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第20回 2012年5月号 抱合せ販売とその対処法

弁護士 澤田 久代

■プロフィール
澤田 久代
日弁連中小企業法律支援センター 事務局次長(横浜弁護士会 所属)

Q.今月の相談

当社は日用雑貨品の販売業者です。これまで、ある業者から一般消費者に人気の高い売れ筋の商品を仕入れていました。ところが、その業者が売れ残りの不人気商品の処分をもくろみ、これまで当社が仕入れていた人気商品に売れ残りの不人気商品もセットにして販売することにしたと申し入れてきました。

 これまで仕入れていた商品は、人気商品で当社の売上において重要な要素を占めてきましたが、売れ残りの不人気商品については当社においても販売が期待できません。それで、人気商品のみで仕入れを続けたいと回答したのですが、そういうことなら、人気商品の販売も中止すると言われ、結局、セット販売に応じざるを得ないこととなりました。こういう行為は許されるのでしょうか。

A.質問のようなセット販売についてですが、当該商品間に特別の関係がない限り、市場や取引量等の状況次第では、顧客の商品・役務の選択の自由を妨げるおそれのある競争手段として不公正な取引方法となる可能性があります。特に本問では、各商品を個別に仕入れる余地も残されていないようですので、違法となる可能性は高いといえます。
 したがって、このような申入れに安易に応じず、違法行為の可能性があることの通知や公正取引委員会への相談・申告といった対処法をとって、適正な取引が継続できるようしていくことが大切です。

解 説

1 抱合せ販売
 本件のような必要とするものとそれ以外の不必要なものとをセットで購入することを強制する行為は、いわゆる抱合せ販売といわれるもので、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(「独占禁止法」と言われているものです)によって、「不公正な取引方法」に該当するとして違法とされています。
 独占禁止法は、事業者間での「不公正な取引方法」を禁止することによって、事業者の公正・自由な活動を促進し、結果、一般消費者の利益を確保すること、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としています。
 そして、どのような取引が「不公正な取引方法」に該当するかということですが、これについては、法律に定められていたり、公正取引員会が、「不公正な取引方法」に該当するものとして指定していますので、それに該当するか否かによることになります。いわゆる抱合せ販売は、公正取引委員会が「不公正な取引」として指定しています。(一般指定10項では、「相手方に対し、不当に商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引をするように強制すること。」を「不公正な取引方法」にあたると指定しています。抱合せ販売は、まさにこの「相手方に対し、不当に、商品の供給に併せて他の商品を自己から購入させ」る行為に該当します。)
 このような抱合せ販売は、通常は、自己のある商品が市場において有力な場合に行われます。本問ではまさにこのような場面でしょう。他にも抱合せ販売が行われやすい場合として、自己の商品が市場で品不足になっていて、購入する側の購買意欲が強い場合が挙げられます。市場に豊富な商品を品不足となっている商品とセットにして市場で豊富なものを無理に買わせようとするわけです。
  抱合せ販売が行われると、買い手は、本来購入する必要のない商品を仕方なく購入しなければならなくなりますので、適正かつ自由な商品選択ができなくなる可能性があります。ですから、事業者の公正健全な競争が阻害されるおそれがあるので禁止する行為の類型としておく必要があるわけです。

2 「不当に」の意味
 抱合せ販売等の取引強制は「不当に」行うことが必要とされています。行為の外観上、商品を抱合せての強制販売に見えても、「不当に」行われていなければ違法性はないとされてしまいます。複数の商品等を組み合わせて販売したとしても、その組合せによっては、顧客にとって便利なこともありますし、経済的に有利なこともあるでしょう。ですから、「不当に」行うことが必要となるのです。
 この「不当に」行われたか否かの判断は、個々の行為ごとに判断されることになります。
 一般に、「不当」か否かは、①事業者相互の自由な競争が妨げられていないかどうか、②競争が価格・品質・サービスを中心としたものであることにより自由な競争が秩序づけられているかどうか、③取引主体が取引の拒否及び取引条件について自由かつ自主的に判断することが可能かどうか、によって判断されると言われています。これらについて、個々の行為の具体的な態様、商品の特性、流通取引の状況、行為者の市場における地位等、市場の状況をみながら、当該行為の意図と効果・影響をみて判断することになります。
  これを抱合せ販売にあてはめれば、抱合せ販売をしようとしている相手方の数がどの程度の数か(当社のみなのか、他社に対しても行っているのか、他社に対しても行っているとしてその数はどの程度にのぼるのか)、また、抱合せ販売がどの程度反復継続してなされているか等、抱合せを行っている範囲が、どの程度に広がりをみせているかということをまず判断材料にするということになります。さらに、抱合せ販売においては不必要な商品市場にも影響を与えることとなりますので、この不必要な商品の市場における自由な競争を減殺するおそれがあるかということも考えなければなりません。すなわち、不必要に購入を強制される商品の量・金額が当該市場においてどの程度のシェアを占めているか等も考える必要が出てきます。   

3 違法とならないものの例
 このようなことを踏まえて、2つの商品の購入を強制したとしても、違法とされないものの例としては、以下のようなものが挙げられています。
 ひとつは、2つの商品が別個の特徴をもっていたとしても単一の商品となるような場合です。たとえば、旅行セットなどはセットの中味になっているものはそれぞれ一つの商品ですが、旅行セットとして合わさることで単一の商品として別の価値をもつことになります。技術的理由から1つの商品にもう1つの商品が必要な場合なども違法とはなりません。
 また、2つの商品のセット販売であっても、顧客からの希望があれば、各商品を別々に購入できる余地があれば、抱合わせ販売とはなりません。顧客に不要な商品等の購入を強制するという側面がなくなるからです。
 さらに、2つの商品の間に機能上密接な補完関係がある場合にも違法性はありません。よく挙げられている例として、レンタカーを貸す際に自動車保険をかけることを強制される例があります(保険をかける自由があるので違法性があるという意見もありますが)。 

4 対処法
 本問においては、人気商品と不人気商品を組み合わせたいというものです。この2つの商品が2つで単一の商品となるものであるとか、機能的に補完関係がある等であれば、違法性はないとなるでしょう。しかし、そのような関係がないのであれば、セット販売を強制した側の動機は、本来売れないはずの商品を無理に販売しようという意図のものとに、購入を希望していない事業者に強制的に購入させるものとなります。違法性があると判断される可能性は高いです。
  このような申入れがなされた場合には、まず安易に応じず、粘り強く交渉することが必要です。採算がとれない取引が継続するような事態は絶対に避けなければなりません。販売を強制してきた事業者との取引上の問題等もあってなかなか言いづらい場合には弁護士の助力を得ることも有用だと思います。また公正取引委員会への相談・申告も検討されるべきことだと思います。

 

参考ページ> 契約交渉 その他 ~契約書の作成・チェック~