社外役員に就任している女性弁護士インタビュー

佐貫 葉子 弁護士

Q 社外役員としての経歴について教えてください。

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1996年12月に、医薬品卸しの株式会社クラヤ三星堂(現、株式会社メディパルホールディングス)の社外監査役に就任したのが初めての社外役員就任でした。当時在籍していた法律事務所が、大手製薬会社の顧問事務所で、そのルートからの紹介でした。1996年12月から2007年6月まで、途中3年ほど空けて同社の社外監査役を務めました。


2007年6月からは、明治乳業株式会社(当時)の社外監査役に就任しましたが、2009年4月に、明治乳業が明治製菓株式会社(当時)と経営統合し、新たに明治ホールディングス株式会社が両社の親会社として発足した際に、同社の社外取締役に就任し、以降2018年6月までの9年間務めました。


併せて、2011年6月から株式会社りそな銀行の社外取締役に就任しました。りそな銀行は、2003年に公的資金が投入されて事実上国有化(いわゆる「りそなショック」)され、ガバナンスの強化が求められる中、経営再建を引き受けられたJR東日本元副社長の細谷英二会長と、従前から異業種交流会を通じて知り合いであったので、お声をかけていただきました。1年後に、親会社である株式会社りそなホールディングスの社外取締役に就任しました。同社は、委員会設置会社(現、指名委員会等設置会社)であり、就任時から監査委員となり、2015年6月から監査委員長を務めています。りそなホールディングスは、取締役10名中6名が社外で、2年前まで女性取締役がもう1名いたのですが、現在女性取締役は私1人だけです。ただし、執行役には、人事担当の女性が1名います。また傘下銀行(現5行)には、女性社外取締役、女性執行役員、女性監査役が複数名います。




Q それぞれの会社にどのように関わってきましたか?

(1) 明治乳業も明治製菓も、創業約100年の老舗企業でしたが、経営統合により、食と医薬品を扱うグループ企業となりました。食品と医薬品という人の命と健康に直結する企業ですから、安心安全という点が最も重視されます。品質事故が起これば築き上げた信用は一瞬で崩れるという意識は、会社全体に浸透していると思います。工場には、必ずヒヤリハット事例が壁に貼り出されているし、見学の際の厳重な点検規程、あるいは従業員の安全対策など、細部に気を張り詰めているということが窺えます。したがって取締役会でも、お客様相談センターの苦情や問題事例を多い順にまとめて報告していただいたりしていますし、企業理念においても最優先事項として意識していました。なお、明治ホールディングスは、監査役会設置会社ですが、発足時から任意の指名委員会、報酬委員会があり、両委員会のメンバーを務めました。その意味では、CGコードが制定される前から、コードの趣旨を先進的に取り入れていたと考えています。


(2) りそなホールディングスは、その経緯からも、ガバナンスという面では、かなり先進的であると考えています。公的資金投入直後は、細谷会長主導の下、他業種から経営者経験のある社外取締役を複数名招聘して、企業改革に取り組まれました。就任された社外取締役からは相当厳しい意見や指摘があり、また改革の実効性については社外取締役自ら現場に赴いて確認されるなど、その激しさとハレーションは、今や伝説となっています。この時期の社外取締役は、かなり執行にもコミットされたわけで、それも社外取締役の一つの在り方かと考えています。


私が、就任した頃は、当初の改革の時期は過ぎていましたが、社外取締役の役割が重く、一方では意見をよく聞いてくれて、情報も隠さず速やかに開示してくれるという印象が強かったです。なお、取締役会や委員会あるいは取締役や執行役に関する業務を担う部署は、通常、秘書室あるいは経営企画部という名称が多いのではないかと思いますが、りそなでは当初からコーポレートガバナンス事務局と称していました。コーポレートガバナンスという用語がまだ一般に普及していなかった頃には、他社の方から「何ですか?それは?」と聞かれたそうです。


