日弁連新聞 第592号

ただいま申請受付中!
2023年度 若手チャレンジ基金制度

若手チャレンジ基金制度は、弁護士としての活動の幅を広げるため積極的にチャレンジする若手会員を、日弁連が支援する制度である。対象となる新第65期から第72期の若手会員に、本制度を積極的に利用していただくべく、制度の概要および過去に支援金等を支給した活動を紹介する。


支援対象となる活動の種類と過去の支給例

本制度において支援対象となる活動等は、次の4つである。


①公益的活動等への支援

社会的・経済的に困窮した方を支援する団体と提携した法律相談等の法的支援や、原発関連の弁護団活動(訴訟外の活動等を含む)などに対し、5万円または10万円の支援金を支給した。

(2022年度の支給件数は92件)


②研修・学習等への支援

依頼者や相手方とのやりとりに生かすためのコミュニケーション講座、中小企業診断士や社会福祉士等の資格取得講座、業務や留学準備のための語学講座などに対し、10万円を上限とする支援金を支給した。

(2022年度の支給件数は275件)


③先進的な取組等への表彰

「年越し支援・コロナ被害相談村」の開設・運営(2021年度ゴールドジャフバ賞)、民間の妊娠相談窓口を運営するNPO法人の運営・相談員活動(2022年度シルバージャフバ賞)などを表彰し、30万円以下の副賞を贈呈した。

(2022年度の表彰件数は5件)


④先進的な取組等への助成

対象となる活動の性質上、過去の支給事例は公表していないが、弁護士業務の画期的な進歩・改善につながる取り組みを対象に、30万円以下の助成金を支給している。

(2022年度の助成件数は6件)


積極的な利用を!

本年度の対象期間内に行った活動等であれば、同一の活動について①~④のそれぞれに重複して申請することができる。また、過去に支援金を支給した活動等であっても、本年度の対象期間内にも実施していれば申請が可能である。

本制度の活用により、若手会員の活動の幅がさらに広がることを期待している。


(研修・業務支援室  室長 岩田康孝)



再審法改正に向けた大きな流れを

日弁連では、再審法(刑事訴訟法第4編「再審」)の改正に向けて、議員要請や院内集会の開催などの国会議員への働きかけを行っている。本稿では最近の取り組みなどを報告する。


国会議員に対して再審法改正の必要性をアピール

5月12日、日弁連理事と再審法改正実現本部委員によって、国会議員への一斉要請活動を行い、約250人の国会議員(秘書を含む)と面談した。限られた時間ではあったが、多くの国会議員に再審法改正の必要性を訴え、法改正への賛同メッセージと院内集会への参加を依頼した。



院内集会の開催

6月6日には、衆議院第二議員会館において「 arrow_blue_1.gif再審法改正を求める院内集会」を開催した。再審法改正実現本部の設置後、初めての院内集会である。


主要政党(自由民主党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、社会民主党、日本共産党、れいわ新選組)から合計32人の国会議員が出席し、代理出席やオンライン参加も含めれば60人以上の参加を得るなど、盛会となった。


小林元治会長の開会挨拶に続き、出席した国会議員の多くから、再審法改正に前向きな発言が相次ぎ、「活動のための活動であってはならない。(再審法改正という)実を取りに行く。」との叱咤激励のコメントもあった。院内集会での挨拶を含め、賛同のメッセージを寄せた国会議員の数は100人に達した。


今後は、さらに国会議員等への働きかけを行い、再審法改正に向けた機運をより一層高めていく必要がある。


再審法の改正を

再審法改正に向けた機運が高まる一方で、6月5日には大崎事件の即時抗告審で、6月7日には豊川事件の異議審で、いずれも再審請求を棄却する請求審の判断を維持する決定がなされた。大崎事件、豊川事件の他にも再審の扉が開かない事件は多く、えん罪被害者の救済は進まない。こうした現状を打開するためにも、証拠開示の制度化や検察官抗告の禁止など、再審法の改正が必要である。


国会議員はもとより、広く社会に必要性を訴え、再審法改正に向けた流れを大きなものにしていきたい。


(再審法改正実現本部  事務局長 上地大三郎)



