女性社外役員を登用している経営者等のメッセージ

工藤英之様(株式会社新生銀行代表取締役社長)


message_kudou.jpg新生銀行の工藤英之です。このたび、社外役員を目指す(かもしれない)女性弁護士の皆さんに、企業経営者としてメッセージをお届けする機会を頂きました。ありがとうございます。


企業経営の最高意思決定機関である取締役会には、クオリティの高い多様な視点が必要です。これは単なる「きれいごと」ではなくなってきています。これまで多くの日本企業では、業務執行メンバーが社内役員として取締役会のマジョリティを占め、社外役員は少数のみという構成でした。社外役員は本質的な貢献というよりはアリバイ作り的な発言に終始し、結果的に「シャンシャン」で終わる取締役会が中心でした。この状況が大きく変わりつつあるのは、コーポレートガバナンスを専門とされていなくても、皆様よくご存じのことだと思います。社外役員の数もさることながら、その実質的な役割も重みを増しています。


ただし、単に「コーポレートガバナンスを強化するため必要だから」というだけで、実態として単なる数合わせでは、選任されても面白くありませんよね。それぞれの役員が「自分はどういう価値貢献をしているのか」、それを実感できるようでないと、真の意味で社外役員が役割を果たしているとは言えません。ここで、冒頭申し上げた「クオリティの高い多様な視点」の提供者の一人である、ということがポイントとなります。


企業経営に必要な切り口は多彩です。そして社内役員の持っている「視点」はどうしても偏りがちです。そして取締役会議案は執行サイドでの意思決定プロセスを経て上がってきていますので、社内取締役がゾロゾロいても、違う意見は出て来ず、取締役会のチェック機能もアドバイス機能も高まりません。…というわけで、新生銀行では会社法上の役員(取締役・監査役)10名中、業務執行取締役(社内役員)は2名のみとしています。社外役員には、現役経営者、資本市場やM&Aのプロ、IT/DXの専門家、など銀行ならでは必要な視点を持つ方もいらっしゃいますが、どんな企業でも必要なのが、リーガルな視点です。そこで期待されるのはリーガルな意見そのものというより、リーガルなセンスに基づく経営視点のインプットです。


経営者にとって自分と異なる視点をお持ちの役員の存在は貴重です。そして、経営者は社内ではヒエラルキーの頂点にいますので、真の意味での「相談」をするのは難しいのですが、社外役員にならできます。もちろん、社外役員には、criticalな視点からの執行サイドに対するモニタリング・チェックも期待されます。新生銀行では金野志保弁護士に監査役に就いて頂いていますが、金野弁護士にはいつも厳しく温かくご指導頂いています!


もう一点、ダイバーシティの重要な観点の一つであるジェンダーについて触れます。新生銀行では、金野弁護士を含み、役員10名中4名が女性となっています。取締役会にも経営会議にも、女性が普通に混じっている世界になれば、企業が変わるのは自明のことですが、これは女性役員に単に「女性ならでは」の視点、発言、行動を期待しているということではありません。新生銀行の4名の女性役員の皆さんは、リーガルなバックグラウンドの金野弁護士以外に、会計士の方、投資銀行出身の方、経営コンサルティング出身の方、と多彩な専門性を持っておられます。この多彩な専門性が経営上必要な多彩な「切り口」の提供を可能とします。女性であることは、どこで生まれ・育ち、どこで教育を受け、といったこと同様、その人の価値観の形成に重要な影響を持ち、結果として(弁護士なら)弁護士としての意見に何らかの影響があるはずで、それが経営上重要な視点を提供できる可能性はありますが、会社の役員である「あなた」は「女性」である以前に、「あなた」であって、女性であることも含め「あなた」を形作った全ての要素を基礎とし、その上に「あなた」の専門性を乗せて、経営上有用なあなた独自の「切り口」を提供して頂くことが期待されています。


もちろん、日本の企業経営上、あるいは社会的に、女性がそれに相応しい発言力を得ていないことは厳然たる事実であって、社外役員としての役割を超えて、その状況の改善に何らかの貢献をしようというのは大変素晴らしいことです。例えば、金野弁護士を含む女性社外役員の皆さんには、新生銀行の女性従業員とのコミュニケーションの機会を、「お茶会」といったカジュアルな形で持っていただいています。金野弁護士に限らず、新生銀行の女性役員の皆さんは、従業員からすると「特別な成功者」であることは間違いありません。ですが、成功者であるかどうかに拘わらず、女性としての共通の悩みとか困難さがあり、それがそうした「お茶会」コミュニケーションを意義のあるものとしています。


こうしたジェンダーのダイバーシティに加え、多様なダイバーシティとインクルージョン、さらにはサステナビリティ、こうしたことは現代の企業経営にあって致命的に重要になってきています。女性弁護士の皆さんにとって、企業の取締役会への参加やその他執行メンバーとの交流は、狭い意味での法律家としての意見表明にとどまらない多様な価値貢献の機会に溢れています。ぜひ多くの女性弁護士の方に取り組んで頂ければと思います。