私は、それまで弁護士としても社外役員としても関わりがあったのは、全て監査役会設置会社でしたから、当初委員会型には戸惑いがありました。監査委員も独任制ではなく、委員会としての組織監査であり、その上で役割分担があるのだということを初めて実感したものです。監査委員会は、取締役会の内部機関という位置付けなので、適法性監査か妥当性監査かという議論は気にしないで済むため、すっきりしているということは感じます。




Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

(1) 明治ホールディングスでは、9年間、事業会社を含め社内における女性管理職登用について、随分申し上げたつもりです。株主総会で株主から指摘され、回答したこともあります。なかなか短期的には難しいところです。2019年1月時点でも、事業会社を含め執行役員にも女性は一人もいないのではないでしょうか。企業風土や企業文化は、先程申し上げたように堅実ですが、多少保守的なところがあることや、工場において3交代制があり、女性がそのシフトに入るのが難しいといったことが影響しているのかもしれません。


ただ、学生の就職を希望するランキングでは、いつも上位にありますし、近年特に優秀な女性が入ってきています。会社でも意識してモチベーションを上げるための推進施策を様々試みています。将来的には、着実に進むものと期待しています。


(2) りそなホールディングスの女性活躍は進んでいます。傘下の埼玉りそな銀行は、2018年12月、内閣府の「女性が輝く先進企業」の内閣総理大臣表彰を受けました。管理職比率が32.4%であることや男性の育児休暇取得率が100%であることなどが評価されたものです。


りそなホールディングスにいると、重要会議などに女性社員(管理職や役員も含む)がいることが当然で、むしろいないことの方に違和感を覚えるようになります。重要会議は、ダークスーツの集団が当然という意識は、ぜひ打破してほしいです。


よく、女性を登用したくても、女性の方が尻込みをするとか、「偉くなりたくない」「(ステレオタイプの女性リーダーをイメージして)ああはなりたくない、なれない。」と言われるなどの指摘があります。そのような女性の声があることも事実ですが、りそなホールディングスのように多数の管理職や役員がいると、本当に様々なタイプの方がいます。役員のみに絞っても、皆さんそれぞれ個性が異なります。それぞれに素敵です。もちろん、お子さんがいらっしゃる方もいます。自分のロールモデルを(密かに探して)目標にするということは可能だと思います。私は、キャリアも含めて様々なタイプの方がいますよということを、声を大にして言いたいです。


もちろん、先進的とは言っても、現状では女性が企業内で昇進していくことには、様々なハードルがあると思います。女性社外取締役は、社内で頑張っている女性社員の精神的な拠り所の一つになれればよいかなと思っています。



Q 指名委員会等設置会社の取締役会や監査委員会委員長について、経験を踏まえてのお考え等を教えてください。

(1) りそなホールディングスの場合は、機関設計からしても、取締役会での決議事項は少ないです。でも報告事項はかなり多いし、また報告事項についての質問や意見、議論も活発になされています。報告事項といっても、重要案件などは、企画段階から報告されていますし、そのような企画案件が、取締役会での意見を踏まえて修正・変更される場合もあります。また結果報告も含めて、同一案件が複数回上程される場合もあります。モニタリング型でも、このような形での個別の報告事項を通しての監視というのは充分あり得ることだと考えています。


金融機関は、専門性が高いので、取締役会の他にも勉強会やフリーミーティングがしばしば開催されます。そのような議論を通じて、銀行というビジネスモデルが急速に変化しているのを実感しています。


