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第4回 2011年1月号 ご存じですか?契約書の基礎知識

弁護士 樽本 哲

■プロフィール
樽本 哲
日弁連中小企業法律支援センター 事務局次長(第一東京弁護士会 所属)

1 契約書とは

  本稿では、企業経営者が知っておきたい契約書の基礎知識を解説したいと思います。
  契約書とは、契約(複数の当事者間において債権債務関係を発生させる旨の合意)の内容を明確にするために契約当事者が作成する書面です。わが国の民法上、契約書の作成行為は、保証契約など一部の例外を除いて、契約成立の必須の要件ではありません。そのため、企業取引の現場では、口頭確認や受発注書の交換のみで契約を済ませてしまうことがありますが、契約書を作成することなしに多岐に渡る契約条項の細部まで合意することは容易ではありませんし、後日、契約内容についての当事者の見解が食い違ったときに、どちらの言い分が正しいのかを明らかにすることもできません。  
  そこで、契約内容を明確にし、後日の紛争を予防するため、契約書が作成されるのです。 

2 契約書は取引のルールを定める

  口頭での確認や受発注書の交換のみで成立する契約では、最小限の契約内容のみが確認されるだけで、納期遅れや納品した物に欠陥があった場合の措置、紛争が生じた場合の解決方法などの細かい契約条件までは明示されないことが多いでしょう。
  それでも契約が成立するのは、業界内の取引では、こういう場合にはこうなる、という一定のルールが商慣習として確立しているからです。歴史のある業界では多くの商慣習が存在し、紛争の予防や解決に役立っています。  
  では、このような慣習や慣行が整っていない業界では、精緻な契約書を作り込まないと不都合があるのかと言えば、必ずしもそうではありません。  
  わが国の民法は、多くの条項を契約当事者の権利義務を定めるために費やしており、契約書に明示されない契約条件は同法によって規律されます。商人間の取引については、民法の特別法である商法も適用されます。  
  ただし、契約当事者が民法の適用を排除する内容の合意をしたり民法の規定と異なる契約条件を定めたときは、公序良俗違反といった一部の強行規定を除いて、当事者の意思が民法よりも優先するのが原則です。この原則を、私たちは私的自治の原則や契約自由の原則と呼んでいます。  
  企業経営者としては、民法や商法の規定はあくまでも一般的なルールを定めたものに過ぎないと心得ておき、取引の現場では、個々の取引の実情に見合ったルールを契約書上に明示することを心がけるべきです。  
  なお、従業員との契約においては労働関連法規の規制が及びますし、消費者との契約においては、民商法のほか、消費者契約法や特定商取引に関する法といった消費者保護に主眼を置いた特別の法律の適用を受けますので、契約書を取り交わす際にはこれらの法律に違反しないように格別の配慮が必要となります。 

