社外役員に就任している女性弁護士インタビュー

佐貫 葉子 弁護士

Q 社外役員としての経歴について教えてください。

佐貫弁護士
1996年12月に、医薬品卸しの株式会社クラヤ三星堂(現、株式会社メディパルホールディングス)の社外監査役に就任したのが初めての社外役員就任でした。当時在籍していた法律事務所が、大手製薬会社の顧問事務所で、そのルートからの紹介でした。1996年12月から2007年6月まで、途中3年ほど空けて同社の社外監査役を務めました。


2007年6月からは、明治乳業株式会社(当時)の社外監査役に就任しましたが、2009年4月に、明治乳業が明治製菓株式会社(当時)と経営統合し、新たに明治ホールディングス株式会社が両社の親会社として発足した際に、同社の社外取締役に就任し、以降2018年6月までの9年間務めました。


併せて、2011年6月から株式会社りそな銀行の社外取締役に就任しました。りそな銀行は、2003年に公的資金が投入されて事実上国有化(いわゆる「りそなショック」)され、ガバナンスの強化が求められる中、経営再建を引き受けられたJR東日本元副社長の細谷英二会長と、従前から異業種交流会を通じて知り合いであったので、お声をかけていただきました。1年後に、親会社である株式会社りそなホールディングスの社外取締役に就任しました。同社は、委員会設置会社(現、指名委員会等設置会社)であり、就任時から監査委員となり、2015年6月から監査委員長を務めています。りそなホールディングスは、取締役10名中6名が社外で、2年前まで女性取締役がもう1名いたのですが、現在女性取締役は私1人だけです。ただし、執行役には、人事担当の女性が1名います。また傘下銀行(現5行)には、女性社外取締役、女性執行役員、女性監査役が複数名います。



Q それぞれの会社にどのように関わってきましたか?

(1) 明治乳業も明治製菓も、創業約100年の老舗企業でしたが、経営統合により、食と医薬品を扱うグループ企業となりました。食品と医薬品という人の命と健康に直結する企業ですから、安心安全という点が最も重視されます。品質事故が起これば築き上げた信用は一瞬で崩れるという意識は、会社全体に浸透していると思います。工場には、必ずヒヤリハット事例が壁に貼り出されているし、見学の際の厳重な点検規程、あるいは従業員の安全対策など、細部に気を張り詰めているということが窺えます。したがって取締役会でも、お客様相談センターの苦情や問題事例を多い順にまとめて報告していただいたりしていますし、企業理念においても最優先事項として意識していました。なお、明治ホールディングスは、監査役会設置会社ですが、発足時から任意の指名委員会、報酬委員会があり、両委員会のメンバーを務めました。その意味では、CGコードが制定される前から、コードの趣旨を先進的に取り入れていたと考えています。


(2) りそなホールディングスは、その経緯からも、ガバナンスという面では、かなり先進的であると考えています。公的資金投入直後は、細谷会長主導の下、他業種から経営者経験のある社外取締役を複数名招聘して、企業改革に取り組まれました。就任された社外取締役からは相当厳しい意見や指摘があり、また改革の実効性については社外取締役自ら現場に赴いて確認されるなど、その激しさとハレーションは、今や伝説となっています。この時期の社外取締役は、かなり執行にもコミットされたわけで、それも社外取締役の一つの在り方かと考えています。


私が、就任した頃は、当初の改革の時期は過ぎていましたが、社外取締役の役割が重く、一方では意見をよく聞いてくれて、情報も隠さず速やかに開示してくれるという印象が強かったです。なお、取締役会や委員会あるいは取締役や執行役に関する業務を担う部署は、通常、秘書室あるいは経営企画部という名称が多いのではないかと思いますが、りそなでは当初からコーポレートガバナンス事務局と称していました。コーポレートガバナンスという用語がまだ一般に普及していなかった頃には、他社の方から「何ですか?それは?」と聞かれたそうです。


私は、それまで弁護士としても社外役員としても関わりがあったのは、全て監査役会設置会社でしたから、当初委員会型には戸惑いがありました。監査委員も独任制ではなく、委員会としての組織監査であり、その上で役割分担があるのだということを初めて実感したものです。監査委員会は、取締役会の内部機関という位置付けなので、適法性監査か妥当性監査かという議論は気にしないで済むため、すっきりしているということは感じます。



Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

(1) 明治ホールディングスでは、9年間、事業会社を含め社内における女性管理職登用について、随分申し上げたつもりです。株主総会で株主から指摘され、回答したこともあります。なかなか短期的には難しいところです。2019年1月時点でも、事業会社を含め執行役員にも女性は一人もいないのではないでしょうか。企業風土や企業文化は、先程申し上げたように堅実ですが、多少保守的なところがあることや、工場において3交代制があり、女性がそのシフトに入るのが難しいといったことが影響しているのかもしれません。


ただ、学生の就職を希望するランキングでは、いつも上位にありますし、近年特に優秀な女性が入ってきています。会社でも意識してモチベーションを上げるための推進施策を様々試みています。将来的には、着実に進むものと期待しています。


(2) りそなホールディングスの女性活躍は進んでいます。傘下の埼玉りそな銀行は、2018年12月、内閣府の「女性が輝く先進企業」の内閣総理大臣表彰を受けました。管理職比率が32.4%であることや男性の育児休暇取得率が100%であることなどが評価されたものです。


りそなホールディングスにいると、重要会議などに女性社員(管理職や役員も含む)がいることが当然で、むしろいないことの方に違和感を覚えるようになります。重要会議は、ダークスーツの集団が当然という意識は、ぜひ打破してほしいです。


よく、女性を登用したくても、女性の方が尻込みをするとか、「偉くなりたくない」「(ステレオタイプの女性リーダーをイメージして)ああはなりたくない、なれない。」と言われるなどの指摘があります。そのような女性の声があることも事実ですが、りそなホールディングスのように多数の管理職や役員がいると、本当に様々なタイプの方がいます。役員のみに絞っても、皆さんそれぞれ個性が異なります。それぞれに素敵です。もちろん、お子さんがいらっしゃる方もいます。自分のロールモデルを(密かに探して)目標にするということは可能だと思います。私は、キャリアも含めて様々なタイプの方がいますよということを、声を大にして言いたいです。


もちろん、先進的とは言っても、現状では女性が企業内で昇進していくことには、様々なハードルがあると思います。女性社外取締役は、社内で頑張っている女性社員の精神的な拠り所の一つになれればよいかなと思っています。



