弁護士採用に関するQ&A

Ⅰ 担当業務について

Ⅱ 応募資格について

Ⅲ 採用条件について

Ⅳ 採用形態について

Ⅴ 募集方法・スケジュールについて

Ⅵ 選考方法について

Ⅶ 弁護士採用の効果について



Ⅰ 担当業務について

Q01 採用された弁護士はどのような業務を担当していますか?

職員向けの行政法律相談、訴訟、行政不服審査、条例規則等の法制執務、研修講師等の人材育成、債権管理回収、コンブライアンスの施策立案、議会対応、住民への直接対応(クレーマ一対応を含む)、選挙事務などの業務を担当している弁護士が多いようです。
地方自治体の業務は全て法令に基づいて行われるものですので、列挙した業務以外にも地域の実情に応じた独自政策の企画・立案などの業務を担当させることも有益です。
なお、弁護士が担当している業務の範囲については、地方自治体の採用目的等により違いがみられます。


Q02 法務の部署以外でも勤務している弁護士はいますか?

比較的組織規模が大きい地方自治体では「こども総合相談センター」(児童相談所)、「労働委員会事務局」、「教育委員会」、「監査部」、「子ども・女性・障害者センター」というように、法務の部門以外でも採用されている例があります。


Q03 顧問弁護士との関係はどのようにしたら良いでしようか?

任期付職員(任期付短時間勤務職員を除く)は常時庁内にいるので、行政の内部情報に通じ、迅速な対応が可能という点での強みがあります。他方、顧問弁護士は行政関係法令の知識や経験の豊富さという点での強みがあります。両者の強みを融合し、お互いに補完しあうこと、すなわち二人三脚のような関係で連携をしていくことにより、より良い効果が生まれます。
弁護士を任期付職員として採用した地方自治体のほとんどは、採用後も従前と同様に顧問弁護士契約を継続しています。セカンドオピ二オンを要する案件や重要な訴訟案件については、顧問弁護士に期待される役割は依然として大きいものがあるためです。このようなケースでは、任期付職員として採用した弁護士が、顧問弁護士との橋渡し役となり、原課に対しより適切な対応を助言することや、地方自治体の立場に立った考えや事実経過を顧問弁護士に伝えることで、顧問弁護士との有機的な連携を図るという役割を担っています。


Q04 一般職員と同様の業務にも従事している弁護士はいますか?

弁護士は法務能力のみならず、事務処理能力にも優れた面があります。一般職員と同様の業務に従事させても問題なく対応できるでしょう。実際に、所属部署の庶務や他部署の業務を手伝っている任期付職員もいます。
任期付職員も、一般職員と同様の職務に従事させることによって組織になじみやすくなり、それが本来の業務にも良い影響を与えることにつながります。


Ⅱ 応募資格関係

Q05 応事資格としてはどのようなものが考えられますか?

司法試験合格後の司法研修所での修習を終了していることの他に、弁護士としての実務経験年数や年齢を応募資格とすることが考えられます。
弁護士としての実務経験を応募資格にしているケースの中では、「1年以上」、「2年以上」、「3年以上」というように一定期間の実務経験を求めている例が大半を占めていますが、あえて実務経験年数を応募資格として明記せずに、選考段階でこれを考慮しているケースも見受けられます。 応募資格としてどの程度の実務経験を求めるべきかについては、就任予定の役職や既採用の弁護士の有無等にもよりますが、できるだけ応募者を増やして競争性を高め、より適切な人材を採用するという観点からも検討する必要があるでしょう。
また、応募資格としてあまり長い実務経験年数を設定すると、複数の応募者を確保することが困難となり、場合によっては応募がない可能性もありますので、注意が必要です。


Q06実際に採用された弁護士の実務経験年数や年齢はどのようになっているでしょうか?

実際に採用されている弁護士の実務経験年数は、3年~5年が多いようです。その年数の実務経験があれば、弁護士としての実務を一通り経験していると考えてよろしいかと思います。
他に、10年以上の実務経験をもって地方自治体で勤務している弁護士もいますし、実務経験なく勤務した弁護士もいます。
年齢については、これまでの採用状況からしますと、30歳台の弁護士が多い傾向にあります。


Ⅲ 採用条件関係

Q07 任期は何年とすることが多いでしょうか?

任期は「2年」または「3年」とする場合が多くみられます。その場合、任期を更新していることも多くみられます。一方、採用当初から任期を5年としている例もあります。ただし、任期が長くなると、それだけ弁護士業務から長く離れることになりますので、応募を考える弁護士が少なくなってしまう可能性があります。


Q08 どのような役職に就任することが多いでしょうか?

