「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」の成立に当たり、保釈の運用の適正化を求める会長声明


本日、公判期日等への出頭及び裁判の執行を確保するための規定の整備等を内容とする刑事訴訟法等の一部を改正する法律案が可決され、成立した。


当連合会が「arrow_blue_1.gif「人質司法」の解消を求める意見書」(2020年11月17日)で指摘したとおり、我が国においては、無罪を主張し又は黙秘権を行使している被疑者・被告人を殊更に長期間身体拘束する勾留・保釈の運用が行われており、身体拘束は、自白を強要し、無罪主張を困難にさせる手段として機能している。このような勾留・保釈の運用は、罪を犯していない者をはじめとする市民の自由を不当に奪っており、拷問の禁止に違反し、憲法及び国際人権法にも、刑事訴訟法の立法者意思にも反するものであって、事案の真相の解明をも妨げている。このような勾留・保釈の運用は、国際的にも批判を浴びており、速やかに改められなければならない。


国際人権(自由権)規約委員会は、2014年に採択された一般的意見35号において、「裁判所は、保釈、電子腕輪又はその他の条件といった公判前の抑留の代替措置により、当該事案において抑留の必要性がなくならないかどうかを審査しなければならない」との見解を示している。そして、諸外国では、多様な身体拘束の代替措置が用いられており、被告人を釈放した上で、GPS発信装置等を装着して動静を把握する電子監視制度や、発信装置等を装着した上で外出を禁止する在宅拘禁制度が導入されている。これに対し、我が国では、保釈を許す場合には被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができること(刑事訴訟法93条3項)、勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、又は被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止することができること(同法95条)のほかに、身体拘束に代替する公判出頭確保等のための措置は規定されていなかった。


今回の刑事訴訟法改正により、保釈等をされた被告人の公判期日への不出頭罪、制限住居離脱罪、報告命令制度、監督者制度、位置測定端末により保釈されている被告人の位置情報を取得する制度などが創設された。これらの制度は、公判期日等への出頭等の確保を直接の目的としたものであり、新たな人権侵害を生むことのないよう運用されるべきことはもとより当然であるが、身体拘束の代替措置は、従前と比較すれば大幅に拡充されることとなる。そして、我が国の勾留・保釈の運用は、日々深刻な人権侵害を生じさせており、これを改めることは喫緊の課題である。


当連合会は、今回の刑事訴訟法改正により身体拘束の代替措置が拡充されたことを契機として、無罪を主張し又は黙秘権を行使している被告人を殊更に長期間身体拘束する運用を改め、憲法や国際人権法に適合したものとなるよう、保釈の運用を適正化することを強く求める。




2023年(令和5年)5月10日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治