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第5回 2013年8月13日号 取引先破綻時の債権回収〈3〉

弁護士 板橋 喜彦

■プロフィール
板橋 喜彦
日弁連中小企業法律支援センター 委員(第一東京弁護士会 所属)

5 相殺

 取引先に製品を販売する一方で、その取引先から原材料を購入している場合など、同じ相手方に債権を有し、一方で債務を負っている場合は、相手方が経営破綻し、債権回収が困難になったときも、自己の持つ債権と自分の負っている債務とを相殺することで、実質的に債権を回収することができます(これを相殺の担保的機能といいます。)。相殺は、債務者に破産手続が開始されても、その手続によらずに相殺することが原則として認められています(破産法67条)。仮に相殺を用いないと、債権者は経営破綻した相手方から弁済してもらえないにもかかわらず、自己の負っている負債は相手方に弁済しなければならない事態に陥ります。このような事態を回避する手段が相殺です。
 相殺の要件は、①相殺の対象となる債権及び債務の存在、及び②債権債務が弁済期にあることです。なお、破産手続においては、弁済期未到来の自働債権であっても、相殺が可能です(破産法70条、103条3項参照)。
 当事者が相手方に債権のみ有している、または債務のみ有しているときは、相手方に債務を有する第三者、または債権を第三者からこれらを譲り受けて相殺をする手法があります。ただし、破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したときや、支払停止後に破産者に対して債務を負担した場合で、その負担当時、支払停止があったことを知っていたときなどは、破産債権者の相殺が禁止されます(破産法71条1項各号参照)。また、破産手続開始後に他人の破産債権を取得したときや、支払不能後に破産債権を取得した場合で、その取得の当時、支払不能であったことを知っていたときなども相殺はできません(破産法72条1項各号参照)。

6 その他の手段

 以上みてきた手段のほか、一般に用いられる債権回収手段としては、商事留置権、ファイナンスリース契約に基づくリース物件の取戻し、連帯保証人からの回収等の手段があります。
 商事留置権とは、例えば倉庫業者のように他人の物を預かっている債権者が、その物を預けた債務者から債務の支払いを受けるまで、その物を保管(留置)することができる法定担保物権です。債権者は、債務者が破綻した際も、目的物を留置し、優先的な弁済を促すほか、目的物を強制的に競売にかけて、競売による売却代金から優先的に弁済を受けることで、債権回収を図ることができます。
 ファイナンスリース契約とは、リース物件の賃貸借契約の形式をとりつつ、その実態は債務者にリース物件の取得資金を融資するという側面を持つもので、実質的には約定担保物権の性格を有します。ファイナンスリース契約の債務者が破綻した場合、債権者であるリース会社は、リース物件を引き上げて精算することが行われており、債権者は自己の債権を一定程度回収することができます。
 これらのような担保となる物や債権を利用した債権回収のほか、人的な担保、即ち保証人または連帯保証人をつけておき、主債務者が破綻したときは、保証人から債権を回収するという手段も多く用いられます。ただ、この保証人が破綻した会社の代表者であるような場合は、この代表者も会社とともに自己破産申立などの法的手続きを取ることも多いため、債権の回収が困難となります。そこで、債権回収の実効性を高めるためには、取引先となる会社の代表者以外の者(例えば、代表者の知人や親戚など)に保証人となってもらうことが有効であると言えます。

第3 結語 

 債権者が確実に債権を回収するには、取引先の破綻前の段階で、取引先の破綻時でも債権回収できる手段を講じておくことこそ重要であるといえます。本稿で紹介した方法のほかにも、事案に応じた多くの債権回収手段がありますので、法律専門家に、万一のときにも債権回収できるよう、事前に相談をしておくことをお勧めいたします。

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出典:帝国データバンクの情報誌『日刊 帝国ニュース』
※2013/8/27の誌面掲載記事に一部加筆修正のうえ公開

参考ページ> 企業再生・清算