Q 指名委員会等設置会社の取締役会や監査委員会委員長について、経験を踏まえてのお考え等を教えてください。

(1) りそなホールディングスの場合は、機関設計からしても、取締役会での決議事項は少ないです。でも報告事項はかなり多いし、また報告事項についての質問や意見、議論も活発になされています。報告事項といっても、重要案件などは、企画段階から報告されていますし、そのような企画案件が、取締役会での意見を踏まえて修正・変更される場合もあります。また結果報告も含めて、同一案件が複数回上程される場合もあります。モニタリング型でも、このような形での個別の報告事項を通しての監視というのは充分あり得ることだと考えています。


金融機関は、専門性が高いので、取締役会の他にも勉強会やフリーミーティングがしばしば開催されます。そのような議論を通じて、銀行というビジネスモデルが急速に変化しているのを実感しています。


(2) りそなホールディングスの3委員会の委員長は、全員社外取締役です。監査委員長に就任したのは2015年ですが、この年、大手電機メーカーの会計不正事件が起き、同社も委員会設置会社で、一般的にはガバナンス先進企業と評価されていましたから衝撃を受けました。会社規模が大きくなるほど、監査資源(監査役、監査委員、監査等委員、事務局)には限界があり、やはり内部監査部門との連携が問われると考えます。幸い金融機関は、他業種に比べると内部監査人員は充実していて、グループで100名以上います。この事件を受け、内部監査部門の第一義的なレポーティングラインを取締役会(実質は監査委員会)としたり、監査委員会から直接的な指示ができることを明文化したり、また内部監査部長や担当執行役の人事について、事前協議事項としたりしました。内部通報制度のうち、外部の法律事務所などに通報があったものについては、全件直接監査委員会に報告されるようにもしました。


私は、監査については、やはりできるだけ多くかつ素早く情報を収集することがその実効性を上げることに繋がると思います。このため、常勤の監査委員や委員会事務局も、日常的に執行部門との情報交換に務めていますが、私も内部監査協議会や会計監査人との意見交換会には、オブザーバーとして出席しています。結構な回数会社に行っていることになります。監査委員長としての職務と考えています。


※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2018年9月)のものです。



山神 麻子 弁護士

Q 武蔵精密工業と取締役会の構成について教えてください。

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武蔵精密工業は、1938年創業の輸送用機械器具の製造および販売を手掛ける会社で、東証第一部上場会社です。創業時は航空機部品を扱っていましたが、その後はミシンの部品、そして自動車部品へと進化してきた会社です。本社は豊橋市ですが、13か国に子会社を持つグローバル企業で、連結売上高は約2,379億円(2018年3月期)、連結従業員数は16,385人(2018年3月末現在)です。社長(CEO)は創業家の出身で、海外経験が長く英語も堪能で、海外でのビジネス展開やM&Aにも非常に意欲的です。 監査等委員会設置会社であり、2019年4月1日現在で、取締役11人のうち6人が社外取締役(うち私を含む2人が監査等委員)で、過半数を社外取締役が占めており、女性の取締役は私の他、CFOでもあるカナダ国籍の方がいます。


Q 他の社外取締役の方はどのような方々か教えてください。

地元豊橋でガス・住宅等の事業を展開する企業グループ各社の代表取締役を務める方、グローバルな自動車部品メーカーのCOOを歴任されているアメリカ国籍の方、外資系証券会社の投資銀行部門での要職を経てAIベンチャーを起業した方、情報通信技術のグローバル企業で取締役副社長を経て、企業の経営顧問や新規事業開発のアドバイザーとして活躍中の方が社外取締役として、そして監査等委員として財務省出身で現在は銀行の顧問をされている方です。株主総会招集通知には、以下のとおり各取締役の有している能力について一覧表が掲載されており、グローバルな事業展開や自動車業界の環境変化への対応のためにボードのダイバーシティが確保されていることがおわかりになると思います。この一覧表は、役員選任基準を明確にするため、ある社外取締役から提案があり、他社の例も参考にしつつ2018年から導入されたものです。


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Q 取締役会はどのように開催されているか教えてください。

監査等委員会設置会社で、権限移譲により業務執行機能と監督機能の分離が相当程度進んでいることから、取締役会は年8回と少なめになっており、そのうち1回は子会社の視察を兼ねて海外で行われています。取締役会は英語(日英の同時通訳付き)で行われ、社外取締役はほぼ全員が全ての議案について質問を出したり意見を言ったりします。社外取締役のダイバーシティを反映して、様々な観点から議論がなされます。自動化や電動化といった自動車業界の環境変化に伴い、自動車部品も淘汰されるものや高機能製品へシフトしていくことへの対応、開発・製造に関しては製品検査にAIのディープラーニングを導入したり、また、グローバルな経営環境の中で海外子会社のM&Aやその後の統合課題等が取り上げられたりします。取締役会の他、年2回は役員(執行役員を含む)合宿があり、中長期の経営戦略に関する議論等がなされています。


取締役会に上程される議案は、それ以前に経営会議で十分な議論がされますが、経営会議の議事録は社内のイントラネットで社外役員も閲覧することができ、また、取締役会の前日には監査等委員会の中で議案のブリーフィングが行われた上で、取締役会当日も更に2時間ほどかけて議論がなされます。



Q 社外取締役として特に留意している点を教えてください。

監査等委員として、ガバナンスやコンプライアンスの観点からのモニタリングで留意していることは、グローバルな事業展開をしているため、海外子会社の内部統制、本社の意思決定が適時適確に伝わる指揮命令系統の確認や規程の統一的な整備・運用などです。また、年2回程度、内部監査部門と一緒に海外子会社の往査に行っています。特に昨今は、製造業の不祥事を踏まえたコンプライアンスの重要性が指摘されていますが、当社のコンプライアンス体制を強化するために必要な知識や情報等は、顧問弁護士の方に役員・幹部社員向けのレクチャーを毎年行なっていただいているほか、私が会社の費用でセミナー等に出席して情報を仕入れ、会社に報告することもしています。



Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

社内の女性管理職の登用については、常々意識していますが、まだ対象者が少ないという問題があります。女性管理職だけでなく、海外子会社の現地従業員からも、女性取締役が入ったことが励みになると言っていただいています。女性管理職の方と意見交換をしたり、女性の登用をプロモーションするための育成計画について意見を述べたりするなどしています。



Q これから社外役員を目指す方へのメッセージをお願いします。

私の場合は、社外役員になるために意識的に準備する前に、所属事務所所長の知人を介して紹介されましたので、決まった後に足りない部分を補うべく勉強しました。法律知識や弁護士としての経験は、コンプライアンスやガバナンスの観点で生かされると思いますが、更に、会計知識や経営など、勉強すべきことは沢山あるので、企業経営を巡るあらゆることに興味を持って接することが役に立つのではないか思います。インハウスの経験がある方であればより敷居が低いかと思いますが、そうでなくても、とにかく会社に入ってみれば、まわりの方々から会社運営や経営、業界に関する知識を吸収することができます。