(2) りそなホールディングスの3委員会の委員長は、全員社外取締役です。監査委員長に就任したのは2015年ですが、この年、大手電機メーカーの会計不正事件が起き、同社も委員会設置会社で、一般的にはガバナンス先進企業と評価されていましたから衝撃を受けました。会社規模が大きくなるほど、監査資源(監査役、監査委員、監査等委員、事務局)には限界があり、やはり内部監査部門との連携が問われると考えます。幸い金融機関は、他業種に比べると内部監査人員は充実していて、グループで100名以上います。この事件を受け、内部監査部門の第一義的なレポーティングラインを取締役会(実質は監査委員会)としたり、監査委員会から直接的な指示ができることを明文化したり、また内部監査部長や担当執行役の人事について、事前協議事項としたりしました。内部通報制度のうち、外部の法律事務所などに通報があったものについては、全件直接監査委員会に報告されるようにもしました。


私は、監査については、やはりできるだけ多くかつ素早く情報を収集することがその実効性を上げることに繋がると思います。このため、常勤の監査委員や委員会事務局も、日常的に執行部門との情報交換に務めていますが、私も内部監査協議会や会計監査人との意見交換会には、オブザーバーとして出席しています。結構な回数会社に行っていることになります。監査委員長としての職務と考えています。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2018年9月)のものです。



山神 麻子 弁護士

Q 他の社外取締役の方はどのような方々か教えてください。

山神 麻子 弁護士


地元豊橋でガス・住宅等の事業を展開する企業グループ各社の代表取締役を務める方、グローバルな自動車部品メーカーのCOOを歴任されているアメリカ国籍の方、外資系証券会社の投資銀行部門での要職を経てAIベンチャーを起業した方、情報通信技術のグローバル企業で取締役副社長を経て、企業の経営顧問や新規事業開発のアドバイザーとして活躍中の方が社外取締役として、そして監査等委員として財務省出身で現在は銀行の顧問をされている方です。株主総会招集通知には、以下のとおり各取締役の有している能力について一覧表が掲載されており、グローバルな事業展開や自動車業界の環境変化への対応のためにボードのダイバーシティが確保されていることがおわかりになると思います。この一覧表は、役員選任基準を明確にするため、ある社外取締役から提案があり、他社の例も参考にしつつ2018年から導入されたものです。


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Q 取締役会はどのように開催されているか教えてください。

監査等委員会設置会社で、権限移譲により業務執行機能と監督機能の分離が相当程度進んでいることから、取締役会は年8回と少なめになっており、そのうち1回は子会社の視察を兼ねて海外で行われています。取締役会は英語(日英の同時通訳付き)で行われ、社外取締役はほぼ全員が全ての議案について質問を出したり意見を言ったりします。社外取締役のダイバーシティを反映して、様々な観点から議論がなされます。自動化や電動化といった自動車業界の環境変化に伴い、自動車部品も淘汰されるものや高機能製品へシフトしていくことへの対応、開発・製造に関しては製品検査にAIのディープラーニングを導入したり、また、グローバルな経営環境の中で海外子会社のM&Aやその後の統合課題等が取り上げられたりします。取締役会の他、年2回は役員(執行役員を含む)合宿があり、中長期の経営戦略に関する議論等がなされています。


取締役会に上程される議案は、それ以前に経営会議で十分な議論がされますが、経営会議の議事録は社内のイントラネットで社外役員も閲覧することができ、また、取締役会の前日には監査等委員会の中で議案のブリーフィングが行われた上で、取締役会当日も更に2時間ほどかけて議論がなされます。



Q 社外取締役として特に留意している点を教えてください。

監査等委員として、ガバナンスやコンプライアンスの観点からのモニタリングで留意していることは、グローバルな事業展開をしているため、海外子会社の内部統制、本社の意思決定が適時適確に伝わる指揮命令系統の確認や規程の統一的な整備・運用などです。また、年2回程度、内部監査部門と一緒に海外子会社の往査に行っています。特に昨今は、製造業の不祥事を踏まえたコンプライアンスの重要性が指摘されていますが、当社のコンプライアンス体制を強化するために必要な知識や情報等は、顧問弁護士の方に役員・幹部社員向けのレクチャーを毎年行なっていただいているほか、私が会社の費用でセミナー等に出席して情報を仕入れ、会社に報告することもしています。



Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

社内の女性管理職の登用については、常々意識していますが、まだ対象者が少ないという問題があります。女性管理職だけでなく、海外子会社の現地従業員からも、女性取締役が入ったことが励みになると言っていただいています。女性管理職の方と意見交換をしたり、女性の登用をプロモーションするための育成計画について意見を述べたりするなどしています。



Q これから社外役員を目指す方へのメッセージをお願いします。

私の場合は、社外役員になるために意識的に準備する前に、所属事務所所長の知人を介して紹介されましたので、決まった後に足りない部分を補うべく勉強しました。法律知識や弁護士としての経験は、コンプライアンスやガバナンスの観点で生かされると思いますが、更に、会計知識や経営など、勉強すべきことは沢山あるので、企業経営を巡るあらゆることに興味を持って接することが役に立つのではないか思います。インハウスの経験がある方であればより敷居が低いかと思いますが、そうでなくても、とにかく会社に入ってみれば、まわりの方々から会社運営や経営、業界に関する知識を吸収することができます。


グローバル展開する会社はこれから増えていくと思われますが、英語での対応のみならず、海外往査などもフットワーク軽く動ける方、海外からの役員・従業員とも垣根なく接することのできる方が求められていると思います。また、事業活動に興味を持って社内の方々と共に考え、率直な意見を臆することなく述べることのできる方が向いていると思います。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2019年4月)のものです。



相澤 光江 弁護士

Q 社外役員としての経歴について教えてください。

相澤 光江 弁護士


カルビー株式会社社外監査役(現在東証一部上場、上場までの間監査役を務めました)
サミット株式会社社外監査役(住友商事子会社、非上場)
株式会社コジマ社外監査役(東証一部上湯)
株式会社コジマ監査等委員 現任(同上、監査等委員会の導入に伴い就任)
株式会社オカモト社外取締役 現任(東証一部上場)
株式会社プルデンシャルホールディング・ジャパン社外監査役 現任(アメリカの上場企業の子会社、傘下に生命保険会社三社を有する持株会社)



Q 就任の経緯について教えてください。

いずれも、代表取締役社長からの要請によります。


特殊要因としては、事業再生の専門家として、会社更生の管財人を経験し、危機状態から再生に至る段階で上場企業を含む企業の経営の責任を経験したことが評価された面があると思います。



Q 社外役員として留意してきたことについて教えてください。

(1) 会社の業態をよく理解すること
会社の業態や収益構造、社内の権力構造を理解することが社外役員として発言力を持ち、適切な役割を果たすことにつながるため、それぞれの会社の内容を理解することに努めてきました。


(2) 会社の財務状況を理解すること
企業にとって、財務状態は重要であるので、取締役会に提出される数字を理解するように留意してきました。事業再生を専門としているため、財務的な資料に接する機会は弁護士としては多い方だと思いますが、専門家ではないので、できるだけ基礎的な会計や税務の知識も習得するように留意してきました。



Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

従来は長い間、経営の中枢部はもちろん、中堅幹部に至るまですぺて男性で占められており、女性は、事実上補助職か、ラインから外れた専門職の立場しか与えられていない状態でした。


そのため、特に伝統的な大企業では、女性社員にとってロールモデルとなるような上級管理職がいない企業が今でも圧倒的に多い状態です。社外であっても、女性が経営に参画することによって、経営幹部は男性のみという固定概念を変えていく第1歩となり得ると考えられます。


その結果、社内で女性が同期の男性と同様に昇進し、管理職となり、経営に携わることが当たり前になるよう、会社の中の無意識の女性差別を変えることにつながる可能性があり、大きな社会的意義があると考えます。


