。
続いて被告人には、自分の意思に反して話す必要はなく、話さないことをもって被告人の不利益に扱われることは一切ない権利(黙秘権)があることが、裁判長から説明されます。
証拠調べ手続
まず、検察官と弁護人双方が、それぞれが描く事件のストーリーを裁判員と裁判官に説明します。これを冒頭陳述といいます。
冒頭陳述は、検察官や弁護人のそれぞれの「主張」、つまり言い分です。
それが「事実」なのか、どのような「事実」があったのかは、その後に出される「証拠」を見聞きして、まさにあなたが判断するのです。
双方の「言い分」を聞いた後、証拠を調べます。
証拠調べの中心は、「証人尋問」「被告人質問」です。裁判員のあなたも、裁判長に告げて、直接質問することができます。
捜査段階で作られた供述調書や、医者の鑑定書など、「書面」になった証拠(書証)もあります。検察官や弁護人がそれを読み上げるので、集中してよく聴いてください。
まずは聞くことに集中することが大切です。
証言内容をすべてメモする必要はありません。証言の様子はすべて記録されていますので、評議のときにこれを確認できます。
証人の話や読み上げられた書面の内容が、すべて「事実」であるとは限りません。それが信用できるかどうかを判断するのは、あなた自身の役割です。証拠調べ手続では、まず検察官から有罪であることの証拠が出されます。それがすべて終わった後、弁護側が、検察側の主張を争う部分についての証拠や、弁護側の主張を裏付ける証拠を出します。
双方から出されるすべての証拠を見聞きした上で、総合して判断することが大切です。
審理の途中には、中間評議が行われることがあります。
有罪か無罪かは、すべての証拠から判断するものです。中間評議が行われても、あなたの心の中で‘最終的な結論’を出さないでください。検察官の立証の後には、弁護人の立証があるので。
弁論手続
証拠調べが終わると、検察官が、すべての審理の結果に基づいて最終的な主張を述べます(論告)。あわせて、被告人に科すべき刑罰の種類・程度についての意見(求刑)も述べます。続いて弁護人も、最終的な主張(弁論)を行います。被害者や遺族が裁判に参加している場合には、被害者や遺族の主張が行われる場合もあります。 検察・弁護側それぞれが、どのような事実がどの証拠によって証明されたか、あるいは証明は十分でなかったかを、整理して述べます。証拠調べの時にあなたが受けた印象や疑問点を思い出しながら聞いてください。
あなたが気付いた事柄や疑問点の中には、検察官や弁護人がここでふれなかったものもあるかもしれません。それらもしっかりメモするなどしておぼえておき、あとの評議で検討しましょう。
評議室で
対等な裁判員と裁判官で十分な評議を
すべての審理が終わると、裁判員と裁判官は、法廷から評議室に移ります。そこで、被告人が有罪かどうか、有罪の場合はどのような刑罰を宣告するかについて、議論(評議)をします。これは非公開ですから、傍聴人はいません。
重要なのは、裁判員であるあなたと裁判官は対等だということです。裁判官と意見が違う場合にも、積極的に意見を述べることが期待されています。
法律的な問題点は、裁判官が説明をします。
理解できないことがあれば、遠慮なく質問してください。
ほかの裁判員の発言にも、よく耳をかたむけましょう。
その人の意見が正しいと心から納得したら、勇気をもって自分の意見を変えることも大切です。
裁判官との間だけではなく、裁判員同士でも積極的に議論しましょう。
評議では常に、あなたの常識にてらして、被告人が罪を犯したことは「間違いない」と確信できるか、考えてください。
疑問がある限り、被告人は無罪と推定される(有罪とされない)という刑事裁判の原則を、いつも念頭におきましょう。
刑を決めるとき
審理の最後に、検察官や弁護人が、刑に関する意見を述べます。被害者が意見を述べることもあります。評議室では過去の同じような事件での量刑に関する資料を参照することもできます。こうした情報を参考にして話し合うことになります。