刑事訴訟法等の改正に関して、保釈の運用の適正化を求める会長声明を公表

arrow_blue_1.gif「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」の成立に当たり、保釈の運用の適正化を求める会長声明


5月10日、刑事訴訟法等の一部を改正する法律(以下「改正法」)が成立したことを受け、同日、日弁連は、「「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」の成立に当たり、保釈の運用の適正化を求める会長声明」を公表した。


改正法の概要

改正法(5月17日公布)では、保釈等をされた被告人の公判期日への不出頭罪、制限住居離脱罪(公布から6月以内に施行)、報告命令制度、監督者制度(公布から1年以内に施行)、位置測定端末により保釈されている被告人の位置情報を取得する制度(公布から5年以内に施行)などが新たに創設され、今後、段階的に施行される。


人質司法の解消を求めて

日弁連は、2020年11月17日に、無罪を主張し、または黙秘権を行使している被疑者・被告人について、殊更に長期間身体を拘束する勾留・保釈の運用(「人質司法」)の解消を求める意見書を公表した。同意見書では、被告人は無罪と推定される以上、原則として保釈する運用を実現することを前提としつつ、「身体拘束より制限的でない代替措置」を検討することも求めていた。


会長声明の内容

今回の会長声明では、先に公表した意見書に言及しながら、改正法により創設された各制度が、「人質司法」の解消に資するものとして、適正に運用されることを求めている。具体的には、各制度について、「公判期日等への出頭等の確保を直接の目的としたものであり、新たな人権侵害を生むことのないよう運用されるべきことはもとより当然である」とした上で、「身体拘束の代替措置が従前と比較して大幅に拡充された」と評価し、深刻な人権侵害を生じさせている日本の勾留・保釈の運用を改める契機にもなり得ると指摘している。


今回の刑事訴訟法等の改正により、無罪を主張している、または黙秘権を行使している被告人を、長期間にわたって身体拘束する運用を改め、保釈の運用が憲法や国際人権法にのっとったものとなるよう、適正化することを強く求める。


(刑事調査室  嘱託 虫本良和)



ひまわり

初夏から夏にかけては、紫陽花の花が美しい時期である。鎌倉長谷寺、矢田寺、三室戸寺などの「あじさい寺」、あじさい園やガーデンなど、各地に紫陽花の名所があり、多くの人が訪れる▼紫陽花の原種は日本自生のガクアジサイとされ、シーボルトは「日本植物誌」でアジサイを海外に紹介している。日本国内で紫陽花の人気がこのように高まったのは、戦後のことという。万葉集では幾多の植物が歌に詠まれているが、「あじさい」を詠んだ歌は2首のみ、枕草子と源氏物語にも「あじさい」は出てこないそうだ▼紫陽花は、主に日本やヨーロッパ、アメリカで品種改良されてきた。特にここ20年ほどの間にバラエティに富む多くの品種が作り出されている。涼やか、爽やか、柔らか、清楚、愛らしい、華やか、豪華、落ち着いた、渋い、エレガント、キュート等々、各品種の魅力はさまざまな形容詞で表現でき、好みに合った紫陽花を選んで手に入れることができる▼私自身は、楚々とした風情のヤマアジサイに惹かれ、バルコニーでいくつかの品種を育てている。紫陽花の名所はとても見応えがあり素晴らしく、道端や庭先に咲いている紫陽花も美しい。初夏から夏を彩り、爽やかさをもたらしてくれる紫陽花を眺めるのが楽しみである。

(C・H)



国会議員の任期延長を可能とする憲法改正に反対し、大規模災害に備えるための公職選挙法の改正を求める意見書

arrow_blue_1.gif国会議員の任期延長を可能とする憲法改正に反対し、大規模災害に備えるための公職選挙法の改正を求める意見書

arrow_blue_1.gif憲法審査会における審議状況に関する意見交換会(院内集会)


日弁連は、5月11日付けで「国会議員の任期延長を可能とする憲法改正に反対し、大規模災害に備えるための公職選挙法の改正を求める意見書」を取りまとめ、内閣総理大臣、総務大臣、復興大臣等に提出した。

