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第6回 2011年3月号 「倒産」についての傾向と対策

弁護士 大澤 康泰

■プロフィール
大澤 康泰
日弁連中小企業法律支援センター 事務局委員(東京弁護士会 所属)

1 倒産とは何か

  「倒産」は法律用語ではないため、厳密な定義はない。一般には企業が弁済期にある債務について一般的かつ継続的に弁済できなくなっている状況を指す言葉として用いられているようであり、これは法律用語の「支払不能」に類する概念といえる。
  また、6カ月間に2回の不渡りを出して銀行取引停止となった場合、代表者が倒産を認めた場合、裁判所に特別清算・破産・民事再生・会社更生を申し立てた場合等、「支払不能」が対外的に明らかになることを「倒産」と呼ぶ場合もあり、これは法律用語の「支払の停止」に類する概念といえる。  
  本稿では、以下、これらを区別せずに「倒産」と呼ぶこととする。 

2 どういった場合が倒産か

(1) 検討の方向性
  黒字倒産する企業がある一方で債務超過のまま事業を継続する企業もあり、業績不振は倒産の直接の原因ではない。したがって、企業の倒産可能性の高さ(=財務の安全性の低さ)は、基本的には資産負債バランスというストックの面から判断されることとなる。しかし、資産負債バランスの悪化は業績不振からもたらされるものでもあることから、フローの面からの検討も必要である。  

(2) 具体的な判断指標
  安全性に関する代表的な財務指標としては、ストック指標(貸借対照表科目から計算される指標)では流動比率、フロー指標(損益計算書科目から計算される指標)ではインスタント・カバレッジ・レシオが上げられる。  
  流動比率とは流動資産(1年以内に現金化を予定する資産)÷流動負債(1年以内に資金流出が必要となる負債)のことである。200%以上が理想とされており、これが100%未満の場合、固定資産の現金化や短期借入金の借換え等が行えない限り、1年以内に倒産状態に陥る可能性が高いということになる。逆に、たとえ債務超過の企業でも、総債務に占める固定負債の割合が高い企業は、必ずしも倒産可能性が高くないことになる。具体的には、債務の多くが経営者からの借入金である場合等があげられる。  
  なお、流動比率を適正に計算するためには、回収不能な貸付金・売掛金や現金化不能な在庫等を実質価値まで減価する必要がある。  
  一方、インタレスト・カバレッジ・レシオとは事業利益(=営業利益+受取利息配当金等)÷支払利息割引料のことである。8倍から10倍程度が理想とされており、これが1倍未満の場合、事業の利益で現在の金利支払すら賄えていないことになるため、その状況が変わらない限り、いずれ当該企業は倒産することになる。 

3 倒産処理の方向性

(1) 清算か再生か
  倒産状態となった場合、まず判断しなければならないことは、再生と清算のどちらを選択するかということである。  
  この点、大まかにいえば、資産負債バランスの悪化が、市場縮小や競争力低下、人件費上昇等の恒常的な原因に基づく場合には清算の方向を検討すべきこととなり、資産負債バランスの悪化が収益性の低下ではなく大口売掛金の貸倒れや設備投資の失敗等といった一過性の原因に基づく場合には再生の方向を検討すべきこととなる。具体的には、営業利益の黒字化が見込めない場合には原則として清算の、経常利益の黒字化が見込める場合には原則として再生の方向で検討すべきといえるだろう。そのどちらでもない場合は、より細かな検討が必要となる。  
  なお、再生を目指す場合には、とりわけ早期の決断が必要である。資産負債バランスの悪化が一過性の原因に基づく場合でも、そのための資金不足から過度の設備投資不足等が生じ、それによって競争力が低下してしまうと、再生が不可能となる恐れがあるからである。  

