日弁連新聞 第587号

「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」などについて

2022年12月10日、消費者契約法及び独立行政法人国民生活センター法の一部を改正する法律(以下「改正法」)と、法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(以下「新法」)が成立し、本年1月5日に施行された(新法の一部を除く。)。


改正法・新法の概要

改正法では、今後の被害防止を目的として、霊感等による告知を用いた勧誘に対する取消権、取消権の行使期間の伸長、国民生活センターの役割強化等について整備が図られた。


新法では、法人等による不当な寄附の勧誘を禁止し、当該勧誘を行う法人等に対する行政上の措置等を定めることで、法人等からの寄附の勧誘を受ける者の保護を図っている。加えて、寄附の勧誘に関する規制、違反に対する行政措置・罰則、寄附の意思表示の取り消し、債権者代位権の行使に関する特例、関係機関による支援等を定めた。


日弁連は、両法律の成立を受けて、2022年12月14日に「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律等の成立に関する会長談話」を公表した。


今後の課題

両法律は、主に寄附行為の取り消しによって被害者の救済を図ろうとするなど、これまで勧誘に関して特段の取り決めがなかった寄附および寄附を集める団体について、一定の規制を設けた。今後の被害救済・防止に向けた姿勢を示すものとして評価できるものの、取り消しができる寄附行為等が限定的であり、宗教活動を契機とした家族の問題、とりわけ宗教二世を含む子どもが抱える問題等の解決は置き去りにされたままとなっているなど、数々の課題が残されている。


日弁連は、引き続き関係機関・団体等と緊密に連携を図り、2年後の見直しを含め、実効的な被害の救済および防止に向けた提言と活動を行っていきたい。


(霊感商法等の被害の救済・防止に関するワーキンググループ  座長 釜井英法)



景品表示法の更なる改正を求める意見書を公表

消費者庁に設置された景品表示法検討会は、2023年1月13日、同法改正に向けた報告書を公表した。


これに先立ち、日弁連は2022年12月15日、「arrow_blue_1.gif不当景品類及び不当表示防止法の更なる改正等を求める意見書」を取りまとめ、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)および消費者庁長官に提出した。


意見書の内容

本意見書は、事業者による不当表示(優良誤認表示・有利誤認表示)を早期是正することにより、①広告表示によって不当に誘引されかねない不特定多数の消費者の被害を事前に抑止するとともに、②事後的な被害回復も図るという、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」)の2つの機能をさらに強化することを目的としている。


そのため、消費者庁等による行政手続を通じた早期是正として、独禁法上の確約手続に類似する制度の導入の検討と、不当表示規制の対象範囲の拡張等を求めている。独禁法上の確約手続類似制度の導入に際しては、現行の課徴金算定率(3%)を引き上げること、同制度の適用対象から悪質性の高い不当表示事案を除外すること、事業者による確約計画の内容策定に当たって自主返金制度による消費者被害の回復を中核に据えることなどの条件を示している。


また、適格消費者団体・特定適格消費者団体が適切に差止・被害回復を行うための制度も提言している。具体的には、適格消費者団体等に対して景表法違反や措置命令・課徴金納付命令・返金措置の発令・取り消しに係る行政情報を提供すること、適格消費者団体の立証手段の拡充のため、優良誤認表示が疑われる事業者に対して合理的な根拠資料の提供を義務付けること、適格消費者団体等の公益的役割に対応する経済的支援を行うこと等を求めている。


今後に向けて

今後、消費者庁において検討会報告書に沿った方向で景表法改正法案が策定され、国会に提出される見通しである。日弁連としては、景表法改正法案の内容が適切なものとなるよう、引き続き注視していきたい。


(消費者問題対策委員会  副委員長 井田雅貴  同委員 宮城 朗)



「民事信託業務に関するガイドライン」の策定

    arrow日弁連信託センター


    民事信託が本格的に活用されるようになって約6年が経過した。民事信託は柔軟な仕組みであることから、利用される場面が増加する一方で、濫用的に利用される事例も増えている。


    そこで、日弁連は2022年12月16日、民事信託を適正に活用するため、「民事信託業務に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)を策定した。本稿では、その主な内容を紹介する。