5月23日には「憲法審査会における審議状況に関する意見交換会(院内集会)」を開催した。


意見書の内容

本意見書では、議員の任期延長を可能とする憲法改正議論について、選挙権の重要性を指摘した上で、任期延長という方法自体の問題と任期延長では解決できない問題があることに触れつつ、現在の改憲案の問題点として、適正な選挙の実施が困難であることの認定主体を内閣とすることによる濫用の危険や、国会承認が出席議員の3分の2では不十分であることなどを、具体的に指摘している。


さらに、国会の行政監視機能の維持が目的とされているにも関わらず、憲法53条後段の臨時国会が召集されないという、近年頻発している行政監視に関する重大な問題が放置されたまま、極めてまれな事態における議員任期延長のみが議論されている不合理性を指摘し、具体的な対策として、日弁連が2017年の「 arrow_blue_1.gif大規模災害に備えるために公職選挙法の改正を求める意見書」で提案した、災害に強い選挙制度への改正を改めて求めた。


意見交換会(院内集会)

本意見書と4月13日に公表した「arrow_blue_1.gif憲法改正手続法における国民投票に関するインターネット広告の規制に関する意見書」を報告する院内集会を開催した。改憲賛成、反対の立場を超えて、自由民主党、公明党、立憲民主党、国民民主党、社会民主党、日本共産党の国会議員14人を含む約100人の参加があり、それぞれの立場から活発な発言がなされた。


今後の取り組み

今後も憲法審査会の議論状況を注視するとともに、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの過去の教訓を生かした大規模災害に備える公職選挙法の改正が実現するよう取り組みを行っていきたい。


(憲法問題対策本部  事務局員 小口幸人)



日弁連短信

刑事もIT化

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民事裁判手続等のIT化が既に始まっているが、刑事手続のIT化の議論も本格的に進められている。


2022年3月には法務省の「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」報告書が取りまとめられ、同年6月には法制審議会に刑事法(情報通信技術関係)部会が設置された。


政府の基本方針によれば、2023年度を視野に国会に法案が提出され、可能なものから順次措置がなされるとのことである。本年6月現在、部会は10回まで開催され、議論は3巡目に入ろうとしている。資料は法務省のウェブサイトに公開されているので、ぜひご覧いただきたい。


法制審での議論

民事手続と大きく異なるのは、裁判所に加えて、検察や警察が手続の当事者だということである。


検討項目は捜査段階から公判段階まで多岐にわたるが、「書類の電子データ化、発受のオンライン化」と「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」が主要なものである。中でも、弁護士にとって、特に大きな影響を及ぼすと考えられるのは、オンラインを活用した接見、証拠開示、証人尋問ではないだろうか。


オンライン接見

既に一部の地域では、電話連絡やテレビ電話による外部交通という方法が試行されているが、秘密性が保障されていないという問題がある。また、利用に当たって事前予約が必要であるなど、十分な有用性・利便性を備えた運用にはなっていない。


多くの弁護士会が会長声明等で要望しているオンラインを活用した接見としての実現や権利化についての議論を注視していく必要がある。


証拠開示手続のオンライン化

証拠開示手続のオンライン化は、実現すれば膨大な書類の謄写費用や時間の削減につながり、裁判の迅速化や被告人の経済的負担の軽減に資する。情報セキュリティの確保が課題ではあるが、慎重な議論を行いつつ、被告人の防御権・弁護権を拡充するべく取り組んでいきたい。


ビデオリンクによる証人尋問

ビデオリンクによる証人尋問は、出廷が困難な証人の尋問が可能になるなどの有用性はあるものの、被告人の防御権の観点から、対面で証人を尋問することの重要性を軽視してはならず、その点も、議論のポイントとなる。


他にもさなざまな論点があるが、いずれもIT化による業務の効率化に目を奪われることなく、憲法で保障された被疑者・被告人の権利が損なわれることがないような法整備と運用を目指していくことが重要である。


(事務次長 亀井真紀)



新事務次長紹介

下園剛由事務次長の後任として、7月1日付けで笹沼波前企画部長が事務次長に就任した。


笹沼 波(ささぬま なみ)(2006年入局)

