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第21回 2012年6月号 企業不祥事の対応方法

弁護士 井上 晴夫

■プロフィール
井上 晴夫
日弁連中小企業法律支援センター 事務局委員(島根県弁護士会 所属)

Q.今月の相談

 当社(甲社)は加工食品の製造販売をしている業者であり、特に「国産大豆100%使用」とうたった味噌と醤油は大変評判がよく、大手小売業者を始め全国各地に納品しています。ところがこのたび、当社が大豆を仕入れていた業者(乙社)が、国産大豆として納入してきた商品に、長年に渡り中国産の大豆を大幅に混入させて納入していたことが判明しました。このことはまだ世間に知られてはいませんが、公になれば、このような業者から仕入れた大豆を使用した商品を製造してきた当社の信用にも傷がつきます。どのように対処すればよいでしょうか。

A.中国産の大豆を混入しているのに、国産大豆として販売するいわゆる産地偽装行為は、不正競争防止法上の「不正競争」(第2条第1項第13号)にあたります。甲社が乙社の不正を知りながら、「国産大豆100%使用」として販売していたのであれば、損害賠償の対象になったり、場合によっては刑事罰の対象になることもあります。甲社が乙社の不正を知らなかった場合は、刑事罰の対象にならなかったとしても、損害賠償請求を受ける可能性はありますし、そうでなかったとしても、甲社の信用を失墜させないために、事実関係の公表などそれなりの対応をとらなければなりません。

解 説

1 企業不祥事について
 昨今、製品事故や偽装、粉飾決算、社内での横領など、企業不祥事が多発しています。不祥事への対応を間違えれば、業績の悪化を招くどころか企業の存続そのものを揺るがすことになるケースもありますので、企業にとって、不祥事への対応は大変重要になります。
 今回は不祥事の一つである産地偽装への対応についてご説明いたします。

2 産地偽装に対する法規制
 いわゆる産地偽装行為は、「商品に原産地、品質、内容、製造方法」などについて、「誤認させるような表示をした」ものとして、不正競争防止法上の「不正競争」にあたります。
 このような「不正競争」があった場合、不正行為者の故意・過失の有無を問わず、営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者は、その侵害行為の停止または予防を請求することができます(同法第3条)。
 さらに、不正行為者に故意・過失がある場合は、営業上の利益を現実に侵害された者は損害賠償請求することができます(同法第4条)。
 これらの法規制は、例えば、模倣商品が販売されたことにより真正商品の売上が減少した場合など、正常な競業秩序を破壊して不正に顧客を獲得する行為を規制することで公正な競争秩序の維持・実現を図ろうとするものです。したがって、この法規制により損害賠償などを請求できるのは、競業事業者に限定され、一般消費者や相手方となった取引事業者は含まれません。これらの者は、民法の不法行為責任などの規定に基づいて別途損害賠償を請求することになります。
 また、これらの不正行為を行った行為者やその事業主などには、刑事罰が科せられることがあります(同法第21第2項、第22条第1項)。

3 本件でのあてはめ
 乙社は、国産大豆とうたいながら意識的に中国産の大豆を混入させてきた以上、競業事業者から不正競争防止法に基づき、「国産大豆」とうたうことの差し止め請求や、乙社の行為により売上が落ちたなどとの損害賠償請求を受けることになりますし、刑事罰の対象にもなります。また、甲社などの取引先からは不法行為に基づく損害賠償請求を受けるでしょう。
 一方、甲社の場合はどうでしょうか。
 乙社の不正行為を知りながら、乙社から仕入れた大豆を使用して製造した味噌や醤油を「国産大豆100%使用」として取引先に納品していたのであれば、乙社と同様の責任を負うことになるでしょう。
 しかし、甲社は、乙社の不正を知らないのが普通です。法的には、甲社の商品を仕入れていた業者から不法行為に基づく損害賠償請求を受ける可能性があります。ただ、それ以上に大切なのは、社会的な責任の取り方です。

