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第11回 2011年8月号 会議をちゃんとやっていますか?~株主総会、取締役会の必要性

弁護士 河村 直樹

■プロフィール
河村 直樹
日弁連中小企業法律支援センター 事務局委員(愛知県弁護士会 所属)

1 はじめに

  企業の形態の中で最もポピュラーな会社形態が、取締役会の設置された株式会社です。
  では、すべての株式会社で株主総会や取締役会(併せて「諸会議」といいます)が開かれているのでしょうか?答えは「No」です。決算にあわせて税理士と相談のうえ、「株主総会をやったこと」にして議事録だけを作ったりしたことはありませんか?多くの中小企業では、取締役会も株主総会も開かれていないのが実態です。さらに、社長の権限が極めて強い「ワンマン会社」(暫定的に「総議決権数のうち3分の2以上の議決権が社長一人に集中しており、特別多数決を要する株主総会決議事項も含め社長の一人の意思を通すことができる会社」と定義します)などでは、取締役会がそもそも開かれないことも珍しくありません。  
  このような実態から、諸会議を開かなくても大丈夫なのでしょうか?答えは「No」です。そこで、本稿では、特に中小企業において見落とされがちな諸会議を開かないリスク、すなわち、諸会議の必要性について説明させていただきたいと思います。 

2 株主総会と取締役会の基本的事項

(1) 株主総会とは
  株主総会とは、「株主の総意に基づき会社の意思決定を行う機関」です。取締役会設置会社においては、日常業務的な決定は取締役会で行うこととされていますが、重要事項については、株主総会で決定をしなければならないこととされています。取締役会設置会社において株主総会での決議事項とされている主なものとしては、①定款変更、解散、合併など会社の組織・事業の基礎的変更に関する事項、②計算書類の承認や株式の第三者有利発行など株主の重要な利益に関する事項、③取締役など役員の選任・解任に関する事項、④役員報酬の決定など役員の専横防止に関する事項、⑤事後設立など法規制の潜脱防止に関する事項、などがあげられます。  

(2) 取締役会とは
  取締役会とは、取締役の全員をもって構成され、その会議における決議によって業務執行に関する会社の意思を決定し、かつ、取締役の職務執行を監督する機関をいいます。  
  取締役会は、会社の業務執行を決定する権限を有していますが、ここでいう会社の業務とは、定款変更や合併・解散といった根本的・基本的事項ではなく、どちらかと言えば日常的な業務執行において現れる諸般の事項です。とはいえ、非公開会社である場合の株式の譲渡承認、重要な経営課題についての方針決定、株主総会の招集決定などの重要事項も取締役会の決定事項とされている点は見逃せません。 

3 具体的なリスク

(1) 株主総会を開いていないと…
  それでは、株主総会をきちんと開いていないとどうなるのでしょうか? 先に述べたように、中小企業では、株主総会を開かず議事録だけ作成して「株主総会があったことにする」例が少なくありませんが、これは株主総会決議不存在確認の訴えの対象となります。不存在確認の認容判決が下ると、最初からその決議がなかったものと扱われることになります。例えば、役員報酬を月額100万円から200万円に増額する旨の決議が不存在となれば、決議前の100万円の報酬だったことになってしまい、毎月の差額分100万円を会社に返還する必要がでてきます。取締役選任決議が不存在となった場合などは、その取締役の行った行為が全て覆され会社の経営に大混乱をもたらしてしまいます。  
  しかも、この訴えについては提訴権者や提訴期間に制限がありませんので、例えば、ごく少数の株式しか持っていないような株主が、忘れた頃に訴えてくる可能性なども十分あるため、株主総会をきちんとやらないと非常に大きなリスクを背負ってしまうことになるわけです。私の経験例では、同族会社中の人間関係の悪化から株主総会決議不存在確認の訴えが提起されてしまい会社が疲弊してしまった例などがありました。株主総会などやらなくても以心伝心で会社運営できると思っているこのような人間関係こそが、実は最大のリスクの巣窟なのかもしれません。  