    依頼者は委託者であること

    民事信託では、高齢の親が委託者、その推定相続人が受託者に就任するケースが多い。その際、受託者となる推定相続人が主導し、推定相続人の利益を図ることがある。しかし、民事信託は、財産管理および財産承継に関して委託者の意思を実現するための制度であり、弁護士としては、委託者の意思を実現する内容の信託契約を作成しなければならない。


    この依頼者は誰かという点は誤解を生じやすいため、ガイドラインでは、依頼者は委託者であることを明確に記載している。


    民事信託以外の選択肢の検討

    民事信託の受託者には、身上保護に関する権限はない。そのため、依頼者の身上保護が必要となるケースでは、民事信託のみでは対処できず、後見制度等を利用することが必要になる。


    ガイドラインでは、依頼者の事情に応じ、任意後見や遺言など民事信託以外の法制度の利用可能性も慎重に検討しなければならないことを指摘している。


    弁護士による継続的な関与

    信託法では、受託者に対する監督機関を設置することは任意とされており、委託者や受益者が受託者を監督することを予定している。しかし、民事信託では、委託者や受益者は高齢者であることが多く、受託者への適切な監督を将来的に継続できない可能性がある。


    そこで、ガイドラインでは、原則として、受託者に対する監督機関(具体的には、信託監督人または受益者代理人)を設置することを求め、その監督機関には弁護士が就任することが望ましいとしている。


    その他

    ガイドラインでは、信託契約の条項は一義的に明確な内容でなければならないこと、受託者は信託口口座を開設しなければならないこと、信託契約の締結に当たっては税理士との協働が望ましいこと、マネー・ローンダリング対策を行うべきことなどを記載している。


    (日弁連信託センター センター長 伊庭 潔)



    ひまわり

    新型コロナウイルス感染症の流行がきっかけで行動が変わり、結果として新しいことに気付かされる例も多い。ウェブ会議の便利さなどはその最たるものだろう▼コロナ禍で、電車を避けて自転車通勤にした。自転車で通勤してみて気付いたのだが、一見平坦に見える東京も実は起伏が多い。通勤の途中、呑川、立会川、谷戸前川、目黒川、渋谷川、いもり川、笄川と実に7本もの川を越える。川の数だけ山があり、かなり急な坂もあるから自転車通勤には少々きつい。7本の川のうち5本は暗渠になってしまっていて、一見ただの道路にしか見えない。自転車で走って起伏を感じなければそこに川があることに気付かなかっただろう▼リモートワークが増え、自宅でコーヒーを飲むことが多くなったが、これまでドリップする湯温が高すぎたようだ。コーヒーはドリップする湯温によって味が大きく異なり、湯温が高すぎると苦みが強くなる。諸説あるが、適温は85度から90度くらいらしい▼コロナ禍で人と会うことが少なくなり、かえってリアルな対面のありがたさに気付いたということもある。やがてコロナ禍が終わりを迎えても、時折あえて意識的に日頃の行動を変えてみれば、コロナ後も新しい発見を手に入れることができるかもしれない。(S・K)



    第74回 市民会議
    再審法改正と霊感商法等の被害の救済・防止に関する取り組みを議論
    12月19日 弁護士会館

    2022年度第3回の市民会議では、①再審法改正に向けた取り組みと、②霊感商法等の被害の救済・防止に関する取り組みについて報告し、議論した。


    再審法改正

    秀嶋ゆかり副会長と再審法改正実現本部の鴨志田祐美本部長代行(京都)から、日弁連が改正を求める具体的内容を説明するとともに、改正に向けたこれまでの取り組み、特に2022年6月に設置された再審法改正実現本部の活動状況を紹介した。


    市民会議委員からは、手続の透明性を確保するためにも、再審請求審は非公開ではなく公開にする必要があるとの指摘や、証拠開示に関する基準や手続は制度化されるべきであるとの意見が出された。また、刑事司法制度に対する民主的統制を確立するためにも、再審法改正は急務であり、日弁連は市民の理解を得るための活動を積極的に行っていくべきだとの発言もあった。


    霊感商法等の被害の救済・防止

    芳野直子副会長は、2022年9月5日以降、霊感商法等の被害に関する無料法律相談を実施中であることを報告した。加えて、2022年11月に公表した法律相談事例収集(第1次集計報告)では、8割以上が旧統一教会に関する相談であり、そのうち被害金額が1000万円以上と申告する相談は4割を超えるなど、寄せられた相談事例から浮き彫りとなった深刻な被害の実態を説明した。