4 甲社の対応方法について
 (1)甲社は、いわば被害者的な感覚を持ちがちですが、中国産が混入した大豆を使用しながら「国産大豆100%使用」とうたった商品を製造し販売してきた以上、取引先や消費者に対して何らかの責任を果たさなければなりません。
 甲社はいかなる対応をすべきでしょうか。
 ここで参考になるのは、企業不祥事に対して消費者がどのような意識を持っているかです。
 日本ブランド戦略研究所が2008年2月末頃に行った「企業・機関の事件・事故に対する消費者の意識調査(2)」によると、「事件・事故を起こした企業の信頼回復にとって有効であると思う対応は?」との問いに、最も多かった回答は、「情報を公開する」でした。2位は、「被害を被った人に対する補償を、誠意を持って行う」、3位は、「その後の経緯を継続的に公表する」、4位は、「事件・事故の温床となった組織を改革する」でした(※1)。
 さらに、同研究所が2010年1月末に行った「企業社員による不祥事に対する意識調査」によると、「企業側に問題があるものは何か」との問いに、多かった回答の1位は「事実を公表しない」、2位は「企業として事実確認をしない」でした。また、「社員の不祥事が発覚した時、企業が取るべきと思う行動は?」との問いに対しては、「事実関係の調査・公表」が最も多く、続いて「再発防止を社内に呼びかける」でした(※2)。
 このような調査結果から明らかなように、不祥事が発生した場合、企業としてまずなすべきことは、事実関係の調査をし、公表すること(情報公開)なのだといえます。事実を隠匿したり、虚偽の事実を公表したりして、信用の回復どころか、企業の信用が失墜し、代表者の逮捕や会社の倒産に追い込まれた事例がたくさんあることは皆さんもご承知の通りです。
 「誠実で正直」であることが、かえって企業の信頼回復には役立つのでしょう。損得勘定よりも、「人間として何が正しいか」という善悪を判断の基準に据えると、結果的には企業の繁栄に繋がるといえるでしょう。
 また、事実関係を調査し、公表した企業がその後なすべきこととしては、上記の調査結果からすると、被害者の方々に誠意ある補償をし、さらに事実関係を継続的に調査公表して、今後の再発防止策に繋げていくことが大切なようです。こうしてみると、「トップの交代」は意外にも、消費者から求められていることとはずれているようです。いわゆる「責任のとりかた」ということを考えさせられる調査結果です。
 (2)では本件において、甲社は、具体的にどのような対応をとればよいでしょうか。
 乙社の不正行為はまだ世間には知られていません。しかし、このまま黙っていてもいずれは世間の知れるところとなるはずですので、「誠実で正直な対応」ということからすれば、タイミングは大切ですが、甲社自ら、世間に公になる前に公表することが有効な場合も考えられます。もちろん、正確な事実調査に基づいて正直に公表することが大切です。方法としては、記者会見を開いたり、ネット上で公表するなど色々考えられますが、事態の重大さに加え、正確な事実と誠意を伝えることを考えて、方法を選択するとよいでしょう。
 そして、「誠意ある補償」という観点からすれば、すでに出荷した自社の商品を全品自主回収することも考えられます。経営者としては、勇気のいる決断ですが、市場からの信頼を回復しようと思えば、それくらいの覚悟をもって対応すべきであると考えます。
 また、再発防止策としては、乙社のような業者から仕入れていた仕入れ体制の改革が必要になるかも知れません。最近、仕入れ先の訪問を怠ったりしていなかったでしょうか。定期的に乙社を訪問して様子を確認しておけば、今回のことは防げたかも知れません。まずは、地道なところからでも改革に着手することが大切です。

※1 日本ブランド戦略研究所
第16回 企業・機関の事件・事故に対する消費者の意識調査(2)

※2 日本ブランド戦略研究所
第36回 企業社員による不祥事に対する意識調査

 

参考ページ> クレーム対応 その他 ~契約書の作成・チェック~