(2) 取締役会をしないと…
  取締役会の決議事項について取締役会の決議を経ない場合、これも無効となってしまいます。この中でも、中小企業において特に重要なものとして、利益相反取引の許可、競業取引の許可があげられます。取締役会を開催しないということは、社長がワンマンで仕切っている可能性が高いわけですが、これらの問題取引を手続を経ずに行ってしまい、事後的に問題となる事例が多々見受けられます。私の経験上も、会社の代替りに際し、子に会社を譲ったら、利益相反的に会社から借りた貸し金の返還を突然求められた事例もありました。ワンマンであればあるほど、自らが退いたとき、押さえつけていたものが自分に跳ね返ってしまうものなのです。 

4 株主総会と取締役会を開こう!!

(1) 株主総会を開こう!!

ア 以上述べたように、株主総会は会社にとって基本的かつ重要な事項の決定権限を有しており、もしこれを開かなかった場合、株主総会決議不存在確認の訴えによって会社の根幹が揺るがされてしまう場合も少なくありません。株主総会を開くというちょっとの労力をケチったために、最終的に会社が倒産せざるを得ない状態に陥る場合もあるのです。このような事態を避けるためにも、株主総会は是非開いていただきたいものです。

イ どうやって開けばいいの?
  では、株主総会はどうやって開いたらよいのでしょうか? どこかの会議室を借りて、仰々しく行わなければならないと思っていませんか? 株主総会には招集手続や議事録の作成など厳格に定められた部分もありますが、反面、その方式は自由です。法定された手続を履践しさえすれば、極端な話、ランチをしながらでも問題はありません。むしろ、小規模な会社であればあるほど、議事事項は簡潔に済ませ、株主同士の懇親をはかり確執を生まないようにする方が、会社にとっては望ましいとすらいえます。  

ウ どうしても開けないときは…
  このような場合、株主総会の省略制度(会社法第319条)もありますが、議決権行使できる全株主の同意がいるなど厳しい要件があります。逆に言えば、これらの要件を充足できる会社であれば、省略を行ってしまうことも選択肢に見据えることができます。  

(2) 取締役会はどうやって開くの?
  以上のことからすれば、株主総会だけでなく、取締役会も当然開くべきということになります。取締役会の開催についても、法定された部分を守りさえすれば、先に述べた株主総会同様,あとは柔軟に決めていただいてかまいません。  

(3) きちんとカタチに残そう
  諸会議を開いたら、次は議事録を残しましょう。特に取締役会こそ議事録に残すことが役員にとって重要です。この議事録を残すことで、取締役間の責任の明確化を図ることができます。特に注意すべき点は、議題に反対の取締役は議事録上明らかにしないと責任を負う点で、冒険的取引に自分が反対をした場合、後から議事録を確認しておかないと思わぬ責任を負わされることになりかねません。株主代表訴訟で役員責任の追及を依頼された場合、当然、損害の回復の観点からできるだけ多くの役員を訴えようと考えますので、実質的に反対をしていても議事録上反対が明示されていない取締役は被告に加えるのが通常です。反面、代表訴訟を受けた役員の代理人をする際には、善管注意義務を履行していることの重要な資料として議事録を使うことが往々にしてあります。このような観点からすると、取締役会議事録は、役員の皆さんが個人責任を負わないための重要な予防線ということができるのです。 

5 結びに

  今回は、諸会議の開催の必要性について述べてきました。いずれも転ばぬ先の杖です。法的には当然開催すべきであることについては論を待ちませんが、実際上の問題としては、開かなくても回ってしまう会社も多数あります。しかし、開かなくても何とかなると高をくくっていたために、会社が傾いたり、場合によっては倒産してしまったような事例も散見されます。本稿中でも述べましたが、ランチなどを株主総会や取締役会にするだけでも、これらのリスクは格段に下がります。ぜひ皆様の会社でも、形にとらわれずまずは諸会議を実際に開催するところから始めてください。

 

参考ページ> その他 ~役員問題~