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第10回 2011年7月号 被災地宮城における弁護士の活動、中小企業の現況、支援機関の活動及び 法律相談の傾向について

弁護士 鈴木 忠司

■プロフィール
鈴木 忠司
日弁連中小企業法律支援センター 委員(仙台弁護士会 所属)

3・11東日本大震災による想定を超える大津波は、宮城県沿岸部の北から南までのすべてを襲った。
  気仙沼市(鰹・秋刀魚の全国有数の水揚げ基地)、南三陸町(牡蠣、帆立、鮑、ホヤ、ワカメ、銀鮭等の養殖が盛ん)、女川町(金華鯖、秋刀魚の水揚げが多い)、旧雄勝町(硯石の産地)、旧鮎川町(捕鯨基地)、石巻市(漁業、水産加工業が盛んで、工業港に製紙会社の主力工場がある)、東松島市(自衛隊航空基地を有し、農業者、中小商工事業者が多い)、塩釜市(全国有数のマグロ水揚げ基地であり、多数の蒲鉾工場がある、石油コンビナートの爆発)、七ヶ浜町(海苔の養殖が盛んで、文字どおり七つの浜が壊滅)、多賀城市(仙台市のベッドタウンで、道路1本隔てた沿岸部の商店、住宅は、軒並み1階が津波に襲われた)、仙台市宮城野区(仙台新港を控え、工場が多数存在し、ビール工場のタンクは破損した)、仙台市若林区荒浜(海水浴場を擁し、広大な田んぼが海水に浸かった)、名取市閖上(小さな漁港ながらも、赤貝を築地に供給し毛蟹も隠れた名産)、岩沼市(仙台空港を擁し、大中小多数の事業所が集積し、広大な田んぼも広がっていたが海水に浸かった)、亘理町、山元町(はらこ飯、ホッキ飯が有名で、亘理イチゴはブランド商品)といった太平洋沿岸部の町々は、壊滅的な被害を受けた。
  6月1日の宮城県警の発表によれば、宮城県内の死者は9148人であり、行方不明者は5120人、避難者約2万6100人である。

1 被災地宮城における弁護士の活動

  3・11東日本大震災から12日経過した3月23日から仙台弁護士会は、震災電話無料相談を開始した。毎日100件を超える相談が寄せられ、夜間相談を追加した4月18日には、1日の相談件数が215件に達した。5月31日までの総相談件数は、5976件に上っている。 
  また、被災自治体からの要請を受けて、3月25日から避難所等への出張相談が開始された。4月29日、30日、5月1日の3日間は、他の弁護士会から延べ300人の弁護士が、15市町村延べ95カ所の避難所等の相談場所において相談を実施し、966件の相談があった。5月31日までの総相談件数は、4838件に上っている。  
  さらに、仙台弁護士会紛争解決支援センターでは、4月下旬から、申立手数料、相手方手数料を無料、仲裁人が当事者の利便性が高い場所に出張しての期日開催も可能な震災ADRの運営を開始し、5月31日までの申立件数は103件となっている。申立人、相手方が共に中小企業である案件は3件であり、いずれかが中小企業である案件は57件となっている。 

2 被災地宮城における中小企業の現況

  宮城県内には6つの商工会議所と33の商工会(69事業所)がある。このうち震災で大津波に襲われた太平洋沿岸部には、仙台、気仙沼、石巻、塩釜の4商工会議所と、女川町商工会など11商工会がある。 
  宮城県商工会連合会によると、県内33商工会所属の2万3794会員のうち、43・9%の1万417会員が被災。被害が甚大だった沿岸部の11商工会では、被害を受けた事業所は50・28%となる。また、全体の被災会員の2・5%に当たる586会員が廃業済みか廃業を検討していた。  
  仙台商工会議所では7260会員がいる中、4月中旬までに電話や巡回で会員の被災状況を調査した。連絡の取れた5442会員のうち、45・8%の2494会員が震災により何らかの被害を受けたと答えた。接触できなかった291会員は、津波により事業所の建物が消失していた。また面談できた1614会員のうち事務所の全壊や従業員の死亡・行方不明など「被害大」は180会員だった。一方、回答した91・4%の会員が営業を再開していることも分かった。  
  気仙沼会議所(1523会員)でも会員の被災確認を実施しているが、「会員と電話がつながらないケースも多く、調べ切れていないのが実情」。ただ、津波の届いた地区などから推計すると、約1500会員のうち、72―73%の事業所が全壊、半壊、一部損壊の被害を受けたと想定できるという。さらに間接被害を含めれば、ほとんどの事業所が被害を受けていると考えられる。  
  石巻・塩釜の両会議所は現時点で会員の被災状況を把握できておらず、被害規模はさらに拡大する見通しである。 

