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第13回 2013年12月24日号 国際展開における弁護士の使い方〈3〉

弁護士 池内 稚利

■プロフィール
池内 稚利
日弁連中小企業法律支援センター 委員(第一東京弁護士会 所属)

例題に対する問題点(前回の続き)

④Y社訪問 
 日本のX社の社長は、東南アジア・A国にあるY社が積極的に販売活動に取り組んでいるので、激励も兼ねて、Y社を訪問をしました。その際、Y社特約店との記載のある看板を掲げたY社の建物の前で、社長同士が握手して写真を撮り、X社特約店との記載のあるY社のカタログや宣伝資料をもらって帰りました。 ⑤X社製品のA国での知名度と販売実績
 X社の製品は、Y社の販売努力の結果、知名度は上がりましたが、Y社は新興企業であるため販売実績は思うように伸びません。こうしたある日、A国の業界大手の商社Z社から、X社の商品を独占的に取り扱いたいと申し入れがありました。X社にとっては大きなビジネスチャンスですので、Y社に今後製品の販売はできないと伝えて、Z社と取引を開始しました。 
⑥Y社との紛争 
 X社の申し入れに対し、Y社は猛烈に抵抗して、A国の裁判所に、販売権及び商標・商号使用権の確認とY社の債務不履行による損害賠償請求訴訟を提起しました。これまでの営業活動にかけた全ての費用と今後10年間の逸失利益を求めています。

(3)紛争の優劣
 X・Y社間には紛争処理条項を規定した契約書がないので、この紛争は、A国の裁判で判断される可能性が高いです。上記の事例では、①宣伝等の事業活動にX社の商標・商号の使用を認めている、②X社の授権証がある、③Y社がX社の特約店として表示しているのをX社は黙認している等、X社にとって不利な事情が多くあります。また、一般に、途上国の裁判は日本の裁判と比較すると、信頼性が高くなく、外国企業に不利な判断をされる傾向も少なくありません。訴訟の行方は非常に心許ないです。

弁護士の視点

以上のような展開が起こる可能性は高くないかもしれませんが、起きてもおかしくはありません。訴訟を起こされてから弁護士に相談しても、できることは限られ、敗訴する可能性も高く、その場合の損害も少なくありません。また、Z社との取引も流れてしまう可能性もあります。  
 そこで、私が契約締結段階で相談を受けたら、以上のような展開の可能性を指摘した上で、次のようなアドバイスを行います。
①商標・商号等A国で権利化できるものは、取引開始前に速やかにX社で権利化する。  
②Y社はX社以上にビジネスチャンスを求めて真剣なので、取引を行うにあたり、十分に検討する。取引開始前に相手の会社を訪問したり、A国におけるY社の評判など、事前調査を十分に行う。
③取引を行う場合は、しっかり契約書を締結する。内容は、契約期間を短期(例えば1年)にして、その間の販売目標を規定し、それに達しなかった場合は、両者の書面による合意がなければ更新は行わないとする。目標に達した場合は、原則として更新される(X社の選択権は狭まりますが、契約を履行しているのに契約を解除するというのは、配偶者がその役目をきちんと果たしているのにもかかわらず離婚するのと同様で、いかがなものかなと思います)。
④契約終了時には、商号・商標の利用をただちに停止するという条項を入れる。

 いかがでしょうか。弁護士って意外に役立つものだと思っていただけましたか?

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出典:帝国データバンクの情報誌『日刊 帝国ニュース』

参考ページ> 契約交渉  知的財産制度の活用・模倣品対策