男性と女性では物の見方や考え方に相達があり、社会や組織の多様性を大事にするためにも、女性が男性と同様に積極的に指導的立場に立つことが重要だと思います。



Q これから社外役員を目指す方へのメッセージをお願いします。

女性の地位向上のためには、女性が積極的に前に出て、リーダーシップを発揮していくことが大事なことはいうまでもありません。弁護士は価値のある法曹資格をもっているため、男性優位な企業社会の中でも有利な立場にあります。


それを大いに活用して、日本の社会を女性がもっと活躍できる社会に変えていく必要があります。出る杭は打たれると言われますが、敢えて打たれる覚悟をもって前に出て、まだまだ閉塞的な社会を一人一人が一歩一歩変えていってください。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2019年3月)のものです。



市毛 由美子 弁護士

Q 社外役員としての経歴について教えてください。

市毛 由美子弁護士

2012年から6年間、NECグループの通信サービス子会社であるNECネッツエスアイ株式会社の社外取締役を、2014年6月から5年間、イオングループのデベロッパーであるイオンモール株式会社の社外監査役を、同じく2014年12月から3年間三洋貿易株式会社の社外監査役(後に取締役・監査等委員)を務めてきました。この3社は、企業内弁護士時代の上司や事務次長時代の元日弁連役員等から紹介を受けました。現任は、2016年12月から株式会社スシローグローバルホールディングスの社外取締役・監査等委員、2018年6月からの伊藤ハム米久ホールディングス株式会社の社外取締役の2社です。この2社は、いわゆるエグゼクティブ・サーチと言われる経営人材を紹介する会社からのお声がけがきっかけでした。



Q それぞれの会社にどのように関わられてきましたか。

各社での立場としては、社外監査役、監査等委員である社外取締役、監査役会設置会社の社外取締役等、様々でしたが、取締役会で発言する時は、監査役であるか取締役であるかはあまり意識してこなかったと思います。もちろん、監査役会や監査等委員会での議論のテーマは守りのガバナンスが中心になりますが、取締役会では、監査役の立場でも、例えば中期経営計画の立案に関する議論の中で、新たな成長戦略について意見を言わせていただいています。特に、CGコードが制定・改訂されてからは、取締役会だけでなく、指名諮問委員会、報酬諮問委員会、ガバナンス委員会等の主に任意の委員会のメンバーとして意見が求められるようになりましたが、そのためには、攻めのガバナンス、つまり、会社が中長期的な成長戦略をどう組み立て、そのための経営人材をどう育成・採用するのか、現在の経営陣にどのようなミッションを課して、それをどう評価するのか、といった経営に関わる長期的視点での議論が求められていると思います。よって、社外役員でも弁護士だから経営のことはわからないといって黙って座っているだけ、ということは許されない時代になったと感じています。


また、取締役会に上程される個々の事案に関しては、弁護士固有の視点として、判例法理である「経営判断の原則」に則った意思決定がなされているのか、その意思決定のプロセスをモニタリングすることにより、取締役・監査役としての善管注意義務が尽くされているか、という切り口から意見を言っています。内部統制システムの整備・運用に関しても、やはり判例法理である「信頼の原則」に照らして、なすべきことができているか、という観点で意見を言っています。日常的な企業の意思決定は、このような会社法上の法的判断と経営判断の狭間にある問題がほとんどで、弁護士はそのプロセスを法的判断としてモニタリングできる、という点が他のバックグラウンドの社外役員と違うところだと考えています。



Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

女性としての資質に注目されて役員に選任されているという自覚はありますので、やはり経営の意思決定や執行にダイバーシティをいかに持ち込むか、その点が遅れている企業に何ができるかが、私の社外取締役としての重要なミッションであると自覚しています。多くの日本企業では、程度の差こそあれ、取締役会に女性を入れたくても「社内の管理職からはまだ取締役のレベルに育っている女性がいない。」とか、「そもそも社内に経営人材となりうる女性がいない。」という理由で、「せめて、社外役員は少なくとも一人は女性を入れました。」というのが実情です。ただ、本来的に経営のハンドルを握り、アクセルを踏むのは、業務執行を行う経営陣ですので、その中に女性がいないのはおかしい(特にBtoCでは)、経営陣として意思決定できる立場に女性がいることが重要、しかも一人ではなく複数の女性をと、どの会社でも折に触れて訴えています。