3 契約書の作成と保管

  契約書は、一方当事者が起案し、他方当事者の了解のもとに契約書としての体裁に整えられ、契約当事者本人または本人から契約締結権限を与えられた代表者・代理人の署名もしくは署名に代わる記名押印がなされることで締結に至ります。まれに社名(屋号)の後ろに代表印が押捺されただけの契約書を見かけることがありますが、それでは誰が契約当事者を代理代表したのかがわかりませんので、代表取締役、支店長、部長等の決裁権限のある者の氏名と肩書が記載されるのが一般的です。 
  契約書上の印影が正式なものであるかどうかの確認は怠ってはなりませんが、登記などの手続上の必要がない限り、印鑑証明書の提出まで求めるかどうかはケースバイケースで判断すれば足ります。  
  契約書が課税文書に該当する場合には、作成した契約書正本毎に印紙税法に定められた額面額の収入印紙を貼る必要がありますが、契約成立の条件ではありませんので、印紙の貼付がなくとも契約書の効力が否定されることはありません。  
  契約書正本は契約当事者の数だけ作成し、各自一通を保有するのが一般的ですが、印紙代を節約するために一通だけ作成する場合もあります。この場合、当事者間で話し合って正本の保管者を定めます。金融機関との契約では、融資を受ける事業者のみが記名押印して契約書正本を金融機関に差し入れ、自らは写しのみを保管するということがよく行われています。  
  契約書の保管方法は人それぞれですが、弁護士として相談を受けたときには、契約書綴りを作成することをお勧めしています。契約書綴りとは、契約書及びその関係書類を集めたファイルを指し、仕入先、外注先、金融機関、保険会社及び事務所店舗の貸し主らとの各種契約書、従業員との雇用契約書、ソフトウェア、公的サービスの利用規約、税理士や弁護士等の専門家との契約書など、契約の相手方の区分に従って契約書及びその関係書類をファイリングし、冒頭に契約書のタイトル、当事者、契約期間、解約条件等を記載したリストを付しておくことによって、紛失防止や更新解約手続の失念防止の効果が期待できます。契約書が存在しない取引先についても契約条件等を整理した書面とともに綴じ込んでおくと、そのファイルだけで自社の企業活動全般が俯瞰でき、経営にも役立つことでしょう。 

4 自社に有利な契約を締結するために

  企業活動を行っていると、取引相手との力関係や時間上の制約などのさまざまな理由から、契約に基づく取引は行うものの、契約書の作成を拒絶されたり意に添わない契約書の作成を強制されることもあるでしょう。このような場合に、少しでも自社に有利な契約を締結する方法はないものでしょうか。 
  こればかりは相手のあることですので、常に有効な解決法というものはありませんが、筆者が顧問先企業にアドバイスしていることは、まず、契約書を作成してくれない取引先に対しては、契約期間、契約更新の有無、受発注の方法、納品及び検品方法、代金の決定方法、支払時期及び支払方法、不具合や不慮の事故が起こった場合の措置などの必要最小限の契約内容を、箇条書きの形でもよいので、取引先に抵抗感の少ないタイトルの書面にまとめて持参し、しかるべき地位の方の押印をもらう、という方法です。そのような書面があるだけで、契約内容を合意したことを示す立派な証拠になります。受発注書や見積書に契約条件を記載して交付するのも上手なやり方です。  
  仮にこれらの対応が難しい場合には、箇条書きにした内容を、「間違いがないかご確認ください」という趣旨のメッセージを添えたメールやFAXで取引先に送信してみてください。上述のとおり、契約は口頭でも成立しますので、これらに返信をもらえればそれが契約内容を示す証拠になります。  
  次に、意に沿わない契約書の調印を求める取引先に対しては、安易に応じないようにし、応じられない理由として、社内の要因に加えて、例えば税理士や借入先の金融機関からの指導などの外部の要因をあげて、再考を求めてみてはいかがでしょうか。取引自体を重視しなければならない場合には交渉そのものが不可能という場合もありますが、それでも契約の更新時期や取引先の責任者が異動になったタイミングなどを見計らって契約の見直しを求める等の努力は怠るべきではありません。  
  また、昨今の厳しい経済状況のもとでは、売掛金の保全をいかに図るかが重要な経営課題となります。  
  自社の側が取引先と優位に契約交渉を進められる場合には、将来の売掛金回収を容易にするような担保権を設定することや、契約書を公正証書にすることで強制執行の手間を省くといったことも、契約締結の段階から検討しておくべきしょう。  
  他方、取引先との関係が不当な下請けいじめや優越的地位の濫用行為に該当する可能性があるときは、法律の専門家である弁護士などに独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法に違反していないかどうかの確認をするべきです。 

5 むすび

  企業の利益を守るためには、当事者双方が遵守することができるしっかりとした内容の契約書を作成することが重要です。 
  契約書に関する助言は、弁護士が顧問先の企業に提供する最も基本的なサービスのひとつです。是非活用をご検討ください。

 

参考ページ> 契約交渉 その他 ~契約書の作成・チェック~