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第3回 2010年12月 安易な判断は禁物!~中小企業組合の理事の責任について~

弁護士 青山 隆徳

■プロフィール
青山 隆徳
日弁連中小企業法律支援センター 委員(佐賀県弁護士会 所属)

今回は、中小企業組合の理事の責任について、説例を元に考えてみたいと思います。

【説例】
  A組合は、組合員への貸付業務や共済事業を行っていた。この組合の理事長Bは県内有力企業の社長で、同組合の慣例で非常勤の理事長に就任しており、実質的な運営は専務理事に一任していた。他方専務理事Cは常勤であるが、重要事項の判断権限は与えられておらず、Bの意向に沿う形で組合運営を行っていた。
  かかる状況において、A組合に以下の問題が発生した。
① A組合では経理担当が長年にわたり粉飾決算をしており実質債務超過状態であった。
  CがこれをBに報告したところ、Bは「経理のことはCに任せる」と言うのみで自ら対応しなかった。Cは粉飾が明るみに出ると組合が破綻し、その結果Bに迷惑をかけることに配慮して、そのまま粉飾を続けた。その結果、組合員に損害が発生した。
② 後日B・Cの責任が追及されたところ、Bは粉飾の事実は知らなかったと主張した。ただし、粉飾による決算書にはBの理事長印が押されていたうえ、決算承認もしていた。
③ また、Cはこの粉飾について当初はBに止めるよう進言したが、Bは組合の存続を優先するよう述べたことから粉飾を継続したのであり、責任の大半はBにあるとと主張している。
  理事長B,専務理事Cはいかなる範囲で責任を負うであろうか。

1 はじめに

  中小企業等協同組合法(以下「法」)に基づき、全国的にさまざまな協同組合が設立されていますが、その中には、理事長(代表理事)や副理事長は業界の重鎮などが非常勤で勤務するにとどまり、実際の組合運営は専務理事に一任しているといった組合も多いのではないでしょうか。
  今回は、そのような組合の理事の責任について、一つの説例を通じて考えてみましょう。 

2 役員(理事)の責任についての法律上のルール

  はじめに、役員の責任に関する法律上のルールを確認しましょう。 
(1) 責任の生じる場合
  組合の役員は、会社の取締役同様、会社に対する善管注意義務を負うとされていますので、組合や組合員に損害を加えないように行動する義務を負います(法第35条の3)。具体的には、組合運営を法令や規約に従った形で行う義務、言いかえれば法令違反行為を防止・是正する義務を負い(法第36条の3)、違反を発見し、それにより著しい損害を及ぼすおそれがある場合にはただちに組合員に報告する義務を負います。  
  そのような義務を怠って組合や第三者に損害を与えた場合には、組合及び第三者に対し損害賠償義務を負うものとされています(法第38条の2第1項、第38条の3第1項)。また、その行為が理事会の決議により行われた場合には、反対の意思が議事録に残されていない理事は全員責任を負うこととされています(法第38条の2第2項)。  
  さらに、貸借対照表などの会計帳簿に虚偽の記載をした場合(粉飾決算をした場合)にも、これにより第三者に生じた損害を賠償する義務を負うとされています(法第38条の3第2項)。  
  このような義務は、仮に役員が無報酬・非常勤であっても当然に免除されるものではありません。  
(2) 責任が生じた場合の賠償義務の範囲
  また、理事長・副理事長・専務理事などの行為が相まって結果が生じた場合であっても、関連性があれば全員が連帯で賠償義務を負います(法第38条の4)。  
  したがって、自らの関与分に限定し、免責されることはありません。 

3 説例における理事長B・専務理事Cの責任の有無

  以上を踏まえ、B,Cの責任を検討していきます。 
(1) Bの責任について
  Bについては、まずは粉飾決算を知った時点で、組合員や第三者に著しい損害を与えるおそれがあるとして、速やかに組合員に報告するべきでした。よって、Bは善管注意義務を怠ったといわざるを得ないでしょう。  
  これに対し、Bは何も知らないと反論していますが、粉飾のような重要事項については、知っていたのではないかと推定されることも少なくありません。本説例のように、粉飾関連の書類への決裁印の押捺などがあると、非公式にでも報告を受けていたのではないかとの強い推定が及ぶと考えられます。  
  さらに言えば、故意の粉飾行為は全くBが知らなかったとしても、粉飾の操作については会計書類で見抜ける可能性もあることから、仮にBが会計書類を全く検討することなくCや監事に放任している状況であれば、理事長として適切な組合運営の把握を怠ったことが善管注意義務違反とされる可能性もあるでしょう。  
  結局のところ、紛争になってから反論をしても、放任していたリスクは回避できません。したがって、非常勤の理事長であっても、組合運営上重要な部分については自ら資料を確認し、疑問点があれば専務理事に確認する必要があるといえるでしょう。  
  また、非常勤であるほど、どこまでを自身で決裁したかを明確にする必要があります。理事長印(代表者印)または理事長の決裁印として用いられる印章について「代印」を許すような運用は、いざというときに自らの首を絞めることもあるので注意が必要です。  
  なお、地方自治体などでは、首長の権限を法令に従い職員に委任することが許容されていますが、それは一定の内部監査体勢を有する組織体ゆえに許されたものといえます。一般に小規模の中小企業組合では、権限を正式に委任する場合の理事長の監督なども期待できないことから、このような権限を完全に部下に委ねる「委任」は認められないと思われます。  
(2) Cの責任について
  他方、Cについては、粉飾を知っている以上責任を免れることは困難です。したがって、Cとしてはこの時点で理事長に対し法令に従った是正対応を強く求める必要があります。それでも自らの意見が採用されない時には、監事に通知し、理事会を開いた上で異議を議事録に残すことが必要です。  
  なお、本件のような場合に、公表等をせず単に辞任するだけですと、問題を放置したものとして辞任後の損害の賠償まで求められることもありますので注意が必要です。  
  いずれにせよ、かかる場合の対応は極めてデリケートで難しいものであり、専門家への相談などを通じての慎重な対応が不可欠といえます。 

4 組合の役員としての心構え ~義務の程度は会社と同じ~ 

  以上のとおり、組合の理事となっている以上は、仮に非常勤だったり、他の理事に実務を一任していたとしても、本来理事長がとるべき責任を免れることはできません。また、専務理事においても、理事長の判断に従ったことを理由に免責されることはありません。  
  要するに、中小企業組合の理事の責任は(たとえ報酬が少なく、実質的にはボランティアであるとしても)会社の社長・取締役などと同じものなのです。  
  このことを理解していただき、仮に組合の法令違反行為、組合や第三者に損害を与えるような事実が判明した場合には、放置することなく、必ず弁護士などの法律の専門家に相談のうえ、適切な対応をお取り頂く必要があります。日頃から各県の中小企業団体中央会などを通じて、弁護士と気軽に相談できる体制を構築することをお勧めいたします。


(参考文献)
第一法規「中小企業等協同組合法逐条解説」(全国中小企業団体中央会編集)