画像 多様化する価値観やニーズに適切に対応するため、社会情勢の変化をより機敏に察知することが求められているように思います。そのような中で、会務をしっかりと下支えするべく、日弁連事務局のボトムアップ型の風土を大事にしながら、職員個々の能力を高め、事務局機能の拡充に向けて努力します。

シンポジウム
最低賃金問題を考える
5月25日 弁護士会館

arrow_blue_1.gifシンポジウム「最低賃金問題を考える」


日弁連は、4月14日付けで「 arrow_blue_1.gif低賃金労働者の生活を支えて経済を活性化するために、最低賃金額の引上げ及び全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明」を公表した。これを受けて、全国一律最低賃金制度の必要性や実現に向けた課題などを議論するシンポジウムを開催した。


最低賃金に関する調査報告

貧困問題対策本部の渡辺達生委員(札幌)、兒玉修一委員(奈良)、松田弘子事務局次長(山口県)が、山形県、奈良県、高知県の労働局、労働組合、中小企業団体などを対象とした最低賃金に関する調査結果を報告した。山形県では、非正規雇用労働者の処遇改善や正社員化を促進するため、中小企業等を対象とした支援金制度が設けられていることなどが紹介された。


パネルディスカッション

務台俊介議員(自由民主党)は、都市部への若者の流出、人口減少などの地方の現状を改善するために、全国一律最低賃金制度を導入すべきと述べた。


末松義規議員(立憲民主党)は、日本の最低賃金はOECD加盟国の中でも低く、経済活性化のためにも最低賃金の引き上げが必要であると強調した。


石渡裕氏(中小企業家同友会全国協議会政策委員長)は、地域経済活性化のために最低賃金の引き上げは必要であるとしつつ、社会保険料の補助など、雇用を維持するための中小企業への支援も併せて検討する必要があると訴えた。


木地孝之氏(元慶應義塾大学助教授)は、最低賃金の引き上げによる経済波及効果の試算などを説明した上で、大企業を対象とした減税によって蓄積された内部留保に対する課税等を行い、最低賃金引き上げのための財源とすべきと語った。 目安制度の下で地域間格差が拡大していることから、全国一律最低賃金の実現に向けて引き続き取り組んでいきたい。


(貧困問題対策本部  事務局次長 松田弘子)



罪に問われた障がい者等の刑事弁護の体制整備等に関する研修・意見交換会
5月11日 札幌弁護士会館

罪に問われた障がい者等の刑事弁護においては、釈放後、直ちに必要な福祉的支援を受けられるよう、福祉機関等との連携が不可欠である。

障がい者等の刑事弁護における留意点や課題を共有した上で、福祉関係者も交えた意見交換を行った。


会員向け研修

日弁連刑事弁護センターの松本信乃委員(高知)は、罪に問われた障がい者等の刑事弁護では、①障がい特性や成育過程が、実行行為に至った経緯や動機の形成過程に影響した可能性を十分に検討し、理解に努めること、②迎合性が高い、抽象的な言葉の理解が困難、人の心を推測するのが不得意などの障がい特性を考慮し、捜査機関への対応を検討すること、③実行行為に至った経緯の分析を行い、責任を問える程度を検討し、医療・福祉関係者と連携して更生可能性の主張立証をすることが必要だと指摘した。障がい特性の実行行為やその意思決定への影響は、犯情事実として量刑で考慮されるが、一般情状事実としての更生可能性も執行猶予の有無を決する重要な要素になり得るので、主張立証を尽くすべきと強調した。


また、罪に問われた障がい者等が適切な刑事弁護を受けられるよう、弁護士会による会員向け研修の開催や、福祉機関等と連携した福祉専門職らとのマッチングなど、支援体制の整備が求められていると締めくくった。


意見交換会

参加した福祉関係者は、執行猶予判決より保護観察付執行猶予判決の方が更生の可能性を高めるのではないかとの問題意識を持っていると述べた。また、地域生活定着支援センター(以下「センター」)が入口支援(被疑者等支援業務)に関与した場合は、センターの弁護(公判)活動への関与が制約され、更正支援計画の作成や公判での情状の証言ができないとされていることについて、実際の事件への影響などを報告した。