    市民会議委員からは、霊感商法は孤独や不安など人々の弱い部分につけ入るものであり、背景事情などにも踏み込んで分析し、対応を検討してほしいとの意見が出された。また、2年後の被害者救済法の見直しに向けて、弁護士会が実施している法律相談などを通じた被害状況の把握と市民への情報発信に期待が寄せられた。


    市民会議委員(2023年1月現在)五十音順・敬称略

    井田香奈子 (朝日新聞論説委員)
    太田 昌克 (共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
    北川 正恭 (議長・早稲田大学名誉教授)
    吉柳さおり (株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
    河野 康子 (一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金理事長)
    清水 秀行 (日本労働組合総連合会事務局長)
    浜野  京 (信州大学理事(ダイバーシティ推進担当)、元日本貿易振興機構理事)
    舩渡 忠男 (東北福祉大学健康科学部学部長)
    村木 厚子 (副議長・元厚生労働事務次官)
    湯浅  誠 (社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)


    日弁連短信

    国連に係る審査を生かす

    コロナ禍で止まっていた国連の条約機関や人権理事会による審査が正常化しつつある。


    条約に基づく審査

    国連で採択された主要な条約は、その実効化のため、締約国における実施状況を監視する条約機関を設置しており、締約国は実施状況を定期的に報告し、審査を受ける。審査の過程では政府による報告に加えて、パラレルレポートと呼ばれる市民社会からの情報提供が重要となる。


    そのため、日弁連は条約機関にパラレルレポートを提出し、審査が日本の実情を踏まえた適切なものとなるよう、積極的な働き掛けを行っている。また、審査では、NGO等はオブザーバー参加で発言はできないが、ブリーフィングなどで発言する機会があることから、このような機会を生かすべく、日弁連はジュネーブに会員を派遣している。


    ① 障害者権利条約

    2022年8~9月に開催された障害者権利委員会で日本に対する初の審査が実施された。日弁連は、2019年から2022年にかけて3本のレポートを提出し、審査に会員8名を派遣した。また、2022年11月にシンポジウムを開催し、同委員会の総括所見の内容を報告するとともに、日本の市民社会が取り組むべき今後の課題を明確にした。


    ② 自由権規約

    日弁連は2020年から2年間で6本のレポートを提出している。2022年10~11月に開催された自由権規約委員会において、日本に対する第7回審査が行われたことから、会員5名を派遣した。同委員会の総括所見を受け、日弁連は会長声明を公表し、本年1月には院内集会を開催して、総括所見で指摘された事項の実現に向けた方策を検討した。


    普遍的定期的審査(UPR)

    国連人権理事会は、UPRを実施し、約4年ごとに加盟国の人権状況を審査している。本年1月には作業部会で日本に対するUPR第4回審査が行われた。日弁連は2022年に報告書を提出し、プレセッションに2名の会員を派遣して準備を進め、2023年には作業部会に2名の会員を派遣した。


    以上に関する主要な情報は、日弁連ウェブサイトの国際人権ライブラリーでまとめられており、適宜ご参照いただきたい。


    審査や総括所見は、その過程も重要だが、これを踏まえてどう課題を解決するかという日常の営みがさらに大切であり、日弁連としても日々取り組んでいきたい。

    (元事務次長 柗田由貴)



    刑務所における暴行事件と警察署における死亡事案についての会長声明

    arrow名古屋刑務所刑務官による受刑者暴行事件に関する会長声明

    arrow留置施設とりわけ保護室内での死亡事案についての会長声明


    2022年12月、刑事拘禁施設における暴行事件と死亡事案が立て続けに明らかとなった。日弁連は、事案の発覚直後に2つの会長声明を公表した。


    名古屋刑務所刑務官による受刑者暴行事件に関する会長声明

    名古屋刑務所で、3名の受刑者が10か月にわたり、刑務官22名から暴言・暴行を繰り返し受けていた疑いがあるとの法務大臣の発表を受け、2022年12月21日、会長声明を公表した。