(2) 私的整理か法的整理か
  次に判断すべきは、私的整理を選ぶか法的整理を選ぶかである。私的整理とは当事者間の協議による倒産処理の方法であり、法的整理とは裁判所の監督の下に行われる倒産処理の方法である。私的整理は簡便にすみ、費用も安くすむ場合が多いが、関係者全員の合意が必要なことから、債権者が多い場合や多額の債務免除が必要な場合の実行は困難である。  
  一方、法的整理は法的強制力の下に倒産処理が行えることから関係者間の利害調整は容易だが、費用と手間がかかる。また、私的整理では一部債権者(例えば金融機関)のみを対象として密行的に実行できるが、法的整理は原則として取引債権者を含めた全債権者が対象とされ、また手続開始が公表されるため、その後の事業継続に支障が出る場合がある。  
  したがって、再生方向の場合には、いずれの倒産処理手段を選択するかの判断も、重要な意義を持つこととなる。具体的には、インタレスト・カバレッジ・レシオが1倍未満の場合には、債務免除を伴わない限り再生は不可能であるから、原則として法的整理(民事再生・会社更生等)の方向を検討すべきと考えられる。 

4 倒産処理の具体的手段

(1) 再生の場合
  再生のために利用できる代表的手段としては以下のものがある。  

ア 私的整理
▼中小企業等金融円滑化法の弁済猶予
  中所企業等金融円滑化法は、金融機関に対し、中小企業等から借入金の弁済猶予を要請された場合に、これに応じる努力義務を課している。本法施行後、金融機関に対して合理的な弁済計画を示して申請を行った企業の概ね98%が、一定期間の元本弁済猶予を得られているようである。ただし、これだけでは単なる先送りにしかならない点には留意が必要である。  
▼私的整理ガイドライン等の利用
  私的整理ガイドラインとは、金融機関との協議により債務の弁済猶予・一部免除を得る際の取決めである。この制度は、利用が公表されないというメリットがあるが、関係金融機関全員の同意が必要であり、また債務免除を得るには民事再生等よりも相当に高い弁済率を保障し、かつ原則として経営者の退陣が必要となる等のデメリットがある。なお、類似の機能を果たす制度として中小企業再生支援協議会スキーム、事業再生ADR等がある。  

イ 法的整理
▼民事再生
  民事再生とは、債権者の頭数・債権額の過半数の同意を得て、債務の強制的な弁済猶予・一部免除を得る法的手続である。手続の一応の完了まで長くて半年程度であり、債権者全員の同意を得る必要がなく、また原則として従前の経営者が経営を継続できる等のメリットがあるが、手続開始が公表されること、担保権の実行を留めることができないこと等のデメリットがある。  
▼会社更生
  会社更生も法的手続である点は民事再生と同様であるが、担保権の実行を留めることができる等、再生手続としては民事再生よりもはるかに強力である。もっとも、会社更生は、手続の一応の終了まで数年単位の時間がかかること、多額の費用がかかること、原則として経営陣が退陣しなければならないこと等のデメリットがある。  

(2) 清算の場合
  倒産状態における清算のために利用できる代表的手段には以下のものがある。  

ア 私的整理(内整理)
  内整理とは、債権者と交渉して債権の一部放棄を受け、残りを弁済した上で企業を清算するという任意整理の方法である。簡便な方法ではあるものの、手続の適法性・公平性が担保されない、債権者に寄付金課税が生じる等の問題がある。なお、内整理名目で事件屋が企業や経営者を食い物にする事例が多々あるため注意が必要である。  

イ 法的整理
▼特別清算
  特別清算とは、総債権額の3分の2を有する債権者の合意を得て、債務を強制的に一律カットして債務超過を解消し、企業を清算するという法的手続である。事前に上記の合意が得られる場合には破産より安価でかつ迅速な処理が可能だが、合意が得られない場合は破産に移行するため、かえってコスト高となる。  
▼破産
  破産とは、裁判所が任命する破産管財人が企業の資産を換金し、破産法の定める優先順位に従って債権者に分配するという法的手続である。債権者の協力がなくても清算できるメリットがあるが、第三者である破産管財人が処理するため手続費用がかかる、資産換価額が低くなりがちである等のデメリットがある。 

まとめ

  以上でざっと見ただけでも、倒産処理にもさまざまな方法があり、企業の状況等に応じて最適な方法は異なる。また、早期の段階であればある程、取りうる方法の幅は広いものとなる。したがって、倒産の兆候を感じたら、早めに専門家に相談し、何が最善の手段かを早めに把握することをお勧めしたい。

 

参考ページ> 企業再生・清算