別の参加者からは、入口支援を利用したことで検察庁からセンターに資料が提供され、更生への道筋を立てる上で有益だったとの発言があったほか、更生可能性の立証について、弁護人が釈放後の支援概要に関する説明資料を作成し、受け入れ施設の関係者に証言してもらうなどの工夫が功を奏したとの経験が語られた。また、保護観察中の定期的な面談が、再犯防止につながると感じていると語る参加者もいた。



シンポジウム
入管被収容者や仮放免者の人権から考える、独立した人権機関の必要性について
5月19日 つくば国際会議場

arrow_blue_1.gifシンポジウム「入管被収容者や仮放免者の人権から考える、独立した人権機関の必要性について」


名古屋出入国在留管理局(以下「名古屋入管」)に収容中の女性が、適切な医療措置を受けられず死亡した事件などから、入管被収容者等の人権保障や国内人権機関の必要性を考えるべく、シンポジウムを開催した。


基調講演・支援者の報告等

国内人権機関実現委員会の伊藤良事務局次長(札幌)は、国内人権機関の具体的な活動の例として、韓国の国家人権委員会がハンセン病患者の人権実態に関する調査を実施した上で、差別解消のための法制整備を求める勧告を行い、ハンセン特別法の制定につなげたことを紹介した。国内人権機関は120か国で設置されており、日本においても、人権救済・政策提言・人権教育の機能を有する国内人権機関の設置が必要であると説いた。


西日本地区入国者収容所等視察委員会(以下「視察委員会」)委員を務めた金喜朝会員(大阪)は、名古屋入管で被収容者の女性が死亡した事案について、当該女性から視察委員会に送られた手紙を契機に、名古屋入管に対して監視カメラ映像の開示を繰り返し求めたものの、具体的な調査権限が法令上明記されていないことなどを理由に、開示されなかったと報告した。視察委員会が情報提供を受けられず、入国者収容所等の適正な運営に資する意見を述べることができなければ、その存在意義は失われると指摘し、視察委員会の機能を強化すべきと語った。


生活に困窮する外国人の医療・生活・住居支援を行うNPO法人北関東医療相談会の大澤優真氏は、同会の調査によると仮放免者の約9割が生活困窮に陥っていると解説した。困窮のあまり自死する仮放免者の存在に触れ、「命と健康」を保障すべく、仮放免者に一時的な在留資格や就労を許可すべきと訴えた。


パネルディスカッション

駒井知会会員(東京)は、名古屋入管で死亡した被収容者の女性がDV被害者であったとみられるにもかかわらず、措置要領の不知から適切な仮放免措置を講じなかったのは問題だと指摘した。そして、約6か月半にも及ぶ収容により、体重が20キロ以上減少して飢餓状態にあった中、適切な医療措置を施さなかったことが女性を死に至らしめたと説明した。


近藤剛副委員長(岡山)は、オーストラリア人権委員会が国内の移民収容施設を査察し、閉鎖的施設に収容されている子どもの人権や被収容者の健康状態を改善するための多岐にわたる勧告を行い、法制度の改善につなげたと報告し、日本においても独立した人権機関が必要であると訴えた。



行政不服審査法シンポジウム
-行政不服審査における手続違法に対する審査のあり方-
5月26日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif行政不服審査法シンポジウム-行政不服審査における手続違法に対する審査のあり方-


行政不服審査においては、処分の違法事由のほか、理由付記の不備など手続違法に対する審査を行う場合がある。

本シンポジウムでは、手続違法の主張に対してどのような審理を行うのが望ましいのかについて意見交換し、審査の在り方への理解を深めた。


理由付記の判例法理と問題点

深澤龍一郎教授(名古屋大学大学院)は、理由付記の制度趣旨は行政庁の慎重な判断と合理性の担保、恣意の抑制、不服申立ての便宜にあるとし、理由付記に不備がある場合は直ちに取消事由となり、理由の追完(瑕疵の治癒)も許されないとするのが判例法理であると解説した。一方で、処分の取り消しによって迅速な解決につながるか、他の事情により理由を推知できるかなどの事情を考慮した答申・裁決例があることも紹介し、理由付記に不備があっても、行政庁の判断過程がずさんだったと推認されない場合や硬直的な判断が請求人の不利益となる場合もあると指摘して、直ちに処分を取り消すのではなく、付言を活用するなどの柔軟な審査の在り方があって良いとの考えを示した。