    刑事施設視察委員会の意見や役割を軽視していたことや、過去の名古屋刑務所の暴行陵虐事件を契機とした行刑改革会議の提言にもかかわらず、受刑者の人権を尊重するという理念が浸透していないことなどを指摘した。また、独立した検討会を設置し、全国の刑事施設における暴行事案等を徹底的に調査し、再発防止措置を講じることを求めた。折しも、受刑者の改善更生、社会復帰を志向する「拘禁刑」が導入されようとしている中で今回の事件が発生したことを踏まえ、法改正を含む国際的な人権水準に合致した抜本的な行刑制度改革の推進を図ることも要望した。


    留置施設とりわけ保護室内での死亡事案についての会長声明

    留置施設における2件の死亡事案が報じられた。愛知県岡崎警察署の事案は、43歳の男性被勾留者が保護室に収容され、延べ140時間以上両腕と両足をベルト手錠や捕縄で拘束されていたとされる。大阪府浪速警察署の事案は、40代男性被勾留者が逮捕翌日に発熱等を訴えるも医療機関の受診を認められず、死亡前日と当日の二度にわたりベルト手錠と捕縄で計4時間拘束され、拘束解除の9時間後に死亡したとされる。


    これを受け、2022年12月23日、会長声明を公表し、①留置施設における保護室収容および身体拘束の在り方について早急な検討を求め、②短期間の収容しか想定されていない代用監獄たる留置施設の医療提供に関して深刻な問題があることを指摘した。また、外部の第三者委員等による死亡事案の徹底的な調査と調査結果の公表、結果を踏まえた①②の課題や留置施設制度とその運用についての改革を求めた。


    (刑事拘禁制度改革実現本部事務局員 安齋由紀)



    新事務次長紹介

    柗田由貴事務次長(第一東京)が退任し、後任には、2月1日付けで佐内俊之事務次長(第一東京)が就任した。


    佐内 俊之(第一東京・55期)


    弁護士が多様な問題に取り組み、社会に貢献するのを目にしてきました。社会や周辺環境の変化に連れ、弁護士の取り組みなどが社会に伝わり社会の理解を得ることも大切になっていると感じます。弁護士・弁護士会の活動を下支えし、会員の皆さまのお役に立てるよう、力を尽くします。


    シンポジウム
    メガソーラー及びメガ風力が自然環境及び地域に及ぼす影響と対策
    ~再生可能エネルギーと自然環境及び地域の生活環境との両立を目指して~
    12月5日 オンライン開催

    arrowシンポジウム「メガソーラー及びメガ風力が自然環境及び地域に及ぼす影響と対策~再生可能エネルギーと自然環境及び地域の生活環境との両立を目指して~」


    メガソーラー、メガ風力といった大規模再生可能エネルギー(以下「再エネ」)発電所の建設に伴い発生している問題を共有し、再エネの一層の推進と、自然保護、災害等の防止および地域住民の生活環境の保全とをいかに両立させるか、多角的な視点から議論するシンポジウムを開催した。


    基調講演

    小島智史会員(愛知県)は、日弁連の2022年11月16日付け「arrow_blue_1.gifメガソーラー及び大規模風力発電所の建設に伴う、災害の発生、自然環境と景観破壊及び生活環境への被害を防止するために、法改正等と条例による対応を求める意見書」の概要を報告した。


    山下紀明氏(特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所主任研究員)は、再エネ発電施設の建設を巡って各地でトラブルが発生しているのは、事業者や行政が手続の正当性や地域住民との対話を軽視していることが背景にあると指摘した。法律や条例による規制のほか、エネルギーを買う側もルールを定めて市場による抑制を働かせることで、社会的に受容される再エネを推進し得ると述べた。


    報告

    山口雅之氏(全国再エネ問題連絡会代表)は、メガソーラーおよび風力発電による自然破壊に関する問題を指摘し、実効性が担保できる制度の構築が必要であると強調した。


    長崎幸太郎氏(山梨県知事)と雨宮俊彦氏(同環境・エネルギー政策課長)は、太陽光発電施設の設置、維持・管理、廃止の段階まで事業者に適切な対応を求める独自の条例を制定して、問題のある事業者に対して改善命令を発動するなど、地域と共生しながら再エネの導入・促進に県として取り組んでいると紹介した。


    パネルディスカッション

    北村喜宣教授(上智大学)らが登壇し、地域社会の理解を得た再エネの促進方策をテーマに、自然保護に関する法制の整備、住民が手続に参加できる機会の保障、十分な情報公開に加え、手続等に違反した場合の司法による救済の道を確保する必要性などについて議論した。