グローバル展開する会社はこれから増えていくと思われますが、英語での対応のみならず、海外往査などもフットワーク軽く動ける方、海外からの役員・従業員とも垣根なく接することのできる方が求められていると思います。また、事業活動に興味を持って社内の方々と共に考え、率直な意見を臆することなく述べることのできる方が向いていると思います。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2019年4月)のものです。



相澤 光江 弁護士

Q 社外役員としての経歴について教えてください。

相澤弁護士
カルビー株式会社社外監査役(現在東証一部上場、上場までの間監査役を務めました)
サミット株式会社社外監査役(住友商事子会社、非上場)
株式会社コジマ社外監査役(東証一部上湯)
株式会社コジマ監査等委員 現任(同上、監査等委員会の導入に伴い就任)
株式会社オカモト社外取締役 現任(東証一部上場)
株式会社プルデンシャルホールディング・ジャパン社外監査役 現任(アメリカの上場企業の子会社、傘下に生命保険会社三社を有する持株会社)



Q 就任の経緯について教えてください。

いずれも、代表取締役社長からの要請によります。


特殊要因としては、事業再生の専門家として、会社更生の管財人を経験し、危機状態から再生に至る段階で上場企業を含む企業の経営の責任を経験したことが評価された面があると思います。



Q 社外役員として留意してきたことについて教えてください。

(1) 会社の業態をよく理解すること
会社の業態や収益構造、社内の権力構造を理解することが社外役員として発言力を持ち、適切な役割を果たすことにつながるため、それぞれの会社の内容を理解することに努めてきました。


(2) 会社の財務状況を理解すること
企業にとって、財務状態は重要であるので、取締役会に提出される数字を理解するように留意してきました。事業再生を専門としているため、財務的な資料に接する機会は弁護士としては多い方だと思いますが、専門家ではないので、できるだけ基礎的な会計や税務の知識も習得するように留意してきました。



Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

従来は長い間、経営の中枢部はもちろん、中堅幹部に至るまですぺて男性で占められており、女性は、事実上補助職か、ラインから外れた専門職の立場しか与えられていない状態でした。


そのため、特に伝統的な大企業では、女性社員にとってロールモデルとなるような上級管理職がいない企業が今でも圧倒的に多い状態です。社外であっても、女性が経営に参画することによって、経営幹部は男性のみという固定概念を変えていく第1歩となり得ると考えられます。


その結果、社内で女性が同期の男性と同様に昇進し、管理職となり、経営に携わることが当たり前になるよう、会社の中の無意識の女性差別を変えることにつながる可能性があり、大きな社会的意義があると考えます。


男性と女性では物の見方や考え方に相達があり、社会や組織の多様性を大事にするためにも、女性が男性と同様に積極的に指導的立場に立つことが重要だと思います。



Q これから社外役員を目指す方へのメッセージをお願いします。

女性の地位向上のためには、女性が積極的に前に出て、リーダーシップを発揮していくことが大事なことはいうまでもありません。弁護士は価値のある法曹資格をもっているため、男性優位な企業社会の中でも有利な立場にあります。


それを大いに活用して、日本の社会を女性がもっと活躍できる社会に変えていく必要があります。出る杭は打たれると言われますが、敢えて打たれる覚悟をもって前に出て、まだまだ閉塞的な社会を一人一人が一歩一歩変えていってください。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2019年3月)のものです。



市毛 由美子 弁護士

Q 社外役員としての経歴について教えてください。

市毛 由美子 弁護士
2012年から6年間、NECグループの通信サービス子会社であるNECネッツエスアイ株式会社の社外取締役を、2014年6月から5年間、イオングループのデベロッパーであるイオンモール株式会社の社外監査役を、同じく2014年12月から3年間三洋貿易株式会社の社外監査役(後に取締役・監査等委員)を務めてきました。この3社は、企業内弁護士時代の上司や事務次長時代の元日弁連役員等から紹介を受けました。現任は、2016年12月から株式会社スシローグローバルホールディングスの社外取締役・監査等委員、2018年6月からの伊藤ハム米久ホールディングス株式会社の社外取締役の2社です。この2社は、いわゆるエグゼクティブ・サーチと言われる経営人材を紹介する会社からのお声がけがきっかけでした。


Q それぞれの会社にどのように関わられてきましたか。

各社での立場としては、社外監査役、監査等委員である社外取締役、監査役会設置会社の社外取締役等、様々でしたが、取締役会で発言する時は、監査役であるか取締役であるかはあまり意識してこなかったと思います。もちろん、監査役会や監査等委員会での議論のテーマは守りのガバナンスが中心になりますが、取締役会では、監査役の立場でも、例えば中期経営計画の立案に関する議論の中で、新たな成長戦略について意見を言わせていただいています。特に、CGコードが制定・改訂されてからは、取締役会だけでなく、指名諮問委員会、報酬諮問委員会、ガバナンス委員会等の主に任意の委員会のメンバーとして意見が求められるようになりましたが、そのためには、攻めのガバナンス、つまり、会社が中長期的な成長戦略をどう組み立て、そのための経営人材をどう育成・採用するのか、現在の経営陣にどのようなミッションを課して、それをどう評価するのか、といった経営に関わる長期的視点での議論が求められていると思います。よって、社外役員でも弁護士だから経営のことはわからないといって黙って座っているだけ、ということは許されない時代になったと感じています。


また、取締役会に上程される個々の事案に関しては、弁護士固有の視点として、判例法理である「経営判断の原則」に則った意思決定がなされているのか、その意思決定のプロセスをモニタリングすることにより、取締役・監査役としての善管注意義務が尽くされているか、という切り口から意見を言っています。内部統制システムの整備・運用に関しても、やはり判例法理である「信頼の原則」に照らして、なすべきことができているか、という観点で意見を言っています。日常的な企業の意思決定は、このような会社法上の法的判断と経営判断の狭間にある問題がほとんどで、弁護士はそのプロセスを法的判断としてモニタリングできる、という点が他のバックグラウンドの社外役員と違うところだと考えています。



Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

女性としての資質に注目されて役員に選任されているという自覚はありますので、やはり経営の意思決定や執行にダイバーシティをいかに持ち込むか、その点が遅れている企業に何ができるかが、私の社外取締役としての重要なミッションであると自覚しています。多くの日本企業では、程度の差こそあれ、取締役会に女性を入れたくても「社内の管理職からはまだ取締役のレベルに育っている女性がいない。」とか、「そもそも社内に経営人材となりうる女性がいない。」という理由で、「せめて、社外役員は少なくとも一人は女性を入れました。」というのが実情です。ただ、本来的に経営のハンドルを握り、アクセルを踏むのは、業務執行を行う経営陣ですので、その中に女性がいないのはおかしい(特にBtoCでは)、経営陣として意思決定できる立場に女性がいることが重要、しかも一人ではなく複数の女性をと、どの会社でも折に触れて訴えています。