特に、私が経営陣にお願いして実行しているのは、女性管理職との「女子会」です。女性管理職を集めていただき、私から、これまで弁護士として関わってきた案件を通じて経験した「女性に対する固定観念」やそれに基づく「社会の構造的歪み」があることを説明し、その歪みを矯正するためにも、また、今の日本企業に求められているイノベーションを促進するためにも、女性が経営陣に入ることが必要不可欠であり、それは個人の自己実現のためだけではなく、後輩女性のため、会社のため、社会のための貢献であるから、是非頑張っていただきたいと期待感をお伝えしています。同時に、女性管理職、特に子育てをしながら管理職をこなしている方々の現状や課題などを率直にお話ししていただき、取締役会でその報告をすることで、全役員に経営課題として認識していただくようにしています。


さらに、多数を占める男性管理職からは、「私はむしろ偉くなるより現状でいい。」という女性が多くて、その気になってくれない、という悩みを聞きます。しかし、その背景には、女性管理職に期待しているということが真に伝わっていないこともありますが、そうでなくても、自己評価が控えめであることから自信を持てるまでに時間がかかる、男性であればすぐに飛びつく昇進の話も、家庭責任を自覚している女性はいろいろ考えてからでないと踏み出せない、といった女性特有のメンタリティがあります。なので、(私も含めて)女性は3回断るのは当たり前と思っていただきたい、諦めないで話し合いを、といったアドバイスをしたりしています。



Q 上場会社、支配株主との関係について教えてください。

偶然のことではありますが、私が社外役員を務めてきた企業は、上場子会社や支配株主を有していて、グループ経営に組み込まれていながら上場している企業がほとんどです。ここで、問題となるのは、親会社や支配株主の利益と一般株主の利益が相反するような状況がありうるということです。そのような場面では、社外役員は一般株主の利益を代弁する存在であることが期待されています。グループ内再編としてのM&Aであるとか、親会社からの出向を含めた役員人事の中でプロパー社員からどう経営陣を出していくか、などと言った問題は、社内の経営陣ではなかなか言えない、あるいは思いつかない問題も少なからず想定されるので、社外役員が意識的に意見を言わなければならない場面だと感じています。例えば、親会社を中核とするグループ内でのM&Aは、親会社にとっては、グループ全体の効率性を考えた組織再編ということかもしれませんが、上場子会社の一般株主の利益を考慮すると、その再編により当該子会社の企業価値がいかに向上するのかが重要になります。合理的な理由もなく不用意にグループ内の不採算会社を引き受けるようなことがあっては、取締役の善管注意義務を尽くしたことにはならないと考えますので、ブリーフィング(取締役会議案の事前説明)の機会に、質問を予告する等して、追加の説明を促しています。



Q これから社外役員を目指す方へメッセージをお願いします。

社外役員は、弁護士業務ではありませんが、弁護士としての知見、そして女性としての経験や視点が、生かされる業務領域です。勉強しなければならないことは沢山ありますが、弁護士人生における新たな展開として、やりがいを感じられる仕事だと思います。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2019年8月)のものです。



笠原 智恵 弁護士

Q 社外役員としての経歴について教えてください。

笠原 智恵 弁護士

2015年6月から株式会社クレディセゾンの社外監査役、2019年6月からアキレス株式会社の社外監査役を務めています。アキレスに関しては社外監査役就任前の3年間、補欠監査役を務めておりました。
クレディセゾンは、弁護士会の研究会などで長い間お世話になっていた前任の社外監査役である弁護士(男性)からご紹介いただきました。アキレスは、前任の社外監査役(女性)と親しくしており、補欠監査役としてご紹介いただいたのが社外監査役就任のきっかけです。



