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第15回 2011年12月号 売掛金回収のポイント

弁護士 安若 多加志

■プロフィール
安若 多加志
日弁連中小企業法律支援センター 事務局次長(大阪弁護士会 所属)

  売掛金の確実な回収は、安定した経営に不可欠です。売掛金の入金が遅れたり、取引先が倒産して売掛金の回収に失敗すれば、資金繰りに大きなダメージとなり、ひいては倒産等の致命的な危機に陥りかねません。以下、売掛金の回収方法に関し、採るべき法的手段の面から概観します。

1 基本的な考え方 

  取引先が売掛金を支払ってくれない理由によって、採るべき法的手段が異なるので、それを見極めることが肝要です。相手方に何らかの言い分があって、支払う能力があるのにあえて「支払わない」のか、それとも、相手方に支払能力(資金繰り)の問題があって「支払えない」のかによって、採るべき手段が異なります。

2 相手方があえて「支払わない」場合

(1) この場合、じっくりと腰を据えて回収にかからねばなりません。相手方に何らかの言い分があって支払を履行してくれないのですから、その理由を問い質して交渉し、妥協点を見出すなどして解決することになるでしょう。ただ、法的手続を見据えた準備も必要です。
 すなわち、証拠が残る方法にて支払を督促します。督促には、電話、面談、手紙などが考えられますが、交渉が決裂して裁判に移行する場合に備え、内容証明郵便によって売掛金を請求しておきます。内容証明郵便は単なる手紙にすぎず、それ自体で何らかの法的効力が生じるものではありませんが、遅延損害金の発生時期、解除の意思表示、消滅時効の進行を中断するための催告(民法第153条)等を立証するための有力な証拠となります。ちなみに、商品等の売掛金債権は2年の短期消滅時効にかかります(民法第173条)。また、内容証明郵便による請求を受けた相手方が、こちらが裁判等の法的手段を採るかもしれないと考え、それを避けるために態度を軟化させ、支払に応じてくることがあります。内容証明郵便の書式は定められています。その書式に従って同内容の書面を3通作成し、郵便局に持参して発送します。1通は相手方に発送されますが、1通は郵便局が保管、もう1通はこちらの控えとなります。後日、書面の内容を立証することができるほか、配達証明付なので相手方が受領した日を明らかにすることができます。

(2) 交渉が決裂し、相手方が任意に支払を履行してくれないときは、法的手続を採らざるをえません。
 法的手続としては訴訟を提起するのが一般的です。裁判で勝訴すれば、判決に基づいて強制執行をなすことにより、相手方の財産から回収することができます。もっとも、勝訴すれば、相手方に資力があれば強制執行を経るまでもなく相手方が任意に支払を履行してくる可能性が高いでしょう。ただ、訴訟を適切に追行するには、やはり弁護士に委任するのが合理的です。
 譲歩(減額や分割払い等)して解決することにやぶさかでなければ、簡易裁判所に調停手続を申し立てることにより、話合いによる解決を求めることができます。裁判所の調停委員が当事者双方の言い分を聞いて妥協点を見出そうとする手続です。調停が成立すれば調停調書が作成され、その内容には判決と同様の効力が認められるので、相手方が履行しないときは強制執行が可能です。ただ、調停が成立しないときは、あらためて訴訟を提起することになります。
 なお、仮差押・仮処分という強力な手続があります。相手方の保有する財産に対して、裁判所に仮差押命令や仮処分命令を発令してもらう手続です。判決を得て強制執行するまでの間に相手方の財産が処分されてしまうのを防ぐための「仮」の保全処分ですから、実際に相手方の財産から回収を受けるためには、あらためて提訴して判決を獲得する必要があります。
 ただ、相手方に金融機関からの借入れがある場合、仮差押・仮処分を受けることは借入金債務の期限の利益喪失事由とされていることが多く(期限の利益を喪失すると残債務を一括で支払う義務を負います)、その場合、仮差押・仮処分によって、事実上、相手方の資金繰りを困難にさせる効果があり、あらためて提訴するまでもなく、相手方から任意の支払いを受けられることがあります。

  ただし、こうした「強力」な仮差押・仮処分命令を発令してもらうためには相応の担保金を裁判所に納める必要があるうえ、あらためて提起した訴訟で敗訴した場合には、立てた担保金が、相手方が仮差押・仮処分命令によって被った損害に填補されてしまうリスクがあります。よって、訴訟での勝算があるときに適した方法です。  
3 相手方が「支払えない」場合

 相手方が資金繰りの悪化ゆえに「支払えない」場合は、相手方と交渉したところで任意に支払ってもらえることはないでしょう。調停手続をしても無意味ですし、内容証明郵便で督促する程度では、他の債権者からも内容証明郵便を受けているでしょうから、支払を期待できないでしょう。したがって、ただちに訴訟ないし仮差押・仮処分に入ることを検討すべきです。
 ただ、判決や仮差押・仮処分は、相手方の財産からの回収を図る手続であり、相手方にみるべき財産がないときは実効性がありません。そうすると、何度も足を運び、相手方に直接会って督促し、心理的プレッシャーを与えることで少しずつ回収を図るのが、地道ながらも実効性のある回収方法かもしれません。

4 取引先が倒産した場合

 運悪く取引先が倒産した場合、売掛金の回収は相当に困難というべきです。倒産の典型である破産手続の場合には、裁判所が選任する破産管財人が破産者の財産を換価して各債権者に平等に配当してくれますが、配当率は高くなく、配当ゼロの場合もしばしばです。ただ、次の努力をすべきでしょう。

(1) 商品の引き上げ
 まずは、納品済みの商品が相手方にあるかどうかを確認し、あればその引き上げに努めるべきです。ただ、相手方の倉庫等にある商品を相手方に無断で持ち出す行為は、建造物侵入罪(刑法第130条)や窃盗罪(刑法第235条)に該当するので注意が必要です。代金が未払だからといって、当然に引き上げが許されるものではありません。商品の引き上げを違法とされないよう、相手方代表者か、そうでなくとも倉庫等を管理する相手方従業員の同意を得て引き上げるべきです。相手方の同意は可及的に書面でもらいましょう。きちんとした書式でなくとも、相手方が同意したことがわかる内容であれば構いません。チラシの裏に同意の旨とサインをもらっても構いません。後日、破産管財人から否認される可能性が完全になくなるわけではありませんが、そういうときは、弁護士に相談して対処方を検討するほかありません。

(2) 動産売買の先取特権
 動産を売却した売主には、売買代金が未払いの場合、売り渡した動産から優先的に代金を回収しうるという「先取特権」があります(民法第311条、第321条)。この動産売買の先取特権は、破産手続では別除権として扱われます。売却した商品が破産管財人の管理下にあるときは、先取特権の行使が可能かどうか、弁護士に相談しましょう。
 また、売却した商品が、相手方から第三者に転売されているものの、その転売代金が相手方に支払われていないときは、先取特権の「物上代位」(民法第304条)によって転売代金を差し押さえ、優先的に回収することができる場合があります。未払の売買代金の履行期が到来していることや、転売先が判明していることが前提となりますが、なるべく早く弁護士に相談しましょう。弁護士に委任することで転売代金を回収することができる場合があります。

5 まとめ

 売掛金回収のための法的手段には、個々の場面によって、実効的なものとそうでないものとがあり、その見極めが肝要です。また、万が一の売掛金回収手続に備え、適切な取引契約書等を取り交わしておくことも重要です。日弁連の「ひまわりほっとダイヤル」を利用するなどして、日ごろから、弁護士のアドバイスを積極的に受けることをお勧めします。

参考ページ> 売掛金回収