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第8回 2011年5月号 中小企業が知っておきたい「著作権侵害」についてのポイント

弁護士 齋藤 貴介

■プロフィール
齋藤 貴介
日弁連中小企業法律支援センター 元委員(新潟県弁護士会 所属)

1 はじめに

  著作権は、特許権や商標権等の産業財産権とは異なり、出願等の手続きを一切必要とせず創作の時点で発生する権利です。したがって、世の中には著作権が多数存在しており、知らないうちに第三者の著作権を侵害するといったリスクもありえます。このリスクを回避するためには、①著作物とは何なのか、②著作権とはどのような権利で、③どの範囲で保護されているのか等を最低限知っておくとよいと思われます。
  そこで、以下では、今述べた①から③に焦点を絞って、第三者の著作権を侵害するリスクを回避するために中小企業の経営者の方々が最低限知っていた方がよいと思われる事項を、次のケースを例に、紹介・説明していきたいと思います。 

《ケース》
  会社での業務に必要な書類を作成するにあたり新聞に掲載されていた記事をそのまま抜き出して書類を作成した場合、著作権侵害となるか。

2 「著作物とは何なのか」について

  まずは、著作物とは何かについて説明します。そもそも複製等の対象物が著作物でなければ、それを複製等しても著作権侵害にはなりません。その意味で著作物が何かを知ることは重要です。
  この点、著作権法は、第2条第1項第1号において、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しています。  
  「思想」とか「感情」といった表現を使うと高尚なイメージを持たれるかも知れませんが、単なる事実の表現以外は基本的にすべて著作物になりうると考えてかまいません。  
  著作権法では、第10条第1項において著作物の例示をしています。具体的には、①小説や論文などの「言語の著作物」、②「音楽の著作物」、③「舞踊又は無言劇の著作物」、④絵画などの「美術の著作物」、⑤「建築の著作物」、⑥地図、模型などの「図形の著作物」、⑦「映画の著作物」、⑧「写真の著作物」、⑨「プログラムの著作物」の9つが列挙されています。  
  では、本事例の、「新聞(記事)」は著作物にあたるのでしょうか。普通に読めば「言語の著作物」として著作物にあたりそうです。もっとも、新聞記事は、事実を伝えているだけにすぎないととらえれば、「思想又は感情を創作的に表現したもの」とは言えず著作物にあたらないとも言えそうです。  
  確かに、誰が書いても同じような人事異動記事などは著作物にあたりません。もっとも、新聞記事の中には、新聞記者あるいは新聞社の評価が入る場合がままあります(例えば、社説などは典型です)。このように、作成者の評価等が入っているものについては、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と言えますので著作物と言えます。  
  よって、事例においても、抜き出した新聞記事が作成者の評価が入っているような記事であれば著作物にあたることになります。 

3 「著作権とはどのような権利か」について

  著作権は、大きく著作者人格権と狭義の著作権に分けることができます。 
  著作者人格権とは、著作者の著作物に対して有する人格的利益を対象とした権利で、具体的には、公表権(著作者が未公表の著作物を公表するか否か並びに公表の時期及び方法を決することができる権利)、氏名表示権(公表する著作物に自己の実名または変名を掲載するか否かを決める権利)、同一性保持権(著作物の内容等を勝手に改変されないという権利)からなります。  
  次に、狭義の著作権とは著作者の財産的権利を保護する権利で、一般に著作権というと狭義の著作権のことを指します。狭義の著作権は、複数の権利の総体で、狭義の著作権を構成する各権利のことを支分権(しぶんけん)と呼びます。このように、狭義の著作権の内容が支分権として細分化されているのは、著作物ごとにその利用態様が異なることから、著作物ごとに最も適切な保護を与えるためです。  
  支分権としては、条文上は、①複製権(印刷、写真、録音、録画等により有形的に再生する権利)、②上演権・演奏権(著作物を公衆に直接見せたり聞かせたりする権利)、③上映権(著作物を公に上映する権利)、③公衆送信権・伝達権(著作物を放送やインターネットなどにより送信することのできる権利)、④口述権(著作物について公に朗読等することのできる権利)、⑤展示権(著作物の原作品を公に展示することのできる権利)、⑥頒布権(映画の著作物について、複製物を頒布できる権利)、⑦譲渡権、⑧貸与権、⑨翻訳権等が規定されています。  
  本事例における、新聞に掲載されていた記事をそのまま抜き出して書類を作成する行為は、①複製権の侵害に該当しうると言えます。  
  なお、新聞を購入したのであるから、当該新聞の所有者である購入者が購入した新聞の記事を複製してもよいのではないかという趣旨の相談を受けることがあります。しかし、所有権が購入者に移転したとしても著作権が一緒に購入者に移転するわけではありません。別途、著作権の譲渡契約等がなければ、著作権は移転しません。よって、購入した新聞記事であっても無断で複製してしまえば著作権侵害になりうる点注意が必要です。 

4 「どの範囲で保護されているのか」について

  著作権法は、著作者等の権利保護を第一次的な目的としていますが、究極的には「文化の発展に寄与すること」を目的として掲げています。つまり、文化の発展のためには第一次的には著作者等の権利を保護することにより著作者の創作意欲を刺激することが必要と考えているわけです。しかし、他方で、著作物を一般公衆が公正に利用できてはじめて文化の発展に寄与できることから、一般公衆が公正に利用できるように留意するという範囲で、著作者等の権利に制限を加えています。これらの制限は、著作権法第30条以下の「第5款 著作権の制限」において具体的に規定されていますのでご確認ください。
  本稿では、本事例に関係する「私的利用のための複製」及び「引用」の2つの著作権の制限について説明します。  
  まず、「私的使用のための複製」についてですが、例えば、個人観賞用にテレビ番組を録画する行為などのように個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内での使用(私的使用)を目的とする場合は、著作権者の許諾を得ることなく、著作物を複製することができます。では、本事例のように、会社内での業務で利用する目的は「私的使用」を目的としていると言えるでしょうか。結論としては、私的使用の範囲に含まれないとされています。会社内で新聞記事や文献等の一部をコピーして配布することはよく行われており、権利者に無断で行ったこのような行為をすべて著作権侵害となることに違和感を感じるかも知れません。実際には、このような行為について著作権侵害の損害賠償をしてくる権利者はまずほとんどいないと思いますが、判例上はこのように判断されていますので注意が必要です。  
  次に、本事例の「記事をそのまま抜き出した行為」が「引用」にあたれば著作権侵害にはなりません。著作権法第32条第1項では「引用」について、①公正な慣行に合致するものであること、②引用の目的上正当な範囲で行われること及び③出所の明示が要件とされています。さらに、判例上、④明瞭区分性及び⑤主従関係も要件とされています。④明瞭区分性とは、引用部分を括弧書き(例えば「・・・」というよう)にするなど、作成者の著作物と引用する著作物を明確に区別できるようにすることを言います。⑤主従関係とは、引用する側の著作物が「主」で、引用される側の著作物が「従」でなければならないということです。  
  以上のとおり、本事例においても、「引用」の要件をすべて充たしていれば著作権侵害にならないことになります。 

5 最後に

  以上、著作権侵害に関する事項について説明してきましたが、これらは著作権に関する知識のほんの一部分にすぎません。実際に、第三者の著作権を侵害しているのではないか等の疑義を感じた際には、専門家に相談することをお勧めします。

 

参考ページ> 知的財産制度の活用・模倣品対策