特に、私が経営陣にお願いして実行しているのは、女性管理職との「女子会」です。女性管理職を集めていただき、私から、これまで弁護士として関わってきた案件を通じて経験した「女性に対する固定観念」やそれに基づく「社会の構造的歪み」があることを説明し、その歪みを矯正するためにも、また、今の日本企業に求められているイノベーションを促進するためにも、女性が経営陣に入ることが必要不可欠であり、それは個人の自己実現のためだけではなく、後輩女性のため、会社のため、社会のための貢献であるから、是非頑張っていただきたいと期待感をお伝えしています。同時に、女性管理職、特に子育てをしながら管理職をこなしている方々の現状や課題などを率直にお話ししていただき、取締役会でその報告をすることで、全役員に経営課題として認識していただくようにしています。


さらに、多数を占める男性管理職からは、「私はむしろ偉くなるより現状でいい。」という女性が多くて、その気になってくれない、という悩みを聞きます。しかし、その背景には、女性管理職に期待しているということが真に伝わっていないこともありますが、そうでなくても、自己評価が控えめであることから自信を持てるまでに時間がかかる、男性であればすぐに飛びつく昇進の話も、家庭責任を自覚している女性はいろいろ考えてからでないと踏み出せない、といった女性特有のメンタリティがあります。なので、(私も含めて)女性は3回断るのは当たり前と思っていただきたい、諦めないで話し合いを、といったアドバイスをしたりしています。



Q 上場会社、支配株主との関係について教えてください。

偶然のことではありますが、私が社外役員を務めてきた企業は、上場子会社や支配株主を有していて、グループ経営に組み込まれていながら上場している企業がほとんどです。ここで、問題となるのは、親会社や支配株主の利益と一般株主の利益が相反するような状況がありうるということです。そのような場面では、社外役員は一般株主の利益を代弁する存在であることが期待されています。グループ内再編としてのM&Aであるとか、親会社からの出向を含めた役員人事の中でプロパー社員からどう経営陣を出していくか、などと言った問題は、社内の経営陣ではなかなか言えない、あるいは思いつかない問題も少なからず想定されるので、社外役員が意識的に意見を言わなければならない場面だと感じています。例えば、親会社を中核とするグループ内でのM&Aは、親会社にとっては、グループ全体の効率性を考えた組織再編ということかもしれませんが、上場子会社の一般株主の利益を考慮すると、その再編により当該子会社の企業価値がいかに向上するのかが重要になります。合理的な理由もなく不用意にグループ内の不採算会社を引き受けるようなことがあっては、取締役の善管注意義務を尽くしたことにはならないと考えますので、ブリーフィング(取締役会議案の事前説明)の機会に、質問を予告する等して、追加の説明を促しています。



Q これから社外役員を目指す方へメッセージをお願いします。

社外役員は、弁護士業務ではありませんが、弁護士としての知見、そして女性としての経験や視点が、生かされる業務領域です。勉強しなければならないことは沢山ありますが、弁護士人生における新たな展開として、やりがいを感じられる仕事だと思います。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2019年8月)のものです。



笠原 智恵 弁護士

Q 社外役員としての経歴について教えてください。

笠原 智恵弁護士
2015年6月から株式会社クレディセゾンの社外監査役、2019年6月からアキレス株式会社の社外監査役を務めています。アキレスに関しては社外監査役就任前の3年間、補欠監査役を務めておりました。
クレディセゾンは、弁護士会の研究会などで長い間お世話になっていた前任の社外監査役である弁護士(男性)からご紹介いただきました。アキレスは、前任の社外監査役(女性)と親しくしており、補欠監査役としてご紹介いただいたのが社外監査役就任のきっかけです。


Q それぞれの会社にどのように関わっていますか。

(1)クレディセゾン
クレディセゾンは、私が社外監査役になった時点で、すでに社内から女性取締役が選任されており、社外からも新たに女性取締役を選任しておりましたので、取締役会において複数の女性役員がいました。社内から1名、社外から1名の女性取締役を選任しているという点は今でも変わりません。自由な社風で、取締役会での社外取締役の発言も活発です。監査役である私も遠慮せずに発言を行っております。
社外取締役の構成は、会社経営者、コンサルタント、アナリストと、多士済々な方々で、質疑応答も示唆に富むものが多いです。したがって、取締役会において社外取締役の方が挙手される場合には先にお話しいただき、私は後から発言する場合もあります。弁護士として、ファイナンスのスキームや海外投資の方法など、法的な観点から質問をし、必要に応じてスキームの変更などを考えてもらう場合もあります。
また、取締役会・監査役会のほかに、コンプライアンス委員会のメンバーにもなっています。定期的に開催されるコンプライアンス委員会では、内部通報窓口への通報事項などについて報告を受けたりアドバイスをしたりしております。監査役個人に連絡が入る場合には他の監査役や社内弁護士とも相談し対応を行っています。
同社の社外監査役は2期目に入りましたが、監査役会は社外監査役を中心に、これまで3名から4名で構成されてきました。銀行の頭取を務められた方や、財務省・警察庁の官僚経験者など、いっしょに仕事をさせていただいて勉強になることが多かったです。現在の監査役会のメンバーの中では、私が最古参となりましたので、これまでの良いところを踏襲しつつ、新たな視点で実効的な監査ができるようにしたいと思っています。


(2)アキレス
アキレスの社外監査役には選任されたばかりなので、まだ具体的にお話しできるようなことはありません。ただ、補欠監査役時代に、会社の展示会などにお招きいただき、同社の商品やビジネスについて触れる機会があったのは非常に良かったと思っております。「瞬足」という子ども用シューズで有名な同社ですが、素材メーカーとして様々な商品を開発販売し、自動車業界からインテリア業界までを顧客とする幅広い業務を行っています。
前任の社外監査役も女性でしたが、取締役会の他のメンバーはすべて男性です。メーカー特有のまじめさがあり、クレディセゾンの取締役会とは雰囲気も異なります。
取締役会に参加して最初に驚いたのは、材料費・運送費等の高騰から商品の値段を上げざるを得ないとなった時の議論でした。子ども用シューズの値段を上げることに慎重な議論がなされており、世の中を知ることの重要性を再確認しました。私は弁護士であると同時に、子どもの母親でもあり、日々の生活者としての感覚も持ち合わせていますので、そのような視点も何らかの形で反映していきたいと思っています。



Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

会社の役員に女性がいるということは、女性従業員にとって大きな励みになるようです。クレディセゾンの社外監査役に選任された際には、社内の女性取締役が「今度の社外監査役は子育て中の女性である」と部下の女性達に話をしたところ、皆が喜んだという話をしてくれました。自分たちと同じような苦労をしている女性が会社の意思決定の場にいるということだけで、会社経営陣に対する見方も変わるような気がします。管理職の女性たちとの交流などを通じて、会社経営に女性が参加しやすい雰囲気を醸成することにも力を入れていきたいと思っています。
ダイバーシティの問題や企業社会の中で生きてきた男性には気づきにくい問題について、理解し、発言をするという点においては、女性であることのメリットがあるかもしれません。しかし、女性としての視点というものが監査役の業務の中で占める割合はそれほど多くないと感じています。社外監査役としては、会社の経営陣が適法に業務執行を行うことを監督することが一番の重要な役割であり、弁護士としての私に期待されていることであると思っています。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2019年8月)のものです。



安永 恵子 弁護士

Q 社外役員の経歴・社外役員就任の経緯について教えてください。

2017年6月から、佐賀県にある株式会社戸上電機製作所の社外取締役監査等委員を、2018年6月から、同じく佐賀県にある株式会社佐賀共栄銀行の社外取締役監査等委員を務めております。

戸上電機製作所における就任の経緯は、勤務する法律事務所の所長が、長い間同社の監査役及び監査等委員を務めており、その退任のタイミングで声がかかりました。当時は、有価証券報告書への女性役員の比率の記載が義務付けられ、CGコードでも女性の活躍を含む多様性の確保について開示が義務付けられ女性役員登用の機運が高まっていた頃だったので、これらの施策が就任への後押しをしてくれたのだと思います。

佐賀共栄銀行については、もともと地元の経済団体主催の会合等で頭取と面識があったのですが、戸上電機製作所の監査等委員に就任したことをきっかけに関心を持ってくださったようです。銀行は女性従業員が多く、女性の意見を反映する必要性が特に高いこと、県内に監査等委員会を設置する会社が少なく、監査等委員の経験のある人材は希少であったことも就任に繋がったようです。


Q それぞれの会社にどのように関わっていますか?

戸上電機製作所は、配電・制御機器を製作しており、電力会社を主要取引先とするBtoBの企業です。会議は取締役会が年間7回と少ないですが、事業部門ごとに行われる中期経営計画会議に出席して事業の方向性を確認しています。監査等委員会は年間12回開催されており、ここで常勤の監査等委員から経営会議の報告を受けて業務執行に対するモニタリングを行っています。このほかに、全役員とのミーティング、監査法人や監査部門との対話、工場や子会社への視察などを行っています。


佐賀共栄銀行は佐賀市に拠点を置く第二地銀です。地方銀行に逆風が吹く中、収益力を強化し、貸出金利息収入を増やし続けている、全国でも珍しい銀行です。会議は取締役年間15回、経営会議年間24回、これら以外にも四半期ごとの支店長会議に出席しています。社外役員が取締役会以外の会議にも参加することで業務執行の透明性が図られており、情報にアクセスしやすいと感じています。監査等委員会も年間15回開催されていますが、もともと監査等委員が頻繁に顔を合わせているため、委員会では議題以外の事項について話が及ぶことも多いです。また、監査等委員の業務以外に内部通報の窓口も担っています。


Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

戸上電機製作所は、女性従業員の数は多いのですが、女性管理職比率は少なく、意思決定ボードに参画する女性が社内におりません。そのため、役員との面談においては、女性管理職候補を積極的に育成するよう助言しています。人事においても、営業は男性でないとこなせないという固定観念を払拭して配置するように提案をしました。


佐賀共栄銀行も女性行員の数が多く、特に契約行員は女性が大多数を占めます。契約行員の中でも意欲のある人材は正行員に積極的に登用するよう発言をしています。女性役員は私が就任する前からいらっしゃり、その後も新たに女性役員が就任なさいましたが、今後も女性登用の流れを絶やさないように配慮をしています。女性行員の制服を廃止して女性に対する無意識の差別意識を生まないようにするなど、息の長い形で女性活躍を推進しています。


Q 地方ならではの特徴はありますか?

佐賀県は人口81万人の小さい県で、第一次産業の割合が多いという特徴があります。県内に本社を置く大企業は少なく、ダイバーシティマネジメントを行っている企業はまだあまり見受けられません。しかし、女性社長の割合が非常に多い県でもあるため、女性役員に対する潜在的な需要は多いのではないかと感じています。この掘り起こしをするために、機会があるごとに女性役員登用に関する情報発信に務めています。


また、社外取締役監査等委員を務めていて、経営に積極的に参画することを期待されたり、顧問弁護士のような役割を求められているのではないかと感じることがありました。このときは、経営陣との対話を通じて監査等委員の役割を認識してもらい、コンプライアンスの在り方について時間をかけて議論を尽くしました。地方は役員や従業員との距離が近いという利点がある半面、緊張感の維持が難しいという面があるかも知れませんが、顔の見える関係であることを活かして、忌憚のない意見を発していきたいと考えています。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2020年5月)のものです。



野口 葉子 弁護士

Q 社外役員の経歴について教えてください。

interview_noguchi.JPG平成19年6月~令和元年6月まで(3期12年)株式会社ゲオホールディングス社外監査役を務めたほか、平成21年6月からジャパンマテリアル株式会社の社外監査役を、平成26年8月から株式会社壱番屋の社外取締役(平成27年8月から監査等委員)を、平成27年7月から株式会社ナ・デックスの社外取締役を、令和元年8月から株式会社浜木綿の社外取締役(監査等委員)を、それぞれ務めています。きっかけは、顧問弁護士さん、監査法人さん、信託銀行さん、証券会社さんのご紹介のほか、弁護士会の内部通報システムをテーマとするシンポジウムでお知り合いになったことがきっかけになった会社もあります。私は司法修習54期ですが、若手の頃から社外役員の候補者に選んでいただけた理由の一つとして、東京の法律事務所での企業法務の経験や、非常勤ではありますが信託銀行の法務部勤務の経験が挙げられると思います。


Q それぞれの会社にどのように関わっていますか?