    シンポジウム
    「核兵器のない世界」の早期実現のために
    12月5日 オンライン開催

    arrow シンポジウム「『核兵器のない世界』の早期実現のために-核兵器禁止条約第1回締約国会合及びNPT再検討会議を受けて」


    2022年6月に核兵器禁止条約(以下「核禁条約」)第1回締約国会合がウィーンで開催され、同年8月に核兵器不拡散条約(以下「NPT」)再検討会議がニューヨークで開催された。


    これらを受けて、本シンポジウムでは核兵器のない世界の早期実現のため、市民社会が取り組むべきことについて議論した。


    本テーマに関して、日弁連はarrow_blue_1.gif2022年5月26日に核禁条約への早期の署名・批准を求める会長声明を、arrow_blue_1.gif同年7月14日にNPT再検討会議において締約国に具体的かつ効果的な提案を行うことを求める会長声明を公表している。


    基調報告

    川崎哲氏(ピースボート共同代表・核兵器廃絶国際キャンペーン国際運営委員)は、核禁条約は核兵器を非人道的な兵器として全面的かつ完全に禁止し、核兵器廃絶への道筋と核被害者の援助を定めた画期的な条約であると説明した。核抑止力に依存する安全保障は持続可能ではないと指摘し、日本の条約批准に向けた課題を示した。


    リレー報告

    核禁条約第1回締約国会合を視察した遠藤あかり氏(核兵器廃絶日本NGO連絡会事務局)は、世界は被爆者の声に耳を傾けようとしているとし、核の非人道性を市民社会に訴えるアクションが必要だと強調した。


    海部篤氏(外務省軍縮不拡散・科学部長)は、核兵器のない世界を目指すことは唯一の戦争被爆国である日本の使命であるとの日本政府の立場を説明し、NPT再検討会議で枠組みの維持・強化の認識を共有したと報告した。


    山田寿則氏(明治大学法学部兼任講師)は、核禁条約の署名国・批准国の拡大による普遍化のほか、国際慣習法としてすべての国を拘束する規範となる可能性に言及し、市民社会が一体となって核廃絶への道筋をつけていくことが重要であると語った。


    和田征子氏(日本原水爆被害者団体協議会事務局次長)は、世界の誰にも同じ思いをさせたくないと訴え、核の非人道性を世界に伝えるために着実な努力を続けたいと述べた。


    シンポジウム
    デジタル社会における地域のあり方と自治体の役割
    12月22日 オンライン開催

    arrow シンポジウム「デジタル社会における地域のあり方と自治体の役割」


    デジタル庁の発足後、自治体の基幹業務システムの標準化・共通化が検討されているが、個人情報をいかに保護するかなど課題は多い。


    本シンポジウムでは、デジタル社会における自治体の役割などを議論した。


    講演・報告

    奥村裕一氏(一般社団法人オープンガバナンスネットワーク代表理事)は、自治体におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は①情報の共有とプロセスの可視化、②組織間の連携による統合、③業務の効率化により真価を発揮するが、その前提として市民の意識改革と市民と行政の協働が必要だと語った。


    内田聖子氏(NPO法人アジア太平洋資料センター共同代表)は、市民参加型合意形成デジタルプラットフォーム「Decidim」を導入して匿名で予算案に投票できるシステム等の実現を目指すバルセロナ市の取り組みなどを紹介した。


    多田功氏(加古川市企画部政策企画課スマートシティ推進担当課長)は、市民へのアンケートやタウンミーティング等を実施した上で、通学路に見守りカメラを設置したところ、刑法犯認知件数が半減したと報告した。


    パネルディスカッション

    佐藤信行教授(中央大学法科大学院)は、システム開発の設計段階からプライバシーを保護する機能を組み込むプライバシー・バイ・デザインという考え方を示し、プライバシー侵害が発生する前に予防策を講じる必要があると説いた。


    原田智氏(元京都府CIO兼CISO情報政策統括監)は、国が推進する自治体情報システムの標準化・共通化には、自治体が発信する現場の声を反映する必要があると指摘した。