管理職(主にスタッフ管理職)としての採用が最も多い状況です。その場合、2つの役職を兼務している例もあります。
また、係長の立場での採用も一定数あります。
役職名としては「法務担当課長」が最も多く用いられていますが、その他では「法務専門監」、「室長」、「法制企画官」、「研修教授」などもあります。


Q09 給与の設定はどうしたら良いでしょうか?

給与額は地域手当の額によって多少のばらつきが生じていますが、給与は800~900万円代が多いようです。
給与の号級としては、「一般職の任期付職員の採用及び給与に関する条例」等における4号級が一番多く、次いで3号級が多い状況にあります。中には、5号級としている地方自治体もあります。


Q10 任期中に弁護士登録を維持することで地方自治体にはどのようなメリッ卜があるでしょうか?

弁護士会は、公法研究、民事介入暴力、障がい者問題、高齢者問題、DV問題、消費者問題など、地方自治体の業務に関連する分野にも幅広く取り組んでおり、それらに対応する各種委員会が設置されており、また、研修も開催されています。弁護士登録を維持することにより、それらの活動等への参加が可能となるため、そこでの情報入手や弁護士との交流を深めることは任期付職員としての業務にも役立つことになります。地方自治体にとっても大いにメリットがあります。
また、日弁連実施の地方自治体向けアンケー卜調査によると、弁護士登録があれば「庁内での職員向け法律相談に対する信頼度が違う」という回答をいただいています。県や国その他外部の団体との対外折衝や住民対応(クレーマ一対応など)の場面でも、弁護士登録があると効果的であるという声をいただいています。


Q11 弁護士登録を維持することは職務専念義務との関係では問題がないでしょうか?

弁護士登録を維持していても、弁護士としての事件処理などを行わなければ、職務専念義務や兼業禁止に抵触することはないので問題ありません。
また、有給休暇の利用等により委員会活動などの公益活動を行うことは可能ですし、同様の方法により研修への参加もできます。地方自治体にとっても有益な研修であれば業務として参加させるということも検討してみてはいかがでしょうか。


Ⅳ 採用形態

Q12 弁護士を複数採用している地方自治体はありますか?

任期付職員として弁護士を複数採用している地方自治体は、複数あります(大阪府大阪市、兵庫県明石市、東京都、神奈川県、新潟県新潟市など)。弁護士に期待する業務内容やその量との関係で採用人数も決まるものと思いますが、法令の解釈・適用の場面では、弁護士同士で意見交換が出来たほうがより精度が高まり、適切なリスク管理につながるというメリッ卜があります。 


Q13 常勤職員としてではなく非常勤職員(地方公務員法3条3項3号)として採用することはどうでしょうか?

担当業務の内容にもよりますが、業務内容を限定して、常勤でなくても対応可能な業務(例えば債権管理)の担当ということであれば、弁護士を非常勤職員として採用することは有用です。勤務回数が少なければ(例えば週2日) 、勤務日以外はこれまでと同じ弁護士業務を行えますので、弁護士も応募をしやすくなります。 また、非常勤職員等として弁護士を採用してみることは、常勤の任期付職員としての採用を検討するにあたって参考にもなります。東京都国立市では、弁護士を非常勤職員として採用した後に、常勤の任期付職員を公募により採用しました。


Q14 任期付短時間勤務職員として採用することはどうでしょうか?

任期付短時間勤務職員として採用することについては、基本的には非常勤職員としての採用と同様のことが言えるかと思います。 しかし、非常勤職員の場合とは違って、任期付短時間勤務職員の場合には、公権力を行使できる(例えば、徴税吏員になれる)というメリットがあります。債権回収センターや納税課で、弁護士が任期付短時間勤務職員として採用されている例もあります。


Ⅴ 募集方法・スケジュール

Q15 募集はどのような方法で周知すれば良いでしょうか?

多くの地方自治体が、採用にあたり、日弁連のマッチングシステム『ひまわり求人求職ナビ』を利用しています。また、地元弁護士会のHPへの掲載やチラシ等の配布も有用です。 その他、より詳細に公募情報を説明し、弁護士に直接PRするために、日弁連や地元弁護士会において採用説明会を開催したり、キャリアアップセミナー(公募を考える自治体が一堂に会する説明会)に参加するという方法もあります。


Q16 採用説明会では募集要項の説明以外にどのような説明をするのが良いでしょうか?