通常は、主に月1~2回の取締役会、監査役会・監査等委員会に出席するほか、監査役・監査等委員の場合には、監査法人との定期的な報告会や面談、工場や店舗、棚卸立会等の実査などに出席します。また、経営会議にオブザーバー参加する会社や、リスク・コンプライアンス委員会等の委員会に参加することがありますし、会社によっては、入社式、グループ会社懇親会などにも参加させていただいています。会議の前には、メールなどで資料を頂戴して事前に精査するようにし、会議では、主に法的に問題がありそうな点に関して意見や質問をさせていただいています。他の社外役員さんも、その本業や過去の経歴の得意分野(会計士、税理士、会社経営経験者)において、適宜活発な意見を述べられています。社外役員同士の意見交換は、監査役会(監査等委員会)であればその会議で、社外監査役等と社外取締役間では、社外役員間の意見交換会を定期的に開催したりしています。話をすると、だいたい社外役員が会社に対して持っているリスクや問題点は概ね共通していると感じます。


他方、何か問題が生じたときには、通常の会議のほかに、臨時の役員会や会議に出席したり、個別の協議にのぞんだりと、対応に追われます。有事の際には、弁護士としての法的な観点からの意見を求められることが多く、迅速さと慎重さの両方が求められると実感しています。なお、有事の際の対応については、日弁連の機関雑誌「自由と正義」Vol.68 No.1(2017年1月号)p.37~において、「不祥事対応における社外役員の役割について(有事における社外役員の留意点)」でも述べさせていただいていますので、参考にしていただければと思います。


Q 社外役員の役割や意義についてどのように考えているか教えてください。

社外役員一般としては、主に一般株主の利益に配慮しているかどうか、利益相反的な判断がなされていないかといった点を中心に、独立した立場で客観的に検討することが求められていると思います。また、弁護士という立場での社外役員としては、やはり、不祥事や訴訟になった場合のリスクの予測や判断に存在意義が求められていると感じていますので、不祥事予防・対応に関する意見や、内部統制システムに問題がないかという視点での意見を述べることが多くなっています。また、重要な意思決定がなされる際には、「経営判断の原則」の要件を満たしているかどうかを検討するように心がけています。他方、顧問弁護士の役割ではないかなと思うような,個別の案件の細かい法律的意見を求められることもあります。回答する場合もありますが、事件性が高いものに関しては、その処理や判断に相違があるといけないので、顧問弁護士さんなどに意見を聞いてほしいと率直にお願いすることもあります。


また、社外役員としては、意識的に、会社の理念を理解しておく必要があると考えています。そのため、会社によっては、トップのかたと直接お話する機会を設けていただき、意識の共有も図らせていただいています。


Q 複数の社外役員(現在4社)をつとめていらっしゃり、ご多忙のように思いますが、どのようにやりくりされていますか。

確かに多忙ですが、私の場合は、現在、社外役員に関連する分野を中心としているので、むしろこの分野に集中して取り組むことができています。幸いなことに、役員会等の会議は、事前に年間スケジュールを決めますので、重複する際などにはお願いして、事前に調整していただいています。臨時の役員会などの急な予定で、移動等が間に合わない場合には、テレビ会議や電話会議などを活用し参加させていただくこともあり、比較的柔軟に調整してもらえています。そのほかには、社外役員の分野に関するセミナーや執筆などもやらせていただいていますが、これらも段取りがたてやすいので、マイペースで、家事・育児との両立を図ることができています。


Q これから社外役員を目指す方へメッセージをお願いします。

社外役員は、多くのステークホルダーに対して責任を負いますので、それ相応の覚悟が必要であろうと考えています。しかし、弁護士としては、企業内の判断の過程や事情を知ることができ、役員として意思決定に関与できることは大変貴重な経験となりますし、自分の知見や能力を生かすことのできる場としても良い機会です。また、役員会の日程はほとんど年度初めに決まりますので、家事や育児に関連する日程との調整ができるため、家事・育児との両立もしやすいですし、女性の感覚を経営に反映する機会として、社会にも貢献できます。女性の弁護士にはとても向いていると思いますので、多くの女性弁護士に社外役員として活躍していただきたいと願っています。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2020年6月)のものです。



大村 恵実 弁護士

Q どのようなきっかけで社外役員になりましたか。

2014年から、株式会社デジタルガレージの社外取締役を務めています。きっかけは、弁護士になってすぐに在籍した事務所で、厳しく鍛えてくださった上司の紹介です。打診されたのは、私が国際労働機関(ILO)ジュネーブ本部での3年間の勤務を終えて帰国したばかりのころでした。

会社は、多様な技術領域をインターネットビジネスに結びつけ、未知の事業を創造することを理念としており、海外にも事業拠点を有しています。「英語ができるグローバル経験のある女性弁護士」を役員候補として探していたと伺っております。

Q 主に労働法実務に携わってきたとのことですが、どのように生かしていますか。

労働法実務を通して、中小企業の経営者らの日々の悩みを間近で見たり、労働者、使用者双方の立場で解雇紛争など多くの労働関係訴訟に携わったりしてきました。より現場に近い感覚があり、会社を成り立たせる重要な要素である「人材」「人的資源」に密着してきているので、実務経験は役に立つはずだと考えていました。


また、国際労働機関では、産業構造や労働者が使用者に期待する措置の変化に伴って、労働基準の策定やその実施に進展があると実感していました。世界経済の動向や国際的な議論を踏まえた大局観を得られる場にいたことは、会社の経営をモニタリングする上でも重要な視点になっていると思います。


Q 会社は社外役員にどんなことを期待していると感じますか。

社外役員候補として面談を受けた際に、社長は、多様なスキルセットを活用することが会社のリスク管理と持続的な成長に繋がること、社内にすでにある知識や経験を求めているのではなく、異なる視点と役割を期待すること、そのようなトップの強い意気込みを語られ、私は、背筋が伸びる思いでした。また、同席していた社内役員は、マーケティング戦略の専門家だったのですが、ご発言から、ご自身の専門分野について同レベルで議論できることを社外役員に期待していることが分かりました。そのため、法律ではない幅広い分野の知識を吸収し、会社の事業内容や収益構造もきちんと理解しようと、強い決意を持って就任しました。


社内役員の方々から、会社の事業内容のみならず、日々の業務遂行上で直面する課題や、会社が目指すべき姿について考えていること等を率直に聞かせていただくことで、会社経営に関するあらゆる事象に関心を持ち理解するよう心掛けております。懇親の機会を重ね、「独立した社外」を意識したほどよい距離感を保ちつつも、よい信頼関係を築いていると思います。


リスクの芽や、企業価値の向上の可能性は、社員の働き方や、感じている働きがい、人的リソースの用いられ方から得られる情報も多くありますので、社員との接点ももっと増やしたいと感じています。


Q 取締役会の雰囲気はどうでしょうか。また、どのような意見を述べていますか。

議案の事前説明は毎回1~2時間を使って説明していただき、私も資料を読み込んで質問しています。裁判実務では、とにかく記録を読み込みその内容を一番知っていようと心がけていました。その感覚に似ています。


特に事業サイドの社員が作成したプレゼンテーション資料は、「目の前で回っている事業」の詳細な内容が記載されていて情熱は感じられるものの、取締役会における決議の対象や、なぜこのタイミングで当該決議をするのか、また中長期的な戦略目標との関係を説明できているのか、十分に明確でない場合もあります。このようなときは事前説明の際に、プレゼンテーション資料への加筆をお願いすることもあります。