パネルディスカッション

深澤教授のほか、行政庁の審理員や行政不服審査会委員の経験のある実務家として木村夏美会員(三重)、石川美津子会員(東京)、水野泰孝会員(東京)が登壇し、手続違法がある場合の審理について、具体的な事例と場面に基づき意見交換を行った。


審査請求人が手続違法を主張しない場合に職権で手続違法を判断するか、手続的瑕疵が認められる場合に本案についても判断を示すか、処分は適法との心証の場合に手続違反を理由に処分を取り消すか付言に留めるかなどの場面について、実務の現場では、当該手続の根拠となる制度の趣旨や請求人の意向や利益、早期解決の観点などから柔軟に判断しているとの意見が述べられた。このような行政不服審査における柔軟な対応は、手続的瑕疵を軽視するものではなく、違法は違法と示しながらも権利救済を重視するという、訴訟とは異なる独自の審査の在り方と評価できるのではないかと論じた。


また、行政不服審査法の改正により、答申例等がデータベース化され付言例が集積・分析されることで、行政手続の改善の契機となるのではと期待を寄せた。



シンポジウム
第9回法化社会における条例づくり
都道府県と市町村との間の役割分担決定方法の在り方
5月29日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif第9回法化社会における条例づくり 「都道府県と市町村との間の役割分担決定方法の在り方」


地方自治体における政策実現の手段として、条例の重要性が増している。新たな条例を制定する際に、弁護士が関与し、制度設計や法令の解釈などの支援を行うことによって、自治体の担当者が直面する課題を解決できる可能性がある。

本シンポジウムでは、都道府県と市町村の役割分担に焦点を当て、住民にとって適切な事務分配の在り方について考察を深めた。


事務処理特例制度の現状と課題

人見剛教授(早稲田大学大学院)は、条例の制定により、都道府県の事務処理権限を基礎的自治体である市町村に移譲する事務処理特例制度(地方自治法252条の17の2)は、住民に身近な行政の実現に資するものであると評価した。一方で、適切な地方分権のための検討課題として、市町村への権限移譲に関する条例の制定などに、必ずしも市町村の同意が必要ではないことや、事務の移譲が都道府県の財政改革として利用されている疑いがあることを指摘した。


法律サービス展開本部の伊藤義文委員(千葉県)は、同本部が本年2月に都道府県を対象に実施した条例による権限移譲に関するアンケート調査の結果を分析し、2018年以降も全国の自治体で積極的に条例による権限移譲がなされていると報告した。


大村敏弘氏(山形県みらい企画創造部市町村課長)は、「山形県事務・権限移譲推進プログラム」に基づく取り組みに関して、市町村から地域の実情を踏まえた独自性のある行政運営が可能となったとの声が届いていることを紹介し、多様化する行政ニーズに対応するために、権限移譲の推進は重要であると語った。


パネルディスカッション

小原隆治教授(早稲田大学政治経済学術院)、中村克氏(埼玉県企画財政部参事兼地域政策課長)、髙尾年弥氏(泉南市社会福祉協議会事務局長)、伊藤委員が登壇し、事務処理特例制度の評価、適切な権限移譲の方式、権限移譲交付金の現状や算定方法の在り方、権限移譲後の責任の所在などについて議論を交わした。また、都道府県と市町村が対等な関係にあり、両者で丁寧に協議を進めていくことの重要性を確認した。


髙尾氏は、都道府県と市町村の役割分担の決定方法などに日弁連が関心を寄せていることは心強いとして、弁護士による自治体法務への関与に期待すると語った。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.181

NPO法人World Open Heart
犯罪加害者家族に対する法的支援を考える

犯罪加害者の家族(以下「加害者家族」)は、インターネット上の誹謗中傷などにより過酷な立場に追い込まれることが少なくありません。

加害者家族の支援に取り組むNPO法人World Open Heart(以下「WOH」)の阿部恭子理事長と、山形県弁護士会の犯罪加害者家族支援センターで運営に携わる遠藤凉一会員(山形県)に、お話を伺いました。

