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第19回 2012年4月号 優越的地位の濫用とその対処法~大手小売業者との取引を参考に

弁護士 樽本 哲

■プロフィール
樽本 哲
日弁連中小企業法律支援センター 事務局次長(第一東京弁護士会 所属)

Q.今月の相談

当社は日用品の製造卸業者であり、地元の大手小売業者に長年商品を納入しています。これまで、納入先からの要請で、特売日等のイベント開催のたびに、売り場への商品の搬入、陳列、販売のために従業員等を無償で提供することが習わしとなってきました。納入業者として疑問を感じながらも納入先との取引継続と商品の販売促進のために我慢してこれに応じてきました。ところが、納入先も苦しいのか、最近になって、割引販売した商品の納入価格の一律数%カットと、売れ残り商品の返品を要請してきました。大口の取引先ですので、拒否することで取引を縮小、停止されてしまうと大変困ります。納入先の要請に応じるほかないのでしょうか。

A.ご相談にある小売業者の行為は独占禁止法によって禁止された優越的地位の濫用行為にあたるおそれが高く、納入業者は安易に要請に応じるべきではありません。万一、小売業者がこれらの要請を実行しようとしたときは、弁護士に相談のうえ、違法行為の可能性のあることの通知や公正取引委員会への相談・申告といった対処法を通じて、違反行為を未然に防ぐ努力をすることが大切です。

解 説

1 優越的地位の濫用に対する法規制
独占禁止法(正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます)は、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的として、公正かつ自由な競争を制限するおそれのある事業者や事業者団体の様々な行為を規制しています。今回取り上げた取引の当事者間における優越的地位の濫用行為は、同法第19条に定める「不公正な取引方法」の一つとして、禁止されています(※)。
平成21年の同法改正により、公正取引委員会は、優越的地位の濫用行為を継続して行った事業者に対しては、違法行為の是正等を命じる排除措置命令に加え、違反期間中(3年を超える場合は3年を限度とする)の売上額の1%に相当する額の課徴金納付命令を発令できることになりました。すでに外資系の玩具販売店、地方の大手スーパーおよび業界第2位の家電量販店に対して、数億円から数十億円もの課徴金納付を命じた実例が出ています。

2 禁止される行為とその類型
 優越的地位の濫用行為とは、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して(優越的地位)、正常な商慣習に照らして不当に、法第2条9項5号イロハのいずれかに該当する行為をすること(濫用行為)をいいます。
 具体的には、①商品の購入または役務の利用の強制、②協賛金等の負担の要請、従業員等の派遣の要請、その他経済上の利益の提供の要請、③商品または役務の受領拒否、返品、支払遅延、減額、取引の対価の一方的決定、やり直しの要請、その他取引条件の不利益設定等がこれにあたります。
 ご相談のケースでは、納入先である大手小売業者が継続的に無償で従業員等の派遣を受けていたわけですから、②の類型に該当する疑いが強いといえます。また、代金減額と返品の要請をしてきた点は、③の類型に該当する可能性が高いといえるでしょう。
 これらの行為があったときに、さらにどのような条件が満たされれば違法となるのかについては、公正取引委員会の平成22年11月30日付け「優越的地位に関する独占禁止法上の考え方」(以下「考え方」)が参考になります。
 まず、「優越的地位」に関して、この「考え方」によると、「甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙が受け入れざるを得ないような場合」をいい、その判断においては、個別具体的な事情、とりわけ甲の乙に対する取引依存度、甲の市場における地位、乙にとっての取引先変更の可能性、その他甲と取引することの必要性を示す具体的事情を考慮するものとされています。
 誤解を恐れずに要約すると、様々な理由によって特定の取引先と取引を行う必要性が高いために、その要請を断れないほど取引先の立場が強い場合がこれにあたります。
 「考え方」に記載された<具体例>では、業界第2位のコンビニエンス・ストア・チェーンや総資産額第1位の銀行などが取引先との関係で優越的地位にある者とされていますが、より小規模の事業者でも排除措置が命じられた例がありますので、ご相談のケースでも納入先の小売業者の優越的地位が肯定される可能性があります。
 次に、「濫用行為」ですが、「考え方」によれば、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認される正常な商慣習に照らして不当と判断されるものをいいます。上記の①から③の各行為は、濫用行為とされる可能性の高い行為を類型化したものですが、これらが公正な競争秩序の維持・促進の立場から正当なものと是認される場合には、濫用行為には該当しません。
 ご相談のケースでは、納入業者は、納入先の小売業者から従業員等の無償派遣を要請され、これに応じてきていますが、そのような商慣習が現にあるというだけで納入先の行為が正当化されるわけではありません。従業員等の無償派遣による負担が納入業者にとって販売促進につながるなどの直接の利益の範囲内に収まっており、かつ、納入業者としても自由な意思で納入先の要請に応じてきたような特別の事情がない限り、小売業者の要請は、正常な商慣習に照らして不当に納入業者に不利益を与えるものとして、濫用行為と判断される可能性が高いでしょう。
 納入先からの商品の納入価格の一律数%カットと売れ残り商品の返品の要請についても、事前に当事者間の契約書等で代金減額や返品の条件についての自由な合意が成立している場合や、納入業者の債務不履行、商品の瑕疵等の特別の事情がない限り、濫用行為にあたるといってよいと考えられます。

3 優越的地位の濫用行為への対処法
 優越的地位の濫用行為に該当するか否かは、取引実態に即して個別具体的に判断されますので、事業者が判断することは容易ではありません。仮に違法行為に該当する可能性が高いと考えられるケースでも、取引継続への期待や制裁の可能性を考慮するなどして、泣き寝入りしてきたというのが実情でしょう。しかし、それでは自社の利益や雇用を守ることはできません。
 中小企業がご相談にあるような要請を実際に受けたときに、どのような対処が可能か考えてみましょう。
 まず、取引先との契約書に取引条件が明示されていれば、それに反するような要請は拒絶できます。契約書がなくても、民法や商法上義務のないことを強要されたときは拒絶できますね。とはいえ、優越的な地位にある相手ですので、面と向かって言いにくい、というときには、専門家である弁護士の助力を得て交渉に臨むことが考えられます。
 公正取引委員会に通報したり要請を拒んだことを理由に不利益な取扱いをすることは、それ自体独占禁止法に違反する違法行為です。取引先が制裁をちらつかせてきたときは、迷わず公正取引委員会に相談・申告することを検討するべきです。
 近年、公正取引委員会が積極的に優越的地位の濫用行為の摘発を行っていることは、取引上の地位が勝る相手と取引をすることの多い中小企業にとっては追い風といえます。優越的地位の濫用行為を続けても決して得にはならないということを理解してもらえるまで、ねばり強く交渉したいものです。

※大規模小売業者に関しては、法第2条9項6号に基づく特殊指定として、平成17年5月13日公正取引委員会告示第11号「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」が存在する。

 

参考ページ> 契約交渉 その他 ~契約書の作成・チェック~