監査等委員会設置会社で、社内役員には判断の根拠とプロセスの丁寧な説明が求められ、取締役会が執行をモニタリングする姿勢が明確であると私は感じています。そもそもよく声の上がる活発な取締役会ですが、議長が社内外の役員を指名して発言を促す等、闊達な議論を醸成する雰囲気づくりへの心配りを感じます。決議事項と関連づけながら、あるいは報告事項の延長で、中長期的な戦略について、社長はじめ社内役員のお考えは常に社外役員に共有されている印象で、社外役員を含む役員合宿で集中的に議論する場もあります。社外役員同士の情報交換も緊密な連携を取っています。


取締役会の場に限らず、コーポレートガバナンス報告書やアニュアルレポートにおける非財務情報の記載など、開示資料に関する意見を述べることもあります。


取締役会では、例えば、執行役員に女性がいなかったため、私は、人材配置は経営戦略の重要な要素であることと、特に海外機関投資家から見たとき、役員構成に多様性がないことは企業価値評価へのリスクになることを申し上げました。その後、執行役員への女性登用は社長の迅速なイニシアチブで実現しました。社内には様々なスキルを有する優秀な女性たちが多く活躍していますので、管理職、執行役員への登用がさらに進むことを期待しています。


変化が実現したとき、実行力ある会社の社外役員になってよかったと思います。「ご意見として承ります」、「重要性は認識しています」という答弁も可能だったはずですが、社外からの指摘にすぐに動き結果を出す具体的な出来事で、もっとこの会社のために貢献しようという気持ちになります。


若手弁護士へのメッセージをお願いします。

企業法務ばかりを取り扱ってきたわけではありませんでしたので、就任当初は自分の経験で十分だろうかと思ったこともありました。昨年、渉外企業法務に特化する法律事務所に移籍し、労務を専門にしながらも、幅広く企業間取引に関わるようになりましたが、労働法実務の経験が社外役員として活きているという感覚に変わりはありません。これから社外役員になられる弁護士の方も、どんな実務経験であっても生かせると信じていただきたいです。


これからどんなことに取り組んでいきたいですか。

新型コロナウイルス感染症の拡大で、世界も日本も企業や社会のあり方は変容を余儀なくされていますが、持続可能性を見直し、歴史的に存続するもの、新たに生まれるもの、それぞれの社会課題に向き合うことで、企業を能動的に変革する機会であるとの実感を強くしています。その変革のために私ができることを常に考えています。


私は、現在、EU、 ILO、 UN Womenの共同プロジェクトWe Empower (女性の経済的エンパワメントを目的とし、女性活躍に力を入れる企業への投資の推進等を行う)のアドバイザーを務め、また、弁護士や研究者の仲間たちと「ビジネスと人権ロイヤーズネットワーク」を運営して、SDGsの文脈の中で、企業活動が人権に与えるインパクトに対して企業がどう責任を果たしていくか提言する活動にも携わっています。これらの活動を通じ、国際社会での最先端の議論に触れ、日本の「常識」を問い直す機会をいただいており、その感覚を企業経営者の方々と共有することで、企業価値の向上に貢献したいです。


在宅勤務やジョブ型雇用などが議論される中で、ESG(環境・社会・ガバナンス)要素のS(社会)の中でも、特に「企業につながる、働く人々」というステークホルダーを、投資家が重視するようになってきていると感じています。この流れの中で、弁護士として労働法や働くことそのものに向き合ってきた経験や、国際機関での勤務を通して得た大きな視野をもっと生かせると思っています。多くの方々の支えや教えがあって得られた貴重な機会に、不断の努力で応えるつもりです。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2020年8月)のものです。



飯島 奈絵 弁護士

Q 社外役員としての経歴について教えてください。

interview_iijima.jpg2003年6月に、大阪府堺市にあるナビタス株式会社(以下「ナビタス」)の社外監査役に就任しました。途中で、社外取締役になり、2019年6月まで務めました。


2015年6月より、兵庫県尼崎市にある株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ(以下「OTC」)の社外取締役を務めております。


ナビタスは同社社外監査役を務めていた勤務先事務所の男性弁護士と交代で、社外監査役になりました。


OTCはご紹介でした。私は高校時代を米国で過ごし、弁護士登録後、米国ロースクール留学、ニューヨーク州弁護士資格を取得しました。在阪・女性・海外の3要素がマッチしたと伺いました。





Q それぞれの会社にどのように関わってきましたか?

社外役員は、多様な視点から多角的に検討を加え、リスクも計算に入れた「攻めの経営判断」を可能とします。また、多様な意見を受け入れる柔軟性は組織の長期的な発展の礎であるものと存じます。


ナビタスは、1966年に創業者4名が設立した「水と空気以外は何でも印刷可能」な特殊印刷機を制作する会社です。4名の対等なメンバーが会社を設立し、経営してきた経緯もあり、毎月の取締役会も経営会議を兼ね、長時間に渡り自由闊達な議論が行われる様子に、就任当時30代だった私は感動しました。長年、同社の社外役員を務めさせていただく間に、代表取締役社長の交代や会社全体の組織改革、業務拡大にも関与し、外国現地法人設立時には、現地にも出かけました。同社には様々なことを学ばせていただき、自分なりの貢献も出来たかと存じます。


OTCは1937年に創設され、日本製鉄株式会社と株式会社神戸製鋼所が23.91%ずつを保有する航空機用チタン等を製造する会社です。取締役会にて、銀行出身者、会社経営経験者等である他の社外役員は、経験に基づく質問、提言を活発に行っており、私も違う視点からの発言を心掛けると共に、様々な意見の咀嚼に努めております。重大な経営判断が、丁寧な事前説明、要検討点の洗い出し、活発な議論の上で行われており、社外役員の関与による「攻めの経営判断」の後押しが実践されているものと存じます。


Q 女性の経営参画についてのお考え等を教えてください。

若い頃、顧問先の担当者に、「この意見を先生から経営陣に言ってほしい。」と言われ、社外の若い女性弁護士を介しないと意見があげにくい風通しの悪さに愕然としたことがありました。


民事再生申立会社からの有望な技術部門のM&Aを「前例がないから。」との一言で検討を拒絶された大企業の幹部社員に幻滅したこともありました。


アジア諸国の企業の成長に対し、かつて、ジャパンアズナンバーワンと言われた日本企業のスピードが落ちた背景には、風通しの悪さ、失敗を回避する保守的な思考もあったかと思われます。


多様性を受け入れ、風通しよく、前例のないことも前向きに検討対象とする柔軟性が企業の存続・発展のため、必要であるものと存じます。


その業種から、社員の大多数が女性であり、幹部役員の女性比率も高い顧問先があります。幹部社員が全国から集まる経営戦略会議では、自由な発想の意見が飛び交います。


法科大学院でも、女子学生の方が臆することなく、活発に発言する場に出会います。


仕事と育児の両立は長年の課題ですが、妊娠・出産以外は父親もなしうる中、男性の育児参加の後押し、電化製品の利用等、家事の効率化・省力化は進んでいます。


より多くの女性が経営に参加し、企業の多様性・柔軟性が図られるよう私も尽力します。


Q 大阪ならではの意見はありますか?