(広報室嘱託 長瀬恵利子)


WOHの取り組み

(阿部)WOHは、2008年、私が憲法を専攻していた大学院在学中に設立しました。犯罪被害者等基本法の制定や裁判員制度開始の動きの中で、自ら命を絶つほど追い込まれることがある加害者家族の法的立場に関心を抱いたのがきっかけです。調査すると、国内では加害者家族が相談できる場所がなく、支援体制を整備する必要があることが明らかになりました。


そこで、加害者家族が集い、誰にも言えない気持ちを分かち合うピアカウンセリングを開催し、今日まで活動を続けてきました。加害者家族支援に取り組む機関は現在も少なく、WOHが拠点を置く宮城県以外からも、連日のように相談があります。



加害者家族の「被害者性」

(遠藤)私は、長年にわたり犯罪被害者支援に取り組んできましたが、ある時、WOHの活動を知り、世間の偏見・差別などによりバッシングを受ける加害者家族が、被害者とよく似た状況にあることに気付かされました。


加害者家族は、世間の目が気になり普通の生活が困難になるという精神的な面、失職したり加害者に代わって被害弁償を行ったりするなどの経済的な面、就職・結婚に際しての差別や職場で嫌がらせを受けるなどの社会的な面で、「被害者」であると言えます。


このような加害者家族が、加害者の更生の担い手になることは困難です。刑事弁護人として加害者家族に協力を求める場合は、加害者家族のケアが重要な課題であることを意識しなければなりません。


弁護士による支援の必要性

(阿部)欧米では、加害者家族であることが公になっても仕事の継続に支障がないなど、家族が本人に代わって社会的制裁を受けることはありませんし、弁護士は加害者家族支援にほとんど関与していません。


これに対して、日本では、加害者家族に対するSNS等での行き過ぎた誹謗中傷など権利侵害が生じることがあり、弁護士による法的支援体制が不可欠です。また、犯罪被害者の代理人である弁護士に対応するため、加害者家族が弁護士への相談を希望する場面も増えています。そのため、弁護士や弁護士会が加害者家族の支援に取り組むことは、社会的な意義があると感じます。


(遠藤)東北弁護士会連合会では、2016年と2022年に、犯罪加害者の支援をテーマにしたシンポジウムを開催し、国に対して支援を求める決議を採択しました。


さらに、山形県弁護士会では、加害者家族への法的支援を実践すべく、阿部さんの協力を得て、2018年11月に犯罪加害者家族支援センターを設置し、相談を受け付けています。加害者家族支援に取り組む弁護士会はまだ山形県のみなので、WOHに対する相談と同様に全国から相談が寄せられています。


相談の中には、生活保護の受給申請や住居確保のための手続など、弁護士が申請手続に同行するとスムーズに解決できると考えられるものがあります。しかし、遠方の相談者への対応には限界があり、電話での助言で終了せざるを得ないのが現状です。


会員へのメッセージ

(阿部)刑事事件では、加害者と家族の関係や、加害者家族の立場を理解し、判決が出た後の被告人の人生を見据えた弁護活動が広がることを願っています。家族の協力を前提に執行猶予付き判決を得ても、家族の抱えた問題が原因で被告人の更生がうまくいかないケースを見てきました。逆に、事件の背景にある問題が解消されると、被告人の更生が進み、加害者家族の支援にもつながります。


離婚や相続などの民事事件で加害者家族から相談を受ける場合も、社会的に追い込まれている立場にあることを頭の片隅に入れて対応していただくと、相談者はとても安心できます。


(遠藤)犯罪被害者支援では、基本法の制定までに長い時間を要しました。加害者家族の支援が社会的に理解されるのにも長期間を要すると思いますが、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士として、この活動の重要性を多くの会員に理解していただきたいです。そして、すべての都道府県で地域密着型の支援体制の整備が早期に実現することを切に願っています。



第65回人権擁護大会・シンポジウム(於:長野市)にご参加を!

