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第10回 2013年11月26日号 破綻懸念企業の事業移転について〈3〉

弁護士 大澤 康泰

■プロフィール
大澤 康泰
日弁連中小企業法律支援センター 委員(東京弁護士会 所属)

事業移転を法的整理開始前に行う場合の検討(続き) 

 前回説明したように、移転先企業が債務を引き受けることで事業移転の対価を減額することはできないと考えるべきですので、債務は可及的に移転元企業に残した方がよく、事業継続上100%弁済が好ましい債務があっても、移転先企業は保証責任のみを負う形とすべきです。
 また、移転元企業での受領対価の不適正な費消の抑制については、支払対価を移転元企業の代理人弁護士に管理させる、あるいは当初に必要最小限度だけ支払い、残額は法的整理開始後に支払うといったやり方等を検討すべきです。特に後者は、対抗要件に係るリスク回避の点でも好ましい方法といえます。 

法的整理開始後に事業移転を行う場合の検討

 法的整理開始後は、事業移転につき裁判所や破産管財人等の承認を得る必要が生じますが、逆にいえば、承認さえ得られれば否認リスク(詐害行為取消リスクと同じです)は遮断できることになります。また、一般的に移転対価の相当性が早期処分を前提に判断されるため、法的整理開始前より低額で事業を取得できる可能性もあります。しかし一方、移転元企業の窮状が公となるため、事業価値の一定の毀損は避けられません。
 特に破産の場合、即時の事業停止が原則です。事前に事業移転計画をまとめておいても、その是非を破産管財人が判断するには一定の時間がかかります。そのため、破産の場合、通常は事業の一時停止が不可避であり、事業価値の毀損は最も著しいものとなります。 
 ただし逆にいえば、事業価値の著しい毀損を前提に移転対価の相当性が判断されるため、事業停止による価値毀損が比較的小さいと思われる事業(例えば主たる価値が在庫商品や製造設備、知的財産権を有する事業)を割安に取得できる可能性もあります。これを試みる場合は、事業価値の毀損がなるべく抑えられるよう、破産管財人の承認が得られ次第事業を再開する旨を、取引先や再雇用予定の従業員に伝えておくのがよいでしょう。
 一方、民事再生の場合、開始後も申立企業が事業を継続するのが原則のため、破産の場合ほどの事業価値の毀損は生じません。ただし、民事再生では債権者への弁済額を破産よりも大きくしなければならない(清算価値保障原則)という制約があるため、通常は、事業移転の相当な対価は破産の場合よりも高くなります。
 なお、事業移転先候補が清算価値保障原則を充足する対価を用意できない場合には、スポンサー資金の受け入れ等による自力再生が見込めない限り、申立企業は破産に移行せざるを得ません。しかし、その場合も、破産移行前に監督委員(破産管財人候補者)と協議して、移行後の速やかな事業移転を準備することで、当初から破産を選択した場合に比して事業価値の毀損は抑えられる可能性が高いといえます(なお、本稿では中小企業が利用しにくい会社更生については割愛します)。 

おわりに

 以上説明したように、円滑に破綻懸念企業の事業移転を行うには事前の十分なプランニングが必要ですが、移転元企業が破綻寸前となった場合には、そのための時間は取れなくなります。従って、検討には早めに着手しておくことが好ましいといえます。

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出典:帝国データバンクの情報誌『日刊 帝国ニュース』

参考ページ> 企業再生・清算