関西の企業の社外取締役に東京の方が就任され、月例の取締役会出席のため、来阪される例があります。経営の多様化を図るには、東京の企業が関西等の人材を社外役員に入れ、地方の視点を取り込むということも考えられます。オンライン参加も視野に入れれば、更に柔軟な人選がありうるものと存じます。


Q これから社外役員を目指す方へのメッセージをお願いします。

育児・介護はもちろん、弁護士会役員、法科大学院教員、家裁調停委員等、本業から外れた経験は視野を広げてくれたと思っています。社外役員の多様性が求められる中、様々な経験が生きてくると思われます。本業以外についても躊躇せずにチャレンジください。



※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2020年11月)のものです。



柴田 美鈴 弁護士

Q 社外役員としての経歴・就任の経緯について教えてください。

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初めての企業の社外役員就任は、2017年6月、デリカフーズホールディングス株式会社の社外取締役でした。同社は、農家から仕入れた野菜を外食・中食に販売するのが主な事業で、全国に事業所や工場、物流や研究開発の事業会社を持っています。最近はBtoCも始めました。


同社の顧問弁護士と過去に一緒に仕事をしたことがあり、同弁護士が同社から「女性の社外取締役候補に誰かいないか」と相談を受けた際に、紹介してくださいました。ちょうど司法研修所教官に就任したのと同時期でしたので、両立できるのかと悩みましたが、事務所や教官の先輩に相談し(皆さん背中を押してくれました)、お受けしました。


2020年6月に、SOMPOホールディングス株式会社と、株式会社スペースバリューホールディングスのいずれも社外取締役に就任しました。


SOMPOホールディングスは、同社の社外取締役・指名委員の女性弁護士がご自身の後任にと紹介してくださいました。以前に弁護士会の委員会関係で一緒に事件を受任させて頂いて以来のご連絡だったので、とても驚きました。当事務所の先輩の女性弁護士が以前より複数の社外役員を務めていたことも影響していたのではないかなと思っています。


スペースバリューホールディングスは、システム建築・立体駐車場・総合建設を主な事業とする企業であり、2019年6月より補欠監査役に就任しており、1年後に社外取締役候補としてお声掛け頂きました。補欠監査役就任のきっかけは、司法研修所教官の先輩である弁護士からのご紹介です。同社は、監査等委員会設置会社でしたが、就任前に意見を尋ねて下さったので、3社の就任となることから、監査等委員ではない取締役を希望しました。


スペースバリューホールディングスは、2022年3月に上場廃止したタイミングで退任しましたので、現在(2022年12月)前記2社の社外取締役を務めています。


Q 3種の機関設計の各会社にどのように関わってきましたか。

デリカフーズホールディングスは監査役会設置会社、SOMPOホールディングスは指名委員会等設置会社、スペースバリューホールディングスは監査等委員会設置会社と、それぞれ機関設計が異なりました。


デリカフーズホールディングスは、社外取締役が2名、社外監査役が2名います。毎月1回取締役会が午後にある日の午前中に、社外4名に対する取締役会議案の事前説明があります。今はオンライン併用ですが、年2回は同社のルーツのある愛知で行われます。事前に送付された資料を読み、午前中に質問し、午後に改めて質問したり意見を述べたりしています。昨年任意の指名報酬委員会が設置されたので、取締役会終了後に同委員会に出席する月もあります。その他、女性活躍推進の一環として、社内の女性役員と共に、若手の女性社員との意見交換会に定期的に出席していた時期もありました。


SOMPOホールディングスでは、最初の2年間は指名・報酬委員を務め、3年目の現在は監査委員を務めています。同社の社外取締役は現在10名、指名・報酬委員は5名全員が社外で、監査委員は5名の社外に常勤監査委員2名の7名です。各委員会は毎月開催され、活発な議論がされています。委員会そのもの以外にも、指名委員会であれば役員候補者のインタビュー、監査委員会であればCxOや部長等とのミーティングが相当数ありますので、委員としての職務も大きな割合を占めていると感じています。


取締役会は、その数日前に事前説明会があり、そこでの社外取締役の発言および執行サイドの回答を踏まえた上で改めて議論がなされます。


スペースバリューホールディングスは、最終年度は社外取締役が3名、私以外の2名は監査等委員でした。また、社外全員が任意の指名報酬委員会の機能を含む経営諮問委員会の委員です。その前年、私のみ新任ということも勿論ありましたが、監査等委員との情報量の差を感じることもあったので、社外取締役間では積極的にコミュニケーションを取るようにしていました。TOBがなされた場面では、社外取締役として特別委員会の委員に就任し、短期間に集中して会議を重ね、公開買付にかかる取引の公正性・妥当性等の検討をしました。


Q 女性の経営参画、多様性についてのお考えを教えてください。

役員会に限りませんが、会議に女性が一人だけしかいないという場合、自分の発言が女性の代表のように受け取られる窮屈さを感じることもあり、バックグラウンドの異なる女性が複数いる方が、共感することは同調でき、異なることは複数の視点を伝えられるので、率直に発言しやすいと思っています。


既に、役員の中に女性がいるのは、少なくとも上場企業ではスタンダードになりつつあると認識していますが、男性役員が複数いるのと同様に、複数の女性がボードにいるべきだと思いますし、確実にその方向で進んでいくと思います。


女性であることは、特徴の一つにすぎず、経歴、年代、育児の経験の有無は勿論、あらゆることが人それぞれです。複数の経験知を合わせて成る一人一人が、互いを受け入れながら各自の意見を述べ、その中で気づきや刺激、共感、違和感が生じ、さらに議論をすることで、いわゆるグッドクラッシュが起き、多様性が機能を発揮すると考えています。


勿論、ボードだけでなく、企業全体にD&I(I&D)が浸透することが目標ですが、まずはボードが体現し、発信することが重要だと考えます。


私自身、当初は、大企業の経営や起業等の豊富な経験を有する他の社外役員の中で、自分が発言することに躊躇いを感じることもありましたが、弁護士として、女性として、40代として、その他私自身がこれまで社会に関わってきた経験やそれに基づく視点は、多様性の一片を構成すると捉えて、社外役員の仕事に取り組んでいます。


※本インタビュー記事の内容は、インタビュー時点(2022年12月)のものです。