シンポジウム

2023年10月5日(木)12時30分~18時00分


第1分科会

人権としての「医療へのアクセス」の保障

〜新自由主義的医療改革から住民のいのちと医療の現場が大切にされる医療保障改革へ〜

会場:ホクト文化ホール 大ホール


第2分科会

地域の家庭裁判所が真に住民の人権保障の砦たりうるために

〜司法IT化のすき間で生じる子ども・高齢者・障害者の権利救済・権利擁護支援の視点から〜

会場:長野市芸術館 メインホール


大  会

2023年10月6日(金)12時30分~17時00分

会場:ホクト文化ホール 大ホール


来る10月、第65回人権擁護大会が長野県長野市で開催されます。長野県での開催は人権擁護大会の長い歴史の中でも初めてであり、長野県弁護士会会員一同、張り切って皆さまをお迎えする準備を進めています。


シンポジウムとして2つの分科会が開催されます。第1分科会では、新自由主義的医療改革による医療費抑制・患者負担増の政策を検証し、地域医療を支える医療従事者やその地域に暮らす住民のニーズを踏まえ、医療へのアクセスが保障される仕組みなどを検討します。第2分科会では、IT化や効率化が進む中、子どもや高齢者・障害者の権利擁護という役割を果たし、地域に根ざした家庭裁判所のあるべき姿を検討します。


また、大会では、熱い議論が交わされるものと思います。ぜひとも奮ってご参加ください。


本年は、ウェブ配信を併用しつつ、リアルでの開催を念頭に置き、懇親会、公式観光、ゴルフなども行います。長野県は自然豊かな地で、10月初旬は秋真っ盛りの絶好の時期です。善光寺、戸隠をはじめとした多くの観光地や、信州そばなどの名物料理があります。また、長野県は全国有数の温泉県でもあります。全国の会員の皆さまと懇親を深め、日頃の疲れを癒やしていただきたく、公式観光・ゴルフ、県内の観光地や温泉をお楽しみください。


当会実行委員会では、おもてなしの精神を第一に、準備を進めています。多数の皆さまのご参加を心よりお待ちしています。


(長野県弁護士会 第65回日弁連人権擁護大会  実行委員会事務局長 安藤雅樹)



ブックセンターベストセラー (2023年5月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1

弁護士法第23条の2照会の手引〔七訂版〕

第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会/編 第一東京弁護士会
2

実践講座 民事控訴審

佐藤陽一/著 日本加除出版
3

調停等の条項例集-家事編-

星野雅紀/著 司法協会
4 スタートアップの法律相談 山本飛翔、菅原 稔、尾下大介/編著 青林書院
5 フローチャートで分かる 不動産の共有関係解消マニュアル 渡辺 晋/著 新日本法規出版
6 財産管理事件における書記官事務の研究 裁判所職員総合研修所/監修 法曹会
7

ゼロから信頼を築く 弁護士の顧問先獲得術

高橋喜一/著 学陽書房

失敗事例でわかる! 民事尋問のゴールデンルール30

藤代浩則、野村 創、野中英匡、城石 惣、田附周平/著 学陽書房
9

令和4年度重要判例解説(ジュリスト臨時増刊)

有斐閣


日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング(総合) 2023年 5月~6月

日弁連会員専用サイトからアクセス

順位 講座名 時間
1 民事裁判書類電子提出システム「mints」操作説明会(第3次運用開始対応) 119分
2 2022年度ツアー研修 第2回 相続分野に関する連続講座2022(第1回)遺産分割1(相続人確定、遺産範囲・評価、遺産分割の手続等) 148分
3 2022年度ツアー研修 第3回 相続分野に関する連続講座2022(第2回)遺産分割2(特別受益、寄与分、平成30年・令和3年民法改正) 129分
4 相続分野に関する連続講座2022(第4回)遺言執行 109分
5 2022年度ツアー研修 第4回 相続分野に関する連続講座2022(第3回)遺言書作成、遺留分 147分
6 民事信託入門-民事信託を正しく活用するために 119分
7 雇用保険に関する法律問題への対応 125分
8 こころに困難を抱える子どもに、どう向き合うか 106分
9 令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント 118分
民事訴訟IT化で変わる事務職員の実務 118分


お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9927)