    小島延夫会員(東京)は、国は自治体に対し、住民基本台帳に関する事務などで標準準拠システムの利用を義務付けるが、同システムは固定的ではなく、住民サービスを向上させるための実践例を全国に普及する必要があるとした。


    家事法制シンポジウム
    「内密出産」を考える
    12月17日 オンライン開催

    arrow 家事法制シンポジウム「『内密出産』を考える」


    近時、医療機関だけに身元を明かして出産する「内密出産」が注目を集めている。2022年9月には、法務省および厚生労働省が医療機関や自治体の対応を示した「妊婦がその身元情報を医療機関の一部の者のみに明らかにして出産したときの取扱いについて」(以下「ガイドライン」)を公表したが、日本に内密出産の法的根拠は存在しない。


    本シンポジウムでは、問題の背景を整理し、検討すべき法的問題点とその解決に向けた課題を議論した。


    基調講演

    床谷文雄教授(奈良大学)は、慈恵病院(熊本市)での「こうのとりのゆりかご」の取り組みや、ドイツとフランスの法制度に触れながら、内密出産の現状を紹介した。内密出産は、他人に知られずに出産する、安全な出産を享受・選択するという女性の権利や、出自を知るという子の権利などに深く関わるが、ガイドラインはこうした問題の根本的解決とはなっておらず、日本法に適合した制度の構築には多くの課題が残っていると述べた。


    パネルディスカッション

    助産師の赤尾さく美氏(一般社団法人ベアホープ理事・一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク理事)は、貧困、DV、障がい等の複数の問題が親世代から複雑に絡み合う中で、思いがけない妊娠をする女性も少なくなく、内密出産は自己責任では片付けられないとし、母子への適切な支援の必要性を説いた。


    国宗直子会員(熊本県)は、背景には子どもの幸せについてのパターナリズムの問題もあるとし、アイデンティティの根底となる子が出自を知る機会を保障することの重要性を強調した。


    家事法制委員会の橘高真佐美事務局次長(東京)は、子と母の権利の二項対立でなく、権利の内実や真の対立点を丁寧に分析し、父の権利・責任を含めて法制度を検討すべきと述べた。


    床谷教授は、内密出産は出産時だけでなく、長期間にわたる母子のケアという視点での検討が必要であるとし、記録の永年保存など行政が関与する仕組みの構築が必要だと語った。



    日弁連新聞モニターの声

    日弁連新聞では、毎年4月に全弁護士会から合計71名のモニター(任期1年)をご推薦いただき、そのご意見を紙面作りに生かしています。


    2022年は、開催が1年延期されていた弁護士業務改革シンポジウムの記事など、実務的な話題に注目が集まりました。特に、民事・刑事裁判手続のIT化に関する記事には、実務上の影響が大きいことから高い関心が寄せられました。また、提言や意見書などに関する記事についても、日弁連の取り組みや活動を知ることができて有意義であるなどと好意的な評価をいただきました。他方で、より掘り下げた内容の記事を望む声もいただきました。正確かつ充実した情報をお伝えできるよう努めていきます。


    3面では、主にシンポジウムなどのイベント記事を掲載しています。全く知らなかった分野について問題意識を持つことができた、勉強になった、などの好意的な評価をいただきました。今後も、幅広い分野のイベントを取り上げ、多様な情報を発信していきます。


    4面の「JFBA PRESS」では、広報室嘱託による特集記事を掲載しています。若手チャレンジ基金制度の受賞者インタビューでは、若手会員の先進的な取り組みやNPO等の各種団体での地道な活動について、大変感銘を受けたなどの声が多くありました。


    今後も、会員の皆さまのニーズにお応えできる情報発信を目指した紙面作りに努めます。


    JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.177

    生きづらさを抱えるヤングケアラーを支え、支援する
    こども・若者ケアラー支援センターもみの木

    厚生労働省の調査では、小学生の6.5%(15人に1人)、中学生の5.7%(17人に1人)が「自分が世話をしている家族がいる」と回答するなど、相当数のヤングケアラーの存在が明らかになり、支援について議論されています。家族のケアを担う子ども・若者に対して支援等を行うNPO法人こども・若者ケアラー支援センターもみの木(以下「もみの木」)理事長の竹内俊一会員(岡山)にお話を伺いました。

    (広報室嘱託 李桂香)