Q それぞれの会社にどのように関わっていますか。

(1)クレディセゾン
クレディセゾンは、私が社外監査役になった時点で、すでに社内から女性取締役が選任されており、社外からも新たに女性取締役を選任しておりましたので、取締役会において複数の女性役員がいました。社内から1名、社外から1名の女性取締役を選任しているという点は今でも変わりません。自由な社風で、取締役会での社外取締役の発言も活発です。監査役である私も遠慮せずに発言を行っております。
社外取締役の構成は、会社経営者、コンサルタント、アナリストと、多士済々な方々で、質疑応答も示唆に富むものが多いです。したがって、取締役会において社外取締役の方が挙手される場合には先にお話しいただき、私は後から発言する場合もあります。弁護士として、ファイナンスのスキームや海外投資の方法など、法的な観点から質問をし、必要に応じてスキームの変更などを考えてもらう場合もあります。
また、取締役会・監査役会のほかに、コンプライアンス委員会のメンバーにもなっています。定期的に開催されるコンプライアンス委員会では、内部通報窓口への通報事項などについて報告を受けたりアドバイスをしたりしております。監査役個人に連絡が入る場合には他の監査役や社内弁護士とも相談し対応を行っています。
同社の社外監査役は2期目に入りましたが、監査役会は社外監査役を中心に、これまで3名から4名で構成されてきました。銀行の頭取を務められた方や、財務省・警察庁の官僚経験者など、いっしょに仕事をさせていただいて勉強になることが多かったです。現在の監査役会のメンバーの中では、私が最古参となりましたので、これまでの良いところを踏襲しつつ、新たな視点で実効的な監査ができるようにしたいと思っています。


(2)アキレス
アキレスの社外監査役には選任されたばかりなので、まだ具体的にお話しできるようなことはありません。ただ、補欠監査役時代に、会社の展示会などにお招きいただき、同社の商品やビジネスについて触れる機会があったのは非常に良かったと思っております。「瞬足」という子ども用シューズで有名な同社ですが、素材メーカーとして様々な商品を開発販売し、自動車業界からインテリア業界までを顧客とする幅広い業務を行っています。
前任の社外監査役も女性でしたが、取締役会の他のメンバーはすべて男性です。メーカー特有のまじめさがあり、クレディセゾンの取締役会とは雰囲気も異なります。
取締役会に参加して最初に驚いたのは、材料費・運送費等の高騰から商品の値段を上げざるを得ないとなった時の議論でした。子ども用シューズの値段を上げることに慎重な議論がなされており、世の中を知ることの重要性を再確認しました。私は弁護士であると同時に、子どもの母親でもあり、日々の生活者としての感覚も持ち合わせていますので、そのような視点も何らかの形で反映していきたいと思っています。



Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

会社の役員に女性がいるということは、女性従業員にとって大きな励みになるようです。クレディセゾンの社外監査役に選任された際には、社内の女性取締役が「今度の社外監査役は子育て中の女性である」と部下の女性達に話をしたところ、皆が喜んだという話をしてくれました。自分たちと同じような苦労をしている女性が会社の意思決定の場にいるということだけで、会社経営陣に対する見方も変わるような気がします。管理職の女性たちとの交流などを通じて、会社経営に女性が参加しやすい雰囲気を醸成することにも力を入れていきたいと思っています。
ダイバーシティの問題や企業社会の中で生きてきた男性には気づきにくい問題について、理解し、発言をするという点においては、女性であることのメリットがあるかもしれません。しかし、女性としての視点というものが監査役の業務の中で占める割合はそれほど多くないと感じています。社外監査役としては、会社の経営陣が適法に業務執行を行うことを監督することが一番の重要な役割であり、弁護士としての私に期待されていることであると思っています。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2019年8月)のものです。