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第14回 2011年11月号 事業再生と会社分割

弁護士 池田 耕一郎

■プロフィール
池田 耕一郎
日弁連中小企業法律支援センター 副本部長(福岡県弁護士会 所属)

1 はじめに 

  近年、債務超過に陥った株式会社が、事業を継続するために、会社分割の手法を用いるケースが増えています。しかし中には、債権者への支払いを免れることを主たる目的として、会社分割の手法を濫用する事態も発生しています。このような会社分割は、本来会社法が予定した会社分割の趣旨とは大きく異なるものであり、中小企業経営者も中小企業支援に関わる人も、法の趣旨の理解と「濫用」に対する注意が必要です。

2 会社分割とは

 会社分割とは、株式会社(または合同会社)が、自身の事業に関して有している権利や義務の全部または一部を、他の会社または分割により新たに設立する会社に承継させることを目的とするものです。
 会社の権利や義務を既存の他の会社に承継させる分割方法を「吸収分割」といい、新たに設立する会社に承継させる分割方法を「新設分割」といいます。事業に関わる権利や義務のどの部分を承継させるかは、吸収分割契約(吸収分割の場合)・新設分割計画(新設分割の場合)で決められます。
 会社分割は、権利や義務の承継という観点からみると、合併と似た効果がありますが、合併が、当事会社の一部または全部が解散し、解散した会社の権利や義務が存続する会社または新設された会社に包括的に承継される効果を持つのに対し、会社分割では、もとの権利や義務が帰属していた会社が存続するところに大きな違いがあります。他方、権利や義務を包括的・一般的に承継させるものである点で、株式会社が事業(事業を構成する債務や契約上の地位)を取引行為として個別に移転する「事業譲渡」とも異なります。

3 会社分割制度の活用目的と債権者保護

 会社分割には、企業規模の適正化・経営効率化のために、企業グループ内で事業の一部を別会社としたり、事業の一部を企業グループ外に切り離して移転するなどの組織再編を容易に行うことができるというメリットがあります。しかし、そのような積極的側面だけでなく、不採算部門を分離することによって他の部門を生き残らせる手段として利用されることも考えられます。そのような場合に、分割会社がもともと負っていた債務が、分割会社と承継会社・設立会社に割り振られることは、債権者に想定外の大きなダメージを与える可能性があります。
 そこで、会社法では、①分割会社の債権者のうち会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる者、②分割会社が分割対価である株式等を株主に分配する場合における分割会社の債権者、③承継会社の債権者について、債権者の異議手続を設けて、債権者を保護しています。

4 債権者が損害を被る危険性

 債務超過に陥って事実上倒産状態にある会社が、新設分割の手法によって、経営上優良な事業部門を新設会社に移し、採算の取れない赤字の事業部門と債務のほとんどを分割会社に残すという方法がとれれば、会社にとってこれほど都合のよい「事業再生」の手法はありません。このようなうまみから、会社分割の方法が濫用される事例が見受けられるようになっています。
 このような事態が起こりうる要因は、分割会社に残される債権者が会社法上の債権者保護手続の対象となっていないという法制度の建前にあります。これは、分割会社には、承継会社・設立会社から承継会社・設立会社に承継される資産の対価として、株式・社債等の財産が交付されるため、債権者が不利益を被ることが少ないと考えられたためといわれています。
 しかし、実際には、すでに事実上倒産状態にある会社が会社分割を行う場合に、分割会社が、移転する資産の価値に見合う対価を得られる保障はなく、債権者が想定外の不利益を被る可能性を否定できません。このような債権者の不利益をいかに解消するかが議論されています。

5 債権者の取り得る具体的な手段

【会社分割無効の訴え】
 会社法では、会社分割が違法に行われた場合について、合併の無効の訴えと同様に、吸収分割の無効の訴え・新設分割の無効の訴えという訴訟制度を設けています。
 無効原因としては、①吸収分割契約・新設分割計画の内容が違法である、②吸収分割契約等に関する書面等の不備置・不実記載、③吸収分割契約・新設分割計画の承認決議の瑕疵、④法定の株式(新株予約権)買取請求の手続がなされない、⑤法定の債権者の異議手続が履行されない、⑥労働者との協議義務がまったく履行されない等が考えられます。
 会社分割の無効は、訴えをもってのみ主張することができ、その訴えは、分割の効力が生じた日から6カ月以内に提起しなければなりません。もっとも、分割会社が破産手続に入った場合の破産管財人からの行使は可能ですが、分割会社に残された債権者には原告適格がありません。

【名称続用に基づく責任追及】
 会社法第22条第1項は、「事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う」と定めています。会社分割は事業譲渡とは違いますので、この規定を直接適用して債権者を保護することはできません。
 しかし、新設分割の場合で、新設会社が分割会社の商号を引き続き使用している場合に、この会社法第22条第1項を「類推適用」して、新設会社の責任を認めることで債権者を保護できないかという議論があります。裁判例でも、一定の要件のもとに、会社法第22条第1項の類推適用によって、新設会社の責任を認めるものがあります。もっとも、裁判例で会社法第22条第1項の類推適用が認められるケースが増えれば、新設会社が分割会社の商号を引き続き使用することは極めて少なくなると考えられ、十分効果的な手段とは言い難いところもあります。

【詐害行為取消権・否認権】
 倒産時における新設分割に対して、債権者からの詐害行為取消権行使、破産手続における破産管財人からの否認権行使、民事再生手続における監督委員からの否認権行使がそれぞれ考えられます。
 会社分割無効の訴えを利用できない分割会社の債権者にとっては、詐害行為取消権は重要な手段となります。
 詐害行為取消権については、近時、会社分割の詐害行為性を認め、分割新設会社に対して相対的に会社分割の取消しを認めた上で、被保全債権の限度で価額賠償を認容したケースがありました(平成23年7月22日名古屋地裁民事第5部判決(控訴)金融商事判例1375号(2011年10月1日号)48頁)。詐害行為取消訴訟が提起されて認容判決が出ると、価額賠償まで認められる可能性のあることは留意が必要です。

【法人格否認の法理】
 上述した手段のほかに、会社分割実行前に、分割会社と債権者との間で事業再生について密接な協議関係に入っていたのに、分割会社が、突然、債権者に知らせることなく、一方的に、債権を新設会社に承継させない会社分割を行った事例について、その後の新設会社の株式譲渡、増資等の手続を全体としてみた場合に、債務負担を免れようという不当な意図・目的に基づくものとして、「法人格否認の法理」(特定の事案について、会社の法人格の独立性を否定して、事案の解決を図る考え方)を用いて、新設会社の法的責任を認めた裁判例も出ています。

6 おわりに

 今回は、事業再生に関して、会社分割制度の濫用の可能性について指摘しましたが、実務上は、一般的に、いわゆる第二会社方式として公正な手続のもとに事業再生を図る手法の活用が考えられます(第二会社方式については、末尾のURLをご参照ください)。
 事業再生については、専門家である弁護士のアドバイスが不可欠です。弁護士の事務所で気軽に相談できるひまわりほっとダイヤル(電話0570-001-240)をご利用ください。

【参考】第二会社方式について(PDF形式)
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/2009/download/090622SeidoFlow.pdf

 

参考ページ> 企業再生・清算