実際に開催された採用説明会では、地方自治体の熱い思いを語っていただいたり、地域の特色などを映像でPRしていただいたりしています。また、質疑応答の機会もありますので、地方自治体としても弁護士の考えや関心事について直接聞くことが出来るので、大変良い機会となると思います。


Q17 公募情報の公開時期と募集開始時期とはある程度時間を空けた方が良いでしょうか?また、募集期聞はどれくらい設けるのが適当でしょうか?

公募情報の公開時期と募集開始時期の間隔を空けたほうが良いかどうかは募集期間の長さにもよりますが、公募情報の公開時期を出来る限り早くしていただくと、弁護士が応募を検討する時間も増え、現在抱えている業務の整理・対応もしやすくなりますので、応募を考える弁護士が増えることにつながるでしょう。 一般的な法律事務所、弁護士の事情を考えると、公募情報の公開時期は探用予定時期の少なくとも半年前、募集期間は1か月~ 2か月、内定から採用までは少なくとも3か月というスケジュールで考えていただければ良いのではないかと思います。


Q18 採用時期を当初の予定より遅らせるなど内定者の都合に合わせて柔軟対応できるようにした方が良いでしょうか?

内定者の事情を聞いて、場合によっては採用時期を遅らせる余地を設けておけば、内定辞退の危険性を回避することにもつながりますし、応募を考える弁護士が増えることにもつながると思います。


Q19 募集をしたけれども応募がなく採用できなかった例はありますか?補欠合格を設けたほうが良いでしょうか?

残念ながら応募がなく採用できなかった例はあります。また、内定辞退により採用に至らなかったという例もあります。 このように採用に至らなかった例については、その原因・理由・対策などを日弁連で分析しておりますので、事前に日弁連にご相談いただければと思います。 また、補欠合格は内定辞退者が出る可能性があることを考えると設けておくことが良いと思います。


Ⅵ 選考方法

Q20 どのような選考方法が取られていることが多いでしょうか?面接はどれくらいの時聞をとれば艮いでしょうか?

多くの地方自治体が、書類選考と面接試験を実施し、採用を決定しているようです。面接の時聞は30分程度としているところが多く、顧問弁護士も面接官の1人としている地方自治体もあります。


Q21 弁護士はどのような理由で応募してくるのでしょうか?

多くの弁護士が、「①地方行政への興昧」、「②公益の実現」、「③法曹としての幅・視野を広げるため」、「④専門性を得るため」、「⑤新しい分野への挑戦」などの積極的な理由で地方自治体に応募しています。


Q22 応募する弁護士は行政分野の事件を経験している方が多いのでしょうか?

採用されている弁護士の多くが行政分野の業務にほとんど携わったことがないという状況にあります。 しかし、弁護士は、法律についての基本的な考え方を理解しており、事実認定、証拠の収集・評価、法律の適用・解釈についても十分なトレー二ングを積んでいて、それらのスキルを活かして業務に取り組んでいますので、行政分野の事件の経験がなくても十分な活躍が期待できます。 また、地方自治体での業務においては、特に民法の知識を必要とする場面が多く、その他様々な法律が問題に絡んできますので、実務経験での業務内容の幅広さが重要なポイントになると思います。


Q23 採用にあたっては弁護士としての能力以外にはどのような点を重視したら良いでしょうか?

これまでに弁護士を採用した地方自治体では、コミュニケーション能力、勤務するにあたっての意欲・積極性などが重視されています。 また、地元弁護士会との連携を考える場合には、採用にあたり弁護士会での活動状況、その内容などを重視することも良いかと思います。地方自治体との連携活動を実践し、経験している弁護士であれば、行政実務に対する理解度も高いと思われます。


Ⅶ 弁護士採用の効果

Q24 弁護士を採用した場合の効果を教えてください。

弁護士を職員として採用した多くの地方自治体から、次のような声をいただいています。 ① 職員が問題を抱え込むことなく自信と安心感をもって業務に取り組むことができる。 ② これまで気づかなかった多くの法的問題が、職員として常駐する弁護士への日常的な法律相談を通じて顕在化し、リスク管理や紛争予防につながる。 ③ 職員向け研修のみならず、日常業務の中で様々な課題を他の職員と一緒に検討・解決することを通じて、職員に法的思考やセンスが浸透し、法的問題を幅広い視点から自ら発見・検討する能力が向上する。 ④ 顧問弁護士との連携や役割分担を通じて、これまで以上に顧問弁護士を有効活用できる。 ⑤ 政策の企画・立案・実行・運用の各場面において、行政運営の幅が広がる。