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第1回 2010年10月号 中小企業金融円滑化法の活用と今後

弁護士 堂野 達之

■プロフィール
堂野 達之
日弁連中小企業法律支援センター 事務局次長(東京弁護士会 所属)

1 中小企業金融円滑化法とは

(1) 平成20年のリーマンショックに端を発する経済不況により、中小企業の倒産や破綻を防ぐために、中小企業金融円滑化法(正式名称は「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」。以下「金融円滑化法」といいます)が平成21年11月30日に成立し、同年12月4日より施行されています。

(2) 金融円滑化法は、「モラトリアム法案」とも呼ばれたとおり、金融機関に対し、債務の弁済に支障があるか又はそのおそれのある中小企業者の負債返済をできる限り猶予(貸付条件の変更、リスケジュールともいいます)することを義務づけるものです(同法第4条第1項)。

2 金融円滑化法はどのように運用されているか

  同法の施行前は、努力義務しか定められていないことから、金融機関はリスケジュールに簡単には応じないのではないかとの推測もされていました。 
  しかし、金融庁の平成22年6月30日付発表によると、金融機関に対する全申込件数48万1367件(金額は12兆9882億円)に対し、貸付条件の変更に応じたのが36万8074件(金額は10兆2286億円)です。実行件数/申込件数による実行率は76・5%であり、実行件数/実行件数+謝絶件数でいうと、実に98・3%に達するとのことです。  
  中小企業者が金融機関にリスケジュールの申込みをすれば、金融円滑化法に基づき、ほぼ認められるというのが実態です。金融機関に金融庁に対する詳細な報告義務が課せられている(金融円滑化法第8条)ことも背景にあると思われます。 

3 金融円滑化法を利用するにあたって何を注意すべきか

  金融機関からのリスケジュールが受けられやすくなった点で、窮境にある中小企業者にとって、金融円滑化法は非常にありがたい法律といえます。 
  しかしながら、金融円滑化法を活用してリスケジュールの交渉を行う上で、次の点で注意を要します。 

(1) まず、リスケジュールが成立すると現実の運用上、その金融機関からは新規融資(手形割引も含みます)を受けられなくなるおそれが非常に高いことです(一律のこのような運用は認められないとの見解も有力ですが、実際にはこのような例が多く見聞されます)。
  よって、リスケジュールを受ける中小企業者としては、新規融資は受けられないことを覚悟して資金繰りの予定を組み直す必要があります(具体的には、弁護士や税理士等の専門家にするのがよいでしょう)。 

(2) 金融円滑化法の施行により、中小企業者は申込みをすればほぼ確実にリスケジュールを受けられるというのが実態です。
  そうすると、窮境にある中小企業者が、赤字体質を温存したまま、金融機関から安易にリスケジュールを受けてしまい、破綻を先延ばしにするだけの結果になってしまうケースが、往々にして生じることは否めません。 
  後記4でも述べるとおり、単なる破綻の先延ばしを避けるためにも、中小企業者の側から、積極的に経営改善計画を立案し実行することが必要となります。 

(3) 借入先の金融機関が複数である中小企業者の場合には、金融円滑化法第4条第4項が、金融機関相互に緊密な連携をとる努力義務を課していることや、金融機関が他行との衡平性を極めて重要視することから、複数の金融機関で足並みを揃えてリスケジュールの交渉を行う必要があります。場合によっては、バンクミーティングの開催なども有用でしょう。

(4) 金融機関にリスケジュールの申込みをした場合に、その一事をもって当該金融機関の預金口座を拘束ないし凍結されてしまうおそれは、金融円滑化法の趣旨から低いと思われますが、この点が不安であれば、弁護士等の専門家と相談し、申込みを行う前に、預金口座を借入のない金融機関に移動するといった慎重な対応も考慮に値します。

4 金融円滑化法の失効に備えて

(1) 金融円滑化法は時限立法であり,平成23年3月31日限りで効力を失うとされています(同法附則第2条)。なお、金融担当大臣が延長可能性を示唆したとの一部報道もありましたが、現時点では可能性にとどまります。

(2) 金融円滑化法の失効により、金融機関が同法の施行中のときとは態度を変えて、一転、中小企業者のリスケジュールに応じなくなるおそれがあります。
  例えば、金融円滑化法の施行中に1年間の元本弁済猶予を受けた中小企業者が、同法の失効後に弁済期日が近づいたため、再度リスケジュールの申込みをしたが、謝絶されてしまい、最悪の場合は破綻に追い込まれるというケースが増えるかもしれません。本来であれば抜本的に経営体質を改善する必要のある中小企業者が、赤字体質を温存したまま、安易にリスケジュールを受けてしまったような場合は、特にあてはまるでしょう。 

(3) 窮境に陥る可能性のある中小企業者としては、金融円滑化法により一旦はリスケジュールを受けて一息ついたとしても、それで安心してはならず、金融円滑化法の失効を見据えて、策を講じる必要があります。
  特に、スケジュールというのは結局は返済の先延ばしに過ぎず,事業を再建するには、利益を安定的に生み出す体質に改善することが何より重要です。  
  そのためには、専門家の支援を受けながら、実現性の高い合理性ある経営改善計画を立案し、確実に実行していくことが肝要です。場合によっては、売上に貢献しない固定費を抜本的にカットし、人員削減や事務所移転など、リストラを果断に行うことも必要になってきます。この前提として、経営者自身が、毎月のキャッシュフローや損益をきちんと確認した上で、自社が破綻に向かっているのか、向かっているとすればどの点を除去改善すればよいのか、冷静かつ客観的に認識することが必要不可欠です。  
  これらの計画の立案や実行のための一時的な余裕を確保するための手段として、リスケジュールは意味を持つのです。 

5 リスケジュール交渉において専門家を活用することの有用性

(1) 金融円滑化法の施行を機に、金融機関はリスケジュールに寛容になってきたことは事実です。事業者としては、これを機に、自社の再建のためにリスケジュール交渉を行いたいところです。
  その際、専門家をリスケジュール交渉に活用することはたいへん有用です。数値を含めた計画を立てるには専門家の知識ノウハウが役立ちますし、事業者はどうしても自らお金を借りたという立場から、得てして金融機関に対して弱気となりがちであり、専門家が代理人として交渉をサポートすることは意味があります。 

(2) リスケジュールを支援する専門家として、税理士や会計士以外にも,弁護士を活用することが有用です。
  一つの理由として、弁護士以外の者が中小企業者の代理人としてリスケジュール交渉をすることは、弁護士法第72条に抵触するおそれがあることが挙げられます(本人が同席する場合は別です)、経営者が事業の再建に注力するため、金融機関との交渉を専門家に任せたいというときには、事実上弁護士しかいません。  
  また、弁護士は、さまざまなトラブルを交渉によって解決した経験が豊富です。その経験やノウハウは,金融機関とのリスケジュール交渉にも役立つはずです。  
  さらに,事業再建案件や倒産案件に精通した弁護士であれば、数値にも強いですし、平時ではなく緊急時、窮境に陥ったときの資金繰りに関しても、適確なアドバイスが期待できます。

 

参考ページ> 借入金返済・資金繰り 企業再生・清算