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第3回 2013年7月30日号 取引先破綻時の債権回収〈1〉

弁護士 板橋 喜彦

■プロフィール
板橋 喜彦
日弁連中小企業法律支援センター 委員(第一東京弁護士会 所属)

 取引先が破産法など倒産法制上の手続をとった場合や、法的手続きは取られていないものの、実質的には経営破綻した場合、債権者が取り得る債権回収手段は、法律上、または事実上限定されます。そのため、取引先が破綻した時点で慌てて債権回収手法を模索しても、債権を回収することは極めて難しいと言わざるを得ません。

 本稿では、取引先が破綻したときの債権回収手段として、①約定担保物権(抵当権、所有権留保、譲渡担保)、②法定担保物権(動産売買先取特権)、③相殺、④その他の手段につき、概観します。なお、①約定担保物権とは債権者と担保目的物の所有者などとの契約により成立する担保権、②法定担保物権とは一定の債権を保護するため、法律上当然に成立する担保物権です。

具体的な債権回収方法と注意点

1 抵当権

 抵当権には、特定の債権を担保するため、主に不動産に設定する普通抵当権と、一定範囲の不特定の債権を極度額の限度で担保するために設定する根抵当権があり、いずれも当事者間の合意により成立する約定担保物権です。抵当権の中心的な効力は、債務者が債務の支払いを怠ったとき、抵当権者が抵当権を実行することで、競売代金から優先的に配当を受けることのできる、優先弁済的効力です。

 抵当権は、破産手続が開始されても、その手続によらないで行使できる別除権(破産法65条)の1つです。抵当権を設定し、登記しておけば、取引先が破産した場合も、抵当権を設定した目的物の価値の範囲内で優先的に債権回収を図ることができます。注意点は、当該不動産の担保力を正確に把握することです。担保力は当該不動産の価値や抵当権の順位等に左右されるので、債権額以上の担保力を持つ不動産に設定する必要があります。また抵当権の設定及び登記は、債務者の破綻前に行う必要があります。破綻後に抵当権を設定しても、他の債権者を害する行為として、倒産手続において否認される可能性があります(破産法160条、162条、164条)。

2 所有権留保

 所有権留保とは、販売した商品の所有権を代金完済まで所有者が留保するという合意により成立する約定担保物権です。商品を販売すれば、通常、その商品の所有権は買主に移転し、売主には売掛債権だけが残ります。しかし、所有権留保の特約を締結しておけば、売買代金が支払われない場合、留保した所有権に基づき、所有権留保物件を取り戻すことで、実質的に債権を回収できます。

 所有権留保に基づいて回収を図る場合、以下の点に注意が必要です。まず、①債権者が売買契約に基づき引き渡した商品を特定し、所在を確認する必要があります。そのためには、普段から買主の在庫管理方法等の情報を入手するよう努める必要があります。また、②物件引き揚げの際は、相手方の了承を得るか、仮処分や訴訟などの法的手続きを取る必要があります。さらに、③引き揚げた商品を適正な価格で処分し、清算しなければなりません。なお、④債務者が破綻したときは、他の債権者が押しかけ、所有権留保物件を持ち出す危険があるので、速やかに仮処分や訴訟などの手続きをとって引き揚げる必要があります。最後に⑤所有権留保の対象が動産のとき、買主が第三者に当該動産を転売すると、即時取得が成立し、第三者が当該動産の所有権を取得する場合があります。このような場合は動産売買先取特権に基づく物上代位により、転売代金債権を差し押さえる等の方法を講じる必要があります。

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出典:帝国データバンクの情報誌『日刊 帝国ニュース』

参考ページ> 企業再生・清算