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第16回 2023年2月更新 中小企業活性化協議会を利用した事業再生

日弁連中小企業法律支援センター 事業再生PT
この記事の掲載情報は、作成時点(2023年2月現在)のものです。

1 事業再生について

 中小企業の事業を再生する方法としては、大きく分けると裁判所を利用する場合と裁判所を利用しない場合の2つに分けることができます。
前者は法的整理と呼ばれているのに対して、後者は私的整理(任意整理)と呼ばれています。
前者では負債の整理方法が法律で定められているのに対して、後者では負債の整理方法が法律で定められていませんので、あくまでも関係する当事者の合意によって 負債の整理方法を定めることになります。
一般に私的整理は法的整理と比較して、原則として対象債権者が金融機関に限定されており、事業価値の毀損が生じないというメリットがあるとされています。
今回は、私的整理の中でも公的機関が関与する中小企業活性化協議会を利用した事業再生についてご説明します。

2 中小企業活性化協議会とは?

 従前は、2003年に設置された中小企業再生支援協議会が中小企業者を支援してきましたが、2022年4月、同協議会が経営改善支援センターと統合し、「中小企業活性化協議会」が設置されました。

 中小企業活性化協議会は、中小企業の活性化を支援する「公的機関」として47都道府県に設置されており、全国の商工会議所等が運営しています。中小企業活性化協議会が地域のハブとなり、金融機関、民間専門家、各種支援機関と連携し、「地域 全体での収益力改善、経営改善、事業再生、再チャレンジの最大化」を追求していま す。

 中小企業活性化協議会の一覧は中小企業庁のウェブサイト
(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/download/contact_list.pdf)
で見ることができます。 中小企業活性化協議会では、事業再生に関する知識と経験とを有する専門家(弁護士、金融機関出身者、公認会計士、税理士、中小企業診断士等)が統括責任者 (プロジェクトマネージャー)、統括責任者補佐(サブマネージャー)として常駐し、中小企業からの相談を受け付ける体制を整えています。
そして、中小企業からの相談を受け、事業再生に向けた助言や支援施策・支援機 関を紹介するにとどまらず、弁護士の紹介等を行っています。この段階を第一次対応 と呼んでおり、この段階での費用は無料となっています。
さらに進んで事業性等の一定の要件を満たす場合には再生計画の策定支援を実 施しています。この段階を第二次対応と呼んでいます。

3 第二次対応について

 このように、相談のあった中小企業が事業性等の一定の要件を満たす場合には、第二次対応が開始されます。
これは、地域ごとに運用が若干は異なっているものの、大きな流れは次のとおりになっています(詳細は、中小企業庁が公表している「中小企業活性化協議会実施基本要領」に記載されています)。
①統括責任者(統括責任者補佐)が相談のあった中小企業からヒアリングを行う。
②メイン行から意見聴取を行い、負債整理について協力する意思があるかどうかを確認する。
③メイン行の協力意思があれば、対象となる中小企業の財務、事業の調査(デューディリジェンス)を行う。
④財務、事業の調査結果に基づいて負債整理案を含む事業再生計画を立案する。
⑤金融機関を中心として負債整理の対象となる債権者の債権者会議を開催する。
⑥債権者会議で負債整理案を含む事業再生計画について決議を行う。
⑦決議内容に基づいて事業再生計画が履行されるように助言、支援を行う。

4 中小企業活性化協議会を利用するメリット

 中小企業活性化協議会は、私的整理の中でも公的機関が関与することから公平性や透明性が担保されるため、対象となる金融機関はこの手続に協力する姿勢を示すのが通常です。
 また、原則として金融機関のみを対象債権者とすることから、信用不安による事業の劣化を防止することが可能になる点でメリットがあります。

5 第二会社方式による事業再生

 委員が、中小企業再生支援協議会当時に関与した案件を紹介します。

 その案件では、第二会社方式による負債整理の方法で事業再生をしました。 対象の中小企業は、事業拡大に伴う積極投資による負債の増大で負債の返済に行き詰まり、中小企業再生支援協議会(当時)に相談が持ち込まれ第二次対応をすることになりました。
 この中小企業は、複数ある営業所のうち収益のよい営業所のみを残して事業を行えば、従業員の雇用を確保しつつ事業を継続することが可能でした。
 そこで、取引先に対する負債はカットすることなく、金融機関に対する負債について、破産の場合よりも多い額を支払うという内容の事業再生計画を立案しました。
 この事業再生計画に基づいて次の流れで手続をとりました。
①スポンサー企業が事業の受け皿となる新会社を設立する。
②新会社に会社分割の方法で収益のよい営業所の事業を吸収させる。
③新会社が主体となって吸収した営業所の事業を行う。
④会社分割の対価、資産を処分した結果得た金銭を破産手続と同様の優先順位により金融機関等に対して支払う。
⑤対象の中小企業を自己破産によって清算する。
⑥会社分割の約2カ月後に代表者、役員が自己破産の申立てをする(代表者、役員は保証債務が多額であり、返済の見込みがなかったことから自己破産をするほかな い状況にありました)。
 この事案では、中小企業再生支援協議会(当時)の担当者が金融機関出身者であったため、金融機関の担当者が稟議を上げるにあたって問題となる点を十分に理解していました。
 そして、この問題点を解決するにはどのような方法があるのかを熱意をもって検討し、金融機関相互間での意見の相違について、相違点を乗り越えるべく継続的に調整、説得を行ったため、最終的には全金融機関から事業再生計画の同意を得ることができたというものでした。
 このように、中小企業活性化協議会が関与する私的整理では、各専門家が知恵を出し合ってよりよい方法を検討した上で事業再生計画を立案し、調整することから、中小企業にとっては非常に心強い手段になっています。
 また、仮に第二次対応にまで至らなかったとしても弁護士等の専門家を紹介してくれますので、中小企業にとってはとても心強い制度になっています。

6 最後に

 中小企業の事業再生は、弁護士等の専門家に対する相談の時期が早ければ早いほど、とりうる手段が多くなる上に、事業再生が円滑に行われるという点でメリットがあります。特に早期の相談であれば、交渉が難航しがちな負債の放棄を含む事業再生計画ではなく、負債の返済条件を変更すること(リスケジュール)を活用した事業再 生計画を立てることが可能になります。
 弁護士などの専門家に相談した時点で1週間以内に手形が不渡りになるという切羽詰まった状況では、往々にして手持ち資金が底をついてしまっており、とりうる手段は自己破産以外にはないというのが多数の実情です。
 自己破産は、事業に従事している従業員の生活の基盤を失わせてしまうものであり、弁護士としてもできる限り避けたいと思って日々業務を行っています。もっと早期に相談してくだされば、事業譲渡等の適切な手段をとることで、突然の自己破産を避けた上で事業を継続できたと感じる事案が少なくないのが実際のところです。
 最近では、第二会社方式による負債整理について、メイン行から勧められて中小企業活性化協議会に相談した事例もありますので、事業再生をするために、早期に中小企業活性化協議会に相談してみてはいかがでしょうか。

 

参考ページ> 企業再生・清算