3 震災後の中小企業支援機関の活動

  仙台商工会議所は、震災後速やかに会議所1階にて、緊急経営相談窓口を設け、経営指導員・中小企業診断士が、窓口相談(3月15日から5月15日まで69件)と電話相談(3月15日から5月18日まで790件)に当たった。相談内容は、いずれも金融70%前後、雇用17%前後であった。また仙台駅前ビルに弁護士を含む士業(社会保険労務士、司法書士、税理士、不動産鑑定士、土地家屋調査士)及び日本政策金融公庫とタイアップして中小企業合同相談窓口(3月18日から5月18日まで1157件)を設けた。相談内容は、金融(融資、返済猶予)67%、雇用(解雇、維持)11%、法律1・6%であった。更に商業団地に現地緊急経営相談所(3月28日から4月28日まで139件)も設けた。相談内容は、金融59%、雇用28%、法律が2・9%であった。純法律的な問題はさほど多くない傾向があった。 
  宮城県商工会連合会も、本会及び県下33商工会で特別相談窓口(3月16日から5月31日まで2617件)を設置した。相談内容は、支援制度の照会20%、資金繰り34%、経営相談13%、情報提供16%であった。  
  宮城県中小企業団体中央会は、構成員が団体であるが、560の組合員、55の2種会員を抱えているが、その内550団体の安否を確認し、39団体が壊滅的な被害を受け、60団体が事業継続に支障を来たしているとのことである(5月10日現在)。中央会も、災害復旧支援移動相談会(4月25日から5月10日まで86件)を弁護士も含めて8地区11カ所で開催した。相談内容は、各種支援5件、金融11件、労働13件、法律5件、税務17件、年度末事務12件、その他23件であった。 

4 中小企業の法律相談の傾向

  さまざまな相談の機会において、中小企業から弁護士へは、純法律的でない融資、労災認定、雇用維持等の問題の他、次のような法律問題が相談として寄せられている。 
①リース―リース物件が流されたが、リース料は支払わなければならないか。
②車両、タイヤ等の預り品―修理や車検で預っていた車が津波で流されたが、賠償すべきか預っていたタイヤが津波で流されたが賠償すべきか。
③テナントビルの賃料―震災による店舗の被害、ライフラインの途絶により店の営業ができないテナントがあるが、通常の家賃を請求してよいか。
④テナントの立退き―ビルのオーナーから、建て直すから立ち退いて欲しいと言われているが、立ち退く必要があるか。その際立退料はもらえるか。
⑤土地の賃貸―賃借地上に商業施設を建て営業していたが、今後の営業の見込が立たないので、土地賃貸借を解除できるか。
⑥受取手形が津波で流されてしまった、どうしたらよいか。逆に売掛金の回収ができず、手形決済のための当座預金が枯渇してしまった。救済方法はあるか。
⑦一人株主の代表取締役が津波で死亡したため取締役が2人になり欠員が生じた。取締役の新たな補充や、代表取締役の選任はどうしたらよいか。

5 最後に

震災後3カ月が経過したが、事業を継続する企業については、その存亡をも含めてまだ顕在化していない法的問題も多くあると感じられるところであり、今後は中小企業にも、①津波で何もなくなった企業、②損壊はしたが、事業所、工場は残っている企業、③損壊は免れたが、取引先を失い間接被害を受けている企業と大きく3類型に分けられると思われるので、それぞれの類型に応じた法的対応が求められると考えられる。

参考ページ> 東日本大震災関連情報