核兵器禁止条約第1回締約国会議開催に当たり、日本政府に対し、核兵器禁止条約に早期に署名・批准することを求める会長声明


本年6月、核兵器禁止条約第1回締約国会議がオーストリアのウィーンで開催される。昨年1月22日に発効した核兵器禁止条約は、被爆者や核実験被害者の長年の願いが結実したものである。本来なら同会議は本年1月に開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により2回にわたり延期され、その間、世界の核兵器廃絶への取組は停滞している。


そればかりでなく、本年2月24日以降、ロシア連邦(以下「ロシア」という。)はウクライナに対して国際法に反する軍事侵攻を行っており、ロシアのプーチン大統領は、侵攻に際し、核兵器を運用する部隊に特別態勢を取ることを命じた旨を発表し、国際社会に対し、あからさまに核兵器使用を示唆する威嚇を行っている。


そして日本国内においては、一部の国会議員等から、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を契機に、米国の核兵器を日本に常備する「核共有論」や「非核三原則」の一つである「持ち込ませず」を緩和すべきだとする見解が強く主張されている。


しかしながら、そのような考え方は、日本も批准・加盟している核不拡散条約2条が禁止する核兵器の「受領」に該当するもので許されないし、また、非核三原則は一体のものとして今後も堅持されるべきもので、一つでも緩和することは許されない。


万一、核戦争になれば、「全人類に惨害」(核不拡散条約前文)や「壊滅的で非人道的な結末」(核兵器禁止条約前文)がもたらされることは明らかで、国際司法裁判所の勧告的意見(1996年)は、核兵器の使用のみならず威嚇も、国際人道法の原則に一般的に違反することを明らかにしている。核兵器禁止条約は、更にそれを発展させ、いかなる場合にも、核兵器の使用や「使用するとの威嚇」を禁止し(1条)、核兵器の全面的な廃絶を展望している(4条)。


核兵器使用の現実的リスクが高まりつつある現在の国際状況であればこそ、「壊滅的で非人道的な結末」を回避するため、全世界において核兵器禁止条約を普遍化しなければならない(12条)。核兵器保有国も同条約に署名・批准すべきであるし、とりわけ日本は、唯一の被爆国として、全世界の核兵器廃絶に向けて、早期に同条約に署名・批准すべきである。


当連合会は、これまで「→『核兵器禁止条約』の早期実現を求める会長声明」(2017年6月6日)、「→『核兵器禁止条約』の採択に関する会長声明」(同年7月10日)、「→日本政府に対し、核兵器禁止条約について早期に署名・批准することを要望する会長声明」(2020年11月6日)及び「→『核兵器禁止条約』の発効を歓迎する会長声明」(2021年1月22日)を公表し、日本政府に対し核兵器禁止条約への署名・批准を求めてきたが、いまだ実現していない。


よって、当連合会は、核兵器禁止条約第1回締約国会議開催に当たり、改めて、日本政府に対し、核兵器禁止条約に早期に署名・批准することを求めるとともに、少なくとも同会議にオブザーバーとして参加することを強く要請する。



 2022年(令和4年)5月26日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治