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第17回 2012年2月号 海外取引におけるトラブル防止

弁護士 土森 俊秀

■プロフィール
土森 俊秀
日弁連中小企業法律支援センター 事務局次長(東京弁護士会 所属)

1 はじめに

  国内市場の伸び悩みや円高の影響等で、これまで海外展開をしていなかった中小企業も海外展開に取り組む動きが加速しています。海外展開には、①輸出・輸入(製品の販売、原材料等の仕入)、②海外への間接進出(海外での現地販売代理店、海外企業への生産委託・技術供与)、③海外への直接進出(海外子会社・支店、自社工場の設立等)の段階があり、後者に進むにつれてハードルが高くなっていきますが、本稿では、海外展開の初期段階にある中小企業を念頭に、トラブル防止のための留意点について説明します。

2 予防法務の重要性

 まず強調しておくべきことは、トラブルになってから対応するのではなく、これを未然に防ぐこと、つまり、予防法務が非常に重要であるということです。トラブルが法的紛争に発展し、海外で訴訟等になった場合には、現地の弁護士費用や翻訳コスト等で数千万円以上の費用がかかることも珍しくありません。また、国によっては訴訟がかなり長期化することもあります。結局、泣き寝入りせざるを得ないことが往々にしてありますので、海外展開の準備の段階から、トラブル防止の対策を心がける必要があります。

3 トラブルが生じる原因とその対策

(1) 法律・行政・司法制度の違い
 トラブルが生じる原因としては、まず、日本と現地との法律・行政・司法制度の違いが挙げられます。特に開発途上国では、制度に対する信頼性、安定性、予測可能性が十分ではなく、事前準備をしてもトラブルを完全に防ぐことが難しい場合もありますが、それでも、現地の情報をしっかりと集め、できる限りの対策をしておくことが重要です。
 なお、本稿では詳しく述べませんが、自社の商標が先に登録されていたり、模倣品が流通したり、技術が流出したりする等の被害が続出していますので、海外展開の際には自社の知的財産権の保護も重要な課題であることに留意しておく必要があります。
(2) 相互の認識及び理解の違い―書面契約の重要性
 特に海外展開の初期段階にある中小企業の場合、現地の法律・行政・司法制度の違い以上に、コミュニケーション不足等による相互の認識及び理解の違いがトラブルの大きな要因になっていると思われます。
 まず、そもそも、文化、商習慣、社会通念等の違いにより、取引の基本的認識や理解に想定外のずれが生じる可能性があります。そして、言語の違いにより、意図を正確に伝えることが難しいという面があるのに加え、国内取引の場合には疑問があればその都度電話やメールで確認するところを、海外取引の場合には、母国語でないことから億劫になってしまい、憶測や推測で済ましてしまうことがあります。しかし、基本的認識や理解に想定外のずれが生じやすい海外取引の場合こそ、憶測や推測で済ませずに、相互のコミュニケーションによりお互いの意図を正確に確認していくことが必要です。
 そして、確認は口頭だけではなく、必ず文書に残しておく必要があります。文書でないと、言語の違いも相まって誤解につながりやすいですし、お互いの合意の証拠となりません。また、国によっては書面でなければ契約として保護されない場合もあります。
  また、取引開始段階では取引の基本事項だけしか合意しておらず、本来明確に決めておくべき他の事項や、問題が生じた場合の対応について取り決めていなかったということもよくあります。一般に日本では契約書を簡潔にする傾向があり、問題が発生すれば当事者双方が協議すればよいとの認識でまずは取引をスタートさせる場合があります。しかし、海外取引では、基盤となる商習慣等が違うのですから、そのようなやり方はまったく通用しません。そこで、契約書には、想定される得る事項につき詳細に取り決めて盛り込んでおく必要があります。

4 国際取引用の契約書(英文契約書)のひな形の活用

 海外取引の場合には、相互の認識及び理解の違いを防ぐためにも、国際取引用の契約書(通常は英文契約書)のひな形を活用し、取引について事前にじっくりと検討した上で契約することが有用です。よく練られた国際取引用の契約書のひな形には、その取引において一般的に考慮すべき事項が記載されていますので、これを見ながら事前に取引の条件等につきじっくり検討しておけば、取り決めておくべき事項の漏れを防ぐのに役立ちます。また、そのような契約書で相手方と契約すれば、相互の認識及び理解の違いをできるだけ少なくすることができ、トラブル防止につながります。
 例えば、生産委託契約(OEM製品製造供給契約)のひな形を見ていくと、取引にあたって次のような検討や取決めが必要になってくることがわかってきます(なお、ここではあくまで例示として一部のみ取り上げます。)
①委託先数も含めて生産委託先を自由に選択する権利を購入者が有するか。委託先が、他の委託先への委託を認めないと考えている場合もありますので、明確にしておく必要があります。
②製品仕様。意外と明確に定まっていないことがあります。
③購入者以外への供給の禁止(横流しの禁止)、横流しをチェックするための会計報告資料の提出義務等。
④下請業者の利用の可否。下請業者を利用させた場合、技術力の問題や、下請業者からの技術・情報の流出の可能性があります。
⑤発注・受注の手続。また、発注した場合には必ず受注する義務を課すか。その場合、発注予測を提示することにするか。発注予測と実際の発注量が乖離する場合の取決め等。
⑥支払方法、支払通貨。また、為替変動等の場合の価格調整の有無・方法。
⑦品質管理、品質保証の内容等。
⑧技術指導等をする場合、その範囲及び方法(そもそも核心的な技術は出さないことも)。技術指導等にかかる費用分担(技術者の労務費・交通費・宿泊費、技術指導等を現地語で行う場合の通訳・翻訳費用等)。
⑨金型等を提供する場合、その所有権が購入者にあることの確認。また、金型等の保管方法(生産委託先の所有物と区別する)、契約終了等の場合の返還。
⑩製造物責任についての取決め。その他、契約違反等の場合の損害賠償についての取決め。
⑪準拠法(どの国の法律で契約が解釈されるのか)、紛争解決方法(裁判か仲裁か、裁判管轄または仲裁地等)。ただし、複雑難解なルールがあるので留意が必要です。紛争解決に関して具体例をあげると、日本・中国間の取引の場合、日本の裁判所で勝訴判決を得ても、当該判決を中国では執行できないため、紛争解決方法としては仲裁を選択するか、裁判を選択するのであればどの国で執行するのかを考慮した上で裁判管轄を考える必要があります。

5 専門家への相談

  契約書のひな形を利用するにあたっては、どちらの当事者に有利な立場で作成されたものかを確認しないでそのまま利用しないよう注意する必要があります。また、あくまでひな形は一般的な内容であるため、具体的なケースに応じて手当てが必要になりますし、そもそも必ずしもひな形どおりに相手が合意してくれるとは限りません。そして、その国特有の事項や、契約書に記載されない事項でも、重要な留意点はでてきますので、実際に海外取引を行う場合には、国際取引に通じた弁護士等の専門家に相談することが望ましいです。
 また、不幸にしてトラブルになった場合は、その芽が生じた時点ですぐに専門家に相談することが重要です。必ずしも現地の専門家でなければ役に立たないというわけではなく、トラブルにはある程度万国共通の側面がありますので、有益なアドバイスを得られる場合も多いです。また、その国との国際取引に通じた弁護士であれば、何を現地専門家に依頼すべきか論点整理を行った上で、現地専門家との橋渡し及びマネージメントの役割を担うこともできます(なお、ひまわり中小企業センターの「ひまわりほっとダイヤル」は、国際取引に通じた弁護士の紹介等は行っておりません。)。

 

参考ページ> 契約交渉