低賃金労働者の生活を支えて経済を活性化するために、最低賃金額の引上げ及び全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明


長期に及ぶ新型コロナウイルスの感染状況の継続とロシアのウクライナ侵攻の中で、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇している。労働者の生活を守り、経済を活性化させるためには、大企業だけでなく中小・零細企業も含めた全ての労働者の実質賃金の上昇又は維持を実現する必要があり、そのためにはまず最低賃金額を大きく引き上げることが何よりも重要である。


この間、フランス、ドイツ、イギリス、韓国などの諸外国では、最低賃金額の大幅な引上げがなされているのであり、日本においても大幅な引上げが必要である。


また、最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正されていないことは重大な問題である。2022年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1072円であるのに対し、最も低い10県では時給853円であり、その間には219円もの開きがある。その地域の最低賃金の高低と人口の増減には強い相関関係があり、最低賃金の格差は、最低賃金が低い地域の人口減ひいては経済停滞の要因ともなっている。都市部への労働力の集中を緩和し、他の地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部への一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。


地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間でほとんど差がないという分析がなされている。これは、都市部以外の地域では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限され、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。


厚生労働省の中央最低賃金審議会に設置された「目安制度の在り方に関する全員協議会」が本年4月6日にまとめた報告では、現行のAないしDの4段階の目安区分を3段階とすることが提案されている。しかし、これではCランクの引上額を、Aランクの引上額より大幅に上回るものとするなど抜本的な方策でも採られない限り、地域間格差の迅速な解消は望めない。中央最低賃金審議会は、現行の目安制度が地域間格差を解消できなくなっていることを直視し、目安制度に代わる抜本的改正策として、全国一律制実現に向けた提言をなすべきである。


最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度による支援を実施している。しかし、その支援は未だ十分とは言い難く、日本の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行うことができるよう十分な支援策を講じることが必要である。例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減すること、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするよう法規制することなどの支援策も有効であると考えられる。


最低賃金の引上げには地域経済を活性化させる効果がある。当連合会は、引き続き国に対し中小企業への十分な支援策を求めるとともに、各地の地方最低賃金審議会において最低賃金額の引上げを図り、労働者の健康で文化的な生活を確保し、地域経済の健全な発展を促すためにも、中央最低賃金審議会が、本年度、地域間格差を縮小しながら全国全ての地域において最低賃金を大幅に引き上げるよう答申すべきこと及び全国一律最低賃金制度の実施に向けた提言をなすことを求めるものである。



2023年(令和5年)4月14日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治