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第18回 2012年3月号 あなたの会社も無関係ではない! 原子力発電所事故による損害賠償請求について

弁護士 吉岡 毅

■プロフィール
吉岡 毅
日弁連中小企業法律支援センター 事務局長(第一東京弁護士会)

1 はじめに

 平成23年3月の東京電力福島第一、第二原子力発電所(以下「本件原発」と言います)の事故は、福島県をはじめとする地元の方々に甚大な被害をもたらしましたが、それにとどまらず、日本全国に影響を及ぼしています。特に事業者の場合、地元以外でも、福島県の特産の農産物を原材料として食料品を製造していたが、その農産物が出荷停止となったため製造できなくなった、あるいは、逆に、販売先の福島県の会社が避難指示で事業を停止したため売上が減少した、などという例が多数あります。
 このように、地元の方でなくとも、本件原発事故によって受けた損害については、東京電力に対して賠償を請求できるのですが、どのような場合に、どのような方法で賠償請求ができるのか、については、なかなかわかりにくいところがあります。そこで、今回は、事業者の原発事故による損害賠償請求について、お話ししたいと思います。(なお、ここで述べる意見などは、あくまで筆者個人のものであり、筆者が所属する組織・団体とは何ら関係がないことを予めご了承ください。)

2 どのような場合に賠償請求ができるか。

1 「原子力損害」であること
 原発事故によって受けた損害の賠償請求については、「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)という法律があります。この法律によれば、原発事故による放射性物質の放出によって生じた損害(「原子力損害」といいます)については、原発事業者(本件では東京電力)は、落ち度や設備の欠陥等の有無を問わず、賠償責任を負う、ということになっています。したがって、本件原発事故によって避難せざるを得なくなった場合などには損害賠償請求ができるのですが、本件原発事故によって発電能力が低下し、計画停電が発生したことによる損害、というのは、放射性物質の放出とは関係がないので「原子力損害」とは言えず、原賠法を根拠に賠償請求をすることはできませんので、注意が必要です。 


2 本件原発事故と相当因果関係を有する損害であること
 「本件原発事故と相当因果関係を有する」とは、社会常識的に見て、本件原発事故によって生じたと考えられる損害ということです。

3 中間指針について

(1) 損害の原因
 ただ、本件原発事故と相当因果関係を有する損害、というだけでは、あまりに漠然としていてわかりにくいことから、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が平成23年8月5日に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」と言います)を、同年12月6日に「同追補(自主的避難等に係る損害について)」を取りまとめました。中間指針では、原則として賠償の対象となると考えられる損害の原因の類型が示されていますが、事業者に関係する部分の概要は次のとおりです。

①本件原発事故に関してなされた政府の指示等による損害 例えば、避難指示が出されたためにその区域の工場が稼働できなくなった(製造業)、農産物が出荷制限を受けたために出荷できなくなった(農業)など。
②いわゆる「風評被害」 例えば、同じ県の別の地域の農産物Aが出荷制限を受けたために当方のAも売れなくなった(農業)、来日する外国人観光客が減少したために収入が激減した(観光業)など。
③いわゆる「間接被害」 避難指示により近隣の住民が避難したために商品が売れなくなった(小売業)、販売先が避難指示により休業したために当社への注文がなくなった(卸売業)、原材料製造元が避難指示によって休業したために当社製品の製造ができなくなった(製造業)など。

(2) 損害の内容
 中間指針では、右の「損害の原因」によって生じた、次のような損害が賠償の対象になるとされています。
①営業損害 これには、「減収分」と「追加的費用」が挙げられています。「減収分」は、収入・売上が減少したことによって失った利益、を意味します。「追加的費用」とは、本件原発事故がなければ負担しなかったであろう費用、例えば、商品の廃棄費用や事業拠点の移転費用等です。
②商品等に関する検査費用
③財物損害 例えば、避難指示がなされたために避難区域内の財産管理が不可能となった、あるいは、一定量以上の放射線に被曝したため、価値の全部または一部が失われた場合などです。

(3) 中間指針に記載のない損害
前述のとおり、中間指針は、原則として、本件原発事故と相当因果関係があり、賠償の対象となると考えられる損害の範囲の指針を示しているに過ぎません。したがって、中間指針に示されていない損害であっても、本件原発事故と相当因果関係があれば、賠償の対象となります。

3 賠償請求の方法について

 以上、賠償の対象となる損害について述べましたが、実際に賠償を受けるには請求をしなければなりません。現在、請求の方法として考えられる選択肢は、次の3つです。

1 東京電力への直接請求
 現在、東京電力に、直接、損害賠償を請求する方法としては、所定の請求書用紙を使用するのが一般的で、東京電力側と話合いがつけば、最も早期に支払いが実施される可能性が高いと言えます。
 ただし、東京電力の請求書用紙は11種類(執筆時現在。今後追加される可能性があります。)もあり、自分で取り寄せなければなりません。また、請求書の説明書等が大部で、内容も簡単ではありません。加えて、東京電力の算定基準、相談員による説明等が必ずしも中間指針に沿っていない部分があるようです。

2 紛争解決センターへの和解仲介の申立て
 これは、紛争解決センターに和解仲介の申立書を提出します。簡略化された申立て用紙が用意されていて、東京電力への直接請求に比べると、比較的簡単に手続きがとれ、手数料もかかりません。また、中間指針や裁判所の判例などに沿って和解案が出されるので、適正な結論が得られると考えられます。
 しかしながら、東京電力が和解案を受諾しない限り和解は成立せず、時間がかかることも考えられます。

3 訴訟
 東京電力を被告として訴訟を起こす方法です。訴訟を起こす裁判所は、地元の裁判所を選択することが可能であり、内容についても、裁判所による適正な判断がなされます。また、判決が確定すれば、東京電力は支払いを拒否できないというメリットもあります。
 他方、裁判所の審理には、相当程度の期間(少なくとも1年程度)が必要となり、時間がかかります。また、訴訟を起こすこと自体に手数料が必要で、かつ、現実的には弁護士に依頼しないと困難であり、費用の負担が発生します。

4 方法の選択
 以上のとおり、これらの賠償請求の方法には、それぞれ、メリット・デメリットがあり、どれがいいかは、その事情によって異なってくると思われます。

4 まとめ

 原発事故の影響を受けた場合でも、損害賠償の請求ができるか否か、あるいは、どの請求方法を選択すべきかについては、それぞれの事情に応じて専門的な判断が欠かせません。したがって、早めに、損害賠償の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
  現在、日本弁護士連合会の「ひまわりほっとダイヤル」では、本件原発事故による損害賠償に関連するものを含め、東日本大震災関係の相談については、初回面談30分まで無料で実施しているので、これを利用してみるといいのではないでしょうか。

 

参考ページ> 東日本大震災に関するご相談について