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第8回 2013年11月12日号 破綻懸念企業の事業移転について〈1〉

弁護士 大澤 康泰

■プロフィール
大澤 康泰
日弁連中小企業法律支援センター 委員(東京弁護士会 所属)

はじめに

破綻懸念企業にも、その有する個々の資産の価値の合計を超える「のれん価値」があるのが一般です。窮状の原因が過去の投資の失敗等で、事業自体に収益性がある場合はもちろんのこと、事業自体に収益性がない場合でも、通常はその企業の有する顧客とのリレーションや許認可等、あるいは従業員の持つ技術・ノウハウに一定の価値が認められるからです。しかし、企業が破綻に至って事業を停止してしまうと、ヒトと情報等は散逸し、のれん価値は失われてしまいます。このような社会経済的損失を避けるため、破綻懸念企業の自力再生が困難な場合、当該企業の事業の全部または一部を移転することを検討する必要があります。

事業移転の方法

 事業を移転する方法には、当該事業に関連する資産・負債について事業譲渡契約を締結する方法と、会社法上の組織再編行為である会社分割を利用する方法があります(以下、両者をまとめて「事業移転」といいます)。
 事業譲渡は対象となる個々の資産・負債・契約上の地位等についての移転契約が束になったものに過ぎないため、契約上の地位等の移転については個別に相手方の同意が必要となり、許認可等については再取得の必要が生じます。一方、会社分割は、一定の資産・負債・契約上の地位等で構成される「事業」という“まとまり”を会社から切り出す組織法上の行為であるため、対象となる契約上の地位等の移転についての相手方の個別の同意は原則として不要であり、許認可等についても移転できる場合があります。こうした観点からは会社分割が便宜に思えますが、会社分割が解除事由となる契約も多々あり、また会社分割で切り出される事業に従事する従業員については、希望者全員を事業移転先の企業(以下「移転先企業」)が雇用しなければならない等の制約もあるため、一概に会社分割が優れているともいえません。 
 なお、どちらの方法でも、株主総会の承認決議や移転した資産等に係る対抗要件具備等の手続を取る必要があります。 

破綻懸念企業の事業移転における留意点

 破綻懸念企業の事業移転ついては、通常の事業移転で留意すべき点の他にも留意すべき点があります。一つは登記や債権譲渡通知等の対抗要件を早期に具備することであり、もう一つは詐害行為取消権等の対象とならないよう配慮することです。
 対抗要件については説明するまでもありません。破綻懸念企業では債権者からの仮差押や課税庁からの滞納処分を受けるリスクが現実化しているのが通常であり、資産等の移転に係る対抗要件は早期に具備する必要があるのです。特に、事業移転元の企業(以下「移転元企業」といいます)に法的整理が予定される場合には、資産等の移転日後15日以内に対抗要件を具備しなければなりません。それ以降に行った対抗要件具備は、法的整理内で否認される恐れがあるからです。(つづく)

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出典:帝国データバンクの情報誌『日刊 帝国ニュース』

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