    組織の概要

    もみの木は、社会福祉士、看護師、弁護士、司法書士といった専門家等で構成され、子ども・若者ケアラーに関する①当事者と連携しながらの広報、②専門家コーディネーターによる個別相談、③安心できる居場所づくり、④調査・研究・提言の4つの柱を中心に活動しています。


    近時、社会的関心を集めている「ヤングケアラー」という用語ですが、「ヤング」とは通常18歳未満を指します。しかし、20代の若者が介護している親族の命を奪う事件などが示唆するとおり、未成年時に適切な支援が入らず、成人後も困難な状況が継続するケアラーの存在も見過ごせません。そこで、対象を広く設定し「こども・若者ケアラー支援センターもみの木」と名付けました。



    設立の経緯

    多くの成年後見・未成年後見を担当してきた経験から、2012年、「NPO法人岡山未成年後見支援センターえがお」(以下「えがお」)の設立に携わり、法人による未成年後見に関する業務を担当してきました。法人による未成年後見の多くが虐待案件です。


    そのような中、小学生ケアラーのAくんと出会いました。Aくんは、親の障がいやその他の事情から、適切な養育・監護が受けられない状況でした。このため、ネグレクトと判断され、親権停止の手続後、えがおが法人後見人に就任しました。


    弁護士としては、虐待である以上、親との分離は必須と考えるのがセオリーです。しかし、Aくんは親と離れることを望まず、親の介護のために高校へは進学せず、中学卒業後はアルバイトで生活すると話し、将来の夢や希望を口にすることはありませんでした。Aくんの思いを踏まえ、えがお内でケース会議を繰り返し、親と分離するのではなく、学習を支援する民間教室に同行したり、自宅から自転車で通える高校の入学説明会を案内するなど、ポジティブな選択肢を提示しつつ、支援を進めました。当初、進学を考えていなかったAくんでしたが、今では高校への進学を希望し、そのために乗れなかった自転車の練習をするまでになりました。


    ケアラーである子どもへ提示する選択肢の重要性を改めて認識するともに、この問題の奥深さを痛感しました。そこで、実態に即した適切な支援を行うために、多くの方々の協力を得て、2022年8月、もみの木を設立するに至りました。


    ケアラーの実態と支援の課題

    世帯当たりの構成員の数が少なくなっている現代において、家族の1人あるいは複数人に何らかの障がいがある場合、残りの家族がケアすることになります。それが年齢や能力に見合わないものになるケースでは、ヤングケアラーの問題が生じることになります。


    デリケートな家庭内の事情は表面化しづらく、当事者である子どもが問題だと認識していない場合も多いため、ヤングケアラーの把握は難しいのが現状です。学校生活において「欠席・遅刻が多い」「宿題をしない」「表情が暗い」といった子どもたちの表層的な変化から、周囲の大人たちがその背後にある原因の把握に努めるべきだと考えます。


    子どもと信頼関係を築くことや話しやすい環境を作ることも大きな課題です。障がいのある家族を持つ子どもたちを支援している団体で当事者の話を聞くと、学校生活などで教師等から、本人の努力ではどうしようもないことについて叱責を受け、ひどく傷つき、大人に対する信頼を喪失するケースが少なくありません。もみの木では、当事者団体と連携した居場所づくりにも力を入れて活動しています。


    弁護士の役割と今後の活動

    多機関が関わる支援団体において、弁護士は対外的な交渉時に力を発揮します。もみの木の活動においても、弁護士が子どもに関わる人々や団体に積極的に声をかけ、支援に必要・適切な人材を巻き込んで連携することで、支援体制を構築しています。


    今後は、ヤングケアラーへの支援に関する各地での実践的な取り組みを共有し、子ども・若者を支える社会資源の充実を図り、支援の裾野を広げていきたいと考えています。



    日弁連委員会めぐり 121

    国際交流委員会

    arrow 国際交流活動


    今回の委員会めぐりは、国際交流委員会(以下「委員会」)です。牧山嘉道委員長(第二東京)、田中みどり副委員長兼事務局長(東京)、石﨑明人事務局次長(第二東京)にお話を伺いました。

    (広報室嘱託 枝廣恭子)