刑罰には、犯した罪に対する制裁という意味がありますが、刑罰の目的はそれだけではありません。刑務所での生活などを通じて心を入れ替え、更生させるという目的もあります。刑を終えた人が社会に戻ってきたときに、罪を犯すことのない健全な社会人として再出発できるよう準備させる役割があるのです。
刑務所生活が長くなると、家族と疎遠になったり、帰るべき家がなくなってしまったりします。高齢になると、働き口を見つけるのも難しくなります。
刑罰は、制裁であると同時に、更生し再出発するための手段でもあります。罪を犯した人が、立ち直り、人としての自信と誇りをもって社会に復帰することが、犯罪を防ぎ、社会全体の利益となるのです。
「罪に対する制裁」だけではなく、「被告人の再出発」を頭に置きながら、執行猶予にするか実刑にするか、それは何年がよいのかを、よく考えてください。
死刑
日本における最高刑は死刑です。その方法は、法律で絞首刑と定められています。
日本の死刑をめぐる状況は、国際的にも批判を受けています。処罰の実態を知り、どうあるべきかを考えることも、社会を支える私たち市民自身の役割です。
日本では、これまでに、死刑判決を受けた後、再審によって無罪が明らかとなった事件が4件あります。無実の罪で命を奪われることは、絶対にあってはなりません。
「死刑制度の問題」には、死刑をめぐるさまざまな情報を掲載しています。
少年事件に向き合うとき
満20歳未満の人(手続上「少年」と呼びます)が事件を起こしたときは、家庭裁判所での審判を受けるのが原則です。審判では、処罰よりも、少年の健全な育成という視点にたって、専門家による教育プログラムが準備されている少年院への送致などを決定します。
これに対し、重大な事件では、大人と同じ懲役刑などの刑事処分がふさわしいとして、通常の刑事裁判を受けることがあります。このときは、裁判員のみなさんが、事件を担当します。
少年事件では、家庭環境や生い立ちなどが大きく影響していることが多いうえに、大人よりも立ち直る可能性が高いので、処罰よりもまわりの環境を改善することで立ち直らせる方が望ましいと考えられています。
法廷には、少年の生い立ちや素質、環境など、医学・心理学の専門家の意見が出されます。これらを参考にして、犯罪が起きた背景や、少年がおかれた環境にも十分に注意を払い、総合的に判断することが求められます。
少年は、周りのはたらきかけで短期間で急速に立ち直ることもあるので、刑の期間をはっきり決めてしまうのではなく、「3年以上・5年以下」と幅のある刑を定めることがあります(不定期刑)。また、「刑罰よりも専門家による教育プログラムがふさわしい」と判断することも可能です。その場合には、家庭裁判所に審理を戻す決定をします。
その少年に刑罰がふさわしいのか、教育プログラムがふさわしいのか、法廷に出された情報をもとにあらゆる可能性を検討することが大切です。
少年事件の審理の流れ
法廷の外で
ニュースや新聞記事
裁判員候補者名簿にのった段階では、事件に関するニュースや新聞・雑誌あるいはインターネット記事などを普段と同じように見ることは何らさしつかえありません。しかし、裁判員として具体的な事件を担当する段階では、注意が必要です。刑事裁判では、ニュースなどで見たことではなく、あくまで法廷に出された証拠だけにもとづいて判断しなければならないからです。
裁判員に選ばれた後は、法廷で見聞きした証拠だけに集中することが大切です。
話してもよい経験談は
公開の法廷で見聞きしたことは、話してもだいじょうぶです。また裁判員を経験した感想を述べることもできます。報道機関との記者会見・個別取材や、インターネット等を通じて、あなたの経験を広めることは、これから裁判員となる市民を勇気づけたり、制度をよりよいものとすることに役立つでしょう。
これに対し、たとえば、個々の裁判員・裁判官の意見の内容や、評決をしたときの数、評議がどのような議論によって結論に達したのかなど、評議の内容を話すことはできません。また、自分以外の裁判員の名前についても話すことはできません・裁判員や事件関係者のプライバシーを守り、また評議において安心して自由で活発な議論ができるようにするためです。 法廷に持って行っていただくのは、あなたの経験と良識です。自信を持って参加してください。