※本メッセージの内容は、掲載時点(2022年1月)のものです。



吉岡晃様(アスクル株式会社代表取締役社長 CEO)


message_yoshioka.jpgアスクル株式会社 代表取締役CEOの吉岡です。 社外役員(今後目指す方も含め)である女性弁護士の皆様へのメッセージのご依頼をいただき、大変光栄に存じます。


当社では、2000年に(当時)店頭市場に上場した直後に開催した臨時株主総会において、初めて社外取締役を選任いただきましたが、そのうち1名は女性の社外取締役でした。2019年には、女性弁護士である社外取締役を選任いただき、比較的早くから「多様性」も重視したボードメンバー構成をとってまいりました。そのような中で、弁護士資格を有する社外取締役、特に女性弁護士の皆様には、以下のような点で大きな期待を寄せています。以下、皆様のご参考になりましたら幸いです。





1.ガバナンス・コンプライアンス態勢の構築
コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)が制定されて以来、特に上場企業にはハイレベルなガバナンス態勢の構築が求められている中で、形式的にCGコードをコンプライすれば良いというものではなく、その企業にとって中長期的な視点も踏まえたベストなガバナンス態勢を構築し続けることが問われていると感じています。その実現のためには、CGコードや会社法をはじめとする知識はもとより、立法趣旨を含む深い理解、そうした知見に基づく理論構成と、同時に事業成長・企業価値向上の両立が欠かせないものとなっています。

また、会社法はもとより、金融商品取引法、独占禁止法、その他各種法令改正への対応等のコンプライアンス態勢の確立と、法的なリスクマネジメントにおいても、社外取締役としての監督機能を発揮していただける点と感じています。

私は、大きな経営判断こそ、情より理がしっかりしていることが重要だと考えており、企業法務を担当される弁護士の皆様は、法律的な知識・センスをベースとしつつ、企業価値向上のための高い視座、戦略的な思考方法、取締役の経営能力を見定める洞察力等、日々の業務から研鑽を積まれていらっしゃると感じることも多く、その知見を企業経営にもいかんなく発揮していただけるものと思います。

当社では、女性弁護士の現任社外取締役には、取締役会において、経営判断の原則に沿った意思決定をするために必要な議論のポイントを示唆いただくことも多く、加えて、指名・報酬委員会委員、特別委員会委員長、独立社外役員会議メンバーとして、会社の機関設計、取締役候補の選任、役員報酬の決定等プロセスを含め、法律的な知見をベースとしたロジカルかつ合理的なご意見、時に愛情にあふれた厳しいご指摘もいただいております。


2.DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の支援

当社では、女性管理職比率を2025年までに30%にするという数値目標を掲げており、昨年策定した中期経営計画においても経営戦略の一つと位置づけています。現在の女性管理職(部長以上)比率は22.7%となっていますが、社員の男女比率では女性が約4割を占めているため、女性管理職比率は40%前後になるのが、本来あるべき自然な姿だと率直に感じています。女性管理職比率向上は、年代・人種・国籍、LGBTsも包摂するダイバーシティに向けたあくまで最初のプロセスではありますが、ジェンダーギャップ指数で世界的に大きな後れをとっている日本においては、企業単体の課題ではなく、日本の社会構造をも変えていく必要があり、その社会課題に少しでも貢献していきたいと考えています。それを実現するための社内的課題は、意義を含めた文化・風土の醸成・啓発、キャリア支援、人材育成とさまざまです。法曹界において、ある意味でまだマイノリティである女性の弁護士の皆さんならではの本質的な課題のご指摘や忌憚のないご意見をいただけるものと思います。

当社の女性弁護士の現任社外取締役には、社内のD&Iサポーター会議にも参加していただき、当社のダイバーシティ戦略について本質的なアドバイスをいただいているほか、女性の部長職とのオンライン懇親会等にもご参加いただき、女性役職員をエンパワーしていただいております。またこうした機会を持っていただくことで、社員とのコンタクトができ、事業へのご理解も深まると同時に、サクセッションプラン等策定にあたっての情報も入手していただけると考えています。


3.サステナブル経営、SDGsの推進、ESG対応

SDGsへの取組み、特に地球環境問題への対応と持続的な成長の両立が求められる今日において、当社は、SDGsの求める社会的要請に積極的に応えるべく、「エシカルe-コマース」を目指しております。気候変動への対応としてCO2ゼロチャレンジ、サステナブルな商品・サービスの提供を実現するための資源循環型プラットフォームの構築、サステナブルな調達の実現等、取り組むべきテーマは多く、改正される各種環境法令・規則等への遵守体制の構築も欠かせない状況になっています。新規性の高いサービスや取組み、新たなスキームの構築には、サプライヤー様やパートナー企業様を巻き込んだ共創、協業は不可欠で、そのプロセスにおいては新たな法的論点やルールメイキングが必要になるケースも想定されます。

また日本においてもESG投資が拡大する中で、TCFD基準に基づくサステナビリティ情報の開示が重要性を増してきており、当社としても取組んでいるところです。気候変動に関する重大リスクはもとより、ESGのもう1つの側面である重要な社会課題である人権問題や今後の規制リスクへの対処などについても、皆様には、リーガルな視点に基づく大局的なアドバイスと同時に、一生活者の視点でも多様なご意見をいただけるものと期待しております。

※本メッセージの内容は、掲載時点(2022年5月)のものです。