    活動の概要

    委員会には、各国の法曹団体との交流を担当する交流部会と、開発途上国の法整備支援などを担当する国際司法支援センター(ILCC部会)があります。1990年代後半にカンボジアで開始された法整備支援は、日弁連が法務省や最高裁判所に先駆けて実施した活動で、その後JICA(独立行政法人国際協力機構)等と連携して取り組んでいます。


    最近の活動

    2019年11月から2022年9月まで、公益財団法人トヨタ財団の助成を受けて、カンボジア、ラオス、ベトナムの各弁護士会と日弁連とで、「平和で豊かな暮らしのために『法』をもっと身近に―正義へのアクセスを実現するための4か国の連携」プロジェクトを実施しました。コロナ禍により多くのプログラムがオンラインでの開催となりましたが、ワークショップなどを通じて課題解決に向けた支援と相互交流を図りました。JICAからの委託による課題別研修もオンラインで実施し、さまざまな国や地域からの参加を得ました。


    担い手の育成

    委員会の担い手の育成やモチベーションの向上のためには、現地に赴いて現地の空気を肌で感じながら、現地の弁護士等と直接交流することが不可欠ですが、コロナ禍でその機会も失われてしまいました。しかし、この間を利用して、委員会の足腰を強くするため、各事業の管理や相手国との連携等を継続的に担う事務局制度を導入するなど、若手委員が主体的に参加できる組織作りに取り組みました。


    また、委員会内での勉強会の開催や、全会員向けに国際交流に興味を持ってもらうための「次世代養成研修」を実施しました。


    活動の理念、会員へのメッセージ

    司法制度構築を支援する活動は、全世界規模での人権の実現に寄与するものです。そして、法の支配の下、司法の一翼を担う弁護士が国を超えて交流することは、世界平和につながります。委員会は、このような理念に基づき精力的に活動しています。また、海外の弁護士会との交流には、時勢に応じた配慮が求められるため、常日頃から国際政治の動向にも注視しています。


    国際業務とは無縁の会員でも、普段の弁護士業務とは異なる貴重な経験ができます。興味のある会員の方は、ぜひご参加ください。



    ブックセンターベストセラー
    (2022年12月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

    順位 書名 著者名・編者名 出版社名・発行元名
    1 新版 注解交通損害賠償算定基準 高野真人/編著 園 高明、古笛恵子、松居英二、髙木宏行、末次弘明、北澤龍也、垣内惠子/著 ぎょうせい
    2 模範六法 2023 令和5年版  判例六法編修委員会/編 三省堂
    3 有斐閣判例六法 Professional 令和5年版 2023 佐伯仁志、酒巻匡、大村敦志、道垣内弘人、荒木尚志/編 有斐閣
    4 最高裁破棄判決 田中 豊/著 ぎょうせい
    5 離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点 武藤裕一、野口英一郎/共著 新日本法規出版
    6 Q&A 遺産分割事件の手引き 山城 司/著 日本加除出版
    7 新アプリ法務ハンドブック 増田雅史、杉浦健二、橋詰卓司/編著 日本加除出版
    8 サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル〔第4版〕 清水陽平/著 弘文堂
    9 建築訴訟〔第3版〕 松本克美、齋藤 隆、小久保孝雄/編 民事法研究会
    10

    WEB3への法務Q&A

    野口香織/著 きんざい
    実務から見た遺産分割と遺言・遺留分 山川一陽、岩志和一郎、山﨑雄一郎、松嶋隆弘/編・著 青林書院
    改訂3版 建物賃貸借 渡辺 晋/著 大成出版社



    日本弁護士連合会 総合研修サイト

    eラーニング人気講座ランキング(刑事編) 2022年12月~2023年1月

    日弁連会員専用ページからアクセス

    順位 講座名 時間
    1 交通事故刑事弁護士費用保険について 22分
    2 2016年改正ストーカー規制法の概要 20分
    改正少年法下における少年審判実務の運用の変化と付添人活動 125分
    4 刑事弁護の基礎(捜査弁護編) 136分
    5 【コンパクトシリーズ】保釈の基本 25分
    6 【コンパクトシリーズ】被疑者の不必要な身体拘束からの解放に向けた弁護活動 28分
    7 【コンパクトシリーズ】接見の基本 34分
    刑事弁護の基礎(公判弁護編) 132分
    少年事件 172分
    10 【コンパクトシリーズ】身体拘束からの解放の基本 24分


    お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9927)